(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゲインスイッチング法でパルス光を出力する第1光源と、前記第1光源から出力されるパルス光を増幅するファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器から出力されるパルス光を増幅する固体増幅器と、前記固体増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子と、を備えているレーザ光源装置であって、
前記固体増幅器の上流側に配置され前記第1光源から出力されるパルス光と合波可能なレーザ光を出力する第2光源と、
前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に応じて前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御する制御部と、
を備えているレーザ光源装置。
前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数の低下に伴って、ステップ的または連続的に前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを高くなるように制御し、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数の上昇に伴って、前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーをステップ的または連続的に低くなるように制御する請求項1記載のレーザ光源装置。
前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数が所定周波数以下のときに、前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御する請求項1または2記載のレーザ光源装置。
前記制御部は、少なくとも前記第1光源からのパルス光の出力期間と異なる期間に、前記第2光源からレーザ光が出力されるように制御する請求項1から3の何れかに記載のレーザ光源装置。
前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に関わらず、前記固体増幅器から出力される光の平均パワーが略一定になるように前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整する請求項1から4の何れかに記載のレーザ光源装置。
前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数と前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーとの対応関係を予め規定し、前記対応関係に基づいて前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを制御する請求項1から5の何れかに記載のレーザ光源装置。
前記第2光源の発振波長は、前記第1光源から出力されるパルス光を増幅可能な前記固体増幅器の増幅帯域に設定されている請求項1から6の何れかに記載のレーザ光源装置。
前記第2光源の発振波長は、前記固体増幅器の増幅帯域のうち、前記第1光源から出力されるパルス光を増幅可能な増幅帯域以外の増幅帯域に設定されている請求項1から6の何れかに記載のレーザ光源装置。
前記制御部は、前記非線形光学素子から出力されるパルス光と当該パルス光により加工される加工対象との相対的な移動速度に関わらず当該パルス光のレーザフルーエンスが一定になるように、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数及び前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御する請求項1から8の何れかに記載のレーザ光源装置。
ゲインスイッチング法で第1光源から出力されたパルス光をファイバ増幅器及び固体増幅器で順次増幅し、増幅後のパルス光を非線形光学素子で波長変換して出力するレーザパルス光生成方法であって、
前記固体増幅器の上流側に配置され前記第1光源から出力されるパルス光と合波可能な第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に応じて可変に制御するレーザパルス光生成方法。
前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数の低下に伴って、ステップ的または連続的に前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを高くなるように制御し、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数の上昇に伴って、前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーをステップ的または連続的に低くなるように制御する請求項11記載のレーザパルス光生成方法。
前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に関わらず、前記固体増幅器から出力される光の平均パワーが略一定になるように前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整する請求項11または12記載のレーザパルス光生成方法。
前記非線形光学素子から出力されるパルス光と当該パルス光により加工される加工対象との相対的な移動速度に関わらずレーザフルーエンスが一定になるように、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数及び前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御する請求項11から13の何れかに記載のレーザパルス光生成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したレーザ光源装置から出力されるパルス光を用いて加工作業を行なう際に、百キロヘルツ以下、特に数十キロヘルツ以下の低い繰返し周波数のパルス光を出力すると、パルス光が出力された後、次のパルス光が出力される迄の間に、励起用のレーザ光源によって固体増幅器のレーザ活性領域が過剰に励起されて過度な反転分布状態になり、パルス光の増幅時に固体増幅器が損傷する虞があった。
【0012】
この問題の対処法として、光パルスの光路にビーム径を拡径する光学レンズを配置して、固体増幅器に入射する光パルスのエネルギー密度を下げることにより、低い繰返し周波数でも固体増幅器の破損を回避することが考えられる。
【0013】
しかし、このような構成を採用すると、繰返し周波数が高い領域で光パルスのピークパワーが小さくなりエネルギー密度も低下するので、波長変換素子で波長変換可能な強度まで十分に固体増幅器で増幅できなくなり、異なる繰返し周波数で出力可能な汎用性を備えたレーザ光源装置を構成できないという問題があった。
