(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571915
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】クライオスタット装置
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20190826BHJP
F25D 3/10 20060101ALI20190826BHJP
H01L 39/04 20060101ALI20190826BHJP
G01N 25/00 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
F25B9/00 J
F25B9/00 Z
F25D3/10 A
H01L39/04
G01N25/00 M
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-166265(P2014-166265)
(22)【出願日】2014年8月18日
(65)【公開番号】特開2016-42000(P2016-42000A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】305015785
【氏名又は名称】矢山 英樹
(72)【発明者】
【氏名】矢山 英樹
【審査官】
久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−074774(JP,A)
【文献】
特表2013−522574(JP,A)
【文献】
特開平10−091250(JP,A)
【文献】
特開昭57−041555(JP,A)
【文献】
特開2008−192848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00
F25D 3/10
G01N 25/00
H01L 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却物を、
機械式冷凍機によって生成された冷熱源と熱交換した冷媒ガス流中に置くことにより冷却するクライオスタット装置であって、
冷媒ガス流路を複数本設けており、
前記被冷却物が、熱交換ガスと試料を入れた閉容器の構造であり、
前記閉容器が、熱の良導体材料と熱の不良導体材料とを繋ぎ合せた構造であり、
前記試料が該熱の良導体材料部位に位置することを特徴とするクライオスタット装置。
【請求項2】
前記複数本の冷媒ガス流路の途中に設けた各インピーダンスの流体抵抗の大きさを異なる値にしたことを特徴とする、
請求項1に記載のクライオスタット装置。
【請求項3】
前記複数本の冷媒ガス流路の内の少なくとも1本は、
冷熱源と熱交換せずに冷媒ガスを流すようにしたことを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載のクライオスタット装置。
【請求項4】
前記冷媒ガスの流速を、
前期複数の冷媒ガス流路の内のいずれか1本を用いるか、
または前記複数の冷媒ガス流路の内の2本以上を並列に組み合わせることにより変化させるようにしたことを特徴とする、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のクライオスタット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温領域でも低温領域でも最適な冷却能力と昇温能力を実現でき、素早い温度変化が可能で、試料交換の際に発生する問題や煩雑性を抑え、試料の温度や物性値をより正確に測定できるクライオスタット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の物理的性質(物性)の測定装置は、物性物理学の研究や工業材料の試験に欠かせない実験装置である。物理量である磁化、電気伝導度、ホール効果、比熱、熱伝導度などは、一般に温度の関数であり、温度を変化させて物性を測定することにより多くの情報が得られるため、物性測定装置は温度を下げて制御できるクライオスタットと組み合わされて使用されることが多い。温度を下げるには液体ヘリウム(He)や液体窒素が用いられる。最近では、これらの寒剤に代って、GM冷凍機やパルスチューブ冷凍機などの機械式冷凍機が用いられることもある。
【0003】
物性測定用クライオスタット装置の例としては、特許文献1のような上方より試料交換可能なクライオスタット、および非特許文献1の127〜130頁の
図5.20に示されているような試料移動型磁化測定装置が挙げられる。特許文献1の試料は試料交換時のみ移動するタイプであるが、非特許文献1の試料は物性測定中も移動するタイプのクライオスタットである。
【0004】
このような試料が移動するタイプのクライオスタットの低温部分だけを抜き出した、一般的な磁化測定装置の模式図を
図2に示す。
