特許第6572036号(P6572036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572036
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】外科用固定具
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/14 20160101AFI20190826BHJP
   A61B 17/02 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   A61B90/14
   A61B17/02
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-144084(P2015-144084)
(22)【出願日】2015年7月21日
(65)【公開番号】特開2017-23345(P2017-23345A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(72)【発明者】
【氏名】坪内 猛
(72)【発明者】
【氏名】柳井 正道
【審査官】 宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/107593(WO,A2)
【文献】 特開2002−345839(JP,A)
【文献】 Wael Bachta et al.,Active Stabilization for Robotized Beating Heart Surgery,IEEE TRANSACTIONS ON ROBOTICS,2011年 8月,Vol.27,No.4,p757-768
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 90/00 − 90/98
A61B 17/00 − 17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術もしくは手技の対象となる生体の部位について必要とされる面積を露出して、当該部位の少なくとも一部を囲んで当接して固定される支持部を備える外科用固定具であって、
前記支持部に設けられており、前記支持部と前記固定された前記生体の部位との相対位置を調整する位置調整部と、
前記生体の運動に基づいて前記生体の部位が高さ方向に変位する変位位置を検出する変位位置検出部と、を備えており、
前記変位位置検出部による前記生体の部位の前記高さ方向の前記変位位置の検出結果に基づいて、前記位置調整部により前記支持部と前記固定された前記生体の部位との前記相対位置を変化させて、前記生体の部位の前記高さ方向の位置の変化を抑制する構成とし
前記支持部は、前記生体の部位を露出させるための開口部分を有し、
前記支持部は、
固定ベース部と、
前記固定ベース部の位置を、固定体に対して保持する固定アームと、
前記固定ベース部の下部に保持されて、前記生体の表面を吸着する吸盤を有する可動吸着部と、を有し、
前記吸盤は、前記吸盤に陰圧を発生させる陰圧発生部に接続され、
前記位置調整部は、アクチュエータ部材と、前記アクチュエータ部材に作動流体を送る駆動部を有し、
前記アクチュエータ部材は、前記固定ベース部と前記可動吸着部の間に設けられ、
前記作動流体の前記駆動部は、前記アクチュエータ部材内に、前記作動流体による圧力を与えることで、前記支持部の前記固定ベース部に対する前記可動吸着部の位置を変更して、前記支持部の前記固定ベース部と、前記固定された前記生体の部位との相対位置を調整することを特徴とする外科用固定具。
【請求項2】
前記変位位置検出部は、前記固定ベース部に取り付けられ、
前記変位位置検出部は、前記支持部内に露出された前記生体の前記部位に対して光を照射することで、前記固定ベース部と前記生体の前記部位との間の距離を測定し、
前記変位位置検出部から得られた前記実測距離と、予め定めた目標距離とを比較して、実測距離が前記目標距離になるように、前記作動流体の前記駆動部は、前記アクチュエータ部材内に、前記作動流体による圧力を与えることで、前記支持部の前記固定ベース部に対する前記可動吸着部の位置を変更して、前記支持部の前記固定ベース部と、前記固定された前記生体の部位との相対位置を調整することを特徴とする請求項1に記載の外科用固定具。
【請求項3】
前記吸盤と前記陰圧発生部とは、取り外し可能に接続され、前記アクチュエータ部材と前記駆動部とは、取り外し可能に接続されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の外科用固定具。
【請求項4】
前記固定体は、前記生体を保持する手術台の一部分であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の外科用固定具。
【請求項5】
前記支持部の形状は、U字型、V字型、楕円や長円を含む実質的な円形型、多角形型のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の外科用固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の部位の外科的な手術、例えば冠動脈の狭窄による狭心症や心筋梗塞等を治療する心拍動下冠動脈バイパス手術等の生体の手術に用いられる外科用固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の部位の外科的な手術、例えば冠動脈バイパス手術は、狭くなった冠動脈の病変の先に、新たにグラフト血管を吻合してバイパスをつなげることにより、心筋への血流を増やす治療法である。
心停止下冠動脈バイパス手術により血管を吻合する際には、心臓の動きを止めて人工心肺装置により患者に血液を流しながら行なわれている。
しかし、このように心臓を止めて行う冠動脈バイパス手術では、高価で大がかりな人工心肺装置が必要である。
また、人工心肺装置を使用すると、この人工心肺装置の回路内を血液が通過する際の炎症反応等が、患者の身体に負担になる場合があるなどの種々の不都合がある。
【0003】
そこで、心拍動下冠動脈バイパス手術(OPCAB)が、心停止下冠動脈バイパス手術に代えて行われるようになっている。
この心拍動下冠動脈バイパス手術では、心臓が拍動した状態で血管の吻合等を行う。この手術では、心臓は拍動した状態にあるので、心臓が拍動したままでは血管吻合ができないことから、特許文献1に開示されている特殊な器具が用いられる。
【0004】
