【文献】
Arthritis Research & Therapy,2010年,Vol.12, No.1,Article No.R28
【文献】
Biology of Blood and Marrow Transplantation,2008年,Vol.14,pp.631-640
【文献】
Int. J. Pharm. Phytopharmacol. Res.,2011年,Vol.1, No.3,pp.134-139
【文献】
Stem cell Research & Therapy,2010年,Vol.1, No.1,Article No.5
【文献】
Am. J. Physiol. Lung. Cell Mol. Physiol,2010年,Vol.299, No.6,L760-L770
【文献】
International Orthopaedics,2012年10月13日,Vol.36, No.12,p.2589-2596
【文献】
Biochemical and Biophysical Research Communications,2011年,Vol.413, No.2,p.353-357
【文献】
福島雅典 監修,メルクマニュアル 第18版 日本語版,日経BP社,2006年,p.2102-2108,2131-2133,[急性腎不全],[糖尿病性腎症]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0058】
詳細な説明
一般的技術及び選択された定義
本明細書を通じて、特記のない限り、又は文脈がそうでないことを要求する場合を除き、単一の工程、組成物、工程の群又は組成物の群への言及は、1及び複数(すなわち、1以上)のそれらの工程、組成物、工程の群又は組成物の群を包含すると解されるものとする。
【0059】
本明細書に記載の各実施態様又は例は、特記のない限り、それぞれ及びすべての他の実施態様に準用されるものとする。
【0060】
当業者ならば、本明細書に記載の開示が、具体的に記載されたもの以外の変形及び修正を許容できることを理解するであろう。本開示がそのような変形及び修正すべてを含むことを理解すべきである。本開示はまた、本明細書で言及又は表示される工程、特徴、組成物及び化合物のすべてを個々に又は集合的に、並びに前記工程又は特徴のいずれか及びすべての組み合わせ又はいずれか2以上を含む。
【0061】
本開示は、本明細書に記載の具体的な実施態様によって範囲を制限されるものではなく、例示を目的とすることだけを意図している。機能的に等価な生成物、組成物及び方法は、本明細書に記載されるように、明確に、本開示の範囲内にある。
【0062】
本開示は、特記のない限り、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶液中でのペプチド合成、固相ペプチド合成及び免疫学の従来技術を用いて過度の実験なしに実施される。かかる手順は、例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Second Edition (1989), Vols I, II及びIIIの全部; DNA Cloning: A Practical Approach, Vols. I and II (D. N. Glover, ed., 1985), IRL Press, Oxford, テキスト全体; Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach (M. J. Gait, ed, 1984) IRL Press, Oxford, テキスト全体、特にその中でのGaitによるppl-22の論文; Atkinson et al, pp35-81; Sproat et al, pp 83-115; and Wu et al, pp 135-151; 4. Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach (B. D. Hames & S. J. Higgins, eds., 1985) IRL Press, Oxford, テキスト全体; Immobilized Cells and Enzymes: A Practical Approach (1986) IRL Press, Oxford, テキスト全体; Perbal, B., A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); Methods In Enzymology (S. Colowick and N. Kaplan, eds., Academic Press, Inc.), シリーズ全体; J.F. Ramalho Ortigao, "The Chemistry of Peptide Synthesis" In: Knowledge database of Access to Virtual Laboratory website (Interactiva, Germany); Sakakibara, D., Teichman, J., Lien, E. Land Fenichel, R.L. (1976). Biochem. Biophys. Res. Commun. 73 336-342; Merrifield, R.B. (1963). J. Am. Chem. Soc. 85, 2149-2154; Barany, G. and Merrifield, R.B. (1979) in The Peptides (Gross, E. and Meienhofer, J. eds.), vol. 2, pp. 1-284, Academic Press, New York. 12. Wunsch, E., ed. (1974) Synthese von Peptiden in Houben-Weyls Metoden der Organischen Chemie (Muler, E., ed.), vol. 15, 4th edn., Parts 1 and 2, Thieme, Stuttgart; Bodanszky, M. (1984) Principles of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg; Bodanszky, M. & Bodanszky, A. (1984) The Practice of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg; Bodanszky, M. (1985) Int. J. Peptide Protein Res. 25, 449-474; Handbook of Experimental Immunology, VoIs. I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986, Blackwell Scientific Publications); 及びAnimal Cell Culture: Practical Approach, Third Edition (John R. W. Masters, ed., 2000), ISBN 0199637970, テキスト全体、に記載されている。
【0063】
本明細書を通じて、文脈がそうでないことを要求する場合を除き、単語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含むこと(comprising)」などの変化形は、述べられた工程若しくは要素若しくは完全体(integer)、又は工程若しくは要素若しくは完全体の群の包含を意味するが、あらゆる他の工程若しくは要素若しくは完全体、又は要素若しくは完全体の群の排除を意味するものではないことが理解されるであろう。
【0064】
本明細書で使用する場合、用語「由来する(derived from)」とは、特定の完全体(integer)が、具体的な供給源から、その供給源から必ずしも直接的ではないにしても得られてよいことを示すものと解されるものとする。幹細胞及び/又はその子孫細胞に由来する可溶性因子という文脈では、この用語は、幹細胞及び/又はその子孫細胞のin vitro培養の間に産生される1つ以上の因子、例えば、タンパク質、ペプチド、炭水化物などを意味すると解されるものとする。
【0065】
本明細書で使用する場合、用語「内皮機能不全」とは、血管拡張物質と血管収縮物質とのインバランスにより特徴付けられる、且つ/或いは血管拡張低下へと向かう内皮作用のシフト及び/又は炎症促進性状態及び/又は血栓形成促進性特性により特徴付けられる、対象における状態(例えば、全身状態)を意味することが理解されるだろう。内皮機能不全を検出するための方法は、当業者に明らかであり、且つ/或いは本明細書に記載される。
【0066】
本明細書で使用する場合、用語「内皮機能不全により引き起こされる状態」とは、内皮機能不全が病理学的役割を担う任意の医学的状態を意味することが理解されるだろう。一例において、該状態は血管の状態である。例えば、該状態は、心血管疾患(例えば、高血圧、冠動脈疾患、慢性心不全及び末梢動脈疾患)、糖尿病の血管合併症(例えば、ネフロパシー)又は慢性腎不全である。
【0067】
本明細書で使用する場合、用語「ネフロパシー」とは、腎臓への損傷により特徴付けられる状態を意味することが理解され、これには非炎症性ネフロパシー(ネフローゼ)及び炎症性ネフロパシー(腎炎)が含まれる。ネフロパシーの原因には、糸球体におけるIgA抗体の沈着、鎮痛剤の投与、キサンチンオキシダーゼ欠損症、及び/又は鉛若しくはその塩への長期の暴露が含まれる。ネフロパシーを生じ得る慢性の状態には、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病又は高い血圧(高血圧)(それぞれ、糖尿病性ネフロパシー及び高血圧性ネフロパシーを引き起こす)が含まれる。
【0068】
用語「糖尿病性ネフロパシー」(キンメルスティール・ウィルソン症候群、又は結節性糖尿病性糸球体硬化症及び毛細血管間の糸球体腎炎(intercapillary glomerulonephritis)としても知られる)とは、腎臓糸球体の毛細血管の血管障害によって引き起こされる進行性の腎臓疾患をいうことが理解されるだろう。それは、ネフローゼ症候群及びびまん性糸球体硬化症により特徴付けられる。この状態で通常検出される最初の検査所見の異常は、微量アルブミン尿試験陽性である。多くの場合、診断は、糖尿病を有する人物のルーチンな尿検査により、尿中に過剰なタンパク質(タンパク尿)が示される場合に疑われる。尿検査は、特に血糖がコントロール不良である場合に、尿中にグルコースも示し得る。血清クレアチニンは、腎臓の損傷が進むにつれ増加し得る。腎生検を用いて診断を確認できるが、とはいえ、症例が明らかな場合(長期にわたるタンパク尿の進行の実証(documented)や、目の網膜検査における糖尿病性網膜症の存在)には常に必要とされるわけではない。
【0069】
用語「全身性炎症反応症候群」(又は「SIRS」)とは、本明細書では、その通常の意味に従って、感染源を持たない全身の炎症状態をいうために用いられる。SIRSには4つの主要な診断症状が存在するが、これらのうち任意の2つで診断には十分である(例えば、Nystrom (1998) Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 41, Suppl. A, 1-7を参照)。
【0070】
用語「敗血症」とは、疑わしい感染又は証明された感染によって引き起こされるSIRSの一形態をいう(例えば、Nystrom (1998) Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 41, Suppl. A, 1-7を参照)。敗血症に至る感染は、例えば、ウイルス、真菌、原生動物又は細菌などによって引き起こされ得る。
【0071】
用語「敗血症性ショック」とは、灌流障害の存在に加えて、液体による適切な蘇生にもかかわらず生じる低血圧(難治性低血圧)を伴う敗血症をいう(例えば、Nystrom (1998) Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 41, Suppl. A, 1-7を参照)。
【0072】
用語「敗血症様状態(sepsis-like condition)」とは、患者が敗血症又は敗血症性ショックに類似した症状を示すが、炎症性メディエーターのカスケード及び/又は血行動態パラメーターの変化が、主に又は最初に、感染因子によって引き起こされない状態をいう。例えば、敗血症様状態は、急性若しくは慢性肝不全の患者(Wasmuth H E, et al. J Hepatol. 2005 February; 42(2): 195-201を参照)、心停止後の蘇生後疾患に罹患した患者(Adrie C et al. Curr Opin Crit Care. 2004 June; 10(3):208-12を参照)、癌化学療法後の敗血症様症状に罹患した患者(Tsuji E et al. Int J Cancer. 2003 Nov. 1; 107(2):303-8を参照)、組換えTNF-αを用いた温熱患肢灌流(hyperthermic isolated limb perfusion)若しくは同様の治療を受けている患者(Zwaveling J H et al. Crit Care Med. 1996 May; 24(5):765-70を参照)、又は新生児における敗血症様疾患(Griffin M P et al. Pediatr Res. 2003 June; 53(6):920-6を参照)において見られ得る。
【0073】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」とは、対象における血管拡張の有意な増加(例えば、ブラジキニン又はカルバコールなどの内皮拡張剤の存在下)、及び/又は対象の内皮、若しくは対象の組織若しくは組織のその領域(例えば、機能不全となっている内皮の領域)におけるアンジオポエチンIレベルの増加を達成するのに十分な量の幹細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子を意味すると解されるものとする。この用語は、「有効量」が、毎回毎回これらの効果について試験されることを意味するものではなく、むしろ該量は、事前の研究で確立することができ、それら研究結果に基づいて、該量が、大半の対象において同じ効果を有すると推定することができる。
