特許第6571946号(P6571946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571946
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】透明基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20190826BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20190826BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20190826BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20190826BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   B32B27/20 Z
   B32B17/10
   C03C17/32 A
   C03C17/30 A
   C03C17/34 A
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-30801(P2015-30801)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-193227(P2015-193227A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-60307(P2014-60307)
(32)【優先日】2014年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】服部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】村重 毅
(72)【発明者】
【氏名】武本 博之
(72)【発明者】
【氏名】亀山 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】野村 秀史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 綾美
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−014563(JP,A)
【文献】 特開2011−104998(JP,A)
【文献】 特開2014−005455(JP,A)
【文献】 特開2004−136466(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/104070(WO,A1)
【文献】 特開2013−233746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ガラスと、該無機ガラスの片側または両側に配置された樹脂層とを含む、透明基板の製造方法であって、
有機化処理された層状ケイ酸塩と樹脂化合物とを含む塗工液を、該無機ガラス上に塗工して該樹脂層を形成することを含み、
該塗工液が、比誘電率が10以上の高極性溶剤を含み、
該無機ガラスの厚みが100μm以下であり、
該樹脂層が、該樹脂化合物と該有機化処理された層状ケイ酸塩とを含む、
透明基板の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂層の波長550nmにおける光透過率が、70%以上である、請求項1に記載の透明基板の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂層のヘイズ値が、10%以下である、請求項1または2に記載の透明基板の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂化合物のガラス転移温度が、150℃〜450℃である、請求項1からのいずれかに記載の透明基板の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂化合物の重量平均分子量が、ポリスチレン換算で2×10〜100×10である、請求項1からのいずれかに記載の透明基板の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂化合物が、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する、請求項1からのいずれかに記載の透明基板の製造方法:
【化1】
式(1)中、Rは炭素数1〜5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、Rは炭素数2〜5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、AおよびAはそれぞれ独立して上記一般式(3)〜(7)で表される連結基から選ばれる少なくとも1種であり、Xはアリーレン基であり、該Xは、パラ位またはメタ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結し、
式(2)中、Rはメチル基またはアリール基であり、AおよびAはそれぞれ独立して、上記一般式(3)〜(7)で表される連結基から選ばれる少なくとも1種であり、Xはアリーレン基であり、Xは、パラ位またはメタ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結する。
【請求項7】
前記樹脂化合物において、パラ位に連結基を有するXおよびXの合計数が、メタ位に連結基を有するXおよびXの合計数に対して、3倍以上であるか、または、XおよびXが全てパラ位に連結基を有する、請求項に記載の透明基板の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂化合物において、Rがメチル基であり、Rがイソブチル基であり、Rがメチル基またはアリール基であり、A、A、AおよびAがそれぞれ独立して前記一般式(3)または(4)で表される連結基であり、Xがパラ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結するアリール基であり、Xがパラ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結するアリール基である、請求項に記載の透明基板の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂化合物が、一般式(8)で表される繰り返し単位をさらに有する、請求項からのいずれかに記載の透明基板の製造方法:
【化2】
式(8)中、RおよびRはそれぞれ独立してメチル基または水素であり、Bは炭素数4〜9の置換もしくは非置換のシクロアルカン、または置換もしくは非置換のフルオレンである。
【請求項10】
前記有機化処理された層状ケイ酸塩が、有機化処理剤として第4級イミダゾリウム塩および/または第4級ホスホニウム塩を用いて有機化処理されている、請求項1からのいずれかに記載の透明基板の製造方法。
【請求項11】
総厚が、150μm以下である、請求項1から10のいずれかに記載の透明基板の製造方法。
【請求項12】
水と、N−メチルピロリドンおよび/またはジメチルスルホキシドとを含み、水の含有割合が5重量%以上である混合溶媒を接触させた際にソルベントクラックが発生しない、請求項1から11のいずれかに記載の透明基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映像通信技術の発展により、フラットパネルディスプレイ(FPD:例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置)のような表示装置は、軽量・薄型化が進んでいる。従来、表示装置の基板には、多くの場合ガラス基板が用いられている。ガラス基板は、透明性や耐溶剤性、ガスバリア性、耐熱性に優れる。しかし、ガラス基板を構成するガラス材の薄型化を図ると、軽量化されると同時に可撓性に優れるものの、耐衝撃性が不十分となり、ハンドリングが困難となる問題が生じる。このような問題に対して、薄型ガラス基板のハンドリング性を向上させるため、ガラス表面に樹脂層を形成させた基板が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
基板には、高いガスバリア性(例えば、酸素遮断性、水蒸気遮断性)が求められ、特に、表示素子の製造工程においては高湿下でのガスバリア性が求められる。上記のようなガラス表面に樹脂層を形成させた基板は、ガスバリア性の確保はガラスが担い、厚み方向においてはガスバリア性を示す。しかし、樹脂層の側部から侵入するガスは十分に遮断されず、基板全体としてガスバリア性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−329715号公報
【特許文献2】特開2008−107510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、柔軟性に優れ、かつ、ガスバリア性に優れた透明基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透明基板は、無機ガラスと、該無機ガラスの片側または両側に配置された樹脂層とを含み、該無機ガラスの厚みが100μm以下であり、該樹脂層が、樹脂化合物と有機化処理された層状ケイ酸塩とを含む。
1つの実施形態においては、上記樹脂層が、上記有機化処理された層状ケイ酸塩と樹脂化合物とを含む塗工液を、前記無機ガラス上に塗工して形成され、該塗工液が比誘電率が10以上の高極性溶剤を含む。
1つの実施形態においては、上記樹脂層の波長550nmにおける光透過率が、70%以上である。
1つの実施形態においては、上記樹脂層のヘイズ値が、10%以下である。
1つの実施形態においては、上記樹脂層の25℃における弾性率が、1GPa〜10GPaである。
1つの実施形態においては、上記樹脂層の25℃における破壊靭性値が、1MPa・m1/2〜10MPa・m1/2である。
