(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(a)、(b)、(c)が、同一のMBE装置内で行われ、前記工程(c)は、基板温度750℃〜950℃で行われる、請求項6に記載のZnO系半導体構造の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明者らは、先行研究において、GaドープされたZnO系半導体層とAgO層とを交互に積層した交互積層構造を分子線エピタキシ(MBE)により形成し、活性酸素が存在する、圧力が10
-2Pa未満の環境で、交互積層構造をその場アニール(in-situ annealing)してp型化する技術を研究している(特願2014-147283号等)。
【0013】
まず、Ga等の3B族n型不純物を添加したZnO系半導体層とAgO等のp型不純物Agを含む層の交互積層を成長し、アニール等によりp型化する技術について、本発明者らが行った先行研究を説明する。なお、層は1原子層以下の厚さでもよい。例えば平均1/3原子相当の厚さの対象物も層と呼ぶ。Gaを添加したZnOをZnO:Gaと表す。
【0014】
ZnO系半導体中でZnサイトを占めたAgがp型不純物として機能するアクセプタとなる。n型不純物Gaとp型不純物Agとを共ドープしたZnO系層を成長しても、それだけではp型とならず、アニールして初めてp型となる。Agをp型不純物として機能させるには、まずAgを熱拡散等によりZn空孔まで移動させることが必要であると考えられる。例えば、n型不純物Gaとp型不純物Agを含むZnO系半導体層を形成し、活性酸素が存在する、圧力が10
−2Pa未満の環境で、該ZnO系半導体層をアニールしてp型化する方法を提案した(特開2015−159269)。
【0015】
Agは、ZnO系半導体中で大きい径を有し、格子間を自由に移動するとは考えにくい。Agの移動には酸素空孔等の格子欠陥の存在が望まれる。ZnO系結晶を加熱アニールすれば、構成原子を動かして格子欠陥を生じさせ、Ag原子が移動可能な状況を実現できると考えられる。Agの移動制御を行う際は、酸素が存在しない真空雰囲気を用いた時の結果から、本願発明者らは、活性酸素が存在する雰囲気が好ましいと考えている。
【0016】
結晶中でZnが移動すると、Zn空孔、格子間Znが生じ、Zn空孔にAgを捕捉できる。Agをp型不純物とするために、Zn空孔は必要な要素であり、Zn空孔の発生に伴って、格子間Znも生じる。格子間Znはドナーとして機能する。Znが移動すると、結合の相手を失ったOも移動しやすくなり、Oが移動した後に、酸素空孔が生じると考えられる。酸素空孔は活性化エネルギの低いドナーとして機能する。
【0017】
多量の酸素空孔が存在すると、アクセプタを補償するドナーが多量に存在することになり、高いアクセプタ濃度は期待できないであろう。また、多量の酸素空孔の存在は、多量の格子欠陥の存在であり、結晶の質を劣化させることにもなろう。結晶中の酸素空孔の量を抑制することが望ましいであろう。
【0018】
ZnO系半導体層を加熱アニールしてZn空孔を発生させる一方、層表面に酸素ラジカルを照射することを考えた。加熱されたZnO系半導体層中の酸素原子は移動可能となり、酸素空孔が発生し得る。格子位置を離れた酸素原子は結晶中を移動し得、表面に到達した酸素原子は表面から雰囲気中に蒸発し得る。半導体層表面に酸素ラジカルが飛来すると、半導体層中から雰囲気中に酸素原子が蒸発する現象は抑制されよう。半導体層表面に飛来、付着した酸素原子が半導体層中に入り込み、酸素空孔を消滅させることも考えられる。
【0019】
活性酸素の照射により、ZnO系半導体層中の酸素空孔を抑制する効果が考えられる。表面に付着した酸素原子は、気相となって、表面から容易に離脱するであろう。酸素ラジカルの供給を停止すれば、酸素空孔抑制の効果は消滅するであろう。
【0020】
先行研究の1つとして、活性酸素が存在する雰囲気中で、Ga等の3B族n型不純物とp型不純物となるAgとを共ドープしたZnO系半導体層表面に、酸素ラジカルを断続的に照射しつつアニールを行うことを検討した。酸素ラジカル照射無しの期間には、酸素空孔の生成、移動と共に、Agの移動が生じ得るであろう。酸素ラジカル照射有りの期間には、酸素空孔の抑制、消滅が生じ得るであろう。これら2種類の期間で異なる現象が生じ得るので、取り敢えず、ZnO系半導体層表面に、酸素ラジカルを断続的に照射しつつ行うアニールを混成アニールと呼ぶ。
