(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電動機のメンテナンス性を高めたり、電動機を小さくしても大きな出力を得られるようにしたりする観点から、速度センサが設けられていない、いわゆる速度センサレス電動機制御装置が知られている(例えば特許文献1,2参照)。このような速度センサレス電動機制御装置で電動機のトルクを制御する際には、一般に電動機の速度(角速度)を推定する必要がある。
【0003】
図3は、従来の速度センサレス電動機制御装置の構成例を示すブロック図である。従来の速度センサレス電動機制御装置は、トルク制御部1と、拾い上げ制御部2と、切替部3と、電力変換部4と、電流検出部5と、初期値推定部7と、同定用タイマ21と、磁束演算器22と、演算磁束メモリ23と、演算磁束抽出器24と、R1A同定器25と、を備える。同定用タイマ21、磁束演算器22、演算磁束メモリ23、演算磁束抽出器24、及びR1A同定器25の各機能については後述する。
【0004】
電流検出部5は、電動機6に流れる電流ベクトルiを検出する。拾い上げ制御部2は、電流検出部5で検出した電流ベクトルi、直流電流指令I、及び電流位相角指令θを入力し、電動機6に流れる電流iを指令(I,θ)通りの直流電流にするための、拾い上げ電圧指令v0を出力する。
【0005】
初期値推定部7は、電流ベクトルi、拾い上げ電圧指令v0、電動機6の一次抵抗R1及び拾い上げ制御開始指令STを入力とし、電動機6の初期速度ωm0及び初期二次磁束φ20を出力する。
【0006】
トルク制御部1は、トルク制御開始指令SWがオンになると、初期値推定部7の出力である初期速度ωm0と初期二次磁束φ20とを初期値として、電流ベクトルiを元に、電動機6のトルクを制御するトルク制御電圧指令V1を出力する。なお、ここで示す例では、電動機6の電源が投入された時点では、トルク制御開始指令SWはオフの状態となっている。
【0007】
切替部3は、トルク制御開始指令SWにより、拾い上げ電圧指令v0とトルク制御電圧指令V1を切替えて出力する。すなわち、トルク制御開始指令SWがオンになるまでは拾い上げ電圧指令v0を電圧指令V*とし、トルク制御開始指令SWがオンになるとトルク制御電圧指令V1を電圧指令V*として出力する。
【0008】
電力変換部4は、電圧指令V*を増幅して電動機6に電力を供給する。
【0009】
上述の構成により、トルク制御開始指令SWがオンになるまでは、拾い上げ制御部2と初期値推定部7とで、電動機6の初期速度ωm0と初期二次磁束φ20を推定する。トルク制御開始指令SWがオンになると、SWがオンになった時点の初期速度ωm0と初期二次磁束φ20を初期値として、電動機6のトルク制御が行われる。トルク制御開始指令SWをオンにするタイミングは、拾い上げ制御実施時間、初期速度ωm0と初期二次磁束φ20の状態、等に基づいて決定する。
【0010】
以下、トルク制御開始指令SWがオンになるまでの、拾い上げ制御における初期値推定部7の動作に関して詳細に説明する。
【0011】
初期値推定部7では、電流ベクトルi、拾い上げ電圧指令v0から電動機6の初期速度ωm0を推定し、初期二次磁束φ20を推定する。
図4は、初期値推定部7の一構成例である。初期値推定部7は、実磁束推定部9と、実磁束メモリ10と、実磁束抽出部11と、初期速度推定部12と、初期磁束推定部13と、演算用タイマ14と、を有する。
【0012】
実磁束推定部9は、電流ベクトルi、拾い上げ電圧指令v0、及び電動機6の一次抵抗R1を用いて、式(A)により電動機6の実磁束推定ベクトルφ2rを演算する。
【数1】
ここで、L1は一次自己インダクタンス、L2は二次自己インダクタンス、Mは相互インダクタンスである。
【0013】
演算用タイマ14は、拾い上げ制御開始指令STのエッジで0クリアされるタイマカウンタであり、拾い上げ時刻t0を出力する。
【0014】