1つの実施形態においては、上記樹脂化合物のガラス転移温度が、150℃〜450℃である。
1つの実施形態においては、上記樹脂化合物の重量平均分子量が、ポリスチレン換算で2×10〜100×10である。
1つの実施形態においては、上記樹脂化合物が、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する:
【化1】

式(1)中、Rは炭素数1〜5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、Rは炭素数2〜5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、AおよびAはそれぞれ独立して上記一般式(3)〜(7)で表される連結基から選ばれる少なくとも1種であり、Xはアリーレン基であり、該Xは、パラ位またはメタ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結し、
式(2)中、Rはメチル基またはアリール基であり、AおよびAはそれぞれ独立して、上記一般式(3)〜(7)で表される連結基から選ばれる少なくとも1種であり、Xはアリーレン基であり、Xは、パラ位またはメタ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結する。
1つの実施形態においては、上記樹脂化合物において、パラ位に連結基を有するXおよびXの合計数が、メタ位に連結基を有するXおよびXの合計数に対して、3倍以上である。
1つの実施形態においては、上記樹脂化合物において、Rがメチル基であり、Rがイソブチル基であり、Rがメチル基またはアリール基であり、A、A、AおよびAがそれぞれ独立して前記一般式(3)または(4)で表される連結基であり、Xがパラ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結するアリール基であり、Xがパラ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結するアリール基である。
1つの実施形態においては、上記樹脂化合物が、一般式(8)で表される繰り返し単位をさらに有する:
【化2】
式(8)中、RおよびRはそれぞれ独立してメチル基または水素であり、Bは炭素数4〜9の置換もしくは非置換のシクロアルカン、または置換もしくは非置換のフルオレンである。
1つの実施形態においては、上記有機化処理された層状ケイ酸塩が、有機化処理剤として第4級イミダゾリウム塩および/または第4級ホスホニウム塩を用いて有機化処理されている。
1つの実施形態においては、本発明の透明基板は、総厚が、150μm以下である。
1つの実施形態においては、本発明の透明基板は、上記透明基板にクラックを入れ屈曲させた際の破断直径が50mm以下である。
1つの実施形態においては、本発明の透明基板は、水と、N−メチルピロリドンおよび/またはジメチルスルホキシドとを含み、水の含有割合が5重量%以上である混合溶媒を接触させた際にソルベントクラックが発生しない。
本発明のさらに別の局面によれば表示素子が提供される。この表示素子は、上記透明基板を用いて作製される。
本発明のさらに別の局面によれば太陽電池が提供される。この太陽電池は、上記透明基板を用いて作製される。
本発明のさらに別の局面によれば照明素子が提供される。この照明素子は、上記透明基板を用いて作製される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無機ガラスと、有機化処理された層状ケイ酸塩を含む樹脂層とを有することにより、柔軟性に優れ、かつ、ガスバリア性に優れた透明基板を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は本発明の1つの実施形態による透明基板の概略断面図である。(b)は本発明の別の実施形態による透明基板の概略断面図である。(c)は本発明のさらに別の実施形態による透明基板の概略断面図である。
図2】実施例および比較例で得られた透明基板の保管安定性評価の結果を示す図である。
図3】実施例1で得られた透明基板の樹脂層断面を示すTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.透明基板の全体構成
図1(a)は、本発明の好ましい実施形態による透明基板の概略断面図である。この透明基板100は、無機ガラス10と、無機ガラス10の片側または両側(好ましくは、図示例のように両側)に配置された樹脂層11、11´とを備える。樹脂層11、11´は、後述の樹脂化合物および有機化処理された層状ケイ酸塩を含む。本発明においては、樹脂層を備えることにより、柔軟性に優れ、切断時にクラックが進展し難い透明基板を得ることができる。さらに、該樹脂層が有機化処理された層状ケイ酸塩を含むことにより、樹脂層にもガスバリア性を付与して樹脂層側部からのガスの侵入を防止し得る透明基板を得ることができる。なお、図示しないが、無機ガラス10と樹脂層11、11´との間に任意の適切な接着剤層が配置されていてもよい。
【0010】
図1(b)は、本発明の別の実施形態による透明基板の概略断面図である。この実施形態においては、透明基板101は、無機ガラス10と樹脂層11、11´との間にカップリング剤を含む層(以下、カップリング剤層と称することもある)12、12´をさらに備える。なお、図示しないが、樹脂層11、11´とカップリング剤層12、12´との間に任意の適切な接着剤層が配置されていてもよい。
【0011】
本発明の透明基板がカップリング剤層12、12´を備える場合、好ましくは、図1(b)に示すように、カップリング剤層12、12´は無機ガラス10に直接(すなわち、接着剤または粘着剤を介することなく)設けられている。このようにカップリング剤層12、12´が無機ガラス10に直接設けられていれば、高温高湿環境下でも、無機ガラスと樹脂層との密着性が優れ、さらに切断時にクラックが進展し難い透明基板が得られる。
【0012】
図1(c)は、本発明のさらに別の実施形態による透明基板の概略断面図である。この実施形態においては、透明基板102は、樹脂層11、11´とカップリング剤層12、12´(カップリング剤層が設けられていない場合には無機ガラス10)との間に別の樹脂層13、13´をさらに備える。好ましくは、別の樹脂層13、13´は、樹脂層11、11´を構成する樹脂化合物と相溶し得る樹脂を含む。
【0013】
本発明の透明基板は、必要に応じて、最外層として任意の適切なその他の層を備え得る。上記その他の層としては、例えば、ハードコート層、透明導電性層等が挙げられる。
【0014】
本発明の透明基板の総厚は、好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは120μm以下であり、特に好ましくは50μm〜120μmである。本発明によれば、上記のように樹脂層を有することにより、無機ガラスの厚みを、従来のガラス基板よりも格段に薄くすることができる。すなわち、樹脂層は、薄くても耐衝撃性および靭性の向上に寄与し得るので、軽量・薄型で、かつ、優れた耐衝撃性を有する透明基板が得られる。
【0015】
本発明の透明基板は、表示素子、太陽電池または照明素子を製造する際に用いられる溶媒(例えば、レジスト剥離液)に対して優れた耐久性を有する。具体的には、本発明の透明基板は、アセトン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を20重量%〜95重量%含む混合溶媒を接触させた際にソルベントクラックが発生しない。好ましくは、本発明の透明基板は、アセトン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を70重量%〜95重量%含む混合溶媒を接触させた際にソルベントクラックが発生しない。さらに好ましくは、本発明の透明基板は、アセトン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を90重量%〜95重量%含む混合溶媒を接触させた際にソルベントクラックが発生しない。上記混合溶媒に含まれる、アセトン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドおよびN,N−ジメチルホルムアミド以外の溶媒としては、例えば、水、イソプロピルアルコール等が挙げられる。上記混合溶媒のより具体的な例としては、水と、N−メチルピロリドンおよび/またはジメチルスルホキシドとを含み、水の含有割合が5重量%以上(好ましくは5重量%〜80重量%、より好ましくは5重量%〜30重量%)であるレジスト剥離液が挙げられる。なお、本明細書において、「ソルベントクラック」とは、透明基板の最外層(すなわち、樹脂層)に対して、上記混合溶媒を滴下した後、室温下で5分間放置した際に生じるひび割れをいう。
【0016】
本発明の透明基板にクラックを入れ屈曲させた際の破断直径は、好ましくは50mm以下であり、さらに好ましくは40mm以下、特に好ましくは25mm以下である。本発明の透明基板は、特定の樹脂層を備えることにより、優れた可撓性(例えば、上記のような範囲の破断直径)を示す。
【0017】
本発明の透明基板の全光線透過率は、好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、特に好ましくは70%以上である。好ましくは、上記透明基板は、180℃で2時間の加熱処理を施した後の光透過率の減少率が5%以内である。このような減少率であれば、FPDの製造プロセスにおいて必要な加熱処理を施しても、実用上許容可能な光透過率を確保できるからである。
【0018】
本発明の透明基板のヘイズ値は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0019】
