特許第6571931号(P6571931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571931
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】送風機および換気システム
(51)【国際特許分類】
   E03F 5/08 20060101AFI20190826BHJP
   E21F 1/00 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   E03F5/08
   E21F1/00 A
【請求項の数】17
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-252550(P2014-252550)
(22)【出願日】2014年12月13日
(65)【公開番号】特開2016-113798(P2016-113798A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年11月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220675
【氏名又は名称】東京都下水道サービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512261414
【氏名又は名称】エビスマリン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500130689
【氏名又は名称】イービストレード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112520
【弁理士】
【氏名又は名称】林 茂則
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 行利
(72)【発明者】
【氏名】荻原 廣
(72)【発明者】
【氏名】大舘 高明
(72)【発明者】
【氏名】中村 光
(72)【発明者】
【氏名】寺井 良治
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/054861(WO,A1)
【文献】 特開平04−019400(JP,A)
【文献】 特許第2731145(JP,B2)
【文献】 特開平06−313603(JP,A)
【文献】 特開昭55−150443(JP,A)
【文献】 特開昭49−025493(JP,A)
【文献】 実開昭55−137821(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 5/08
E21F 1/00
F04F 1/00〜 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体と、前記枠体に配置された単一または複数の気流発生手段と、を有し、
前記気流発生手段から発生した気流が、前記枠体を周辺とする仮想面を貫く仮想軸に沿って流れるよう、前記気流の方向が調整され、
前記気流が前記仮想軸の周辺の空気を巻き込んで流れることで、前記気流の総流量の2倍を超える風量を発生し、
前記気流発生手段を前記枠体に設置する設置具を有し、
前記設置具が、前記仮想面に対する前記気流発生手段の角度を調節する角度調節機構を有し、
前記仮想面に対する前記気流の入射角が、16度以上24度以下である
送風機。
【請求項2】
前記仮想軸は、前記仮想面の中心点において前記仮想面と垂直に交わる
請求項1に記載の送風機。
【請求項3】
前記枠体に、複数の前記気流発生手段が配置され、
前記複数の気流発生手段が発生するそれぞれの気流が、前記仮想軸上の一点に向けて流れるよう各気流の方向が調整されている
請求項1または請求項2に記載の送風機。
【請求項4】
前記複数の気流発生手段が、前記仮想面と前記仮想軸の交点を中心とする対称な位置に配置されている
請求項3に記載の送風機。
【請求項5】
前記気流発生手段が、前記気流の発生源と、前記気流を出射する出射ノズルと、を有し、
前記出射ノズルが、前記発生源から送出される気流を収束する錐部と、前記錐部の先端側に位置する筒部と、を有する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の送風機。
【請求項6】
前記出射ノズルが、前記気流の方向を調節する方向調節機構を有する
請求項に記載の送風機。
【請求項7】
前記枠体を、人孔開口部に固定する固定治具をさらに有する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の送風機。