【0021】
Ga等の3B族元素、およびAgを、共ドープしたZnO系半導体層を形成し、活性酸素が存在する雰囲気中でZnO系半導体層表面に酸素ラジカルビームを断続的に照射しつつ、混成アニールを行う実験を行った。以下、実験に用いた装置及びサンプルを説明する。
【0022】
ZnO系半導体層の成長は、分子線エピタキシ(molecular beam epitaxy;MBE)により行った。半導体層成長の後、上述のような混成アニールを、MBE装置内のその場アニールで行った。
【0023】
図1Aは、MBE装置を示す概略的な断面図である。真空チャンバ71内に、Znソースガン72、Oソースガン73、Mgソースガン74、Agソースガン75、及びGaソースガン76が備えられている。MBE装置稼働中の背圧は、10
−8Pa〜10
−2Paである。
【0024】
Znソースガン72、Mgソースガン74、Agソースガン75、Gaソースガン76は、それぞれZn(7N)、Mg(6N)、Ag(6N)、及びGa(7N)の固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、セルを加熱することにより、Znビーム、Mgビーム、Agビーム、Gaビームを出射する。
【0025】
Oソースガン73は、たとえば13.56MHzのラジオ周波数を用いる無電極放電管を含み、無電極放電管内でO
2ガス(6N)をプラズマ化して、Oラジカルビームを出射する。放電管材料として、アルミナまたは高純度石英を使用できる。
【0026】
基板ヒータを備えるステージ77が基板78を保持する。ソースガン72〜76は、それぞれセルシャッタを含む。各セルシャッタの開閉により、基板78上に各ビームが直接照射される状態と直接照射されない状態とを切り替え可能である。なお、基板78の前にもシャッタを備える。基板78上に所望のタイミングで所望のビームを照射し、所望の組成のZnO系化合物半導体層を成長できる。
【0027】
基板上に堆積する膜の厚さを計測するための膜厚計79がステージ77の側方に配置されている。ステージ77を挟んで、電子ビームを出射するRHEED用ガン80と基板78で反射された電子ビームを受け画像化するスクリーン81が対向配置されている。
【0028】
図1Bを参照して、サンプルの構成を説明する。
図1Aに示すMBE装置を用い、n型導電性を有するZn面ZnO(0001)基板51上に、MBEにより、ZnOバッファ層52、アンドープZnO層53、交互積層54を形成した。
【0029】
図1Cは、交互積層54の構成を示す部分拡大断面図である。GaをドープしたZnO層(ZnO:Ga層)54aとAgO層54bとが交互に積層されて、例えば30対の交互積層54を構成している。なお、「AgO」は、AgO(酸化銀(II))、Ag
2O(酸化銀(I))等、AgO
xと表すことのできる銀酸化物を表わす。以下、サンプルの製造プロセスを説明する。
【0030】
図2に示すように、ZnO(0001)基板51に900℃で30分間のサーマルクリーニングを施した後、基板51の温度を250℃まで下げた。その温度(成長温度250℃)で、ZnフラックスF
Znを0.14nm/s(J
Zn=9.2×10
14atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件を、O
2流量1.0sccm、RFパワー150W(J
O=1.0×10
15atoms/cm
2s)とし、ZnO基板51上にZnOバッファ層52を成長した。VI/IIフラックス比は約1.09となる。
【0031】
ZnOバッファ層52の成長後、成長層の結晶性及び表面平坦性の改善のため、950℃に昇温し、30分間のアニールを行った。アニール後、950℃のまま、ZnOバッファ層52上に、ZnフラックスF
Znを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O
2流量1.0sccmとして、アンドープZnO層53をエピタキシャル成長した。アンドープZnO層53はn型となる。
【0032】