【0074】
本明細書で使用する場合、用語「治療上有効量」とは、内皮機能不全により引き起こされる状態又はその症状又はその臨床的兆候を治療するのに十分な量の幹細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子を意味すると解されるものとする。
【0075】
本明細書で使用する場合、用語「予防上有効量」とは、内皮機能不全により引き起こされる状態又はその症状又はその臨床的兆候の発症を予防する又は抑制する又は遅延させるのに十分な量の幹細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子を意味すると解されるものとする。
【0076】
本明細書で使用する場合、用語「低用量」とは、1×10
6個未満の幹細胞及び/又はその子孫の量を意味し、本明細書で定義されるような「有効量」、並びに/又は本明細書で定義されるような「治療上有効量」及び/若しくは「予防上有効量」であるのになおさらに十分である量を意味すると理解されるべきである。例えば、低用量は、0.5×10
6個以下の細胞、又は0.4×10
6個以下の細胞、又は0.3×10
6個以下の細胞、又は0.1×10
6個以下の細胞を含む。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「高用量」とは、1.5×10
6個超の細胞/kgと理解されるべきである。例えば、用量は約1.5×10
6個と約4×10
6個との間の細胞/kgを含む。例えば、高用量は約1.5×10
6個又は約2×10
6個/kgを含む。
【0078】
「固定された身体用量(fixed body dose)」への言及は、記載の用量が、対象又は対象集団に、その体重にかかわらず投与されることを意味することが理解されるだろう。
【0079】
本明細書で使用する場合、用語「治療する(treat)」又は「治療(treatment)」又は「治療すること(treating)」とは、治療上有効量の可溶性因子及び/又は細胞を投与すること、並びに内皮機能不全により引き起こされる状態の症状(1以上)を、対象がもはやその状態を伴うと臨床的に診断されないように、或いは状態のレベル又は重症度が低下するように、低下させる又は抑制することを意味すると理解されるものとする。
【0080】
本明細書で使用する場合、用語「予防する(prevent)」又は「予防すること(preventing)」又は「予防(prevention)」とは、予防上有効量の可溶性因子及び/又は細胞を投与すること、並びに内皮機能不全により引き起こされる状態の発症又は進行を停止する又は妨げる又は遅延させることを意味すると解されるものとする。
【0081】
本明細書で使用する場合、用語「可溶性因子」とは、幹細胞及び/又はその子孫によって産生される、水溶性の任意の分子、例えば、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、炭水化物などを意味すると解されるものとする。かかる可溶性因子は、細胞内にあってよく、及び/又は細胞によって分泌されてよい。かかる可溶性因子は、複雑な混合物(例えば上清)及び/若しくはその画分(fraction)であってよく、並びに/又は精製された因子であってよい。本開示の一例において、可溶性因子は、上清であるか、又は上清内に含有される。従って、1つ以上の可溶性因子の投与を目的とする本明細書のいかなる例も、上清の投与に準用されると解されるものとする。
【0082】
本明細書で使用する場合、用語「上清」とは、適切な培地(例えば、液体培地)において幹細胞及び/又はその子孫のin vitroでの培養後に生成される非細胞性物質をいう。典型的には、上清は、適切な条件及び時間下にて培地中で細胞を培養し、それに続いて、遠心分離などのプロセスにより細胞性物質を除去することによって生成される。上清は、投与前にさらなる精製工程に供されていてよく、又は供されていなくてもよい。一例において、上清は、10
5個未満、例えば10
4個未満、例えば10
3個未満の生細胞を含み、例えば生細胞を含まない。
【0083】
本明細書で使用する場合、用語「正常又は健康な個体」とは、当分野で既知の及び/又は本明細書に記載の任意の方法により評価されるように、内皮機能不全を有さない対象を意味すると解されるものとする。一例において、「正常又は健康な個体」は、内皮機能不全により引き起こされる状態の症状のいずれにも罹患していない。
【0084】
内皮機能不全
内皮機能を評価するための多数の試験が当分野で既知であり、且つ/或いは以下に記載され、内皮機能不全を検出するために有用である。
【0085】
内皮機能を試験する場合に評価される一般的なパラメーターは、内皮依存性血管拡張である。冠動脈において、これは、内皮依存性アゴニスト(主にアセチルコリン)の効果を評価するDopplerフロー測定により血管造影的に実施される(Schachinger et al., Circulation 101: 1899-1906, 2000)。
【0086】
放射断層撮影法スキャンにより冠灌流を測定する寒冷昇圧試験を、内皮機能の尺度(measure)として使用できる(Gokce et al., Am Coll Cardiol 41: 1769-1775, 2003)。
【0087】
ずり応力は、内皮を刺激してNOを放出するので、非侵襲的技術は、反応性充血の間にずり応力の増加を誘起して、超音波により上腕動脈の血流媒介性(flow-mediated)の血管拡張を評価することからなる(Celermajer et al., Lancet 340: 1111-1115, 1992)。
【0088】
内皮機能不全は動脈炎と並行することから、内皮機能不全のマーカーには、可溶性型のICAM-1、VCAM-1及びE-セレクチンが含まれ、血漿中で評価できる。
【0089】
微量アルブミン尿は、以前から内皮機能不全の一つの現れであると考えられている。大半の病的状態における微量アルブミン尿は、毛細血管透過性(transcapillary)のアルブミンの漏出を伴う、糸球体における毛細血管壁の障害であるようである。糖尿病において、内皮機能不全は、微量アルブミン尿と関連しており、その発症を進行させ得る。微量アルブミン尿はまた、内皮機能不全のマーカーと関連することも示されている。
【0090】
心筋血流及び代謝活性の定量的評価は、放射断層撮影法スキャンにより行うことができる(Gould et al., Circulation 89:1530-1538, 1994)。基底の血流(flow)と充血血流(通常は、静注ジピリダモールに対する)との両方を得て、冠血流予備能を計算することができる。心筋血流の増加は、アデノシン誘発性の増加及び血流媒介性の血管拡張と関連するので、それは部分的には内皮機能の尺度である。この技術は非侵襲性であり、患者1人あたり複数の試験が可能となる利点がある。
【0091】
Hokanson et al.(IEEE Trans Biomed Eng 22:25-29, 1975)は、手足の血流の直接的な測定について電気的に較正されるプレチスモグラフィーを記載した。当該装置は、比較的安価であり、メタコリン又はアセチルコリンの直接的な動脈内注入により内皮機能を評価することから汎用性がある。前腕の血流(ml/分/100 ml)を測定するので、静脈閉塞プレチスモグラフィーは、前腕の抵抗血管機能を反映する。
【0092】
幹細胞又は子孫細胞、及びそれに由来する上清又は1つ以上の可溶性因子
本明細書で使用する場合、用語「幹細胞」とは、表現型的及び遺伝子型的に同一の娘、並びに少なくとも1つの他の最終細胞型(例えば、最終分化した細胞)を生じさせることができる自己再生性の細胞をいう。用語「幹細胞」は、全能性(totipotential)、多能性(pluripotential)及び多能性(multipotential)の細胞、並びにその分化に由来する前駆(progenitor)細胞及び/又は前駆(precursor)細胞を含む。幹細胞は成体又は胚性幹細胞であってよく、或いは人工多能性幹細胞(iPS)であってよい。
【0093】
本明細書で使用する場合、用語「全能性細胞(totipotent cell)」又は「全能性細胞(totipotential cell)」とは、完全な胚(例えば、胚盤胞)を形成することができる細胞をいう。
【0094】
本明細書で使用する場合、用語「多能性細胞(pluripotent cell)」又は「多能性細胞(pluripotential cell)」とは、完全な分化の多様性(versatility)、すなわち、哺乳動物の身体のおよそ260の細胞型のいずれかに成長する能力を有する細胞をいう。多能性(pluripotent)細胞は、自己再生性であり得、組織内で休眠又は静止状態のままであり得る。
【0095】
「多能性細胞(mutipotential cell)」又は「多能性細胞(multipotent cell)」とは、いくつかの成熟した細胞型のいずれかを生じさせることができる細胞を意味する。本明細書で使用する場合、このフレーズは、成体又は胚性幹細胞、及び前駆(progenitor)細胞、例えば、間葉系前駆細胞(MPC)及びこれらの細胞の多能性(multipotential)の子孫などを包含する。多能性(pluripotent)細胞とは異なり、多能性(multipotent)細胞は、すべての細胞型を形成する能力を有さない。
【0096】
本明細書で使用する場合、用語「前駆細胞(progenitor cell)」とは、特定の細胞型へと分化すること、又は特定の組織型を形成することが決定(committed)されている細胞をいう。
【0097】
本明細書で使用する場合、フレーズ「STRO-1
+多能性細胞(STRO-1
+multipotential cells)」とは、多能性細胞コロニーを形成することができるSTRO-1
+及び/又はTNAP
+前駆(progenitor)細胞を意味すると解されるものとする。
【0098】
STRO-1
+多能性細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靭帯、腱、骨格筋、真皮及び骨膜で見られる細胞であり;中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉などの生殖細胞系に分化することができる。従って、STRO-1
+多能性細胞は、多数の細胞型(脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織、筋肉組織、及び線維性結合組織を含むが、これらに限定されない)に分化することができる。これらの細胞が進む特定の分化系列決定及び分化経路は、機械的影響及び/又は内因性生物活性因子(例えば、増殖因子、サイトカイン)、及び/又は宿主組織によって確立される局所微小環境条件からの様々な影響によって決まる。一実施態様において、STRO-1
+多能性細胞は、分裂して、幹細胞又は前駆細胞(その後、不可逆的に分化して、表現型細胞を生じる)のいずれかである娘細胞を生じる、非造血系前駆細胞である。
【0099】
一例において、STRO-1
+細胞は、対象、例えば、治療を受けるべき対象又は近縁(related)の対象若しくは非近縁(unrelated)の対象(同一種か異種かにかかわらない)から得られたサンプルから富化される。用語「富化された(enriched)」、「富化(enrichment)」、又はその変化形は、無処置の細胞集団(例えば、天然環境にある細胞)と比較した場合に、ある特定の細胞型の割合又はいくつかの特定の細胞型の割合が増加している細胞集団を記述するために本明細書で使用する。一例において、STRO-1
+細胞が富化された集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%又は50%又は75%のSTRO-1
+細胞を含む。この点について、用語「STRO-1
+細胞が富化された細胞集団」は、用語「X%のSTRO-1
+細胞を含む細胞集団」(ここで、X%は、本明細書で記載されるパーセンテージである)を明確に支持すると解されるであろう。STRO-1
+細胞は、いくつかの例において、クローン原性コロニー、例えば、CFU-F(線維芽細胞)を形成し得、又はそのサブセット(例えば、50%又は60%又は70%又は70%又は90%又は95%)は、この活性を有し得る。
【0100】
一例において、細胞集団は、選択可能な形態でSTRO-1
+細胞を含む細胞調製物から富化される。この点について、用語「選択可能な形態」とは、細胞が、STRO-1
+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解されるであろう。マーカーは、STRO-1であり得るが、そうである必要はない。例えば、本明細書に記載される及び/又は例示されるように、STRO-2及び/又はSTRO-3(TNAP)及び/又はSTRO-4及び/又はVCAM-1及び/又はCD146及び/又は3G5を発現する細胞(例えば、MPC)はまた、STRO-1を発現(且つSTRO-1
強陽性(bright)であり得る)する。従って、細胞がSTRO-1
+であるとの表示は、細胞がSTRO-1発現によって選択されることを意味するものではない。一例において、細胞は、少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えば、それらはSTRO-3
+(TNAP
+)である。
【0101】
細胞又はその集団の選択への言及は、必ずしも、特定の組織源からの選択を必要としない。本明細書に記載されるように、STRO-1
+細胞は、非常に多様な供給源から選択又は単離又は富化され得る。とはいえ、いくつかの例において、これらの用語は、STRO-1
+細胞(例えば、MPC)を含む任意の組織、又は血管組織、又は周皮細胞(例えば、STRO-1
+周皮細胞)を含む組織、又は本明細書に列挙される組織のいずれか1つ以上からの選択を支持する。
【0102】
一例において、本開示で使用される細胞は、TNAP
+、VCAM-1
+、THY-1
+、STRO-2
+、STRO-4
+(HSP-90β)、CD45
+、CD146
