【文献】
Srinivas V. Saladi et al.,Pigment Cell Melanoma Res.,2013年,26,377-391
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、真皮細胞外マトリクス(ECM)の形成を制御し、皮膚弾性を改善し、又は皮膚のシワ、たるみ、ハリの低下等を予防又は改善することができる素材を評価及び/又は選択する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ヒトの皮膚におけるBRG−1の発現量と皮膚弾性との間に関連性が見られること、及び線維芽細胞におけるBRG−1の発現低下によりECMの成分であるコラーゲンや弾性線維構成因子の発現量が低下することを見出した。これらの知見に基づいて、本発明者らは、BRG−1の発現又は活性の制御作用を指標として、コラーゲン線維、弾性線維、ECM等の形成を制御し、皮膚弾性を改善し、又は皮膚のシワ、たるみ、ハリの低下等を予防又は改善することができる素材を評価及び/又は選択することができることを見出した。
【0008】
したがって、一実施形態において、本発明は、皮膚弾性改善剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、皮膚弾性改善剤として評価及び/又は選択すること、
を含む方法を提供する。
【0009】
別の一実施形態において、本発明は、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤として評価及び/又は選択すること、
を含む方法を提供する。
【0010】
別の一実施形態において、本発明は、皮膚のハリの低下予防又は改善剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、皮膚のハリの低下予防又は改善剤として評価及び/又は選択すること、
を含む方法を提供する。
【0011】
別の一実施形態において、本発明は、真皮細胞外マトリクス形成制御剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を変化させる被験物質を、真皮細胞外マトリクス形成制御剤として評価及び/又は選択すること、
を含む方法を提供する。
【0012】
別の一実施形態において、本発明は、弾性線維形成制御剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を変化させる被験物質を、弾性線維形成制御剤として評価及び/又は選択すること、
を含む方法を提供する。
【0013】
別の一実施形態において、本発明は、コラーゲン線維形成制御剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を変化させる被験物質を、コラーゲン線維形成制御剤として評価及び/又は選択すること、
を含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、皮膚弾性やそれに関わる成分の発現を評価することができる新たなマーカー分子を提供する。本発明によれば、BRG−1の発現又は活性を指標として、簡便かつ迅速に、コラーゲン線維、弾性線維もしくはECMの形成を制御し、皮膚弾性を改善し、又は皮膚のシワ、たるみ、ハリの低下等を予防又は改善することができる素材を探索することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性をいう。
【0017】
本明細書において、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の同一性は、リップマン−パーソン法(Lipman−Pearson法;Science,1985,227:1435−1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0018】
本明細書において「BRG−1」は、別名SMARCA4といい、AAI36645.1(GenBank)で表されるヒトBRG−1タンパク質、又はそのホモログをいう。BRG−1は、クロマチンリモデリング複合体の1つであるSWI/SNF複合体のコアサブユニットとして機能するタンパク質である(非特許文献1)。好ましくは、本明細書における「BRG−1」は、配列番号2で示されるアミノ酸配列、又は当該配列と少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0019】
本明細書において「BRG−1をコードする遺伝子」(又は「BRG−1遺伝子」)とは、BC136644.1(GenBank)で表される遺伝子、又はそのホモログをいい、上記で定義したBRG−1をコードする。好ましくは、本明細書における「BRG−1をコードする遺伝子」は、配列番号1で示されるヌクレオチド配列、又は当該配列と少なくとも90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ上記で定義したBRG−1をコードするポリヌクレオチドである。
【0020】
後記実施例に例示するように、ヒトの皮膚におけるBRG−1の発現量は皮膚弾性と関連しており、BRG−1の発現量が高いほど皮膚の弾性が高い傾向が見られた(
図1)。また、ヒトの皮膚におけるBRG−1の発現は、露光部ではより低下していた(