【0014】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、固体増幅器の破損を招くことなく、広い範囲の繰返し周波数で出力可能な汎用的なレーザ光源装置及びレーザパルス光生成方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーザ光源装置の第一特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する第1光源と、前記第1光源から出力されるパルス光を増幅するファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器から出力されるパルス光を増幅する固体増幅器と、前記固体増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子と、を備えているレーザ光源装置であって、前記固体増幅器の上流側に配置され前記第1光源から出力されるパルス光と合波可能なレーザ光を出力する第2光源と、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に応じて前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御する制御部と、を備えている点にある。
【0016】
第2光源から出力されるレーザ光が固体増幅器に入射されると、そのレーザ光のパワーに応じて固体増幅器のレーザ活性領域に蓄積された励起エネルギーが消費される。固体増幅器のレーザ活性領域の励起状態は、第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数によって変動するので、制御部によって第2光源から出力されるレーザ光のパワーを当該繰返し周波数に応じた値に調整することにより、後段の波長変換素子による光パルスの波長変換効率が低下しないように、そして固体増幅器が破損しないようにパルス光の増幅率が調整される。本発明で用いる「パルス光の繰返し周波数」とは、パルス光の立上りから次のパルス光の立上りまでの時間の逆数をいい、単パルスが任意の時間間隔で繰り返されるような場合も含めた概念である。
【0017】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数の低下に伴って、ステップ的または連続的に前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを高くなるように制御し、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数の上昇に伴って、前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーをステップ的または連続的に低くなるように制御する点にある。
【0018】
光パルスの増幅時の固体増幅器のレーザ活性領域の励起状態は、第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数が低くなるほど過剰になる。光パルスの増幅までに励起される時間が長くなるためである。そこで、当該繰返し周波数に応じて、ステップ的または連続的に第2光源から出力されるレーザ光のパワーを調整することにより、当該繰返し周波数に関わらず、後段の波長変換素子による光パルスの波長変換効率が低下しないように、そして固体増幅器が破損しないようにパルス光の増幅率が調整される。
【0019】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数が所定周波数以下のときに、前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御する点にある。
【0020】
固体増幅器のレーザ活性領域の励起状態は、第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数が低い領域で過剰になるため、当該繰返し周波数がそのような過剰な励起状態になる所定周波数以下のときに、第2光源から出力されるレーザ光のパワーを調整すれば、固体増幅器の破損を未然に防止できるようになる。
【0021】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記制御部は、少なくとも前記第1光源からのパルス光の出力期間と異なる期間に、前記第2光源からレーザ光が出力されるように制御する点にある。
【0022】
第1光源からのパルス光の出力期間と異なる期間に、固体増幅器のレーザ活性領域が過剰に励起されることを回避する必要がある。そのために、少なくとも第1光源からのパルス光の出力期間と異なる期間に、第2光源からレーザ光が出力されるように制御されればよい。
【0023】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に関わらず、前記固体増幅器から出力される光の平均パワーが略一定になるように前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを点にある。
【0024】
固体増幅器から出力される光、つまり第1光源から出力されるパルス光と第2光源から出力されるレーザ光を合わせた光の平均パワーが略一定になるように第2光源から出力されるレーザ光のパワーが調整されることによって、第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数がどのような値であっても当該パルス光を増幅する際に固体増幅器が適切な励起状態に安定的に維持されるようになる。例えば、所定の繰返し周波数のときに固体増幅器が適切な励起状態になるように固体増幅器からの出力光の平均パワーを調整し、繰返し周波数が変化した場合に、その調整値に維持されるように第2光源から出力されるレーザ光のパワーを調整すればよい。
【0025】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数と前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーとの対応関係を前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数と前記第2光源から出力されるレーザ光のパワーとの対応関係を予め規定し、前記対応関係に基づいて前記第2光源から出力されるレーザ光のパワーを制御する前記第2光源から出力されるレーザ光のパワーを制御する点にある。
【0026】