【請求項8】
人孔開口部の周辺と前記枠体との隙間を塞ぐ閉塞部材をさらに有する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の送風機。
【請求項9】
人口開口部に設置された状態で、人孔内の下部に垂下する柔軟性の部材であって、空気流の方向を、垂直方向から水平方向に変換する空気流反射部材をさらに有する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の送風機。
【請求項10】
前記気流発生手段に流入する空気に、芳香剤、水および蒸気から選択された1以上の添加物を供給する添加物供給手段をさらに有する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の送風機。
【請求項11】
請求項1から請求項10の何れか一項に記載の送風機を用いた換気システムであって、
管渠、管路もしくは通路の入口もしくは出口、または、管渠もしくは管路に接続された人孔のうち、少なくとも1つの入口、出口または人孔に前記送風機が設置された
換気システム。
【請求項12】
前記送風機が設置された入口、出口または人孔の底部に、空気流の方向を、垂直方向から水平方向または水平方向から垂直方向に変換する空気流方向変換手段を有する
請求項11に記載の換気システム。
【請求項13】
前記空気流方向変換手段が、前記空気流を反射して方向を変換する空気流反射板である
請求項12に記載の換気システム。
【請求項14】
前記空気流方向変換手段が、前記送風機からの空気流とは異なる第2空気流を発生する第2気流発生手段を備え、
前記第2空気流を前記送風機からの空気流とは異なる方向から合流させ、前記空気流の方向を変換する
請求項12に記載の換気システム。
【請求項15】
前記送風機を設置した入口、出口または人孔とは異なる他の入口、出口または人孔の少なくとも1つに排気装置が設置されている
請求項11から請求項14の何れか一項に記載の換気システム。
【請求項16】
前記送風機が設置された入口、出口または人孔より下流側にある最初の入口、出口または人孔に、前記排気装置が設置されている
請求項15に記載の換気システム。
【請求項17】
前記排気装置が設置された入口、出口または人孔の底部に、空気流の方向を、垂直方向から水平方向または水平方向から垂直方向に変換する空気流方向変換手段を有する
請求項15または請求項16に記載の換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風機および換気システムに関する。特に地下または地上に設置された管渠、管路、トンネル等構造物内の換気に適用して好適な送風機および換気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水道等の管渠あるいは管路(以下、単に「管渠」と称する。)において、保守点検等、人手による作業を行う場合、作業者は、人孔(マンホール)を通じて管渠内に進入するのが一般的である。管渠内は、酸素欠乏状態になる可能性があり、また、硫化水素等の有毒ガスが発生する可能性もあるため、管渠内における作業者の安全管理を図る必要がある。
【0003】
非特許文献1は、下水道管渠内の作業安全に関する報告書であり、事故事例の分析に基づく提言および具体的な安全事項について記載されている。特に、非特許文献1の27ページには、管渠内の換気方法として、「外気の風向きを考えてファンを設置し、一方から送気、他方から外へ排気することにより、管渠内の換気を行う。このときの管渠内の風速は0.8m/秒以上とする」の記載があり、清掃作業のイメージが図示され、ファンおよびダクトの一例が写真により例示されている。当該清掃作業のイメージによれば、送気側および排気側の両方の人孔にダクトを挿入し、各ダクトの地表側に接続したファンによって送気および排気が実施されている。
【0004】
トンネル等交通路の確保を目的とした構造物内を換気する場合、たとえば構造物の天井部にファンを設置し、構造物内に気流を発生させ、出入口からの吸排気により構造物内を換気する手法が採用されている。
【0005】
なお、特許文献1にはマンホール用吸排気装置が開示され、特許文献2には、地下構造物用換気装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−104966号公報