この特殊な器具としては、スタビライザと呼ばれる外科用固定具が用いられる。このスタビライザは、心臓の表面に吸着させることで、吸引して固定された心臓表面の周辺部分の動きを抑制して、この周辺部分の中央位置の対象となる術部において、血管吻合を行い易くしようとする器具である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5836311号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この従来の外科用固定具を用いると、心臓が拍動していても、心臓表面の周辺部分の動きは抑制できる。しかし、心臓表面の周辺部分の中央位置の対象となる術部は、心臓の拍動に応じて心臓表面の高さ方向(垂直方向)に沿って動いてしまう。このため、術者または手技者は、心臓表面の術部において、血管吻合を容易にしかも確実に行うことができない。
【0007】
そこで、本発明は、心臓等の生体の表面の術部が、生体の動きに応じて生体の表面の高さ方向に沿って動くのを抑制して、血管の吻合のような処置を、容易にしかも確実に行うことができる外科用固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の外科用固定具は、手術もしくは手技の対象となる生体の部位について必要とされる面積を露出して、当該部位の少なくとも一部を囲んで当接して固定される支持部を備える外科用固定具であって、前記支持部に設けられており、前記支持部と前記固定された前記生体の部位との相対位置を調整する位置調整部と、前記生体の運動に基づいて前記生体の部位が高さ方向に変位する変位位置を検出する変位位置検出部と、を備えており、
前記変位位置検出部による前記生体の部位の前記高さ方向の前記変位位置の検出結果に基づいて、前記位置調整部により前記支持部と前記固定された前記生体の部位との前記相対位置を変化させて、前記生体の部位の前記高さ方向の位置の変化を抑制する構成とし、前記支持部は、前記生体の部位を露出させるための開口部分を有し、前記支持部は、固定ベース部と、前記固定ベース部の位置を、固定体に対して保持する固定アームと、前記固定ベース部の下部に保持されて、前記生体の表面を吸着する吸盤を有する可動吸着部と、を有し、前記吸盤は、前記吸盤に陰圧を発生させる陰圧発生部に接続され、前記位置調整部は、アクチュエータ部材と、前記アクチュエータ部材に作動流体を送る駆動部を有し、前記アクチュエータ部材は、前記固定ベース部と前記可動吸着部の間に設けられ、前記作動流体の前記駆動部は、前記アクチュエータ部材内に、前記作動流体による圧力を与えることで、前記支持部の前記固定ベース部に対する前記可動吸着部の位置を変更して、前記支持部の前記固定ベース部と、前記固定された前記生体の部位との相対位置を調整することを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、支持部は、生体の部位について必要とされる面積を露出して、当該部位の少なくとも一部を囲んで当接して固定し、変位位置検出部による生体の部位の高さ方向の変位位置の検出結果に基づいて、位置調整部により、支持部と固定された生体の部位との相対位置を変化させて、生体の部位の高さ方向の位置の変化を抑制する。これにより、心臓等の生体の表面の周辺部分は支持部で固定した状態で、心臓等の生体の表面の周辺部分の中央位置の術部が、生体の動きに応じて生体の表面の高さ方向に沿って動くのを抑制して、血管の吻合のような処置を、容易にしかも確実に行うことができる。
【0010】
記構成によれば、支持部は、開口部分に生体の部位を露出させるようにして、固定ベース部の位置は、固定体に対して固定アームを用いて保持する。可動吸着部は、固定ベース部の下部において吸盤を用いて生体の表面に吸着する。このため、支持部は、固定体に対して固定アームを介して、生体の表面に対して位置決めをした状態で保持しながら、可動吸着部の吸盤は、生体の表面を安定した状態で吸着することができる。
【0011】
記構成によれば、作動流体の駆動部は、アクチュエータ部材内に、作動流体による圧力を与えることで、固定ベース部に対する可動吸着部の位置を変更して、支持部の固定ベース部と、固定された生体の部位との相対位置を調整する。このため、固定ベース部に対する可動吸着部の位置を変更して、生体を押すことで、固定ベース部と固定された生体の部位との相対位置を、容易にしかも確実に調整できる。
【0012】
好ましくは、前記変位位置検出部は、前記固定ベース部に取り付けられ、前記変位位置検出部は、前記支持部内に露出された前記生体の前記部位に対して光を照射することで、前記固定ベース部と前記生体の前記部位との間の距離を測定し、前記変位位置検出部から得られた実測距離と、予め定めた目標距離とを比較して、前記実測距離が前記目標距離になるように、前記作動流体の前記駆動部は、前記アクチュエータ部材内に、前記作動流体による圧力を与えることで、前記支持部の前記固定ベース部に対する前記可動吸着部の位置を変更して、前記支持部の前記固定ベース部と、前記固定された前記生体の部位との相対位置を調整することを特徴とする。
上記構成によれば、変位位置検出部から生体の部位に対して光を照射するだけで、非接触で、支持部の固定ベース部と生体の部位との間の実測距離を、正確に測定して、実測距離が目標距離になるように、固定ベース部に対する可動吸着部の位置を変更して、固定ベース部と固定された生体の部位との相対位置を、容易にしかも確実に調整できる。
【0013】
好ましくは、前記吸盤と前記陰圧発生部とは、取り外し可能に接続され、前記アクチュエータ部材と前記駆動部とは、取り外し可能に接続されていることを特徴とする。
上記構成によれば、支持部の吸盤と陰圧発生部とは、取り外しができ、支持部のアクチュエータ部材と駆動部とは、取り外しができるので、手術に使用した支持部は、衛生面の観点から、陰圧発生部と駆動部から取り外すことができる。このため、次の手術には新しい支持部を取り付けて使用できる。
【0014】
好ましくは、前記固定体は、前記生体を保持する手術台の一部分であることを特徴とする。
上記構成によれば、支持部の固定ベース部は、手術台の一部分を利用してこの一部分に対して固定することで、支持部の固定ベース部は患者の生体の部位に対して、確実に動かないように保持することができる。
【0015】
好ましくは、前記支持部の形状は、U字型、V字型、楕円や長円を含む実質的な円形型、多角形型のいずれかであることを特徴とする。