制御部は、予め規定された対応関係に基づいて、第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に対応して第2光源から出力されるべきレーザ光のパワーを把握できるようになるので、第2光源から出力されるレーザ光の目標パワーを求めるための複雑な演算処理が不要になる。例えば、当該対応関係は、第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数を変数として第2光源から出力されるレーザ光のパワーを定める関数で規定することが可能であり、さらに第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数を参照アドレスとするメモリを参照することにより第2光源から出力されるレーザ光のパワーを取得可能な関係テーブルで規定することができる。
【0027】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記第2光源の発振波長は、前記第1光源から出力されるパルス光を増幅可能な前記固体増幅器の増幅帯域に設定されている点にある。
【0028】
第2光源の発振波長が固体増幅器の増幅帯域に設定されることにより、固体増幅器に余剰に蓄積される励起エネルギーが第2光源から出力されるレーザ光の増幅に消費されるようになる。第2光源から出力されるレーザ光のパワーが本来的に低ければ、固体増幅器で増幅されても非線形光学素子で大きなピークパワーの光として波長変換されることがない。
【0029】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記第2光源の発振波長は、前記固体増幅器の増幅帯域のうち、前記第1光源から出力されるパルス光を増幅可能な増幅帯域以外の増幅帯域に設定されている点にある。
【0030】
固体増幅器の増幅帯域が複数存在し、第2光源の発振波長が第1光源から出力されるパルス光を増幅可能な増幅帯域以外の増幅帯域に設定されていれば、固体増幅器に余剰に蓄積される励起エネルギーが第2光源から出力されるレーザ光の増幅に消費されるようになる。第2光源から出力されるレーザ光が固体増幅器で増幅されて非線形光学素子に入射しても、本来的に非線形光学素子の波長変換可能な帯域とは異なる波長のレーザ光であるので、波長変換光が出力されることはない。
【0031】
同第九の特徴構成は、同請求項9に記載した通り、上述の第一から第八の何れかの特徴構成に加えて、前記制御部は、前記非線形光学素子から出力されるパルス光と当該パルス光により加工される加工対象との相対的な移動速度に関わらず当該パルス光のレーザフルーエンスが一定になるように、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数及び前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御する点にある。
【0032】
パルス光の繰返し周波数が一定の下でレーザフルーエンスを所定値に維持するためには、パルス光と当該パルス光により加工される加工対象との相対的な移動速度が一定に維持されている必要がある。そのため、加工対象との相対的な移動速度が一定になるまで加工できない場合には加工効率が低下することになる。また加工対象の加工部位は常に直線状とは限らず曲線状になる場合もあり、そのような曲線状部位で相対的な移動速度を一定に維持するのは甚だ困難である。そのような場合に、加工対象との相対的な移動速度に応じてパルス光の繰返し周波数を調整してレーザフルーエンスを一定に維持することが必要になるが、パルス光の繰返し周波数を変えると固体増幅器の励起状態が変動して適正に加工できない虞がある。しかし、パルス光の繰返し周波数及び第2光源から出力されるレーザ光のパワーを可変に制御することにより、パルス光の繰返し周波数に関わらず、後段の波長変換素子による光パルスの波長変換効率が低下しないように、そして固体増幅器が破損しないようにパルス光の増幅率が調整されるようになり、高い加工効率で加工対象を加工することができるようになる。
【0033】
同第十の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、上述の第一から第九の何れかの特徴構成に加えて、前記ファイバ増幅器と前記固体増幅器との間に配置され前記ファイバ増幅器から前記固体増幅器への光の伝播を許容または阻止する光スイッチ素子をさらに備え、前記制御部は、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数が所定周波数より高いときに、前記第1光源からのパルス光の出力期間に光の伝播を許容し、前記第1光源からのパルス光の出力期間と異なる期間に光の伝播を阻止するように前記光スイッチ素子を制御するように構成されている点にある。
【0034】
パルス光の繰返し周波数が所定周波数より高くなると、固体増幅器のレーザ活性領域に蓄積される励起エネルギーが相対的に少なくなり、第2光源から出力されるレーザ光により励起エネルギーが消費されると、光パルスの増幅に用いられる励起エネルギーが低下し、増幅効率が低下する虞がある。そのような場合でも、ファイバ増幅器から固体増幅器への光の伝播を許容または阻止する光スイッチ素子を制御して、第1光源からのパルス光の出力期間に光の伝播を許容し、第1光源からのパルス光の出力期間と異なる期間に光の伝播を阻止すれば、励起エネルギーが光パルスの増幅に効率的に用いられるようになる。
【0035】
本発明によるレーザパルス光生成方法の第一の特徴構成は、同請求項11に記載した通り、ゲインスイッチング法で第1光源から出力されたパルス光をファイバ増幅器及び固体増幅器で順次増幅し、増幅後のパルス光を非線形光学素子で波長変換して出力するレーザパルス光生成方法であって、前記固体増幅器の上流側に配置され前記第1光源から出力されるパルス光と合波可能な第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に応じて可変に制御する点にある。
【0036】
同第二の特徴構成は、同請求項12に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数の低下に伴って、ステップ的または連続的に前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを高くなるように制御し、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数の上昇に伴って、前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーをステップ的または連続的に低くなるように制御する点にある。
【0037】
同第三の特徴構成は、同請求項13に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数に関わらず、前記固体増幅器から出力される光の平均パワーが略一定になるように前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを調整する点にある。
【0038】