アンドープZnO層53の成長後、基板温度を下げ、250℃に設定した。アンドープZnO層53の上に、厚さ約50nmのZnO:Ga/AgO交互積層構造54を形成した。ZnO:Ga層54aは、ZnフラックスF
Znを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O
2流量1.0sccm、Gaのセル温度T
Gaを550℃(F
Gaは検出下限値以下)として1層当たり10秒間成長した。AgO層54bは、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O
2流量1.0sccm、Agセルの温度T
Agを825℃(AgフラックスF
Agは0.005nm/s)として1層当たり25秒間成長した。1対の厚さ約1.7nmで、30対の交互積層で、厚さ約50nmとなった。ZnO:Ga/AgO交互積層構造54は、n型を示した。
【0033】
続いて、交互積層構造54に混成アニール処理を施した。混成アニールはMBE装置内(圧力が10
−2Pa未満の環境)で、エピタキシャル層の成長に引き続いて、酸素ラジカルビームを断続的に照射して実施した。基板を加熱し、810℃で20分間の混成アニールを実施した。
【0034】
図3に示すように、混成アニールにおいては、無電極放電管内でO
2ガスをプラズマ化(RFパワー300W、O
2流量2.0sccm)し、基板シャッタ、Oセルシャッタをオープンとした15秒の酸素ラジカルビーム照射有り期間と、基板シャッタ、Oセルシャッタをクローズとした10秒の酸素ラジカルビーム照射無し期間とを繰り返した。
【0035】
なお、基板シャッタ、Oセルシャッタをクローズとしても、酸素ラジカルは、シャッタオープンの状態の約1/4の量、基板上に到達する。活性酸素の存在する、圧力が10
−2Pa未満の環境で、酸素ラジカルビーム照射無しの状態で、酸素、Agを移動させ得ると考えられるアニールが秒単位で行われ、半導体層表面に酸素ラジカルビーム照射有りの状態で、酸素空孔を抑制、消滅させ得ると考えられるアニールが秒単位で行われる。20分間の混成アニールを行った。
【0036】
図4は、2次イオン質量分析(SIMS)測定による、混成アニール後のサンプルで測定した、深さ方向のAg濃度(cm
−3)とGa濃度(cm
−3)の分布例を示す。AgおよびGaは、アニールによりZnO膜中に均一にドープされている。ZnO:(Ag+Ga)膜中、Ag濃度は、約1.2×10
21cm
−3であり、Ga濃度は約4.2×10
20cm
−3である。
【0037】
図5は、混成アニール後のサンプル例に対するC−V測定の1/C
2−V特性、及び不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフである。混成アニール後のサンプルは、p型導電性を得ていることが判る。6.0×10
20cm
−3程度と、10
20cm
−3を超える高いアクセプタ密度が得られている。
【0038】
混成アニール後のサンプル例のラマン分光を行った。用いたラマン分光器は、ホリバ・ジョビン・イヴォン(HORIBA JOBIN YVON)社製LabRAM HR−800であり、励起光はHe−Neレーザ(波長632.8nm)、室温、大気中の測定で、スリット幅は100μm、検出器はCCDであった。
【0039】
図6Aは、サンプルの構成を概略的に示す斜視図である。ZnO基板の上に、ZnO:(Ga+Ag)膜が形成されている。基板上のZnO:(Ga+Ag)膜にHe−Neレーザからの励起光を照射し、後方散乱のラマンスペクトルを測定した。
【0040】
図6Bは、得られたラマンスペクトルを示すグラフである。このグラフにおいて、437cm
−1付近に存在するE
2highのピークは、ZnO結晶のZnの振動モード、573cm
−1付近に存在するA
1(LO)のピークは、酸素空孔または格子間Znに関与した振動モードであると報告されている(例えば、C. J. Youn et. al.; J. Cryst. Growth,
261, 526 (2004)参照)。
【0041】
ZnO結晶本来の振動であるE
2highのピークより、格子欠陥に基づくA
1(LO)のピークの方が高い強度を示している。このグラフのスペクトルは、E