本発明の透明基板の表面粗度Ra(実質的には、上記樹脂層または上記その他の層の表面粗度Ra)は、好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下、特に好ましくは10nm以下である。上記透明基板のうねりは、好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以下である。このような特性の透明基板であれば、品質に優れる。なお、このような特性は、例えば、後述する製法により実現され得る。
【0020】
本発明の透明基板は、その線膨張係数が、好ましくは15ppm/℃以下であり、さらに好ましくは10ppm/℃以下であり、特に好ましくは1ppm/℃〜10ppm/℃である。上記透明基板は、上記無機ガラスを備えることにより、優れた寸歩安定性(例えば、上記のような範囲の線膨張係数)を示す。より具体的には、上記無機ガラス自体が剛直であることに加えて、樹脂層が該無機ガラスに拘束されることにより樹脂層の寸法変動も抑制することができる。その結果、上記透明基板は全体として優れた寸法安定性を示す。
【0021】
B.無機ガラス
本発明の透明基板に用いられる無機ガラスは、板状のものであれば、任意の適切なものが採用され得る。上記無機ガラスは、組成による分類によれば、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウ酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。また、アルカリ成分による分類によれば、無アルカリガラス、低アルカリガラスが挙げられる。上記無機ガラスのアルカリ金属成分(例えば、NaO、KO、LiO)の含有量は、好ましくは15重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0022】
上記無機ガラスの厚みは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは20μm〜80μmであり、特に好ましくは30μm〜70μmである。本発明においては、無機ガラスの片側または両側に樹脂層を有することによって、無機ガラスの厚みを薄くすることができる。
【0023】
上記無機ガラスの波長550nmにおける光透過率は、好ましくは85%以上である。上記無機ガラスの波長550nmにおける屈折率nは、好ましくは1.4〜1.65である。
【0024】
上記無機ガラスの密度は、好ましくは2.3g/cm〜3.0g/cmであり、さらに好ましくは2.3g/cm〜2.7g/cmである。上記範囲の無機ガラスであれば、軽量の透明基板が得られる。
【0025】
上記無機ガラスの成形方法は、任意の適切な方法が採用され得る。代表的には、上記無機ガラスは、シリカやアルミナ等の主原料と、芒硝や酸化アンチモン等の消泡剤と、カーボン等の還元剤とを含む混合物を、1400℃〜1600℃の温度で溶融し、薄板状に成形した後、冷却して作製される。上記無機ガラスの薄板成形方法としては、例えば、スロットダウンドロー法、フュージョン法、フロート法等が挙げられる。これらの方法によって板状に成形された無機ガラスは、薄板化したり、平滑性を高めたりするために、必要に応じて、フッ酸等の溶剤により化学研磨されてもよい。
【0026】
上記無機ガラスは、市販のものをそのまま用いてもよく、あるいは、市販の無機ガラスを所望の厚みになるように研磨して用いてもよい。市販の無機ガラスとしては、例えば、コーニング社製「7059」、「1737」または「EAGLE2000」、旭硝子社製「AN100」、NHテクノグラス社製「NA−35」、日本電気硝子社製「OA−10」、ショット社製「D263」または「AF45」等が挙げられる。
【0027】
C.樹脂層
(樹脂化合物)
上記樹脂層は、主成分として樹脂化合物を含む。上記樹脂化合物の含有割合は、樹脂層の重量に対して、好ましくは50重量%〜99重量%であり、より好ましくは75重量%〜99重量%であり、さらに好ましくは80重量%〜97重量%であり、特に好ましくは85重量%〜95重量%である。
【0028】
該樹脂化合物としては、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な樹脂化合物が用いられ得る。樹脂層は、好ましくは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する樹脂化合物を含む。このような樹脂化合物を含むことにより、靭性にすぐれる樹脂層が得られ、その結果、切断時にクラックが進展し難い透明基板を得ることができる。また、耐ソルベントクラック性に優れる透明基板を得ることができる。
【化3】
式(1)中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。Rは、炭素数2〜5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、好ましくは炭素数が3または4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、さらに好ましくはイソブチル基である。AおよびAはそれぞれ独立して上記一般式(3)〜(7)で表される連結基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくは一般式(3)または(4)で表される連結基である。Xは、アリーレン基であり、好ましくは炭素数6〜18の置換もしくは非置換のアリーレン基であり、より好ましくは炭素数6〜12の置換もしくは非置換のアリーレン基である。Xは、パラ位またはメタ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結する。
式(2)中、Rは、メチル基またはアリール基であり、好ましくはメチル基または炭素数6〜18の置換もしくは非置換のアリール基であり、さらに好ましくはメチル基または炭素数6〜12の置換もしくは非置換のアリール基である。AおよびAはそれぞれ独立して、上記一般式(3)〜(7)で表される連結基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくは一般式(3)または(4)で表される連結基である。Xは、アリーレン基であり、好ましくは炭素数6〜18の置換もしくは非置換のアリーレン基であり、より好ましくは炭素数6〜12の置換もしくは非置換のアリーレン基である。Xは、パラ位またはメタ位で連結基Aと連結基AまたはAとに連結する。
およびXの具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環等が挙げられる。
【0029】
一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位を有する樹脂化合物において、パラ位に連結基を有するXおよびXの合計数は、メタ位に連結基を有するXおよびXの合計数に対して、好ましくは3倍以上であり、さらに好ましくは4倍以上であり、特に好ましくは9倍以上である。最も好ましくは、上記A〜Aは、上記XおよびXのパラ位にのみ結合する。このような構造の繰り返し単位を有する樹脂化合物を用いれば、耐ソルベントクラック性に優れる透明基板を得ることができる。
【0030】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位と上記一般式(2)で表される繰り返し単位のモル比(一般式(2)/一般式(1))は、好ましくは0.5〜2.0であり、さらに好ましくは0.7〜1.6である。
【0031】
好ましくは、上記樹脂化合物は、下記一般式(8)で表される繰り返し単位をさらに有する。上記樹脂化合物がこのような繰り返し単位を有していれば、耐熱性に優れる透明基板を得ることができる。
【化4】
式(8)中、RおよびRは、好ましくは、それぞれ独立してメチル基または水素である。Bは、好ましくは炭素数4〜9の置換もしくは非置換のシクロアルカンまたは置換もしくは非置換のフルオレンであり、さらに好ましくは炭素数6〜9の置換もしくは非置換のシクロアルカンまたは置換もしくは非置換のフルオレンである。
【0032】
上記一般式(8)で表される繰り返し単位の割合は、上記一般式(1)または(2)で表される繰り返し単位の総モル数に対して、好ましくは30モル%以下であり、さらに好ましくは3モル%〜30モル%であり、特に好ましくは5モル%〜20モル%である。
【0033】
上記樹脂化合物は、例えば、(a)4’−(1,3−ジメチルブチリデン)ビスフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチル−ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタンおよび2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種と、(b)4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−フェニルプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−フェニルペンチリデン)ビスフェノールおよび4,4’−(1−フェニルヘキシリデン)ビスフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種と、(c)テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、フタル酸クロライドおよびビフェニルジカルボン酸クロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含むモノマー組成物を任意の適切な重合方法で共重合して得ることができる。上記樹脂化合物が一般式(8)で表される繰り返し単位を有する場合、該モノマー組成物は、例えば、フルオレン基を有するビスフェノール類、シクロヘキサン基を有するビスフェノール類等をさらに含み得る。上記フルオレン基を有するビスフェノールの具体例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。上記シクロヘキサン基を有するビスフェノールの具体例としては、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロへキシリデン)ビスフェノール等が挙げられる。
