特許第6572154号(P6572154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572154放射性物質に汚染されたロータリーキルン用耐火煉瓦の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572154
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】放射性物質に汚染されたロータリーキルン用耐火煉瓦の回収方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/16 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
   F27D1/16 Z
   F27D1/16 T
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-39706(P2016-39706)
(22)【出願日】2016年3月2日
(65)【公開番号】特開2017-156014(P2017-156014A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】田中 宜久
(72)【発明者】
【氏名】岡村 聰一郎
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−009454(JP,A)
【文献】 特開昭58−158489(JP,A)
【文献】 特開昭58−000085(JP,A)
【文献】 特開平04−228510(JP,A)
【文献】 米国特許第05120028(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第103591804(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒状の金属シェルと、該金属シェルに内張りされる煉瓦とを備えるロータリーキルンにおいて、
該ロータリキルンの外側から、コア抜きによって前記ロータリーキルンの内部の煉瓦を抜き取ることを特徴とする放射性物質に汚染されたロータリーキルン用耐火煉瓦の回収方法。
【請求項2】
前記コア抜きの径を、前記煉瓦の最小の辺の長さより小さくし、
前記コア抜きを行う前に前記金属シェルの一部を剥がして前記煉瓦の位置を確認し、
コア抜き孔が1つの煉瓦内に収まるように前記コア抜きを行うことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質に汚染されたロータリーキルン用耐火煉瓦の回収方法。
【請求項3】
前記コア抜きを、前記ロータリーキルンの軸方向にわたって複数箇所で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性物質に汚染されたロータリーキルン用耐火煉瓦の回収方法。
【請求項4】
前記コア抜きを、前記ロータリーキルンの円周方向にわたって複数箇所で行うことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の放射性物質に汚染されたロータリーキルン用耐火煉瓦の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム等の放射性物質を含有する廃棄物を加熱し、廃棄物から放射性セシウム等を除去するロータリーキルンにおいて、内張された煉瓦の放射性物質の浸透度等を検査する際に用いられる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌に取り込まれた放射性セシウムを除去するため、例えば、特許文献1には、放射性セシウムで汚染された土壌をロータリーキルンで加熱し、キルン排ガスを冷却して放射性セシウムを含む微粉を生じさせ、キルン排ガス中の粗粉を回収してロータリーキルンに返送し、キルン排ガスから微粉を捕集する技術が記載されている。この技術により、放射性セシウムが高濃度に濃縮されて減容化が図られ、中間貯蔵又は最終処分の負担を軽減することができると共に、放射性セシウム濃度が低減された焼成物を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−19734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロータリーキルンには、マグネシア−クロム質、マグネシア−スピネル質、マグネシア−ドロマイト質等の焼成耐火煉瓦が内張りされている。