特許第6571894号(P6571894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱製紙株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6571894-全熱交換素子用紙及び全熱交換素子 図000009
  • 特許6571894-全熱交換素子用紙及び全熱交換素子 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6571894
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】全熱交換素子用紙及び全熱交換素子
(51)【国際特許分類】
   F28F 21/00 20060101AFI20190826BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   F28F21/00
   D21H27/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-61504(P2019-61504)
(22)【出願日】2019年3月27日
【審査請求日】2019年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2018-62977(P2018-62977)
(32)【優先日】2018年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-11164(P2019-11164)
(32)【優先日】2019年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 善幸
【審査官】 西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−189999(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/050104(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/014099(WO,A1)
【文献】 特開2007−119969(JP,A)
【文献】 特開2009−250585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 21/00
D21H 27/00
F24F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
叩解した天然パルプを含む原紙と、該原紙に付与させてなる吸湿剤とを含有する全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプにおける繊維長0.05mm以下のファイン分比率が10〜25%であることを特徴とする全熱交換素子用紙。
【請求項2】
叩解した天然パルプのフィブリル化率が4.5%以上である請求項1記載の全熱交換素子用紙。
【請求項3】
天然パルプが針葉樹晒しクラフトパルプである請求項1又は2記載の全熱交換素子用紙。
【請求項4】
吸湿剤付与率が10〜24質量%である請求項1〜3のいずれか記載の全熱交換素子用紙。
【請求項5】
厚さが20〜60μmである請求項1〜4のいずれか記載の全熱交換素子用紙。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の全熱交換素子用紙を用いた全熱交換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全熱交換素子用紙及び全熱交換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーのため、住宅の高気密化・高断熱化などが進むに従い、室内空気汚染によるシックハウス症候群と呼ばれる健康影響が指摘されている。これは、建材等から化学物質、燃焼機器から一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などの汚染物質が放出され、室内の空気汚染が進んだ結果といえる。また、湿度が高い場合は細菌、カビ、ダニが繁殖し、湿度が低い場合は浮遊ダストの増加やインフルエンザ等のウィルスの増殖がおこりやすくなり、アレルギー等の健康影響の原因となりうる。
【0003】
改正建築基準法により、住宅については原則として機械換気設備の設置が義務付けられたが、室外へ熱エネルギーを放出することとなり、当初目的とした省エネルギー効果が減少することとなる。その対応として、換気をしつつ、室外へ放出する熱エネルギーを回収する全熱交換換気装置の需要が増加している。地球温暖化が叫ばれている最近では、より全熱交換効率の高い全熱交換素子が求められている。全熱交換素子は、ビル、事務所、店舗、住居等で、快適な空間を維持するために、新鮮な外気を供給すると共に室内の汚れた空気を排出する全熱交換器(全熱交換換気装置)に搭載される素子である。全熱交換素子を通して、外気と室内排気が混ざり合わないように、換気が行われる。そして、この換気の際に、全熱交換素子に用いられている全熱交換素子用紙を介して室内のエネルギーである顕熱(温度)と潜熱(湿度)が回収される。そのため、全熱交換素子には、伝熱性と透湿性と気体遮蔽性に優れ、給気と排気の混合を起こさないという性能が求められる。
【0004】
図1に示したように、一般的に空調分野で利用されている直交流型積層構造の全熱交換素子1は、平面形状の仕切部材2と断面波形状の間隔保持部材3を積層して形成される基本構成部材を、間隔保持部材3の波方向が直交又はそれに近い角度で交差するように積層し、接着して形成されている。この間隔保持部材3によって作られる積層方向に隣接する流路4及び流路5に、それぞれ異なる状態の気流6及び気流7を流すことで、仕切部材2を媒体として、2つの気流間で顕熱及び潜熱の交換が行われる。「それぞれ異なる状態の気流」とは、一般的には温湿度状態の異なる空気の流れであり、例えば、流路4に新鮮な外気を流し、流路5に室内の汚れた空気を流す。
【0005】
仕切部材2は、流路4及び流路5に流れている2つの気流6及び気流7間に存在し、顕熱及び潜熱交換のための媒体として存在しているため、仕切部材2の伝熱性及び透湿性は全熱交換素子としての顕熱及び潜熱交換効率に大きな影響を与える。また、空調用の全熱交換素子では、特に2つの気流6及び気流7間でホルムアルデヒドやトルエンなどの揮発性物質の移行を少なくすることが求められるため、上記の性能のほか、仕切部材2には高い気体遮蔽性も求められる。
【0006】
間隔保持部材3は仕切部材2の間隔を保ち、2つの気流6及び気流7が通り抜ける流路4及び流路5を確保する役割を担っている。また、熱交換する際に、結露により全熱交換素子1の素子強度が弱くなるため、間隔保持部材3には高湿環境下での構造保持性能が求められる。