【0034】
上記樹脂層を構成する樹脂化合物の重合度は、好ましくは10〜6000、さらに好ましくは20〜5000、特に好ましくは50〜4000である。
【0035】
上記樹脂層を構成する樹脂化合物の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(溶媒:THF)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した値)は、ポリスチレン換算で、好ましくは2×10〜100×10であり、より好ましくは8×10〜100×10であり、さらに好ましくは9×10〜50×10であり、特に好ましくは10×10〜30×10である。上記樹脂層を構成する樹脂化合物の重量平均分子量が2×10より小さい場合、所望の耐ソルベントクラック性を有する透明基板が得られないおそれがある。100×10より大きい場合、粘度が高すぎて取り扱いが困難になるおそれがある。
【0036】
上記樹脂層を構成する樹脂化合物のガラス転移温度は、好ましくは150℃〜450℃であり、より好ましくは180℃〜450℃であり、さらに好ましくは180℃〜350℃であり、さらに好ましくは230℃〜330℃であり、特に好ましくは250℃〜300℃であり、最も好ましくは260℃〜300℃である。このような範囲であれば、耐熱性に優れる透明基板を得ることができる。
【0037】
上記樹脂層を構成する樹脂化合物としては、該樹脂化合物のみを用いて厚み30μmの層を形成した場合に、該層の全光線透過率が好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、最も好ましくは88%以上となるような樹脂化合物が用いられ得る。また、該樹脂化合物のみを用いて厚み30μmの層を形成した場合に、該層のハンターの表色系におけるb値が1.5以下となるような樹脂化合物が好ましく用いられ得る。
【0038】
(層状ケイ酸塩)
上記樹脂層は、有機化処理された層状ケイ酸塩を含む。有機化処理は、具体的には、層状ケイ酸塩に耐熱性を付加する処理である。詳細は、後述する。なお、本明細書において、有機化処理された層状ケイ酸塩を有機化処理層状ケイ酸塩ともいう。また、有機化処理前の層状ケイ酸塩を、単に層状ケイ酸塩という。
【0039】
上記層状ケイ酸塩は、例えば、2層のシリカ4面体層と、2層のシリカ4面体層の間に存在するマグネシウム8面体層またはアルミニウム8面体層とから構成される板状結晶(例えば、厚み1nm)が数百〜数千枚積層した積層構造を有する。
【0040】
上記層状ケイ酸塩としては、例えば、スメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイト等が挙げられる。層状ケイ酸塩は市販品を用いてもよい。市販品の層状ケイ酸塩の具体例としては、コープケミカル社製の商品名「合成スメクタイトSWF」、クニミネ社製の商品名「精製ベントナイトクニピアF」等が挙げられる。
【0041】
上記層状ケイ酸塩の厚みは、好ましくは0.5nm〜30nmであり、より好ましくは0.8nm〜10nmである。層状ケイ酸塩の長辺の長さは、好ましくは50nm〜1000nmであり、より好ましくは300nm〜600nmである。なお、層状ケイ酸塩の長辺とは、層状ケイ酸塩を構成する辺のうち、最も長い辺を意味する。
【0042】
上記層状ケイ酸塩のアスペクト比(厚みTと長辺の長さLとの比L/T)は、好ましくは25以上であり、より好ましくは200以上である。アスペクト比の高い層状ケイ酸塩を用いることにより、層状ケイ酸塩の添加量が少なくても、ガスバリア性の高い透明基板を得ることができる。また、層状ケイ酸塩の添加量が少なければ、透明性が高く、かつ、柔軟性に優れる透明基板を得ることができる。層状ケイ酸塩のアスペクト比の上限は、通常、300である。
【0043】
1つの実施形態においては、層状ケイ酸塩を適切に有機化処理して得られ、200℃以上(好ましくは230℃以上、より好ましくは230℃〜400℃)の温度下においても着色しない有機化処理層状ケイ酸塩が用いられる。好ましくは、230℃で10分間加熱しても、着色しない有機化処理層状ケイ酸塩が用いられる。本明細書において着色していないとは、有機化処理層状ケイ酸塩を目視で確認して着色していないことをいう。また、有機化処理層状ケイ酸塩が着色しているか否かは、樹脂層の透過色測定により判定することもできる。具体的には、樹脂化合物単体でフィルムを構成した場合に該フィルムのハンターの表色系におけるb値が2以下となる樹脂化合物を用い、該樹脂化合物100重量部に対して層状ケイ酸塩10重量部を含む樹脂層のハンターの表色系におけるb値が2以下の場合、層状ケイ酸塩は着色していないといえる。
【0044】
有機化処理は、層状ケイ酸塩における板状結晶間に元来存在する無機カチオン(例えば、Na、Ca2+、Al3+、Mg2+)を、有機化処理剤としての適切な塩を用いてカチオン交換することより、行われる。該カチオン交換に用いられる有機化処理剤としては、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な塩が用いられ得、例えば、含窒素複素環式4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩等が挙げられる。好ましくは、第4級イミダゾリウム塩、トリフェニルホスホニウム塩等が用いられる。これらの塩を用いて有機化処理された層状ケイ酸塩は、耐熱性に優れ、高温下(例えば、200℃以上)においても着色しない。また、該有機化処理層状ケイ酸塩は、樹脂層を形成するための塗工液(上記樹脂化合物が溶解した高極性溶剤)中での分散性に優れる。分散性の高い有機化処理層状ケイ酸塩を用いれば、透明性、ガスバリア性および靭性の高い透明基板を形成することができる。より好ましくは、上記有機化処理剤として、第4級イミダゾリウム塩が用いられる。第4級イミダゾリウム塩はより耐熱性に優れるため、第4級イミダゾリウム塩により有機化処理された層状ケイ酸塩を用いれば、高温下においても着色のより少ない透明基板を得ることができる。
【0045】
第4級イミダゾリウム塩の具体例としては、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(DMIMCL)、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(HMIMCL)、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロリド(MOIMCL)、1−メチル−ベンゾイミダゾリウムクロリド(MBBIMCL)、1,2−ジメチル−3−ヘキサデシルイミダゾリウムテトラフルオロボラート(DMHDIMBF4)、1−デシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート(DDMIMBF4)等が挙げられる。なかでも、分散性に優れることから、DMIMCLが好ましく用いられる。
【0046】
トリフェニルホスホニウム塩の具体例としては、10−[3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェノキシ]デシルトリフェニルホスホニウムブロミド(IP10TP)、ドデシルトリフェニルホスホニウムブロミド(C12TP)等が挙げられる。
【0047】
上記有機化処理剤として用いられる塩のカウンターアニオンは、例えば、Cl、B、Brである。該カウンターアニノンは、好ましくはClまたはBであり、より好ましくはClである。このようなカウンターイオンを含む塩は、層状ケイ酸塩に元来存在する無機カチオンとの交換性に優れる。
【0048】
上記有機化処理剤として用いられる塩は、長鎖のアルキル基を有することが好ましい。該アルキル基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは6以上であり、さらに好ましくは8〜12である。長鎖のアルキル基を有する塩を用いれば、該塩が層状ケイ酸塩における板状結晶間を拡げ、該結晶間の相互作用が弱まり、その結果、樹脂化合物中での有機化処理層状ケイ酸塩の分散性が向上する。有機化処理層状ケイ酸塩の分散性が高ければ、透明性およびガスバリア性の高い透明基板を形成することができる。
【0049】
有機化処理層状ケイ酸塩の厚みは、好ましくは0.5nm〜30nmであり、より好ましくは0.8nm〜20nmであり、さらに好ましくは1nm〜5nmである。
【0050】
上記有機化処理層状ケイ酸塩は、例えば、任意の適切な溶媒(例えば、水)中に層状ケイ酸塩と有機化処理剤としての塩とを分散させ、所定の条件で撹拌して得ることができる。上記有機化処理剤としての塩の添加量は、層状ケイ酸塩中に元来存在するカチオンに対してモル基準で、好ましくは1.1倍以上であり、より好ましくは1.2倍以上であり、さらに好ましくは1.5倍以上である。層状ケイ酸塩が有機化処理されたか否かは、X線回折解析により、層状ケイ酸塩の層間距離を測定し、層間距離の広がりにより確認することができる。
【0051】
上記有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、樹脂層中の樹脂化合物100重量部に対して、好ましくは1重量部〜30重量部であり、より好ましくは3重量部〜20重量部であり、さらに好ましくは3重量部〜15重量部であり、特に好ましくは5重量部〜15重量部である。このような範囲であれば、ガスバリア性および透明性に優れ、かつ、着色の少ない透明基板を得ることができる。
【0052】
(樹脂層)
上記樹脂層の25℃における弾性率は、好ましくは1GPa〜10GPaであり、より好ましくは1.5GPa〜10GPaであり、さらに好ましくは1.6GPa〜9GPaであり、特に好ましくは1.7GPa〜8GPaである。上記の範囲とすることによって、無機ガラスを薄くした場合でも、当該樹脂層が、変形時に生じる欠陥への引き裂き方向の局所的な応力を緩和するので、無機ガラスのクラックおよび破断が生じ難くなる。
