(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るクラッチ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るクラッチ装置100の全体構成の概略を模式的に示す断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。このクラッチ装置100は、二輪自動車(オートバイ)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を被動体である車輪(図示せず)に伝達および遮断するための機械装置であり、同エンジンと変速機(トランスミッション)(図示せず)との間に配置されるものである。
【0017】
(クラッチ装置100の構成)
クラッチ装置100は、アルミニウム合金製のクラッチハウジング101を備えている。クラッチハウジング101は、クラッチ装置100の筐体の一部を構成する部品であり、主として、筒状部101aとハウジング部101bとで構成されている。筒状部101aは、後述する従動軸114の外周部にブッシュ102を介して回転自在に嵌合する円筒状の部分である。
【0018】
また、ハウジング部101bは、筒状部101aの一方(図示右側)の端部から径方向外側に延びた後、筒状部101aの軸線方向に延びるカップ状に形成されている。このハウジング部101bは、内側領域に複数枚(本実施形態においては5枚)のフリクションプレート103をハウジング部101bの軸線方向に沿って変位可能、かつ同ハウジング部101
b(すなわち、クラッチハウジング101)と一体回転可能な状態でスプライン嵌合によってそれぞれ保持している。
【0019】
フリクションプレート103は、後述するクラッチプレート107に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらのフリクションプレート103における各両側面(表裏面)には、クラッチオイルを保持するための深さ数μm〜数十μmの図示しない油溝が形成されているとともに、耐摩耗性を向上させる目的で表面硬化処理がそれぞれ施されている。
【0020】
このクラッチハウジング101における図示左側側面には、入力ギア104がトルクダンパ104aを介してリベット104bによって固着されている。入力ギア104は、エンジンの駆動により回転駆動する原動軸(図示せず)に連結された駆動ギア(図示せず)と噛合って回転駆動する。また、クラッチハウジング101のハウジング部101bの内部領域には、クラッチセンタ105および後述するプレッシャプレート109がそれぞれ設けられている。
【0021】
クラッチセンタ105は、クラッチプレート107を保持するアルミニウム合金製の部品であり、主として、連結部105a、フランジ部105bおよび噛合い部105cを備えて構成されている。連結部105aは、従動軸114に連結される筒状の部分であり、内周面にクラッチセンタ105の軸線方向に沿って形成された多数のスプライン溝を介して従動軸114にスプライン嵌合している。この場合、連結部105aは、ワッシャ106aを介してナット106bによって従動軸114に締め付け固定されている。
【0022】
フランジ部105bは、連結部105aと噛合い部105cとを繋ぐ円板状の部分であり、連結部105aの一方(図示右側)の端部から径方向外側に延びて形成されている。このフランジ部105bには、プレッシャプレート109のボス部が貫通する貫通孔が形成されている。
【0023】
噛合い部105cは、フランジ部105bの外縁部から連結部105aの軸線方向に沿って延びた筒状に形成されており、外周面に複数枚(本実施形態においては4枚)のクラッチプレート107を前記フリクションプレート103を挟んだ状態で噛合い部105cの軸線方向に沿って変位可能、かつ同噛合い部105c(すなわち、クラッチセンタ105)と一体回転可能な状態でスプライン嵌合によってそれぞれ保持している。この噛合い部105cには、クラッチプレート107がスプライン嵌合する部分に導油孔105dが形成されている。
【0024】
導油孔105dは、従動軸114から供給される図示しないクラッチオイルをフリクションプレート103およびクラッチプレート107にそれぞれ導くための貫通孔であり、噛合い部105cの長手方向(軸線方向)に沿って複数形成されている。そして、この噛合い部105cの先端部には、径方向外側に屈曲してリング状に形成された受け部105eが形成されている。受け部105eは、フリクションプレート103とクラッチプレート107とをプレッシャプレート
109と協働して挟む部分である。
【0025】