上記構成によれば、生体の形状や手術の術部の形状に応じて、U字型、V字型、円形型、多角形型のいずれかから支持部の形状を採用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、心臓等の生体の表面の術部が、生体の動きに応じて生体の表面の高さ方向に沿って動くのを抑制して、血管の吻合のような処置を、容易にしかも確実に行うことができる外科用固定具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の好ましい第1実施形態の外科用固定具を示す全体システム図である。
図2図1に示す外科用固定具の構造をより詳しく示す斜視図である。
図3】複数個のアクチュエータ容器の接続構造例、および複数個の吸盤の接続構造例を示す図である。
図4図1から図3に示す駆動部の好ましい構造例を示す断面図である。
図5図4に示すボイスコイルモータを駆動するための制御部の駆動回路例を示す図である。
図6】変位位置検出部の構成例を示す図である。
図7】心臓の心拍動下冠動脈バイパス手術を行う際に、心臓Hの表面Sの中央の部位Pの高さ方向(Z方向)の位置変化を抑制する動作例を示すフロー図である。
図8】心臓Hの非拡張時の状態例を示す図である。
図9】心臓Hの拡張時における中央の部位Pの位置変化を抑制する状態例を示す図である。
図10】心臓Hの中央の部位Pに開けた吻合口Gにおいて、狭くなった冠動脈の病変の先に、新たなバイパス用のグラフト血管をつなげる様子を示す図である。
図11】本発明の第2実施形態の外科用固定具を示す斜視図である。
図12】本発明の第3実施形態の外科用固定具を示す斜視図である。
図13】本発明の第4実施形態の外科用固定具の支持部を示す平面図である。
図14】本発明の第5実施形態の外科用固定具の支持部を示す平面図である。
図15】本発明の第6実施形態の外科用固定具の支持部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の好ましい第1実施形態の外科用固定具を示す全体システム図である。図2は、図1に示す外科用固定具の構造をより詳しく示す斜視図である。
図1図2に示す外科用固定具1は、手術もしくは手技の対象となる患者の生体の部位として、例えば心臓Hに対して、心拍動下冠動脈バイパス手術を行う際に用いられる。
この外科用固定具1は、心臓Hの表面Sの部位Pについて、心臓Hの表面Sの必要とされる面積の領域を露出して、心臓Hの表面Sの部位の少なくとも一部を囲んで当接して固定して、心臓Hの表面Sの部位Pの高さ方向(Z方向)の位置変化を抑制するのに用いる。この心臓Hの表面Sの部位Pは、心拍動下冠動脈バイパス手術の対象となる術部に相当する。
この外科用固定具1は、スタビライザあるいは外科用固定処置具あるいは外科用固定処置装置等とも呼ぶことができる。
【0020】
図1図2に示すように、外科用固定具1は、概略的には、支持部10と、位置調整部50と、変位位置検出部80と、制御部100等を有している。
支持部10は、心臓Hの表面Sの部位Pを含む領域の必要とされる面積を露出して、この心臓Hの表面Sの部位Pの少なくとも一部を囲むようにして、心臓Hの表面Sに当接して固定される。
支持部10は、固定ベース部11と、可動吸着部12と、固定アーム20を有する。固定ベース部11と可動吸着部12は、ほぼ同じサイズを有しており、好ましくはほぼU字型に形成されている。固定ベース部11と可動吸着部12は、心臓Hの表面Sを当てて固定できる強度を確保でき、しかも生体に対して親和性の優れた金属、例えばステンレスやチタン等により作られている。
【0021】
図2に示すように、固定ベース部11は、第1アーム部13と、第2アーム部14と、延長部15を有する。第1アーム部13の前端部13Aと第2アーム部14の前端部14Aは、ほぼ半円形状に丸く形成されている。これにより、第1アーム部13の前端部13Aと第2アーム部14の前端部14Aが、誤って心臓Hの表面Sを傷つけないようにすることができる。延長部15は、第1アーム部13の後端部と第2アーム部14の後端部から延長して形成されている。
この固定ベース部11の第1アーム部13と第2アーム部14の間には、開口部分99が形成されている。この開口部分99は、心臓Hの表面Sの部位Pを含む一定の面積の領域を露出させる。
【0022】
図1図2に示す固定アーム20は、固定ベース部11の位置を固定して、固定ベース部11が動かないようにするために、例えば図1に示すような手術台のレール20Dに対して固定するための部材である。手術台のレール20Dは、心臓Hに対して、固定ベース部11の位置を固定して保持するための固定体の一例である。すなわち、支持部10の固定ベース部11の位置は、生体である心臓Hに対して動かないように、例えば手術台のレール20Dに、固定アーム20を用いて保持されている。
この固定アーム20の位置は、固定ベース部11を、Z方向(心臓Hの心壁の垂直方向、高さ方向)と、X方向と、Y方向に動かないように固定する。これにより、支持部10の固定ベース部11は、心臓Hの表面Sに対して動かないように、容易にしかも確実に固定できる。
【0023】
図1図2に示す固定アーム20は、変形可能な蛇腹状の金属製の部材であり、術者または手技者は、固定アーム20を自在に曲げて、必要な形状に保持することができる。しかも、図1に示すように、固定アーム20の一端部20Aは、延長部15に対して着脱可能に接続されている。これにより、支持部10の固定ベース部11は、手術毎に、固定アーム20の一端部20Aから取り外して交換することができる。
【0024】
図1に示すように、固定アーム20の他端部20Bは、連結部20Cを有する。この連結部20Cは、例えば患者が横たわる手術台のレール20Dに対して、例えば固定用ネジ20Eを回すことで着脱可能に固定することができる。
これにより、図1図2に例示するように、術者または手技者は、固定アーム20を自在に曲げることで、固定ベース部11と可動吸着部12のユニットを、手術台のレール20Dを利用して、心臓Hの表面Sに対して適切に当てた状態を維持することができる。
【0025】
図1図2に示すように、可動吸着部12は、固定ベース部11の下部の位置に間隔をおいて平行に配置されている。図2に示すように、この可動吸着部12は、第1アーム部16と、第2アーム部17と、円弧部18を有する。第1アーム部16の前端部16Aと第2アーム部17の前端部17Aは、ほぼ半円形状に丸く形成されている。これにより、第1アーム部16の前端部16Aと第2アーム部17の前端部17Aが、誤って心臓Hの表面Sを傷つけないようにする。円弧部18は、第1アーム部16の後端部と第2アーム部17の後端部をつなげている。
図2に示すように、可動吸着部12は、心臓Hの表面Sの一定の面積の領域を露出させるための開口部分199を有する。可動吸着部12の開口部分199は、固定ベース部11の開口部分99の大きさと同じであり、心臓Hの表面の部位Pを含む一定の面積の領域は、この開口部分99,199を通じて露出させることができる。
