(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る液封防振装置の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、「前後」「上下」を言うときは、
図1に示した方向を基準とするが、「前後」「上下」は、自動車の車体に対する前後方向とは必ずしも一致するものではない。なお、液封防振装置に対する上下方向は主たる振動の入力方向である。
【0015】
液封防振装置は、振動源側と非振動源側(振動受け側)との間に配置される液封式の防振装置である。液封防振装置は、
図1に示すように、第1取付部材10と、第2取付部材20と、これらの間を弾性的に連結するインシュレータ30とを備える。第1取付部材10は、例えば、振動源であるエンジン(不図示)側に配置される。また、第2取付部材20は、振動受け側である車体側(不図示)に配置される。なお、第1取付部材10は車体側に配置されてもよいし、第2取付部材20はエンジン側に配置されてもよい。第2取付部材20には、
図2に示すように、防振ユニット40が取り付けられている。防振ユニッ
ト40は、
図3(a)に示すように平面視で円形状を呈している。なお、
図3(a)に示すA−A線は、
図1に示すA−A線に対応している。
【0016】
第1取付部材10は、エンジン側(振動源側)に固定される部材である。第1取付部材10は、
図1,
図2に示すように、インシュレータ30の上部に一体に設けられている。第1取付部材10は、
図2に示すように、略全体がインシュレータ30に埋設されており、かつインシュレータ30に加硫接着されている。第1取付部材10は、例えば、アルミニウム合金製である。
【0017】
第1取付部材10は、断面形状がテーパー状を呈している。第1取付部材10は、インシュレータ30から露出する平坦な座面11と、ボルト穴12とを備えている。座面11の法線方向に主たる振動が入力される。
【0018】
インシュレータ30は、
図2に示すように、凹部31を備えている。凹部31は、図の下方へ開放されており、防振ユニット40に備わる仕切部材41で仕切られて主液室1となる。凹部31の内部には、非圧縮性の作動液体が封入される。インシュレータ30の下部は、第2取付部材20の内面に固着されている。
【0019】
防振ユニット40は、仕切部材41により主液室1と副液室2とを区画している。主液室1と副液室2とは、仕切部材41の外周部に形成されたオリフィス通路43cにより連通している。オリフィス通路43cは、例えば、低周波数の振動に対して共振するよう設定されている。副液室2は、ダイヤフラム3と仕切部材41との間に形成され、ダイヤフラム3を壁部の一部としている。
図2の下方へ向かう振動が主液室1を加圧する正圧側となり、上方へ向かう振動が主液室1を減圧する負圧側となる。この正圧側と負圧側の振動が交互に入力することにより、主液室1は拡縮を繰り返す。この際、作動液体がオリフィス通路43cを通って主液室1と副液室2との間を移動し、所定の共振周波数にて液柱共振して高減衰を実現する。
【0020】
第2取付部材20は、図示しないブラケットを介して車体側(振動受け側)に固定される部材である。第2取付部材20は、円筒状を呈している。第2取付部材20は、例えば、図示しないブラケット等に設けられた取付部に対して圧入固定される。第2取付部材20の下部の内面20aは、防振ユニット40が入る収容空間を画成している。
【0021】
防振ユニット40は、インシュレータ30の凹部31を覆うように配置されるものである。防振ユニット40は、
図2に示すように、仕切部材41と、仕切部材41の下部に配置されるダイヤフラム3とを備えている。ダイヤフラム3は、薄肉の本体部3aと、その外周部に一体形成されたシール部3bとを備えている。シール部3bは、仕切部材41の下面の外周端部に装着され、外筒金具21と仕切部材41との間に介在される。
【0022】
仕切部材41は、
図3(a)に示すように、液封防振装置の外形状(
図1参照)に対応して、平面視円形状を呈している。仕切部材41は、
図3,4に示すように、第1プレートとしての上プレート42と、第2プレートとしての下ホルダ43と、弾性仕切部材44とを備えている。オリフィス通路43cは、
図4に示すように、弾性仕切部材44の外側となる部位に設けられている。
【0023】
上プレート42と下ホルダ43とは、アルミニウム合金等の軽金属で構成されている。なお、硬質樹脂等の樹脂材料で構成してもよい。上プレート42には、
図3(a),