+、3G5
+又はその任意の組み合わせからなる群から個々に又は集合的に選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0103】
「個々に(individually)」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はマーカー群を個別に包含すること、及び個々のマーカー又はマーカー群が本明細書に個別に列挙されていなくてもよいにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、かかるマーカー又はマーカー群を互いに個別且つ可分的に定義してよいことを意味する。
【0104】
「集合的に(collectively)」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はペプチド群の任意の数又は組み合わせを包含すること、及びかかるマーカー又はマーカー群の数又は組み合わせが本明細書に具体的に列挙されていなくてもよいにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、かかる組み合わせ又は部分的組み合わせ(sub-combinations)を、マーカー又はマーカー群の任意の他の組み合わせから個別且つ可分的に定義してよいことを意味する。
【0105】
例えば、STRO-1
+細胞はSTRO-1
強陽性(bright)(STRO-1
強陽性(bri)と同義)である。一例において、Stro-1
強陽性(bri)細胞は、STRO-1
弱陽性(dim)又はSTRO-1
中間(intermediate)細胞と比較して優先的に富化される。
【0106】
例えば、STRO-1
強陽性(bright)細胞はさらに、TNAP
+、VCAM-1
+、THY-1
+、STRO-2
+、STRO-4
+(HSP-90β)
+の1つ以上である。例えば、細胞は、1つ以上の前記マーカーに対して選択され、且つ/或いは1つ以上の前記マーカーを発現することが示される。この点について、マーカーを発現することが示される細胞は、具体的に試験される必要はなく、むしろこれまで富化又は単離された細胞を試験でき、その後使用される単離又は富化された細胞は、同様に同じマーカーを発現するものと合理的に推定できる。
【0107】
一例において、間葉系前駆細胞は、WO 2004/85630で定義されるような、血管周囲の間葉系前駆細胞である。例えば、間葉系前駆細胞は血管周囲細胞のマーカーを発現し、例えば、細胞はSTRO-1
+又はSTRO-1
強陽性(bright)、及び/又は3G5
+である。一例において、細胞は、血管新生組織又は器官又はその一部から単離された細胞であり、又は以前にそうであった細胞であり、又は該細胞の子孫である。
【0108】
所与のマーカーに関して「陽性」であるとされる細胞は、該マーカーが細胞表面上に存在する程度に応じて、低(低(lo)又は弱陽性(dim))レベル若しくは高(強陽性(bright、bri))レベルのいずれかのレベルのマーカーを発現してよく、ここで、該用語は、蛍光強度、又は細胞のソーティングプロセスで使用される他のマーカーに関する。低(lo)(又は弱陽性(dim)若しくは微陽性(dull))及び強陽性(bri)の区別は、ソーティングされる特定の細胞集団で使用されるマーカーとの関連で理解されるだろう。所与のマーカーに関して「陰性」であるとされる細胞は、必ずしもその細胞に全く存在していないわけではない。この用語は、マーカーが当該細胞によって相対的に非常に低いレベルで発現されること、及び検出可能に標識された場合に非常に低いシグナルを生じるか、又はバックグラウンドレベル(例えば、アイソタイプコントロール抗体を用いて検出されるレベル)を超えて検出不能であることを意味する。
【0109】
用語「強陽性(bright)」とは、本明細書で使用する場合、検出可能に標識された場合に相対的に高いシグナルを生じる細胞表面上のマーカーをいう。理論に制限されることを望むものではないが、「強陽性(bright)」細胞は、サンプル中の他の細胞よりも、標的マーカータンパク質(例えば、STRO-1により認識される抗原)を多く発現すると提案される。例えば、STRO-1
強陽性(bri)細胞は、FITC結合STRO-1抗体で標識された場合、蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析によって測定されるように、強陽性でない(non-bright)細胞(STRO-1
微陽性(dull)/弱陽性(dim))よりも大きな蛍光シグナルを生成する。一例において、「強陽性(bright)」細胞は、出発サンプル中に含まれる、少なくとも約0.1%の最も明るく標識された骨髄単核細胞を構成する。他の例において、「強陽性(bright)」細胞は、出発サンプル中に含まれる、少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、又は少なくとも約2%の最も明るく標識された骨髄単核細胞を構成する。一例において、STRO-1
強陽性(bright)細胞は、「バックグラウンド」、すなわちSTRO-1
-である細胞と比較して、STRO-1表面発現が2ログマグニチュード(2 log magnitude)高い発現を有する。比較した場合、STRO-1
弱陽性(dim)及び/又はSTRO-1
中間(intermediate)細胞は、「バックグラウンド」よりもSTRO-1表面発現が2ログマグニチュード未満高い発現を有し、典型的には約1ログ未満である。
【0110】
本明細書で使用する場合、用語「TNAP」とは、組織非特異型アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図される。例えば、当該用語は、肝アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎アイソフォーム(KAP)を包含する。一例において、TNAPはBAPである。一例において、TNAPは、本明細書で使用する場合、ブダペスト条約の規定に基づきPTA-7282の寄託アクセッション番号で2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるSTRO-3抗体と結合することができる分子をいう。
【0111】
さらに、一例において、STRO-1
+細胞はクローン原性CFU-Fを生じさせることができる。
【0112】
一例において、かなりの割合のSTRO-1
+多能性細胞が、少なくとも2つの異なる生殖細胞系に分化することができる。多能性細胞が決定(committed)され得る系列の非限定的な例として、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞に対して多能性である肝細胞前駆細胞;乏突起膠細胞及び星状膠細胞へと進行するグリア細胞前駆細胞を生じることができる神経限定細胞(neural restricted cells);ニューロンへと進行する神経前駆細胞;心筋及び心筋細胞の前駆細胞、グルコース応答性インスリン分泌膵β細胞株が挙げられる。他の系列として、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、並びに以下の前駆細胞:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、尿細管(renal duct)上皮細胞、平滑筋細胞及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄基質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経細胞、星状膠細胞及び乏突起膠細胞、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
別の例において、STRO-1
+細胞は、培養に際して、造血細胞を生じさせることができない。
【0114】
一例において、細胞は、治療されるべき対象から得られ、標準的な技術を用いてin vitroで培養され、自己成分又は同種異系成分として該対象に投与するための上清又は可溶性因子又は増殖細胞を得るために用いられる。代替的な例において、樹立されたヒト細胞株の1つ以上の細胞が用いられる。本開示の別の有用な例において、非ヒト動物(又は患者がヒトでない場合、別の種由来)の細胞が用いられる。
【0115】
本開示は、in vitro培養から生成される、STRO-1
+細胞及び/又はその子孫細胞(後者は増殖細胞(expanded cells)とも称される)から得られる又は由来する上清又は可溶性因子の使用も企図する。本開示の増殖細胞は、培養条件(培地中の刺激因子の数及び/又は種類を含む)、継代数などに応じて、種々様々な表現型を有してよい。ある例において、子孫細胞は、親集団から約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9又は約10継代後に得られる。しかしながら、子孫細胞は、親集団から任意の数の継代後に得られてよい。
【0116】
子孫細胞は任意の適切な培地中で培養することによって得られてよい。用語「培地(medium)」とは、細胞培養に関して使用される場合、細胞周辺の環境の成分を含む。培地は、固体、液体、気体、又は相及び物質の混合物であってよい。培地は、液体増殖培地、及び細胞増殖を維持しない液体培地を含む。培地はまた、寒天、アガロース、ゼラチン及びコラーゲン基質などのゼラチン質の培地も含む。例示的な気体培地は、ペトリ皿又は他の固体若しくは半固体の支持体上で増殖する細胞が暴露される気相を含む。用語「培地」とはまた、それが未だ細胞と接触していない場合であっても、細胞培養での使用を目的とした物質をいう。すなわち、細菌培養用に調製された、栄養分に富む液体が培地である。水又は他の液体と混合されたときに細胞培養に適したものとなる粉末状混合物は、「粉末状培地」と称され得る。
【0117】
一例において、本開示の方法に有用な子孫細胞は、STRO-3抗体で標識した磁気ビーズを用いて、TNAP
+ STRO-1
+細胞を骨髄から単離し、次いでその単離細胞を培養増殖することによって得られる(適切な培養条件の例は、Gronthos et al. Blood 85: 929-940, 1995を参照)。
【0118】
一例において、かかる増殖細胞(子孫)(例えば、少なくとも5継代後)は、TNAP
-、CC9
+、HLAクラスI
+、HLAクラスII
-、CD14
-、CD19
-、CD3
-、CD11a
-c
-、CD31
-、CD86
-、CD34
-及び/又はCD80
-であり得る。しかし、本明細書に記載の条件とは異なる培養条件下では、種々のマーカーの発現が異なり得る可能性がある。また、これらの表現型の細胞は増殖細胞集団において優勢であり得るが、一方で、そのことはこの表現型(1以上)を有さない細胞が少ない割合で存在すること(例えば、わずかな比率の増殖細胞がCC9
-であり得る)を意味するものではない。一例において、増殖細胞は異なる細胞型への分化能を未だなお有している。
【0119】
一例において、上清若しくは可溶性因子、又は細胞それ自体を得るために用いられる消費(expended)細胞集団は、細胞の少なくとも25%、例えば少なくとも50%などがCC9
+である細胞を含む。
【0120】
別の例において、上清若しくは可溶性因子、又は細胞それ自体を得るために用いられる増殖細胞集団は、細胞の少なくとも40%、例えば少なくとも45%などがSTRO-1
+である細胞を含む。
【0121】
さらなる例において、増殖細胞は、LFA-3、THY-1、VCAM-1、ICAM-1、PECAM-1、P-セレクチン、L-セレクチン、3G5、CD49a/CD49b/CD29、CD49c/CD29、CD49d/CD29、CD 90、CD29、CD18、CD61、インテグリンβ6-19、トロンボモジュリン、CD10、CD13、SCF、PDGF-R、EGF-R、IGF1-R、NGF-R、FGF-R、レプチン-R(STRO-2=レプチン-R)、RANKL、STRO-4(HSP-90β)、STRO-1
強陽性(bright)及びCD146、又はこれらのマーカーの任意の組み合わせからなる群から集合的に又は個々に選択される1つ以上のマーカーを発現してよい。
【0122】
一例において、子孫細胞は、WO 2006/032092に定義及び/又は記載されるような、多能性増殖STRO-1
+多能性細胞子孫(Multipotential Expanded STRO-1
+ Multipotential cells Progeny)(MEMP)である。子孫が由来し得るSTRO-1
+多能性細胞の富化集団を調製するための方法は、WO 01/04268及びWO 2004/085630に記載される。in vitroの状況では、STRO-1
+多能性細胞は完全に純粋な調製物として存在することは稀であり、通常は組織特異的分化決定済細胞(tissue specific committed cells)(TSCC)である他の細胞と共に存在するだろう。WO 01/04268は、そのような細胞を骨髄から約0.1%〜90%の純度レベルで収集することに言及している。子孫が由来するMPCを含む集団は、組織源から直接収集されてよく、或いはまたex vivoで既に増殖されている集団であってよい。
【0123】
例えば、子孫は、実質的に精製されたSTRO-1
+多能性細胞の収集され増殖されていない集団(それらが存在する集団の全細胞の少なくとも約0.1、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80又は95%を含む)から得られてよい。このレベルは、例えば、TNAP、STRO-4(HSP-90β)、STRO-1
強陽性(bright)、3G5
+、VCAM-1、THY-1、CD146及びSTRO-2からなる群から個々に又は集合的に選択される少なくとも1つのマーカーが陽性である細胞を選択することによって達成されてよい。
【0124】
MEMPSは、STRO-1
強陽性(bri)マーカーに対して陽性であり、アルカリホスファターゼ(ALP)マーカーに対して陰性であるという点で、新たに収集されたSTRO-1
+多能性細胞と区別することができる。対照的に、新たに単離されたSTRO-1
+多能性細胞は、STRO-1