同第四の特徴構成は、同請求項14に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記非線形光学素子から出力されるパルス光と当該パルス光により加工される加工対象との相対的な移動速度に関わらずレーザフルーエンスが一定になるように、前記第1光源から出力されるパルス光の繰返し周波数及び前記第2光源から出力され前記固体増幅器に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御する点にある。
【発明の効果】
【0039】
以上説明した通り、本発明によれば、固体増幅器の破損を招くことなく、広い範囲の繰返し周波数で出力可能な汎用的なレーザ光源装置及びレーザパルス光生成方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明によるレーザ光源装置及びレーザパルス光生成方法の実施形態を説明する。
図1には、本発明によるレーザ光源装置1の一例となる構成が示されている。レーザ光源装置1は、光源部1Aと、ファイバ増幅部1Bと、固体増幅部1Cと、波長変換部1Dとが光軸Lに沿って配置され、さらに光源部1A等を制御する制御部100を備えて構成されている。
【0042】
光源部1Aには、本発明の第1光源となる種光源10と、種光源用のドライバD1と、種光源用の光アイソレータISL1と、本発明の第2光源となるレーザ光源11と、レーザ光源用のドライバD11と、レーザ光源用の光アイソレータISL11と、レーザ光源11の出力光のパワーをモニタするフォトダイオードPD等を備えている。
【0043】
ファイバ増幅部1Bには、それぞれレーザダイオードで構成される励起用光源21,31及び合波器22,32を備えた二段のファイバ増幅器20,30と、光アイソレータISL2,ISL3と、光スイッチ素子40等を備えている。
【0044】
前段のファイバ増幅器20の入力側に、レーザ光源11から出力されるレーザ光を種光源10から出力されるレーザパルス光と合波可能な合波器23が設けられ、ファイバ増幅器20の出力側に、ファイバ増幅器20の出力光をフォトダイオードPDに導く分波器24が設けられている。
【0045】
固体増幅部1Cには、固体増幅器50と、励起用光源51と、反射ミラーM1,M2,M3と、レンズL1,コリメータCL2等を備えている。波長変換部1Dは、第1波長変換部1E及び第2波長変換部1Fで構成され、それぞれに非線形光学素子60,70を備えている。
【0046】
種光源10から出力された波長1064nmのレーザパルス光(以下、単に「パルス光」とも記す。)が二段のファイバ増幅器20,30で増幅され、さらに一段の固体増幅器50で所望のレベルまで増幅される。固体増幅器50で増幅されたパルス光は非線形光学素子60で波長532nmに波長変換され、さらに非線形光学素子70で波長266nmに波長変換されて出力される。
【0047】
尚、ファイバ増幅器及び固体増幅器の数は特に限定されることはなく、パルス光に対する所望の増幅率を得るために適宜設定されればよい。例えば三つのファイバ増幅器を縦続接続し、その後段に二つの固体増幅器を縦続接続してもよい。
【0048】
種光源10として単一縦モードのレーザ光を出力する分布帰還型レーザダイオード(以下、「DFBレーザ」と記す。)が用いられ、ゲインスイッチング法を適用する制御部100から出力される制御信号によって、DFBレーザから単発または数メガヘルツ以下の所望の周波数で、数ナノ秒以下、好ましくは数百ピコ秒以下の所望のパルス幅のパルス光が出力される。
【0049】
レーザ光源11として、CW光またはパルス光が出力可能な、ファブリペロー共振器を用いた汎用の半導体レーザが用いられる。
【0050】
種光源10から出力された数ピコジュールから数百ピコジュールのパルスエネルギーのパルス光が、ファイバ増幅器20,30及び固体増幅器50によって最終的に数十マイクロジュールから数十ミリジュールのパルスエネルギーのパルス光に増幅された後に、二段の非線形光学素子60,70に入力されることによって波長266nmの深紫外線に波長変換される。
【0051】
種光源10から出力されたパルス光は、光アイソレータISL1を介して、初段のファイバ増幅器20で増幅される。ファイバ増幅器20,30として、所定波長(例えば975nm)の励起用光源21で励起されるイッテルビウム(Yb)添加ファイバ増幅器等の希土類添加光ファイバが用いられる。このようなファイバ増幅器20の反転分布の寿命はミリ秒の位数であるため、励起用光源21で励起されたエネルギーは1キロヘルツ以上の周波数のパルス光に効率的に転移されるようになる。
【0052】
初段のファイバ増幅器20で約30デシベル増幅されたパルス光は、光アイソレータISL2を介して後段のファイバ増幅器30に入力されて約25デシベル増幅される。後段のファイバ増幅器30で増幅されたパルス光は、コリメータCL1によってビーム整形され、光アイソレータISL3,ISL4を通過した後に固体増幅器50に導かれて約25デシベル増幅される。
【0053】
コリメータCL1と固体増幅器50との間には、一対の反射ミラーM1,M2が配置され、反射ミラーM1,M2間には固体増幅器50で増幅されたパルス光を非線形光学素子60に導く光アイソレータISL4が配置されている。
【0054】
尚、上述の光アイソレータISL1〜ISL4は、何れも磁気光学効果を利用して光の伝播方向の順方向と逆方向で偏光面を逆方向に回転させることで戻り光を遮断する偏光依存型の光アイソレータであり、光軸に沿って上流側に配置された各光学素子が、高いパワーの戻り光によって熱破壊されることを回避する等のために設けられている。
【0055】
固体増幅器50としてNd:YVO4結晶やNd:YAG結晶等の固体レーザ媒体が好適に用いられる。発光波長808nmまたは888nmのレーザダイオードで構成される励起用光源51から出力され、コリメータCL2によってビーム成形された励起光によって固体レーザ媒体が励起されるように構成されている。
【0056】
光アイソレータISL3を通過したパルス光は、反射ミラーM1,M2を経由して固体増幅器50に入射して増幅された後に、さらに反射ミラーM3で反射されて固体増幅器50に再入射して再度増幅される。つまり、固体増幅器50の往路及び復路でそれぞれ増幅されるように構成されている。尚、レンズL1はビーム整形用である。
【0057】
固体増幅器50で増幅されたパルス光は反射ミラーM2、光アイソレータISL4で反射されて波長変換部1Dの非線形光学素子60,70に入射して所望の波長に変換された後に出力される。
【0058】
第1波長変換部1Eには非線形光学素子60であるLBO結晶(LiB
3O
5)が組み込まれ、第2波長変換部1Fには非線形光学素子70であるCLBO結晶(CsLiB
6O
10)が組み込まれている。種光源10から出力された波長1064nmのパルス光が非線形光学素子60で波長532nmに波長変換され、さらに非線形光学素子70で波長266nmに波長変換される。
【0059】
反射ミラーM4,M8は非線形光学素子60から出力される波長1064nmのパルス光を分離するためのフィルタとして機能し、反射ミラーM6は非線形光学素子70から出力される波長532nmのパルス光を分離するためのフィルタとして機能し、分離されたパルス光はそれぞれ光ダンパで減衰される。