図2では簡単のため液体ヘリウムは明示されていないが、超伝導マグネット44、ピックアップコイル43、真空パイプ51、液体He入口48は、液体ヘリウムに浸漬されている。試料55は試料移動棒41によって上下し、ピックアップコイル43を貫通する磁束が変化し試料の磁化に比例した起電力がピックアップコイル43に誘起される。予め磁化の値がわかった試料で起電力と磁化との関係を較正しておけば、起電力から磁化の値が求まる。
【0005】
このクライオスタットの冷却原理は、次のとおりである。真空パイプ51の内部は真空であり断熱されている。液体He入口48から入った液体Heは、インピーダンス49を通って中間パイプ53に入り、ヒータ47で温度制御された熱交換器50を通ってHeガス流パイプ54に入り、さらにヒータ47で温度制御され試料を冷却して上昇し、排気される。このような試料が移動する構造では、試料に接触して熱伝導で温度を下げるのは難しいため、Heガス流中に試料を置いて冷却している。
【0006】
一般に物質の比熱は2K〜300Kの温度範囲では4桁近くも変化し、高温ほど大きな比熱を持っている。したがって、高温ほどHeガスの流速を大きくして冷却能力を大きくする方が、試料を速く冷やすことができる。逆に低温では冷却能力はあまり大きい必要はないが、最低温度をより低くするためにHeガスの流速を遅くする必要がある。
【0007】
しかし、
図2の装置ではインピーダンス49が1個しか無く一定であるため、Heガスの流れの速度は一定であり、冷却能力も一定である。したがって、インピーダンスの流体抵抗の設定において、温度降下速度を優先すれば最低温度があまり低くならないし、最低温度を優先すれば温度降下速度が遅くなるため、両者を同時に満足するのは難しいという問題に直面する。
【0008】
図2からわかるように、試料を交換するために温度を低温から室温まで一気に上昇させるには、ヒータ47に大電力を印加する方法が用いられる。しかしその場合、ヒータの電力に限界があるため温度上昇速度をあまり大きくできないという問題もある。
【0009】
Heガスの温度はヒータ47と室温部に在るポンプにより2Kから室温までの間で制御される。この装置では温度センサーを試料に接触させることが難しいため、試料55の温度は、試料55が存在する領域の上下2箇所に温度センサー45と46を設置し、ヘリウムガスの温度を測って、その温度勾配を基に試料位置での温度を計算し決定している。このような煩雑な方法を採るのは、上部のパイプを伝っての熱流入と下からのHeガス流による冷却効果のため試料55近傍では上部の温度が下部より高くなっているためである。
【0010】
このクライオスタットにおいて試料を交換するには、1)試料温度を室温にしたのち、Heガス流42を止め、2)Heガス流パイプ54の上部を開けて空気を導入し、3)試料55を交換して空気を排気し、4)Heガス流42を再開する、という手順が必要である。この手順の中で、3)で空気を排気しても完全に排気することは不可能であり、わずかに残った空気や水分が低温で固化して、あるときインピーダンスが詰まってしてしまうという問題が起こる。また、この手順はHeガス流路を空気に開放しなければならないため煩雑であると同時にHeガス流路汚染のリスクもある。
【0011】
このようにHeガス流42の中に試料55が在ると、ガス圧が高い場合にはガス流によって試料55または試料移動棒41が力を受け振動するという問題が発生する。試料の振動は、測定に影響を与えるため避けるべきである。
【0012】
ここで用いた物性測定装置の例は磁化測定装置であるが、電気伝導度や比熱や熱伝導測定装置など他の装置でも同じような技術的背景がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公表01/96020号広報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】田沼静一 馬宮孝好 責任編集、実験物理科学シリーズ第2巻 近低温、共立出版、日本、1998年12月20日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、従来のクライオスタットは1個のインピーダンスで広い温度範囲の冷却をカバーしている。しかし、1個のインピーダンスによって得られる冷却能力は一定であるため高温で冷却速度が小さい、あるいは最低温度があまり低くならないという問題がある。さらに、低温から室温まで急速に温度を上げたいときにヒータの能力に限界があるため温度上昇速度を大きくできない。
【0016】
また、従来の物性測定用クライオスタット装置において、試料をHeガス流の中に置いて冷却する場合には、次のような欠点がある。1.試料交換の際にHeガス流路の一部を空気に曝さなければならないため、He流路に混入した微量の空気が低温で固化してインピーダンスが詰まる。2.Heガスの流れが試料または試料支持体を振動させるため、物性測定値に影響する。3.Heガスの流れの上流と下流で温度の勾配が生じるため、試料の正確な温度測定が難しい。4.試料交換の際にHeガスの流れを止めなければならないため、ガス流制御機構が複雑になる。