図2)。これらの結果は、光老化による皮膚弾性低下におけるBRG−1の関与を示唆する。さらに、線維芽細胞におけるBRG−1の発現阻害は、真皮細胞外マトリクス(ECM)の成分であるコラーゲン線維や弾性線維構成因子の発現量を低下させ、かつコラーゲン線維又は弾性線維の形成や分解に関わる因子の発現にも影響した(
図3〜5)。これらの結果は、BRG−1が、コラーゲン線維又は弾性線維の形成と分解の制御を介して真皮ECMの形成や破壊に関与し、ひいては皮膚の弾性、又は光老化による皮膚の変化(例えば、シワ、たるみ、又はハリの低下)に寄与していることを示す。
【0021】
このように、BRG−1は、真皮ECMの構造を制御し、結果として皮膚弾性を制御することができる皮膚弾性制御因子である。また、目尻のシワ程度の悪化と皮膚弾力性の低下が高く相関することが知られているように(Takema et al.,J.Soc. Cosmet.Chem.,46,163−173,1995)、皮膚弾性は皮膚のシワ、たるみ又はハリの状態に影響する。したがって、BRG−1の発現増加は、真皮ECMにおけるコラーゲン又は弾性線維を増加させ、それによって皮膚の弾性を向上させ、ひいては皮膚のシワもしくはたるみを予防もしくは改善し、又は皮膚のハリ低下を予防もしくは改善し得る。逆に、BRG−1の発現低下は、真皮ECMにおけるコラーゲン又は弾性線維を減少させ、それによって皮膚の弾性を低下させ得る。
【0022】
したがって、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を指標として、コラーゲン線維もしくは弾性線維形成制御剤、真皮ECM形成制御剤、皮膚弾性改善剤、皮膚のシワもしくはたるみ予防もしくは改善剤、又は皮膚のハリの低下予防もしくは改善剤を評価又は選択することができる。あるいは、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を制御することにより、コラーゲン線維、弾性線維もしくは真皮ECMの形成を制御することや、皮膚弾性を改善することや、皮膚のシワもしくはたるみを予防もしくは改善することや、又は皮膚のハリの低下を予防もしくは改善することが可能である。またあるいは、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を指標として、被験体の皮膚弾性を評価したり、被験体の皮膚のシワもしくはやたるみの生じやすさや、ハリの低下しやすさを評価したり、あるいは真皮におけるECM、弾性線維もしくはコラーゲンの量を評価することが可能である。
【0023】
したがって、一実施形態において、本発明は、皮膚弾性改善剤の評価及び/又は選択方法を提供する。別の一実施形態において、本発明は、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤の評価及び/又は選択方法を提供する。別の一実施形態において、本発明は、皮膚のハリの低下予防又は改善剤の評価及び/又は選択方法を提供する。
【0024】
さらなる実施形態において、本発明は、真皮ECM形成制御剤の評価及び/又は選択方法を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、弾性線維形成制御剤の評価及び/又は選択方法を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、コラーゲン線維形成制御剤の評価及び/又は選択方法を提供する。
【0025】
以下の本明細書において、上述した本発明の方法によって評価及び/又は選択される皮膚弾性改善剤、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤、皮膚のハリの低下予防又は改善剤、真皮ECM形成制御剤、弾性線維形成制御剤、及びコラーゲン線維形成制御剤を、まとめて「本発明の剤」ということがある。
【0026】
上述した本発明の方法は、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を指標とする。上述した本発明の方法はin vitroで行われ得る。より詳細には、本発明の方法は、以下:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;及び
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること、
を含む。
【0027】
本発明の方法で使用される被験物質は、本発明の剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されない。被験物質は、天然に存在する物質であっても、化学的又は生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、また化合物であっても、組成物もしくは混合物であってもよい。
【0028】
本発明の方法の一実施形態において、被験物質を適用されるBRG−1を発現可能な組織又は細胞の例としては、BRG−1又はその遺伝子を発現している、哺乳動物から単離された組織もしくは細胞、又はその培養物が挙げられる。より詳細な例としては、哺乳動物から採取された皮膚組織、真皮組織、真皮細胞、及びそれらの培養物;好ましくは、真皮線維芽細胞又はその培養物、などが挙げられる。
