特許第6572211号(P6572211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572211バナジウムレドックスフロー電池の充電状態の判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572211
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】バナジウムレドックスフロー電池の充電状態の判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20190826BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20190826BHJP
【FI】
   H01M8/18
   H01M8/04 Z
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-535671(P2016-535671)
(86)(22)【出願日】2014年12月2日
(65)【公表番号】特表2016-540351(P2016-540351A)
(43)【公表日】2016年12月22日
(86)【国際出願番号】EP2014076266
(87)【国際公開番号】WO2015082475
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2017年11月28日
(31)【優先権主張番号】13195315.0
(32)【優先日】2013年12月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506016495
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・リムリック
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100139549
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 泉
(72)【発明者】
【氏名】デニス ノエル バックリー
(72)【発明者】
【氏名】シン ガオ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート パトリック リンチ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ジェイ. リーヒー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア バーク
(72)【発明者】
【氏名】グレース フリン
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許第102539362(CN,B)
【文献】 米国特許第06344359(US,B1)
【文献】 ECS Transactions,2012年,41(23),p.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IV及びVV溶液の混合におけるバナジウム種VIV及びバナジウム種VVを判定することにより、バナジウムレドックスフロー電池の充電状態SoCを判定する方法であって、
前記バナジウムレドックスフロー電池の正極側電解液から直接、分光法を用いて、第1の特定の波長における吸光度を測定するステップ、
前記バナジウムレドックスフロー電池の正極側電解液から直接、分光法を用いて、第2の特定の波長における吸光度を測定するステップ、及び
測定された第1の特定の波長における吸光度と測定された第2の特定の波長における吸光度とに基づいて連立方程式の解を求めることにより、VIV及び/又はVVの濃度を算定するするステップ、方法。
【請求項2】
前記溶液における全体のバナジウム濃度は既知であり、VIVとVV間の複合体の存在により、バナジウム種の濃度と前記第1の特定の波長における吸光度及び前記第2の特定の波長における吸光度の少なくとも一方との間に非線形関係があり、前記第1の特定の波長における吸光度及び前記第2の特定の波長における吸光度に基づくVIV及び/又はVV溶液の濃度を算出するステップは、
前記第1の特定の波長における吸光度及び前記第2の特定の波長における吸光度の少なくとも一方を、全体のバナジウム濃度が同じものであって少なくとも一波長についてのVVの割合に対する吸光度の参照グラフと比較し、
同比較により溶液におけるVIV及び/又はVVの割合を算定することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一の別の波長における溶液の吸光度を判定し、
前記少なくとも一つの別の波長における溶液の吸光度を、全体のバナジウム濃度が同じものであって少なくとも一つの別の波長についてのVVの割合に対する吸光度の前記参照グラフと比較し、
前記少なくとも一つの波長において行われた比較と前記少なくとも一の別の波長において行われた比較とから、溶液におけるVIV及び/又はVVの割合を算定することを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも一つの波長において行われた比較と、正極の充電状態、負極の充電状態、電池電圧、前記正極側電解液の充放電時における吸光度の変化のうち一以上に基づき、溶液におけるVIV及び/又はVVの割合を算定することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