クラッチプレート107は、前記フリクションプレート103に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらのクラッチプレート107における各両側面(表裏面)には、図示しない複数の紙片からなる摩擦材が貼り付けられているとともに各摩擦材間に図示しない油溝が形成されて構成されている。また、クラッチプレート107の内周部には、クラッチセンタ105とスプライン勘合させるための内歯状のスプラインが形成されている。
【0026】
クラッチセンタ105のフランジ部105b上における連結部105aと噛合い部105cとの間には、クラッチオイル案内体108がクラッチセンタ105と一体的に形成されている。クラッチオイル案内体108は、
図2に示すように、従動軸114から供給されるクラッチオイル(図示せず)を噛合い部105cの導油孔105dに導くための部分であり、連結部105aおよび噛合い部105cにそれぞれ繋がった状態でフランジ部105b上に壁状に起立して形成されている。
【0027】
この場合、クラッチオイル案内体108は、噛合い部105c側が連結部105a側に対してクラッチセンタ105の回転駆動方向(図示破線矢印参照)の後方に直線状に延びて形成されている。また、クラッチオイル案内体108は、噛合い部105cにおける導油孔105dが形成された範囲を含むように連結部105a側から広がって形成されている(
図1参照)。そして、このクラッチオイル案内体108は、フランジ部105b上においてクラッチセンタ105の周方向に沿って複数(本実施形態においては4つ)形成されている。
【0028】
プレッシャプレート109は、フリクションプレート103を押圧することによりこのフリクションプレート103とクラッチプレート107とを密着させるための部品であり、アルミニウム材をクラッチプレート107の外径と略同じ大きさの外径の略リング状に成形して構成されている。このプレッシャプレート109は、外縁部がフリクションプレート103を押圧する部分であり、内周部がクラッチセンタ105の連結部105aの外周部に軸線方向に沿って摺動自在に嵌合している。
【0029】
また、プレッシャプレート109は、円盤面上に周方向に沿って4つのボス部109aがクラッチセンタ105の軸線方向に突出して形成されている。各ボス部109aは、平板環状のプレッシャプレート109がボルト109bによって固定的に取り付けられる部分であり、クラッチセンタ105のフランジ部105bに形成された貫通孔を貫通した柱状に形成されている。これらの4つのボス部109aの各外周部には、リフタープレート110とクラッチセンタ105のフランジ部105bとの間にスプリング111がそれぞれ設けられている。スプリング111は、フランジ部105bに対してリフタープレート110を押圧することによってプレッシャプレート109をフリクションプレート103に押圧するための弾性体であり、本実施形態においてはばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングで構成されている。
【0030】
リフタープレート110の中央部には、ベアリング112を介してレリーズピン113が貫通している。レリーズピン113は、クラッチ装置100の回転駆動力の伝達状態を切断状態とする際にリフタープレート110を押圧するための棒状部品であり、一方(図示右側)の端部が図示しないクラッチレリーズ機構に接続されているとともに、他方(図示左側)の端部が従動軸114に設けられた油供給孔114aに摺動自在な状態で嵌合している。ここで、クラッチレリーズ機構とは、クラッチ装置100が搭載される自走式車両の運転者のクラッチ操作レバー(図示しない)の操作によってレリーズピン11
3を従動軸114側に押圧する機械装置である。
【0031】
従動軸114は、クラッチ装置100によって伝達される回転駆動力を被動体に伝達するとともにクラッチ装置100内にクラッチオイル(図示せず)を供給するための部品であり、鋼材を中空の軸体に形成して構成されている。より具体的には、従動軸114の内部には、軸線方向に沿ってクラッチオイルが流通する油供給孔114aが形成されている。そして、この従動軸114は、一方(図示右側)の端部にクラッチセンタ105がスプライン嵌合するとともに油供給孔114aにレリーズピン113の一部が軸方向および周方向にそれぞれ摺動自在な状態で嵌合している。
【0032】
この場合、従動軸114における一方(図示右側)に開口する油供給孔114aは、レリーズピン113に対してすきま嵌めの寸法公差で嵌合しており、油供給孔114a内のクラッチオイルが油供給孔114aとレリーズピン113との隙間を介して漏出するように形成されている。一方、従動軸114における他方(図示左側)の端部は、自走式車両における図示しない変速機およびクラッチオイル供給ポンプにそれぞれ連結されている。なお、従動軸114の内部には、油供給孔114aから分岐してクラッチオイルの一部をブッシュ102に供給する油分岐孔114bが形成されている。
【0033】
(クラッチ装置100の作動)