【0029】
本発明の方法で使用されるBRG−1を発現可能な組織又は細胞が由来する哺乳動物の例としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、サル等が挙げられ、好ましくはヒトであるが、これらに限定されない。
【0030】
あるいは、本発明の方法に用いられる、BRG−1を発現可能な組織又は細胞の例としては、BRG−1又はその遺伝子を発現するように遺伝的に改変された哺乳動物の組織もしくは細胞、又はその培養物が挙げられる。当該遺伝的に改変された哺乳動物の組織又は細胞、及びその培養物は、例えば、哺乳動物の任意の組織又は細胞にBRG−1をコードする遺伝子を導入して、該組織又は細胞がBRG−1を発現するように、あるいはBRG−1の発現が強化されるように形質転換することによって作製することができる。あるいは、BRG−1遺伝子のプロモーター領域の下流にルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子を融合させたコンストラクトが導入された細胞又はその培養物を用いることもできる。遺伝子やコンストラクトを細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーションやリポフェクションなどによるベクター導入が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
該BRG−1を発現可能な組織又は細胞への被験物質の適用は、例えば、被験物質を所定の濃度になるように予め培地中に添加した後、当該組織又は細胞を該培地に播種すること、あるいは、当該組織又は細胞が播種された培地に、被験物質を所定の濃度になるように添加することにより行うことができる。被験物質適用後の組織又は細胞は、通常の条件、例えば真皮線維芽細胞の場合、約25〜37℃で8〜240時間程度、好ましくは24〜120時間程度の条件で培養することが好ましい。
【0032】
培地に対する該組織又は細胞の播種時の濃度は、細胞が増殖可能な濃度であれば特に限定されない。また、被験物質の添加濃度は、0.00001〜10%(w/v)とするのが好ましく、0.0001〜5%(w/v)とするのがより好ましいが、被験物質の種類によって適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0033】
該組織又は細胞を培養する培地は、常用の培地を用いることができる。該培地としては、例えば10%FBS含有又は不含有Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)などが挙げられるが、これらに限定されない。細胞継代又は増殖時には、これらの培地に、血清、増殖因子、インスリン等の増殖添加剤や抗菌剤等を添加することが好ましい。
【0034】
次いで、該被験物質を適用した組織又は細胞を回収して、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定する。遺伝子の発現レベルの測定は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、mRNAレベルで検出する場合は、例えば細胞からtotal RNAを抽出した後、リアルタイムRT−PCR法、RNA分解酵素プロテクションアッセイ法、DNAアレイ法、ノーザンブロット解析法などを用いて、BRG−1遺伝子から転写されたmRNAを検出定量することができる。
【0035】
BRG−1タンパク質の発現レベルの測定は、公知の方法に従って行うことができ、例えば、RIA法、EIA法、ELISA、バイオアッセイ法、ウェスタンブロットなどの通常の免疫測定法により行うことができる。ウェスタンブロットが安価かつ簡便で望ましい。BRG−1タンパク質の活性レベルの測定は、公知の方法に従って行うことができ、例えば、ウェスタンブロッティングによるリン酸化の検出などにより行うことができる。
【0036】
次いで、本発明の方法においては、上記のとおり測定したBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルに基づいて、皮膚弾性改善剤、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤、皮膚のハリの低下予防又は改善剤、真皮ECM形成制御剤、弾性線維形成制御剤、又はコラーゲン線維形成制御剤として使用可能な被験物質を評価及び/又は選択する。
【0037】
本発明の方法の一実施形態においては、BRG−1の発現もしくは活性レベルを増強させるか、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルを増強させる被験物質を評価及び/又は選択する。これら被験物質は、皮膚弾性改善剤、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤、又は皮膚のハリの低下予防又は改善剤として使用することができる。
【0038】
本発明の方法の別の実施形態においては、BRG−1の発現もしくは活性レベルを増強させるか、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルを増強させる被験物質を評価及び/又は選択する。これら被験物質は、真皮ECM形成促進剤、弾性線維形成促進剤、又はコラーゲン線維形成促進剤として使用することができる。