所定の波長についてのVVの割合に対する吸光度の参照グラフは、
前記所定の波長における既知の濃度のVIV溶液の吸光度を判定し、
前記所定の波長において、既知の混合比と既知のバナジウム濃度のバナジウムレドックスフロー電池の正極側電解液のキャリブレーションサンプルの吸光度を判定することにより構築される、
請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
既知のバナジウム濃度及び混合比のバナジウムレドックスフロー電池の正極側電解液の二つのキャリブレーションサンプルは、参照グラフの構築に用いられる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
IV/VV混合比が制御された方法で変更可能な溶液はキャリブレーションに使用され、前記キャリブレーションは、前記混合比を変更し、前記混合比の変化と溶液の吸光度とを比較することを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
全体のバナジウム濃度は未知であり、
バナジウムの濃度又はVIV及びV溶液の濃度は、
二対の特定の波長についての過剰吸光度の割合を判定し、
前記二対の特定の波長について判定された過剰吸光度の割合に基づいて連立方程式の解を求めることにより、VIV及び/又はVVのバナジウム濃度を算定するステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記連立方程式の数式は、
【数2】
を含み、Aynmは、yナノメートルにおける吸光度であり、Axnmは、xナノメートルにおける吸光度であり、δは減衰係数に依存する定数であり、複合体ελVIVとελVVの濃度は、対象の波長(λ)におけるVIV及びVV種のそれぞれの減衰係数であり、[VIV]及び[VV]はそれぞれ、複合体形成前のVIV及びVVの濃度であり、Lは溶液を通る光路長である、
請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記二対の特定の波長の一方の特定の波長における過剰吸光度は、
既知のバナジウム濃度の溶液の特定の波長における吸光度を測定し、
複合体が存在しない場合に生じる特定の波長における予測吸光度を算出し、
前記算出された予測吸光度の値を測定された吸光度の値から引く、
ことにより判定される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記一以上の別の波長における溶液の吸光度は、VIV又はVVのいずれかの割合又は濃度を判定又は確認するために用いられる、
請求項に記載の方法。
【請求項12】
直接又は並列のいずれかで接続された同じ型の電気化学電池群に対して使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
直接又は並列のいずれかで接続された異なる型の電気化学電池群であって、半電池の一部又は全てがVIVとVVの溶液の混合を使用する電気化学電池群に対して使用される、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウムレドックスフロー電池の充電状態の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)の充放電時、電池の充電状態(SoC)は、電池の負極側のVIIの量と正極側のVVの量に依存する。これらの種の量を測定する必要があるのは、VRFBにおいては水素の発生やその他の作用が生じることにより、それぞれの充電状態において負極側及び正極側の半電池のバナジウムの量が異なってくるからである。同様に、バナジウム種が各電池セルを分割する膜を通って移動することにより、電池のそれぞれの極側にあるバナジウムの総量に大きな変化が生じてくる。よって、電池の残量を判定することができるように、正極と負極の半電池の双方のバナジウムの混合比と総量、つまり充電状態におけるバナジウムの量を把握する必要がある。更に、バナジウム種の双方の混合比を把握することにより、過充電の危険性が生じる時期を判断することができ、これによりシステムの制御を行いやすくなり、危険が生じる前に電極の損傷を防ぐことができる。
II/VIII及びVIV/VVの混合比を測定する方法はいくつか知られている。例えば、ネルンストの式は、混合比と電位の関係を定義する。同数式は以下の通りである。
【0003】
【数1】
ここで、E0はボルト(V)を単位とする平衡電位(つまり、VII/VIIIの式量電位とVIV/VVの式量電位との合計)、Rは普遍定数(8.314Jmol-1-1)、Tはケルビンを単位とする温度、nは電子移動数、Fはファラデー定数(96485Cmol-1)、VII/VIIIは陽極電解液の混合比、VIV/VVは陰極電解液の混合比である。二つの半電池の混合比が等しい(つまり、VII/VIIIとVIV/VVが等しい)限り、混合比延いては電池の充電状態(SoC)を判定することができることになる。実際、VRFBのSoCを判定する方法として、電池の開回路電圧を測定することによる方法が従来から最も用いられている。かかる方法の一つの例が、Christensen名義の特許文献1に記載されている。同公報では、電池の開回路電位によって最初のSoCを測定し、回路が閉じられている間に電流を測定することにより、SoCの変化を監視する技術が説明されている。