実磁束メモリ10は、時々刻々と変化する実磁束推定ベクトルφ2rの、時刻0から拾い上げ時刻t0の区間までを記憶する。実磁束抽出部11は、時刻0〜t0の区間から、任意の3時点t00,t01,t02の実磁束推定ベクトルφ2rであるφ(t00),φ(t01),φ(t02)をそれぞれ抽出する。
【0015】
初期速度推定部12は、例えば式(B)〜式(G)により、初期速度ωm0を演算する。この方法では、最初に、3つの実磁束推定ベクトルφ(t00),φ(t01),φ(t02)の各終点を通る円の中心Rを式(B)〜式(E)で求める。
【0016】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
ここで、ベクトルF1は、実磁束推定ベクトルφ(t00)の終点からみた実磁束推定ベクトルφ(t01)の終点を示すベクトルである。ベクトルF2は、実磁束推定ベクトルφ(t00)の終点からみた実磁束推定ベクトルφ(t02)の終点を示すベクトルである。また、(F1A,F1B),(F2A,F2B),(RA,RB)は、各々、ベクトルF1,F2,Rの各成分である。
【0017】
次に、円の中心Rから見た、実磁束推定ベクトルφ(t00)と実磁束推定ベクトルφ(t02)との間の角度θCを式(F)で求める。
【0018】
【数6】
式(F)に示す記号「×」はベクトルの外積を示し、記号「・」はベクトルの内積を示す。
【0019】
時刻t00からt02まで(例えば数十ミリ秒)の電動機6の回転速度は、ほぼ一定とみなすことができる。このため、式(G)により初期速度ωm0を求めることができる。
【0020】
【数7】
【0021】
初期磁束推定部13は、電流ベクトルiを使って、式(H)により初期二次磁束φ20を求める。
【数8】
式(H)に示すjは虚数単位である。T2は、電動機6の二次時定数であって、二次抵抗R2を用いてL2/R2で算出される。φxxは、拾い上げ制御開始時の残留磁束である。なお、式(H)の第2項は、ベクトルRに対する実磁束推定ベクトルφ2rの相対ベクトルとして求めることもできる。
【0022】
しかしながら、上述の拾い上げ技術においては、以下に示すように改良の余地がある。
電動機6の温度の変動等により一次抵抗R1に誤差が発生している場合、式(A)の積分項により、当該誤差が実磁束演算器9の出力値である演算磁束ベクトルφ2rに積算されていく。その結果、実磁束抽出器11の出力であるφ(t00),φ(t01),φ(t02)に誤差が生じる。また、φ(t00),φ(t01),φ(t02)に基づいて式(B)〜式(H)で推定する初期速度ωm0及び初期二次磁束φ20にも同様に、誤差が生じる。
【0023】
このように、一次抵抗R1に誤差が存在する場合、初期値推定部7が推定する初期速度ωm0及び初期二次磁束φ20に誤差が生じ、トルク制御部1の初期値に誤差が存在するために、電動機6のトルク制御の精度が必ずしも十分でない場合があった。
【0024】
そこで、同定用タイマ21、磁束演算器22、演算磁束メモリ23、演算磁束抽出器24、及びR1A同定器25を用いて、式(A)の一次抵抗R1を推定できるようにする。以下、詳細に説明する。
【0025】
同定用タイマ21は、拾い上げ制御開始指令STのエッジで0クリアされるタイマカウンタであり、同定時刻txを出力する。磁束演算器22は、電流ベクトルi、拾い上げ電圧指令v0、一次抵抗ノミナル値R1Cから式(I)で演算磁束ベクトルφ2sを演算する。
【数9】
【0026】
演算磁束メモリ23は、時々刻々と変化する演算磁束ベクトルφ2sを、時刻0〜txの区間において記憶する。
【0027】
演算磁束抽出器24は、時刻0〜txの区間から、等間隔の3時点の演算磁束ベクトルφ2sの値φs(tx0)、φs(tx1)、φs(tx2)を抽出する。以下の説明において、時刻tx2として同定時刻txを用いる。また、3時点の間隔txsを
【数10】
と置く。
【0028】
R1A同定器25は、演算磁束ベクトルφs(tx0),φs(tx1),φs(tx)と、同定時刻txと、電流ベクトルiと、一次抵抗ノミナル値R1Cと、が入力され、一次抵抗R1を出力する。以下、R1A同定器25について述べる。