強陽性(bri)及びALPの両方に対して陽性である。本開示の一例において、投与される細胞の少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は95%が、STRO-1
強陽性(bri)、ALP
-の表現型を有する。さらなる一例において、MEMPSは、Ki67、CD44及び/又はCD49c/CD29、VLA-3、α3β1マーカーの1つ以上に対して陽性である。なおさらなる一例において、MEMPは、TERT活性を示さず、且つ/又はCD18マーカーに対して陰性である。
【0125】
STRO-1
+細胞出発集団は、WO 01/04268又はWO 2004/085630に記載される任意の1つ以上の組織型、すなわち、骨髄、歯髄細胞、脂肪組織及び皮膚由来であってよく、或いはおそらくより広範に、脂肪組織、歯、歯髄、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、脾臓、リンパ節、胸腺、膵臓、骨、靱帯、骨髄、腱及び骨格筋由来であってもよい。
【0126】
本開示に記載の方法を実施する際、任意の所与の細胞表面マーカーを保持する細胞の分離は、多数の異なる方法によって達成できるが、いくつかの例示的な方法は、結合剤(例えば、抗体又はその抗原結合断片)を関連するマーカーへと結合し、それに続いて、結合(高レベルの結合又は低レベルの結合又は結合なしのいずれかである)を示すものを分離することに依ることが理解されるだろう。最も簡便な結合剤は、抗体又は抗体ベースの分子であり、例えば、モノクローナル抗体、又はこれらの後者の作用物質(agents)の特異性によりモノクローナル抗体に基づくもの(例えば、その抗原結合断片を含むタンパク質)である。抗体は両方の工程で使用することができるが、他の作用物質を用いてもよく、従って、これらのマーカーに対するリガンドを用いて、それらを保持する細胞、又はそれらを欠く細胞を富化してよい。
【0127】
抗体又はリガンドは、粗分離を可能にするために固体支持体に結合させてよい。いくつかの例において、分離技術により、回収される画分の生存率の保持が最大化される。異なる効率の種々の技術を用いて、比較的粗い分離を得てよい。使用される特定の技術は、分離効率、随伴する細胞毒性、実施の容易性及びスピード、並びに高性能機器及び/又は技巧の必要性に応じて決まるだろう。分離の手順は、抗体コーティング磁気ビーズを用いた磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、及び固体マトリックスに付着した抗体での「パンニング(panning)」を含んでよいが、これらに限定されない。正確な分離を提供する技術としてFACSが挙げられるが、これに限定されない。FACSを実施するための方法は、当業者には明らかであるだろう。
【0128】
本明細書に記載のマーカーの各々に対する抗体は市販されており(例えば、STRO-1に対するモノクローナル抗体はR&D Systems, USAから市販される)、ATCC若しくは他の寄託機関から入手可能であり、且つ/或いは当該分野で認知される技術を用いて作製することができる。
【0129】
一例において、STRO-1
+細胞を単離するための方法は、例えば、STRO-1の高レベル発現を認識する磁気活性化セルソーティング(magnetic activated cell sorting)(MACS)を利用する固相ソーティング工程である第一の工程を含む。次いで、所望であれば、第二のソーティング工程を続けて、特許明細書WO 01/14268に記載されるように、より高レベルの前駆細胞発現をもたらすことができる。この第二のソーティング工程は、2以上のマーカーの使用を伴ってよい。
【0130】
STRO-1
+細胞を得る方法は、既知の技術を用いて、第一の富化工程の前に細胞の供給源を収集することを含んでもよい。従って、組織は外科的に摘出されるだろう。次いで、細胞を含む供給源組織は、いわゆる単細胞浮遊液へと分離されるだろう。この分離は、物理的及び又は酵素的手段によって達成されてよい。
【0131】
適切なSTRO-1
+細胞集団が得られたら、任意の適切な手段によりそれを培養又は増殖させてMEMPを得てよい。
【0132】
一例において、細胞は、治療されるべき対象から得られ、標準的な技術を用いてin vitroで培養され、自己成分又は同種異系成分として該対象に投与するための上清又は可溶性因子又は増殖細胞を得るために用いられる。代替的な例において、樹立されたヒト細胞株の1つ以上の細胞が、上清又は可溶性因子を得るために使用される。本開示の別の有用な例において、非ヒト動物(又は患者がヒトでない場合、別の種由来)の細胞が、上清又は可溶性因子を得るために使用される。
【0133】
本開示の方法及び使用は、任意の非ヒト動物種由来の細胞(非ヒト霊長類細胞、有蹄動物、イヌ科、ネコ科、ウサギ目、げっ歯類、鳥類、及び魚類の細胞を含むが、これらに限定されない)を用いて実施できる。本開示を実施してよい霊長類細胞として、チンパンジー、ヒヒ、カニクイザル、及び他の任意の新世界ザル又は旧世界ザルの細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本開示を実施してよい有蹄動物細胞として、ウシ属、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ科、バッファロー及びバイソンの細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本開示を実施してよいげっ歯類細胞として、マウス、ラット、モルモット、ハムスター及びスナネズミ(gerbil)の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本開示を実施してよいウサギ目の種の例として、家畜のウサギ、ジャック・ウサギ(jack rabbits)、野ウサギ、ワタオウサギ、カンジキウサギ、及びナキウサギが挙げられる。ニワトリ(Gallus gallus)は、本開示を実施してよい鳥類の種の例である。
【0134】
一例において、細胞はヒト細胞である。
【0135】
本開示の方法に有用な細胞は、使用前、又は上清若しくは可溶性因子を得る前に、保管されてよい。真核細胞、特に哺乳動物細胞を保存及び保管するための方法及びプロトコールは、当分野で既知である(例えば、Pollard, J. W. and Walker, J. M.(1997)Basic Cell Culture Protocols, Second Edition, Humana Press, Totowa, N.J.; Freshney, R. I.(2000)Culture of Animal Cells, Fourth Edition, Wiley-Liss, Hoboken, N.J.を参照)。単離された幹細胞、例えば間葉系幹/前駆細胞、又はその子孫の生物活性を維持する任意の方法を、本開示に関連して利用してよい。一例において、細胞は、凍結保存を用いることにより維持及び保管される。
【0136】
多硫酸化多糖類
多硫酸化多糖類は、ヘパリン及びペントサンポリサルフェートにより例示されるように、1つ以上の硫酸エステル基が共有結合している2つ以上の糖環又は炭水化物構造を含有する、天然に存在するか又は半合成/合成の任意の多硫酸化多糖類又は生物学的に活性なその断片であってよい。
【0137】
一例において、STRO-1
+細胞及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子は、多硫酸化多糖類と組み合わせて投与される。
【0138】
別の例において、多硫酸化多糖類は、PPS及び医薬上許容されるその塩である。
【0139】
一例において、PPSは、ブナ材ヘミセルロース(Fagus silvatica)から単離され、ペントサンポリサルフェートの直鎖キシラン(ペントサン)骨格は、平均して、10番目のキシロース(ペントース)環ごとに1つの、2位に連結された4-O-メチル-グルクロン酸(glucuronate)側鎖を含有する。例えば、ペントサンポリサルフェート及び医薬上許容されるその塩は、以下の構造:
【0142】
一例において、特定の錯化イオン(PPSの塩を生成するため)は、アルカリ金属、例えば、Na
+及びK
+、アルカリ土類金属、例えば、Ca
2+、Zn
2+、Mg
2+、Ba
2+、及びAg
+、Au
+、Pb
2+、Cu
2+、Au
2+、Pd
2+、Pd
4+、Pt
4+、Pt
2、三価の金属イオン、並びに4級アンモニウム化合物錯体からなる群から選択されてよい。後者の化合物の例は、塩化ピリジニウム、塩化テトラアルキルアンモニウム、塩化コリン、塩化セチルピリジニウム、塩化N-セチル-N, N, N-トリアルキルアンモニウム(N-cetyl-N, N, N-trialkylammonium chloride)、又はこれらの誘導体である。
【0143】
例えば、錯化イオンはナトリウムであり、すなわち、PPSはNaPPSである。例えば、NaPPSは、Bene Pharmachem, Germanyによって製造されるSP54である。
【0144】
一例において、PPSは、前駆細胞の生存率を改善し、前駆細胞の凍結保存を向上させ、前駆細胞の増殖を制御し、且つ/或いは前駆細胞の分化を制御する。
【0145】
遺伝子改変細胞
一例において、幹細胞及び/又はその子孫細胞は、例えば目的のタンパク質を発現及び/又は分泌するために、遺伝子改変される。例えば、細胞は、内皮機能不全の治療に有用なタンパク質、例えば、アンジオポエチンI又は一酸化窒素シンターゼ(例えば、eNOS又はiNOS)などを発現するよう操作される。
【0146】
細胞を遺伝的に改変するための方法は、当業者に明らかであるだろう。例えば、細胞で発現されるべき核酸は、細胞での発現を誘導するためのプロモーターと操作可能に連結される。例えば、核酸は、対象の様々な細胞中で操作可能なプロモーター、例えば、ウイルスプロモーター(例えば、CMVプロモーター(例えば、CMV-IEプロモーター)又はSV-40プロモーター)などに連結される。さらなる適切なプロモーターは当分野で既知であり、本開示の例に準用すると解されるものとする。
【0147】
一例において、核酸は発現コンストラクトの形態で提供される。本明細書で使用する場合、用語「発現コンストラクト」とは、細胞中、操作可能に連結された核酸(例えば、レポーター遺伝子及び/又は対抗選択可能(counter-selectable)なレポーター遺伝子)を発現させる能力を有する核酸をいう。本開示の文脈において、発現コンストラクトは、プラスミド、バクテリオファージ、ファージミド、コスミド、ウイルスのサブゲノム断片若しくはゲノム断片、又は異種DNAを発現可能な形態で維持及び/若しくは複製できる他の核酸を含むか、又はそれらであってよいことが理解されるべきである。
【0148】
本開示を実施するための適切な発現コンストラクトを構築するための方法は、当業者に明らかであり、例えば、Ausubel et al(In: Current Protocols in Molecular Biology. Wiley Interscience, ISBN 047 150338, 1987)又は Sambrook et al(In: Molecular Cloning: Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Third Edition 2001)に記載される。例えば、発現コンストラクトの各成分は、例えばPCRを用いて適切な鋳型核酸から増幅され、その後、例えばプラスミド又はファージミドなどの適切な発現コンストラクト中にクローニングされる。
【0149】
かかる発現コンストラクトに適切なベクターは、当分野で既知であり、及び/又は本明細書に記載される。例えば、哺乳動物細胞における本開示の方法に適した発現ベクターは、例えば、Invitrogenより提供されるpcDNAベクター一式のベクター、pCIベクター一式(Promega)のベクター、pCMVベクター一式(Clontech)のベクター、pMベクター(Clontech)、pSIベクター(Promega)、VP16ベクター(Clontech)又はpcDNAベクター一式(Invitrogen)のベクターなどである。
【0150】
当業者は、さらなるベクター、及びかかるベクターの供給源、例えば、Life Technologies Corporation、Clontech又はPromegaなどを承知しているだろう。
【0151】
単離された核酸分子又はそれを含む遺伝子コンストラクトを発現のために細胞に導入するための手段は当業者に既知である。所与の生物に使用される技術は、既知の成功した技術によって決まる。組換えDNAを細胞に導入するための手段として、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランによって媒介されるトランスフェクション、リポソームによって媒介されるトランスフェクション、例えば、リポフェクタミン(Gibco, MD, USA)及び/又はセルフェクチン(Gibco, MD, USA)を用いることによるもの、PEGによって媒介されるDNAの取り込み、エレクトロポレーション、並びに微粒子銃法(microparticle bombardment)、例えば、DNAをコーティングしたタングステン又は金粒子(Agracetus Inc., WI, USA)を用いることによるもの、が特に挙げられる。
【0152】
或いは、本開示の発現コンストラクトはウイルスベクターである。適切なウイルスベクターは当分野で既知であり、市販されている。核酸のデリバリー及び宿主細胞ゲノムへの核酸の組込みのための従来のウイルスベースの系として、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。或いは、アデノウイルスベクターは、エピソームのまま核酸を宿主細胞に導入するのに有用である。ウイルスベクターは、標的細胞及び組織における、効率的且つ用途の広い遺伝子導入方法である。さらに、高い導入効率が、多くの異なる細胞型及び標的組織で確認されている。
【0153】
