【文献】
H.-D.Belitz et al.,Food Chemistry,2009年,4th revised and extended ed.,p.173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油脂と、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルとを含有し、前記油脂は、3飽和トリグリセリドの含有量が5.0〜40質量%であり、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.5〜3.0であり、かつトランス脂肪酸量が0.1〜3.0質量%であり、前記油脂は、3飽和トリグリセリドの含有量が35質量%以上である植物油脂又は動物油脂の極度硬化油、あるいはこれを含む油脂を原料とするエステル交換油脂を含有する離型用油脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の離型用油脂組成物の製造時においては、加温下で均一な溶解状態にある油脂組成物を、固体脂と液状油が分離状態となることを防止し、均質な油脂組成物を得るために、急冷捏和装置によって、急冷条件で冷却しながら練り合わせ、油脂をある程度結晶化させた状態で充填口から容器に取り出す。本発明の離型用油脂組成物は、この製造時における急冷捏和条件において、油脂の結晶化が促進され、かつ均質に微細化した結晶が多く存在する結晶状態になる。
【0022】
このように油脂の結晶が微細化するため、粒径の大きな粒子によってスプレー噴霧時にノズルの目詰まりを起こすことが抑制され、ハンドリング性が良好となる。
【0023】
そして油脂の結晶が微細化するため、塗りムラが生じにくく、伸展性が良くなめらかに塗布することができ、型への塗布性に優れている。
【0024】
また油脂の結晶化が促進され、かつ均質に微細化した結晶が多く存在する結晶状態になるため、型への付着性が良く、塗布後の液ダレを抑制することができ、型に充填した食品生地の離型性にも優れている。さらに、硬い油脂だけで固まることが抑制され、経時による2不飽和トリグリセリド及び3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドである液状油が染みだすのを抑制できる。そのため長時間にわたり型に入れたときに液状油が固液分離して染みだし、離型性が低下することを抑制でき、また型の底部や四隅に油だまりを生じて焼成品の表面がフライ様の外観になることが抑制され、焼き色の良好な食品を得ることができる。
(油脂)
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸、を用いる。
【0025】
飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。
【0026】
飽和脂肪酸Sとしては、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0027】
不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エルカ酸(22:1)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
【0028】
本発明の離型用油脂組成物に使用される油脂は、1位、2位、及び3位の全てに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリドを必須成分とし、さらに1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位及び3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)と、1位及び2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU)とを含む。また、その他に1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリド、1位、2位、及び3位の全てに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリドをさらに含む。
【0029】
本発明の離型用油脂組成物の3飽和トリグリセリドの含有量は5.0〜40質量%、好ましくは8.0〜40質量%である。この範囲内であると、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルと併用することで、油脂の結晶化が促進され、かつ均質に微細化した結晶が多く存在する結晶状態になる。そのため型に離型用油脂組成物を塗布する際に塗りムラが生じにくく、伸展性が良くなめらかに塗布することができ、塗布性が良好となる。そしてスプレー噴霧する際にノズルの目詰まりを起こすことが抑制され、スプレー噴霧時のハンドリング性が良い。また塗布後の液ダレを抑制することができ、型の底部や四隅に油だまりを生じて焼成品の表面がフライ様の外観になったり、焼成品の表面が不均一になったりすることが抑制され、焼き色の良好な食品を得ることができる。そして離型性も良好である。そして多量の乳化剤を添加しなくても良いため、焼成した食品の風味を損なうことがない。