【0007】
さらに、製品としての安全性確保の観点より、全熱交換素子自体には高い難燃性も求められる。このように、全熱交換素子1の仕切部材2及び間隔保持部材3は、様々な性能が求められ、それに応じて様々な仕切部材2及び間隔保持部材3が用いられている。
【0008】
仕切部材2として使用される全熱交換素子用紙には、伝熱性と透湿性の両方と難燃性を有する必要があるため、従来、叩解処理した天然パルプを含有し、吸湿剤や難燃剤が塗布された紙が用いられている。
【0009】
例えば、伝熱性と透湿性の両方を有し、さらに、室内外の空気が混合しないように気体遮蔽性にも優れている全熱交換素子用紙として、高度に叩解した天然パルプと吸湿剤を含有する紙が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
特許文献2には、紙等の多孔質シートに、親水性高分子の膜を形成した全熱交換素子用仕切部材について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2002/099193号パンフレット
【特許文献2】特開2008−014623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載された全熱交換素子用紙では、天然パルプが高度に叩解される程、原料繊維の微細繊維の比率、つまり、ファイン分比率が増加し、気体遮蔽性が高くなる。しかし、透湿性は低下し、全熱交換素子の湿度交換効率が低下し、全熱交換効率も低下する場合があった。
【0013】
逆に、天然パルプが軽度に叩解された場合には、原料繊維のファイン分比率が低下し、通気性が良くなり、気体遮蔽性が悪化する。しかし、全熱交換素子用紙の透湿性は向上するものの、全熱交換素子の湿度交換効率はあまり向上しないという課題があった。
【0014】
特許文献2では、ビスコースやポリビニルアルコール等の親水性高分子の膜を形成しており、透気抵抗度は高くでき、気体遮蔽性が向上するものの、湿度変化により伸縮度合いが大きく、形状安定性も良くない。そのため、紙等の多孔質シートである基材の強度を上げる必要があるため、全熱交換素子用仕切部材は厚くなり、熱伝導性や透湿性が劣る傾向にあった。
【0015】
また、特許文献2の全熱交換素子用紙において、あまり叩解がされていない原料繊維から抄紙した紙は、ピンホールの発生防止のために、坪量が重くなり、低密度となる傾向がある。そのため、熱伝導率が低下し、全熱交換素子の温度交換効率が低くなる問題があった。また、塗工時にピンホール部分を塞ぐことも可能ではあるが、塗工条件の厳格な調整が必要であった。
【0016】
このような現状を鑑み、本発明の課題は、伝熱性と透湿性の両方を有しながら、気体遮蔽性にも優れた全熱交換素子用紙、並びに湿度交換効率及び温度交換効率が高い全熱交換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、下記の全熱交換素子用紙、全熱交換素子を発明するに至った。
【0018】
(1)叩解した天然パルプを含む原紙と、該原紙に付与させてなる吸湿剤とを含有する全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプにおける繊維長0.05mm以下のファイン分比率が10〜25%であることを特徴とする全熱交換素子用紙。
【0019】
(2)叩解した天然パルプのフィブリル化率が4.5%以上である上記(1)記載の全熱交換素子用紙。
【0020】
(3)天然パルプが針葉樹晒しクラフトパルプである(1)又は(2)記載の全熱交換素子用紙。
【0021】
(4)吸湿剤付与率が10〜24質量%である上記(1)〜(3)のいずれか記載の全熱交換素子用紙。
【0022】
(5)厚さが20〜60μmである上記(1)〜(4)のいずれか記載の全熱交換素子用紙。
【0023】
(6)上記(1)〜(5)のいずれか記載の全熱交換素子用紙を用いた全熱交換素子。
【発明の効果】
【0024】
本発明の全熱交換素子用紙では、叩解した天然パルプを含む原紙と、該原紙に付与させてなる吸湿剤とを含有する全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプにおける繊維長0.05mm以下のファイン分比率が10〜25%であることで、伝熱性と透湿性の両方を有しながら、所望する気体遮蔽性を得た。
【0025】
また、本発明の全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプのフィブリル化率が4.5%以上であることで、繊維長0.05mm以下のファイン分の歩留まりを向上させる効果があると共に、高密度な紙層を実現し、全熱交換素子用紙の気体遮蔽性が向上する。
【0026】
さらに、本発明の全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプが針葉樹晒しクラフトパルプであることで、叩解した天然パルプのフィブリル化率を容易に向上させることが可能となる。
【0027】
また、本発明の全熱交換素子用紙において、吸湿剤を付与することで、叩解した天然パルプのファイン分比率が変わっても、透湿性を維持することが可能なことが判った。これは、付与した吸湿剤がファイン分のそれぞれに付着し、全熱交換素子用紙における厚さ方向の水分子の移動を促進しているためと推察される。
【0028】
なお、ファイン分比率が10%未満の場合、吸湿剤を付与しても、また、吸湿剤付与率を増加させ、透湿性を向上させても、全熱交換素子での湿度交換効率は向上せず、これは、水蒸気の状態での水分子の移動のみが起きているためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】直交流型積層構造の全熱交換素子の概略斜視図である。
図2】直交流型積層構造の全熱交換素子における各部材の積層順序を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の全熱交換素子用紙について、詳細に説明する。
【0031】
本発明の全熱交換素子用紙は、叩解した天然パルプを含む原紙と、該原紙に付与させてなる吸湿剤とを含有する全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプにおける繊維長0.05mm以下のファイン分比率が10〜25%であることを特徴とする全熱交換素子用紙である。本発明において、ファイン分比率とは、メッツォオートメーション(Metso Automation)社製「Kajaani FiberLab V3.5繊維長測定機」を用いて、Projモードで測定した長さ加重ファイン含有量Fines(L)値(単位:%)であり、繊維長0.05mm以下の範囲の繊維成分である。
【0032】