特許文献1等の技術を実施するロータリーキルンにおいて、これらの耐火煉瓦への放射性物質の浸透度等を検査するには、ロータリーキルンの内部に作業者が入り、この耐火煉瓦を取り外す必要があるが、ロータリーキルンの内部には放射性物質を含む原料等が残留しているなど、その作業環境は極めて悪い。そのため、被曝の危険性を回避しながら耐火煉瓦を安全に回収する方法が求められていた。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、放射性セシウム等の放射性物質を含有する廃棄物を加熱し、廃棄物から放射性セシウム等を除去するロータリーキルンにおいて、内張された煉瓦への放射性物質の浸透度等を検査するにあたり、煉瓦をより安全に回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、放射性物質に汚染されたロータリーキルン用耐火煉瓦の回収方法であって、中空円筒状の金属シェルと、該金属シェルに内張りされる煉瓦とを備えるロータリーキルンにおいて、該ロータリキルンの外側から、コア抜きによって前記ロータリーキルンの内部の煉瓦を抜き取ることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、ロータリーキルンの内部に作業者が入らずに金属シェルに内張された煉瓦を回収することができるため、作業者の被爆の危険性を低減することができる。
【0008】
上記耐火煉瓦の回収方法において、前記コア抜きの径を、前記煉瓦の最小の辺の長さより小さくし、前記コア抜きを行う前に前記金属シェルの一部を剥がして前記煉瓦の位置を確認し、コア抜き孔が1つの煉瓦内に収まるように前記コア抜きを行うことができる。コア抜き孔が複数の煉瓦に跨がった場合には、煉瓦同士の接触面積が減少するため、保持力の低下に伴い煉瓦が落下するおそれがあるが、本発明によればこれを防止することができる。
【0009】
前記コア抜きを、前記ロータリーキルンの軸方向にわたって複数箇所で行うことができる。これにより、ロータリーキルンの軸方向に異なる複数の領域毎に放射性物質の浸透度等を検査することができる。
【0010】
前記コア抜きを、前記ロータリーキルンの円周方向にわたって複数箇所で行うことができる。円周方向の複数箇所でコア抜きを行うタイミングをずらすことで、時系列的に検査用煉瓦への放射性物質の浸透度等を検査することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、放射性セシウム等の放射性物質を含有する廃棄物を加熱し、廃棄物からセシウム等を除去するロータリーキルンにおいて、煉瓦をより安全に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明を実施するロータリーキルンを備えた放射性セシウムの除去装置の一例を示す概略図である。
図2図1に示すロータリキルンに取付座を取り付けた状態を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は(a)のB−B線断面図である。
図3図2に示す取付座にコアドリルを取り付けた状態を示し、(a)は図2(b)に相当する一部破断正面図、(b)は一部破断側面図である。
図4】コアドリルのドリル部と、シェルの内張された煉瓦の位置関係を説明するための図であって、(a)は部分断面図、(b)は(a)の煉瓦の貼設面とは反対側の面からコア抜きの対象となっている煉瓦を見た状態を示す図である。
図5】本発明を実施するロータリーキルンの全体図を示し、(a)は一部断面正面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る耐火煉瓦の回収方法を適用したロータリーキルン(以下「キルン」という)を備えた放射性セシウムの除去装置の一例を示し、この放射性セシウム除去装置1は、原料調合装置2と、焼成装置7と、排ガス処理装置10とで構成される。
【0015】
原料調合装置2は、放射性セシウムで汚染された土壌や焼却灰等の廃棄物Wを貯留する貯槽3と、反応促進剤として、石灰石等の酸化カルシウム源(以下「CaO源」という。)を貯留する貯槽4と、反応促進剤として、塩化カルシウム等の塩素源(以下「Cl源」という。)を貯留する貯槽5と、貯槽3〜5に貯留される廃棄物W、CaO源及びCl源を引き出して調合する定量供給機(不図示)と、調合原料Mを貯留する貯槽6とを備える。