【特許文献2】特開2003−328378号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】下水道管きょ内作業安全管理委員会、「下水道管きょ内作業の安全管理に関する中間報告」、平成14年4月(http://jascoma.com/siryou/k_200804_cyukanhoukoku.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の「清掃作業のイメージ」通りにファンおよびダクトを人孔に適用し、送気および排気を実施すれば、作業者の安全を図ることができ、また作業安全の確保のためにはそうすることが必要である。その一方で、人孔に挿入されたダクトは、人孔開口部を塞ぐこととなり、ダクトを人孔に挿入した状態での作業者の出入りあるいは部品の搬入・搬出には不便である。また、人孔開口部とダクトとの間に、人の出入りや物品搬出入のためのスペースが確保できない場合には、ダクトを人孔から抜く必要があり、送気あるいは排気を一時的に停止しなければならない事態が生じ、安全管理上好ましくない。さらに、管渠内での作業中に有毒ガスが発生する等の非常事態が生じた場合には、作業者を管渠から速やかに退避させる必要がある。
【0009】
また、トンネル等交通路確保のための構造物の換気において天井部等にファンを設置する手段を採用すると、ファン設置のための空間が必要となり、構造物の断面積が、交通路として必要な断面積を上回ることとなり、構造物を建設のための費用が高くなる場合がある。しかも、交通路確保のための構造物であるトンネルでは、トンネル出入口での交通の遮断は許されず、よって、出入口で交通を遮断しない換気手段が必要である。
【0010】
本発明の目的は、作業者の出入りあるいは物品の搬出入等が容易な、人孔開口部に設置して好適な送風機を提供することにある。また、本発明の目的は、トンネル等構造物の交通を遮断することなく、出入口に設置可能な送風機を提供することにある。また、本発明の目的は、当該送風機を用いた管渠内あるいはトンネル等構造物内の換気システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、枠体と、前記枠体に配置された単一または複数の気流発生手段と、を有し、前記気流発生手段から発生した気流が、前記枠体を周辺とする仮想面を貫く仮想軸に沿って流れるよう、前記気流の方向が調整され、前記気流が前記仮想軸の周辺の空気を巻き込んで流れることで、前記気流の総流量の2倍を超える風量を発生する送風機を提供する。
【0012】
前記仮想軸は、前記仮想面の中心点において前記仮想面と垂直に交わってもよい。前記枠体に、複数の前記気流発生手段が配置されてもよく、この場合、前記複数の気流発生手段が発生するそれぞれの気流が、前記仮想軸上の一点に向けて流れるよう各気流の方向が調整されていてもよい。前記複数の気流発生手段が、前記仮想面と前記仮想軸の交点を中心とする対称な位置に配置されていてもよい。前記気流発生手段を前記枠体に設置する設置具を有してもよく、この場合、前記設置具が、前記仮想面に対する前記気流発生手段の角度を調節する角度調節機構を有してもよい。前記仮想面に対する前記気流の入射角は、16度以上24度以下が好ましい。前記気流発生手段が、前記気流の発生源と、前記気流を出射する出射ノズルと、を有してもよく、この場合、前記出射ノズルが、前記発生源から送出される気流を収束する錐部と、前記錐部の先端側に位置する筒部と、を有してもよい。前記出射ノズルが、前記気流の方向を調節する方向調節機構を有してもよい。前記枠体を、人孔開口部に固定する固定治具をさらに有してもよい。人孔開口部の周辺と前記枠体との隙間を塞ぐ閉塞部材をさらに有してもよい。人口開口部に設置された状態で、人孔内の下部に垂下する柔軟性の部材であって、空気流の方向を、垂直方向から水平方向に変換する空気流反射部材をさらに有してもよい。前記気流発生手段に流入する空気に、芳香剤、水および蒸気から選択された1以上の添加物を供給する添加物供給手段をさらに有してもよい。
【0013】
本発明の第2の態様においては、前記した送風機を用いた換気システムであって、管渠、管路もしくは通路の入口もしくは出口、または、管渠もしくは管路に接続された人孔のうち、少なくとも1つの入口、出口または人孔に前記送風機が設置された換気システムを提供する。
【0014】
前記送風機が設置された入口、出口または人孔の底部に、空気流の方向を、垂直方向から水平方向または水平方向から垂直方向に変換する空気流方向変換手段を有してもよい。前記空気流方向変換手段として、前記空気流を反射して方向を変換する空気流反射板を挙げることができる。あるいは、前記空気流方向変換手段として、前記送風機からの空気流とは異なる第2空気流を発生する第2気流発生手段を備え、前記第2空気流を前記送風機からの空気流とは異なる方向から合流させ、前記空気流の方向を変換するものを例示することができる。前記送風機を設置した入口、出口または人孔とは異なる他の入口、出口または人孔の少なくとも1つに排気装置が設置されていてもよい。この場合、前記送風機が設置された入口、出口または人孔より下流側にある最初の入口、出口または人孔に、前記排気装置が設置されることが好ましい。前記排気装置が設置された入口、出口または人孔の底部に、空気流の方向を、垂直方向から水平方向または水平方向から垂直方向に変換する空気流方向変換手段を有してもよい。
