(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572064
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】小型油圧ショベル
(51)【国際特許分類】
E02F 9/00 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
E02F9/00 K
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-167741(P2015-167741)
(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公開番号】特開2017-43985(P2017-43985A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】398071668
【氏名又は名称】株式会社日立建機ティエラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西出 隆史
(72)【発明者】
【氏名】黄瀬 武司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 大和
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−100674(JP,A)
【文献】
実開平03−098349(JP,U)
【文献】
特開平11−269984(JP,A)
【文献】
特開2007−107314(JP,A)
【文献】
特開2001−082413(JP,A)
【文献】
特開2000−266118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/28−9/28
F16F 15/00−15/36
F15B 15/00−15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、この走行体上に配置される旋回体と、この旋回体に取り付けられる作業装置とを備え、この作業装置が、作業具を作動させる油圧シリンダと、この油圧シリンダのロッドのボスに設けたねじ座に形成したねじ部に螺合するボルトにより係止保持され、前記ロッドを保護するシリンダカバーとを含む小型油圧ショベルにおいて、
前記シリンダカバーの端部は、前記ねじ部にワッシャを介して前記ボルトにより係止保持された状態で、前記ボルトの延設方向に移動可能に設けられており、
前記シリンダカバーの前記端部と前記ねじ座との間には、前記シリンダカバーの前記端部を前記ボルトの頭部方向に付勢する弾性体が設けられ、
前記弾性体は、前記シリンダカバーの前記端部によって保護されていることを特徴とする小型油圧ショベル。
【請求項2】
請求項1に記載の小型油圧ショベルにおいて、
前記ボルトと前記弾性体とを離隔させる中間部材を設けたことを特徴とする小型油圧ショベル。
【請求項3】
請求項2に記載の小型油圧ショベルにおいて、
前記中間部材は、前記ボスに設けた前記ねじ座の一部を形成する凸部から成ることを特徴とする小型油圧ショベル。
【請求項4】
請求項2に記載の小型油圧ショベルにおいて、
前記中間部材は、前記ボスに設けた前記ねじ座とは別体に設けたスペーサから成ることを特徴とする小型油圧ショベル。
【請求項5】
請求項2に記載の小型油圧ショベルにおいて、
前記弾性体は、前記シリンダカバーの前記端部によって覆われる形状寸法に設定され、前記中間部材に装着される皿ばねから成ることを特徴とする小型油圧ショベル。
【請求項6】
請求項1に記載の小型油圧ショベルにおいて、
前記作業具は、バケットから成り、
前記油圧シリンダは、前記バケットを作動させるバケットシリンダから成り、
前記シリンダカバーに、前記ボルトの前記頭部の上面と同等以上の高さ寸法を有し、前記ボルトの前記頭部を囲むように配置される突出壁を設けたことを特徴とする小型油圧ショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置に含まれる油圧シリンダのロッドを保護するシリンダカバーを備えたミニショベル等の小型油圧ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術が特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示された従来技術は、走行体と、この走行体上に配置される旋回体と、この旋回体に取り付けられ、掘削作業等を行う作業装置とを備え、作業装置が作業具であるブームを作動させるブームシリンダのロッドを保護するカバー部材、すなわちシリンダカバーを含む構成になっている。
【0003】
シリンダカバーの一方の端部は、ブームシリンダのロッドの先端部、すなわちボスに、ワッシャを介してボルトによって固定されるようになっている。すなわちシリンダカバーは、ボルトによってブームシリンダのボスに片持ち式に装着されている。このように構成した従来技術では、シリンダカバーによって掘削された土砂等からブームシリンダのロッドを保護することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4695340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示されているシリンダカバーを例えば、掘削面の近くに位置することの多いバケットシリンダのロッドの保護のために設けようとする場合には、掘削した土砂、掘削対象となったコンクリートブロック、このコンクリートブロックに含まれる鉄筋などにより、小型油圧ショベルであることに伴って形状寸法の比較的小さいシリンダカバーに繰り返し外力が加えられることになる。この外力が、シリンダカバーの一方の端部をロッドのボスに直接締結させているボルト、ワッシャ、ボルトが螺合するねじ部を有するボスのねじ座を含むボルト締結部に作用することにより、このボルト締結部に緩みを生じる虞がある。このようなボルト締結部の緩みを生じると、ボルト、ワッシャ、ねじ座のねじ部が、あるいはシリンダカバーが損傷する懸念がある。
