(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施の形態に係る電動機を示す斜視図を、
図2は
図1の電動機の平面図を、
図3は
図2のA−A線に沿う断面図を、
図4は扁平モータと制御基板とを分離した状態を示す斜視図を、
図5は扁平モータと制御基板との接続構造を示す斜視図を、
図6は
図5を上方から見た平面図を、
図7は
図6のB−B線に沿う断面図をそれぞれ示している。
【0016】
図1に示す電動機10は、福祉機器である歩行補助装置の車輪(図示せず)の近傍に設けられるものである。この電動機10は、バッテリ等から駆動電流の供給により駆動源として作動する。これにより、歩行補助装置が作動して、利用者の歩行動作をアシストすることができる。なお、このアシスト動作は、例えば、利用者の意思により歩行補助装置が推進されたことをトリガとして実行される。
【0017】
一方、電動機10の制御回路(図示せず)が閉回路を形成することで、電動機10は発電モータ(ブレーキ装置)として作動する。これにより、歩行補助装置のアシストが停止され、かつ車輪に制動力が発生する。なお、このブレーキ動作は、例えば、利用者の意思に反して歩行補助装置が推進されたことをトリガとして実行され、これにより、利用者が前のめりになることが防止される。
【0018】
図1ないし
図3に示すように、電動機10は、略円盤状の扁平形状に形成され、これにより小型軽量化が図られている。電動機10は、その外郭形状をなすケース20およびカバー30を備えており、これらのケース20およびカバー30は、互いに突き合わせた状態のもとで複数の固定ねじSC1で固定されている。そして、ケース20およびカバー30を突き合わせた内側には、モータ収容室MSが形成されている。モータ収容室MSには、ブラシレスモータである扁平モータ40と、当該扁平モータ40(ロータ42)の回転状態を制御する制御基板50が収容されている。ここで、ケース20およびカバー30は、本発明におけるハウジングを構成している。
【0019】
カバー30は、プラスチック材料を射出成形等することで略椀状に形成され、円盤状の底壁部31と、当該底壁部31の外周部分に一体に設けられた筒状の側壁部32とを有している。側壁部32には、第1コネクタ固定部32aおよび第2コネクタ固定部32bが一体に設けられ、第1,第2コネクタ固定部32a,32bには、第1コネクタ付きケーブル33および第2コネクタ付きケーブル34がそれぞれ固定されている。ここで、第1,第2コネクタ付ケーブル33,34は、接続部材33a,34aによって第1,第2コネクタ固定部32a,32bに固定されている。
【0020】
第1,第2コネクタ付きケーブル33,34の長手方向一側は、カバー30の内側に配置されて制御基板50に電気的に接続されている。一方、第1,第2コネクタ付きケーブル33,34の長手方向他側は、カバー30の外側に配置されており、雌型コネクタ33c,34cを介して、バッテリや操作スイッチさらにはコントローラ等(図示せず)に接続された外部コネクタ(図示せず)が電気的に接続されている。
【0021】
ケース20は、
図3に示すように、アルミ材料を鋳造成形等することで段付きの略筒状に形成され、大径壁部21と小径壁部22とを備えている。大径壁部21はケース20の軸方向(図中上下方向)に沿うカバー30側に配置され、小径壁部22はケース20の軸方向に沿うカバー30側とは反対側に配置されている。
【0022】
ケース20の軸方向に沿う大径壁部21と小径壁部22との間には、略円盤状の仕切壁23が一体に設けられている。この仕切壁23は、大径壁部21およびカバー30と協働して、モータ収容室MSを形成している。また、仕切壁23は、小径壁部22と協働して、減速機収容室RSを形成している。つまり、仕切壁23は、モータ収容室MSと減速機収容室RSとを仕切っている。
【0023】
仕切壁23の中心部分には、ロータ軸45が貫通する貫通孔23aが設けられており、この貫通孔23aの径方向内側には、ロータ軸45の軸本体45aを回転自在に支持する第1軸受B1が装着されている。
【0024】
モータ収容室MSの内部には、扁平モータ40が収容されている。扁平モータ40は、その径方向寸法よりも軸方向寸法が小さくされ、これにより扁平形となっている。扁平モータ40は、インナーロータ型のブラシレスモータであって、複数の鋼板を積層してなる環状のステータコア41と、当該ステータコア41の径方向内側に所定の隙間(エアギャップ)を介して回転自在に配置されたロータ42とを備えている。そして、ステータコア41はケース20の大径壁部21に固定され、これにより、ロータ42はステータコア41に対して回転される。