【0026】
次に、可動吸着部12に設けられた複数の吸盤21,22について説明する。
図3は、複数個のアクチュエータ容器51,52の接続構造例、および複数個の吸盤21,22の接続構造例を示す図である。
図3に示し、すでに説明したように、ほぼU字型の固定ベース部11は、第1アーム部13と第2アーム部14と延長部15を有し、開口部分99を形成している。同様にして、ほぼU字型の可動吸着部12は、第1アーム部16と第2アーム部17と円弧部18を有し、開口部分199を形成している。
【0027】
図1から図3に示すように、可動吸着部12は、複数個の吸盤、例えば合計4つの吸盤21,22を有している。図2に示すように、2つの吸盤21,21は、第1アーム部16の下面側に間隔をおいて設けられている。同様にして、別の2つの吸盤22,22は、第2アーム部17の下面側に間隔をおいて設けられている。図1に示すように4つの吸盤21,22の上端部は、第1アーム部16の下面側あるいは第2アーム部17の下面側に固定されている。4つの吸盤21,22の下端部は、心臓Hの表面Sの部位Pの周辺部分に密着される部分である。
4つの吸盤21,22は、弾性変形可能であり、柔軟性を有する生体に悪影響を与えないプラスチック材料、例えば塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーンゴム等により作られている。
【0028】
図2図3に示すように、4つの吸盤21,22は、配管24,26を介して、吸着用陰圧発生部25に接続されている。配管24は、第1アーム部16と第2アーム部17内に配置されており、接続端子27を有している。図3に示すように、配管26の一端部は、接続端子27に着脱可能に接続され、配管26の他端部は、吸着用陰圧発生部25に接続されている。
図3に示す吸着用陰圧発生部25は、起動スイッチ25Sを有する。術者または手技者が、この起動スイッチ25Sを押すことにより、吸着用陰圧発生部25は、配管26,24を介して、4つの吸盤21,22内の空気を吸引する。これにより、図2に示す可動吸着部12と固定ベース部11を含む支持部10は、手術もしくは手技の対象となる心臓Hの表面Sの周辺部分に対して、陰圧により吸引して固定できる。
【0029】
次に、図1から図3を参照して、位置調整部50について説明する。
図1図2に示す位置調整部50は、支持部10の固定ベース部11と可動吸着部12の間に取り付けられている。この位置調整部50は、Z方向の長さを伸長することで可動吸着部12をZ2方向に下げることにより、心臓Hの表面SをZ2方向に押して、支持部10の固定ベース部11と、心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を調整する。
図3に示すように、この位置調整部50は、複数のアクチュエータ部材としての、例えば合計4つのアクチュエータ容器51,52と、配管53を有しており、配管53は、駆動部55に接続されている。駆動部55は、電気配線56により制御部100に電気的に接続されている。
【0030】
図1図2に示すように、2つのアクチュエータ容器51,51の上端部は、第1アーム部13の下面に固定され、2つのアクチュエータ容器51,51の下端部は、第1アーム部16の上面に固定されている。同様にして、別の2つのアクチュエータ容器52,52の上端部は、第2アーム部14の下面に固定され、2つのアクチュエータ容器52,52の下端部は、第2アーム部17の上面に固定されている。
アクチュエータ容器51,52は、ジャバラ状の部材であり、弾性変形可能で、柔軟性を有する生体に影響を与えない金属もしくはプラスチック材料、例えばステンレス、塩化ビニル、ポリウレタン、ポリプロピレン等や、合成ゴム等により作られている。
【0031】
しかも好ましくは、図1図2に示すように、2つのアクチュエータ容器51,51の位置は、Z方向(心臓Hの表面Sの高さ方向)に関して、2つの吸盤21,21の位置にそれぞれ対応している。2つのアクチュエータ容器52,52の位置は、Z方向(心臓Hの表面Sの高さ方向)に関して、2つの吸盤22,22の位置にそれぞれ対応している。
図2図3に示すように、4つのアクチュエータ容器51,52は、配管53を介して駆動部55に接続されている。配管53の途中には、好ましくは接続端子54が配置されており、駆動部55は、支持部10の交換の際には、接続端子54において配管53を取り外すことにより、4つのアクチュエータ容器51,52側から切り離すことができる。
【0032】
図4は、図1から図3に示す駆動部55の好ましい構造例を示す断面図である。
図4に示す駆動部55は、図3に示す4つのアクチュエータ容器51,52に対して、配管53を通じて作動液DLを送ることで、4つのアクチュエータ容器51,52内での作動液DLの圧力の増加を行うための作動液の駆動源である。
【0033】
この駆動部55は、ケース56と、ボイスコイルモータ60と、長さが伸縮可能なアクチュエータシリンダ61を有する。ケース56は、ボイスコイルモータ60とアクチュエータシリンダ61を収納している。ボイスコイルモータ60は、コア57と、磁石58と、駆動コイル59を有する。駆動コイル59は、電気配線56Sを介して制御部100に電気的に接続されている。
アクチュエータシリンダ61は、X1方向と、X2方向に沿って弾性変形可能であり、柔軟性を有する金属もしくはプラスチック材料、例えば塩化ビニル、ポリウレタン、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)等や、合成ゴム等により作られている。
【0034】
図4に示すように、アクチュエータシリンダ61の一端部は、配管53に接続され、アクチュエータシリンダ61の他端部は、駆動コイル59の取付け部分59Aに固定されている。アクチュエータシリンダ61内には、4つのアクチュエータ容器51,52に対して、配管53を通じて送る作動流体としての作動液DLが充填されている。この作動液DLとしては、例えば作動油等を採用できる。
これにより、制御部100が電気配線56Sを通じて駆動コイル59に通電することで、駆動コイル59が発生する磁界と磁石58の磁界の相互作用により、アクチュエータシリンダ61はX1方向に収縮し、X2方向に伸長可能になっている。
【0035】
図4に示すアクチュエータシリンダ61がX1方向に縮むと、配管53を介して4つのアクチュエータ容器51,52に送られる作動液DLの圧力は増加する。これにより、図1図2に示す4つのアクチュエータ容器51,52が、Z2方向(図1において下方向)に伸長する。このため、位置の固定された固定ベース部11に対して、可動吸着部12の間隔DをZ2方向に下げて拡げることができる。