【0029】
式(K)に示すように、一次抵抗ノミナル値R1Cが誤差ΔRだけ真値R1からずれていたと仮定する。
【数11】
式(I)のR1Cに式(K)を代入すると、電流ベクトルiは一定なので、式(I)は、式(A)を用いて、式(L)で表される。
【数12】
式(L)に示すtは、演算磁束ベクトルφ2sの演算時間である。また、L2≒Mとした。
【0030】
次に、式(M)〜式(O)により、E0を計算する。
FS1=φr(tx1)-φr(tx0)=φs(tx1)-φs(tx0)-txs*ΔR*i 式(M)
FS2=φr(tx)-φr(tx0)=φs(tx)-φs(tx0)-2*txs*ΔR*i 式(N)
【数13】
ここで、φr(tx0),φr(tx1),φr(tx)は、時刻tx0,tx1,txでの実磁束ベクトルφ2rである。また、E0A,E0Bは、E0をΔRについてまとめた場合の各係数である。
【0031】
実磁束ベクトルφ2rは円を描くので、ベクトルφr(tx0),φr(tx1),φr(tx)は同一円上に位置する。さらに、ベクトルφr(tx0),φr(tx1),及びφr(tx)は等間隔(txs間隔)で抽出したものである。このため、ベクトルφr(tx0)とφr(tx1)との位相差、及びφr(tx1)とφr(tx)との位相差が等しいため、E0の値は常に0である。一次抵抗誤差ΔRは、式(O)にE0=0を代入して整理した式(P)で求めることができる。
ΔR=−E0A/E0B 式(P)
【0032】
上述のように、同定用タイマ21、磁束演算器22、演算磁束メモリ23、演算磁束抽出器24、及びR1A同定器25により、一次抵抗R1の変動を同定する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0043】
図1は、本発明の一実施形態に係る電動機制御装置を示すブロック図である。電動機制御装置は、トルク制御部1と、拾い上げ制御部2と、切替部3と、電力変換部4と、電流検出器5と、初期値推定部7と、同定用タイマ21と、磁束演算器22と、回転座標変換器31と、極値時間検出器32と、演算用磁束選択器33と、同定器34と、回転磁束メモリ35と、を備える。トルク制御部1、拾い上げ制御部2、切替部3、電力変換部4、電流検出器5、初期値推定部7、及び同定用タイマ21は、上述した従来例と同様の構成である。
【0044】
回転座標変換器31は、演算磁束ベクトルφ2sと電流位相角θとが入力され、式(Q)及び式(R)により固定座標系α−βから回転座標系A−Bに変換した回転磁束ベクトルφ2tを算出する。
F2tA=F2sα・cosθ+F2sβ・sinθ 式(Q)
F2tB=−F2sα・sinθ+F2sβ・cosθ 式(R)
ここで、F2sα及びF2sβは、固定座標系α−βにおける演算磁束ベクトルφ2sの成分である。F2tA及びF2tBは、回転座標系A−Bにおける回転磁束ベクトルφ2tの成分である。また、回転座標系A−Bにおいて、A軸は電流方向の軸(電流軸)、B軸は電流方向に直交する軸である。回転磁束ベクトルφ2tを式(L)に適用すると、
F2tA=F2rtA+ΔR・I・t 式(S)
F2tB=F2rtB 式(T)
となる。ここで、F2rtA及びF2rtBは、回転座標系A−Bにおける実磁束推定ベクトルφ2rの成分である。
【0045】
式(S)及び式(T)から明らかなように、回転座標変換器31を用いて行う上述の回転座標変換によって、一次抵抗誤差ΔRの影響がF2tAのみとなり、F2tBには一次抵抗誤差ΔRの影響が無くなる。すなわち、演算磁束ベクトルφ2Sを電流位相角θ方向へ回転座標変換した回転磁束ベクトルφ2tにおいて、一次抵抗誤差ΔRは、A軸(電流軸)方向成分のみにあらわれる。
【0046】
回転磁束ベクトルφ2tを用いて、式(M)〜式(P)を展開すると、
F11A=Fx11A−Fx00A、F11B=Fx11B−Fx00B 式(U)
F22A=Fx22A−Fx00A、F22B=Fx22B−Fx00B 式(V)