図4に示すように、円形の開口部42aが形成されている。開口部42aには、1本の縦リブ42a1と、この縦リブ42a1に直交する3本の横リブ42a2とが形成されている。開口部42aは、これらの縦リブ42a1と横リブ42a2によって、複数の孔部42a
3に区画されている。各孔部42a3には、
図3(a)に示すように、弾性仕切部材44の上面が臨んでいる。これによって、弾性仕切部材44の上面は、各孔部42a3を通じて主液室1(
図2参照)に臨んでいる。各孔部42a3内には、
図5(a)(b)に示すように、弾性仕切部材44に突出形成された厚膜部44bが収容される。本実施形態では、隣接する2つの厚膜部44bが各孔部42a3内に収容されるように、縦リブ42a1と横リブ42a2との間隔を設定してある。
【0024】
縦リブ42a1および横リブ42a2は、弾性仕切部材44の薄膜部44aに対して所定のクリアランスC3をもって対向配置されている(
図5(b)では横リブ42a2に対するクリアランスC3のみ図示)。縦リブ42a1および横リブ42a2は、上方へ向かう弾性仕切部材44の変位量を規制する変位量規制部として機能する。
上プレート42の外周部には、
図3(a)に示すように、オリフィス通路43cの主液室側開口部42bが形成されている。
【0025】
下ホルダ43は、
図4に示すように、有底円筒状を呈している。下ホルダ43は、底部430と、底部430から一体的に立ち上がる外周壁部431と、を備えている。外周壁部431の内側には、外周壁部431と同心円状の内周壁部432が形成されている。下ホルダ43において、オリフィス通路43cは、外周壁部431と内周壁部432と底部430とで囲われる空間によって形成されている。そして、オリフィス通路43cは、下ホルダ43に上プレート42が取り付けられることによって、弾性仕切部材44の外側となる部位に形成される。底部430には、
図3(c)に示すように、オリフィス通路43cの副液室側開口部43eが形成されている。
【0026】
内周壁部432の内側には、弾性仕切部材44が収容される収容空間433が形成されている。収容空間433の底部には、格子状に形成されたリブ43aと、リブ43aの下部に重ねて形成された下部リブ43bと、が設けられている。収容空間433の底部は、格子状のリブ43aによって複数の孔部43a1に区画されている。各孔部43a1には、
図3(c),
図5(a)に示すように、弾性仕切部材44の下面が臨んでいる。これによって、弾性仕切部材44の下面は、各孔部43a1を通じて副液室2(
図2参照)に臨んでいる。
【0027】
各孔部43a1内には、
図5(a)(b)に示すように、弾性仕切部材44の厚膜部44bの一部が収容される。本実施形態では、格子状のリブ43aのピッチ間隔が、弾性仕切部材44の厚膜部44bのピッチ間隔と同一に設定されている。これによって、弾性仕切部材44の厚膜部44bが各孔部43a1内にそれぞれ収容されるようになっている。
【0028】
格子状のリブ43aは、
図5(b)に示すように、弾性仕切部材44の薄膜部44aの下面44a1に対して所定のクリアランスC2をもって対向配置されている。格子状のリブ43aは、下方へ向かう弾性仕切部材44の薄膜部44aの変位量を規制する変位規制部として機能する。
なお、格子状のリブ43aは、特許請求の範囲における第2規制部に相当する。
【0029】
下部リブ43bは、
図3(c),
図4に示すように、左右方向に延在し、格子状のリブ43aの下部に一体的に形成されている。さらに、
図5(b)に示すように、弾性仕切部材44とのクリアランスを形成するため、格子状のリブ43aとの上下方向の高さを変えてある。
下部リブ43bは、
図3(c)に示すように、格子状のリブ43aの各孔部43a1の開口の中央部分を左右方向に横断するように配置されている。つまり、下部リブ43bは、格子状のリブ43aに対して少なくとも一部が直交して配置されている。
【0030】
下部リブ43bは、
図5(b)に示すように、弾性仕切部材44の厚膜部44bの下面44b1に対して所定のクリアランスC1をもって対向配置されている。下部リブ43bは、下方へ向かう弾性仕切部材44の厚膜部44bの変位量を規制する変位規制部として機能する。
なお、下部リブ43bは、特許請求の範囲における第1規制部に相当する。
【0031】
本実施形態では、前記したクリアランスC1,C2の関係を次のように設定してある。すなわち、
図5(b)に示すように、弾性仕切部材44の厚膜部44bと下部リブ43bとのクリアランスC1は、薄膜部44aと格子状のリブ43aとのクリアランスC2よりも小さくなるように設定してある(つまり、C1<C2となる関係に設定してある)。