【0039】
本発明の方法のさらに別の実施形態においては、BRG−1の発現もしくは活性レベルを低下させるか、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルを低下させる被験物質を評価及び/又は選択する。これら被験物質は、真皮ECM形成抑制剤、弾性線維形成抑制剤、又はコラーゲン線維形成抑制剤として使用することができる。
【0040】
好ましくは、上述した被験物質の評価及び/又は選択においては、被験物質を適用したBRG−1を発現可能な組織又は細胞(試験群)におけるBRG−1又はその遺伝子の発現もしくは活性レベルを、対照群におけるBRG−1又はその遺伝子の発現もしくは活性レベルと比較し、当該比較結果に基づいて、本発明の剤として使用できる被験物質を選択する。
【0041】
対照群としては、試験群と同じBRG−1を発現可能な組織又は細胞であって、被験物質を適用されていないものや、被験物質の溶媒のみを適用したものなどが挙げられる。対照群におけるBRG−1又はその遺伝子の発現もしくは活性は、上記と同様の手順で測定することができる。
【0042】
試験群におけるBRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルが対照群と比べて高い場合、該被験物質を、BRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルを増強させる物質として選択する。例えば、対照群における発現又は活性レベルに対して、試験群における発現又は活性レベルが統計学的に有意に増加した場合に、被験物質を、BRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルを増強させる物質として選択する。別の例では、対照群における発現又は活性レベルを100%としたときに、試験群における発現又は活性レベルが110%以上、好ましくは130%以上、さらに好ましくは150%以上である場合に、被験物質を、BRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルを増強させる物質として選択する。選択された被験物質は、皮膚弾性改善剤、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤、皮膚のハリの低下予防又は改善剤、真皮ECM形成促進剤、弾性線維形成促進剤、又はコラーゲン線維形成促進剤として、あるいはそれらの候補物質として選択され得る。
【0043】
試験群におけるBRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルが対照群と比べて低い場合、該被験物質を、BRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルを低下させる物質として選択する。例えば、対照群における発現又は活性レベルに対して、試験群における発現又は活性レベルが統計学的に有意に低下した場合に、被験物質を、BRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルを低下させる物質として選択する。別の例では、対照群における発現又は活性レベルを100%としたときに、試験群における発現又は活性レベルが90%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下である場合に、被験物質を、BRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルを低下させる物質として選択する。選択された被験物質は、真皮ECM形成抑制剤、弾性線維形成抑制剤、又はコラーゲン線維形成抑制剤として、あるいはそれらの候補物質として選択され得る。
【0044】
本発明の方法においては、必要に応じて、上記手順で選択された物質をさらなるスクリーニングにかけてもよい。例えば、まず上記手順でBRG−1又はその遺伝子の発現又は活性レベルを増強又は低下させる物質として選択された試験物質を、本発明の剤の候補物質として取得する。次いで、これら候補物質を、皮膚組織、真皮組織、真皮線維芽細胞、もしくはそれらの培養物、又は3次元培養皮膚などの皮膚モデルに投与した後、真皮のECM、弾性線維もしくはコラーゲンの量を測定するか、又は皮膚弾性、皮膚のシワ、たるみもしくはハリを測定し、さらに必要に応じて対照群の測定値と比較することにより、より効果的な被験物質を選別することができる。該対照群としては、例えば、被験物質を投与されていない又は被験物質の溶媒のみを投与した皮膚組織、真皮組織、真皮線維芽細胞、もしくはそれらの培養物、又は3次元培養皮膚などが挙げられる。
【0045】
例えば、被験物質投与群における真皮ECM成分、例えば弾性線維構成因子もしくはコラーゲンの発現レベルが、対照群と比べて統計学的に有意に向上した場合、あるいは、対照群に対して110%以上、好ましくは130%以上、さらに好ましくは150%以上である場合に、該被験物質は、真皮ECM形成促進剤、弾性線維形成促進剤、又はコラーゲン線維形成促進剤として選択され得る。弾性線維もしくはコラーゲンの発現レベルは、RT−PCR、マイクロアレイ、免疫測定法、ウェスタンブロッティングなどの公知の方法によって測定することができる。