次に、上記のように構成したクラッチ装置100の作動について説明する。このクラッチ装置100は、前記したように、車両におけるエンジンと変速機との間に配置されるものであり、車両の運転者によるクラッチ操作レバーの操作によってエンジンの駆動力の変速機への伝達および遮断を行なう。
【0034】
具体的には、クラッチ装置100は、車両の運転者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作しない場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン113を押圧しないため、プレッシャプレート109がスプリング111の弾性力によってフリクションプレート103を押圧する。これにより、クラッチセンタ105は、フリクションプレート103とクラッチプレート107とがクラッチセンタ105の受け部105e側に変位して互いに押し当てられて摩擦連結された状態となるため、換言すれば、プレッシャプレート109と受け部105eとがフリクションプレート103およびクラッチプレート107を挟むことにより回転駆動する。すなわち、原動機の回転駆動力がクラッチセンタ105に伝達されて従動軸114が回転駆動する。
【0035】
この場合、従動軸114の油供給孔114aとレリーズピン113との隙間からは
図1の破線矢印に示すように常時クラッチオイルが少量ずつ漏出している。このため、従動軸114の油供給孔114aの端部の開口部から漏出したクラッチオイルは、一部が図示下方に向かって落下するとともに他の一部がナット106b、ワッシャ106aおよび連結部105aを伝って流れる。そして、ナット106b、ワッシャ106aおよび連結部105aを伝うクラッチオイルの一部が、回転駆動するナット106b、ワッシャ106aおよび連結部105aの各遠心力によって径方向外側に振り飛ばされる。
【0036】
従動軸114、ナット106b、ワッシャ106aおよび連結部105aからそれぞれ離脱したクラッチオイルは、その一部が直接クラッチセンタ105の噛合い部105cに到達するとともに、他の一部が回転駆動するクラッチセンタ105のクラッチオイル案内体108に衝突する。この場合、クラッチオイル案内体108は、連結部105a側に対して噛合い部105c側がクラッチセンタ105の回転駆動方向の後方に延びて形成されているため、クラッチオイル案内体108が半径方向に延びて設けられている場合に比べてクラッチオイルの衝突の反力を小さく抑えることができるとともに付着したクラッチオイルを精度良く噛合い部105c側に導くことができる。そして、噛合い部105cに到達または導かれたクラッチオイルは、導油孔105dを介してフリクションプレート103およびクラッチプレート107に導かれてフリクションプレート103およびクラッチプレート107を潤滑および冷却する。
【0037】
一方、クラッチ装置100は、車両の運転者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作した場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン113を押圧するため、プレッシャプレート109がスプリング111の弾性力に抗して受け部105eから離隔する方向に変位する。これにより、クラッチセンタ105は、フリクションプレート103とクラッチプレート107との摩擦連結が解消された状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。すなわち、原動機の回転駆動力がクラッチセンタ105に対して遮断される。
【0038】
この場合、従動軸114の油供給孔114aとレリーズピン113との隙間からは
図1の破線矢印に示すように常時クラッチオイルが少量ずつ漏出している。このため、従動軸114が回転駆動している場合においては前記と同様に、ナット106b、ワッシャ106aおよび連結部105aを伝うクラッチのオイルの一部が、回転駆動するナット106b、ワッシャ106aおよび連結部105aの各遠心力によって径方向外側に振り飛ばされる。そして、従動軸114、ナット106b、ワッシャ106aおよび連結部105aからそれぞれ離脱したクラッチオイルは、その一部が直接クラッチセンタ105の噛合い部105cに到達するとともに、他の一部が前記と同様にクラッチオイル案内体108を介して噛合い部105c側に導かれる。
【0039】
また、従動軸114の回転駆動が停止している場合においては、従動軸114の油供給孔114aの端部の開口部から漏出したクラッチオイルは、一部が図示下方に向かって落下して直接噛合い部105cに到達するとともに他の一部がナット106b、ワッシャ106aおよび連結部105aを伝った後、フランジ部105bやクラッチオイル案内体108などを伝って噛合い部105cに導かれる。そして、噛合い部105cに到達または導かれたクラッチオイルは、導油孔105dを介してフリクションプレート103およびクラッチプレート107に導かれてフリクションプレート103およびクラッチプレート107を潤滑および冷却する。