【0016】
焼成装置7は、キルン(加熱炉)8と、クーラ9とで構成され、キルン8は、原料調合装置2からの調合原料Mが供給される投入口8aや、微粉炭等の化石燃料を噴出して調合原料M等を焼成するためのバーナ8bを備える。
【0017】
排ガス処理装置10は、焼成装置7の後段に配置され、キルン8から排出された排ガスGを冷却する冷却塔11と、冷却塔11の後段に配置されたサイクロン12と、第1集塵機16と、第2集塵機17と、両集塵機16、17によって濃縮セシウム塩等のダストが除去された排ガスG4を脱硝する脱硝装置18と、脱硝装置18の排ガスG5を系外へ排気する煙突19とで構成される。
【0018】
上記構成を有する放射性セシウムの除去装置1の原料調合装置2において、放射性セシウムで汚染された廃棄物Wと、反応促進剤としてのCaO源及びCl源を貯槽3〜5から引き出して調合して調合原料Mを得た後、投入口8aを介してキルン8に投入し、1200℃以上1550℃以下で焼成して焼成物Bを得る。
【0019】
一方、調合原料Mの廃棄物Wに含まれていた放射性セシウムは、キルン8内でCl源から生じた塩素と反応して塩化セシウムとなって揮発し、排ガスGに含まれた状態で冷却塔11へ導入される。
【0020】
排ガスGは、冷却塔11において、散水装置11aから噴霧された水によって急激に冷却され、排ガスGに含まれていた塩化セシウムが固体状のセシウム塩となってダストの微粉に付着する。
【0021】
冷却塔11の排ガスG1に含まれるダストの粗粉Cは、放射性セシウム濃度が低いため、サイクロン12で分級してロータリーキルン8に戻す。
【0022】
一方、セシウム塩を含有するサイクロン12からの排ガスG2は、第1集塵機16に導入され、固体状の濃縮セシウム塩を含むダストD1が回収される。回収したダストD1は、必要に応じて圧縮、水洗、吸着等によりさらに減容化処置をした後、コンクリート製の容器等に密閉して保管することができ、放射性セシウムを含む廃棄物を外部に漏洩させることなく減容化し、保管することができる。
【0023】
濃縮セシウム塩を回収した後の排ガスG3は、酸性ガス等の有害ガスが含まれているため、排ガスG3に消石灰等の中和剤Nを中和剤添加装置から添加した後、第2集塵機17によって、排ガスG3から酸性ガス等を吸着したダストD2を回収する。
【0024】
第2集塵機17で集塵したダストD2は、CaO源やCl源として原料調合装置2に戻して廃棄物Wに添加して再利用する。一方、第2集塵機17の排ガスG4にNOxが含まれている場合は、脱硝装置18でアンモニアガス(NH3)を注入して除去する。清浄化した排ガスG5は、煙突19を介して系外に排気する。
【0025】
以上のように、上記放射性セシウムの除去装置1によれば、排ガスG2から集塵することで放射性セシウムが濃縮したダストD1を得て放射性セシウムで汚染された廃棄物Wの減容化を図ることができる。
【0026】
その一方で、上述のように、キルン8に内張された煉瓦に放射性物質が浸透、蓄積し、その浸透度等を検査するために煉瓦を回収する必要がある。以下、本発明に係る放射性物質に汚染されたキルン用耐火煉瓦の回収方法について詳述する。
【0027】
図2は、本発明で用いるコアドリルの取付座の一例を示し、この取付座21は、キルン8のシェル8cと同心円状の表面を有するように形成される上板21aと、この上板21aをシェル8cの表面から立ち上げる側板21bと、上板21aの表面に形成され、コアドリルを取り付けるための貫通長孔21cとを有する。
【0028】
シェル8cは、鋼板からなり、一例として内径φ1.3m、全長15mの中空円筒状に形成される。また、図3に示すように、シェル8の内面には、マグネシア−クロム質、マグネシア−スピネル質、マグネシア−ドロマイト質等の焼成耐火煉瓦としての煉瓦8dが貼り付けられている。
【0029】
上記構成を有する取付座21をシェル8cに取り付ける前に、キルン8のシェル8cの一部を剥がし、図3に示すように、煉瓦8d(コア抜き対象にのみハッチングを施す)の位置を確認しておく。その後、所望の位置に取付座21を位置決めし、側板21bの下端をシェル8cに溶接固定することで、取付座21の取付が完了する。
【0030】
上述のようにして取り付けられた取付座21にコアドリルを取り付ける。コアドリル22の取付は、コアドリル22の取付部22cの底部に設けられた凸部22bを取付座21の貫通長孔21cに係合させた後、コアドリル22を取付座21にボルト及びナット(不図示)を介して固定することで行われる。