【0053】
上記樹脂層の25℃における破壊靭性値は、好ましくは1MPa・m1/2〜10MPa・m1/2であり、より好ましくは1.5MPa・m1/2〜10MPa・m1/2であり、さらに好ましくは2MPa・m1/2〜8MPa・m1/2であり、特に好ましくは2.5MPa・m1/2〜6MPa・m1/2である。このような範囲であれば、上記樹脂層が十分な粘り強さを有するので、無機ガラスのクラックの進展および破断を防ぎ、屈曲性に優れる透明基板を得ることができる。
【0054】
上記樹脂層の波長550nmにおける光透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上であり、最も好ましくは88%以上である。本発明においては、塗工により樹脂層を形成することにより、有機化処理層状ケイ酸塩が良好に分散して、光透過率の高い樹脂層を得ることができる。また、高極性溶剤を用いて塗工液を調製することにより、このような効果はより顕著となる。
【0055】
本発明の樹脂層のヘイズ値は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。本発明においては、塗工により樹脂層を形成することにより、有機化処理層状ケイ酸塩が良好に分散して、ヘイズ値の小さい樹脂層を得ることができる。また、高極性溶剤を用いて塗工液を調製することにより、このような効果はより顕著となる。
【0056】
上記樹脂層の波長550nmにおける屈折率(n)は、好ましくは1.5〜1.8である。
【0057】
上記樹脂層の厚みは、好ましくは1μm〜60μmであり、さらに好ましくは1μm〜40μmである。
【0058】
上記樹脂層が上記無機ガラスの両側に配置される場合、それぞれの樹脂層の厚みは同一であってもよく異なっていてもよい。好ましくは、それぞれの樹脂層の厚みは同一である。さらに、それぞれの樹脂層は、同一組成の樹脂化合物で構成されてもよく、異なる組成の樹脂化合物で構成されてもよい。好ましくは、それぞれの樹脂層は、同一組成の樹脂化合物で構成される。したがって、最も好ましくは、それぞれの樹脂層は、同一組成の樹脂化合物で同一の厚みになるように構成される。このような構成であれば、加熱処理されても、無機ガラスの両面に熱応力が均等に掛かるため、反りやうねりがきわめて生じ難くなる。
【0059】
上記樹脂層は、目的に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。上記添加剤としては、例えば、希釈剤、老化防止剤、変成剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤、柔軟剤、安定剤、可塑剤、消泡剤、補強剤等が挙げられる。樹脂組成物に含有される添加剤の種類、数および量は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0060】
D.接着剤層
上記接着剤層を構成する材料としては、任意の適切な樹脂を採用し得る。上記接着剤層を構成する材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、活性エネルギー線硬化性樹脂等が挙げられる。このような樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ類および/またはオキセタン類を含むエポキシ系樹脂;アクリル系樹脂;シリコーン系樹脂等が挙げられる。好ましくは、耐熱性に優れるエポキシ系樹脂である。なお、これらの樹脂は、単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。1つの実施形態においては、エポキシ系樹脂と熱可塑性樹脂とを併用して接着剤層が形成される。このような接着剤層を形成すれば、より強固な接着を実現することができる。
【0061】
上記接着剤層の熱分解温度は、好ましくは170℃以上であり、さらに好ましくは180℃以上であり、特に好ましくは200℃以上であり、最も好ましくは200℃〜350℃である。このような範囲であれば、耐熱性に優れる透明基板を得ることができる。
【0062】
上記接着剤層の厚みは、好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは0.01μm〜10μmであり、特に好ましくは0.1μm〜7μmである。上記接着剤層の厚みがこのような範囲であれば、透明基板の屈曲性を損なわずに、上記無機ガラスと上記樹脂層との優れた密着性を実現することができる。
【0063】
E.カップリング剤層
好ましくは、本発明の透明基板は、上記樹脂層と上記無機ガラスとの間にカップリング剤層をさらに備える。さらに好ましくは、該カップリング剤層は上記無機ガラスに直接配置される。
【0064】
上記カップリング剤としては、エポキシ基含有カップリング剤、アミノ基含有カップリング剤およびイソシアネート基含有カップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種のカップリング剤が挙げられる。これらのカップリング剤が有するアミノ基、エポキシ基およびイソシアネート基の置換位置は、分子の末端であってもよいし、末端でなくてもよい。このようなカップリング剤であれば、樹脂層は、該カップリング剤層を介して上記無機ガラスと強固に密着し得る。
【0065】
上記カップリング剤は、市販品を用いてもよい。市販のエポキシ基含有カップリング剤としては、例えば、信越化学工業社製、商品名「KBM−303」(2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)、商品名「KBM−403」(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、商品名「KBE−402」(3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン)、商品名「KBE−403」(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)が挙げられる。市販のアミノ基含有カップリング剤としては、例えば、信越化学工業社製、商品名「KBM−602」(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)、商品名「KBM−603」(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、商品名「KBE−603」(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、商品名「KBM−903」(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、商品名「KBE−903」(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、商品名「KBM−573」(N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)および商品名「KBE−9103」(3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン)が挙げられる。市販のイソシアネート基含有カップリング剤としては、例えば、信越化学工業社製、商品名「KBE−9007」(3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)が挙げられる。
【0066】
上記カップリング剤層の厚みは、好ましくは0.001μm〜10μm、さらに好ましくは0.001μm〜2μmである。
【0067】
F.別の樹脂層
1つの実施形態においては、本発明の透明基板は、上記無機ガラスと上記樹脂層との間に別の樹脂層をさらに備える。別の樹脂層を備えていれば、上記樹脂層を溶液塗工により形成させる際に、別の樹脂層と樹脂層とが相溶するので、簡便に密着性の高い透明基板を得ることができる。
【0068】
上記別の樹脂層は、好ましくは、熱可塑性樹脂およびエポキシ系末端カップリング剤を含む。当該熱可塑性樹脂は、上記カップリング剤層に含まれるカップリング剤および/または当該別の樹脂層に含まれるエポキシ系末端カップリング剤と反応し得る熱可塑性樹脂である。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、末端に水酸基を有する熱可塑性樹脂、末端および/または側鎖にカルボン酸を有する熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0069】
上記末端に水酸基を有する熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリアリレート、ポリカーボネート等を末端水酸基変性した熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で、または2種以上を混合して使用することができる。このような熱可塑性樹脂を用いれば、高温高湿環境下でも上記無機ガラスまたは上記カップリング剤層との密着性に優れ、かつ靭性にも優れる樹脂層を得ることができる。このように靭性に優れる樹脂層を用いれば、切断時のクラックが進展しがたい透明基板を得ることができる。なお、上記末端水酸基変性は、任意の適切な方法が用いられ得る。
【0070】
上記末端に存在する水酸基は、好ましくはフェノール性水酸基である。末端に水酸基を有する熱可塑性樹脂がフェノール性水酸基を末端に有することにより、別の樹脂層に含まれるエポキシ系末端カップリング剤との強固な相互作用を得られる。
【0071】
上記水酸基の含有量は、末端に水酸基を有する熱可塑性樹脂100重合度あたり、好ましくは0.3以上であり、さらに好ましくは0.5〜2.0である。水酸基の含有量がこのような範囲であれば、上記エポキシ系末端カップリング剤との優れた相互作用を得ることができる。
【0072】