2highのピークが最も強く明確に出ているものである。サンプルによっては、A
1(LO)のピークが強く、E
2highのピークが殆ど認められないものもある。先行研究による製造方法で成膜したZnO:(Ga+Ag)膜のラマンスペクトルは、A
1(LO)のピークの方がE
2highのピークより強かった。格子間Znや酸素空孔の格子欠陥が多く存在することを示していると考えられる。
【0042】
先行研究によるZnO:(Ga+Ag)膜を、ZnO基板上に形成したn型ZnO系半導体層の上に形成し、透明電極としてNi(2A)/Au(100A)の積層を280μm角に形成し、その後その中心位置に直径100μmのTi(250A)/Au(2600A )の積層をボンディング用の電極として形成した発光ダイオード構造を作製した。
【0043】
図7は、該サンプルで測定したI−V特性を示すグラフである。ダイオード的な形状を示してはいるが、リーク電流が多く、順方向電流も1V以下から流れ始めている。逆方向耐圧は殆ど認められない。
【0044】
先行研究によるサンプルにおいては、AgおよびGaは膜中に均一に存在し、アクセプタ密度1×10
20cm
−3以上のp型膜が得られているが、
図6B,
図7に示す実験データは、p型ZnO系半導体層の結晶品質がかなり劣悪であることを示している。このような半導体層を用いて特性の優れた半導体デバイスを得ることは困難であろう。AgをZn位置に効率良く置換するためのアニール処理により、多数の酸素空孔等が発生し、LED構造におけるI−Vが非常にリークの多い特性を示し、活性層への電流注入効率の悪いデバイスとなる。
【0045】
先行研究による作成プロセスにおいて、Zn空孔を作成し、Agの拡散を促進し、Agの置換効率を向上するために、750℃〜950℃、10分〜30分間、熱処理して、Agを拡散、置換させている。このアニールで、Agの置換効率は上昇するが、酸素空孔や格子間Zn等の欠陥を発生させてしまう。この酸素空孔、格子間Znというn型欠陥の増加が主因となり、リーク電流の多いデバイスになると考えられる。
【0046】
本発明者らは、酸素空孔を減少させて、良好な結晶性を有するp型ZnO系半導体層を形成することを検討した。先行研究におけるZnO:Ga層とAgO層との交互積層構造における、ZnO:Ga層を複数の層に分割し、薄くしたn型不純物GaをドープしたZnO層(ZnO:Ga層)の各界面に活性酸素層(O*層)を形成することを考えた。交互積層内にZnO:Ga層とO*層との交互積層を含む、2重積層構造と言えよう。ZnO:Ga層とO*層との交互積層をサブ積層と呼ぶこともある。ZnO:Ga層に対して、隣接する活性酸素層から必要とされる酸素を補充できる構成と考えられる。
【0047】
図8Aに示すように、下地21の上に、活性酸素(O*)層22aと薄くしたZnO:Ga層22bとを交互に形成して、サブ積層22Aを形成する。サブ積層22Aは、先行研究における1層のZnO:Ga層(
図1CにおけるGaドープZnO半導体層54a)に相当するが、O*層22aによって複数の薄層に分離された形状である。
【0048】
図8Bに示すように、サブ積層22A上に、O*層22Cを形成し、その上にAgO層22pを積層する。このサブ積層22A/O*層22C/AgO層22pの積層構造を繰り返し積層して、p型層を形成すべき2重積層構造22を形成する。O*層22C/AgO層22pをp型不純物供給層22Bと呼ぶこともできる。アニール前の(Ga+Ag)共ドープのZnO系半導体2重積層構造22はn型である。なお、積層構造の各界面には活性酸素層が存在する。
【0049】
図8Cに示す表記は、O*層とZnO:Ga層とを交互に3周期積層したサブ積層の上に、O*層、AgO層を積層した構成を示す。複数のZnO:Ga層の間には、O*層が挟まれている。タイミングの1例として、O*層の形成を5秒行い、ZnO:Ga層の形成を3秒行い、AgO層の形成を25秒行う。これを1セットとし、厚さ約1.6nmの積層を形成する。30セット繰り返し成長して、全体として厚さ約50nmの積層を行う。
【0050】
1セット内のZnO:Ga層が、2分割、3分割、5分割、10分割される場合、単位ZnO:Ga層22bの厚さは、0.8nm、0.5nm、0.32nm、0.16nmとなる。1セット内のZnO:Ga層の厚さを一定とし、分割数を増加(単位ZnO:Ga層22bの厚さを減少)した時に観察される変化から挿入したO*層の効果が推察できよう。