開回路電圧により電池のSoCを測定することに関する問題として、二つの半電池の電流効率は同じでないため、二つの半電池の混合比が同じになることは稀であるということがある。VRFBのSoCを判定するのに研究で広く用いられている別の方法として、二つの半電池に設けられた参照電極を使用するものがある。別の公知のSoCの測定方法として、Skyllas-Kazacos名義の特許文献2により開示されている、電解液の導電性を測定するものがある。しかし、これらの技術はいずれも電池内に追加の電極を設ける必要があるため、電池の作用を妨げる可能性がある。
VRFBのSoCを算定するこれらの公知の方法すべてには欠点がある。第1に、半電池のSoCを測定することは簡単ではない。なぜなら、電極の電位おける小さなオフセットやドリフトが、電位の変化となって混合比(特に50パーセントに近い混合比)においては大きな変化となり得るからである。更に、電極の性質上、参照電極の内部液が汚染されやすくなる。また、これらの方法は電気化学的であるため、ばらつきがあるという点で個別の測定値が得られない。かかるばらつきは電池出力と同様であり、混合比の実際の変化や、不純物の存在、表面状態の変化、その他電極の作用を変化させる要因によるばらつきであるかどうかに関係ない。更に、これらの方法は電池の作用を妨げる。例えば、相当な注意をもって設計しなければ漏電を増加させる可能性がある。
分光法を用いて異なる波長での溶液の吸光度を測定することにより溶液内の種の濃度を正確に測定することができる。かかる方法は、一つの波長における吸光度と一つの種の濃度とは比例するため簡単に実施できる。Sahu名義の特許文献3及び特許文献2は、所定の波長における吸光度と混合比の直線関係を用いて、異なるフロー電池のSoCを判定する方法を説明している。
また、吸光度が各種の濃度に比例するのであれば、分光法を用いて、種のバナジウムの混合比を測定することができる。この点、陰極電解液の混合比、即ち(VII/VIIIの混合比における)VIIの大きさは、いくつかの波長における混合比に対する吸光度の線形応答を用いて判定することができる(特許文献2参照)。VIV又はVV単独のバナジウム溶液の吸光度はバナジウム濃度に対して線形に変化する。しかし、(図3に示すように)波長にはVIVによる吸光度がVVによる吸光度よりはるかに大きく、逆もまだ同様であるものもあるにも関わらず、VIVとVVの溶液の高い濃度の混合により、図5aに示すように、いずれの特定の波長においてもVV(又はVIV)の割合に対する吸光度の変化は非線形となる。電解液が希釈されることにより、吸光度と混合比間におけるこの非線形の作用は減少し、図5dに示すように線形となる。よって、使用されるバナジウムの濃度においては、混合比と吸光度との線形関係は、VVとVIVの種間における複合体(complex)の形成により、VRFBの陽極電解液には存在しない。
特許文献4には、溶液を従来の分光法によって分析するため、溶液を希釈して複合体形成の影響を排除するのに十分に低い濃度とすることを記載する。
このバナジウム溶液の陽極電解液の混合比と吸光度との間の線形の関係の欠如を解消するため、動作中のVRFBからとったスペクトルに対して比較するキャリブレーションスペクトラムのセットを用いることが知られている(非特許文献1参照)。しかし、これは、明らかに、特定の溶液のためにキャリブレーションスペクトルのセットを必要とし、更に使用可能なスペクトルをキャリブレーションスペクトルと比較するための膨大な計算処理が必要となる。更に、VRFBの動作中に全体のバナジウム濃度に変化がある(これは、陽子交換膜を跨ぐ種の分散と液の移動による電圧変化によって生じる)ため、キャリブレーションされたスペクトルは、電池の各充放電周期に対して有効性が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/022535号明細書
【特許文献2】国際公開第WO90/03666号
【特許文献3】米国特許第7,855,005号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第102539362号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L. Lie, et al., J. Appl. Electrochem. 42, 1025 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、吸収スペクトルからVIV及びVVの電解液の混合比を判定する方法を改良する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付の特許請求の範囲で提示されているように、本発明に係る方法は、VIV及びVV溶液の混合におけるVIV又はVVの濃度を判定する方法であって、少なくとも一つの波長における溶液の吸光度(又は他の光学的性質)を判定するステップと、同吸光度(又は他の光学的性質)に基づき、VIV及び/又はVV溶液の濃度を算出するステップとを含む。