逆に、図4に示すアクチュエータシリンダ61がX2方向に伸びると、配管53を介して4つのアクチュエータ容器51,52に送られる作動液DLの圧力は減る。これにより、4つのアクチュエータ容器51,52がZ1方向に縮む。このため、図1図2に示す固定ベース部11と可動吸着部12の間隔Dを狭めることができる。
【0036】
図5は、図4に示すボイスコイルモータ60を駆動するための制御部100の駆動回路例を示している。
図5に示すように、プリセット用のメモリ63には、予め定めた目標距離L0がプリセットされている。差分回路62は、このプリセット用のメモリ63と変位位置検出部80に電気的に接続されている。差分回路62は、このプリセット用のメモリ63からのプリセットの目標距離L0と、変位位置検出部80が実際に測定した実測距離の検出出力値である実測距離L1と、の差分を取ることで差分値65を得る。
【0037】
そして、差分回路62は、その差分値65に基づいて、モータドライバ66が、ボイスコイルモータ60の図4に示す駆動コイル59に通電することにより、アクチュエータシリンダ61は、4つのアクチュエータ容器51,52内の作動液DLに対して、圧力を加える。
これにより、後で説明するが、制御部100は、駆動部55と4つのアクチュエータ容器51,52を用いて、変位位置検出部80と、心臓Hの表面Sの盛り上がった部位Pとの間の実測距離L1を、予め定めた目標距離L0に調整することができる。
【0038】
上述したように、位置調整部50の4つのアクチュエータ容器51,52が、支持部10の固定ベース部11と可動吸着部12との間に配置されている。これにより、駆動部55から送られる作動液DLの圧力の増加により、支持部10から心臓Hの表面Sに対して与えられる押圧力を調整して増加することで、変位位置検出部80と、心臓Hの表面Sの盛り上がった部位Pとの間の実測距離L1を、予め定めた距離L0に正確に修正できるようになっている。
【0039】
次に、図1図2に示す変位位置検出部80について、図6を参照して説明する。
図6は、この変位位置検出部80の構成例を示している。変位位置検出部80としては、例えばレーザ光を用いた三角測距方式のレーザ式変位センサを用いている。変位位置検出部80は、心臓Hの拍動により表面Sの部位Pの高さ方向(Z方向)に変位する位置を、非接触で検出する。変位位置検出部80の具体的な構造例を説明する。
【0040】
図1図2に示すように、変位位置検出部80は、例えばL字型のサポート部材81の一端部81Aに固定されている。サポート部材81の他端部81Bは、延長部15に固定されている。変位位置検出部80は、U字型の支持部10の間に位置されている心臓Hの表面Sの部位Pに対応して、この部位Pの上部の位置にある。
図6に示すように、変位位置検出部80は、好ましくは半導体レーザ82と、駆動回路83と、投光レンズ84と、受光レンズ85と、光位置検出素子(PSD)86と、信号増幅回路87を有する。
【0041】
変位位置検出部80の半導体レーザ82と、測定対象物である心臓Hの表面Sの部位Pとの距離は、予め定めた目標距離L0と、実測距離L1で示している。
心臓Hが非拡張時には、Z方向に関する距離は、予め定めた目標距離L0である。心臓Hが拡張した時には、Z方向に関する距離は、実測距離L1となる。Z方向は、心臓Hの表面Sに対して垂直方向(図6において上下方向)である。
駆動回路83が、制御部100の指令により半導体レーザ82を作動すると、半導体レーザ82が射出するレーザ光LTは、投光レンズ84を介して、心臓Hの表面Sの部位Pに対して照射される。そして、心臓Hの表面Sの部位Pで反射したレーザ光LTの戻り光LRは、受光レンズ85を介して、光位置検出素子86に受光されるようになっている。
【0042】
図6に例示するように、予め定めた目標距離L0で反射される戻り光LRは、光位置検出素子86の受光位置86Aで受光される。また、実測距離L1の位置で反射される戻り光LRは、光位置検出素子86の受光位置86Bで受光される。このことから、光位置検出素子86は、それぞれの位置に対応する異なる検出信号を、信号増幅回路87に出力する。
このようにして、Z方向に関して予め定めた目標距離L0と、実測距離L1の違いは、光位置検出素子86において、受光位置86A,86Bのように位置を変えて異なる検出値として検出することができる。信号増幅回路87は、受光位置86A,86Bでの検出値を増幅して、心臓Hの表面Sの部位Pが、高さ方向であるZ方向に変位する変位位置に関する検出結果の信号SSとして、制御部100に送る。
そして、制御部100は、変位位置検出部80による検出結果の信号SSに基づいて、位置調整部50のアクチュエータ容器51,52を伸長させることで、心臓Hの表面Sに対する押圧力を増加させて、支持部10が心臓Hの表面Sの部位Pの高さ方向(Z方向)の位置変化を抑制する。
【0043】
次に、図7から図10を参照して、図1図2に示す外科用固定具1を用いて、例えば心臓の心拍動下冠動脈バイパス手術を行う際に、心臓Hの拍動の際の拡張により術部である部位Pが、Z1方向に盛り上がった場合に、この部位Pの盛り上がりに伴う心臓Hの表面Sの部位Pの高さ方向(Z方向)の位置変化を抑制する動作例について説明する。
図7は、心臓の心拍動下冠動脈バイパス手術を行う際に、心臓Hの表面Sの部位Pの高さ方向(Z方向)の位置変化を抑制する動作例を示すフロー図である。図8は、心臓Hの非拡張時の状態例を示し、図9は、心臓Hの拡張時における部位Pの位置変化を抑制する状態例を示す図である。図10は、心臓Hの部位Pに開けた吻合口Gにおいて、狭くなった冠動脈200の病変の先に、新たなバイパス用のグラフト血管201をつなげる様子を示す図である。
【0044】
図7に示すフロー図では、ステップST1からステップST9を有している。ステップST1からステップST5は、図8に例示するように、心臓Hに対して支持部10を設定する設定ステップ群Mである。また、ステップST6からステップST9は、実際に心臓Hの拡張時における部位Pの位置変化を抑制する動作を示すステップ群Nである。
【0045】
図7のステップST1では、図1に示すように、支持部10の固定ベース部11の固定アーム20を、手術台のレール20Dに取り付けて固定する。これにより、支持部10の固定ベース部11のZ方向と、X方向とY方向に関する位置は、固定アーム20を用いてレール20Dに対して確実に保持できる。図8に示すように、支持部10の固定ベース部11を、心臓Hの表面Sに対して位置が移動しない様にして対面させる。
【0046】