また、本発明において、叩解した天然パルプにおけるフィブリル化率が4.5%以上であることが好ましい。フィブリル化率が4.5%以上であることで、繊維長0.05mm以下のファイン分の歩留まりを向上させる効果があると共に、高密度な紙層を実現し、全熱交換素子用紙の気体遮蔽性が向上する。本発明において、フィブリル化率とは、メッツォオートメーション(Metso Automation)社製「Kajaani FiberLab V3.5繊維長測定機」を用いて、Projモードで測定したFibrillation値(単位:%)である。叩解した天然パルプにおけるフィブリル化率は、より好ましくは5.0〜7.0%であり、さらに好ましくは5.5〜6.6%である。
【0033】
全熱交換素子は、ビル、事務所、店舗、住居等で、快適な空間を維持するために、新鮮な外気を供給すると共に室内の汚れた空気を排出する全熱交換器に搭載される素子である。全熱交換素子を通して外気と室内排気が混ざり合わないように換気が行われる。そして、この換気の際に、全熱交換素子に用いられている全熱交換素子用紙を介して室内のエネルギーである顕熱(温度)と潜熱(湿度)が回収される。
【0034】
図1は、直交流型積層構造の全熱交換素子1の概略斜視図である。全熱交換素子1は、平面形状の仕切部材2と断面波形状の間隔保持部材3を積層して形成される基本構成部材を、間隔保持部材3の波方向が直交又はそれに近い角度で交差するように積層し、接着して形成されている。この間隔保持部材3によって作られる積層方向に隣接する流路4及び流路5に、それぞれ異なる状態の気流6及び気流7を流すことで仕切部材2を媒体として、2つの気流間で顕熱及び潜熱の交換が行われる。「それぞれ異なる状態の気流」とは、一般的には温湿度状態の異なる空気の流れであり、例えば、流路4に新鮮な外気を流し、流路5に室内の汚れた空気を流す。
【0035】
全熱交換素子用紙とは、熱交換されるべき2つの気流を仕切り、かつ、熱及び湿度交換を行う仕切部材2に使用される用紙である。本発明における全熱交換素子とは、本発明の全熱交換素子用紙を仕切部材に用いて製造した全熱交換素子であれば、その構造は問わない。代表的な全熱交換素子の構造である、直交流型積層構造であるコルゲート構造は、仕切部材2であるライナーシートに本発明における全熱交換素子用紙を用い、間隔保持部材である中芯のシートの波方向が直交又はそれに近い角度で交差するように積層される構造である。図2は、直交流型積層構造の全熱交換素子における各部材の積層順序を示す分解斜視図であり、間隔保持部材A 10、仕切部材A 8、間隔保持部材B 11、仕切部材B 9の順序で積層され、間隔保持部材A 10と間隔保持部材B 11の波方向が直交又はそれに近い角度で交差するように積層されている。
【0036】
本発明において、天然パルプとしては、広葉樹晒しクラフトパルプ(略称:LBKP、英文表記:Hardwood Bleached Kraft Pulp)、針葉樹晒しクラフトパルプ(略称:NBKP、英文表記:Softwood Bleached Kraft Pulp)、広葉樹晒しサルファイトパルプ(略称:LBSP、英文表記:Hardwood Bleached Sulfite Pulp)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(略称:NBSP、英文表記:Softwood Bleached Sulfite Pulp)、広葉樹未晒クラフトパルプ(略称:LUKP、英文表記:Hardwood Unbleached Kraft Pulp)、針葉樹未晒クラフトパルプ(略称:NUKP、英文表記:Softwood Unbleached Kraft Pulp)等の木材パルプが挙げられる。これらの木材パルプは、単独又は複数配合して使用することができる。また、綿、コットンリンター、麻、竹、サトウキビ、トウモロコシ、ケナフ等の植物繊維;羊毛、絹等の動物繊維;レーヨン、キュプラ、リヨセル等のセルロース再生繊維を、単独又は複数配合して使用することもできる。
【0037】
広葉樹パルプは木を支える細胞壁を持つ繊維由来であるが、針葉樹パルプは仮導管が主体であり、水分を通しやすい。その針葉樹パルプの中でも、強度が高いNBKPは、全熱交換素子用紙に最も適している。地合い等の均一性が劣る欠点があるが、NBKP単独使用が望ましい。
【0038】
天然パルプは、パルプ繊維間の結合強度を高め、シート形状を維持することと、気体遮蔽性を高めるために、ダブルディスクリファイナー、デラックスファイナー、ジョルダン、コニカルリファイナー等の叩解装置により、適宜叩解処理が施され、ファイン分比率が10〜25%になるように調成される。
【0039】
叩解した天然パルプのファイン分比率を上げたり、原紙の坪量を軽くしたりすることで、原紙を抄紙する際のファイン分の歩留まりが悪くなり、結果、全熱交換素子用紙中のファイン分比率は少なくなる。この全熱交換素子用紙の原料である叩解した天然パルプ中のファイン分比率が10〜25%であることによって、優れた伝熱性を維持しつつ、気体遮蔽性の優れた全熱交換素子用紙を安定的に得ることが可能となる。また、ファイン分比率が10%以上であることにより、吸湿剤を付与してファイン分比率が変わっても透湿性を維持することが可能となる。
【0040】
抄紙機では、大きい繊維で紙層形成され、その隙間に微細なファイン分が留まる。ファイン分比率は大きい繊維と微細な繊維の比率であり、紙層の充填度の指標となる。ファイン分比率が少ないと、大きい繊維で構成されるため、空隙が多くなり、気体が通過しやすい。ファイン分比率を上げると、緻密な紙層になるが、ファイン分比率を上げすぎると、抄紙での歩留まりが悪化し、また、紙切れや乾燥トラブル等の操業性が悪化する場合がある。
【0041】
そのため、本発明における叩解した天然パルプのファイン分比率は10〜25%であり、好ましくは10〜20%である。より好ましいファイン分比率は12%以上であり、さらに好ましいファイン分比率は15%以上である。
【0042】
本発明において、紙は、長網、円網、ツインワイヤー、オントップ、ハイブリッド等の抄紙機を用いて抄紙することができる。また、抄紙後にスーパーカレンダー処理、熱カレンダー処理等を施して、紙の密度を調整することや紙の均一性を向上させることもできる。
【0043】
吸湿剤としては、無機酸塩、有機酸塩、無機質填料、多価アルコール、尿素類、吸湿性高分子(吸水性高分子)などが挙げられる。
【0044】