【0015】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】下水道管渠の換気システムの一例を示した断面図である。
図2】人孔開口部に配置した送風機140の一例を示した断面図である。
図3】人孔開口部に配置した送風機140の一例を示した上面図である。
図4】気流発生手段の一例を示した概念図である。
図5】下水道管渠の換気システムの他の例を示した断面図である。
図6】換気システム200における変更例を示した断面図である。
図7】換気システム200における他の変更例を示した断面図である。
図8】下水道管渠の換気システムのさらに他の例を示した断面図である。
図9】下水道管渠の換気システムのさらに他の例を示した断面図である。
図10】人孔開口部に配置した送風機140の他の例を示した断面図である。
図11】下水道管渠の換気システムのさらに他の例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、下水道管渠の換気システムの一例を示した断面図である。換気システム100は、地表102の下に埋設された管渠110を換気する。管渠110は、底部114および壁面112で区画された地下空間であり、たとえば馬蹄形の断面を有する。管渠110と地表102との間には人孔116および人孔118が設けられ、作業者は、人孔116あるいは人孔118を通じて管渠110内に進入できる。本実施の形態では、人孔116および人孔118の間の管渠110を換気する場合について説明する。人孔116は送気側であり人孔118は排気側である。ここでは人孔116および人孔118が隣り合っている場合を説明するが、人孔116および人孔118が隣り合う必要はない。人孔116および人孔118の間の管渠領域を他の管渠領域から遮断するため、管渠110内に遮断カーテン120を設けてもよい。遮断カーテンにより効率よく換気できる。
【0019】
送気側の人孔116の開口部には送風機140が設置され、排気側の人孔118には排気装置170が設置される。排気装置170は従来のファン式排気装置であり、排気装置170に接続されたダクト172が人孔118に挿入されている。なお、送風機140は複数の人孔に設置されてもよく、排気装置170は複数の人孔に設置されてもよい。また、人孔118は人孔116の下流側に位置する最初の人孔であることが好ましい。上流側に送風機140を配置し、下流側に排気装置170を配置することにより、下水の流れに沿った送気が行える。また隣接する人孔間に送風機140および排気装置170を配置することで送排気間の距離を短くし、換気効率をよくすることができる。
【0020】
図2は、人孔開口部116bに設置した送風機140の一例を示した断面図であり、図3は上面図である。116aは人孔内壁であり、作業者は図示しない昇降金具により人孔116を出入りすることができる。
【0021】
送風機140は、枠体143と気流発生手段144とを有し、複数の気流発生手段144が枠体143に沿って配置される。
【0022】
枠体143は、たとえば金属等で形成され、たとえばリング状の形状を有する。枠体143の形状は、特に限定されない。枠体143の外形として、人孔開口部116bの形状に合わせたリング状または円弧状の外形を例示することができるがこれに限られない。枠体143は、三角形、正方形、六角形等の角形、楕円形、馬蹄形等の形状を有するものであってもよい。
【0023】
気流発生手段144は、図中矢印の方向に気流145を発生する。気流発生手段144として、電動ファンを備えたブロアを例示することができる。あるいは、気流発生手段144として、DCファンを例示することができる。気流発生手段144は、電動ファン、DCファンに限られず、気流を発生するものであれば特に限定されない。
【0024】
図4は、気流発生手段144の一例を示した概念図である。気流発生手段144は、たとえば、気流の発生源と、気流を出射する出射ノズルと、を有する。気流の発生源としてDCファン144aを例示することができ、気流は、DCファン144aの送出口144bから送出される。出射ノズルは、送出口144bから送出された気流を収束する錐部144cと、錐部144cの先端側に位置する筒部144dと、を有する。筒部144dを有することにより、気流の風速を維持しつつ、気流の乱れを抑制することができる。