【0030】
3飽和トリグリセリドの含有量が5.0質量%以上であると、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルを併用することで、油脂の結晶化が促進され、かつ均質に微細化することができ、3飽和トリグリセリドの含有量が40質量%以下であると、スプレー噴霧時のハンドリング性が良く、ノズルの目詰まりを抑制でき、塗布性と離型性も良好である。
【0031】
本発明の離型用油脂組成物に使用される油脂は、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が好ましくは0.5〜3.0である。
【0032】
SUS/SSUが3.0以下であると、2飽和トリグリセリドのうち結晶化しやすい非対称型トリグリセリドが、対称型トリグリセリドに対して特定比率の油脂組成を持つことで、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの併用による適度な結晶化と微細化によって、型への塗布時における伸展性となめらかさを確保することができる。過度な結晶化やその他の特性の低下を抑制することを全体的に考慮すると、SUS/SSUは0.5以上が好ましい。
【0033】
本発明の離型用油脂組成物に使用される油脂は、特に限定されないが、植物油脂、動物油脂、乳脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等を主体とし、この20℃で固形状の油脂によって、結晶核となる3飽和トリグリセリドの含有量を確保する。20℃の固体脂含量やトランス脂肪酸の含有量を適宜調整するために、これらの油脂は、1種あるいは2種以上を選択して含有させることが好ましい。また、エステル交換油脂は、上記のような油脂の1種あるいは2種以上を選択した配合物をエステル交換反応したものであってもよい。
【0034】
植物油脂としては、パーム油、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。また、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、コーン油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油等の20℃で液状を呈する液状油の硬化油であってもよい。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
動物油脂としては、動物の脂肉から溶出法により採取した脂肪を精製したものを用いることができる。具体的には、ラード、牛脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記20℃で固形状の油脂として、3飽和トリグリセリドの含有量が35質量%以上である油脂を含有することが好ましい。この3飽和トリグリセリドの含有量が35質量%以上である油脂を含有することで、3飽和トリグリセリドの含有量を高めることができ、結晶量を確保できる。そのためスプレー噴霧時のハンドリング性と型への塗布性、塗布後の液ダレ抑制、型に充填した食品生地の離型性に、特に効果を発揮しやすくなる。また、スプレー噴霧時のノズルの目詰まりを起こしにくくなる観点から、さらに焼成品の風味を損なうことのない観点から、3飽和トリグリセリドの含有量は90質量%以下の油脂を含有することが好ましく、80質量%以下の油脂を含有することがより好ましく、60質量%以下である油脂を含有することがさらに好ましい。
【0037】
特に、上記20℃で固形状の油脂として、上記3飽和トリグリセリドの含有量が35質量%以上である油脂と、パーム系油脂、パーム系油脂のエステル交換油脂、及びラードから選ばれる少なくとも1種を組み合わせて使用すると、スプレー噴霧時のハンドリング性と型への塗布性、塗布後の液ダレ抑制、型に充填した食品生地の離型性に、特に効果を発揮しやすくなる。ここでパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部(パームステアリン等)、軟質部(パームオレイン等)、中融点部(PMF等)等を用いることができる。パーム油及びその分別油としては、ヨウ素価30〜60のものが好ましい。
【0038】
トランス脂肪酸は、動脈硬化症や心臓疾患のリスクを増大させると言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、本発明の離型用油脂組成物に使用される油脂は、トランス脂肪酸の含有量が油脂全量に対して0.1質量%〜3.0質量%である。トランス脂肪酸の含有量を3.0質量%以下にする点からは、硬化処理していない油脂を主体とし、適宜に完全水素添加した極度硬化油を配合したものが好ましい。ここで植物油脂の極度硬化油としては、パーム極度硬化油、ヤシ極度硬化油、パーム核極度硬化油、菜種極度硬化油などが挙げられ、動物油脂の極度硬化油としては、ラード極度硬化油、牛脂極度硬化油などが挙げられる。極度硬化油を含有させる場合、融点が50℃以上の極度硬化油の添加量が油脂全量に対して好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下であると、食品の口溶けの低下を抑制できる。