【0046】
あるいは、被験物質投与群における真皮ECM成分、例えば弾性線維構成因子もしくはコラーゲンの発現レベルが、対照群と比べて統計学的に有意に減少した場合、あるいは、対照群に対して90%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下である場合に、該被験物質は、真皮ECM形成抑制剤、弾性線維形成抑制剤、又はコラーゲン線維形成抑制剤として選択され得る。
【0047】
また例えば、被験物質投与群における皮膚弾性が、対照群と比べて統計学的に有意に向上した場合、あるいは、対照群に対して110%以上、好ましくは130%以上、さらに好ましくは150%以上である場合に、該被験物質は、皮膚弾性改善剤、皮膚のたるみ予防又は改善剤、又は皮膚のハリの低下予防又は改善剤として選択され得る。皮膚弾性は、通常の方法、例えばキュートメーターやレオメーターを用いることなどによって測定することができる。
【0048】
また例えば、被験物質投与群における皮膚のシワが、対照群と比べて統計学的に有意に減少した場合、あるいは、対照群に対して95%以下、好ましくは90%以下である場合に、該被験物質は、皮膚のシワの予防又は改善剤として選択され得る。皮膚のシワは、通常の方法、例えばレプリカ法や、取得した画像を用いた3次元解析法などによって測定することができる。
【0049】
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の物質、製造方法、用途、方法等を本明細書に開示する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0050】
〔1〕皮膚弾性改善剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、皮膚弾性改善剤として評価及び/又は選択すること、
を含む、方法。
【0051】
〔2〕皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤として評価及び/又は選択すること、
を含む、方法。
【0052】
〔3〕皮膚のハリの低下予防又は改善剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、皮膚のハリの低下予防又は改善剤として評価及び/又は選択すること、
を含む、方法。
【0053】
〔4〕好ましくは、前記皮膚弾性改善が、光老化によって生じた皮膚弾性低下の改善であり、また好ましくは、前記皮膚のシワ、たるみ、又はハリの低下が、光老化によって生じた皮膚のシワ、たるみ、又はハリの低下である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の方法。
【0054】
〔5〕真皮細胞外マトリクス形成制御剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を変化させる被験物質を、真皮細胞外マトリクス形成制御剤として評価及び/又は選択すること、
を含む、方法。
【0055】
〔6〕弾性線維形成制御剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を変化させる被験物質を、弾性線維形成制御剤として評価及び/又は選択すること、
を含む、方法。
【0056】
〔7〕コラーゲン線維形成制御剤の評価及び/又は選択方法であって:
BRG−1を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を適用すること;
該組織又は細胞における、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定すること;
該測定結果に基づいて、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を変化させる被験物質を、コラーゲン線維形成制御剤として評価及び/又は選択すること、
を含む、方法。
【0057】
〔8〕前記BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、真皮細胞外マトリクス形成促進剤として評価及び/又は選択することを含む、〔5〕記載の方法。
【0058】
〔9〕前記BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を低下させる被験物質を、真皮細胞外マトリクス形成抑制剤として評価及び/又は選択することを含む、〔5〕記載の方法。
【0059】
〔10〕前記BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、弾性線維形成促進剤として評価及び/又は選択することを含む、〔6〕記載の方法。
【0060】
〔11〕前記BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を低下させる被験物質を、弾性線維形成抑制剤として評価及び/又は選択することを含む、〔6〕記載の方法。
【0061】
〔12〕前記BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質を、コラーゲン線維形成促進剤として評価及び/又は選択することを含む、〔7〕記載の方法。