例えば、レトロウイルスベクターは、通常、最大6〜10 kbの外来配列パッケージング容量を有する、シス作動性長鎖末端反復配列(long terminal repeats)(LTR)を含む。最小のシス作動性LTRであってもベクターの複製及びパッケージングには十分であり、その後、発現コンストラクトを標的細胞に組み込むのに使用され、長期発現を提供する。広く使用されるレトロウイルスベクターとして、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SrV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びその組み合わせをベースとするものが含まれる(例えば、Buchscher et al., J Virol. 56:2731-2739(1992); Johann et al, J. Virol. 65:1635-1640(1992); Sommerfelt et al, Virol. 76:58-59(1990); Wilson et al, J. Virol. 63:274-2318(1989); Miller et al., J. Virol. 65:2220-2224(1991); PCT/US94/05700; Miller and Rosman BioTechniques 7:980-990, 1989; Miller, A. D. Human Gene Therapy 7:5-14, 1990; Scarpa et al Virology 75:849-852, 1991; Burns et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 90:8033-8037, 1993を参照)。
【0154】
また、様々なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター系が核酸デリバリー用に開発されている。AAVベクターは、当分野で既知の技術を用いて容易に構築することができる。例えば、米国特許第5,173,414号及び同第5,139,941号;国際公開WO 92/01070及びWO 93/03769;Lebkowski et al. Molec. Cell. Biol. 5:3988-3996, 1988; Vincent et al.(1990)Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press);Carter Current Opinion in Biotechnology 5:533-539, 1992; Muzyczka. Current Topics in Microbiol, and Immunol. 158:97-129, 1992; Kotin, Human Gene Therapy 5:793-801, 1994; Shelling and Smith Gene Therapy 7:165-169, 1994; and Zhou et al. J Exp. Med. 179:1867-1875, 1994を参照。
【0155】
本開示の発現コンストラクトをデリバリーするのに有用なさらなるウイルスベクターとして、例えば、ポックス科のウイルス、例えば、ワクシニアウイルス及び鳥ポックスウイルスなどに由来するもの、又はアルファウイルス又はコンジュゲートウイルスベクター(例えば、Fisher-Hoch et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 56:317-321, 1989に記載のもの)が挙げられる。
【0156】
細胞及び可溶性因子の治療/予防における有用性試験
内皮機能/機能不全を研究するための様々なモデルが当分野で既知である。例示的なin vitroモデルは以下を含む:
・高グルコース培地中での培養内皮細胞であって、これにより増殖の抑制、接着分子の発現の増加及びアポトーシスの増加がもたらされる;及び
・例えば、Alm et al., BMC Cardiovascular Disorders, 2: 8, 2002に記載されるような、腸間膜動脈の器官培養物。
【0157】
内皮機能/機能不全のin vivoモデルは以下を含む:
・Eberhardt et al., J Clin Invest 106: 483-491, 2000に記載されるような、マウス高ホモシステイン血症モデル;
・2腎性1クリップモデル及び1腎性1クリップモデルなどのゴールドブラット技術を用いて作製されたラット高血圧モデルであって、これは動脈圧、全末梢血管抵抗(TPR)を増加させること、及びアセチルコリン(Ach)に対する内皮依存性弛緩を低下させることが実証されている(Share et al., Clin. Exp. Hypertens., 4: 1261-1270, 2982; Sventek et al., Hypertensive, 27: 49-55, 1996);
・げっ歯類において一側腎摘出術を行い、その後6週間の間、週に2回、1%NaCl及び0.5%KClとともにオリーブオイル中DOCA塩(40 mg kg-1, s.c.)を投与することにより、血管内皮機能不全が作製される(Shah and Singh, Naun. Schmie. Arch. Pharmacol., 373: 221-229, 2006);
・6週間、L-NAME(eNOS阻害剤)(50 mg kg-1 day-1)でげっ歯類を処置することにより、ラットにおいて、血圧が上昇し、内皮依存性弛緩が低下することが示されている(Kung et al., Hypertensive, 26: 744-751, 1995);
・アンジオテンシン-II(0.7 mg kg-1 day-1)を5日間げっ歯類に注入することにより、収縮期血圧の上昇、スーパーオキシドアニオンの産生が増加すること、Ach誘発性弛緩の障害が引き起こされることが示されている(Rajagopalan et al., J. Clin. Invest., 97: 1916-1923, 1996);
・エチニルエストラジオール(1.5 mg kg-1 day-1)をげっ歯類に慢性投与することにより、血圧が上昇し、結果として内皮依存性弛緩が低下することが示されている(Thakre et al., Ind. J. Pharmacol., 32: 15-20, 2000);
・中程度の高脂肪食投与を10週間与えたげっ歯類は、高血圧により特徴付けられる血管内皮機能不全を発症し、活性酸素種(ROS)及び脂質過酸化反応が上昇することが示されている(Dobrian et al., Hypertensive, 37: 554-560, 2001);
・ストレプトゾトシン(55 mg kg-1, i.p. 1回)をラットに投与すると糖尿病を生じ、結果として血管内皮機能不全が誘導された(Shah and Singh, Mol. Cell. Biochem., 283: 191-199, 2006)。
【0158】
内皮機能不全のさらなるモデルは、例えば、Balakumar et al., Trends in Medical Research, 2: 12-20, 2007に記載される。
【0159】
細胞組成物
本開示の一例において、STRO-1
+細胞及び/又はその子孫細胞は、組成物の形態で投与される。例えば、かかる組成物は医薬上許容される担体及び/又は賦形剤を含む。
【0160】
用語「担体」及び「賦形剤」とは、貯蔵、投与、及び/又は活性化合物の生物活性を促進するために当分野で従来使用される物質の組成物(compositions of matter)をいう(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Ed., Mac Publishing Company(1980)を参照)。担体はまた、活性化合物のあらゆる望ましくない副作用を低下させ得る。適切な担体は、例えば、安定であり、例えば、担体中の他の成分と反応することができない。一例において、担体は、治療に使用される投与量及び濃度において、重大な局所的又は全身的な有害作用をレシピエントにもたらさない。
【0161】
本開示のための適切な担体には、従来使用されるものが含まれ、例えば、水、食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンゲル液、緩衝液、ヒアルロナン及びグリコールは、特に液剤用(等張である場合)に、例示的な液体担体である。適切な医薬担体及び賦形剤として、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0162】
別の例において、担体は、例えば、その中で細胞が増殖又は懸濁される、培地組成物である。例えば、かかる培地組成物は、それを投与された対象においていかなる有害作用も誘導しない。
【0163】
例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存能、及び/又は炎症性関節疾患を低下、予防若しくは遅延させる細胞の能力に悪影響を及ぼさない。
【0164】
一例において、担体又は賦形剤は、細胞及び/又は可溶性因子を適切なpHで維持するために緩衝作用(buffering activity)を提供し、それにより生物活性が発揮され、例えば、担体又は賦形剤はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、魅力的な担体又は賦形剤であるが、その理由は、本発明の組成物が、血流中、又は組織中若しくは組織の周辺若しくは隣接する領域中へと直接適用(例えば、注入により)するための液体として製造されてよいような場合に、PBSは細胞及び因子と最小限しか相互作用せず、細胞及び因子の迅速な放出を可能とするからである。
【0165】
STRO-1
+細胞及び/又はその子孫細胞はまた、レシピエント適合性の足場であって、且つレシピエントに対して有害ではない産物に分解される足場に組み込まれるか、又は包埋され得る。これらの足場は、レシピエント対象に移植されるべき細胞のために支持及び保護を提供する。天然及び/又は合成の生分解性足場は、かかる足場の例である。
【0166】
様々な異なる足場が、本発明の実施において首尾よく使用されてよい。例示的な足場として、生物学的な分解性の足場が挙げられるが、これに限定されない。天然の生分解性足場として、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニンの足場が挙げられる。細胞移植の足場のための適切な合成材料は、広範な細胞増殖及び細胞機能をサポートできるべきである。かかる足場は吸収性であってもよい。適切な足場として、ポリグリコール酸足場、例えば、Vacanti, et al. J. Ped. Surg. 23:3-9 1988; Cima, et al. Biotechnol. Bioeng. 38:145 1991; Vacanti, et al. Plast. Reconstr. Surg. 88:753-9 1991に記載されるようなもの;又は合成ポリマー、例えば、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などが挙げられる。
【0167】
別の例において、細胞はゲル状足場(例えば、Upjohn CompanyのGelfoam)中で投与されてよい。
【0168】
本明細書に記載の方法に有用な細胞組成物は、単独で、又は他の細胞との混合物として投与されてよい。本発明の組成物と併せて投与されてよい細胞として、他の多能性(multipotent)若しくは多能性(pluripotent)細胞若しくは幹細胞、又は骨髄細胞が挙げられるが、これらに限定されない。異なるタイプの細胞を、本発明の組成物と、投与の直前又は投与の少し前に混合してよく、或いは投与前にある一定期間一緒に共培養してよい。
【0169】
一例において、組成物は、有効量、又は治療上若しくは予防上有効量の細胞を含む。例えば、組成物は、約1×10
5個のSTRO-1
+細胞/kg〜約1×10
7個のSTRO-1
+細胞/kg、又は約1×10
6個のSTRO-1
+細胞/kg〜約5×10
6個のSTRO-1
+細胞/kgを含む。投与されるべき細胞の正確な量は、患者の年齢、体重及び性別、並びに炎症性関節疾患の程度及び重症度を含む様々な因子に応じて決定される。
【0170】
一例において、低用量の細胞が対象に投与される。例示的な投与量は、1 kgあたり約0.1×10
4〜約0.5×10
6個の間の細胞、例えば、1 kgあたり約0.1×10
5〜約0.5×10
6個の間の細胞、例えば、1 kgあたり約0.5×10
5〜約0.5×10
6個の間の細胞、例えば、1 kgあたり約0.1×10
6〜約0.5×10
6個の間の細胞、例えば、1 kgあたり約0.2×10
6個又は0.3×10
6個又は0.4×10
6個の細胞を含む。
【0171】
一例において、高用量の細胞が対象に投与される。例示的な投与量は、少なくとも約1.5×10
6個の細胞/kgを含む。例えば、高用量は、約1.5×10
6〜約6×10
6個の間の細胞/kg、例えば、約1.5×10
6〜約5×10
6個の間の細胞/kg、例えば、約1.5×10
6〜約4×10
6個の間の細胞/kg、例えば、約1.5×10
6〜約3×10
6個の間の細胞/kgを含む。例えば、高用量は、約1.5×10
6個又は約2×10
6個の細胞/kgを含む。
【0172】
一例において、細胞は、患者の体重にかかわらず、全細胞数用量として投与される。
【0173】
例えば、一例において、細胞は、患者の体重にかかわらず、約1億〜3億個の間の細胞の用量で投与される。
【0174】
例えば、一例において、細胞は、患者の体重にかかわらず、約1億〜2億個の間の細胞の用量で投与される。
【0175】
一例において、細胞は、患者の体重にかかわらず、約1億個の細胞の用量で投与される。
【0176】
一例において、細胞は、患者の体重にかかわらず、約1.5億個の細胞の用量で投与される。
【0177】
一例において、細胞は、患者の体重にかかわらず、約2億個の細胞の用量で投与される。
【0178】
一例において、細胞は、患者の体重にかかわらず、約3億個の細胞の用量で投与される。
【0179】
いくつかの例において、細胞は、該細胞が対象の循環中に出て行くことは不可能であるが、細胞により分泌される因子が循環に進入することは可能であるチャンバー内に含まれる。このような方法では、可溶性因子は、細胞が対象の循環中に因子を分泌することを可能とすることにより、対象に投与されてよい。かかるチャンバーは、対象のある部位に均等に埋め込まれて、可溶性因子の局所レベルを増加させてよく、例えば、膵臓中又はその近くに埋め込まれてよい。