【0040】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、クラッチ装置100は、従動軸114に連結部105aを介して連結されるクラッチセンタ105における同連結部105aと噛合い部105cとの間にクラッチセンタ105の回転駆動方向の後方に延びた壁状のクラッチオイル案内体108が形成されているため、従動軸114から供給されるクラッチオイルがクラッチオイル案内体108に接触した場合における反力(抵抗)を低減しながらクラッチオイルを噛合い部105c側に導くことができる。これにより、クラッチ装置100は、従動軸114から供給されるクラッチオイルを効率的にフリクションプレート103およびクラッチプレート107に導いて駆動力の伝達効率およびクラッチオイルの潤滑性能をそれぞれ向上させることができる。
【0041】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記実施形態におけるクラッチ装置100と同様の構成部分にはクラッチ装置100に付した符号に同一の符号または「’」を付した符号を付して、その説明は省略する。
【0042】
例えば、上記実施形態においては、クラッチオイル案内体108をクラッチセンタ105の周方向に沿って複数形成した。しかし、クラッチオイル案内体108は、クラッチセンタ105の周方向に沿って少なくとも1つ形成すればよい。また、クラッチオイル案内体108は、上記実施形態においては直線状に形成したが、噛合い部105c側が連結部105a側に対してクラッチセンタ105の回転駆動方向の後方に曲線状に延びて形成することもできる。
【0043】
また、上記実施形態においては、クラッチオイル案内体108は、連結部105aおよび噛合い部105cにそれぞれ繋がる壁状に形成した。これにより、クラッチオイル案内体108は、クラッチオイルを噛合い部105cに導く他に、連結部105aおよび噛合い部105cを繋いで補強するリブとしても機能するとともにフランジ部105bに繋がって形成されることによりフランジ部105bを補強するリブとして機能する。しかし、クラッチオイル案内体108は、連結部105aと噛合い部105cとの間に起立した壁状に形成されていれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。
【0044】
したがって、クラッチオイル案内体108は、例えば、
図3および
図4にそれぞれ示すように、連結部105aに繋がって噛合い部105cに繋がっていない構成、連結部105aに繋がらずに噛合い部105cに繋がる構成とすることができる。これらによれば、連結部105aまたは噛合い部105
cを補強しながらクラッチセンタ105を軽量化することができる。また、クラッチオイル案内体108は、噛合い部
105cの近傍まで延びて噛合い部
105cに繋がらない構成とすることで、噛合い部105c側に溜まったクラッチオイルの流動性を確保することもできる。
【0045】
また、クラッチオイル案内体108は、連結部105aおよび噛合い部105cにそれぞれ繋がらない構成とすることもできる。また、クラッチオイル案内体108は、連結部105aおよび噛合い部105cにそれぞれ繋がる構成とした場合、フランジ部105bとの間に隙間を設けてフランジ部105bに繋がらない構成とすることもできる。
【0046】
また、上記実施形態においては、クラッチオイル案内体108を噛合い部105cにおける導油孔105dが形成された範囲を含むように連結部105a側から広がって形成した。これにより、クラッチオイル案内体108は、噛合い部105cに形成された複数の導油孔105dにそれぞれクラッチオイルを導くことができる。しかし、クラッチオイル案内体108は、噛合い部105cに形成された複数の導油孔105dのうちの一部の導油孔105dに向けて形成されてもよい。例えば、クラッチ装置100においては、エンジンから熱によってクラッチ装置100におけるエンジン側の部分の温度が高くなることがある。したがって、クラッチオイル案内体108は、例えば、
図5に示すように、温度が高くなる傾向にある側(例えば、入力ギア104側)に形成された導油孔105dに向けて形成することによってこの導油孔105dに積極的にクラッチオイルを導くようにすることもできる。
【0047】
また、上記実施形態においては、リフタープレート110を図示しないクラッチレリーズ機構を介して押圧することでエンジンの回転駆動力の伝達状態を遮断する所謂プルタイプ(「内切り型」ともいう)のクラッチ装置100に本発明を適用した。しかし、本発明は、所謂プルタイプ(「内切り型」ともいう)以外の形式のクラッチ装置100、例えば、プレッシャプレート109を直接押すまたは引くことによってエンジンの回転駆動力の伝達状態を遮断する所謂プッシュタイプ(「外切り型」ともいう)のクラッチ装置