【0025】
ステータコア41には、プラスチック等の絶縁材料よりなるインシュレータ43が装着されている。インシュレータ43は、例えば、PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート)を射出成形等することで形成されている。つまり、インシュレータ43は可撓性を有する材料によって形成されている。インシュレータ43は、複数のティース(図示せず)を含むステータコア41の略全体を被覆しており、インシュレータ43の各ティースに対応する部分には、コイル44が集中巻きで巻装されている。つまり、コイル44は、インシュレータ43を介してステータコア41の各ティースに巻装されている。
【0026】
ロータ42は、鋼板をプレス加工等することで略椀状に形成された本体部42aを備えている。本体部42aの径方向外側には、ロータ42の周方向に沿うようにして複数の永久磁石42bが固定されている。これらの永久磁石42bは、ロータ42の周方向に沿ってN極,S極が交互に出現するように配置されている。また、本体部42aの径方向内側(回転中心)には、ロータ軸45の軸本体45aが固定されており、ロータ軸45はロータ42と一体回転するようになっている。
【0027】
ロータ軸45は、軸本体45a,第1軸部45b,第2軸部45cを備えており、第1軸部45bの軸心は、軸本体45aの回転中心から所定量オフセット(偏心)した位置に配置されている。一方、第2軸部45cの軸心は、軸本体45aの回転中心と一致している。そして、軸本体45aは、第1軸受B1を介して、ケース20に回転自在に支持されている。よって、ロータ42はロータ軸45によりケース20に回転自在に支持され、ロータ軸45はロータ42の回転に伴って回転される。
【0028】
減速機収容室RSの内部には、減速機構としてのハイポサイクロイド減速機60が収容されている。ハイポサイクロイド減速機60は、扁平モータ40の回転を減速して外部に出力するもので、アウターギヤ61およびインナーギヤ62を備えている。
【0029】
アウターギヤ61は、環状に形成されている。アウターギヤ61は、小径壁部22の軸方向に沿う扁平モータ40寄り配置され、その外周部分が小径壁部22の径方向内側に固定されている。アウターギヤ61の径方向内側(内周)には、平歯よりなる歯部61aが設けられている。
【0030】
インナーギヤ62は、アウターギヤ61の径方向内側に設けられ、その外径寸法はアウターギヤ61の内径寸法よりも小さい寸法となっている。インナーギヤ62の径方向外側(外周)には、平歯よりなる歯部62aが設けられ、インナーギヤ62の歯部62aは、アウターギヤ61の歯部61aに噛み合わされている。つまり、インナーギヤ62はアウターギヤ61の内側を滑ること無く転動するようになっている。
【0031】
インナーギヤ62の回転中心は、一対の第2軸受B2を介してロータ軸45の第1軸部45bに回転自在に支持されている。これにより、第1軸部45bがアウターギヤ61の径方向内側で回転することで、インナーギヤ62は第2軸受B2を中心に回転しつつアウターギヤ61の径方向内側を転動する。
【0032】
インナーギヤ62の径方向に沿う回転中心と歯部62aとの間には、インナーギヤ62の周方向に沿って等間隔となるよう複数の摺接孔62bが設けられている。これらの摺接孔62bの径方向内側には、インナーギヤ62のアウターギヤ61に対する転動により、出力回転体63に固定された出力ピン63aが摺接するようになっている。
【0033】
ハイポサイクロイド減速機60の軸方向に沿う扁平モータ40側とは反対側には、出力回転体63が回転自在に設けられている。出力回転体63は略椀状に形成され、その径方向外側は第3軸受B3を介して小径壁部22に回転自在に支持されている。一方、出力回転体63の径方向内側は、第4軸受B4を介してロータ軸45の第2軸部45cに回転自在に支持されている。これにより、出力回転体63の径方向へのガタツキが抑えられている。
【0034】
出力回転体63には、インナーギヤ62の各摺接孔62bに対応させて、複数の出力ピン63aが装着されている。複数の出力ピン63aは、インナーギヤ62に向けて突出され、その突出部分は各摺接孔62bの内部にまで延ばされている。これにより、各出力ピン63aは各摺接孔62bに対して摺接するようになっている。
【0035】
ここで、出力回転体63は、歩行補助装置の車輪(図示せず)に、動力伝達可能に接続されている。これにより、ハイポサイクロイド減速機60により減速された扁平モータ40の回転が、歩行補助装置の車輪(外部)に出力される。これとは逆に、歩行補助装置の車輪から出力回転体63に伝達される回転は、ハイポサイクロイド減速機60により増速されて、扁平モータ40に伝達される。