【0006】
本発明は、上述した従来技術における実情からなされたもので、その目的は、シリンダカバーを油圧シリンダのロッドのボスに締結するボルト締結部において生じる作業装置による作業に伴う緩みを、抑えることができる小型油圧ショベルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、走行体と、この走行体上に配置される旋回体と、この旋回体に取り付けられる作業装置とを備え、この作業装置が、作業具を作動させる油圧シリンダと、この油圧シリンダのロッドのボスに設けたねじ座に形成したねじ部に螺合するボルトにより係止保持され、前記ロッドを保護するシリンダカバーとを含む小型油圧ショベルにおいて、
前記シリンダカバーの端部は、前記ねじ部にワッシャを介して前記ボルトにより係止保持された状態で、前記ボルトの延設方向に移動可能に設けられており、前記シリンダカバーの前記端部と前記ねじ座との間には、前記シリンダカバーの前記端部を前記ボルトの頭部方向に付勢する弾性体
が設けられ、前記弾性体は、前記シリンダカバーの前記端部によって保護され
ていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る小型油圧ショベルは、作業装置による作業に伴う掘削物や障害物によってシリンダカバーに外力が加えられた際に、その外力に応じてシリンダカバーの端部を弾性体の付勢力に抗して、ボスのねじ座付近に形成した空間部内において移動させることができる。したがって本発明は、ボルト締結部に与えられる外力を軽減させてボルト締結部の緩みを抑え、ボルト、ボスのねじ座のねじ部の損傷、及びシリンダカバーの損傷を従来技術に比べて少なくすることができ、耐久性に優れた信頼性の高いシリンダカバー取り付け構造を実現させることができる。
【0009】
また本発明は、外力によって弾性体の付勢力に抗して空間部内を移動したシリンダカバーの端部を、弾性体の付勢力によってボルトの頭部側に係止されるように復帰させ、このシリンダカバーの端部の係止状態を弾性体の付勢力によって保持させることができる。これにより本発明は、シリンダカバーの端部を移動可能にしたものにあって、シリンダカバーの安定した保持を実現することができる。
【0010】
また本発明は、弾性体がシリンダカバーの端部によって保護されるので、掘削物や障害物の接触による弾性体の損傷を防ぎ、耐久性に優れたシリンダカバーを有する小型油圧ショベルの実現に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る小型油圧ショベルの一実施形態を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す小型油圧ショベルに備えられる作業装置に含まれるバケットシリンダ、及びバケットシリンダのロッドを保護するシリンダカバーを示す斜視図である。
【
図5】本発明の別の実施形態の要部拡大側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る小型油圧ショベルの実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る小型油圧ショベルの一実施形態を示す側面図である。
【0014】
この
図1に示すように、本実施形態に係る小型油圧ショベルは、例えばミニショベルから成り、走行体1と、この走行体1上に配置される旋回体2と、この旋回体2に上下方向の回動可能に取り付けられ、掘削作業等を行う作業装置3とを備えている。
【0015】
作業装置3は、旋回体2に上下方向の回動可能に連結されるブーム4と、このブーム4の先端に上下方向の回動可能に連結されるアーム5と、このアーム5の先端に上下方向の回動可能に連結されるバケット6とを含んでいる。これらのブーム4、アーム5、及びバケット6は作業具を構成している。
【0016】
また作業装置3は、ブーム4を作動させるブームシリンダ7と、アーム5を作動させるアームシリンダ8と、バケット6を作動させるバケットシリンダ9とを含んでいる。これらのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9は油圧シリンダを構成している。
【0017】
図2は、
図1に示す小型油圧ショベルに備えられる作業装置に含まれるバケットシリンダ、及びバケットシリンダのロッドを保護するシリンダカバーを示す斜視図、
図3は、
図2の要部分解斜視図、
図4は、
図2の要部拡大側断面図である。
【0018】
これらの
図2〜4に示すように、本実施形態に係るミニショベルは、油圧シリンダ例えばバケットシリンダ9のチューブ10に収容されるロッド11を保護する片持ち式のシリンダカバー15を備えている。
【0019】
このシリンダカバー15は一方の端部15aが、バケットシリンダ9のロッド11のボス12に設けたねじ座13のねじ部13aに螺合するボルト14によって、ワッシャ1
4bを介して係止保持されている。
【0020】
図4に示すように、本実施形態は、バケットシリンダ9のロッド11のボス12のねじ座13付近に、シリンダカバー15のボルト14が装着される端部15aのボルト14の延設方向に沿う移動が可能な空間部20を形成してある。また、その空間部20に、シリンダカバー15の端部15aによって保護されるとともに、シリンダカバー15の端部15aを、ボルト14の頭部14a方向に付勢する弾性体を設けてある。
【0021】
また、ボルト14と前述の弾性体とを離隔させる中間部材を設けてある。例えばこの中間部材は、ボス12に設けたねじ座13の一部を形成する凸部13bから成っている。
【0022】