100’に本発明を適用することもできる。
【0048】
所謂プッシュタイプのクラッチ装置100’は、例えば、
図6および
図7にそれぞれ示すように、主として、クラッチハウジング101’、フリクションプレート103’、クラッチセンタ105’、クラッチプレート107’、クラッチオイル案内体108’、プレッシャプレート109’、レリーズピン113’および従動軸114’をそれぞれ備えている。このクラッチ装置100’は、上記実施形態におけるクラッチ装置100と同様の構成であるため、上記クラッチ装置100に対応する部品に「’」を付けた符号を付すとともに、上記クラッチ装置100とは異なる特徴的部分のみ説明する。
【0049】
クラッチセンタ105’は、上記実施形態における連結部105a、フランジ部105b、噛合い部105c、導油孔105dおよび受け部105eと同様の連結部105a’、フランジ部105b’、噛合い部105c’、導油孔105
d’、受け部105e’およびクラッチオイル案内体108’をそれぞれ備えている。この場合、受け部105e’は、クラッチハウジング101’におけるカップ状に形成されたハウジング部101b’の底部側(図示左側)に設けられている。また、クラッチセンタ105’におけるフランジ部105b’には、上記実施形態における4つのボス部109aに対応する4つのボス部109a’が4つのクラッチオイル案内体108’間にそれぞれ形成されている。また、このクラッチセンタ105’は、ナット106
b’によって従動軸114’の外周部に締め付け固定されている。
【0050】
プレッシャプレート109’は、フリクションプレート103を押圧することによりこのフリクションプレート103とクラッチプレート107とを密着させるための部品であり、アルミニウム材をクラッチプレート107の外径と略同じ大きさの外径の略円盤状に成形して構成されている。このプレッシャプレート109’の盤面には、周方向に沿って4つの長孔状の収容部109
c’が形成されている。収容部109c’は、クラッチセンタ105’側(図示左側)に向って突出した筒状の部分である。この収容部109c’内には、前記ボス部109a’が嵌合するとともにこのボス部109
a’の外周部に上記実施形態におけるスプリング111に対応するスプリング111’がボス部109a’の底部とボス部109a’の先端部に配置された受けワッシャ109d’に挟まれた状態で設けられている。
【0051】
受けワッシャ109d’は、プレッシャプレート109’がクラッチセンタ105’に対して離隔する方向に変位する量を規制するための金属製の平板環状の部材であり、ボルト109b’によってボス部109a’の先端部に取り付けられている。これにより、プレッシャプレート109’は、クラッチセンタ105’に対して近接および離隔する方向に変位可能な状態でかつスプリング111’によってフリクションプレート103を押圧した状態で取り付けられる。
【0052】
レリーズピン113’は、上記実施形態と同様のクラッチレリーズ機構(図示せず)によって従動軸114’に対して離隔する方向(図示右側)に引かれることによってプレッシャプレート109’を図示右側に引っ張る軸状の部品であり、一方(図示左側)の端部が従動軸114’の油供給孔114a’にすきま嵌めの寸法公差で摺動自在に嵌合している。また、レリーズピン113’における他方(図示右側)の端部には、クラッチレリーズ機構(図示せず)に引っ掛けるためのフランジ状の返し部113a’が形成されている。なお、クラッチ装置100’は、リフタープレート110は不要である。
【0053】
このように構成されたクラッチ装置100’においては、上記実施形態におけるクラッチ装置100と同様に、クラッチ装置100は、車両の運転者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作しない場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン113’を引かないため、プレッシャプレート109’がスプリング111’の弾性力によってフリクションプレート103’を押圧する。これにより、クラッチセンタ105’は、フリクションプレート103’とクラッチプレート107’とがクラッチセンタ105’の受け部105e’側に変位して互いに押し当てられて摩擦連結された状態となるため、原動機の回転駆動力がクラッチセンタ105’に伝達されて従動軸114’が回転駆動する。
【0054】
この場合、従動軸114’の油供給孔114a’とレリーズピン113’との隙間からは