一の実施形態においては、溶液における全体のバナジウム濃度は既知であり、VIVとVV間の複合体の存在により、バナジウム種の濃度と吸光度間に非線形関係があり、同吸光度に基づくVIV及び/又はVV溶液の濃度の算出するステップは、吸光度を、全体のバナジウム濃度が同じものであって少なくとも一波長についてのVVの割合に対する吸光度の参照グラフと比較し、同比較により溶液におけるVIV及び/又はVVの割合を算定することを含む。
一の実施形態において、同方法は、少なくとも一の別の波長における溶液の吸光度を判定し、吸光度を、全体のバナジウム濃度が同じものであって少なくとも一つの別の波長についてのVVの割合に対する吸光度の参照グラフと比較し、前記少なくとも一つの波長において行われた比較と前記少なくとも一の別の波長において行われた比較とから、溶液におけるVIV及び/又はVVの割合を算定することを含む。
一の実施形態において、同方法は更に、前記少なくとも一つの波長において行われた比較と、正極の充電状態(SoC)、負極の充電状態(SoC)、電池電圧、電解液のチャージ又はディスチャージ時における吸光度の変化のうち一以上に基づき、溶液におけるVIV及び/又はVVの割合を算定することを含む。
一の実施形態において、所定の波長についてのVVの割合に対する吸光度の参照グラフは、前記所定の波長における既知の濃度のVIV溶液の吸光度を判定し、前記所定の波長において、既知の混合比と既知の濃度のVIV/VV溶液のキャリブレーションサンプルの吸光度を判定することにより構築される。
一の実施形態において、既知の濃度及び混合比のVIV−VV混合の二つのキャリブレーションサンプルは、参照グラフの構築に用いられる。
一の実施形態において、VIV/VV混合比が制御された方法で変更可能な溶液であって、キャリブレーションは、混合比を変更し、混合比の変化と溶液の吸光度と比較することを含む。
一の実施形態において、VIV/VV混合比は、半電池の電極に電流を流すことにより制御された方法で変更される。
一の実施形態において、全体のバナジウム濃度は既知であり、VIV及びVV間の複合体(complex)の存在に因りバナジウム種の濃度と吸光度間に非比例的な関係が存在し、吸光度に基づきVIV及び/又はVV溶液の濃度を算定するステップは、一対の特定の波長についての過剰吸光度の割合を判定し、一対の特定の波長についての判定された過剰吸光度の割合に基づいて連立方程式を解くことにより、VIV及び/又はVVの濃度を算定するステップを含む。
一の実施形態において、全体のバナジウム濃度は未知であり、バナジウムの濃度又はVIV及び/又はVV溶液の濃度は、二対の特定の波長についての過剰吸光度の割合を判定し、同二対の特定の波長についての判定された過剰吸光度の割合に基づいて連立方程式を解くことにより、VIV及び/又はVVのバナジウム濃度を算定するステップを含む。
一の実施形態において、連立方程式の数式は、以下を含む。
【0008】
【数2】
ただし、Aynmは、yナノメートルにおける吸光度であり、Axnmは、xナノメートルにおける吸光度であり、δは減衰係数に依存する定数であり、複合体ελVIVとελVVの濃度は、対象の波長(λ)におけるVIV及びVV種のそれぞれの減衰係数であり、[VIV]及び[VV]はそれぞれ、複合体形成前のVIV及びVVの濃度であり、Lは溶液を通る光路長である。
一の実施形態において、特定の波長における過剰吸光度は、既知のバナジウム濃度の溶液の特定の波長における吸光度を測定し、複合体が存在しない場合に生じる特定の波長における予測吸光度を算出し、この算出された予測吸光度の値を測定された吸光度の値から引くことにより判定される。
一の実施形態において、既知のバナジウム濃度の溶液の特定の波長における過剰吸光度を測定するステップは更に、同特定の波長における吸光度とVVの割合との関係を示す第1の参照グラフを構築し、複合体が存在しない場合に生じる特定の波長における予測吸光度とVVの割合との関係を示す、第1の参照グラフに類似する第2のグラフを構築し、第1のグラフと第2のグラフ間の吸光度の差であって過剰吸光度に対応する差と、VVの割合との関係を示す参照グラフを構築することを含む。
一の実施形態において、既知の濃度の溶液の特定の波長における吸光度を測定するステップは、既知の濃度のキャリブレートされた溶液の特定の波長における吸光度を測定することを含む。
一の実施形態において、複合体が存在しない場合に生じる特定の波長における予測吸光度の算出ステップは、VIVとVVの減衰係数に基づくものである。
一の実施形態において、一以上の別の波長における溶液の吸光度は、VIV又はVVのいずれかの割合又は濃度を判定又は確認するために用いられる。
一の実施形態において、VII−VIII溶液及びVIV−VV溶液を含むバナジウムレドックスフロー電池(VRFB)の充電状態(SoC)を算出する方法は、上記方法によりVIV−VV溶液におけるVVの量を算出し、VII−VIII溶液におけるVIIの量を算出し、算出したVVの量又はVIIの量のうち値が低い方を判定し、同低い方の値からVRFBの前記SoCを判定する。
一の実施形態において、電気化学電池であって、その半分に陰極電解液又は陽極電解液であるVIVとVVの溶液を含み、他の半分が残りの充電の算定が可能である電気化学電池のSoCを算出する方法が提供される。
同方法は、直接又は並列のいずれかで接続された同じ型の電気化学電池群に対して使用してもよい。
同方法は、直接又は並列のいずれかで接続された異なる型の電気化学電池群であって、半電池の一部又は全てがVIVとVVの溶液の混合を使用する電気化学電池群に対して使用してもよい。