上記の末端に水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、市販のものを用いてもよい。市販の末端にフェノール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、住友化学社製の「スミカエクセル 5003P」等が挙げられる。
【0073】
上記別の樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは180℃以上であり、さらに好ましくは200℃以上であり、特に好ましくは220℃以上であり、最も好ましくは220℃〜350℃である。このような範囲であれば、耐熱性に優れる透明基板を得ることができる。
【0074】
上記エポキシ系末端カップリング剤としては、例えば、上記E項に記載のエポキシ基を末端に有するエポキシ基含有カップリング剤が挙げられる。
【0075】
上記エポキシ系末端カップリング剤の含有量は、別の樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは10重量部〜50重量部であり、より好ましくは15重量部〜40重量部であり、さらに好ましくは20重量部〜35重量部である。エポキシ系末端カップリング剤の含有量を上記の範囲にすることで、無機ガラスと樹脂層との密着性を十分に向上させることができる。さらに、透明基板の総厚を厚くしても、所望のヘイズ値を有する透明基板が得られる。
【0076】
上記別の樹脂層は、好ましくは、環状エーテル化合物および/または環状エーテル化合物の環状部分が開環した化合物をさらに含む。環状エーテル化合物および/または環状エーテル化合物の環状部分が開環した化合物を含有すれば、当該別の樹脂層とカップリング剤層または無機ガラスとを安定的に密着させることができるので、高い歩留まりで透明基板を得ることができる。
【0077】
上記環状エーテル化合物としては、任意の適切なものを用いることができ、例えば、オキセタン類等の4員環の環状エーテル化合物、テトラヒドロフラン類等の5員環の環状エーテル化合物、テトラヒドロピラン類等の6員環の環状エーテル化合物、エポキシ類等が挙げられる。環状エーテル化合物の環状部分が開環した化合物としては、任意の適切な環状エーテル化合物を開環させたものを用いることができ、例えば、上記の環状エーテル化合物を開環させた化合物が挙げられる。環状エーテル化合物の開環方法としては、任意の適切な方法が用いられる。
【0078】
上記環状エーテル化合物および/または環状エーテル化合物の環状部分が開環した化合物の含有量は、上記の末端に水酸基を有する熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは5重量部〜50重量部、より好ましくは5重量部〜30重量部であり、さらに好ましくは5重量部〜20重量部である。環状エーテル化合物および/または環状エーテル化合物の環状部分が開環した化合物の含有量を上記の範囲にすることで、加熱下での環状エーテル化合物由来の樹脂層の着色を抑制することができる。
【0079】
上記別の樹脂層の波長550nmにおける透過率は、好ましくは80%以上である。上記別の樹脂層の波長550nmにおける屈折率(n)は、好ましくは1.5〜1.8である。
【0080】
上記別の樹脂層の弾性率は、好ましくは1GPa以上であり、さらに好ましくは1.5GPa以上である。上記の範囲とすることによって、無機ガラスを薄くした場合でも、別の樹脂層が変形時に生じる欠陥への引き裂き方向の局所的な応力を緩和するので、無機ガラスのクラックおよび破断が生じ難くなる。
【0081】
上記別の樹脂層の破壊靭性値は、好ましくは1MPa・m1/2〜10MPa・m1/2であり、さらに好ましくは1.5MPa・m1/2〜6MPa・m1/2である。
【0082】
上記別の樹脂層の厚みは好ましくは20μm以下である。別の樹脂層の厚みを上記の範囲にすることで、高温高湿環境下でも上記無機ガラスまたは上記カップリング剤層と樹脂層との十分な密着性が得られる。別の樹脂層の厚みは、より好ましくは0.001μm〜20μmであり、さらに好ましくは0.001μm〜15μmであり、特に好ましくは0.01μm〜10μmである。上記の好ましい範囲であれば、十分な透明性を満足する透明基板を得ることができる。
【0083】
上記別の樹脂層が上記無機ガラスの両側に配置される場合、それぞれの別の樹脂層の厚みは同一であってもよく異なっていてもよい。好ましくは、それぞれの別の樹脂層の厚みは同一である。さらに、それぞれの別の樹脂層は、同一組成の樹脂化合物で構成されてもよく、異なる組成樹脂化合物で構成されてもよい。好ましくは、それぞれの別の樹脂層は、同一組成の樹脂化合物で構成される。したがって、最も好ましくは、それぞれの別の樹脂層は、同一組成の樹脂化合物で同一の厚みになるように構成される。このような構成であれば、加熱処理されても、無機ガラスの両面に熱応力が均等に掛かるため、反りやうねりがきわめて生じ難くなる。
【0084】
上記別の樹脂層は、目的に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。上記添加剤としては、C項で説明した樹脂層と同様の添加剤が用いられ得る。
【0085】
G.その他の層
上記透明基板は、必要に応じて、任意の適切なその他の層を備え得る。上記その他の層としては、例えば、透明導電性層、ハードコート層等が挙げられる。
【0086】
上記透明導電性層は、電極または電磁波シールドとして機能し得る。
【0087】
上記透明導電性層に用いられ得る材料としては、例えば、銅、銀等の金属;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等の金属酸化物;ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子;カーボンナノチューブを含む組成物等が挙げられる。
【0088】
上記ハードコート層は、上記透明基板に耐薬品性、耐擦傷性および表面平滑性を付与させる機能を有する。
【0089】
上記ハードコート層を構成する材料としては、任意の適切なものを採用し得る。上記ハードコート層を構成する材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂およびこれらの混合物が挙げられる。なかでも好ましくは、耐熱性に優れるエポキシ系樹脂である。上記ハードコート層はこれらの樹脂を熱または活性エネルギー線により硬化させて得ることができる。
【0090】
H.透明基板の製造方法
本発明の透明基板は、任意の適切な方法で上記樹脂層を上記無機ガラス上に形成させて得ることができる。上記樹脂層の形成方法としては、溶液塗工による方法が好ましく用いられる。
【0091】
上記溶液塗工により樹脂層を形成させる方法としては、例えば、上記C項で説明した有機化処理された層状ケイ酸塩と樹脂化合物とを含む塗工液を、前記無機ガラス上に塗工する方法が挙げられる。より具体的には、該方法は、上記無機ガラス上に、塗工液を塗布し塗布層を形成する塗布工程と、該塗布層を乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の塗布層を熱処理する熱処理工程とを含み得る。
【0092】
上記塗工液は、溶剤をさらに含み得る。上記塗工液は、上記樹脂化合物を該溶剤に溶解させて得られた樹脂溶液に上記有機化処理層状ケイ酸塩を分散させて得ることができる。
【0093】
上記溶剤は、高極性溶剤であることが好ましい。高極性溶剤の比誘電率は、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上であり、さらに好ましくは30以上であり、特に好ましくは30〜50である。このように極性の高い溶剤を用いれば、極性が高く耐熱性に優れる樹脂化合物を溶解して塗工液を調製することができ、該塗工液により耐熱性に優れる樹脂層を形成することができる。また、極性の高い溶剤を用いれば、有機化処理層状ケイ酸塩の分散性に優れる塗工液を調製することができ、該塗工液により透明性、靭性およびガスバリア性に優れ、着色の少ない樹脂層を形成することができる。なお、比誘電率が50より高い溶剤(例えば、水)を用いた場合、該溶媒に可溶な樹脂化合物が大きく限定され、靭性、耐ソルベントクラック性等の特性に優れた樹脂層を形成することができないおそれがある。
【0094】
上記高極性溶剤の具体例としては、ジメチルスルホキサイド、ジメチルアセトアミド、アセトン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、シクロペンタノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリルなどが挙げられる。なかでもジメチルアセトアミドは、比誘電率が高く、かつ、沸点も扱いやすい範囲にあることから好ましい。なお、上記塗工液に含まれる溶剤として混合溶剤を用いてもよい。この場合、2種以上の溶剤を混合して得られた混合溶剤が高極性溶剤であることが好ましい。1つの実施形態においては、第1の溶剤に樹脂化合物を溶解させた溶液と、第2の溶剤に有機化処理層状ケイ酸塩を分散させて分散液とを混合して、上記塗工液が調製される。この実施形態においては、第1の溶剤と第2の溶剤との混合溶剤が高極性溶剤(すなわち、比誘電率が10以上の溶剤)であることが好ましく、第1の溶剤および第2の溶剤が共に高極性溶剤(すなわち、比誘電率が10以上の溶剤)であることがより好ましい。
【0095】
上記塗工液の塗布方法としては、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、エアドクターコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、電着コーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティング法;フレキソ印刷等の凸版印刷法、ダイレクトグラビア印刷法、オフセットグラビア印刷法等の凹版印刷法、オフセット印刷法等の平版印刷法、スクリーン印刷法等の孔版印刷法等の印刷法が挙げられる。
【0096】