【0017】
本発明の目的は、次のような物性測定用クライオスタット装置を提供することである。1.冷却能力と昇温能力を必要に応じて変化できるようにする。2.試料交換の際に、空気の混入を防止しインピーダンスの詰りを回避できる。3.Heガスの流れが試料や試料の支持体に直接当たらないようにできる。4.試料空間に亘って均一な温度にできる。5.試料交換の際に、Heガスの流れを止める必要がない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の物性測定用クライオスタット装置は、冷媒ガスの流体抵抗が異なる複数のインピーダンスおよび冷熱源と熱交換しない冷媒ガス流路を装備する。
【0019】
また、従来の装置のように試料をHeガスの流れの中に置いてガスで直接冷却するのではなく、熱伝導度の大きな容器の中に熱交換用Heガスと試料を入れ、その閉容器をHeガス流路中に置いて間接的に試料を冷却するという構造を持つ。
【発明の効果】
【0020】
複数のガス流路を装備し、必要に応じて切り替えたり、並列に組み合わせることで、最適な冷却能力および昇温能力を選択できる。
【0021】
加えて、この新しい構造により、試料とHeガス流とが分離されるため、試料交換の際に空気の混入が防止できインピーダンスの詰りが回避できる。また、Heガスの流れが試料に直接当たらず、試料の振動が起こらない。さらに、Heガスの流れを止める必要もないため試料交換手順が簡単になる。加えて、試料が熱の良導体でできた閉容器により囲まれているため、試料空間領域が一様な温度になり温度測定が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の概略を示す物性測定用クライオスタット装置の全体図。特に磁化測定の場合を示す。Heガスの循環速度が少ないとき、すなわち冷却パワーは小さいが一番低温が達成できるときの運転状態を示す。
【
図2】従来の一般的な試料移動型磁化測定装置の低温部分。簡単のため、液体ヘリウム容器や液体ヘリウム、断熱真空などは省略されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して物性測定用クライオスタット装置について説明する。
図1は、本発明のクライオスタットを、ガス循環部を概略化して表したものであり、特に磁化測定時の通常運転状態を示す。磁化以外の物性測定、例えば電気伝導度の測定時には、符号19で示したフランジを外して磁化測定試料9と反平行巻きコイル一対を直列につないだピックアップコイル11および加振器18を取除き、代わりに電気伝導測定試料を磁化測定試料9と同じ位置に挿入すればよい。
【0024】
まず、クライオスタット部の構成について説明する。符号35で示した真空容器の内部は真空ポンプにより排気されており、内部の部品は室温から断熱されている。符号1で示した部品はGM冷凍機であり、約40Kの1stステージ2は1stステージプレート3に、約4Kの2ndステージ5は2ndステージプレート6に熱接触して冷却している。1stステージプレート3には輻射シールド4が接続されており、内部に室温からの輻射熱が入らないように周りを覆っている。2ndステージプレート6にフレキシブル熱伝導体7で熱結合された超伝導マグネットは、約4K以下で8Tの磁場を発生できる。
【0025】
ここで、1stステージプレート3と2ndステージプレート6が、請求項1に記載した冷熱源である。この実施形態では、冷熱源としてGM冷凍機によって冷却されたプレートを利用しているが、パルスチューブ冷凍機やスターリング冷凍機などの機械式冷凍機で冷却されたものであってもよいし、液体ヘリウムや液体窒素などの寒剤を用いてもよい。
【0026】
次に、試料部分の機能について説明する。超伝導マグネットによる外部磁場で試料9に磁気モーメントが誘起され、試料9から出た磁束がピックアップコイル11を貫いている。試料9は細い試料振動棒17で室温の加振器18に接続され、40Hzの周波数で振動させられ、ピックアップコイル11を貫く磁束が振動周波数で変化し誘導起電力を生じる。誘導起電力の大きさは磁化の値に比例するので、予め磁化の値のわかっている試料で装置を較正しておけば、誘導起電力から磁化の値が測定できる。
【0027】
次に、Heガス循環系と冷却法について説明する。通常運転の場合、Heガスタンク30に貯蔵されたHeガスは、液体窒素トラップ29を通って空気や水分が除去され、バルブ26を通って1stステージ熱交換器31で約40Kになり、2ndステージ熱交換器32で約4Kになり、高抵抗インピーダンス33を通ってHeガス循環パイプ16に入り銅製試料パイプ14を冷却しながら上昇し、バルブ24とHeガス循環ポンプ25を通って液体窒素トラップ29に入り、バルブ26を通ってクライオスタット内に入る。これを繰り返して、試料が冷却され続ける。この状態は、Heガス循環速度が低いため、冷却能力は小さいが最低温度は低い状態である。なお、Heガスタンク30は循環中のHeガス圧力変動を緩和するバッファータンクの役目も果たす。