図7のステップST2では、図8に示すように、術者または手技者は、支持部10の4つの吸盤21,22を心臓Hの表面Sの周辺部分に当てて、固定アーム20を自在に曲げることにより、心臓Hの表面Sに対する支持部10の固定位置を微調整する。
これにより、心臓Hの表面Sにおける術部である部位Pが、固定アーム部11の開口部分99と可動吸着部12の開口部分199内に位置される。支持部10の可動吸着部11の吸盤21,22は、心臓Hの表面Sにおける術部である部位Pの周辺部分を、吸引する。
【0047】
図7のステップST3では、術者または手技者は、図1に示す起動スイッチ25Sを押して、吸着用陰圧発生部25を駆動する。吸着用陰圧発生部25は、配管26,24を介して支持部10の可動吸着部12の4つの吸盤21,22へ空気の陰圧を供給する。
これにより、4つの吸盤21,22は、図8に示すように心臓Hの表面Sの部位Pの周辺部分を吸着するので、支持部10は心臓Hの表面Sに対して、正しい位置に固定される。
【0048】
図7のステップST4では、図8の制御部100が図6に示す変位位置検出部80の駆動回路83に指令をして、半導体レーザ82は、レーザ光LTを発生する。このレーザ光LTが、非拡張時の心臓Hの表面Sの部位Pに照射されることで、レーザ光LTのスポットは、術部である部位Pにセットされる。この術部である部位Pは、バイパス手術の際に、バイパス手術が容易にできるように、心臓Hが拍動しても部位PのZ1方向への盛り上がり動作を抑制して、できる限り静止させたい部位である。
この際に、変位位置検出部80から、非拡張時の心臓Hの表面Sの部位Pまでの距離は、制御部100の記憶部63にターゲット距離として予め定めた目標距離L0として記憶される。この目標距離L0は、心臓Hが非拡張時の場合の距離である。
【0049】
図7のステップST5では、術者または手技者は、図2図4に示す制御部100のリセットスイッチRSを押して、駆動部55に対してリセット信号を送る。これにより、制御部100は、アクチュエータシリンダ61のニュートラル位置において、上述したターゲット距離である予め定めた目標距離L0をセットする。
【0050】
次に、図7において設定ステップ群Mから動作ステップ群Nに移る。
図7のステップST6では、図9に示す心臓Hが拍動することで拡張した時には、心臓Hの拡張動作により、測定点である部位Pの位置は、実線で示す非拡張時の心臓Hの表面Sに比べて、破線で示す拡張時の心臓Hの表面S1の部位P1で示すように、Z1方向に上昇量ΔLだけ盛り上がる。
破線で示すように、心臓Hが拡張して、拡張時の心臓Hの表面S1の部位P1が上昇量ΔLだけ上昇した時に、変位位置検出部80と非拡張時の心臓Hの表面Sの部位Pとの間の距離は、実測距離L1である。上昇量ΔLは、(L0−L1)の距離であり、予め定めた閾値SH以上である。
【0051】
図7のステップST7では、図4に示す制御部100は、ボイスコイルモータ60の駆動コイル59に通電制御してボイスコイルモータ60を駆動すると、アクチュエータシリンダ61をX1方向に押す。これにより、アクチュエータシリンダ61内の作動液DLは、図2に示す配管53を介して、4つのアクチュエータ容器51,52に送る。
図7のステップST8では、アクチュエータシリンダ61内の作動液DLの圧力の増加により、4つのアクチュエータ容器51,52は、図9に示すように、Z2方向(下方向)に伸長するので、可動吸着部12は、吸盤21,22を介して、心臓Hの表面S(心壁)をZ2方向に押し下げる。
【0052】
これにより、図7のステップST9では、測定点である破線で示す盛り上がった心臓Hの表面Sの部位P1の位置が、実線で示すように部位Pの位置にまで、Z2方向に押し下げられる。従って、破線で示す拡張時の心臓Hの表面S1の部位P1は、上昇量ΔLだけ、非拡張時の心臓Hの表面Sの部位Pまで下がる。
【0053】
実測距離L1が、ターゲット距離である目標距離L0になるか、ほぼ目標距離L0になると、制御部100は、アクチュエータシリンダ61の動作を止める。アクチュエータシリンダ61の動作が止まると、アクチュエータシリンダ61内の作動液DLの圧力が維持されて、4つのアクチュエータ容器51,52のZ2方向への伸長動作は停止する。上昇量ΔLは、予め定めた閾値SH未満になる。
【0054】
このようにして、制御部100は、変位位置検出部80による距離の検出結果に基づいて、位置調整部50の4つのアクチュエータ容器51,52の動作により、支持部10の固定ベース部11に対する心臓Hの表面S1の部位P1の相対位置をZ2方向に下げるので、心臓Hが拍動しているにもかかわらず、術部となる部位Pの高さ方向の位置変化を抑制することができる。
このため、図10に例示するように、術者または手技者は、心臓Hの部位Pに開けた吻合口Gにおいて、狭くなった冠動脈200の病変の先に、新たなバイパス用のグラフト血管201を、糸Fを用いて容易につなげることができる。
【0055】
ところで、図2図3に示すように、例えば心拍動下冠動脈バイパス手術を終えた時点で、駆動部55は、接続端子54から配管53を外すことができる。また、吸着用陰圧発生部25は、接続端子27から配管24を外すことができる。そして、固定ベース部11は、固定アーム20の一端部20Aから取り外すことができる。また、必要に応じて、好ましくは変位位置検出部80のサポート部材81は、固定ベース部11の延長部15から取り外すことができる。
【0056】
これにより、心拍動下冠動脈バイパス手術において一度使用した支持部10の固定ベース部11と可動吸着部12は取り外して、次の心拍動下冠動脈バイパス手術では、新しい支持部10の固定ベース部11と可動吸着部12を使用することができる。
これにより、術部に触れる支持部10の固定ベース部11と可動吸着部12は、手術を行う度に、常に新しい物を使用できるようにして、衛生面に配慮している。
【0057】
ところで、心拍動下冠動脈バイパス手術において、術者の手等が変位位置検出部80からのレーザ光LTを遮って戻り光LRが変位位置検出部80側に戻らない場合が想定できる。
この場合には、図1図2に示す制御部100は、記憶部110に記憶されている直前の心臓Hの拍動データの実測距離L1の値に基づいて、駆動部55に指令をする。駆動部55は、直前の心臓Hの拍動データの実測距離L1の値に基づいて、アクチュエータ容器51,52を伸長させることで、実測距離L1が、目標距離(ターゲット距離)L0になるか、ほぼ目標距離(ターゲット距離)L0になると、図4に示す制御部100は、駆動部55のアクチュエータシリンダ61の動作を止める。
