特許第6571909号(P6571909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571909
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】電界通信用固定器
(51)【国際特許分類】
   H04B 13/00 20060101AFI20190826BHJP
   H01Q 1/12 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   H04B13/00
   H01Q1/12 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-167361(P2013-167361)
(22)【出願日】2013年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-37202(P2015-37202A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年8月4日
【審判番号】不服2018-9793(P2018-9793/J1)
【審判請求日】2018年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094020
【弁理士】
【氏名又は名称】田宮 寛祉
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 大介
【合議体】
【審判長】 吉田 隆之
【審判官】 北岡 浩
【審判官】 衣鳩 文彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−177767(JP,A)
【文献】 特開2009−302894(JP,A)
【文献】 特開2010−161567(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/144252(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B1/00,1/30,1/59,1/72,5/00-5/06,7/24-7/26,11/00-13/02
H04L12/28,12/44-12/46
H04W4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状絶縁部材内に2枚の電極板を平行に配置した構造を有する板状の電極の電位変動をシールド付きケーブルを通じて制御部に送信する装置において、板材の縁部を折り曲げることにより板状の前記電極を設置するための電極設置スペースを有するように形成された導電板を備え、板状の前記電極を前記電極設置スペースに設置し、前記シールド付きケーブルのシールド部を前記導電板に接続したことを特徴とする電界通信用固定器。
【請求項2】
前記導電板は前記電極に対して別部材として用意され、前記電極を前記導電板に取り付けるように構成したことを特徴とする請求項1記載の電界通信用固定器。
【請求項3】
前記導電板は前記電極の面積と同等の面積を有する導電板であり、当該導電板と前記電極は一体的構造で構成されることを特徴とする請求項1記載の電界通信用固定器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界通信用固定器に関し、特に、人体を通して行われる電界通信でケーブルの電位を安定化し、雑音の影響を受けにくいようにした電界通信用固定器に関する。
【背景技術】
【0002】
電界通信は、誘電体である人体等(一般的に「電界伝達媒体」)を通信媒体とし、当該人体等を通して行われる通信形態である。この電界通信は人体通信とも呼ばれている。電界通信では、通常、床に設置した電極および当該電極の上に立った利用者の人体を通して、利用者が所持する携帯端末と、離れた位置に配置されかつ当該電極を制御する制御部との間で、通信を成立させ、必要な情報の送受信を行うように構成される。電極は電界通信においてアンテナとして機能し、さらにこの電極を備えた電気部品は電界通信用固定器として機能する。他方、利用者が所持する上記携帯端末は電界通信の「移動器」として機能する。当該電極と、これを制御する制御部との間は、通常的にはペア線のケーブルによって接続されている。
【0003】
電極と制御部の間を接続するケーブルの一例として、特許文献1に開示される接続回路を説明する。特許文献1の図1では、2つの電極(11A,11B)は、それぞれ2芯ケーブル(12)を介して受信器(1)に接続されている。2芯ケーブルは上記のペア線に対応し、受信器は電気回路要素として上記の制御部に実質的に対応している。2芯ケーブルは、図中破線で示されているように、シールド部で覆われており、シールドケーブルとして構成されている。シールド部を有するのは、2芯ケーブルの電位の安定を図り、雑音の影響を排除するためである。本来的にペア線は、2つの線の間の電位が配線経路に応じて安定しないので、雑音の影響を受けやすい。そこで2芯ケーブルを覆うように破線のごとくシールド部を設けており、これにより雑音の影響を排除している。ペア線に対してシールド部が後付け要素として付設される構成もあるが、一般的に、商品的にシールド部が一体として形成されたシールドケーブルも販売されている。
【0004】
図5の(A),(B)を参照して電極とケーブルの各電位の関係について詳述する。
【0005】