【0028】
冷却速度を上げるには、バルブ26を閉じて代わりにバルブ27を開け、低抵抗インピーダンス34を通して循環することにより、冷媒ガスの流速を増加させる。これにより、冷却能力が増加し、冷却速度が増加する。または、バルブ26とバルブ27の両方を開けて並列に冷媒ガスを流すことにより、さらに冷媒ガスの循環速度が増加し、冷却能力が増加し、試料の冷却速度が増加する。このように、冷媒ガスの流路を複数設け、どれを選択するか、または並列組み合わせの仕方を選択することによって適当な冷媒ガス循環速度が得られる。
【0029】
試料の温度制御は、ヒータ8に電流を流して銅製試料パイプ14を加熱し、ヒータによる加熱効果とHeガス流による冷却効果との拮抗により行う。
【0030】
試料の温度を室温まで上げるには、ヒータ8によって加熱する。他の方法としては、バルブ26と27を閉じたまま、バルブ28を開け、1stステージおよび2ndステージで熱交換しない室温のHeガスを銅製試料パイプ14の周りに流す。これにより、試料の温度は室温まで急速に上昇させることができる。しかも、室温以上には温度が上がらないので、ヒータを使った場合のヒータスイッチ切り忘れによる過熱などの問題がなく、安全性が高い。もちろん、ヒータと室温のガス流の両方を同時に用いることもできる。
【0031】
試料9の周りは熱の良導体である銅製試料パイプ14で囲まれている。銅製試料パイプ14の上部は、熱の侵入が極力少なくなるように熱の不良導体であるGFRPパイプ15に繋ぎ合わされており、室温部続いている。この銅製試料パイプ14とGFRPパイプ15が繋ぎ合わされて一体となったものが請求項1に記載の被冷却物である。この被冷却物の内部には、試料9および温度センサー12が銅製試料パイプ14と熱交換するために約0.1〜10kPa程度のHeガスがHeガスタンク21からバルブ23を通して導入されている。運転中は、バルブ22とバルブ23を閉じて、該被冷却物は閉容器になっている。
【0032】
試料9が熱の良導体である銅製試料パイプ14で囲まれていることにより、試料領域はほとんど一様な温度になっているため、温度センサー12が試料の位置から多少離れていても1個の温度センサーで正確に温度を測定できる。もちろん、これらの材料は一実施例であり、熱の良導体は銅に限らないし、熱の不良導体はGFRPに限る必要はない。
【0033】
この試料9が収納されたパイプの上部はバルブ22を通して真空ポンプ20が接続されている。試料交換時には空気が入るので、真空ポンプ20で排気し、Heガスタンク21からバルブ23を通してHeガスを導入する。このとき僅かな空気が残っていても、Heガス循環系とは分離されているので、低温でインピーダンスを詰まらせることはない。
【0034】
次に、試料の交換方法について説明する。まず試料9を室温まで昇温する。その後、試料が収納されている銅製試料パイプ14内のHeガス圧力を、Heガスタンク21からHeガスを導入して1気圧まで上昇する。フランジ19を外して試料を取り出す。このときHeガスの一部は空気と入れ替わるが室温なので、空気が液化したり水分が凝結したりの問題はない。試料を新しいものと交換してパイプ内に挿入する。フランジ19を戻し、真空ポンプで銅製試料パイプ14内を排気し、10kPa程度のHeガスを導入する。この後、試料の温度を下げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、クライオスタット装置において、最低温度と温度変化速度の両者を同時に満足させることが可能になる。簡単な手順で試料交換ができ、その際の空気混入によるインピーダンス詰りの問題が発生しなくなる。また、Heガス流による試料の振動がなくなり、温度測定が容易になる。
【符号の説明】
【0036】
1 GM冷凍機
2 GM冷凍機の1stステージ
3 1stステージプレート
4 輻射シールド
5 GM冷凍機の2ndステージ
6 2ndステージプレート
7 フレキシブル熱結合体
8 ヒータ
9 試料
10 超伝導マグネット
11 ピックアップコイル
12 温度センサー
13 輻射シールド
14 銅製試料パイプ
15 GFRPパイプ
16 Heガス循環パイプ
17 試料振動棒
18 加振器
19 フランジ
20 真空ポンプ
21 Heガスタンク
22、23、24 バルブ
25 Heガス循環ポンプ
26、27、28 バルブ
29 液体窒素トラップ
30 Heガスタンク
31 1stステージプレート熱交換器
32 2ndステージプレート熱交換器
33 高インピーダンス
34 低インピーダンス
35 真空容器
36 試料振動
40 試料移動
41 試料移動棒
42 Heガス流
43 ピックアップコイル
44 超伝導マグネット
45 上側温度センサー
46 下側温度センサー
47 ヒータ
48 液体He入口
49 インピーダンス
50 熱交換器
51 真空パイプ
52 断熱真空空間
53 中間パイプ
54 Heガス流パイプ
55 試料