【0025】
気流発生手段144が発生した気流145は、枠体143を周辺とする仮想面146を貫く仮想軸147に沿って流れるよう、気流145の方向が調整される。図2および図3に示す送風機140の場合、仮想軸147は、枠体143を周辺とする仮想面146の中心を仮想面146に対し垂直に貫く中心線である。気流145の方向を気流145が仮想軸147に沿って流れるよう調整することで、気流145が仮想軸147の周辺の空気を巻き込んで流れ、気流145の総流量の2倍を超える風量を発生することができる。
【0026】
気流発生手段144は設置具148により枠体143に設置される。設置具148は、枠体143の円盤面(枠体143を周辺とする仮想面146)に対する気流発生手段144の角度を調節する角度調節機構を有してもよい。角度調節機構により気流発生手段144の設置角度を調整し、複数の気流発生手段144のそれぞれが、枠体143の円盤面中心に立てた法線(仮想軸147)上の一点に向けて配置できる。なお、気流発生手段144は、気流を出射する出射ノズルを有してもよく、当該出射ノズルが、気流145の方向を調節するようにしてもよい。
【0027】
設置具148は、枠体143を挟むクランプ部を有してもよい。この場合、クランプ部により、気流発生手段144を枠体143から脱着自在とするとともに、気流発生手段144の角度を調節可能とすることができる。また、設置具148がクランプ部を有する場合、クランプ部により気流発生手段144が枠体143から脱着自在であるため、各種開口径の人孔に対応する各種口径の枠体143を複数用意しておき、人孔の開口径に適した枠体143を選択してクランプ部により気流発生手段144を選択した枠体143に装着し、簡便に多様な口径の人孔に対応することができる。
【0028】
なお、本実施の形態では、気流発生手段144の数は4つであり、4個の気流発生手段144が枠体143に沿って等間隔に配置されている。気流発生手段144の数は4個に限られず、複数であればいくつでもよい。ただし、送気の効率を考慮すれば気流発生手段144の数は3以上が好ましい。数が多いほど送気の効率が良くなるが、無暗に多くしてもコストの増加を招く。よって送気効率とコストのバランスで気流発生手段144の数を決定するのが好ましい。複数の気流発生手段144は、仮想面146と仮想軸147の交点を中心とする対称な位置に配置されていることが好ましい。
【0029】
枠体143は、複数の部材で構成されてもよい。この場合、枠体143は、運搬時に複数部材に分離することができる。また、枠体143は、複数の部材が相互に重なるように折り畳むことができる。枠体143を、人孔開口部116bに固定する固定治具をさらに有してもよい。送風機140を人孔開口部に固定することで安全性を高めることができる。
【0030】
(実施例1)
表1は、内径600mm、長さ2mの管の一端に送風機140を設置し、当該管の他端における風量を測定した実験の結果を示す。
【表1】
【0031】
実験例1〜6は、送風機140を適用した場合であり、比較例1は従来技術のファンおよびダクトを適用した場合である。実験例1〜6において、気流発生手段144は電動ブロアであり、吐出口径は24mmである。実験例1〜6において、吐出口の数、つまり電動ブロアの数を2〜4で変え、電動ブロアへの供給電力(総量)を650W〜1820Wの範囲で変えた。電動ブロアの吐出口における風量の総和(吐出風量)は、送風機140における気流145の総量であり、表1に示す通りである。一方、管の他端(出口)における風量(管出口風量)は、表1に示すように、実験例1〜6において吐出風量(気流145の総量)より2倍以上多く、増倍率(=管出口風量/吐出風量)は、13.8から27.9の範囲と大きくなっている。これは、気流145が仮想軸に沿って流れるよう調整されることで、仮想軸の周りの空気を巻き込んで流れ、結果として、気流145の総量より多くの空気を送出している効果であるといえる。他方、比較例では、増倍率は1.6であり、本発明のような効果は見られない。
【0032】
(実施例2)
気流発生手段144に備えるノズルの長さを100mm〜300mmの範囲で変化させ、ノズルの口径(直径)を30mm〜50mmの範囲で変化させた。その結果、ノズル長さ100mm、ノズル口径40mmで最も大きな吐出風速27m/sを得た。しかし、ノズル長さ100mm、ノズル口径40mmの条件では、ノズルの吐出口における気流の乱れが大きかった。そこで、円錐部の長さが100mm、円筒部の長さが50mmの、円錐先端に円筒を付加した形状のノズルを作成した。当該ノズルでは、吐出口における風速が最大風速である27m/sが維持され、かつ、気流の乱れが観測されなかった。