【0039】
上記3飽和トリグリセリドの含有量が35質量%以上である油脂としては、特に限定されるものではないが、植物油脂又は動物油脂の硬化油や分別油の硬質油、これを含む油脂を原料とするエステル交換油脂等が挙げられる。
【0040】
その中でも、植物油脂又は動物油脂の極度硬化油、あるいはこれを含む油脂を原料とするエステル交換油脂が好ましい。
【0041】
ここで植物油脂の極度硬化油としては、ヤシ極度硬化油、パーム極度硬化油、パーム核極度硬化油、菜種極度硬化油等が挙げられ、動物油脂の極度硬化油としては、ラード極度硬化油、牛脂極度硬化油等が挙げられる。
【0042】
植物油脂又は動物油脂の極度硬化油、あるいはこれを含む油脂を原料とするエステル交換油脂としては、特に、パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を用いることが好ましい。
【0043】
このパーム系油脂にラウリン系油脂を組み合わせたエステル交換油脂は、他の油脂との相溶性が良く、硬い油脂だけで固まることが抑制され、2不飽和トリグリセリド及び3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドである液状油が、長時間にわたり型に入れたときに固液分離して染みだし、離型性が低下することを抑制でき、また型の底部や四隅に油だまりを生じて焼成品の表面がフライ様の外観になることが抑制され、焼き色の良好な食品を得ることができる。またパーム系油脂にラウリン系油脂を組み合わせたエステル交換油脂は、パーム系油脂単独のエステル交換油脂に比べて塗布性や離型性が向上し、例えばパームステアリンのような硬質油のエステル交換油脂に比べて型への塗布時に延びが良いため塗りやすく、塗りムラも生じにくい。そして融点が低いMCTやこれを含むエステル交換油脂に比べて、型への塗布後に発酵室やホイロで温度の高い状態に長時間曝されても、塗布した離型用油脂組成物が流れ落ちて型の隅に油だまりを生じにくい。
【0044】
エステル交換油脂の原料であるラウリン系油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上、好ましくは40〜55質量%、より好ましくは45〜50質量%である。このようなラウリン系油脂としては、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、ヤシ油に比べて融点が高く、結晶核となりやすいエステル交換油脂を容易に得ることができる点を考慮すると、パーム核油及びその分別油や硬化油が好ましい。
【0045】
ラウリン系油脂は、ヨウ素価が2以下であることが好ましい。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂を用いると、他の油脂に対して結晶核となりやすく、核発生を誘発するため結晶化が遅れるのを抑制でき、塗布性が向上する。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂としては、極度硬化油を用いることができる。
【0046】
パーム系油脂は、前記に例示したものを用いることができるが、極度硬化油をラウリン系油脂及びパーム系油脂の合計量に対して20〜60質量%の範囲内で含有することが好ましい。
【0047】
上記パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂は、ラウリン系油脂5〜80質量%とパーム系油脂20〜95質量%とをエステル交換反応して得られたものであることが好ましく、ラウリン系油脂5〜30質量%とパーム系油脂70〜95質量%とをエステル交換反応して得られたものであることがより好ましい。
【0048】
上記パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂は、ヨウ素価が20〜45であることが好ましく、25〜40であることがより好ましい。
【0049】
3飽和トリグリセリドの含有量が35質量%以上である油脂の含有量は、極度硬化油の場合は、油脂全量に対して0.5〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。上記パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂の場合は、油脂全量に対して5〜85質量%が好ましい。
【0050】
本発明の離型用油脂組成物は、上記20℃で固形状の油脂と共に、20℃で液状を呈する液状油を組み合わせて使用することが好ましい。この20℃で液状を呈する液状油を組み合わせることで、流動状の離型用油脂組成物とし、塗布性等の作業性を向上することができる。
【0051】
上記20℃で液状を呈する液状油としては、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油を分別したスーパーオレイン等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0052】
本発明の離型用油脂組成物における上記20℃で液状を呈する液状油の含有量は、油脂全量に対して60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0053】