【0180】
本発明のいくつかの例において、細胞組成物を用いた治療の開始前に患者を免疫抑制することは必須でなくてよく、又は望ましくなくてよい。従って、同種異系又はさらには異種のSTRO-1
+細胞又はその子孫を用いた移植が、場合によって、許容されてよい。
【0181】
しかし、他の場合では、細胞療法の開始前に患者を薬理学的に免疫抑制すること、及び/又は細胞組成物に対して対象の免疫応答を低下させることが望ましいか、又は適切であってよい。これは、全身的又は局所的な免疫抑制剤の使用を介して達成されてよく、或いはカプセル化デバイスにて細胞をデリバリーすることにより達成されてよい。細胞は、細胞及び治療因子に必要とされる栄養分及び酸素に対して透過性であるが、免疫液性因子及び細胞に対しては非透過性であるカプセル中にカプセル化されてよい。例えば、カプセル材料は、低刺激性で、標的組織内に容易且つ安定して位置し、移植された構造体にさらなる保護を提供する。移植細胞に対する免疫反応を低下又は除去するためのこれら及び他の手段は、当分野で既知である。代わりに、細胞を遺伝的に改変して、それらの免疫原性を低下させてよい。
【0182】
可溶性因子の組成物
本発明の一例において、STRO-1
+細胞由来の及び/又は子孫細胞由来の上清又は可溶性因子は、組成物の形態、例えば適切な担体及び/又は賦形剤を含む組成物の形態で投与される。例えば、担体又は賦形剤は、可溶性因子又は上清の生物学的効果に悪影響を及ぼさない。
【0183】
一例において、組成物は、可溶性因子、又は上清成分(例えば、プロテアーゼ阻害剤)を安定化させるための物質の組成物を含む。例えば、プロテアーゼ阻害剤は、対象に対して有害作用を有するのに十分な量では含まれない。
【0184】
STRO-1
+細胞由来の及び/又は子孫細胞由来の上清又は可溶性因子を含む組成物は、例えば、培地中で、又は安定な担体若しくは緩衝溶液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水中で、適切な液体懸濁液として調製されてよい。適切な担体は上記にて本明細書に記載される。別の例において、STRO-1
+細胞由来の及び/又は子孫細胞由来の上清又は可溶性因子を含む懸濁液は、注射用の油状懸濁液である。適切な親油性溶媒又はビヒクルとして、脂肪油、例えば、ゴマ油;又は合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチル若しくはトリグリセリド;又はリポソームが挙げられる。注射用に使用されるべき懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランなどを含有してもよい。任意選択で、懸濁液は、適切な安定剤又は作用物質であって、化合物の溶解度を高めて、高濃度の溶液の調製を可能とするものを含有してもよい。
【0185】
滅菌注射剤は、必要量の上清又は可溶性因子を、必要に応じて上記成分の1つ又は組み合わせとともに、適切な溶媒に組み入れ、それに続いてフィルター滅菌することにより調製できる。
【0186】
通常、ディスパージョン(dispersions)は、上清又は可溶性因子を、基本(basic)分散媒及び上に列挙されたものから必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み入れることによって調製される。滅菌注射剤調製用の滅菌粉末の場合、例示的な調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥であり、それによって、予め滅菌濾過したその溶液から、活性成分と任意の追加の所望成分との粉末が得られる。本発明の別の側面によれば、上清又は可溶性因子は、その溶解度を高める1つ以上のさらなる化合物と共に製剤化されてよい。
【0187】
他の例示的な担体又は賦形剤は、例えば、Hardman, et al.(2001)Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, McGraw-Hill, New York, N. Y.; Gennaro(2000)Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott, Williams, and Wilkins, New York, N. Y.; Avis, et al.(eds.)(1993)Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications, Marcel Dekker, NY; Lieberman, et al.(eds.)(1990)Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Marcel Dekker, NY; Lieberman, et al.(eds.)(1990)Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, Marcel Dekker, NY; Weiner and Kotkoskie(2000)Excipient Toxicity and Safety, Marcel Dekker, Inc., New York, N. Y.に記載される。
【0188】
治療組成物は、典型的には、製造及び貯蔵条件下で無菌且つ安定であるべきである。組成物は、溶液、マイクロエマルション、リポソーム、又は他の規則構造として製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)及び適切なその混合物を含有する溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、ディスパージョンの場合には必要な粒径を維持することにより、及び界面活性剤の使用により維持することができる。多くの場合、組成物中には等張剤、例えば、糖類、多価アルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、又は塩化ナトリウムが含まれることが望ましいだろう。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアレート塩(monostearate salts)及びゼラチンを含むことによってもたらされ得る。さらに、可溶性因子は、徐放性製剤中、例えば徐放性ポリマーを含む組成物中で投与されてよい。活性化合物は、急速な放出から化合物を保護する担体とともに調製することができ、例えば、インプラント及びマイクロカプセル化デリバリーシステムを含む放出制御製剤などである。生分解性、生体適合性のポリマー、例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸及びポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(polylactic, polyglycolic copolymers)(PLG)などを使用することができる。かかる製剤を調製するための多くの方法が、特許されているか、又は当業者に一般的に知られている。
【0189】
上清又は可溶性因子は、例えば可溶性因子を除放させるために、適切なマトリックスと組み合わせて投与されてよい。
【0190】
組成物の追加成分
STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は、他の有益な薬物又は生物学的分子(増殖因子、栄養因子)とともに投与されてよい。他の薬剤とともに投与される場合、それらは、単一医薬組成物又は別個の医薬組成物で、同時に、又は該他の薬剤と連続して(該他の薬剤の投与の前又は後のいずれか)、一緒に投与されてよい。共投与されてよい生物活性因子には、抗アポトーシス剤(例えば、EPO、EPOミメチボディ、TPO、IGF-I及びIGF-II、HGF、カスパーゼ阻害剤);抗炎症剤(例えば、p38 MAPK阻害剤、TGFベータ阻害剤、スタチン、IL-6及びIL-1阻害剤、ペミロラスト、トラニラスト、レミケード、シロリムス及びNSAID(非ステロイド性抗炎症薬;例えば、テポキサリン、トルメチン、スプロフェン);免疫抑制/免疫調節剤(例えば、カルシニューリン阻害剤、例えば、シクロスポリン、タクロリムスなど;mTOR阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス);抗増殖剤(例えば、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン);抗体、例えば、モノクローナル抗IL-2Rアルファ受容体抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)、ポリクローナル抗T細胞抗体(例えば、抗胸腺細胞グロブリン(ATG);抗リンパ球グロブリン(ALG);モノクローナル抗T細胞抗体OKT3));抗血栓形成剤(例えば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、PPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)、抗トロンビン化合物、血小板受容体アンタゴニスト、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害剤及び血小板阻害剤);及び抗酸化剤(例えば、プロブコール、ビタミンA、アスコルビン酸、トコフェロール、コエンザイムQ-10、グルタチオン、L-システイン、N-アセチルシステイン)及び局所麻酔薬などが挙げられる。
【0191】
一例において、STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は、内皮機能不全を治療するのに有用な化合物、例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-アクチベーター(peroxisome proliferator- activated receptor-activators)(インスリン増感剤、例えば、グリタゾン ピオグリタゾン及びロシグリタゾン)、及びペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-アクチベーター(フィブラート、例えば、フェノフィブラート)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸又はビタミンE)又はホルモン補充療法とともに投与される。
【0192】
別の例において、本明細書に記載するようないずれかの例に従う組成物は、前駆細胞の血管細胞への分化を誘導する又は促進する因子をさらに含む。例示的な因子として、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF;例えば、PDGF-BB)、及びFGFが挙げられる。
【0193】
別の例において、本明細書に記載するようないずれかの例に従う組成物は、組織特異的分化決定済細胞(tissue specific committed cell)(TSCC)をさらに含む。これに関して、国際特許出願PCT/AU2005/001445は、TSCC及びSTRO-1
+細胞の投与が、TSCCの増殖の促進を導くことができることを実証する。一例において、TSCCは血管細胞である。かかる組成物の対象への投与は、血管系の産生の増加を導き、例えば、罹患組織へデリバリーされる栄養物の増加を導いてよい。
【0194】
医療デバイス
本開示はまた、本明細書に記載するようないずれかの例に従う方法で使用するため、又は当該方法で使用される場合の医療デバイスを提供する。例えば、本開示は、本明細書に記載するようないずれかの例に従うSTRO-1
+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれからの可溶性因子及び/又は組成物を含む、シリンジ若しくはカテーテル、又は他の適切なデリバリーデバイスを提供する。任意選択で、シリンジ又はカテーテルは、本明細書に記載するようないずれかの例に従う方法で使用するための指示書とともにパッケージされる。
【0195】
他の例において、本開示は、本明細書に記載するようないずれかの例に従うSTRO-1
+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれからの可溶性因子及び/又は組成物を含むインプラント(implant)を提供する。任意選択で、インプラントは、本明細書に記載するようないずれかの例に従う方法で使用するための指示書とともにパッケージされる。適切なインプラントは、足場(例えば、本明細書で上述するようなもの)、並びにSTRO-1
+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれからの可溶性因子とともに形成されてよい。
【0196】
投与様式
STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は、外科的に移植、注入、デリバリー(例えば、カテーテル又はシリンジを手段として)されてよく、或いは全身投与されてもよい。
【0197】
一例において、STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は、対象の血流にデリバリーされる。例えば、STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は非経口的にデリバリーされる。例示的な非経口投与経路として、腹腔内、心室内(intraventricular)、脳室内、くも膜下腔内、動脈内、節内(intranodal)又は静脈内が挙げられるが、これらに限定されない。一例において、STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は、動脈内、大動脈中、心臓の心房若しくは心室中、又は血管中に、例えば、静脈内にデリバリーされる。
【0198】
心臓の心房又は心室への細胞デリバリーの場合、肺への急速な細胞デリバリーによって生じ得る合併症を避けるため、細胞を左心房又は左心室に投与できる。