上記塗布層の乾燥方法としては、任意の適切な乾燥方法(例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥)が採用され得る。例えば、加熱乾燥の場合には、乾燥温度は代表的には80℃〜150℃であり、乾燥時間は代表的には1分〜30分である。
【0097】
上記塗布層の熱処理方法は、任意の適切な熱処理方法が採用され得る。代表的には、熱処理温度は100℃〜250℃であり、乾燥時間は1分〜30分である。
【0098】
透明基板がカップリング剤層を備える場合、樹脂層を形成する前に、上記無機ガラスの表面をカップリング処理する。カップリング剤は、E項で説明したとおりである。
【0099】
上記カップリング処理の方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、例えば、上記カップリング剤の溶液を上記無機ガラスの表面に塗工した後、熱処理する方法が挙げられる。
【0100】
上記カップリング剤の溶液を調製する際に使用する溶媒としては、カップリング剤と反応しない溶媒であれば、任意の適切な溶媒を使用できる。該溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘキサデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;メタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、2−ブタノン等のケトン系溶媒;および水が挙げられる。
【0101】
上記カップリング処理の際の熱処理方法は、任意の適切な熱処理方法が採用され得る。代表的には、熱処理温度は50℃〜150℃であり、熱処理時間は1分〜10分である。熱処理により、カップリング剤と無機ガラス表面とを化学結合により結合させることができる。
【0102】
透明基板が別の樹脂層を備える場合、上記無機ガラスまたはカップリング処理された無機ガラスの表面に別の樹脂層を形成した後、上記のようにして樹脂層を形成することが好ましい。別の樹脂層の形成方法としては、例えば、上記無機ガラスの表面に、別の樹脂層用キャスティング溶液を塗布し塗布層を形成する塗布工程と、該塗布層を乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の塗布層を熱処理する熱処理工程とを含む方法が挙げられる。
【0103】
上記別の樹脂層用キャスティング溶液の塗工工程において使用される塗工溶媒としては、例えば、ケトン系溶媒、ハロゲン系溶媒、芳香族系溶媒、高極性溶媒およびこれらの混合物が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、塩化メチレン、塩化エチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエタン等が挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、フェノール等が挙げられる。高極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセト酢酸エチル、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0104】
上記別の樹脂層を形成する際の塗布方法としては、上記樹脂層を形成する際の塗布方法と同様の方法が採用され得る。
【0105】
上記別の樹脂層を形成する際の乾燥方法としては、任意の適切な乾燥方法(例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥)が採用され得る。例えば、加熱乾燥の場合には、乾燥温度は代表的には80℃〜150℃であり、乾燥時間は代表的には1分〜30分である。乾燥している間に、エポキシ系末端カップリング剤と末端に水酸基を有する熱可塑性樹脂とを反応させることができる。
【0106】
上記別の樹脂層を形成する際の熱処理方法は、任意の適切な熱処理方法が採用され得る。代表的には、熱処理温度は100℃〜250℃であり、熱処理時間は1分〜20分である。熱処理により、エポキシ基末端カップリング剤と無機ガラス表面とを化学結合により結合させることができる。
【0107】
透明基板が別の樹脂層を備える場合、好ましくは、形成された樹脂層および別の樹脂層をさらに乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の樹脂層および別の樹脂層を熱処理する熱処理工程を含む。これらの工程を含むことにより、無機ガラス、樹脂層、および別の樹脂層の間の化学結合、または相互作用をより強固にすることができる。乾燥方法としては、上記の任意の適切な方法が採用され得、加熱乾燥方法の場合、乾燥温度は代表的には80℃〜150℃であり、乾燥時間は代表的には1分〜30分である。熱処理方法は、任意の適切な熱処理方法が採用され得、代表的には、熱処理温度は100℃〜250℃であり、熱処理時間は1分〜20分である。
【0108】
本発明の透明基板は、別の基材に塗工により形成した樹脂層を、無機ガラス上に貼着して製造してもよい。この場合、該透明基板の製造方法は、別の基材に塗工により形成した樹脂層を、上記無機ガラスの片側または両側に接着剤前駆体層を介して貼着する貼着工程と、該接着剤前駆体層を活性エネルギー線照射または加熱処理により硬化させて接着剤層を形成する接着剤硬化工程とを含む。樹脂層には、上記無機ガラスに貼着する前または貼着した後に、アニール処理を行ってもよい。アニール処理を行うことにより残存溶媒や未反応のモノマー成分等の不純物を効率的に除去することができる。上記アニール処理の温度は、好ましくは、100℃〜250℃であり、より好ましくは100℃〜200℃である。また、上記アニール処理の処理時間は、好ましくは、5分〜20分である。
【0109】
上記接着剤前駆体層を構成する材料としては、D項で説明した樹脂が用いられ得る。
【0110】
上記貼着工程においては、上記接着剤前駆体を上記樹脂層上に塗工した後、接着剤前駆体層と無機ガラスとを貼着してもよく、上記接着剤前駆体を上記無機ガラス上に塗工した後、接着剤前駆体層と無機ガラスとを貼着してもよい。
【0111】
上記活性エネルギー線照射の方法としては、例えば、照射積算光量が100mJ/cm〜2000mJ/cmの紫外線を1分〜10分間照射させる方法が挙げられる。
【0112】
上記加熱処理の条件は、代表的には、加熱温度が100℃〜200℃で、加熱時間が5分〜30分である。
【0113】
本発明の透明基板の製造方法は、用途に応じて、樹脂層の上に、さらに、任意の適切なその他の層を形成する工程を含む。その他の層としては、上記G項に例示した透明導電性層やハードコート層等が挙げられる。その他の層を形成する方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。
【0114】
I.用途
本発明の透明基板は、任意の適切な表示素子、太陽電池または照明素子に用いられ得る。表示素子としては、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等が挙げられる。照明素子としては、例えば、有機EL素子等が挙げられる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。実施例における評価方法は以下のとおりである。なお、厚みはアンリツ製デジタルマイクロメーター「KC−351C型」を使用して測定した。
【0116】
(1)全光線透過率
日立製作所社製のU−4100を用いて、JIS R3106−1998に準じて、透明基板の全光線透過率を測定した。
(2)ヘイズ値
村上色彩技術研究所製のヘイズメーター「HM−150」を用い、JIS K7136に準じて、透明基板のヘイズ値を測定した。
(3)着色性
得られた透明基板を、200℃下に1時間置き、その後、該透明基板のハンターの表色系におけるb値を測定して着色の有無を評価した。b値の測定は、村上色彩技術研究所製の高速積分球式分光透過率測定機「DOT−3C」を用いた。
(4)ガスバリア性(透湿度)
得られた透明基板の樹脂層の透湿度を、JIS K7129Bに準拠したMOCON測定法により評価した。具体的には、MOCON社製の水蒸気透過度測定装置「PERMATRAN W3/33MG型(HRH−1D型高精密流量コントロール装置付)」を用いて測定した。湿度条件は40℃90%RH、ガス流量は10.0±0.5cc/min、測定時間は20時間以上で行った。
(5)強靱性
透明基板(幅2cm、長さ15cm)の長辺端部に5mmのクラックを入れ、長辺を屈曲させた際に、クラックが進展したか否かにより透明基板の強靱性を評価した。
(6)保管安定性
下記の方法により得られた透明基板をカバー層(封止材)として用いる有機EL素子を作製した。具体的には、ガラス基材上に、陽極としての透明電極を形成し、該透明電極上に発光層を形成し、該発光層上に陰極としての金属電極を形成して積層体を得た。封止材として透明基板を用いて、該積層体を封止して有機EL素子を得た。なお、吸湿剤を用いずに有機EL素子を作製した。
この有機EL素子を、60℃/90%RHの環境下に所定時間(72時間、168時間、336時間)放置して、有機EL素子の発光状態を確認した。
【0117】
[製造例1] 樹脂化合物の合成
撹拌装置を備えた反応容器中、4,4’−(1、3−ジメチルブチリデン)ビスフェノール7.65g(0.028mol)、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノール12.35g(0.043mol)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.444g、p−ターシャリーブチルフェノール0.022gを1M水酸化ナトリウム溶液185gに溶解させた。この溶液に、テレフタル酸クロライド14.4g(0.071mol)をクロロホルム246gに溶解させた溶液を、撹拌しながら一度に加えて、室温で120分間撹拌した。その後、静置分離により、樹脂化合物を含むクロロホルム溶液を分離し、当該クロロホルム溶液を酢酸水およびイオン交換水で順に洗浄した後、当該クロロホルム溶液をメタノールに投入して樹脂化合物を析出させた。析出した樹脂化合物を濾過し、減圧下で乾燥させて、白色の樹脂化合物A27gを得た。