【0031】
コアドリル22として、例えば、株式会社シブヤ製のダイヤモンドコアドリルを用いることができる。また、コアドリル22の凸部22bの長手方向の長さを、取付座21の貫通長孔21cの長手方向の長さより短くすることで、凸部22bと貫通長孔21cを係合させた後、コアドリル22を取付座21上でスライドさせることができ、コアドリル22の取付位置を微調整することができる。
【0032】
取付座21及びコアドリル22の位置決めにおいて、図4に示すように、コアドリル22のドリル径Dがシェル8cに内張された煉瓦8dの最小の辺Lより小さく、かつコア抜き孔Hが複数の煉瓦8dに跨がらないようにすることが好ましい。言い換えれば、図4(b)に示すように、コア抜き孔Hが1つの煉瓦8dの貼設面(シェル8cとの当接面)とは反対側の面S内に収まるようにすることが好ましい。これにより、煉瓦8d同士の接触面積が減少して保持力が低下し、煉瓦8dが落下することを防止することができる。尚、煉瓦8dの落下を考慮する必要がなければ、複数の煉瓦8dに跨がってコア抜きをすることもできる。
【0033】
取付座21及びコアドリル22の取付が完了すると、作業者がコアドリル22のハンドル(不図示)を手で回すことで、ドリル部22aが図3の破線部の位置まで移動してキルン8のシェル8c及び煉瓦8dをコア抜きし、ドリル部22aの内部に削り取られた円柱状のシェル8c及び煉瓦8dを回収することができる。
【0034】
以上のように、本発明によれば、作業者がキルン8の内部に入らずにシェル8cの外側から煉瓦8dを回収することができるため、煉瓦8dへの放射性物質の浸透度等を検査するにあたり、作業者の被曝の危険性を低減することができる。
【0035】
尚、上記実施の形態における、コアドリル22を取り付けるための取付座21の構成や、取付座21とコアドリル22の固定法は、一例を示したに過ぎず、上記構成に限定されない。
【0036】
次に、上記コア抜きを行う位置等について図5を参照しながら説明する。
【0037】
コア抜きは、シェル8cの軸方向にわたって4箇所で行う(図5(a)にコア抜き孔Hのみを示す)。その位置は、例えばキルン8の原料出口端から各々4.5m、7.5m、10.5m、13.5mの位置、キルン8のシェル8cの内径をDとすると、各々3.5D、5.8D、8.1D、10.4Dの位置とすることができ、これらの位置は、焼成帯、着脱帯、着脱帯、仮焼帯の各領域に含まれる。
【0038】
ロータリーキルンは一般に、原料出口端から冷却帯、焼成帯、着脱帯、仮焼帯に大別され、これらの領域は、原料出口端から0〜1D、1〜5D、5〜10D、10D<の範囲となっており、これらの領域によって温度や焼成物の脱着状況が異なるため、塩化物の浸透度合いも異なってくる。そのため、各領域で煉瓦を回収できるようにコア抜きをするのが望ましい。但し、冷却帯はその領域が短く、コア抜きが物理的に困難となる場合が多いため、これを省略しても構わない。
【0039】
また、上記コア抜きは、シェル8cの円周方向に90°間隔で4箇所行い(図5(b)にコア抜き孔Hのみを示す)、上記軸方向と合わせて計16箇所行われる。このコア抜きを行う円周方向の角度の間隔や、上記コア抜きの位置は、一例であってこれに限定されない。
【0040】
上記コア抜きを行うタイミングとしては、例えば、図5において軸方向に4箇所、かつ各箇所で円周方向に4箇所のうち、各箇所毎に円周方向に一つずつ運転期間から3ヶ月後、同半年後、同1年後、同2年後の計4回に分けてコア抜きして煉瓦8dを分析することで、キルン8の軸方向に異なる複数の領域毎かつ時系列的に煉瓦8dへの放射性物質の浸透度を検査することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 放射性セシウム除去装置
2 原料調合装置
3〜6 貯槽
7 焼成装置
8 ロータリーキルン
8a 投入口
8b バーナ
8c シェル
8d 煉瓦
9 クーラ
10 排ガス処理装置
11 冷却塔
11a 散水装置
12 サイクロン
16 第1集塵機
17 第2集塵機
18 脱硝装置
19 煙突
21 取付座
21a 上板
21b 側板
21c 貫通長孔
22 コアドリル
22a ドリル部
22b 凸部
22c 取付部
B 焼成物
C 粗粉
D ドリル径
D1、D2 ダスト
G、G1〜G5 排ガス
H コア抜き孔
L 長さ
M 調合原料
N 中和剤
S 貼設面とは反対側の面
W (放射性セシウムで汚染された)廃棄物
図1
図2
図3
図4
図5