【0062】
〔13〕前記BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を低下させる被験物質を、コラーゲン線維形成抑制剤として評価及び/又は選択することを含む、〔7〕記載の方法。
【0063】
〔14〕前記BRG−1を発現可能な組織又は細胞が、
好ましくは、哺乳動物から採取された皮膚組織、真皮組織、真皮細胞、及びそれらの培養物であり、
より好ましくは、哺乳動物から採取された真皮線維芽細胞又はその培養物である、
〔1〕〜〔13〕のいずれか1項記載の方法。
【0064】
〔15〕前記BRG−1を発現可能な組織又は細胞が、好ましくは、BRG−1又はその遺伝子を発現するように遺伝的に改変された哺乳動物の組織もしくは細胞、又はその培養物である、〔1〕〜〔13〕のいずれか1項記載の方法。
【0065】
〔16〕好ましくは、対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定することをさらに含み、該対照群が、BRG−1を発現可能な組織又は細胞であって、被験物質を適用されていないものである、〔1〕〜〔15〕のいずれか1項記載の方法。
【0066】
〔17〕好ましくは、前記被験物質を適用した組織又は細胞におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルが、前記対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルと比べて統計学的に有意に増加した場合に、該被験物質を、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質として選択することを含む、〔16〕記載の方法。
【0067】
〔18〕好ましくは、前記被験物質を適用した組織又は細胞におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルが、前記対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルに対して110%以上、好ましくは130%以上、さらに好ましくは150%以上である場合に、該被験物質を、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強させる被験物質として選択することを含む、〔16〕記載の方法。
【0068】
〔19〕好ましくは、前記被験物質を適用した組織又は細胞におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルが、前記対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルと比べて統計学的に有意に低下した場合に、該被験物質を、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を低下させる被験物質として選択することを含む、〔16〕記載の方法。
【0069】
〔20〕好ましくは、前記被験物質を適用した組織又は細胞におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルが、前記対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルに対して90%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下である場合に、該被験物質を、BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を低下させる被験物質として選択することを含む、〔16〕記載の方法。
【0070】
〔21〕好ましくは、前記被験物質を適用した組織又は細胞におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルが、前記対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルと比べて統計学的に有意に増加した場合に、該被験物質を、皮膚弾性改善剤、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤、皮膚のハリの低下予防又は改善剤、真皮細胞外マトリクス形成促進剤、弾性線維形成促進剤、又はコラーゲン線維形成促進剤として、あるいはそれらの候補物質として選択することを含む、〔16〕記載の方法。
【0071】
〔22〕好ましくは、前記被験物質を適用した組織又は細胞におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルが、前記対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルに対して110%以上、好ましくは130%以上、さらに好ましくは150%以上である場合に、該被験物質を、皮膚弾性改善剤、皮膚のシワ又はたるみ予防又は改善剤、皮膚のハリの低下予防又は改善剤、真皮細胞外マトリクス形成促進剤、弾性線維形成促進剤、又はコラーゲン線維形成促進剤として、あるいはそれらの候補物質として選択することを含む、〔16〕記載の方法。
【0072】