以上において、油脂の分別、硬化反応、エステル交換反応は、次のような方法によって行うことができる。
【0054】
油脂の分別は、原料油脂に溶剤等を加えて溶解するか、又は加えないで融解し、冷却した後、分離操作を行うことで行うことができ、融点の異なる様々なトリグリセリドが混在する油脂から使用目的に適した融点のトリグリセリド部を分画する。
【0055】
分別方法には溶剤分別、乾式分別、界面活性剤分別があり、これらを1種単独であるいは2種以上を組み合わせて行うことができる。
【0056】
乾式分別では、高融点と低融点のトリグリセリドの融点差を利用して、完全に融解した油脂を徐々に冷却し、生成した結晶部分を液体部分よりろ別して分離する。溶剤分別では、アセトンやヘキサンなどの溶剤に対する溶解度差を利用して、油脂を溶剤に溶解し、冷却することで、溶剤に対して溶解度の低い高融点部、次いで中融点部の順に結晶を析出させる。結晶を十分成長させた後、結晶部分と液油部分とに分離し、溶媒を留去して、それぞれの分別油を得ることができる。
【0057】
油脂の硬化反応は、常法にしたがって、ニッケル触媒等の触媒を用いて油脂に水素添加し、加温、攪拌しながら反応を進め、トリグリセリドを構成する不飽和脂肪酸の二重結合部分に水素を結合させ飽和化することによって行うことができる。この際、圧力、温度、時間を制御することにより、求める硬さの油脂を得ることができる。
【0058】
硬化油(部分水素添加油又は極度硬化油)のうち、極度硬化油は、ヨウ素価が好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0059】
油脂のエステル交換反応は、1分子のグリセリンに3分子の脂肪酸が結合したトリグリセリドのグリセリンに結合している脂肪酸の位置や脂肪酸の種類を組みかえる操作であり、常法にしたがって、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる化学的エステル交換反応や、リパーゼ等を触媒として用いた酵素的エステル交換反応などによって行うことができる。
【0060】
化学的エステル交換反応は、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる、位置特異性の乏しいエステル交換反応である(ランダムエステル交換反応とも言われる)。
【0061】
化学的エステル交換反応は、例えば、常法にしたがって、原料油脂を十分に乾燥させ、触媒を原料油脂に対して0.05〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、触媒を水洗にて洗い流した後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0062】
酵素的エステル交換反応は、リパーゼを触媒として用いて行われる。リパーゼとしては、リパーゼ粉末やリパーゼ粉末をセライト、イオン交換樹脂等の担体に固定化した固定化リパーゼを使用するができる。酵素的エステル交換によるエステル交換反応は、リパーゼの種類によって、位置特異性の乏しいエステル交換反応とすることもできるし、1、3位特異性の高いエステル交換反応とすることもできる。
【0063】
位置特異性の乏しいエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等)等が挙げられる。
【0064】
1、3位特異性の高いエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、リゾムコールミーハイ由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製のリポザイムTLIM、リポザイムRMIM等)等が挙げられる。
【0065】
酵素的エステル交換反応は、例えば、リパーゼ粉末または固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、ろ過等によりリパーゼ粉末または固定化リパーゼを除去後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0066】
上記パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を得るために用いるエステル交換反応は、化学的エステル交換反応であっても酵素的エステル交換反応であってもよい。
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
本発明の離型用油脂組成物は、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。
【0067】
パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、3飽和トリグリセリドの含有量が前述の特定範囲である油脂を用いた際に、本発明の離型用油脂組成物の製造時における急冷条件において、油脂の結晶化が促進され、かつ均質に微細化した結晶が多く存在する結晶状態になる。そのため型に離型用油脂組成物を塗布する際に塗りムラが生じにくく、伸展性が良くなめらかに塗布することができ、塗布性が良好である。そしてスプレー噴霧する際にノズルの目詰まりを起こすことが抑制され、スプレー噴霧時のハンドリング性が良い。また塗布後の液ダレを抑制することができ、型の底部や四隅に油だまりを生じて焼成品の表面がフライ様の外観になったり、焼成品の表面が不均一になったりすることが抑制され、焼き色の良好な食品を得ることができる。そして離型性も良好である。そして多量の乳化剤を添加しなくても良いため、焼成した食品の風味を損なうことがない。さらに、焼成後の徐冷条件下においても油脂結晶が微細結晶を多く含有できるため、焼成品からの液状油の染みだしも抑制できる。
【0068】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上、好ましくは1.1℃以上、より好ましくは1.4〜4.0℃上昇させるものである。パーム油の固化開始温度の上昇値がこの範囲内であると、離型用油脂組成物の製造時における急冷捏和条件において、3飽和トリグリセリドの含有量が前述の範囲にある油脂が結晶核となり、結晶化が促進され、かつ結晶が微細化される。
【0069】
本発明において、パーム油の固化開始温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定した値である。固化開始温度の測定には、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いることができる。より詳細には、パーム油100質量部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、80℃から毎分10℃の速度で冷却し、固化開始温度を測定した。
【0070】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値は1.0〜7.0であり、好ましくは2.0〜5.5であり、より好ましくは4.0〜5.5である。HLB値がこの範囲であると、パーム油の固化開始温度を上昇させるのに適している。
【0071】
ここでHLB値は、Griffin式(Atlas社法)により求めることができる。
【0072】
本発明においては、上記のようなポリグリセリン脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。例えば、阪本薬品工業(株)製のSYグリスターPS−3S、SYグリスターPS−5S、三菱化学フーズ(株)製のリョートーポリグリエステルB−70D等が挙げられる。
【0073】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油脂全量に対して、好ましくは0.1〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.2〜4.0質量%である。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.1質量%以上であると、3飽和トリグリセリドの含有量が前述の範囲にある油脂が結晶核となり、結晶化が促進され、かつ結晶が微細化される。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が5.0質量%以下であると、乳化剤としての異味が焼成後の食品に影響を及ぼすことを抑制できる。
(その他の成分)
本発明の離型用油脂組成物は、その効果を損なわない範囲において、上記の油脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルに加えて、食品添加物等のその他の成分を配合することができる。
【0074】
しかし本発明の離型用油脂組成物は、3飽和トリグリセリド量を特定範囲とする油脂と上記ポリグリセリン脂肪酸エステルとによって結晶化の促進と結晶の微細化が促進され、これにより、多量の乳化剤を添加しなくても、スプレー噴霧時のハンドリング性と型への塗布性に優れ、塗布後の液ダレを抑制することができ、型に充填した食品生地の離型性も良好であることから、食品本来の風味を損なうことがないようにする点を考慮すると、多量の乳化剤は含有しないことが好ましい。乳化剤としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム等が挙げられる。
【0075】
さらに本発明の効果を損なわない範囲内において、酸化防止剤等を従来より知られている添加量にしたがって適宜に配合することができる。
(離型用油脂組成物の製造方法)
本発明の離型用油脂組成物は、例えば、原料となる1種又は2種以上の前述したような油脂を加温下で溶解し、溶解した油脂中に上記ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加し、公知の方法で均一に分散し溶解することによって製造することができる。
【0076】
製造工程において加温下で溶解状態にある本発明の離型用油脂組成物は、急冷捏和装置によって、急冷しながら練り合わせると、油脂が結晶化して半固形状や可塑性のある固形状態となる。急冷捏和することで固体脂と液状油が分離状態となることを防止し、均質な離型用油脂組成物を得ることができる。
【0077】