【0036】
なお、ハイポサイクロイド減速機60の減速比は、例えば、アウターギヤ61の歯数Z1を91(Z1=91)とし、インナーギヤ62の歯数Z2を90(Z2=90)とすると、関係式(Z1−Z2)/Z2から、減速比は1/90となる。このようにハイポサイクロイド減速機60は、一段で比較的高い減速比を得ることが可能である。そのため、減速機構の構成を簡素化して電動機10のさらなる扁平化(薄型化)を実現しつつ、電動機10を高出力タイプとして採用することができる。
【0037】
モータ収容室MSの内部には、制御基板50が収容されている。より具体的には、制御基板50は、扁平モータ40の軸方向に沿うカバー30側に配置されている。制御基板50は、ガラス繊維にエポキシ樹脂をしみこませて板状に硬化させたものであり、略円盤状に形成されて絶縁性を有している。
【0038】
制御基板50の扁平モータ40側とは反対側の第1面51には、第1,第2コネクタ付きケーブル33,34の長手方向一側が電気的に接続されている(詳細図示せず)。一方、制御基板50の扁平モータ40側の第2面52には、
図3に示すように、3つのホールセンサHS(図示では1つのみ示す)が実装されている。これらのホールセンサHSは、永久磁石42bと対向しており、ロータ42の回転に伴ってスイッチング動作される。そして、ホールセンサHSのスイッチング動作に伴うオンオフ信号(矩形波信号)は、第1,第2コネクタ付きケーブル33,34を介して外部のコントローラ(図示せず)に送出される。これにより、コントローラはロータ42の回転状態を把握することができる。このように、制御基板50は、外部のコントローラと協働して、ロータ42の回転状態を制御するようになっている。
【0039】
図4に示すように、制御基板50の外周部分には、複数のスルーホールTHが設けられている。これらのスルーホールTHは、第1面51側と第2面52側とを貫通しており、各スルーホールTHには、制御基板50にプリントされた配線(図示せず)に電気的に接続された導電膜53(
図5および
図7参照)が形成されている。そして、各スルーホールTHには、インシュレータ43のターミナル装着部43aに装着されたターミナル70の第2接続部73(
図5参照)が挿通され、かつ当該状態のもとで半田付けされている。
【0040】
図5ないし
図7に示すように、インシュレータ43の径方向外側には、複数のターミナル装着部43aが一体に設けられている。これらのターミナル装着部43aは、ステータコア41よりも径方向外側に部分的に突出するようにして設けられている。つまり、ターミナル装着部43aは、ステータコア41よりも径方向外側に配置されている。これらのターミナル装着部43aは、
図5に示すように、インシュレータ43の周方向に沿って延びる略直方体形状に形成され、各ターミナル装着部43aには、その長手方向に延びるようにして装着溝43bが形成されている。この装着溝43bには、導電部材であるターミナル70が圧入等の固定手段によって装着されている。
【0041】
図5に示すように、ターミナル70は、導電性に優れた黄銅板をプレス加工等することで略U字形状に形成され、装着溝43bに固定されるターミナル本体71を備えている。ターミナル本体71の長手方向一側には、コイル44の端部44aが電気的に接続される第1接続部72が一体に設けられている。また、ターミナル本体71の長手方向他側には、制御基板50の導電膜53が電気的に接続される第2接続部73が一体に設けられている。
【0042】
そして、第1接続部72のターミナル本体71からの突出高さは、第2接続部73のターミナル本体71からの突出高さよりも低くなっている。これにより、第2接続部73を制御基板50に電気的に接続した状態のもとで、第1接続部72は制御基板50に接触することが無い。ここで、コイル44の端部44aと第1接続部72、および制御基板50の導電膜53と第2接続部73は、それぞれ半田ごてTを用いて半田付けにより接続される。なお、制御基板50は、
図4および
図5に示すように、扁平モータ40に対して所定の離間距離を保持しつつ、複数の固定ねじSC2によりケース20に固定される。
【0043】
図6に示すように、ステータコア41の半径寸法R1よりも、コイル44と制御基板50との電気的な接続部分、つまりターミナル70が配置された部分の半径寸法R2の方が大きい寸法となっている(R1<R2)。すなわち、
図8に示すように、コイル44と制御基板50との電気的な接続は、ステータコア41の径方向外側で行われる。
【0044】
また、