【0199】
一例において、STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は、例えば、シリンジを用いて、又はカテーテル若しくはセントラルライン(central line)を通じて、デリバリー部位に注入される。
【0200】
治療製剤の投与レジメンの選択は、血清又は組織での実体(entity)の代謝回転速度、症状レベル、及び実体(entity)の免疫原性を含む複数の因子に依存する。例えば、投与レジメンは、許容可能な副作用レベルと一致して、患者にデリバリーされる治療化合物の量を最大化する。従って、デリバリーされる製剤の量は、特定の実体(entity)及び治療されている状態の重症度によって部分的に決まる。
【0201】
一例において、STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は、単回ボーラス投与としてデリバリーされる。或いは、STRO-1
+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1
+細胞又はその子孫は、持続注入によって、又は例えば、1日、1週間の間隔若しくは週に1〜7回での投薬(doses)によって投与される。例示的な投与プロトコールは、重大な望ましくない副作用を回避する、最大の投与量又は投与頻度を含むものである。週当たりの合計投与量は、使用される化合物のタイプ及び活性に応じて決まる。適切な投与量の決定は臨床医によって、例えば、当分野において治療に影響を与えることが知られている若しくは疑われている、又は治療に影響を与えると予想されるパラメーター又は因子を用いるなどして行われる。通常、投与量は、やや適量未満の投与量から開始され、その後、なんらかの負の副作用と比較して所望の又は最適の効果が達成されるまで、少しずつ増加される。重要な診断的測定は、糖尿病の症状のものを含む。
【0202】
いくつかの例において、細胞は、毎週、2週間毎、3週間毎に1回、又は4週間毎に1回投与される。
【0203】
炎症性関節疾患の進行を治療又は遅延させることを目的とした本発明の例に従って、一例において、STRO-1
+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子は、例えば当分野で既知の及び/又は本明細書に記載の標準的な方法を用いて、障害の診断の後に投与される。
【実施例】
【0204】
実施例1:STRO-3+細胞の選択によるMPCの免疫選択
骨髄(BM)を、健康な正常成人ボランティア(20〜35歳)から採取する。簡潔には、40 mlのBMを、後腸骨稜から、リチウム-ヘパリン抗凝固剤含有チューブに吸引する。
【0205】
BMMNCを、以前に記載されるように(Zannettino, A.C. et al.(1998)Blood 92: 2613-2628)、Lymphoprep(商標)(Nycomed Pharma, Oslo, Norway)を用いて、密度勾配分離によって調製する。400×g、4℃、30分間の遠心分離後、淡黄色の層をホールピペットで除去し、5%ウシ胎児血清(FCS, CSL Limited, Victoria, Australia)を含有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS;Life Technologies, Gaithersburg, MD)からなる「HHF」中で3回洗浄する。
【0206】
続いて、STRO-3
+(又はTNAP
+)細胞を、以前に記載されるように(Gronthos et al.(2003)Journal of Cell Science 116: 1827-1835;Gronthos, S. and Simmons, P.J.(1995)Blood 85: 929-940)、磁気活性化セルソーティングにより単離した。簡潔には、およそ1〜3×10
8個のBMMNCを、HHF中10%(v/v)正常ウサギ血清からなるブロッキングバッファー中で、20分間、氷上でインキュベートする。細胞を、ブロッキングバッファー中10 μg/mlのSTRO-3 mAb溶液(200 μl)とともに、氷上で1時間インキュベートする。続いて、細胞を400×gでの遠心分離によってHHF中で2回洗浄する。HHFバッファー中1/50希釈のヤギ抗マウスγ-ビオチン(Southern Biotechnology Associates, Birmingham, UK)を加え、細胞を氷上で1時間インキュベートする。細胞を、上記と同様に、MACSバッファー(1%BSA、5 mM EDTA及び0.01%アジ化ナトリウムを補充したCa
2+及びMn
2+を含まないPBS)中で2回洗浄し、最終体積0.9 mlのMACSバッファー中に再懸濁する。
【0207】
100 μlのストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec;Bergisch Gladbach, Germany)を細胞懸濁液に添加し、氷上で15分間インキュベートする。細胞懸濁液を0.5 mlのMACSバッファーで2回洗浄し、再懸濁した後、ミニMACSカラム(mini MACS column)(MS Columns, Miltenyi Biotec)上にロードし、0.5 mlのMACSバッファーで3回洗浄して、STRO-3 mAb(2005年12月19日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)にPTA-7282の受託番号で寄託;国際公開WO 2006/108229を参照)と結合しなかった細胞を回収する。さらに1 mlのMACSバッファーを加えた後、カラムを磁石から取り除き、TNAP
+細胞を陽圧で単離する。各画分からの細胞アリコートをストレプトアビジン-FITCで染色し、純度をフローサイトメトリーで評価することができる。
【0208】
実施例2:STRO-3 mAbにより選択される細胞はSTRO-1強陽性(bright)細胞である
STRO-1
強陽性(bright)細胞を単離するための単一試薬としてSTRO-3 mAbを用いることの可能性を確認するために実験を設計した。
【0209】
STRO-3(IgG1)はSTRO-1(IgM)とは異なるアイソタイプであることを考慮して、STRO-3がクローン原性CFU-Fを同定する能力を、MACS手順を用いて単離したSTRO-1
+細胞での共発現に基づき、二色FACS分析によって評価した(
図1)。ドットプロットヒストグラムはリストモードデータとして収集した5×10
4個の事象を表している。垂直線及び水平線は、同一条件下で処置したアイソタイプマッチコントロール抗体1B5(IgG)及び1A6.12(IgM)で得られた<1.0%平均蛍光の反応性レベルに設定した。結果は、少数(minor)のSTRO-1
強陽性(bright)細胞集団がTNAPを共発現した一方(右上の象限)、残りのSTRO-1
+細胞はSTRO-3 mAbと反応しなかったことを実証する。その後、4つの象限全てからFACSで単離された細胞をCFU-Fの発生率について評価した(表1)。
【0210】
表1:細胞表面マーカーSTRO-1及びTNAPの共発現に基づく二色FACS分析によるヒト骨髄細胞の富化(
図1参照)。FACSソーティングした細胞を、20%FCSを補充したαMEM中で、標準的なクローン原性条件下で培養した。データは、播種した10
5個細胞当たりの14日目のコロニー形成細胞(CFU-F)の平均数±SE(n=3の異なる骨髄穿刺液)を表す。これらのデータは、ヒトMPCは、STRO-1抗原を明るく共発現するBMのTNAP陽性画分だけに限定されることを示唆する。
【0211】
【表1】
【0212】
実施例3:STRO-1微陽性(dull)細胞及びSTRO-1強陽性(bright)細胞の相対的遺伝子及び表面タンパク質発現
最初の一連の実験において、半定量RT-PCR分析を実施して、蛍光活性化セルソーティングにより単離されたSTRO-1
微陽性(dull)又はSTRO-1
強陽性(bright)集団により発現される様々な系統関連遺伝子の遺伝子発現プロファイルを検証した(
図2A)。第二の一連の実験において、フローサイトメトリー及び平均チャネル蛍光分析を実施して、蛍光活性化セルソーティングにより単離されたSTRO-1
微陽性(dull)又はSTRO-1
強陽性(bright)集団により発現される様々な系統関連タンパク質の表面タンパク質発現プロファイルを検証した。
【0213】
2×10
6個のSTRO-1
強陽性(bright)又はSTRO-1
微陽性(dull)のいずれかであるソートされた初代細胞、軟骨細胞ペレット及び他の誘導培養物(induced cultures)から、トータル細胞RNAを調製し、製造者の推奨に従い、RNAzolB抽出方法(Biotecx Lab. Inc., Houston, TX)を用いて溶解した。次いで、各亜集団から単離したRNAを、ファーストストランド(first-strand)cDNA合成キット(Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)を用いて調製するcDNA合成のための鋳型として用いた。様々な転写物の発現を、以前に記載されるような標準的プロトコールを用いて(Gronthos et al., J. Bone and Min. Res. 14:48-57, 1999)、PCR増幅により評価した。本研究で使用したプライマーセットを表2に示す。増幅後、各反応混合物を1.5%アガロースゲル電気泳動により分析し、エチジウムブロマイド染色により可視化した。RNAの完全性(integrity)は、GAPDHの発現により評価した。
【0214】
各細胞マーカーに関する相対的遺伝子発現を、ImageQantソフトウェアを用いて、ハウスキーピング遺伝子(GAPDH)の発現を基準として評価した(
図2B、C)。さらに、二色フローサイトメトリー分析を用いて、STRO-1抗体と組み合わせて、広範囲の細胞系統関連マーカーの発現に基づき、ex vivoで増殖させたMPCのタンパク質発現プロファイルを検証した。STRO-1
微陽性(dull)及びSTRO-1
強陽性(bri)培養細胞の遺伝子及びタンパク質発現に基づく一般的な表現型の概要を表3に示す。該データは、ex vivoで増殖させたSTRO-1
強陽性(bright)MPCが、血管周囲細胞と関連するマーカー(アンジオポエチン-1、VCAM-1、SDF-1、IL-1
β、TNFα及びRANKLを含む)の発現をより高く差次的に呈することを示す。STRO-1
微陽性(dull)培養細胞とSTRO-1
強陽性(bright)培養細胞とのタンパク質及び遺伝子発現プロファイルの比較を表3及び4に要約する。
【0215】
また、STRO-1
強陽性(bri)細胞により独特に発現される遺伝子を同定するために、サブトラクティブハイブリダイゼーション研究を実施した。簡潔には、STRO-1
微陽性(dull)及びSTRO-1
強陽性(bright)を上記のように単離した(
図3Aを参照)。RNA STAT-60システム(TEL-TEST)を用いて、5つの異なる骨髄サンプルからプールされたSTRO-1
微陽性(dull)細胞及びSTRO-1
強陽性(bright)細胞からトータルRNAを調製した。SMART cDNA合成キット(Clontech Laboratories)を用いてファーストストランドの合成を行った。得られたmRNA/一本鎖cDNAハイブリッドを、製造者の説明書に従い、最初のRTプロセスの間に形成される3’及び5’プライム末端の特異的プライマーサイトを用いて、long-distance PCR(Advantage 2 PCR kit;Clontech)により増幅した。STRO-1
強陽性(bright)cDNAのRsaI消化後、2つのアリコートを用いて、Clontech PCR-Select cDNA Subtraction Kitを使用し、異なる特異的アダプターオリゴヌクレオチドをライゲートした。製造者のプロトコールに従い、STRO-1
強陽性(bright)(テスター)及びSTRO-1
微陽性(dull)(ドライバー)cDNAを用いて、サブトラクティブハイブリダイゼーションを2ラウンド行い、逆もまた同様に行った。この手順はまた、STRO-1
強陽性(bright)ドライバーcDNAに対してハイブリダイズされるSTRO-1
微陽性(dull)テスターcDNAを用いて、逆にも実施した。
【0216】
STRO-1
強陽性(bright)集団により独特に発現される遺伝子を同定するために、STRO-1
強陽性(bright)のサブトラクティッドcDNAを用いて、STRO-1
強陽性(bright)のサブトラクティッドcDNA(T/Aクローニングベクターにライゲートされたもの)が形質転換された、ランダムに選択された200の細菌クローンを含む複製低密度マイクロアレイフィルターを構築した。その後、該マイクロアレイを、[
32P]dCTPで標識されたSTRO-1
強陽性(bright)又はSTRO-1
微陽性(dull)のサブトラクティッドcDNAのいずれかでプローブした(
図3B〜C)。差次的スクリーニングにより、STRO-1
微陽性(dull)及びSTRO-1
強陽性(bright)亜集団間で高く差次的に発現される、トータルで44のクローンを同定した。差次的に発現されるクローンすべてのDNAシーケンシングにより、1クローンのみが、既知の間質細胞マイトジェンを代表するものであることが明らかとなった;すなわち、血小板由来成長因子(PDGF)(Gronthos and Simmons, Blood. 85: 929-940, 1995)。興味深いことに、44クローンのうち6クローンが、ケモカインである間質細胞由来因子-1(SDF-1)に相当するDNAインサートを含有することが判明した。ヒトSTRO-1
強陽性(bright)細胞におけるSDF-1転写物の多量さは、新たにソートしたSTRO-1
強陽性(bright)、STRO-1
微陽性(dull)及びSTRO-1
陰性骨髄亜集団から調製したトータルRNAの半定量RT-PCRにより確認した(
図3D及び表3)。
【0217】
【表2】
【0218】
表3. STRO-1
強陽性(Bright)及びSTRO-1
微陽性(Dull)集団における相対的遺伝子発現の要約。逆転写PCRにより測定される、STRO-1