〔23〕好ましくは、前記被験物質を適用した組織又は細胞におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルが、前記対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルと比べて統計学的に有意に低下した場合に、該被験物質を、真皮細胞外マトリクス形成抑制剤、弾性線維形成抑制剤、又はコラーゲン線維形成抑制剤として、あるいはそれらの候補物質として選択することを含む、〔16〕記載の方法。
【0073】
〔24〕好ましくは、前記被験物質を適用した組織又は細胞におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルが、前記対照群におけるBRG−1の発現もしくは活性レベル、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現レベルに対して90%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下である場合に、該被験物質を、真皮細胞外マトリクス形成抑制剤、弾性線維形成抑制剤、又はコラーゲン線維形成抑制剤として、あるいはそれらの候補物質として選択することを含む、〔16〕記載の方法。
【0074】
〔25〕好ましくは、前記BRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を増強又は低下させる被験物質として選択された被験物質を、皮膚モデルに投与することをさらに含む、〔1〕〜〔24〕のいずれか1項記載の方法。
【0075】
〔26〕BRG−1又はそれをコードする遺伝子を含む、皮膚弾性評価用マーカー。
【0076】
〔27〕真皮におけるBRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定することを含む、皮膚弾性評価方法。
【0077】
〔28〕BRG−1又はそれをコードする遺伝子を含む、真皮における細胞外マトリクス、弾性線維又はコラーゲン量の評価用マーカー。
【0078】
〔29〕真皮におけるBRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定することを含む、真皮における細胞外マトリクス、弾性線維又はコラーゲン量の評価方法。
【0079】
〔30〕BRG−1又はそれをコードする遺伝子を含む、皮膚のシワ、たるみ又はハリの低下の評価用マーカー。
【0080】
〔31〕好ましくは、前記皮膚のシワ、たるみ、又はハリの低下が、光老化によって生じた皮膚のシワ、たるみ、又はハリの低下である、〔30〕記載のマーカー。
【0081】
〔32〕真皮におけるBRG−1の発現もしくは活性、又はBRG−1をコードする遺伝子の発現を測定することを含む、皮膚のシワ、たるみ、又はハリの低下の評価方法。
【0082】
〔33〕好ましくは、前記皮膚のシワ、たるみ、又はハリの低下が、光老化によって生じた皮膚のシワ、たるみ、又はハリの低下である、〔32〕記載の評価方法。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0084】
実施例1 ヒト皮膚におけるBRG−1発現
米国テキサス州ダラス近郊在住の60歳代の健康な女性15名(Caucasian、Asian、Hispanic及びAfrican Americanを含む)を被験者とした。各被験者の上腕内側部及び前腕外側部の皮膚の弾性(Ur/Uf)を、キュートメーター(SEM 575;Courage and Khazaka)を用いて計測した。
【0085】
続いて、皮膚科医が直径4mmのパンチバイオプシーを用いて、各被験者の上腕内側部及び前腕外側部から皮膚組織を採取した。採取した皮膚組織は、即座にRNA later溶液(QIAGEN)に浸漬して保存した。保存した皮膚組織から、RNeasy micro kit(QIAGEN)を用い、添付のプロトコールに従ってトータルRNAを回収した。得られたトータルRNAより、High capacity RNA to cDNA kit(Applied Biosystems)を用い、添付のプロトコールに従ってcDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型として、TaqMan(登録商標)gene expression assays(Applied Biosystems)を用いて、BRG−1(Brahma−related gene−1)遺伝子発現量を測定した。測定した値は、glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase(GAPDH)の遺伝子発現量で補正した。
【0086】
図1は、各被験者における上腕内側部または前腕外側部皮膚におけるBRG−1遺伝子発現量と皮膚弾性値(Ur/Uf)をプロットした図である。BRG−1遺伝子の発現量が高いほど皮膚の弾性が高い傾向があり、BRG−1発現と皮膚弾性値との間に統計学的に有意な関連性があることが示された。
【0087】
図2は、各被験者の上腕内側部(弱露光部)及び前腕外側部(露光部)皮膚でのBRG−1遺伝子発現量を示す。BRG−1の発現は、弱露光部皮膚と比べて露光部皮膚では統計学的に有意に低下していた。
図1及び
図2に示した結果から、光老化による皮膚弾性低下にBRG−1が関与していること、及びBRG−1の発現量が皮膚弾性を反映していることが示された。