急冷捏和処理は、通常、可塑性油脂組成物を製造する場合と同様にして行うことができる。また、急冷捏和処理は、従来公知の急冷捏和装置を用いて行うことができる。密閉状態で連続的に急冷し、同時に捏和して均質な油脂組成物を得る装置としては、ボテーター、パーフェクター、コンビネーター、オンレーター、ネクサス等を用いることができる。
【0078】
このとき、本発明の離型用油脂組成物によれば、急冷捏和条件において結晶化が促進され、かつ均一に微細化した結晶が多く存在する結晶状態になることから、スプレー噴霧時のハンドリング性と型への塗布性に優れ、塗布後の液ダレを抑制することができ、型に充填した食品生地の離型性も良好である。
(離型用油脂組成物を用いた食品の製造方法)
本発明の離型用油脂組成物は、パン類や、焼き菓子、ケーキ等の洋菓子類、人形焼き、鯛焼き、どらやき等の和菓子類のような菓子類等、特に、生地に澱粉や蛋白質、糖分等が含まれる食品の製造において、型、天板等に塗布することによって使用される。特に、食品生地を焼成又は型詰め、発酵することによって食品を製造する工程に好適である。
【0079】
本発明の離型用油脂組成物は、刷毛やモップ等を使用し塗布する固形状タイプ、スプレー等を使用する液状・流動状タイプのいずれにも好適に使用できる。特に、油脂の結晶が微細化するため、粒径の大きな粒子によってスプレー噴霧時にノズルの目詰まりを起こすことが抑制され、ハンドリング性が良好であることから、液状・流動状タイプに好適である。本発明の離型用油脂組成物を噴霧塗布する装置としては、各種のエアーレス方式のスプレーガンや、各種のグリーサーが使用可能である。
【0080】
また、その塗布量については、特に限定されず、従来と同様の量を考慮して適宜の量とすることができる。
【0081】
本発明の離型用油脂組成物を製パンに使用する場合の一例について説明すると、生地をボックス等の容器に入れ、発酵させる際のボックスオイルとして、また成型後、型詰、ホイロ、焼成工程において、食型に入れたり天板にのせたりする際の離型用油脂組成物として使用できる。
【0082】
発酵工程では、中種法の中種発酵、フロアタイム、ストレート法のフロアタイム(発酵)にボックスオイルとして離型用油脂組成物が使用される。中種法、ストレート法の発酵工程では、ボックスと呼ばれる容器や、ステンレス製ボールやトレイ等の容器の全体にボックスオイルを塗り、生地を入れ、容器に生地が入った状態で発酵室に入れ、中種法では、例えば28℃で4時間程度、ストレート法では例えば27℃で100分程度発酵させる。
【0083】
その間に生地は膨張するため側面に塗布した離型用油脂組成物が多量に流れ落ちると膨張した生地と容器との間の離型用油脂組成物が不足するため、発酵が終わった生地を取り出すときに生地がボックス等の容器に付着しやすくなる。また液ダレによって型の底部や四隅に離型用油脂組成物が溜まると、繰り返し使用した場合は臭いの原因となり、掃除するにも大変な作業となる。しかし本発明の離型用油脂組成物は塗布性が良好で、液ダレが少なく型への付着性が良好で、離型性が良好である。すなわち生地が膨張する際にも離型用油脂組成物が流れ落ちにくく、発酵が終わった状態では、塗布後に離型用油脂組成物が流れ落ちにくいため発酵が終わった生地を取り出すときに生地がボックスに付着することを抑制できる。また底部や四隅に離型用油脂組成物が溜まって繰り返し使用した場合に臭いの原因となることが抑制され、清掃作業も軽減できる。
【0084】
型詰、ホイロ、焼成工程で本発明の離型用油脂組成物を使用する場合では、食型に入れたり、天板にのせたりする際に離型用油脂組成物が使用される。パン生地が付着しないよう、食型の全面に離型用油脂組成物を塗布した後、生地を食型に入れ、この状態でホイロに入れて例えば38℃で40分間放置し徐々に発酵させる。発酵終了後にはそのままの状態でオーブン(焼成窯)に入れ、焼成する。
【0085】
このホイロにおいても発酵時に、側面に塗布した離型用油脂組成物が流れ落ちると、生地が食型に付着しやすくなり離型性が悪くなる。また、流れた離型用油脂組成物が食型の底部や四隅に溜まり(油だまり)、焼成したときにパンの表面(クラスト)がフライ様となったり、焼成品の表面が不均一になったりして商品価値を損なう。またボックス等の容器と同様に食型は繰り返し使用されるため、油だまりが残存していると、油脂の劣化が起こり、油脂の臭いが生地に付着し、風味を損ねてしまう。しかし本発明の離型用油脂組成物は、型の側面に塗布した離型用油脂組成物が流れ落ちにくいため、離型性が良好で、また離型用油脂組成物が底部や四隅に溜まって焼成品がフライ様の外観となることなく、焼き色の良好な食品を得ることができる。またボックスや食型を繰り返し使用しても、油だまりが少ないため油脂の劣化が起こりにくく、油脂の臭いが生地に付着して風味を損ねたり経時的な食型の汚れも抑制できる。さらに、焼成後の徐冷条件下においても油脂結晶が微細結晶を多く含有できるため、焼成品からの液状油の染みだしも抑制できる。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1及び表2における各原料の配合量は質量部を示す。1.測定方法
各油脂のヨウ素価は基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1−2013 ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」で測定した。