図5の(A)では、床面101に配置された電極102と、離れた位置に設けられた制御部103と、電極102と制御部103を接続するペア線のケーブル104A,104Bが示されている。実際には電極102は床面101の上などに設置されるが、図5では電位関係を説明するため床面101から離して示している。電極102では、所要の厚みを有する板状の絶縁部材105の内部に2つの電極板102A,102Bが平行に配置されている。2つの電極板102A,102Bはそれぞれケーブル104A,104Bを介して制御部103に接続されている。このケーブル104A,104Bはシールドされていない。上記の構成において、電極102の各電極板102A,102Bの床面101に対する電位がほぼV1であるとする。この場合に、ケーブル104A,104Bの各々の床面101に対する電位も一定なV1であることが望ましい。通常、接地電位である床面101に沿ってケーブル104A,104Bを配線すれば、各ケーブルの電位は一定になる。しかし、現実的には、床の材質が一定でなかったり、床から壁に配線するなど、配線経路が変わる可能性が高く、一定の電位にすることは容易ではない。そのため現実的には、図5の(A)に示すようにケーブル104Aの電位はV2となり、ケーブル104Bの電位はV3となる。2つのケーブル104A,104B同士の間でも電位が異なるという問題が起きる。
【0006】
そこで、図5の(B)に示すようにケーブル104A,104Bに対してシールド部106を設けることによりシールドケーブルとして構成する。このシールドケーブルは、特許文献1に開示された2芯ケーブル(12)と実質的に同じである。シールドケーブルとして構成すると、シールド部106に対して2つのケーブル104A,104Bの電位はV2’となって同じ電位となり、安定にすることができる。しかし、シールドケーブル全体、すなわちシールド部106の電位は例えばV2となり、電極102の電位V1とは同じにはならないという問題が起きる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−193215号公報(図1、段落0015,0016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電界通信の電極102において、雑音の影響を防ぐためにシールドケーブルを使用した場合、電極の電位と一致させるという観点から、シールド部106を接地させる箇所が課題となる。特許文献1に開示された接続回路では、シールド部は受信器の回路グランドに接続され、これにより接地している。一般的には、理想的に、電極が配置された箇所においてもっとも近い箇所にある導体(グランド)に接続することが望ましく、これにより電極を含めた電気回路要素での平衡バランスをとることができる。しかし、電極の配置箇所の近傍に常に必ず適切な導体部分があるとは限らない。また特許文献1の接続回路のように、シールド部を受信器側の導体(グランド)に接続する場合には、電極とペア線のケーブルの各電位が一定にならず、不安定になる。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、シールドされたケーブルの電位を電極の電位と一致させ、ケーブル全体の電位を安定化し、さらに雑音の影響を軽減することができる電界通信用固定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電界通信用固定器は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0011】
第1の電界通信用固定器(請求項1に対応)は、板状絶縁部材内に2枚の電極板を平行に配置した構造を有する板状の電極の電位変動をシールド付きケーブルを通じて制御部に送信する装置において、板材の縁部を折り曲げることにより板状の電極を設置するための電極設置スペースを有するように形成された導電板を備え、板状の電極を電極設置スペースに設置し、シールド付きケーブルのシールド部を導電板に接続したことを特徴とする。
【0012】
上記の電界通信用固定器では、ペア線のケーブルの電位がシールド部により同一になり、雑音の影響が軽減されると共に、板材の縁部を折り曲げることにより板状の電極を設置するための電極設置スペースを有するように形成された導電板を備え、この導電板に対して容易に電極を設置することができ、当該導電板によってシールド付きケーブルそのものの電位が電極の電位と同一になるため、電位のバランスがとれてが安定化され、雑音の影響がさらに軽減される。また電極に対応して設置される導電板を当該電極と一体化した構造としたため、設置が容易になり、電界通信用固定器としての使い勝手を良好にすることができる。
【0013】
第2の電界通信用固定器(請求項2に対応)は、上記の構成において、好ましくは、導電板は電極に対して別部材として用意され、電極を導電板に取り付けるように構成したことを特徴とする。
【0014】
第3の電界通信用固定器(請求項3に対応)は、上記の構成において、好ましくは、導電板は電極の面積と同等の面積を有する導電板であり、当該導電板と電極は一体的構造で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、次の効果を奏する。
この電界通信用固定器によれば、シールド部を設けたため、ペア線のケーブルの電位がシールド部により同一になり、雑音の影響を軽減することができる。さらに電極に対応して導電物を設置し、この導電物でシールド付きケーブルをグランドしたため、当該シールド付きケーブルそのものの電位が電極の電位と同一になり、電位のバランスがとれてが安定化され、雑音の影響をさらに軽減することができる。
また電極に対応して設置される導電物を電極と一体化した構造としたため、設置が容易になり、電界通信用固定器としての使い勝手を良好にすることができる。
また電極の設置環境に応じて導電物の面積、形状、設置場所等を変更することができ、使用上の融通性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電界通信用固定器の設置状態を示す側面図である。
図2】第1の実施形態に係る電界通信用固定器での電位の関係を説明する一部断面側面図である。
図3】第1の実施形態に係る電界通信用固定器の具体的外観例を示す斜視図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る電界通信用固定器の電位の関係を説明する一部断面側面図である。