例えば、無機酸塩としては、塩化リチウム(LiCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム等が挙げられる。有機酸塩としては、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム等が挙げられる。無機質填料としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、タルク、クレー、ゼオライト、珪藻土、セピオライト、シリカゲル、活性炭等が挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリグリセリン等が挙げられる。尿素類としては、尿素、ヒドロキシエチル尿素等が挙げられる。吸湿性高分子としては、ポリアスパラギン酸、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びそれらの塩又は架橋物;カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、寒天、キサンタンガム、ヒアルロン酸、グアーガム、アラビアゴム、澱粉及びそれらの架橋物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、コラーゲン、アクリルニトリル系重合体ケン化物、澱粉/アクリル酸塩グラフト共重合体、酢酸ビニル/アクリル酸塩共重合体ケン化物、澱粉/アクリルニトリルグラフト共重合体、アクリル酸塩/アクリルアミド共重合体、ポリビニルアルコール/無水マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド系、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、多糖類/アクリル酸塩グラフト自己架橋体等が挙げられる。吸湿剤を原紙に付与させることにより、透湿性を有する全熱交換素子用紙を得ることができる。吸湿剤は、目的とする透湿性に応じて、種類や付着量を適宜選択して用いることができる。吸湿剤付与率(乾燥後の質量基準)は、原紙に対し、好ましくは10%以上であり、より好ましくは12%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。また、好ましくは24%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは18%以下である。
【0045】
本発明の全熱交換素子用紙には、難燃剤を付与しても良い。難燃剤としては、無機系難燃剤、無機リン系化合物、含窒素化合物、塩素系化合物、臭素系化合物などがある。例えば、ホウ砂とホウ酸の混合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸アミド、塩素化ポリオレフィン、臭化アンモニウム、非エーテル型ポリブロモ環状化合物等の水溶液又は水に分散可能である難燃剤が挙げられる。難燃剤の付与率(乾燥後の質量基準)は、原紙に対し、好ましくは10〜30%であり、より好ましくは13〜25%であり、さらに好ましくは15〜20%である。
【0046】
本発明の全熱交換素子用紙の厚さは、20〜60μmであることが好ましい。厚さを60μm以下とすることにより、より良好な透湿性が得られる。また、厚さを20μm以上とすることにより、ピンホール等の発生を抑制し、より良好な気体遮蔽性が得られる。
用紙の厚さは30μm以上がより好ましく、また、50μm以下がより好ましい。
【0047】
本発明の全熱交換素子用紙を製造する方法を説明する。本発明の全熱交換素子用紙の製造方法は、ファイン分比率が10〜25%である、叩解した天然パルプを含む原紙に吸湿剤を付与する。難燃剤も付与する場合には、当該原紙に難燃剤を付与した後、吸湿剤を付与する場合、当該原紙に難燃剤と吸湿剤の混合液にて付与する場合がある。
【0048】
ファイン分比率が10〜25%である、叩解した天然パルプを含む原紙に吸湿剤を付与した後、難燃剤を付与することは好ましくない。これは、吸湿剤の種類によっては、黄変等の外観不良や強度劣化による断紙等の工程トラブルが発生することがあるためである。
【0049】
原紙に吸湿剤及び/又は難燃剤を含む液を紙に付与する方法としては、サイズプレス法、ディッピング法、コーター法、スプレー法等が挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を詳述する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例における部、%は、断りのない限り、質量基準である。また、塗布量及び付与量を示す値は、断りのない限り、乾燥後の質量基準である。
【0051】
(変法ろ水度)
各実施例及び比較例において、叩解した天然パルプのカナダ変法ろ水度(国際公開第2002/099193号パンフレットに記載されているカナダ変法ろ水度。以下、「変法ろ水度」と記す場合がある)を測定した。
【0052】
変法ろ水度:パルプを絶乾で0.5g採取し、ふるい板を80メッシュの平織りブロンズワイヤーにした以外は、JIS P 8121−2:2012のカナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定した値。
【0053】
(吸湿剤付与量及び難燃剤付与量)
「吸湿剤付与量」及び「難燃剤付与量」は、「付与後の坪量−付与前の坪量」で算出した値である。
【0054】
(吸湿剤付与率)
「吸湿剤付与率」は、<式A>を使用して計算した。
【0055】
<式A>
吸湿剤付与率(%)=吸湿剤付与量/原紙坪量×100
【0056】
(原紙の厚さ、密度、全熱交換素子用紙の厚さ)
原紙の厚さ、密度は、JIS P 8118:2014「紙及び板紙−厚さ、密度及び比容積の試験方法−Paper and board−Determination of thickness,density and specific volume」に準拠して、温度23℃、相対湿度50%下での厚さ、密度を測定した値である。
【0057】
実施例1−1
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量30g/mの原紙を抄紙し、原紙の密度が0.82g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを4.9g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は18%であった。
【0058】
実施例1−2
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量20g/mの原紙を抄紙し、原紙の密度が0.79g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを4.0g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は20%であった。
【0059】
実施例1−3