【0118】
[製造例2] 有機化処理層状ケイ酸塩分散液の調製
層状ケイ酸塩(クニミネ工業社製、商品名「クニピアF」)10gを2%濃度で水中に分散させ、有機化処理剤(1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド)3.9gを添加し80℃で2時間攪拌した。該分散液を遠心分離機にかけて沈殿物を水で洗浄した。続いてアセトンを500g添加し超音波処理をした後、再度遠心分離機にかけて沈殿物(有機化処理層状ケイ酸塩)を採取した。有機化処理層状ケイ酸塩10.5gとジメチルアセトアミド200gを混合し、有機化処理層状ケイ酸塩5重量%濃度の有機化処理層状ケイ酸塩分散液を得た。
【0119】
[製造例3] 有機化処理層状ケイ酸塩分散液の調製
ジメチルアセトアミドに代えて、トルエンを用いた以外は、製造例2と同様にして、有機化処理層状ケイ酸塩分散液を得た。
【0120】
[製造例4] 有機化処理層状ケイ酸塩分散液の調製
ジメチルアセトアミドに代えて、ジメチルホルムアミドを用いた以外は、製造例2と同様にして、有機化処理層状ケイ酸塩分散液を得た。
【0121】
[実施例1]
製造例2で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に、製造例1で得られたポリマーのジメチルアセトアミド溶液(ポリマー濃度:20重量%、比誘電率:38)を少しずつ添加し、透明な塗工液を調製した。有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリマー100重量部に対して、5重量部とした。
無機ガラス(厚み:50μm、縦10cm×横4cm)の両面に、上記塗工液を塗工し、100℃で10分間乾燥させて、透明基板(樹脂層(27μm)/無機ガラス(50μm)/樹脂層(27μm))を得た。
得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
また、得られた透明基板を上記評価(6)に供した。結果を図2に示す。
さらに、得られた透明基板の樹脂層断面のTEM写真を図3に示す。
【0122】
[実施例2]
有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合を、ポリマー100重量部に対して、10重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。また、得られた透明基板を上記評価(6)に供した。結果を図2に示す。
【0123】
[実施例3]
有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合を、ポリマー100重量部に対して、13重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。また、得られた透明基板を上記評価(6)に供した。結果を図2に示す。
【0124】
[実施例4]
製造例3で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に、製造例1で得られたポリマーのトルエン溶液(ポリマー濃度:20重量%、比誘電率:2.3)を少しずつ添加し、透明な塗工液を調製した。有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリマー100重量部に対して、10重量部とした。このようにして得られた塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
【0125】
[実施例5]
製造例2で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に、製造例1で得られたポリマーのトルエン/ジメチルスルホキシド溶液(ポリマー濃度:20重量%、溶剤比率(重量比;トルエン:ジメチルスルホキシド)=7:3、比誘電率:16)を少しずつ添加し、透明な塗工液を調製した。有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリマー100重量部に対して、10重量部とした。このようにして得られた塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
【0126】
[実施例6]
製造例2で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に、製造例1で得られたポリマーのトルエン/ジメチルアセトアミド溶液(ポリマー濃度:20重量%、溶剤比率(重量比;トルエン:ジメチルアセトアミド)=7:3、比誘電率:13)を少しずつ添加し、透明な塗工液を調製した。有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリマー100重量部に対して、10重量部とした。
無機ガラス(厚み:50μm、縦10cm×横4cm)の両面に、上記塗工液を塗工し、100℃で10分間、次いで180で20分間乾燥させて、透明基板(樹脂層(27μm)/無機ガラス(50μm)/樹脂層(27μm))を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
【0127】
[実施例7]
製造例4で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に、製造例1で得られたポリマーのトルエン/ジメチルスルホキシド溶液(ポリマー濃度:20重量%、溶剤比率(重量比;トルエン:ジメチルスルホキシド)=7:3、比誘電率:16)を少しずつ添加し、透明な塗工液を調製した。有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリマー100重量部に対して、10重量部とした。このようにして得られた塗工液を用いた以外は、実施例6と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
【0128】
[実施例8]
製造例4で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に、製造例1で得られたポリマーのトルエン/シクロペンタノン溶液(ポリマー濃度:20重量%、溶剤比率(重量;トルエン:シクロペンタノン)=9:1、比誘電率:3.9)を少しずつ添加し、透明な塗工液を調製した。有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリマー100重量部に対して、10重量部とした。このようにして得られた塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
【0129】
[実施例9]
製造例4で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に、製造例1で得られたポリマーのトルエン/シクロペンタノン溶液(ポリマー濃度:20重量%、溶剤比率(重量;トルエン:シクロペンタノン)=7:3、比誘電率:7)を少しずつ添加し、透明な塗工液を調製した。有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリマー100重量部に対して、10重量部とした。このようにして得られた塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
【0130】
[実施例10]
製造例2で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に、製造例1で得られたポリマーのトルエン溶液(ポリマー濃度:20重量%)を少しずつ添加し、透明な塗工液を調製した。有機化処理層状ケイ酸塩の含有割合は、ポリマー100重量部に対して、10重量部とした。このようにして得られた塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
【0131】
[実施例11]
製造例2で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液に代えて、製造例4で得られた有機化処理層状ケイ酸塩分散液を用いた以外は、実施例10と同様にして透明基板を得た。得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
【0132】
[比較例1]
製造例1で得られたポリマーのジメチルアセトアミド溶液(ポリマー濃度:20重量%)を樹脂層用キャスティング溶液とした。
無機ガラス(厚み:50μm)の両面に、該樹脂層用キャスティング溶液を塗工し、100℃で10分間乾燥させて、透明基板(樹脂層(26μm)/無機ガラス(50μm)/樹脂層(26μm))を得た。
得られた透明基板を上記評価(1)〜(5)に供した。結果を表1に示す。
また、得られた透明基板を上記評価(6)に供した。結果を図2に示す。
【0133】
[参考例1]
実施例1で用いた無機ガラスのみを上記評価(1)、(2)、(4)および(5)に供した。結果を表1に示す。なお、評価(5)において、該無機ガラスは、屈曲により容易に破断した。
また、該無機ガラスを上記評価(6)に供した。結果を図2に示す。
【0134】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の透明基板は、表示素子、太陽電池または照明素子に用いられ得る。表示素子としては、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等が挙げられる。照明素子としては、例えば、有機EL素子等が挙げられる。
【符号の説明】
【0136】
10 無機ガラス
11、11´ 樹脂層
12、12´ カップリング剤層
13、13´ 別の樹脂層
100、101、102 透明基板
図1
図2
図3