【0033】
(実施例3)
表2は、内径600mm、長さ2mの管の一端に気流発生手段144を2台、角度を変えて設置し、当該管の他端における平均風速および風量を測定した実験の結果を示す。
【表2】
【0034】
実験例8(焦点位置が0.70m)から実験例11(焦点位置が1.00m)の範囲で良好な風量が得られている。当該焦点位置の範囲は、ノズルから吐出される気流の管断面に対する入射角が16.7度から23.2度の範囲に相当する。すなわち、ノズルの管断面に対する角度を16度から24度の範囲とすることで良好な管出口風量が得られることがわかった。
【0035】
(実施例4)
表3は、実施例2の気流発生手段144の数(ノズル数)および配置と気流発生源の出力(吐出風速)を変えて、管の他端における平均風速および風量を測定した実験の結果を示す。表3においてノズル配置は、気流発生手段144の枠体143における位置を示し、実施例15、17、19では、それぞれ仮想軸147に対して3回対称、4回対称、6回対称に気流発生手段144が配置されている。これに対し、実験例16、18、20では、それぞれ実施例15、17、19より軸対称性が低下した実験例を示す。各気流発生手段144がなす角度(鋭角のみ)は、実験例16では30度であり、実験例18では40度であり、実験例20では40度および50度である。実験例21および23のノズル配置は、それぞれ実験例18および20と同じであり、実験例22の各気流発生手段144がなす角度(鋭角のみ)は、73度である。
【表3】
【0036】
実験例15と実験例16、実験例17と実験例18の比較から、ノズル配置が中心軸に対して対称である方が良好な管出口風量が得られることがわかる。また、気流発生手段144の数(ノズル数)が多く、気流発生源の出力(吐出風速)が大きいほど、良好な管出口風量が得られることがわかる。実験例23においては、実用的に十分な管出口風量(87.44m3/min)が得られた。なお、実験例21と実験例22とを比較すると、ノズル配置の対称性では実験例22より実験例21の方が高いといえるが、枠体143を手に掴んで作業者が昇降するような場合を考慮すると、実験例22のようなノズル配置の方が、枠体143を掴む際の支障にならず、好ましい場合がある。このような場合、ノズル配置の対称性を優先するより、作業者の昇降のし易さを考慮して、実験例22のノズル配置を採用することができる。
【0037】
以上のとおり、本発明の換気システム100によれば、従来を超える風量を得ることができる。しかも本換気システム100の送風機140は、従来のファン型とは異なり、フレキシブルダクトを必要としない。このため送風機の小型化が実現できる。また本発明の送風機140では従来のように人孔開口部を塞ぐことがないので、作業者の出入り、物品の搬出入が容易になり、また搬出入時に送風機140の動作を停止する必要がない。さらに、緊急時の脱出経路が確保でき、作業者の安全性をより高めることが可能になる。
【0038】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0039】
たとえば図5は、下水道管渠の換気システムの他の例を示した断面図である。図5に示す換気システム200は、送風機140が設置された人孔116および排気装置170が設置された人孔118の何れか一方または両方の底部に、空気流の方向を、垂直方向から水平方向または水平方向から垂直方向に変換する空気流方向変換手段を設置する。空気流方向変換手段として空気流反射板202を例示することができる。このような空気流反射板202により、空気の流れを整え、空気の流れる方向を変更する際に生じる空気流のエネルギー損失を減少させて、よりスムーズな流れを実現し、結果として、管渠110内での流速、風量を増加することができる。
【0040】
なお、空気流方向変換手段として、図6に示すような、第2気流発生手段204を用いてもよい。第2気流発生手段204として、通常のファン式送風機を例示することができる。第2気流発生手段204は送風機140からの空気流とは異なる第2空気流206を発生し、第2空気流206を送風機からの空気流とは異なる方向から合流させ、空気流の方向を変換する。図7に示すように、第2気流発生手段204に代えて、気流発生手段144と同様のものを用いても良い。
【0041】
また、図8は、下水道管渠の換気システムのさらに他の例を示した断面図である。図8に示す換気システム300では、送気側の人孔116に本発明の送風機140を設置するのみならず、排気側の人孔118にも本発明の送風機140と同様の送風機340を設置したものである。換気システム300によれば、排気側の人孔118にも本発明の送風機340を設置するので、排気性能を高め、作業者の出入りおよび物品の搬出入がさらに容易になり、緊急時の脱出経路を複数確保して、作業者の安全をより高めることができる。