【0051】
製造条件は、以下の通りとした。F
Zn=0.14nm/sec、(J
Zn=9.2×10
14atoms/cm
2sec)、O
2=1sccm/RF=150W(J
O=1.0×10
15atoms/cm
2sec)、VI/IIフラックス比:1.09、T
Ga=550℃(F
Ga検出下限値以下)、T
Ag=840℃(F
Ag=0.005nm/sec)。
【0052】
図8Dは、サンプル作成の温度プロファイルと行われるプロセスの内容を示すグラフである。先行研究に関して示した
図2の温度プロファイルに対応する。900℃でサーマルクリーニングを行い、250℃に降温してバッファ層を成長し、950℃に昇温してバッファ層のアニールを行い、そのままバッファ層上にアンドープZnO層を成長する。250℃に降温し、工程1で、
図8A〜8Cに示すZnO:Ga層とO*層とのサブ積層とAgO層とをO*層を介して積層したMgZnO系半導体2重積層構造を成長させる。MgZnOの組成は、Mg
xZn
1−xOと表記した時、(0≦x≦0.6)である。成長終了後、工程2で基板温度を810℃まで昇温する。810℃になったら、活性酸素O*が存在し、圧力が10
−2Pa未満の雰囲気下で30分間その場アニールする。活性酸素の照射有りの期間と無しの期間を繰り返し混成アニールとする。
【0053】
図9A,9Bは、単位ZnO:Ga層22bの厚さが、0.5nmと、0.16nmとの場合の、C−V測定による1/C
2―V特性、及び不純物濃度のデプスプロファイルを示す。p導電型が得られ、3.2×10
20、および3.8×10
20のアクセプタ密度が得られている。単位ZnO:Ga層22bの厚さを減少しても、p型の導電型が得られている。
【0054】
図10は、Alドープのn型ZnO基板上に形成したサンプルのSIMS分析による深さ方向の組成分布を示すグラフである。横軸が深さを単位nmで示し、縦軸が濃度を単位cm
−3で示す。Al濃度C11が急激に低下する位置が基板表面である。下地層上の(Ag+Ga)ドープ層で、Agが膜中に均一にドープされている。(Ag+Ga)ドープ層中の、Ag濃度C13は約1.2×10
21cm
−3であり、Ga濃度C12は約3.5×10
20cm
−3である。
【0055】
図11は、実施例によるサンプルのラマン測定の結果を示すグラフである。ZnO:Ga層を、2分割したサンプルDiv2、3分割したサンプルDiv3、10分割したサンプルDiv10のラマン散乱スペクトルを、比較例である、ノンドープのZnO層のサンプルR0及び先行研究によるサンプルR1のラマン散乱スペクトルと共に示す。横軸がラマンシフトを単位cm
−1で示し、縦軸がラマン強度を任意単位で示す。
【0056】
比較サンプルR0は不純物をドープしていない高い結晶性を有するZnOのラマン散乱スペクトルである。ZnO結晶に基づく鋭いE
2highのピークが観察できる。先行研究による比較サンプルR1のラマン散乱スペクトルにおいては、ZnO結晶に基づくE
2highのピークが格子間Znや酸素空孔のn型欠陥に基づくA
1(LO)のピーク以下の強度しか示さない。
【0057】
実施例によるサンプルDiv2,Div3,Div10のラマン散乱スペクトルにおいては、分割数の増加に伴い、E
2highのピークが強くなり、A
1(LO)のピークは弱くなるように見える。格子間Znや酸素空孔のn型欠陥に基づくA
1(LO)のピークの強度が、ZnO結晶に基づくE
2highのピークの強度以下となっていることが明らかである。ZnO:Ga層を分割し、界面にO*層を配置することで、高い結晶性が得られたと考えられる。
【0058】
図12は、実施例によるp型ZnO系半導体層を用いて作成したLED構造のI−V特性を示すグラフである。測定に用いたデバイスの構造は、本実施例によるZnO:(Ga+Ag)膜を、ZnO基板上に形成したn型ZnO系半導体層の上に形成し、透明電極としてNi(2A)/Au(100A)の積層を280μm角に形成し、その後その中心位置に直径100μmのTi(250A)/Au(2600A )の積層をボンディング用の電極として形成した発光ダイオード構造である。