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量40g/mの原紙を抄紙し、原紙の密度が0.90g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。原紙に、含浸加工機により、難燃剤としてスルファミン酸グアニジンを5.8g/m付与させ、さらに、吸湿剤として塩化リチウムを4.2g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は17%であった。
【0060】
比較例1−1
広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を8:3に混合したパルプを濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量30g/mの原紙を抄紙し、原紙の密度が0.72g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。原紙に、含浸加工機により、難燃剤としてスルファミン酸グアニジンを6.9g/m付与させ、さらに、吸湿剤として塩化リチウムを4.2g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は8%であった。
【0061】
比較例1−2
広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を8:3に混合したパルプを濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量40g/mの原紙を抄紙し、原紙の密度が0.84g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。原紙に、含浸加工機により、難燃剤としてスルファミン酸グアニジンを5.8g/m付与させ、さらに、吸湿剤として塩化リチウムを5.0g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は7%であった。
【0062】
比較例1−3
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量30g/mの原紙を抄紙し、原紙の密度が1.06g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。原紙に、含浸加工機により、難燃剤としてスルファミン酸グアニジンを4.2g/m付与させ、さらに、吸湿剤として塩化リチウムを3.2g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は9%であった。
【0063】
上記例で製造した全熱交換素子用紙について、下記の評価方法により評価した。その結果をまとめて表1に示す。
【0064】
(トルエン透過度)
揮発性物質の透過性試験として、JIS Z0208:1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法) Testing Methods for Determination of the Water Vapour Transmission Rate of Moisture−Proof Packaging Materials (Dish Method)」を参考に、下記の方法で測定したトルエン透過度によって、全熱交換素子用紙の気体遮蔽性を評価した。
【0065】
ステンレスカップに約200gの富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級トルエンを入れ、直径70mmの円盤状に全熱交換素子用紙を打ち抜き加工して得られた検体で覆い、内径58mmのリングで挟み、密閉する。温度23℃、相対湿度50%の条件で放置し、30分毎に質量減少を測定する。質量減少の速さが一定となった時点で質量M1を測定し、さらに、30分経過後に質量M2を測定し、<式B>にて24時間値に換算してトルエン透過度を求めた。
【0066】
<式B>
トルエン透過度(g/m・24h)=トルエン透過量/ろ過面積×24×60/30
【0067】
トルエン透過量(g)=質量M1−質量M2
ろ過面積=26.42cm
【0068】
【表1】
【0069】
<評価>
実施例1−1〜1−3は、叩解した天然パルプを含む原紙と、該原紙に付与させてなる吸湿剤とを含有する全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプにおける繊維長0.05mm以下のファイン分比率が10〜25%である全熱交換素子用紙であり、トルエン透過度は25g/m・24h以下であった。比較例1−1〜1−3では、叩解した天然パルプにおけるファイン分比率が10%未満であり、トルエン透過度は500g/m・24h以上と、顕著に高く、気体遮蔽性が低いことが判る。
【0070】
実施例2−1
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量30g/mの原紙を抄紙した。マシンカレンダー処理を行った結果、原紙の密度は0.81g/cmであった。原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを4.7g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は18%で、フィブリル化率は4.4%であった。
【0071】
実施例2−2
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量20g/mの原紙を抄紙した。マシンカレンダー処理を行った結果、原紙の密度は0.77g/cmであった。原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを3.8g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は20%で、フィブリル化率は4.0%であった。
【0072】
【表2】
【0073】
<評価>
実施例1−1及び1−2並びに実施例2−1及び2−2は、叩解した天然パルプを含む原紙と、該原紙に付与させてなる吸湿剤とを含有する全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプにおける繊維長0.05mm以下のファイン分比率が10〜25%である全熱交換素子用紙である。実施例1−1及び1−2において、叩解した天然パルプのフィブリル化率は4.5%以上であり、トルエン透過度は25g/m・24h以下であるが、実施例2−1及び2−2において、叩解した天然パルプのフィブリル化率は4.5%未満であり、トルエン透過度は100g/m・24h以上であり、実施例1−1及び1−2と比べて高かった。叩解した天然パルプのフィブリル化率が4.5%以上の方が、全熱交換素子用紙の気体遮蔽性が高いことが判る。
【0074】
実施例3−1