【0060】
第2波長変換部1FにはCLBO結晶(CsLiB
6O
10)を光軸と直交する面内で移動させる走査機構であるステージ71が設けられている。紫外線が長時間同一箇所に照射されるとCLBO結晶(CsLiB
6O
10)に光学損傷が生じて強度分布の劣化と波長変換出力の低下を招くため、所定時期にCLBO結晶(CsLiB
6O
10)へのパルス光の照射位置をシフトするためである。
【0061】
制御部100はFPGA(Field Programmable Gate Array)及び周辺回路等を備えた回路ブロックで構成され、予めFPGA内のメモリに記憶したプログラムに基づいて複数の論理素子が駆動されることにより、レーザ光源装置1を構成する各ブロックが例えばシーケンシャルに制御される。尚、制御部100はFPGAで構成される以外に、マイクロコンピュータとメモリ及びIO等の周辺回路で構成されていてもよいし、プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)等で構成されていてもよい。
【0062】
具体的に、制御部100はゲインスイッチング法を用いて種光源10を発光させるべく、種光源10であるDFBレーザのドライバD1に所定パルス幅のトリガ信号を出力する。当該駆動回路からDFBレーザにトリガ信号に応じたパルス電流が印加されると緩和振動が発生し、緩和振動による発光開始直後の最も発光強度が大きな第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まないパルス状のレーザ光が出力される。ゲインスイッチング法とは、このような緩和振動を利用した短いパルス幅でピークパワーが大きいパルス光を発生させる方法をいう。
【0063】
図2(a),(b)には、励起用光源51から出力される励起光のパワーが一定の場合に、固体増幅器50に入射するパルス光の繰返し周波数と、励起用光源51により固体増幅器50に蓄積される励起エネルギー(反転分布状態の程度)の関係が模式図で示されている。
【0064】
パルス光が入射すると、それまで固体増幅器50に蓄積されている励起エネルギーがパルス光の増幅に費やされて放出され、その後次のパルス光に備えて励起エネルギーが蓄積される。
【0065】
図2(a)のように、パルス光の繰返し周波数が高いときにはパルス光とパルス光の間隔時間が短くなるため、その間に蓄積される励起エネルギーがそれほど大きくならないが、
図2(b)のように、繰返し周波数が低くなるとパルス光とパルス光の間隔時間が次第に長くなるため、その間に蓄積される励起エネルギーは次第に増加する。尚、
図2(a),(b)では固体増幅器50に蓄積された励磁エネルギーのうちパルス光の増幅に用いられる励磁エネルギーが示されているに過ぎず、実際に固体増幅器50に蓄積された励磁エネルギーの全てがパルス光の増幅に用いられることを意味するのではない。
【0066】
繰返し周波数が100キロヘルツ以下、特に50キロヘルツ以下になると、固体増幅器50に蓄積される励起エネルギーが過剰になり、固体増幅器50が損傷する虞がある。
【0067】
そこで、固体増幅器50の励起用のレーザ光源51から出力される励起光のパワーを抑制して、過剰にエネルギーが蓄積しないように調整することも考えられる。
【0068】
しかし、励起光の強度を可変に調整すると固体レーザ媒体が示す熱レンズ効果に起因して、パルス光のビーム中心がずれる虞がある。固体レーザ媒体に入射する励起光の光軸を精度よく調整するのが困難なため、励起光の強度が変動すると固体レーザ媒体の熱分布状態が変動し、それに伴って熱レンズ効果の影響を受けるためである。
【0069】
図2(c)に示すように、このような場合に制御部100が光源部1Aに備えたレーザ光源D11を駆動してレーザ光を出力するように制御すると、パルス光とパルス光の間に蓄積される励起エネルギーの一部がレーザ光源D11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光によって放出され、パルス光が固体増幅器50に入射する際の励起状態を略一定になるように調整することができる。
【0070】
つまり、制御部100は、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数に応じてレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光の強度を可変に制御すればよい。具体的に、制御部100は、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数に関わらず、固体増幅器50から出力される光の平均パワーが略一定になるようにレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを調整するように構成されている。
【0071】
その結果、励起用光源51から出力される励起光のパワーを一定に維持した状態で、パルス光の繰返し周波数がどのような値であっても固体増幅器50が適切な励起状態に安定的に維持されるようになる。尚、パルス光の平均パワー(ワット)は、パルスエネルギー(ジュール)と繰返し周波数(ヘルツ)の積で求まる。
【0072】
レーザ光源11に用いられるファブリペロー共振器を用いた汎用の半導体レーザの発振波長は、種光源10から出力される波長1064μmのパルス光を増幅可能な固体増幅器50の増幅帯域に設定されている。
【0073】
レーザ光源11の発振波長が固体増幅器50の増幅帯域に設定されることにより、出力停止状態への切替後に固体増幅器50に蓄積される励起エネルギーがレーザ光源11から出力されるレーザ光の増幅に消費されるようになる。レーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーが本来的に低ければ、固体増幅器50で増幅されても非線形光学素子で大きなピークパワーの光として波長変換されることがない。
【0074】
図7(a)に示すように、固体増幅器50の増幅帯域の中心より側方にシフトした狭帯域で発振可能なレーザ光源11を用いれば、それほど大きなゲインで増幅されることがなく、非線形光学素子で大きなピークパワーの光として波長変換されることがない。
【0075】
例えば、種光源10から中心波長1064nm、スペクトル幅が半値幅で0.1〜0.35nmのパルス光が出力される場合に、スペクトル幅が半値幅で0.0001nm程度で、中心波長のパルス光の中心波長から側方に0.1nm程度シフトしたレーザ光がレーザ光源11から出力されるような態様である。
【0076】
また、種光源10の中心波長が含まれ、種光源10より広帯域幅で発振可能なレーザ光源11を用いれば、本来的にパワーが低く非線形光学素子60,70の波長変換特性よりも広い波長帯域のレーザ光が大きなピークパワーの光として出力されることはない。
【0077】
さらに、