これにより、仮に一時的に戻り光LRが変位位置検出部80側に戻らない場合でも、位置調整部50の4つのアクチュエータ容器51,52の動作により、支持部10と心臓Hの表面S1の部位Pとの相対位置を変化させて、部位Pの高さ方向の位置変化を抑制することができる。
【0058】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態の外科用固定具1Aを示す斜視図である。
図11に示す本発明の第2実施形態の外科用固定具1Aの要素が、図2に示す本発明の第1実施形態の外科用固定具1の対応する要素と実質的に同じである場合には、同じ符号を付けてその説明を援用し、重複する説明は省略する。
図11に示す外科用固定具1Aが、図2に示す本発明の外科用固定具1と異なるのは、次の点である。
【0059】
図2に示す外科用固定具1では、ボイスコイルモータ60を用いた駆動部55が、アクチュエータ容器51,52に対して作動液の圧力を大きくすることで、アクチュエータ容器51,52を伸長させている。
これに対して、図12に示す外科用固定具1Aでは、作動液に代えて作動空気のような作動気体を用いている。従って、外科用固定具1Aでは、駆動部55に代えて例えば作動空気供給部55Aが用いられる。
【0060】
この作動空気供給部55Aは、制御部100の指令により、アクチュエータ容器51,52を伸長させることで、実測距離L1が、目標距離L0になるか、ほぼ目標距離L0になると、制御部100は、作動空気供給部55Aの動作を止める。
これにより、位置調整部50の4つのアクチュエータ容器51,52の動作により、心臓Hの表面Sの部位PをZ2方向に押し下げることにより、支持部10と心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を変化させて、部位Pの高さ方向の位置変化を抑制することができる。
【0061】
(第3実施形態)
図12は、本発明の第3実施形態の外科用固定具1Bを示す斜視図である。
図12に示す本発明の第3実施形態の外科用固定具1Bの要素が、図2に示す本発明の第1実施形態の外科用固定具1の対応する要素と実質的に同じである場合には、同じ符号を付けてその説明を援用し、重複する説明は省略する。
図12に示す外科用固定具1Bが、図2に示す本発明の外科用固定具1と異なるのは、次の点である。
【0062】
図12に示す外科用固定具1Bでは、駆動部55に代えて例えば作動流体供給部55Bが用いられる。この作動流体供給部55Bは、ジャバラ型のアクチュエータシリンダ61Bと、モータ69と、回転偏心カム79を有する。モータ69の出力軸69Aには回転偏心カム79が取り付けられている。
【0063】
制御部100がモータ69を駆動して、回転偏心カム79が回転してC方向に押される。このため、アクチュエータ容器51,52内の作動流体の圧力が上がって、アクチュエータ容器51,52が伸長するので、実測距離L1が、目標距離L0になるか、ほぼ目標距離L0になると、制御部100は、作動空気供給部55Aの動作を止める。
これにより、位置調整部50の4つのアクチュエータ容器51,52の動作により、心臓Hの表面Sの部位PをZ2方向に押し下げることにより、支持部10と心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を変化させて、部位Pの高さ方向の位置変化を抑制することができる。
【0064】
(第4実施形態)
図13は、本発明の第4実施形態の外科用固定具の支持部10Aを示す平面図である。図13に示す支持部10Aの構造は、図2に示す支持部10の構造と、基本的に同じである。図2に示す支持部10の固定ベース部11と可動吸着部12は、上から見てほぼU字型を有している。これに対して、図13に示す支持部10Aは、上から見てほぼV字型を有している。支持部10Aは、開口部分99,199を有する。
【0065】
(第5実施形態)
図14は、本発明の第5実施形態の外科用固定具の支持部10Bを示す平面図である。図14に示す支持部10Bの構造は、図2に示す支持部10の構造と、基本的に同じである。図14に示す支持部10Aは、上から見てほぼ円形型を有しており、先端部には切り欠き部分10Wを有する。支持部10Bは、開口部分99,199を有する。
【0066】
(第6実施形態)
図15は、本発明の第6実施形態の外科用固定具の支持部10Cを示す平面図である。図15に示す支持部10Cの構造は、図2に示す支持部10の構造と、基本的に同じである。図15に示す支持部10Bは、上から見て多角形型を有しており、先端部には切り欠き部分10Vを有する。支持部10Cは、開口部分99,199を有する。
【0067】
以上説明したように、本発明の実施形態の外科用固定具1(1A,1B)は、手術もしくは手技の対象となる生体の部位について必要とされる面積を露出して、当該部位の少なくとも一部を囲んで当接して固定される支持部10を備える。この外科用固定具1(1A,1B)は、支持部10に設けられており、支持部10と固定された生体の部位である例えば心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を調整する位置調整部50と、生体の運動に基づいて生体の部位が高さ方向(Z方向)に変位する変位位置を検出する変位位置検出部80と、を備える。
【0068】
そして、変位位置検出部80による生体の部位の高さ方向(Z方向)の変位位置の検出結果に基づいて、位置調整部50により支持部10と固定された生体の部位である例えば心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を変化させて、生体の部位の高さ方向(Z方向)の位置の変化を抑制する。
【0069】
これにより、支持部10は、生体の部位Pについて必要とされる面積を露出して、当該部位Pの少なくとも一部を囲んで当接して固定し、変位位置検出部80による生体の部位の高さ方向の変位位置の検出結果に基づいて、位置調整部50により支持部10と固定された生体の部位である例えば心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を変化させて、生体の部位Pの高さ方向の位置の変化を抑制する。
従って、心臓等の生体の表面の周辺部分は支持部で固定した状態で、心臓等の生体の表面の部位の周辺部分の中央の対象となる術部が、生体の動きに応じて生体の表面の高さ方向(Z方向)に沿って動くのを抑制して、血管の吻合のような処置を、容易にしかも確実に行うことができる。
【0070】