図5】従来の電界通信用固定器の電極とケーブルの各電位の関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1図3を参照して本発明の第1の実施形態を説明する。図1において、電界通信用固定器10は、電極11と、電極11を制御する制御部12と、電極11と制御部12を接続するペア線としてのケーブル13A,13Bを含むシールドケーブル13とから構成されている。電極11は、床面14の電極配置領域14Aに配置された導電板15の上に設置されている。電極11の平面形状は、図3に示すように、例えばほぼ正方形(一辺が例えば40cm)であり、導電板15も電極11の平面形状とほぼ同じ形状を有している。電極11と導電板15は予め一体化した製品として作ることもできるし、別部材として作り、その後に設置時に電極11を導電板15に取り付けるように構成することもできる。導電板15は導電物で作られており、例えば鉄等を利用して鉄板として形成される。導電物としては、任意の導電率を有する任意の材料を用いることができ、さらに導電率が異なる2つ以上の材料を組み合わせて作ることもできる。電極11と導電板15は容量結合の関係に設定されている。また制御部12は信号処理部や演算処理部等を内蔵し、電極11で受信した信号を受けて、必要な制御信号等を電極11に与える機能を有している。電極11は、その上に立った人が所持する移動器との間で、当該人の人体を媒体とした電界通信により信号の送受を行う人体通信用の固定器として機能する。ケーブル13A,13Bは、ペア線全体としてシールド部16で覆われてシールドされ、シールドケーブル13として構成されている。シールド部16は、本来、シールドケーブル製品としてペア線のケーブルと共に一体的に作り、所謂シールドケーブルとして構成することもできるし、また通常のケーブルにシールド部16を付設するように構成することもできる。
【0021】
シールドケーブル13では、シールド部16で覆われていることから、ケーブル13A,13Bのいずれもシールド部16に対して同じ電位(V1’)になっている。さらにシールドケーブル13のシールド部16は、床面14に配置された導電板15に接続線17で接続されており、導電板17の電位(V1)と同じ電位になるように設定されている。つまり、図2に示すように、シールドケーブル13のシールド部16の電極11側の端部を接続線17によって電極11が設置されている導電板15と容量結合することにより、床面14に対するシールドケーブル13の電位を導電板15の電位V1と同じになるように設定している。電極11の構造は、図2に示すように、所要の厚みを有する板状の絶縁部材18の内部に2つの電極板11A,11Bが平行に配置されている。2つの電極板11A,11Bにはそれぞれケーブル13A,13Bが接続されている。この接続関係に基づき、導電板15に対する電極板11A,11Bの各電位はV1’に設定され、これは前述したケーブル13A,13Bの各電位V1’と同じ電位になっている。
【0022】
上記の構成によれば、電極11の下側に導電板15を配置し、この導電板15とシールドケーブル13のシールド部16とを接続線17で接続することで、図2において電位V1,V1’で示されるように、対応する箇所を全て同電位にすることができる。その結果、ケーブル13A,13Bが同電位になり、雑音の影響を軽減することができ、さらにシールドケーブル13の各ケーブル13A,13Bと電極11の電極板11A,11Bとが同電位になり、当該電位を安定化し、雑音の影響を軽減することができる。さらに上記の構成によれば、シールドケーブル13のシールド部16を床に直接にグランドできない場合にも、導電板15を利用することにより、電極11の設置環境や場所に依存することなく、シールドケーブル13の電位を適切な電位で安定して設定し、電極との電位バランスをとることができる。
【0023】
なお図3に示した電界通信用固定器10では、導電板15は、例えば薄板状の板材を利用し、両縁部15aを断面コの字状に折り曲げて形成し、電極11を設置するスペースを形成している。また電極11に対応して設置される導電板15を当該電極11と一体化した構造としたため、設置が容易になり、電界通信用固定器10としての使い勝手を良好にすることができる。
【0024】
次に図4を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。図4は、図2と同様な図であり、第1の実施形態において説明した要素と実質的に同一の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第2の実施形態に係る電界通信用固定器20では、電極11に対して設けられる導電板21を、電極11の配置領域に対応しているが、当該配置領域とは完全に一致しない位置に配置し、かつ導電板21の平面形状を電極11の平面形状とは異なるようにしている。この場合、導電板21の面積と電極11の面積とは異なっている。換言すれば、導電板21の平面形状、面積、設置位置は、電極11と同じである必要はなく、設置環境に応じて変更することができる。この場合、電極11と容量結合するように設けられる導電板21は一体化構造ではなく、組立式の構造となっている。また導電板21を形成する導電物の導電率(材質)に応じて、導電板21の面積も変更することができる。上記の第2の実施形態に係る電界通信用固定器20についても、第1の実施形態と同様な効果を発揮することができる。また電極11の設置環境に応じて導電板21の面積、形状、設置場所等を変更することができ、使用上の融通性を高めることができる。
【0025】
上記の各実施形態では、導電板15,21や電極11を床面14上に設置する例を説明したが、床の内部に埋設する場合にも同様に構成することができ、同様な効果を発揮させることができる。
【0026】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る電界通信用固定器は、人体通信において移動器に対する固定器としてに利用される。
【符号の説明】
【0028】
10 電界通信用固定器
11 電極
11A,11B 電極板
12 制御部
13 シールドケーブル
13A,13B ケーブル
14 床面
14A 電極配置領域
15 導電板
16 シールド部
17 接続線
図1
図2
図3
図4
図5