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)と広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)を1:2の比率とした天然パルプを濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量30g/mの原紙を抄紙した。マシンカレンダー処理を行った結果、原紙の密度は0.74g/cmであった。原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを4.7g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は10%で、フィブリル化率は4.8%であった。
【0075】
実施例3−2
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)と広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)を1:2の比率とした天然パルプを濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量50g/mの原紙を抄紙した。マシンカレンダー処理を行った結果、原紙の密度は0.78g/cmであった。原紙に、含浸加工機により、難燃剤としてスルファミン酸グアニジンを5.8g/m付与させ、さらに、吸湿剤として塩化リチウムを5.0g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は10%で、フィブリル化率は4.8%であった。
【0076】
実施例3−3
針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)と広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)を1:1の比率とした天然パルプを濃度4.5%で離解した後、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解し、長網抄紙機により、坪量40g/mの原紙を抄紙した。マシンカレンダー処理を行った結果、原紙の密度は0.76g/cmであった。原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを5.2g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。叩解したパルプのファイン分比率は14%で、フィブリル化率は5.6%であった。
【0077】
(裂断長(縦))
全熱交換素子用紙の強度試験として、JIS P8113:1998「紙及び板紙−引張特性の試験方法 PAPER and board−Determination of tensile properties」に記載されている裂断長を測定した。なお、抄紙機の流れ方向(縦方向)の裂断長を測定した。裂断長は、<式C>によって算出される。
【0078】
<式C>
裂断長(縦)(km)=1/9.8 × 引張強さ(kN/m)/坪量(g/m) × 10
【0079】
【表3】
【0080】
<評価>
実施例1−1及び1−3並びに実施例3−1、3−2及び3−3は、叩解した天然パルプを含む原紙と、該原紙に付与させてなる吸湿剤とを含有する全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプにおける繊維長0.05mm以下のファイン分比率が10〜25%である全熱交換素子用紙である。また、叩解した天然パルプのフィブリル化率は4.5%以上である。実施例1−1及び1−3において、全パルプに占めるNBKPの質量比率(NBKP比率)は100%であり、全熱交換素子用紙の裂断長(縦)は2.0km以上である。一方、実施例3−1〜3−3において、NBKP比率を33〜50%としても、裂断長(縦)が2.0km未満と、全熱交換素子用紙の強度が若干低下するものの、トルエン透過度は500g/m・24h未満であり、良好な気体遮蔽性が得られることが判る。
【0081】
比較例1−4
実施例1−1と同じ条件で抄紙した原紙に、サイズプレスにて、酸化澱粉の1%糊液を0.1g/m付与させ、密度が0.82g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行い、全熱交換素子用紙を得た。
【0082】
比較例1−5
実施例1−1と同じ条件で抄紙した原紙に、含浸加工機にて難燃剤としてスルファミン酸グアニジンを5.3g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0083】
比較例1−6
実施例1−2と同じ条件で抄紙した原紙に、サイズプレスにて酸化澱粉の0.8%糊液とアクリロニトリル系表面サイズ剤0.2%の混合液を0.1g/m付与させ、密度が0.79g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行い、全熱交換素子用紙を得た。
【0084】
比較例1−7
実施例1−3と同じ条件で抄紙した原紙に、含浸加工機にて難燃剤としてスルファミン酸グアニジンを5.3g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0085】
【表4】
【0086】
(透湿度)
下記条件を変更した以外は、JIS Z0208:1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法) Testing Methods for Determination of the Water Vapour Transmission Rate of Moisture−Proof Packaging Materials (Dish Method)」に準拠して測定した透湿度によって、全熱交換素子用紙の潜熱(湿度)交換性を評価した。
【0087】
JIS B8628:2003「全熱交換器 Air to air heat exchanger」における素子性能の測定条件は、暖房時、室内:乾球20℃、湿球14℃(相対湿度48%)、室外:乾球5℃、湿球2℃(相対湿度53%)冷房時、室内:乾球27℃、湿球20℃(相対湿度50%)、室外:乾球35℃、湿球29℃(相対湿度63%)であり、温度5〜35℃、相対湿度48〜63%の範囲であることから、温度23℃、相対湿度50%の条件に変更した。また、短時間での熱交換性能を評価するため、30分後に質量を測定して、24時間値に換算して透湿度を求めた。
【0088】
<評価>
実施例1−1と比較例1−4及び比較例1−5との比較、実施例1−2と比較例1−6との比較、及び、実施例1−3と比較例1−7との比較より、叩解した天然パルプのファイン分比率が10〜25%であっても、吸湿剤を付与しないと、充分な透湿度が得られないことが判る。つまり、湿度交換性の優れた全熱交換素子用紙とするには、吸湿剤の付与が必須である。