強陽性(Bright)及びSTRO-1
微陽性(Dull)集団間で計測可能な差次的発現を示す遺伝子リストを示す。値は、ハウスキーピング遺伝子(GAPDH)を基準とした相対的遺伝子発現を表す。
【0219】
【表3】
【0220】
タンパク質表面発現をSTRO-1発現密度と関連づけるために、骨髄MPC由来のex vivo増殖細胞の単細胞浮遊液をトリプシン/EDTA剥離(detachment)により調製し、続いて、広範囲の細胞系統関連マーカーを同定する抗体と組み合わせてSTRO-1抗体とともにインキュベートした。STRO-1をヤギ抗マウスIgM-フルオレセインイソチオシアネートを用いて同定した一方、他のすべてのマーカーは、ヤギ抗マウス又は抗ウサギIgG-フィコエリトリンのいずれかを用いて同定した。細胞内抗原を同定するこれらの抗体について、細胞調製物は、STRO-1抗体で最初に標識し、冷70%エタノールで固定して細胞膜を透過処理し、次いで、細胞内抗原特異的抗体とともにインキュベートした。アイソタイプマッチコントロール抗体を同一条件下で使用した。COULTER EPICSフローサイトメーターを用いて二色フローサイトメトリー分析を実施し、リストモードデータを収集した。ドットプロットは、各系統細胞マーカー(y軸)及びSTRO-1(x軸)の蛍光強度レベルを示す、5,000のリストモードイベントを表す。垂直及び水平象限は、アイソタイプマッチネガティブコントロール抗体を基準に確立した。
【0221】
表4. STRO-1
強陽性(Bright)及びSTRO-1
微陽性(Dull)集団における相対的タンパク質発現の要約。フローサイトメトリーにより測定される、STRO-1
強陽性(Bri)及びSTRO-1
微陽性(Dull)集団間での差次的発現を示すタンパク質リストを示す。値は、染色の相対的平均蛍光強度を表す。
【0222】
【表4】
【0223】
実施例4:間質細胞はアンジオテンシンIを発現する
ヒト間質細胞株HS5及びHS27Aを10%ウシ胎児血清(FCS)並びにペニシリン(100 U/ml)及びストレプトマイシン(100 μg/mL)を補充したRPMI-1640中で増殖させた。初代間質線維芽細胞を、以前に記載されるように(Pillai et al., Blood 107: 3520-3526, 2006)、骨髄単核細胞(BMMNC)から培養した。FACS Ariaセルソーター(BD Biosciences, San Jose, CA)にてCD146高(hi)及びCD146低(lo)集団へとセルソーティングするため及び分析するために、FITC結合抗CD146抗体(Ebiosciences, San Diego, CA)及び適切なアイソタイプコントロールで細胞を染色した。
【0224】
定量的RT-PCRのために、miRNEasyキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて製造者の指示に従ってトータルRNAを調製した;オンカラムDNAse消化を実施して、ゲノムDNAでのコンタミネーションを排除した。逆転写により生成されたcDNAに対する、SYBR-GREENに基づく定量的リアルタイム-ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)によりmRNAレベルを定量化した。
【0225】
HS27a間質細胞株は、CD146
高(hi)間質前駆細胞(stromal precursors)で報告されるものと類似の機能プロファイル及び転写プロファイルを共有するようであった。従って、この細胞株におけるCD14の発現を評価した。CD146のフローサイトメトリー分析をHS27a及びHS5細胞に対して実施し、これにより、CD146がHS27aによって強く発現される一方、HS5は発現しなかったことが示された(
図4A)。正常骨髄から樹立された9つの初代培養物においてもCD146発現を評価した。最初の2〜3継代内で分析した培養物は、様々な比率のCD146
高細胞を実証し(6〜40%)、その例を
図4Bに示す。次いで、初代培養物由来のCD146
高及びCD146
低細胞を、2つの遺伝子(CXCL12及びアンジオポエチンI)の発現について評価した。
図3C及び3Dに示すように、CD146
高集団は、CD146
低細胞と比較した場合に、CXCL12及びアンジオポエチンIの両方について有意に高い発現を有する。
【0226】
これらのデータは、高レベルのCD146を発現する間質前駆細胞、例えばSTRO-1発現MPCが、アンジオポエチンI(Angiopoitin I)も発現することを示す。
【0227】
実施例5:MPCは内皮機能不全を治療又は予防する
方法
ヒツジに対して、0日目に、フロイント完全アジュバント(1 mL)及びウシII型コラーゲン(BColl-II)(5 mg)のエマルションを皮下注射し、それに続いて、14日目に、フロイント不完全アジュバント(1 mL)及びBColl-II(5 mg)の2回目の注射を行うことにより、ヒツジをBColl-IIに感作させた。28日目に、0.5 mLの等張食塩水中100 μgのBColl-IIを左飛節へと関節内注射して、全身性炎症を伴う急性関節炎を促進した。29日目に、ヒツジに生理食塩水(saline)(n=8)、又はPBS中に懸濁した1億5,000万個のMPC(n=8)を静脈内注射した。その後13日間にわたって血液を集め、市販のELISAキットを用いて、Il-10、フィブリノーゲン、アクチビンA及びC反応性タンパク質(CRP)の血漿レベルを測定した。動物はすべて42日目に犠死させた。
【0228】
組織を集め、氷冷した改変Krebs-Henseleit溶液(KHS)中で保存した。解剖顕微鏡(Stemi 2000実体顕微鏡、Carl Zeiss, Gottengen, Germany)下、左冠動脈下行枝の二次枝(second order branches)を周囲組織から切り離し、Mulvany-Halpernワイヤーミオグラフ(Danish Myo Technologies, Denmark)を用いた血管運動機能研究のために、ある長さのものを準備した。簡潔には、ワイヤーミオグラフのジョーと結合した2つの平行なステンレススチールワイヤー(直径40 μm)間に血管セグメントをマウントした。
【0229】
ヒツジ指動脈は、同じヒツジの左前肢から得た。掌側指動脈の第一枝から1 mmのセグメントを得て、上記のようにワイヤーミオグラフにマウントした。
【0230】
薬物及び溶液
使用した改変KHSは、以下の組成(mM)を有する:NaCl 118、KCl 4.57、CaCl
2 1.27、KH
2PO
41.19、MgSO
4 1.19、NaHCO
325及びグルコース5.55。薬物はすべてSigma-Aldrich company Ltd, Australiaから得た。すべての薬物及びKHS溶液は、実験日に新しく調製し、蒸留水に溶解した。すべての薬物は、その後、KHSで希釈した。
【0231】
等尺性張力の記録
37℃で維持され、95%O
2及び5%CO
2を通気した5 mlのKHSを含むチャンバー中にプレパレーションを置いた。15分間の平衡期間後、Mulvany and Halpern Circulation Res. 41: 19-26, 1977により開発された方法に従って血管セグメントが正常化され、正常化手順の間に最適な内周を測定した。正常化した内周に従って血管に静止張力を適用し、これは、13.3 kPa(100 mmHg)(補正係数0.9)に相当した。静止張力が確立された後、血管をKHS中、30分間の追加の平衡期間に供し、それに続いて、標準的な脱分極Krebs溶液(DKS;118 mM KCl)に対する収縮反応に供した。
【0232】
冠動脈:エンドセリン-1で予め収縮した動脈のブラジキニン及びニトロプルシドナトリウム誘発性の弛緩
洗浄及び再平衡化(15分間)後、同じ個体由来の2つの血管セグメントをイブプロフェン(10 μM)含有KHSとともにインキュベートして、ブラジキニンのプロスタグランジン媒介性の作用をいずれも排除した。次いで、エンドセリン-1(3×10
-8M)を用いて、最大DKS反応の75%までそれらを収縮させた。定常状態収縮が達成されたら、次いで、内皮依存性血管拡張剤ブラジキニン(10
-11 M〜10
-5 M)又は内皮非依存性血管拡張剤ニトロプルシドナトリウム(10
-10 M〜10
-4 M)のいずれかの濃度を累積的に増加させて、弛緩反応を得た。各セグメントにおいて、1つのみの濃度反応曲線を実施し、2つの隣接セグメントを各実験で使用した。
【0233】
指動脈:5-HTで予め収縮した動脈のカルバコール及びニトロプルシドナトリウム誘発性の弛緩
洗浄及び再平衡化(15分間)後、同じ個体由来の2つの血管セグメントを、5-HT(3×10
-6 M)を用いて、最大DKS反応の75%まで収縮させた。定常状態収縮が達成されたら、次いで、内皮依存性血管拡張剤カルバコール(10
-9 M〜10
-4 M)又は内皮非依存性血管拡張剤ニトロプルシドナトリウム(10
-10 M〜10
-4 M)のいずれかの濃度を累積的に増加させて、弛緩反応を得た。各セグメントにおいて、1つのみの濃度反応曲線を実施し、2つの隣接セグメントを各実験で使用した。
【0234】
データ分析
張力をコンピューター化収集システムにより連続的に記録し、それぞれ別個のプレパレーションに由来する、表示された回数の別箇の実験(n)の平均±平均の標準誤差(s.e.m.)として結果を表した。データを用いて累積濃度反応曲線(CRC)を構築し、ここからEC
50(最大反応の50%を生じるアゴニスト濃度であって、幾何平均及び95%信頼区間として表す)値及び最大反応を計算し、適切な場合、Dunnettのポストホック検定を用いて分散のone-way又はtwo-way分析を用いて、カーブフィッティングソフトウェア(GraphPad Prism 5.0)により統計比較を行った。
【0235】
結果
結果から、1億5,000万個の同種異系MPCを単回IV投与することにより、投与翌日にIL-10産生レベルの急上昇がもたらされることが示された(
図5)。IL-10は炎症性サイトカインであり、好中球の循環レベルを促進させ、その炎症促進状態を制限するのに役立つ。これは、同様に、敗血症などの全身性感染症の治療を高めるのに役立つ。
【0236】
単回用量のMPCはまた、未処置のヒツジと比べて、血漿フィブリノーゲン、アクチビンA及びC反応性タンパク質を低下させることにも効果的であった(
図6〜9)。フィブリノーゲン、アクチビンA及びC反応性タンパク質はすべて敗血症のマーカーであり、それらの血漿レベルの低下は、MPCの投与後に敗血症の症状が低下したことを示す。
【0237】
MPCで処置されたヒツジは、未処置のヒツジと比較した場合に、カルバコール又はブラジキニンに対して有意に高い最大反応を実証した(p<0.05)(
図10A及び10B)。ニトロプルシドナトリウムに対する2つのグループ由来の冠動脈又は指動脈の反応にいずれの有意差も存在せず(
図10C及び10D)、これは血管平滑筋機能が処置により影響を受けなかったことを示す。この前臨床研究により、MPCが静脈内に投与された場合に、全身性内皮機能不全の発症を弱めることができることが実証された。
【0238】
実施例6:PPSと組み合わされたMPCは抗炎症作用を誘導する
方法
ヒツジに対して、0日目に、フロイント完全アジュバント(1 mL)及びウシII型コラーゲン(BColl-II)(5 mg)のエマルションを皮下注射し、それに続いて、14日目に、フロイント不完全アジュバント(1 mL)及びBColl-II(5 mg)の2回目の注射を行うことにより、ヒツジをBColl-IIに感作させた。28日目に、0.5 mLの等張食塩水中100 μgのBColl-IIを左飛節へと関節内注射して、全身性炎症を伴う急性関節炎を促進した。29日目に、ヒツジに、PBS中に懸濁した7,500万個のMPC(n=6)、又はPBS中に懸濁した7,500万個のMPCに75ミリグラムのペントサンポリサルフェート(PPS)を加えたもの(n=6)若しくは75ミリグラムのPPSを静脈内注射した。その後13日間にわたって血液を集め、市販のELISAキットを用いて、Il-10、フィブリノーゲン、アクチビンA及びC反応性タンパク質(CRP)の血漿レベルを測定した。動物はすべて42日目に犠死させた。
【0239】
ヒツジ指動脈及び冠動脈を上記に詳述するようにして得た。さらに、等尺性張力の記録、データ分析、並びに指動脈及び冠動脈の機能分析を上記のように実施した。
【0240】
結果
結果から、7,500万個の同種異系MPCにPPSを加えたものを単回IV投与することにより、PPS単独と比較して、血漿IL-10産生レベルの有意な上昇(ベースラインに対して)がもたらされたことが示される(
図11)。IL-10は炎症性サイトカインであり、好中球の循環レベルを促進させ、その炎症促進状態を制限するのに役立つ。これは、同様に、敗血症などの全身性感染症の治療を高めるのに役立つ。
【0241】
単回用量のMPC+PPSは、36日目から、MPC又はPPS単独と比較して、血漿フィブリノーゲンを低下させるのに効果的であった(
図12)。アクチビンAタンパク質レベルは、MPC処置グループ(7,500万個のMPC±PPS)の両方において、PPS処置コントロールと比べて低下した(
図13及び14)。ベースラインに対するC反応性タンパク質レベルは、MPC処置グループ(7,500万個のMPC±PPS)の両方において低下したが、PPS処置コントロールでは低下しなかった。フィブリノーゲン、アクチビンA及びC反応性タンパク質はすべて敗血症のマーカーであり、それらの血漿レベルの低下は、MPC±PPSの投与後に敗血症の症状が低下したことを示す。
【0242】
MPC+PPSで処置されたヒツジは、PPS単独で処置されたヒツジと比較した場合に、ブラジキニンに対して有意に高い冠動脈最大反応を実証し(p<0.05)(
図15A)、これは、血管内皮に対して直接的に有益な効果を示す。MPC+PPSで処置されたヒツジは、PPS単独で処置されたヒツジと比較して、カルバコールに対する指動脈での最大内皮依存性弛緩反応の改善を実証した(
図15B)。ニトロプルシドナトリウムに対する2つのグループ由来の冠動脈又は指動脈の反応にいずれの有意差も存在せず(
図15C及び15D)、これは血管平滑筋機能が処置により影響を受けなかったことを示す。