したがって、入力振幅が比較的大きい場合には、まず、厚膜部44bが下部リブ43bに当接して厚膜部44bの変位量が規制され、その後、薄膜部44aが格子状のリブ43aに当接して薄膜部44aの変位量が規制される。
【0032】
弾性仕切部材44は、ゴム等の弾性部材からなり、平面視円形状を呈している。弾性仕切部材44は、
図4,
図5(a),
図6に示すように、板状部442と、板状部442の周縁部に沿って上下方向に突出形成された周リブ441とを有している。板状部442は、主液室1の液圧を受ける受圧部(受圧面)をなす。板状部442は、主液室1の内圧変化を受けて弾性変形することにより、内圧変化を吸収する。周リブ441は、周溝43d(
図4参照)に装着される。
【0033】
板状部442は、薄膜部44aと、薄膜部44aよりも振動入力軸方向に厚肉に形成された厚膜部44bとを備えている。薄膜部44aは、入力振幅が比較的小さい場合に液圧変動を吸収する(低動バネ化)。薄膜部44aの上面は、縦リブ42a1および横リブ42a2に対向配置されている(
図5(a)(b)では横リブ42a2に対する薄膜部44aの対向配置のみを図示)。薄膜部44aの下面は、格子状のリブ43aに対向配置されている。
【0034】
厚膜部44bは、薄膜部44aの上面および下面から振動入力軸方向に突出して肉厚に形成された部分である。厚膜部44bは、
図3(a)(c)に示すように、平面視で略四角形状(一部は略三角形状)を呈している。板状部442の上面の厚膜部44bは、
図3(a)に示すように、上プレート42の孔部42a3に収容されている。板状部442の下面の厚膜部44bは、下ホルダ43の孔部43a1に収容されている。厚膜部44bの下面は、
図5(a)(b)に示すように、格子状のリブ43aの形成されていない部分となる下部リブ43bに対向配置されている。厚膜部44bの下面部は、リブに規制されていない部分も厚膜部に形成して、減衰特性を高める構造となっている。
【0035】
次に、本実施形態の作用を説明する。
アイドル時等の入力振幅(エンジン振動の振幅)が比較的小さい場合(すなわち、高周波小振幅振動の場合)には、下部リブ43bおよび格子状のリブ43aで変位量が規制されることなく、弾性仕切部材44の薄膜部44aが弾性変形し、液圧変動が吸収される(低動バネ化される)。この場合、厚膜部44bは、厚肉に形成されているため、ほとんど弾性変形せず、薄膜部44aと一体になって上下動する。このため、厚膜部44bはバネとして機能せず、薄膜部44aのバネが主体的になって、防振効果を発揮する。
【0036】
一方、入力振幅が比較的大きい場合(すなわち、低周波大振幅振動の場合)には、弾性仕切部材44の厚膜部44bおよび薄膜部44aの両方が大きく弾性変形する。そうすると、前記クリアランスC1,C2の関係から、厚膜部44bが下部リブ43bに当接して厚膜部44bの変位量が規制され、続いて薄膜部44aが格子状のリブ43aに当接して薄膜部44aの変位量が規制される。これらの規制によって弾性仕切部材44の一定以上
の変形が規制され、弾性仕切部材44の剛性が効果的に高められる。これにより、オリフィス通路43cによる高減衰特性が発揮されて優れた防振効果が実現される。
【0037】
図7は本実施形態の液封防振装置における動特性の傾向を示すグラフである。
図7において、横軸は入力振動の周波数(Hz)であり、左側の縦軸は動バネ定数(N/mm)であり、右側の縦軸は減衰係数(N・S/mm)である。なお、比較例の弾性仕切部材は、本実施形態の厚膜部44bに相当する部分を有しておらず、薄膜部44aのみを備えた略平板状の部材(通常の弾性仕切部材)である。
【0038】
図7において、太い実線で示す減衰曲線L1は、本実施形態において±1.0mmの振動が入力した場合(入力振幅が比較的大きい場合)の減衰曲線であり、細い実線で示す減衰曲線L11は、比較例の弾性仕切部材において±1.0mmの振動が入力した場合の減衰曲線である。
また、太い破線で示す減衰曲線L2は、本実施形態において±0.5mmの振動が入力した場合の減衰曲線であり、細い破線で示す減衰曲線L21は、比較例の弾性仕切部材において±0.5mmの振動が入力した場合の減衰曲線である。
また、太い一点鎖線で示す動バネ曲線R1は、本実施形態において±0.25mmの振動が入力した場合の動バネ曲線であり、細い一点鎖線で示す動バネ曲線R11は、比較例の弾性仕切部材において、±0.25mmの振動が入力した場合の動バネ曲線である。
【0039】
周波数aは周波数bよりも小さく(すなわちa<b)、周波数bは周波数cよりも小さい(すなわちb<c)、周波数a〜cの大小関係は、a<b<cである。