【0089】
上記の結果より、気体遮蔽性に優れ、かつ、湿度交換性の優れた全熱交換素子用紙とするには、ファイン分比率が10〜25%である叩解した天然パルプを含む原紙と、当該原紙に吸湿剤を付与することが必要であることが判る。
【0090】
実施例1−4
実施例1−1と同じ条件で抄紙した原紙に、含浸加工機にて難燃剤としてスルファミン酸グアニジンを5.1g/m付与させ、さらに、吸湿剤として塩化リチウムを5.0g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0091】
実施例1−5
実施例1−1と同じ条件で抄紙した原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを5.0g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0092】
実施例1−6
実施例1−1と同じ条件で抄紙した原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを2.5g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0093】
実施例1−7
実施例1−1と同じ条件で抄紙した原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを1.5g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0094】
実施例1−8
実施例1−1と同じ条件で抄紙した原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムと塩化カルシウム(質量比1:1)を6.0g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0095】
実施例1−9
実施例1−1と同じ条件で抄紙した原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムと塩化カルシウム(質量比1:1)を7.6g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0096】
【表5】
【0097】
(露浮き)
全熱交換素子用紙の25mm巾×250mmサンプルを、温度25℃、相対湿度90%の条件下に放置し、紙面の露の有無、及び露が垂れているかどうかを確認した。
【0098】
<評価>
【0099】
実施例1−1、1−4〜1−9、比較例1−4は、叩解した天然パルプを含む原紙を含有する全熱交換素子用紙であり、叩解した天然パルプにおけるファイン分比率が10〜25%である。吸湿剤を含有していない比較例1−4の全熱交換素子用紙と比べて、実施例1−1、1−4〜1−9の全熱交換素子用紙は、吸湿剤を含有しているため、高い透湿度となっている。
【0100】
実施例1−1、1−4〜1−7を比較すると、吸湿剤付与率が多くなるに従い、透湿度が高くなることが判る。特に、吸湿剤付与率が10%以上である実施例1−1、1−4及び1−5では、高い透湿度となり、高い湿度交換効率を得られることが判る。
【0101】
実施例1−8及び1−9の結果から、吸湿剤として塩化カルシウムと塩化リチウムを用いた場合に、吸湿剤付与率をさらに上げて、20%とすると、紙表面に露が浮き、さらに、25%になると、液が垂れる露垂れ現象が発生する。露垂れが発生するような全熱交換素子用紙を使用した場合、全熱交換素子の内部で結露が発生し、流路の閉塞や、流れ出した液による全熱交換器の腐食や電気ショート等の故障が発生する場合がある。そのため、吸湿剤付与率には好ましい範囲が存在し、その範囲は用いる吸湿剤の種類によっても異なるものの、概ね、24%以下が好ましく、より好ましくは20%以下である。
【0102】
実施例1−10
実施例1−2と同じ条件で、坪量15g/mの原紙を抄紙し、密度0.77g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。当該紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを3.0g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0103】
実施例1−11
実施例1−3と同じ条件で、坪量50g/mの原紙を抄紙し、密度0.92g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。当該紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを5.0g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0104】
実施例1−12
実施例1−11と同じ条件で、抄紙した原紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化カルシウムを7.6g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0105】
実施例1−13
実施例1−2と同じ条件で、坪量12g/mの原紙を抄紙し、密度0.75g/cmになるようにマシンカレンダー処理を行った。当該紙に、含浸加工機により、吸湿剤として塩化リチウムを2.4g/m付与させ、全熱交換素子用紙を得た。
【0106】
【表6】
【0107】
<評価>
実施例1−1〜1−3、実施例1−10〜1−13は、叩解した天然パルプを含む原紙を含有する全熱交換素子用紙であり、叩解した天然パルプにおけるファイン分比率が10〜25%である。また、原紙に吸湿剤が付与されていて、吸湿剤付与率が10〜20%の全熱交換素子用紙である。しかし、原紙坪量が異なるため、全熱交換素子用紙の厚さ(用紙厚さ)も異なる。これらを比較した結果、用紙厚さとトルエン透過度(気体遮蔽性)及び透湿度とには相関性が見られることが判った。すなわち、用紙厚さが60μmを超える実施例1−11及び1−12では、トルエン透過度は非常に低いものの、透湿度も低下する傾向にあった。また、用紙厚さが20μm未満の実施例1−13の場合、透湿度は非常に高いものの、トルエン透過度が高くなる傾向が見られた。これはピンホール等により通気性が上がったためであると考えられる。
【0108】
以上の結果より、全熱交換素子用紙の厚さは20〜60μmが好ましい。また、30μm以上がより好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0109】
次に、本発明の全熱交換素子用紙を用いた全熱交換素子の実施例を、図1及び図2を用いて説明する。
【0110】
実施例1−14