【0059】
図7に示した、先行研究によるp型層を用いたLEDのI−V特性と比較すると、リーク電流が大幅に減少し、明確な閾値電圧3.4Vが認められるようになり、逆方向耐圧が大幅に改善されたことが認められる。酸素空孔、格子間Zn等のn型欠陥の減少を表すと考えられる。
【0060】
上述の説明においては、ZnO:Ga層の分割数を2,3,5,10としたが、分割数は2以上であれば良い。連続した積層中に、分割数の異なる部分を形成してもよい。実験的に分割した単位層の厚さは0.16nmまで薄くしても、良好な結果が得られている。分割した単位層の厚さは、約0.15nm以上、約0.8nm以下が好ましいであろう。ZnO:Ga層をMgZnO:Ga層としても、同様の効果が得られるであろう。
【0061】
結晶成長をMBEで行ったが、有機金属気相成長(MOCVD)やパルスレーザデポジション(PLD)等の成長方法を用いることも可能であろう。n型不純物としてGaを用いたが、3B族の元素B,Al,Ga,Inであれば、ほぼ同様の結果が期待できよう。p型不純物はAgのみを対象とする。
【0062】
混成アニールを810℃の温度で行ったが、ZnO系結晶の構成原子を移動させることのできるアニール温度として、750℃〜950℃を用いることができるであろう。また、酸素ラジカル照射無しの期間と酸素ラジカル照射有りの期間を10秒と15秒に設定したが、これらの期間は制限的でなく種々変更可能である。酸素照射無し時間と酸素照射有り時間の組み合わせ例として、(10s、10s)、(10s、15s)、(10s、20s)、(10s、30s)等を用いることができる。
【0063】
以上説明したp型ZnO系半導体層を用いて、半導体発光装置を作成することができる。Ga等のn型不純物と、p型不純物としてのAgとを含むZnO系半導体層を、
図8に示すような構成、プロセスによって形成する。
【0064】
図13Aは、製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。
【0065】
ZnO基板11上に、例えば厚さ30nmのZnOバッファ層12を成長させる。ZnOバッファ層12の結晶性及び表面平坦性の改善のため、アニールを行う。
【0066】
ZnOバッファ層12上に、例えば厚さ150nmのn型ZnO層13を成長させる。n型ZnO層13のGa濃度は、たとえば約1.5×10
18cm
−3である。n型ZnO層13上に、例えば厚さ約30nmのn型MgZnO層14を成長させる。n型MgZnO層14のMg組成は、例えば約0.3である。n型MgZnO層14上に、例えば厚さ10nmのZnO活性層15を成長させる。ZnO活性層15上に
図8Aに示すようなO*層とMgZnO:Ga層のサブ積層を含み、
図8Bに示すようなサブ積層とAgO層とをO*層を挟んで交互に積層した2重積層構造を形成する。2重積層構造は、当初n型を示す。2重積層構造に上述のような混成アニールを行って、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16を形成する。
【0067】
なお、
図13Bに示すように、活性層15として、単層のZnO層ではなく、MgZnO障壁層15bとZnO井戸層15wが交互に積層された量子井戸構造を用いることもできる。
【0068】
その後、ZnO基板11の裏面にn側電極17nを形成し、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16上にp側電極17pを形成する。また、p側電極17p上にボンディング電極18を形成する。たとえばn側電極17nは、Ti層上にAu層を積層して形成し、p側電極17pは、Ni層上に、Au層を積層して形成する。ボンディング電極18はAu層で形成する。このようにして、ZnO系半導体発光素子が作製される。
【0069】
以上、ZnO基板11を用いたが、MgZnO基板、GaN基板、SiC基板、Ga
2O
3基板等の導電性基板を使用することが可能である。その他種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは、当業者に自明であろう。なお、アニールを行う外部電気炉は不要であり、半導体発光素子の製造時間を短縮することが可能となる。