図7(b)に示すように、レーザ光源11の発振波長は、固体増幅器50の増幅帯域のうち、種光源10から出力されるパルス光を増幅可能な増幅帯域以外の増幅帯域に設定されていてもよい。
【0078】
固体増幅器の増幅帯域が複数存在し、レーザ光源11の発振波長が種光源10から出力されるパルス光を増幅可能な増幅帯域以外の増幅帯域に設定されていれば、出力停止状態への切替後に固体増幅器50に蓄積される励起エネルギーがレーザ光源11から出力されるレーザ光の増幅に消費されるようになる。
【0079】
例えば、固体増幅器50として914μm、1064μm、1342μmをそれぞれ中心波長とする3つの増幅帯域があるNd:YVO4結晶を用いる場合、レーザ光源11の発振波長が、種光源10から出力されるパルス光の波長1064μmとは異なる増幅帯域となるように設定すれば、本来的に非線形光学素子の波長変換可能な帯域とは異なる波長のレーザ光であるので、波長変換光が出力されることはない。
【0080】
図1に示すように、制御部100は、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数とレーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーとの対応関係を規定した関係テーブルが記憶されたメモリ110を備え、メモリ110に記憶された関係テーブルに基づいてレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを制御するように構成されている。
【0081】
例えば、パルス光の繰返し周波数によって種光源10から出力されるパルスエネルギーが変動する場合等に、予め種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数とレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを関係テーブルに規定しておけば、適正に調整できるようになる。
【0082】
分波器24からフォトダイオードPDに入力された光量に基づいて、レーザ光源11から出力されるレーザ光の強度が関係テーブルから読み出された強度になるようにフィードバック制御するフィードバック制御回路がドライバD11に設けられ、ドライバD11を介して制御部100によりレーザ光源11の出力強度が調整される。
【0083】
本実施形態では、パルス光の繰返し周波数と前段のファイバ増幅器20から出力されるレーザ光源11からのレーザ光との対応関係が規定された関係テーブルを用いているが、パルス光の繰返し周波数と後段のファイバ増幅器30から出力されるレーザ光源11からのレーザ光との対応関係が規定された関係テーブを用いる場合には、ファイバ増幅器30の出力側に分波器24を設ければよい。尚、各ファイバ増幅器20,30のゲインが固定されていれば演算処理でレーザ光源11からのレーザ光のパワーが求まるので、何れに分波器24が設けられていてもよい。
【0084】
このような関係テーブルに代えて、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数を変数とする関数で、レーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーを定める予め規定された所定の関数で当該対応関係を規定することも可能である。即ち、制御部100は、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数とレーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーとの対応関係を予め規定し、当該対応関係に基づいてレーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーを制御するように構成されていればよい。
【0085】
パルス光の繰返し周波数によって種光源10から出力されるパルスエネルギーが変動しない場合には、繰返し周波数とパルスエネルギーから固体増幅器50によって増幅されたパルス光の平均パワーを算出し、その値と予め定めた目標平均パワーとの差分がレーザ光源11から出力され固体増幅器50によって増幅されたレーザ光の平均パワーとなるようにレーザ光源11を駆動すればよい。
【0086】
図3(a)に示すように、本実施形態では、制御部100は、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数の低下に伴って、レーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを高くなるように制御し、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数の上昇に伴って、レーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを低くなるように制御するように構成されている。
【0087】
このとき、
図3(b)に示すように、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数の低下または上昇に伴って、レーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを連続的に高くまたは低くなるように制御し、
図3(c)に示すように、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数の低下または上昇に伴って、レーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーをステップ的に高くまたは低くなるように制御することが可能である。
【0088】
これにより、パルス光の繰返し周波数に関わらず、後段の波長変換素子60,70による光パルスの波長変換効率が低下しないように、そして固体増幅器50が破損しないようにパルス光の増幅率が調整されるようになる。
【0089】
また、制御部100は、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数が所定周波数以下(本実施形態では50キロヘルツ以下)のときに、レーザ光源11を駆動してレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを可変に制御するように構成されている。
【0090】
固体増幅器のレーザ活性領域の励起状態は、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数が低い領域で過剰になるため、当該繰返し周波数がその過剰な励起状態になる所定周波数以下のときに、レーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーを調整すれば、固体増幅器50の破損を未然に防止できるようになる。尚、レーザ光源11が駆動される所定周波数は、50キロヘルツに限るものでなく、レーザ光源装置1の仕様に応じて数百キロヘルツ以下の任意の値に設定可能である。
【0091】