【0087】
油脂における3飽和トリグリセリドの含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
【0088】
油脂におけるトランス脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.4.3−2013 トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法」)で測定した。
【0089】
油脂における対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)により求めたSUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量より算出した。
【0090】
2.離型用油脂組成物の作製
調合釜で表1及び表2に示す割合(質量部)で油脂を80℃に調温して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加し、プロペラ撹拌機で撹拌しながら均一に溶解させて油脂組成物を得た。
【0091】
この油脂組成物をパーフェクターで急冷捏和して、離型用油脂組成物を得た。
(エステル交換油脂1〜3)
エステル交換油脂1は次の方法で製造した。パーム核極度硬化油20質量%、パーム油50質量%、パーム油極度硬化油30質量%を混合し、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭し、エステル交換油脂1を得た。エステル交換油脂1のSUS含有量は14.0質量%、SSU含有量は28.0質量%、ヨウ素価28であった。
【0092】
エステル交換油脂2は次の方法で製造した。パーム核極度硬化油15質量%、パーム油55質量%、パーム油極度硬化油30質量%を混合し、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭し、エステル交換油脂2を得た。エステル交換油脂2のSUS含有量は14.4質量%、SSU含有量は28.8質量%であった、ヨウ素価30であった。
【0093】
エステル交換油脂3は次の方法で製造した。パーム分別軟質油(ヨウ素価56)に触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭し、エステル交換油脂3を得た。エステル交換油脂3のSUS含有量は11.1質量%、SSU含有量は22.2質量%であった。
(ポリグリセリン脂肪酸エステル1〜4)
離型用油脂組成物に添加したポリグリセリン脂肪酸エステル1〜4の詳細は、表3に示すとおりである。
【0094】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度(℃)の上昇値は、以下のようにして測定した。まず、パーム油(ヨウ素価53)100質量部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、それを測定用のアルミニウムパンに3.5mg量り、さらにサンプルを何も入れない空パン(リファレンス)を用いて、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)で以下の条件で固化開始温度を測定した。
【0095】
次に、同様にして、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度を測定した。
【0096】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度とポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度の差を、パーム油の固化開始温度(℃)の上昇値とした。
<測定条件>
示差走査熱量計のセル内の温度を80℃まで昇温し、5分間保持し、完全にサンプルを溶解させた。その後、毎分10℃(10℃/min.)で80℃から−40℃まで降温させ、その過程における固化開始温度(発熱ピークにおける発熱開始温度)を測定した。固化開始温度は、ベースラインとピークとの接線における交点とした。
【0097】
さらに、実施例1、比較例5の離型用油脂組成物を製造後、20℃で3日保存した後、顕微鏡で観察した。その結果の顕微鏡写真を
図1、
図2に示す。
【0098】
図1では、5μm以下の細かい結晶が均一に析出し、結晶量は多かった。
【0099】
図2では、結晶が5μmを超えて成長していた。
【0100】
これらの結果から、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、急冷捏和条件において結晶化が促進され、かつ微細結晶を得ることができることが分かった。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
3.評価
実施例1〜9及び比較例1〜5の離型用油脂組成物について、次の評価を行った。
【0105】
以下の配合でストレート法によりパン生地を5kg作製した。その後ステンレス製ボール(外径×深さ64×23cm)に上記離型用油脂組成物2gを刷毛で塗布し、生地を入れ、フロアタイムとして温度27℃、湿度80%の発酵室で100分発酵させた。