【0040】
本実施形態の減衰曲線L1および比較例の減衰曲線L11では、ともに、周波数cにて減衰ピークが生じている。
【0041】
一方、本実施形態の減衰曲線L2では、周波数bにて減衰ピークが生じており、また、比較例の減衰曲線L21では、周波数aにて減衰ピークが生じている。つまり、本実施形態では、減衰ピークの幅D1(周波数c−周波数b)を、比較例の減衰ピークの幅D2(周波数c−周波数a)に比べて狭く(小さく)することができる。別言すれば、本実施形態では、2つの減衰ピークを比較例に比べて近づけることが可能であり、振幅依存性に起因して、減衰効果のピークが低周波側に移動してしまうのを効果的に抑制することができる(比較例に比べて振幅依存性が小さくなっている)。このように、2つの減衰ピークを近づけることが可能であるので、これらを1つの制御デバイス(弾性仕切部材44)でまとめて制御することができ、2つの異なる振動(±0.5mmおよび±1.0mmの振動)を好適に減衰することができる。
【0042】
加えて、本実施形態では、±0.25mmの振動の入力に対して、高周波数域の振動(アイドル振動、図中周波数d付近の振動)の低動ばねを比較例の弾性仕切部材と同等に保つことが可能である。つまり、本実施形態では、弾性仕切部材44が薄膜部44aと厚膜部44bとを有する構造であるにもかかわらず、薄膜部44aは、通常の弾性仕切部材と同等の低動ばね性能を維持している。
【0043】
このように、本実施形態では、振幅依存性の低減を図りつつ低動バネ化が可能であり、動特性の改善が可能になる。
【0044】
以上説明した本実施形態の液封防振装置によれば、入力振幅が比較的小さい場合には、弾性仕切部材44の薄膜部44aによって液圧変動が吸収される(低動バネ化される)。一方、入力振幅が比較的大きい場合には、弾性仕切部材44の厚膜部44bの変位量が下部リブ43bによって規制されるとともに、薄膜部44aの変位量が格子状のリブ43a
により規制され、弾性仕切部材の剛性が効果的に高められる。これによって、振幅の変化に伴う周波数特性の変化が抑制され、振幅依存性を低減させることができる。
【0045】
また、厚膜部44bのクリアランスC1は、薄膜部44aのクリアランスC2よりも小さいので、入力された振幅が比較的大きい場合に、厚膜部44bの変位量が規制され、続いて薄膜部44aの変位量が規制される。このため、主液室1の圧力が速やかに上昇して高減衰特性が得られるとともに、振幅の変化に伴う周波数特性の変化が好適に抑制される。
また、クリアランスC1,C2の違いによって、弾性仕切部材44の弾性変形が段階的に規制されることとなるので、弾性仕切部材44の弾性変形が一度に規制される場合に比べて、打音(当接音)の発生を抑制することができる。
【0046】
また、下部リブ43bと格子状のリブ43aとは、一部が直交して配置されているので、弾性仕切部材44の変位量の均一化を図ることができ、より効果的に振幅依存性を低減させることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
例えば、弾性仕切部材44は、平面視円形状のものに限定されることはなく、楕円形状、四角形状等、種々の形状のものを適用可能である。
【0048】
また、
図8に示すように、厚膜部44bのクリアランスC1と薄膜部44aのクリアランスC2との関係を、C1>C2となるように設定してもよい。この場合、厚膜部44bのクリアランスC1を、C2+C4となるように設定するとよい。ここで、C4は格子状のリブ43aと厚膜部44bの側面とのクリアランスである。このように、厚膜部44bのクリアランスC1を設定することによって、入力された振幅が比較的大きい場合には、薄膜部44aの弾性変形を利用しつつ、厚膜部44bが下部リブ43bに当接して厚膜部44bの変位量が規制される。この場合にも、弾性仕切部材44の剛性が効果的に高められる。これによって、振幅の変化に伴う周波数特性の変化が抑制され、振幅依存性を低減させることができる。
【0049】
また、前記実施形態では、薄膜部44aの変位量を規制するリブ43aを格子状としたが、これに限られることはなく、下部リブ43bと平行に形成された直線状のリブや、下部リブ43bと直交するように形成された直線状のリブとしてもよい。
【0050】
また、下部リブ43bは、格子状のリブ43aの各孔部43a1の開口において、中央部分を左右方向に横断するように配置したが、これに限られることはなく、厚膜部44bの変位量を規制可能な位置であれば、任意の位置に配置してもよい。