図6の破線矢印に示すように常時クラッチオイルが少量ずつ漏出している。このため、従動軸114’の油供給孔114a’の端部の開口部から漏出したクラッチオイルは、一部が図示下方に向かって落下するとともに他の一部がナット106b’および連結部105a’を伝って流れる。そして、ナット106b’および連結部105a’を伝うクラッチオイルの一部が、回転駆動するナット106b’および連結部105aの各遠心力によって径方向外側に振り飛ばされる。
【0055】
従動軸114’、ナット106b’および連結部105a’からそれぞれ離脱したクラッチオイルは、その一部が直接クラッチセンタ105’の噛合い部105c’に到達するとともに、他の一部が回転駆動するクラッチセンタ105’のクラッチオイル案内体108’に衝突する。この場合、クラッチオイル案内体108’は、連結部105a’側に対して噛合い部105c’側がクラッチセンタ105’の回転駆動方向の後方に延びて形成されているため、クラッチオイル案内体108’が半径方向に延びて設けられている場合に比べてクラッチオイルの衝突の反力を小さく抑えることができるとともに付着したクラッチオイルを精度良く噛合い部105c’側に導くことができる。そして、噛合い部105c’に到達または導かれたクラッチオイルは、導油孔105d’を介してフリクションプレート103’およびクラッチプレート107’に導かれてフリクションプレート103’およびクラッチプレート107’を潤滑および冷却する。
【0056】
一方、クラッチ装置100’は、車両の運転者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作した場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン113’を引くため、プレッシャプレート109’がスプリング111’の弾性力に抗して受け部105e’から離隔する方向に変位する。これにより、クラッチセンタ105‘は、フリクションプレート103’とクラッチプレート107’との摩擦連結が解消された状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。すなわち、原動機の回転駆動力がクラッチセンタ105’に対して遮断される。
【0057】
この場合、従動軸114’の油供給孔114a’とレリーズピン113’との隙間からは
図6の破線矢印に示すように常時クラッチオイルが少量ずつ漏出している。このため、従動軸114’が回転駆動している場合においては前記と同様に、ナット106b’および連結部105a’を伝うクラッチのオイルの一部が、回転駆動するナット106b’および連結部105a’の各遠心力によって径方向外側に振り飛ばされる。そして、従動軸114’、ナット106b’および連結部105a’からそれぞれ離脱したクラッチオイルは、その一部が直接クラッチセンタ105’の噛合い部105c’に到達するとともに、他の一部が前記と同様にクラッチオイル案内体108’を介して噛合い部105c’側に導かれる。
【0058】
また、従動軸114’の回転駆動が停止している場合においては、従動軸114’の油供給孔114a’の端部の開口部から漏出したクラッチオイルは、一部が図示下方に向かって落下して直接噛合い部105c’に到達するとともに他の一部がナット106b’および連結部105a’を伝った後、フランジ部105b’やクラッチオイル案内体108’などを伝って噛合い部105c’に導かれる。そして、噛合い部105c’に到達または導かれたクラッチオイルは、導油孔105d’を介してフリクションプレート103’およびクラッチプレート107’に導かれてフリクションプレート103’およびクラッチプレート107’を潤滑および冷却する。すなわち、クラッチ装置100’は、上記実施形態におけるクラッチ装置100と同様の作用効果を得ることができる。
【0059】
また、上記実施形態においては、クラッチ装置100は、従動軸114に形成された油供給孔114aからクラッチオイルを供給するように構成している(クラッチ装置100’も同様)。すなわち、上記実施形態においては、従動軸114は、クラッチ装置100内にクラッチオイルを供給するための油供給孔114aを有して構成されている(クラッチ装置100’も同様)。しかし、本発明は、クラッチ装置100内にクラッチオイルが存在する所謂湿式型のクラッチ装置に広く適用できるものである。したがって、クラッチ装置100,100’は、必ずしも従動軸114,114’からクラッチオイルが供給される必要がなく、他の部分(別途設けたクラッチオイル供給用の管路)からクラッチオイルを供給するように構成してもよいし、クラッチ装置100,100’内に所定量のクラッチオイルを封入するように構成してもよい。これらの場合、クラッチ装置100,100
’は、クラッチ装置100,100
’内にて飛散またはミスト化したクラッチオイルをクラッチオイル案内体108,108’によって噛合い部105c,105c’側に導くことができる。