【0088】
実施例2 線維芽細胞におけるBRG−1発現阻害が細胞外マトリクス(ECM)形成に及ぼす影響
24ウェルプレートに、正常ヒト真皮線維芽細胞(クラボウ)を1×10
5cells/ウェルの細胞密度で播種した。24時間後、Lipofect Amine 2000試薬(Invitrogen)を用いて、定法に従ってControl siRNA(非特異的配列)、又はBRG−1特異的配列siRNA(Invitrogen)を細胞に導入した。24時間後、500μLのDMEM培地(Invitrogen)に交換して細胞を培養し、5日後、培養上清及び細胞を回収した。細胞をCell Lysis Buffer(Cell Signaling Technology)で回収した後、超音波破砕を行い、細胞溶解液を得、BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いてタンパク定量を行った。
得られた細胞溶解液については、タンパク定量値を基にタンパク量を揃え、常法に従って抗ヒトBRG−1抗体(Santa Cruz Biotechnology)によるウェスタンブロッティング解析を行い、BRG−1発現を調べた。また、培養上清については、細胞溶解液のタンパク定量値を参照して、細胞に由来するタンパク量が等しくなるように希釈し、常法に従って抗ヒトCollagen I抗体(Santa Cruz Biotechnology)、抗ヒトMMP−1抗体(AbD Serotec)、抗ヒトTIMP−1抗体(Gene−Tex Inc.)、及び抗ヒトMFAP−4抗体(AdipoGen International)によるウェスタンブロッティング解析を行い、Collagen I、MMP−1(Matrix metalloproteinase−1;Collagen分解酵素)、TIMP−1(Tissue Inhibitor of Metalloproteinase−1;生体内におけるMMPインヒビター)、及びMFAP−4(microfibrillar−associated protein 4;エラスチン形成の必須因子)の発現を調べた。
【0089】
ウェスタンブロッティングの結果を
図3に示す。BRG−1特異的配列siRNAを導入した細胞(BRG−1 siRNA)では、BRG−1発現が阻害され、かつCollagen I、TIMP−1及びMFAP−4の発現レベルが減少した一方、MMP−1の発現は増加した。したがって、BRG−1発現の阻害により、コラーゲンや弾性線維の形成が低下し、またコラーゲンの分解が亢進した。この結果は、BRG−1が真皮におけるコラーゲン及び弾性線維の形成や分解に関与していること、BRG−1発現レベルの増強は、コラーゲン及び弾性線維の量を増加させ、ECM形成を促進する一方で、BRG−1発現レベルの低下は、コラーゲン及び弾性線維の量を減少させ、ECM形成を抑制することを示している。
【0090】
実施例3 線維芽細胞におけるBRG−1発現阻害が弾性線維形成に及ぼす影響
24ウェルプレートの各ウェルにカバーガラスを設置し、その上に1×10
5cells/ウェルの細胞密度で線維芽細胞を播種した。24時間後、実施例2と同様の手順でControl siRNA、又はBRG−1特異的配列siRNAを細胞に導入した。24時間後に、500μLの10%FBS添加DMEM/F12培地(Sigma−Aldrich)に交換し、細胞を培養した。7日後、細胞を氷冷メタノールで固定化した後、BRG−1と弾性線維の免疫染色を下記手順で行った。
・BRG−1
ウサギ抗ヒトBRG−1抗体(Santa Cruz Biotechnology)とAlexa Fluo 488標識抗ウサギIgG抗体(Invitrogen)を用いて細胞の免疫染色を行った。カバーガラスに接着した細胞をProLong Gold antifade reagent with DAPI(Invitrogen)を用いてスライドガラス上にマウントし、蛍光顕微鏡を用いてBRG−1発現(励起波長:488nm、観察波長:525nm)及び核(励起波長:350nm、観察波長:470nm)を観察した。
・弾性線維
マウス抗ヒトFibrillin−1抗体(Millipore)及びウサギ抗Elastin抗体(Elastin Product Company)と、Alexa Fluo 546標識抗マウスIgG抗体(Invitrogen)及びAlexa Fluo 488標識抗ウサギIgG抗体(Invitrogen)を用いて細胞の免疫染色を行った。カバーガラスに接着した細胞をProLong Gold antifade reagent with DAPI(Invitrogen)を用いてスライドガラス上にマウントし、蛍光顕微鏡を用いて弾性線維の構成分子であるフィブリリン−1(励起波長:546nm、観察波長:573nm)、エラスチン(励起波長:488nm、観察波長:525nm)及び核(励起波長:350nm、観察波長:470nm)を観察した。
【0091】
免疫染色細胞の蛍光顕微鏡画像を
図4及び5に示す。BRG−1特異的配列siRNAを導入した細胞(BRG−1 siRNA)では、BRG−1発現が低下し(
図4A)、かつ弾性線維の構成分子であるフィブリリン−1及びエラスチンが減少した(
図5A〜B)。一方で、BRG−1発現阻害は、核の数に変化が認められないことから、細胞の生存率には影響しなかった(
図4B及び
図5C)。