図3(d)に示すように、制御部100は、少なくとも種光源10からのパルス光の出力期間と異なる期間に、レーザ光源11からレーザ光が出力されるように制御することも可能である。少なくとも種光源10からのパルス光の出力期間と異なる期間にレーザ光源11からレーザ光が出力されるように制御されると、その間に固体増幅器50のレーザ活性領域が過剰に励起されることが回避されるからである。
【0092】
尚、繰返し周波数にかかわらずレーザ光源装置1から出力される波長変換後のパルス光の平均パワーを一定に維持する必要がある場合等、繰返し周波数によって波長変換後のパルス光のエネルギーを変える必要がある場合には、固体増幅器50から出力される光の平均パワー、つまり種光源10からのパルス光とレーザ光源11からのレーザ光を合わせた光の平均パワーが繰返し周波数に応じて異なる値になるようにレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを調整してもよい。
【0093】
レーザ光源装置1は、駆動中に種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数を異なる値に調整可能に構成されていてもよいし、レーザ光源装置1の駆動前に所定の値に設定可能に構成され、駆動中はその値に固定されるように構成されていてもよい。さらに外部から入力されるトリガ信号に応じて種光源10からパルス光が出力されるように構成されていてもよい。
【0094】
以上説明したように、制御部100によって、ゲインスイッチング法で種光源10から出力されたパルス光をファイバ増幅器20,30及び固体増幅器50で順次増幅し、増幅後のパルス光を非線形光学素子60,70で波長変換して出力するとともに、固体増幅器50の上流側に配置され種光源10から出力されるパルス光と合波可能なレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数に応じて可変に制御するレーザパルス光生成方法が実行される。
【0095】
そして、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数の低下に伴って、ステップ的または連続的にレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを高くなるように制御し、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数の上昇に伴って、レーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーをステップ的または連続的に低くなるように制御するレーザパルス光生成方法が実行される。
【0096】
図4(a)に示すように、レーザ光源装置1により波長変換された深紫外のパルス光は、反射ミラーM10及び集光光学系L20で所望のビーム径に絞られた後に、XY方向への移動機構を備えたワークテーブルT10に位置決め固定された加工対象Wに向けて照射される。XY方向への移動機構を制御するテーブル制御部T11と、レーザ光源装置1の制御部100とが通信線Cを介して接続されている。
【0097】
図4(b),(c)に示すように、加工対象Wに対する加工品質を確保するために、パルス光の照射領域のレーザフルーエンスが一定に制御されることが好ましい。ラップ率をS(%)、パルス光の周波数をf(ヘルツ)、パルス光のスポット径をd(mm)、加工速度をV(mm/sec.)とすると、加工速度が変化する場合に、ラップ率を一定にするために必要なパルス光の周波数は、f=V×(1−S/100)×dとなる。
【0098】
加工速度Vは、ワークテーブルT10に固定された加工対象Wのパルス光に対する相対的な移動速度でもある。パルス光のエネルギーが一定で加工対象Wの移動速度が一定の場合には、パルス光の周波数を一定に維持すればよいが、加工対象Wの移動速度が一定に立上るまでに時間を要する。また、加工対象Wが直線状の移動ではなく、曲線状に移動する場合に移動速度を一定に維持するのは困難である。
【0099】
そのような場合に、パルス光の周波数fを可変に調整できれば、移動速度が一定に立上る前に加工を開始でき、曲線状に移動する場合でも加工品質を一定に維持できるようになる。尚、加工には、加工対象Wに対する切断処理、溝形成処理、溶着処理、検査処理等、深紫外光を用いて可能な様々な加工が含まれる。
【0100】
そこで、レーザ光源装置1の制御部100は、通信線Cを介してテーブル制御部T11から加工対象Wの移動情報を受信して加工対象Wの移動速度を把握し、当該移動速度に関わらず当該パルス光のレーザフルーエンスが一定になるように種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数及びレーザ光源11から出力されるレーザ光の強度を可変に制御するように構成されている。
【0101】
このような構成により、パルス光の繰返し周波数及びレーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーを可変に制御することにより、繰返し周波数に関わらず、後段の波長変換素子60,70による光パルスの波長変換効率が低下しないように、そして固体増幅器50が破損しないようにパルス光の増幅率が調整されるようになり、高い加工効率で加工対象を加工することができるようになる。
【0102】
つまり、制御部100によって、非線形光学素子60,70から出力されるパルス光と当該パルス光により加工される加工対象との相対的な移動速度に関わらず当該パルス光のレーザフルーエンスが一定になるように、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数及びレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光の強度を可変に制御するレーザパルス光生成方法が実行される。
【0103】
以下、別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数に関わらず、レーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力される光の平均パワーが略一定になるようにレーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーを調整する例を説明したが、固体増幅器50から出力される光の平均パワーが略一定になるように、レーザ光源11から出力されるレーザ光のパワーを一定に維持しつつ出力時間を調整してもよいし、パワーと出力時間の双方を調整してもよい。
【0104】
図5(a),(b),(c)には、レーザ光源装置1の各部を伝播するパルス光の周波数特性が左側に示され、それらパルス光の時間軸特性が右側に示されている。これらの図で示す符号Sn(nは整数)は、
図1に示すレーザ光源装置1の各部の出力ノードの光信号Sn(n=1,2,・・・)に対応する。
【0105】