支持部10は、生体の部位である例えば心臓Hの表面Sの部位Pを露出させるための開口部分99,199を有する。支持部10は、固定ベース部11と、固定ベース部11の位置を、固定体(20D)に対して保持する固定アーム20と、固定ベース部11の下部に保持されて、生体の表面を吸着する吸盤21,22を有する可動吸着部12と、を有する。吸盤21,22は、吸盤21,22に陰圧を発生させる陰圧発生部25に接続されている。
【0071】
これにより、支持部10は、開口部分99,199に生体の部位を露出させるようにして、固定ベース部11の位置は、固定体(20D)に対して固定アーム20を用いて保持する。可動吸着部12は、固定ベース部11の下部において吸盤21,22を用いて生体の表面に吸着する。このため、支持部10は、固定体(20D)に対して固定アーム20を介して、生体の表面である例えば心臓Hの表面Sに対して位置決めをした状態で保持しながら、可動吸着部12の吸盤21,22は、生体である心臓Hの表面Sを安定した状態で吸着することができる。
【0072】
位置調整部50は、アクチュエータ部材であるアクチュエータ容器51,52と、アクチュエータ部材に作動流体を送る駆動部55を有する。アクチュエータ容器51,52は、固定ベース部11と可動吸着部12の間に設けられている。作動流体の駆動部55は、アクチュエータ容器51,52内に、作動流体による圧力を与えることで、固定ベース部11に対する可動吸着部12の位置を変更して、支持部10の固定ベース部11と、固定された生体の部位である例えば心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を調整する。
【0073】
これにより、作動流体の駆動部55は、アクチュエータ容器51,52内に、作動流体による圧力を与えることで、固定ベース部11に対する可動吸着部12の位置を変更して、支持部10の固定ベース部11と、固定された生体の部位例えば心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を調整する。このため、固定ベース部11に対する可動吸着部12の位置を変更して、生体の部位Pを押すことで、固定ベース部11と固定された生体の部位、例えば心臓Hの表面Sの部位Pとの相対位置を容易に、しかも確実に調整できる。
【0074】
変位位置検出部80は、固定ベース部11に取り付けられ、変位位置検出部80は、支持部10内に露出された生体の部位である例えば心臓Hの表面Sの部位Pに対して光LTを照射することで、固定ベース部11と生体の部位との間の実測距離L1を測定する。変位位置検出部80から得られた実測距離L1と、予め定めた目標距離L0とを比較して、実測距離L1が目標距離L0になるように、作動流体の駆動部55は、アクチュエータ部材51,52内に、作動流体による圧力を与えることで、支持部10の固定ベース部11に対する可動吸着部12の位置を変更して、支持部10の固定ベース部11と、固定された生体の部位Pとの相対位置を調整する。
【0075】
これにより、変位位置検出部から生体の部位である例えば心臓Hの表面Sの部位Pに対して光LTを照射するだけで、非接触で、支持部10の固定ベース部11と生体の部位Pとの間の実測距離L1を、正確に測定して、実測距離L1が目標距離L0になるように、固定ベース部11に対する可動吸着部12の位置を変更して、生体を押すことで、固定ベース部11と固定された生体の部位Pとの相対位置を、容易にしかも確実に調整できる。
【0076】
吸盤21,22と陰圧発生部25とは、取り外し可能に接続され、アクチュエータ部材としてのアクチュエータ容器51,52と駆動部55とは、取り外し可能に接続されている。これにより、支持部10の吸盤21,22と陰圧発生部25とは、取り外しができ、支持部10のアクチュエータ部材51,52と駆動部55とは、取り外しができるので、手術に使用した支持部は、衛生面の観点から、陰圧発生部25と駆動部55から取り外すことができる。このため、次の手術には新しい支持部10を取り付けて使用できる。
【0077】
固定ベース部11の位置を固定するための固定体は、生体を保持する手術台の一部分である例えばレール部20Dである。これにより、支持部10の固定ベース部11は、レール部20Dを利用してこのレール部20Dに対して固定することで、支持部10の固定ベース部11は、患者の生体の部位Pに対して、確実に動かないように保持することができる。
【0078】
支持部10の形状は、U字型、V字型、楕円や長円を含む実質的な円形型、多角形型のいずれかである。これにより、生体の形状や手術の術部の形状に応じて、U字型、V字型、円形型、多角形型のいずれかから支持部の形状を採用することができる。
【0079】
本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。
上記実施形態の各構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせることができる。
【0080】
上述した本発明の実施形態では、外科用固定具は、心臓表面に吸着させることで、吸引して固定された心臓表面の部分だけ心臓の動きを制限する際に用いられている。しかしこれに限らず、本発明の外科用固定具は、手術もしくは手技の対象となる心臓表面以外の他の生体の部位について、必要とされる面積を露出して、この部位の少なくとも一部を囲んで当接して固定して、部位の高さ方向の位置変化を抑制する場合に用いることができる。
【0081】
変位位置検出部80としては、レーザ光を用いた三角測距方式のレーザ式変位センサを用いている。しかしこれに限らず、他の形式のセンサを用いることで、生体運動に基づいて前記部位が高さ方向に変位する変位位置を検出するようにしても良い。
位置調整部50は、一例として、4つのアクチュエータ容器51,52を備え、可動吸着部12は、4つの吸盤21,22を備えている。しかしこれに限らず、3つ以下あるいは5つ以上のアクチュエータ容器と吸盤を備えるようにすることも可能である。
手術もしくは手技の対象となる生体の部位としては、心臓Hの心臓の壁の表面Sの部位Pを例にしている。しかしこれに限らず、手術もしくは手技の対象となる生体の部位は、生体の運動により動く他の臓器等であっても良い。
【符号の説明】
【0082】
1・・・外科用固定具、10・・・支持部、11・・・固定ベース部、12・・・可動吸着部、20・・・固定アーム、20D・・・手術台のレール(固定体の例)21,22・・・吸盤、25・・・吸着用陰圧発生部、50・・・位置調整部、51,52・・・アクチュエータ容器、80・・・変位位置検出部、99・・・固定ベース部の開口部分、100・・・制御部、199・・・可動吸着部の開口部分
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