ΔR={F22A*(2*F11A−F22A)+F22B*(2*F11B−F22B)}/(2*F11A−F22A)/(tx2-tx0)/I
式(W)
となる。ここで、Fx00A及びFx00Bは、回転磁束ベクトルφt(tx0)の成分である。Fx11A及びFx11Bは、回転磁束ベクトルφt(tx1)の成分である。Fx22A及びFx22Bは、回転磁束ベクトルφt(tx2)の成分である。以下、時刻tx2として同定時刻txを用いる。
【0047】
図5に示す“従来分母値”は、式(W)を式(P)に適用した場合における、分母値E0Bの一部であって、式(X)で示す値である。
E0B/(tx-tx0)/I=2*F11A-F22A=2*Fx11A-Fx22A-Fx00A 式(X)
ここで、Fx11Aは演算磁束ベクトルφs(tx1)のA軸成分、Fx22Aは演算磁束ベクトルφs(tx)のA軸成分、及びFx00A=0(tx0を
図5の左端の時刻)である。式(X)で示す値は、分母値E0Bに含まれる、磁束ベクトルに基づいて定まる係数である。以下、分母値E0Bに含まれる係数であって磁束ベクトルに基づく係数を、分母値E0Bの一部という。
【0048】
回転磁束メモリ35は、同定時刻txにおける回転座標変換器31の出力である回転磁束ベクトルφ2tを記憶する。
【0049】
極値時間検出器32は、時刻txよりも前の複数時点における時刻を参照時刻(txb1,txb2,…)として決定し、当該決定した参照時刻を出力する。本実施形態に係る極値時間検出器32は、2つの参照時刻txb1,txb2を出力する。
【0050】
好適には、本実施形態の極値時間検出器32は、
図2に示すように、回転磁束ベクトルφ2tのB軸成分(電流軸直交成分)F2tBにおいて同定時刻txより前の最初(1個目)の極値を検出する。極値時間検出器32は、回転磁束ベクトルφ2tのB軸成分が極値となる時刻(極値時刻)を参照時刻txb1として決定する。同様に、極値時間検出器32は、B軸成分F2tBにおいて同定時刻tx以前の2個目の極値を検出し、検出した極値の極値時刻を参照時刻txb2として決定する。すなわち、極値時間検出器32は、同定時刻txより前の直近の2つの極値時刻を、参照信号txb1,2として決定する。好適には、極値時間検出器32は、B軸成分F2tBにおいて、同定時刻tx以前に極値が1つのみ存在する場合、参照時刻txb2=0と定める。また好適には、極値時間検出器32は、B軸成分F2tBにおいて同定時刻txより以前に極値が存在しない場合、参照時刻txb1=txb2=0と定める。
【0051】
演算用磁束選択器33は、極値時間検出器32が出力した複数の参照時刻のうちいずれか1つの参照時刻を選択時刻txbとして決定し、決定した選択時刻txbを出力する。選択時刻txbの決定のために、演算用磁束選択器33は、参照時刻ごとに式(P)に用いる分母値E0Bに基づいて選択時刻txbを決定する。選択時刻txbの決定方法の詳細については後述する。また、演算用磁束選択器33は、時刻txb,txmb,txにおける回転磁束ベクトルφt(txb),φt(txmb),φt(tx)を出力する。時刻txmbは、選択時刻txbと同定時刻txの中間時点における時刻である。
【0052】
以下、選択時刻txbの決定方法について説明する。例えば、本実施形態に係る演算用磁束選択器33は、参照時刻txb1,txb2を用いて、式(Y)及び式(Z)により、式(P)の分母値E0Bの一部として用いるための、異なる2つの値E0B_1,E0B_2をそれぞれ算出する。
E0B_1=2*Fx1mA−Fx22A−Fx_txb1A 式(Y)
E0B_2=2*Fx2mA−Fx22A−Fx_txb2A 式(Z)
ここで、Fx1mAは、参照時刻txb1と同定時刻txの中間時点における回転磁束ベクトルφ2tのA軸成分である。Fx22Aは、同定時刻txにおける回転磁束ベクトルφt(tx)のA軸成分である。Fx_txb1Aは、参照時刻txb1における回転磁束ベクトルφt(txb1)のA軸成分である。Fx2mAは、参照時刻txb2と同定時刻txの中間時点における回転磁束ベクトルφ2tのA軸成分である。Fx_txb2Aは、参照時刻txb2における回転磁束ベクトルφt(txb2)のA軸成分である。