制御部100から出力されるトリガ信号によって種光源10であるDFBレーザから中心波長1064nmの狭帯域のレーザパルス光が所定の周期で出力される(
図5(a),
図6(a)参照)。種光源10から出力されたパルス光がファイバ増幅器20に導かれて増幅される過程で自己位相変調やラマン散乱等によって不必要にスペクトル幅が広がり、さらにはASEノイズが発生して光パルスのS/N比が低下する(
図5(b)参照)。そのようなパルス光が後段のファイバ増幅器30に導かれて増幅される過程でさらに広帯域化され、ASEノイズレベルが増大する(
図5(c),
図6(b)参照)。
【0106】
パルス光の繰返し周波数が100キロヘルツより十分に高い領域では、固体増幅器50に蓄積される励起エネルギーが、波長変換部1Dで波長変換可能な波長範囲よりも広帯域化した光パルスやASEノイズの増幅に消費されて、波長変換効率が低下する虞がある。
【0107】
図8に示すように、そのような場合に備えて、ファイバ増幅器30の後段に配置されたコリメータCL1と固体増幅器50との間に、音響光学素子を備え光スイッチ素子40として機能する音響光学変調器AOM(Acousto-Optic Modulator)を配置することが好ましい。
【0108】
制御部100から光スイッチ素子40である音響光学変調器AOMを駆動するRFドライバD2にゲート信号が出力されると、RFドライバD2から高周波信号が印加されたトランスジューサ(ピエゾ変換素子)によって音響光学素子を構成する結晶に回折格子が生成され、音響光学素子に入射するパルス光の回折光が反射ミラーM1に入射する。
【0109】
RFドライバD2が停止すると音響光学素子に入射したパルス光は回折せずにそのまま通過し、反射ミラーM1に入射することはない。尚、RFドライバD2の停止時に音響光学素子を通過した光は光ダンパによって減衰される。
【0110】
つまり、ゲート信号によって光スイッチ素子40がオンすると回折された光がファイバ増幅器30から固体増幅器50へ伝播し、ゲート信号によって光スイッチ素子40がオフするとファイバ増幅器30から固体増幅器50へ光の伝播が阻止される。
【0111】
図6(c)に示すように、制御部100は、種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数が所定周波数より高いときに、種光源10からのパルス光の出力期間(
図6(c)の区間Ton)に光の伝播を許容し、種光源10からのパルス光の出力期間と異なる期間(
図6(c)の区間Toff)に光の伝播を阻止するように光スイッチ素子40を制御するように構成されている。このような構成により、固体増幅器50に蓄積された励起エネルギーが波長変換可能な帯域の光パルスの増幅に効率的に用いられ、エネルギー効率よくパルス光が増幅されて(
図6(d)参照)、非線形光学素子から大きなピークパワーのパルス光が出力されるようになる。つまり、当該光スイッチ素子40を時間領域でASEノイズを除去するフィルタとして機能させるのである。
【0112】
光スイッチ素子40の制御を開始する所定周波数は、レーザ光源11の制御を開始する50キロヘルツと同じ周波数であってもよいが、それよりも高い周波数に設定してもよい。尚、ASEノイズを遮断する目的で光スイッチ素子40の制御を開始するときにはレーザ光源11を停止することが好ましい。
【0113】
制御部100によって光スイッチ素子40がオン制御される「種光源からのパルス光の出力期間」とは、種光源10からパルス光が出力されている全期間のみを意味するのではなく、非線形光学素子60,70により波長変換されたパルス光のピークパワーが適切な値を示す範囲であれば一部期間であってもよく、また種光源10からパルス光が出力されている期間の前後の僅かな期間も含まれるような概念である。
【0114】
制御部100によって光スイッチ素子40がオフ制御される「種光源からのパルス光の出力期間と異なる期間」とは、複数のパルス光の各出力期間の間の全期間、つまりパルス光が存在しない全期間のみを意味するのではなく、励起用光源51によって励起された固体増幅器50の活性領域のエネルギーがASEノイズで無駄に消費されることが低減できる範囲であれば、その一部期間も含まれるような概念である。
【0115】
種光源10から出力されるパルス光の繰返し周波数に関わらず、固体増幅器50から出力される光の平均パワーが略一定になるようにレーザ光源11から出力され固体増幅器50に入力されるレーザ光のパワーを調整するために、このような光スイッチ素子40を用いることも可能である。
【0116】
光スイッチ素子40の駆動タイミングを制御することにより、レーザ光源11から出力されるレーザ光が固体増幅器50へ入力される時間を調整すれば、固体増幅器50から出力される光の平均パワーを略一定になるように調整できる。
【0117】
光スイッチ素子40として超音波トランデューサのオンまたはオフによって1次回折光をオンまたはオフする音響光学素子を用いた例を説明したが、光スイッチ素子40としてEO変調の強度変調を利用して電界により光をオンオフする電気光学素子を用いることも可能である。
【0118】
さらに光スイッチ素子40としてマイクロマシーニング技術で製作した微少な搖動ミラー(MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)で構成されたミラー)を用いて、ファイバ増幅器30の出力が固体増幅器50に伝播するか否かを微少な搖動ミラーの搖動角度によって切り替えるように構成してもよい。また、偏光状態を動的に切替えて光の透過と遮断を制御可能な偏光デバイスを用いてもよい。つまり、光スイッチ素子が動的光学素子で構成されていればよい。
【0119】
上述した実施形態では、種光源としてDFBレーザを用いて、DFBレーザにゲインスイッチング法を適用することによって、単一縦モードで定常状態よりも高強度のパルス光を生成する例を説明したが、本発明は種光源として半導体レーザを用いるものであればよく、DFBレーザ以外の一般的なファブリペロー型の半導体レーザを用いることも可能である。
【0120】
また、本発明は、発振波長が1064nmとなる種光源に限定されるものでもなく、例えば、1030nm、1550nm、976nm等、用途によって適宜異なる波長の種光源を選択することが可能である。さらに、非線形光学素子を介してこれらの波長を基本波とする高調波、和周波、差周波を発生させることも可能である。非線形光学素子として、上述以外の非線形光学素子を用いることも可能である。例えば、CLBO結晶に代えて、BBO結晶、KBBF結晶、SBBO結晶、KABO結晶、BABO結晶等を用いることができる。
【0121】
上述した複数の実施形態は、何れも本発明の一実施態様の説明であり、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。また、各部の具体的な回路構成や回路に使用する光学素子は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜選択し、或いは変更設計可能であることはいうまでもない。