実施例1−4で得た全熱交換素子用紙を仕切部材2に用い、断面波形構造に成型したコルゲート状の上質紙52g/mを間隔保持部材3に用いて、直交流型積層構造であるコルゲート構造の全熱交換素子を得た。間隔保持部材A 10、仕切部材A 8、間隔保持部材B 11、仕切部材B 9の順序で積層し、間隔保持部材A 10と間隔保持部材B 11の波方向が直交する角度(90°)で交差するように積層され、さらに、仕切部材A 8と仕切部材B 9の抄紙機での流れ方向も直交する角度(90°)で交差するように、各部材を貼り合わせて157段を積層し、縦280mm、横280mm、高さ320mmの全熱交換素子を得た。この時、上質紙52g/mは、コルゲートマシンにより、波形のピッチが4.8mmで、波形の高さが2.0mmに成型した。また、各部材の貼り合わせには、エチレン酢酸ビニル系の接着剤を使用した。
【0111】
実施例1−15
実施例1−3で得た全熱交換素子用紙を仕切部材2に用い、断面波形構造に成型したコルゲート状の晒クラフト紙60g/mを間隔保持部材3に用いて、直交流型積層構造であるコルゲート構造の全熱交換素子を得た。間隔保持部材A 10、仕切部材A 8、間隔保持部材B 11、仕切部材B 9の順序で積層し、間隔保持部材A 10と間隔保持部材B 11の波方向が直交する角度(90°)で交差するように積層され、さらに、仕切部材A 8と仕切部材B 9の抄紙機での流れ方向も直交する角度(90°)で交差するように、各部材を貼り合わせて121段を積層し、縦280mm、横280mm、高さ320mmの全熱交換素子を得た。この時、晒クラフト紙60g/mは、コルゲートマシンにより、波形のピッチが5.8mmで、波形の高さが2.6mmに成型した。また、各部材の貼り合わせには、エチレン酢酸ビニル系の接着剤を使用した。
【0112】
実施例1−16
実施例1−2で得た全熱交換素子用紙を仕切部材2に用い、上質紙に難燃剤を含浸加工した難燃紙60g/mを断面波形構造に成型したコルゲート状の間隔保持部材3に用いて、直交流型積層構造であるコルゲート構造の全熱交換素子を得た。間隔保持部材A 10、仕切部材A 8、間隔保持部材B 11、仕切部材B 9の順序で積層し、間隔保持部材A 10と間隔保持部材B 11の波方向が直交する角度(90°)で交差するように積層され、さらに、仕切部材A 8と仕切部材B 9の抄紙機での流れ方向も直交する角度(90°)で交差するように、各部材を貼り合わせて170段を積層し、縦280mm、横280mm、高さ320mmの全熱交換素子を得た。この時、難燃紙60g/mは、コルゲートマシンにより、波形のピッチが4.8mmで、波形の高さが1.85mmに成型した。また、各部材の貼り合わせには、エチレン酢酸ビニル系の接着剤を使用した。
【0113】
比較例1−8
仕切部材2として比較例1−1で得た全熱交換素子用紙を用いた以外は、実施例1−14と同様に全熱交換素子を得た。
【0114】
比較例1−9
仕切部材2として比較例1−2で得た全熱交換素子用紙を用いた以外は、実施例1−15と同様に全熱交換素子を得た。
【0115】
比較例1−10
仕切部材2として比較例1−5で得た全熱交換素子用紙を用いた以外は、実施例1−14と同様に全熱交換素子を得た。
【0116】
実施例1−17
仕切部材2として実施例1−7で得た全熱交換素子用紙を用い、積層段数を158段とした以外は、実施例1−14と同様に全熱交換素子を得た。
【0117】
実施例1−18
仕切部材2として実施例1−9で得た全熱交換素子用紙を用いた以外は、実施例1−14と同様に全熱交換素子を得た。
【0118】
実施例1−19
仕切部材2として実施例1−11で得た全熱交換素子用紙を用い、積層段数を155段とした以外は、実施例1−14と同様に全熱交換素子を得た。
【0119】
実施例2−3
仕切部材2として実施例2−2で得た全熱交換素子用紙を用いた以外は、実施例1−16と同様に全熱交換素子を得た。
【0120】
実施例3−4
仕切部材2として実施例3−2で得た全熱交換素子用紙を用いた以外は、実施例1−15と同様に全熱交換素子を得た。
【0121】
【表7】
【0122】
上記例で製造した全熱交換素子について、下記の評価方法により評価した。その結果をまとめて表7に示す。
【0123】
(全熱交換効率、温度交換効率、湿度交換効率)
JIS B8628:2003に準じて、実施例1−14〜1−19、2−3、3−4及び比較例1−8〜1−10の全熱交換素子を用いて、この全熱交換素子の全熱交換効率を評価した。
【0124】
(結露)
JIS B8628:2003における素子性能の冷房時の測定条件「室内:乾球27℃、湿球20℃(相対湿度50%)、室外:乾球35℃、湿球29℃(相対湿度63%)」で、24時間通風し、素子に発生する結露等の状態を観察した。
【0125】
<評価>
これらの結果より、実施例1−14と比較例1−8、実施例1−15、3−4と比較例1−9を比較すると、叩解した天然パルプにおけるファイン分比率が10〜25%である実施例の方が、温度交換効率、湿度交換効率共に、高い。また、実施例1−14を基準に、実施例1−16、2−3及び1−19を比較すると、用紙厚さの薄い全熱交換素子用紙を使用した実施例1−16及び2−3の素子の方が、高い交換効率であり、用紙厚さが厚い全熱交換素子用紙を使用した実施例1−19の素子の方が低い変換効率であった。また、実施例1−14を基準に比較例1−10並びに実施例1−17及び1−18を比較すると、全熱交換素子用紙の吸湿剤付与率が高い程、交換効率も高くなる。しかし、実施例1−18については、結露水による液垂れが確認され、全熱交換器の故障や吸湿剤の流失による経時での性能低下が懸念される。なお、結露については、実施例1−14、3−4、1−16及び2−3でも確認されたが、全熱交換素子用紙自体及び間隔保持部材で吸収可能な量であった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明における全熱交換素子用紙は、新鮮な外気を供給すると共に室内の汚れた空気を排出する際に顕熱(温度)と潜熱(湿度)の熱交換を行う全熱交換器の全熱交換素子に利用される。
【符号の説明】
【0127】
1 全熱交換素子
2 仕切部材
3 間隔保持部材
4 流路
5 流路
6 気流
7 気流
8 仕切部材A
9 仕切部材B
10 間隔保持部材A
11 間隔保持部材B
【要約】
【課題】本発明の課題は、伝熱性と透湿性の両方を有しながら、気体遮蔽性にも優れた全熱交換素子用紙、並びに湿度交換効率及び温度交換効率が高い全熱交換素子を提供することである。
【解決手段】叩解した天然パルプを含む原紙と、該原紙に付与させてなる吸湿剤とを含有する全熱交換素子用紙において、叩解した天然パルプにおける繊維長0.05mm以下のファイン分比率が10〜25%であることを特徴とする全熱交換素子用紙であり、叩解した天然パルプのフィブリル化率が4.5%以上であることが好ましい。
【選択図】図2
図1
図2