【0053】
そして、演算用磁束選択器33は、例えば式(AA)及び式(AB)により、算出した2つの値E0B_1,E0B_2のうち、絶対値が大きい値に対応する参照時刻を選択時刻txbとして決定する。
|E0B_1|≧|E0B_2|ならばtxb=txb1、|E0B_1|<|E0B_2|ならばtxb=txb2
式(AA)
txmb=(txb+tx)/2 式(AB)
【0054】
同定器34は、選択時刻txbとφt(txb)、φt(txmb)、φt(tx)を用いて、下記式(AC)〜式(AF)より一次抵抗R1を演算する。
F111A=Fx111A−Fx000A、F111B=Fx111B−Fx000B 式(AC)
F222A=Fx222A−Fx000A、F222B=Fx222B−Fx000B 式(AD)
ΔR={F222A*(2*F111A−F222A)+F222B*(2*F111B−F222B)}/(2*F111A−F222A)/(tx-txb)/I
式(AE)
R1=R1C+ΔR 式(AF)
ここで、Fx000A及びFx000Bは、回転磁束ベクトルφt(txb)の成分である。Fx111A及びFx111Bは、回転磁束ベクトルφt(txmb)の成分である。Fx222A及びFx222Bは、回転磁束ベクトルφt(tx)の成分である。
【0055】
次に、
図2を参照して、従来例及び本発明の実施形態に係る速度センサレス電動機制御装置の動作について説明する。
図2において、“F2tA”及び“F2tB”は、それぞれ回転磁束ベクトルφ2tのA軸成分及びB軸成分である。“従来分母値”は、
図5における“従来分母値”と同一であって、従来例による速度センサレス電動機制御装置が式(X)で算出した分母値E0Bの一部である。“分母値候補1”は、本実施形態に係る速度センサレス電動機制御装置が式(Y)で算出した値E0B_1である。“分母値候補2”は、本実施形態に係る速度センサレス電動機制御装置が式(Z)で算出した値E0B_2である。“発明分母値”は、選択時刻txbを用いて同定器34が算出した、式(AE)の分母値の一部(2*F111A−F222A)である。
【0056】
本実施形態に係る速度センサレス電動機制御装置によれば、
図2に示すように、同定開始よりも後の時点において発明分母値がゼロとなることがない。また、例えば式(AA)により、より高い値を有する分母値に対応する参照時刻を優先的に選択時刻txbとして決定するため、一次抵抗誤差ΔRを求める式(AE)の演算精度を向上可能である。
【0057】
以上により、本実施形態の速度センサレス電動機制御装置によれば、一次抵抗誤差ΔRの推定精度を向上でき、その結果、電動機6の初期速度ωm0及び初期二次磁束φ20の推定精度を向上し、電動機トルクの制御の精度を向上可能である。
【0058】
本発明を諸図面に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。例えば、上述の実施形態では、極値時間検出器32は、2つの極値時刻を参照時刻txb1,txb2として決定するが、3つ以上の極値時刻を参照時刻(txb1,txb2,…)として決定してもよい。また、同定時刻txよりも前の複数の任意の時刻を参照時刻(txb1,txb2,…)として決定してもよい。
【0059】
また、極値時間検出器32が3つ以上の参照時刻(txb1,txb2,…)を出力する場合、演算用磁束選択器33は、各参照時刻を用いてそれぞれ算出した分母値(E0B_1,E0B_2,…)の絶対値が最も小さい分母値を検出し、当該分母値に対応する参照時刻を除く複数の参照時刻のうちいずれか1つを選択時刻txbに定める構成であってもよい。好適には、演算用磁束選択器33は、絶対値が最も大きい分母値を検出し、当該分母値に対応する参照時刻を選択時刻txbに定める。