【0042】
さらに、図9は、下水道管渠の換気システムのさらに他の例を示した断面図である。図9に示す換気システム400では、管渠110内にブースタ402を備える。ブースタ402内には送風機140、340同様の送風機を備える。ブースタ402は、管渠110内の流れを促進する方向に空気流を生成する。換気システム400によれば、ブースタ402により管渠110内の空気流が増強され、作業者の安全をさらに高めることができる。なお、換気システム400において、排気装置170およびダクト172に代えて、換気システム300のように、排気側の人孔118に送風機340を設置してもよい。
【0043】
上記した実施形態では、送風機140として、気流発生手段144が枠体143に沿って不連続に配置された例を示したが、気流発生手段144の開口が枠体に沿って連続または連続的に配置されるようにしても良い。たとえば、スリット状の開口を有する気流発生手段144を採用し、スリット状の開口に繋がる流路に空気を供給して、枠体を周辺とする円盤面の法線方向に当該空気を噴出させ、当該空気が周辺の空気を巻き込んで流れるように、前記円盤面の法線方向に空気流を生成させるようにしてもよい。この場合のスリット状ノズルは、枠体の全域に渡って連続して開口が形成されるようなものであってもよく、適当な長さの開口を有するスリット状ノズルが、開口が連続的に枠体に沿って配置されるようなものであってもよい。
【0044】
上記した実施の形態では、人孔開口部116bの径に適合した枠体143を適用する例を示したが、図10に示すように、より大きな開口の人孔116に対し、閉塞部材502とともに人孔開口部116bの口径より小さな径の枠体143を適用してもよい。閉塞部材502は、人孔開口部116bの周辺と枠体143との隙間を塞ぐものであり、枠体143を大きな口径の人孔開口部116bに適合させることができる。
【0045】
また、図11に示すように、送風機140は、空気流反射部材602を有してもよい。空気流反射部材602は、たとえば、ナイロン等の柔軟性の部材であり、空気流の方向を、垂直方向から水平方向に変換する。空気流反射部材602は、人孔開口部116bに設置された状態で、たとえば紐材604により、人孔116内の下部に垂下される。空気流反射部材602および紐材604は、折り畳むことでコンパクトに収納でき、人孔開口部116bに設置して垂下するだけで展開できるので、便利である。
【0046】
また、上記した実施の形態において、気流発生手段144に流入する空気に芳香剤、水および蒸気から選択された1以上の添加物を供給する添加物供給手段をさらに有してもよい。添加物供給手段としては、空気の流入口等に芳香剤、水、蒸気発生手段を置くだけでもよい。芳香剤を供給することで、管渠110の内部で作業中の作業員に空気が正常に供給されていることを知らせることができる。また、水、蒸気を供給することで、管渠110の内部で作業中の作業員を乾燥から保護することができる。
【0047】
また、上記実施の形態において、送風機および換気システムを、主に人孔および地下管渠に適用した例について説明したが、管渠は地下である必要はなく、地上に構築された管渠、管路にも適用できることは勿論である。また、上記した送風機および換気システムが、トンネル等出入口での交通の遮断が許容されない構造物にも適用できることは勿論である。本発明の送風機および換気システムをトンネルに適用する場合、天井部等に別途換気用の送風機を設置する必要がなく、トンネル構造物を小さく構築することが可能になり、工事費用等を低く抑えることが可能になる。
【符号の説明】
【0048】
100…換気システム、102…地表、110…管渠、112…壁面、114…底部、116…人孔、116a…人孔内壁、116b…人孔開口部、118…人孔、120…遮断カーテン、140…送風機、143…枠体、144…気流発生手段、144a…DCファン、144b…送出口、144c…錐部、144d…筒部、145…気流、146…仮想面、147…仮想軸、148…設置具、170…排気装置、172…ダクト、200…換気システム、202…空気流反射板、204…第2気流発生手段、206…第2空気流、300…換気システム、340…送風機、400…換気システム、402…ブースタ、502…閉塞部材、602…空気流反射部材、604…紐材。
図1
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図11