【0106】
その後生地を320gで分割し、ベンチタイムを20分とった後に、ロール状に成形し、上記で得た離型用油脂組成物を刷毛で塗布しておいた食パン用焼き型(ワンローフ型)に生地を入れ、ホイロ温度38℃、湿度80%で45分発酵させ、温度200℃のオーブンにて25分焼成して食パンを製造した。
〈パンの配合〉
強力粉 100質量部
砂糖 10質量部
食塩 2質量部
全卵 20質量部
マーガリン※1 15質量部
脱脂粉乳 3質量部
イースト 5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 45質量部
※1 マーガリン:ミヨシ油脂(株)製「パンテオンフレッシュ」
〈パンの製造工程〉
ミキシング 低速4分 中低速2分 マーガリン投入 低速2分
中低速2分
捏上温度 28℃
フロアタイム 発酵室温27℃ 湿度80% 100分
分割 生地320g
ベンチタイム 発酵室温27℃ 湿度80% 20分
成型 生地320gをロール状にしてワンローフ型に一本詰める
ホイロ 38℃ 湿度80% 45分
焼成 200℃ 25分
【0107】
[ノズルの目詰まり]
スプレーガン(アネスト岩田製エアーレスユニットALS122型)を使用し、NT2505ノズルを装着し使用圧力1〜2kg/cm
2で離型用油脂組成物を15秒間噴霧した後、20℃の室内に置き、30分後に再度同じ条件で離型用油脂組成物を噴霧した時の状況で評価した。
評価基準
◎:ストレスなく噴霧状態に問題はない。
○:若干ストレスを感じるが噴霧状態に問題はない。
△:ストレスを感じるが噴霧状態に問題はない。
×:ストレスを感じ噴霧状態に問題がある。
【0108】
[液ダレ(油だまり)]
スプレーガン(アネスト岩田製エアーレスユニットALS122型)を使用し、NT2505ノズルを装着し使用圧力1〜2kg/cm
2で離型用油脂組成物を、垂直に立てかけた6取天板に横方向50cmより1秒間噴霧して、30分後の液ダレの状況を目視により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:液ダレがなく付着性は良好である。
○:液ダレが若干ある。
△:液ダレがある。
×:液ダレが多く下に溜まる。
【0109】
[塗布性]
ワンローフ型に刷毛で離型用油脂組成物を1.5g塗布する際の塗布性を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:非常に延びが良くムラがない。
○:延びが良くムラがない。
△:延びは良いが若干のムラがある。
×:延びが悪くムラがある。
【0110】
[焼成品の離型性]
窯から取り出した焼き型を反転させ離型させた。反転し型からパンが離型しない場合、型を30cmの高さより落下させ衝撃を加え、落下した回数とパン生地の焼き型への付着状態を目視により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:反転後離型、もしくは落下1回目で離型し、焼き型への付着は殆どない。
○:落下2〜3回目で離型し、焼き型への付着は少々ある。
△:落下4〜6回目で離型し、焼き型への付着は少々ある。
×:落下7〜10回目で離型し、焼き型への付着が多い。あるいは10回落下させても
パンは離型しない。
【0111】
[焼成品からの液状油の染みだし]
離型させたワンローフ型食パンの保管時における液状油の染みだしを確認するため、焼き型から取り出したワンローフ食パンを、底部を下にしてトレシングペーパー上に置き20℃に調温した恒温室内で1日保管した後、トレシングペーパーへの油の染みだしを観察し、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:染みだしは、食パン底部面積の25%未満であった。
○:染みだしは、食パン底部面積の25%以上50%未満であった。
△:染みだしは、食パン底部面積の50%以上75%未満であった。
×:染みだしは、食パン底部面積の75%以上であった。
【0112】
[焼成品の風味]
窯から取り出した焼き型を反転させ、離型させたワンローフ型食パンを20℃に調温した恒温器内で1日保管した後、パネル10名によりワンローフ型食パンを喫食し、風味を以下の基準で評価した。
【0113】
パネルは、五味(甘、酸、塩、苦、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0114】
[経時の型の汚れ]
焼き型の経時の汚れを観るため、刷毛で離型用油脂組成物を1.5g塗付した焼き型でワンローフ型食パンを1日に2回ずつ1週間にわたり焼成し、ワンローフ型食パンに付着するコゲ等の異物の状態を目視により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:コゲ等の異物の付着は合計で2個以内であった。
○:コゲ等の異物の付着は合計で3個以上〜5個以内であった。
△:コゲ等の異物の付着は合計で6個以上〜8個以内であった。
×:コゲ等の異物の付着は合計で9個以上であった。
【0115】
各評価結果を表4及び表5に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】