前述した弾性体は、例えばシリンダカバー15の端部15aによって覆われる形状寸法に設定され、前述した凸部13bに装着される2枚の積層した皿ばね21から成っている。この皿ばね21は、ボス12のねじ座13に設けた凸部13bの下端に形成される段部に保持させてある。また、前述した空間部20は、ねじ座13の凸部13bの周囲に設けてある。
【0023】
またシリンダカバー15に、ボルト14の頭部14aの上面と同等以上の高さ寸法を有し、ボルト14の頭部14aを囲むように配置される突出壁22を設けてある。
【0024】
シリンダカバー15の端部15aには、ボルト14の挿入を許容させる穴15bを形成してある。また、
図3に示すように、バケットシリンダ9のチューブ10には、シリンダカバー15の摺動を容易にさせるガイド16を設けてある。
【0025】
前述したようにバケットシリンダ9のロッド11を保護するシリンダカバー15を備えた本実施形態に係るミニショベルでは、作業装置3を作動させて行われる掘削作業等の間、バケットシリンダ10のロッド11の伸長、収縮と一体的にシリンダカバー15がガイド16上を摺動する。したがって、このシリンダカバー15によって、掘削物や障害物からバケットシリンダ9のロッド11を保護することができる。
【0026】
このように構成した本実施形態に係るミニショベルにあっては、作業装置3による作業に伴う掘削物や障害物によってシリンダカバー15に外力が加えられた際に、その外力に応じてシリンダカバー15の端部15aを皿ばね21の付勢力に抗して、ボス12のねじ座13付近に形成した空間部20内において移動させることができる。したがって本実施形態は、ボルト締結部に与えられる外力を軽減させてボルト締結部の緩みを抑え、ボルト14、ワッシャ14b、ボス12のねじ座13のねじ部13aの損傷、及びシリンダカバー15の損傷を少なくすることができ、耐久性に優れた信頼性の高いシリンダカバー15の取り付け構造を実現させることができる。
【0027】
また本実施形態は、外力によって皿ばね21の付勢力に抗して空間部20内を移動したシリンダカバー15の端部15aを、皿ばね21の付勢力によってボルト14の端部14a側に係止させるように復帰させ、このシリンダカバー15の端部15aの係止状態を皿ばね21の付勢力によって保持させることができる。これにより本実施形態は、シリンダカバー15の端部15aを移動可能にしたものにあって、シリンダカバー15の安定した保持を実現させることができる。
【0028】
また本実施形態は、皿ばね21がシリンダカバー15の端部15aによって保護されるので、掘削物や障害物の接触による皿ばね21の損傷を防ぎ、耐久性に優れたシリンダカバー15を有するミニショベルの実現に貢献する。
【0029】
また本実施形態は、ボルト14と皿ばね21とを離隔させる凸部13bをねじ座13に設けたことから、この凸部13bによって、シリンダカバー15に与えられる外力に応じてボルト14に作用する剪断力から当該ボルト14を保護することができる。また、凸部13bにボルト14を強固に固定することができ、安定したボルト締結構造を実現させることができる。
【0030】
また本実施形態は、凸部13bがねじ座13の一部から成ることから、部材数の増加を抑えることができる。
【0031】
また本実施形態は、皿ばね21をシリンダカバー15の端部15aによって覆われる形状寸法に設定したことから、皿ばね21が外部に露呈せず、優れた意匠性を確保することができる。また、ミニショベルであることに伴って形状寸法が小さくなりやすいシリンダカバー15を備えたものであっても、シリンダカバー15の下側に形成される狭い空間20内を有効に活用して皿ばね21を確実に配置することができる。
【0032】
また本実施形態は、シリンダカバー15に、ボルト14の頭部14aの上面と同等以上の高さ寸法を有し、ボルト14の頭部14aを囲むように配置される突出壁22を設けたことから、掘削物や障害物のボルト14への接触を少なくすることができ、ボルト締結部の緩みの抑制に貢献する。
【0033】
図5は、本発明の別の実施形態の要部拡大側断面図である。
【0034】
この
図5に示す別の実施形態では、ボルト14と皿ばね21とを離隔させる中間部材が、ボス12に設けたねじ座13とは別体に設けたスペーサ23から成っている。このスペーサ23の周囲にシリンダカバー15の端部15aの移動が可能な空間部20を形成してある。その他の構成は前述した実施形態と同等である。
【0035】
このように構成した別の実施形態にあっては、前述した実施形態と同等の作用効果が得られる他、ボルト14が螺合するボス12のねじ座13のねじ部13aの長さ寸法を、スペーサ23の高さ寸法に応じて短くすることができるので、このねじ部13aの製作が容易である。また、これに伴って、ボルト14の締結作業を簡単に行うことができる。
【0036】
なお、前述した各実施形態にあっては、皿ばね21を2枚設けたが、1枚、あるいは3枚以上設けてもよい。
【0037】
また、前述した各実施形態にあっては、弾性体が皿ばね21から成っているが、この皿ばね21に代えてウレタンゴム等の他の弾性体を設けるようにしてもよい。例えばウレタンゴムを設ける場合には、シリンダカバー15の端部15aの裏面にウレタンゴムを接着させる構成にしてもよい。
【0038】
また、前述した各実施形態にあっては、シリンダカバー15をバケットシリンダ9に設けたが、アームシリンダ8、ブームシリンダ7に設けることもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 走行体
2 旋回体
3 作業装置
6 バケット(作業具)
9 バケットシリンダ(油圧シリンダ)
11 ロッド
12 ボス
13 ねじ座
13a ねじ部
13b 凸部(中間部材)
14 ボルト
14a 頭部
14b ワッシャ
15 シリンダカバー
15a 端部
15b 穴
20 空間部
21 皿ばね(弾性体)
22 突出壁
23 スペーサ(中間部材)