図7に示すように、インシュレータ43に設けられる外周部43cと、ステータコア41との間には、ステータコア41の軸方向に沿う寸法がS1の第1隙間CL1が形成されている。これにより、柔軟性(可撓性)を有するインシュレータ43の外周部43cは、図中二点鎖線および破線矢印Mに示すように、その根元の撓み中心CE1を中心に傾斜(揺動)可能となっている。
【0045】
ここで、外周部43cは、インシュレータ43とターミナル装着部43aとの間に設けられ、本発明における可撓性を有する部位を構成している。
【0046】
インシュレータ43の外周部43cに一体に設けられたターミナル装着部43aと、ステータコア41との間には、ステータコア41の径方向に沿う寸法がS2の第2隙間CL2が形成されている。この第2隙間CL2の隙間寸法S2は、第1隙間CL1の隙間寸法S1よりも小さくなっている(CL2<CL1)。また、ターミナル装着部43aと、ケース20との間には、ステータコア41の軸方向に沿う寸法がS3の第3隙間CL3が形成されている。この第3隙間CL3の隙間寸法S3は、第2隙間CL2の隙間寸法S2と略同じ寸法となっている(CL3≒CL2)。これにより、柔軟性(可撓性)を有する外周部43cに一体に設けられたターミナル装着部43aは、図中二点鎖線および破線矢印Mに示すように、撓み中心CE2を中心に傾斜(揺動)可能となっている。
【0047】
ここで、第2隙間CL2は、本発明における第1傾斜許容隙間を構成し、第3隙間CL3は、本発明における第2傾斜許容隙間を構成している。つまり、第2隙間CL2および第3隙間CL3は、それぞれターミナル装着部43aの傾斜を許容するようになっている。
【0048】
なお、インシュレータ43の外周部43cおよびターミナル装着部43aは、それぞれPBT樹脂等の可撓性を有する材料を射出成形等することで一体に形成されているが、少なくとも外周部43cのみが可撓性を有していても良い。具体的には、例えば、二色成形により外周部43cのみをPBT樹脂等で形成し、インシュレータ43のその他の部分をPBT樹脂よりも硬質の樹脂等で形成しても良い。
【0049】
ここで、
図4,
図5,
図7においては、電気を通す導電部材の配置関係を分かり易くするために網掛けを施している。
【0050】
以上詳述したように、本実施の形態に係る電動機10によれば、ターミナル装着部43aとインシュレータ43との間に、可撓性を有する外周部43cを形成したので、温度差による部品の収縮や膨張さらには振動等の負荷があったとしても、コイル44と制御基板50との電気的な接続を確実に維持することができ、信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【0051】
また、本実施の形態に係る電動機10によれば、インシュレータ43の全体を、PBT樹脂等の可撓性を有する材料を射出成形等することで形成したので、インシュレータ43全体に柔軟性を持たせることができる。よって、より確実に半田部(
図8参照)にクラック等が発生するのを防止することができる。
【0052】
さらに、本実施の形態に係る電動機10によれば、インシュレータ43の外周部43cと、ステータコア41との間に、ステータコア41の軸方向に沿う寸法がS1の第1隙間CL1を形成したので、ターミナル装着部43aをより容易に傾斜させることができる。よって、信頼性をさらに向上させることができる。
【0053】
また、本実施の形態に係る電動機10によれば、ターミナル装着部43aとステータコア41との間に、ステータコア41の径方向に沿う寸法がS2の第2隙間CL2を形成し、かつターミナル装着部43aとケース20との間に、ステータコア41の軸方向に沿う寸法がS3の第3隙間CL3を形成した。よって、ターミナル装着部43aの傾斜時において、当該ターミナル装着部43aがステータコア41およびケース20に接触するのを抑制できる。よって、ターミナル装着部43aに無理な負荷が掛かり、ターミナル装着部43aが早期に損傷するのを防止できる。
【0054】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。上記実施の形態では、扁平モータ40の厚み寸法を極力抑えるために、ターミナル装着部43aをステータコア41よりも径方向外側に配置しているが、本発明はこれに限らず、扁平モータ40の厚み寸法を本実施の形態よりも厚くできるのであれば、ステータコア41の上方にターミナル装着部43aを配置しても構わない。
【0055】
また、上記実施形態では、電動機10を、福祉機器である歩行補助装置の車輪の近傍に適用した場合を示したが、本発明はこれに限らず、車椅子装置等の車軸の近傍に適用する等、他の用途の装置に適用することもできる。