一の実施形態においては、濃度は、全体のバナジウムに対するVIV又はVVの割合が、全体のバナジウム濃度が低い場合において、吸光度に比例することに基づき算出される。吸光度を記載しているが、本発明の実施には他の光学的特性を用いることができることは明らかである。
本発明は、陰極電解液及び陽極電解液の双方の充電された種の残量を判定することにより、バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)又は同様の装置の充電状態(SoC)を判定する方法を提供する。
一の実施形態において、吸光度の値を測定し混合比を算出する前に、バナジウム溶液を希釈して濃度を低くするステップが提供される。
一の実施形態において、バナジウム溶液であって、第2の半電池又はグループが同一又は既知の割合で充放電される電気化学電池又は同様の装置の半電池によって充電及び/又は放電されるVIVとVVの種を含むバナジウム溶液が、システムに設けられ、同システムの両半部とも充電状態は既知であり、その混合比は、同システムの第2の半部の溶液の一
以上の波長における吸光度を判定し、同システムの第2の半部の充電状態を推定し、先の時間からの充電量を判定し、VIV−VV溶液の充電状態又は残りのVV濃度を判定することにより算出される。
一の実施形態において、第2溶液の吸光度を判定する以外の方法が提供され、第2溶液の充電状態における変化を判定するのに使用される。
一の実施形態において、システムの第2半部のクーロン効率を考慮することによって、同システムの第2半部の充電状態における変化から得られる充電量の算出において修正が
なされる。
一の実施形態において、充電状態の変化は、VIV−VV反応のクーロン効率を考慮して得られた充電量から判定される。
一の実施形態において、バナジウム溶液は、VII及びVIII、又はVIII及びVIV種を備え、同方法は、一以上の波長における溶液の吸光度を判定し、濃度が吸光度に比例することに基づいて対象となるバナジウム種の割合又は濃度を算出するステップを備える。
一の実施形態において、全体のバナジウム濃度は既知であり、混合比は、一以上の波長における吸光度から、VIV、VV又は複合体に因る吸光度を判定し、演算によりVIV及び/又はVVのバナジウム全体の濃度及び/又は割合を判定することにより算出される。
一の実施形態において、VIV(又はVV)の濃度は既知であり、混合比は、一以上の波長における吸光度から、(VIV)、VV又は複合体に因る吸光度を判定し、演算によりVIV及び/又はVVの全体のバナジウムの濃度及び/又は割合を判定することにより算出される。
一の実施形態において、全体のバナジウム濃度は既知であり、VIV又はVVの濃度又は割合は、一以上の波長における溶液の吸光度を判定し、同吸光度を、VIV又はVVのいずれかの割合に対する吸光度の参照グラフ又は算出され調整された傾向線と比較し、VIV又はVVの濃度を算定することにより算出される。
一の実施形態において、一以上の別の波長における溶液の吸光度は、VIV又はVVの割合又は濃度を判定又は確認するのに用いられる。
一の実施形態において、VIV又はVVの割合又は濃度は、二つの波長における溶液の過剰吸光度の比を判定し、VIV又はVVのいずれかにより形成される複合体が存在しない場合の吸光度を、複合体の存在に因る過剰吸光度を相殺することにより算定し、VIV又はVVの濃度を算定することにより算出される。
一の実施形態において、所定の波長における過剰吸光度は、同所定の波長における溶液についての吸光度の値からVIV及びVVの吸光度の値の合計を引くことにより判定される。
一の実施形態において、所定の波長における過剰吸光度は、別の波長における過剰吸光度に過剰吸光度の特性比をそれぞれ掛けることにより算定される。
一の実施形態において、全体のバナジウム濃度は既知であり又は算定可能であり、混合比は、一以上の波長における吸光度又は過剰吸光度を判定することにより算出される。
一の実施形態において、吸光度又は過剰吸光度は、VIV、VV、複合体又はバナジウム全体の濃度を判定するのに使用される。
一の実施形態において、全体のバナジウム濃度は未知であり、バナジウム種の割合又は濃度は、一以上の対の波長における溶液の過剰吸光度の割合を判定し、過剰吸光度の割合に基づいて溶液中に形成された複合体が存在しない場合のVIV及びVV双方の濃度を算定し、及び/又は算定されたVIV及びVVの濃度に基づきVIV及びVVの割合を判定する、ことにより算出される。
一の実施形態においては、算定されたVIV又はVVの濃度に基づき全体のバナジウム濃度を判定するステップを更に含む。
一の実施形態においては、得られた充電に対する吸光度又は過剰吸光度の変化は、VIV、VV及び/又は混合体の割合、及び/又はVIV、VV、混合体、及び/又は全体のバナジウム濃度を判定するのに使用される。
一の実施形態においては、陽極電解液であるVII−VIII溶液及び陰極電解液であるVIV−VV溶液を含むバナジウムレドックスフロー電池(VRFB)の充電状態(SoC)を算出するステップが提供され、同方法は、上記方法により溶液中のVVの割合又は濃度を算出し、VII−VIII溶液におけるVIIの割合又は濃度を算出し、これらの割合及びVII−VIIIの溶液及びVIV−VVの溶液の充電容量から、或いは同溶液の濃度及び体積からVRFBのSoCを判定するステップを含む。
一の実施形態において、VII−VIIIの溶液の混合比を算出するステップは、一の波長における溶液の吸光度を判定し、同吸光度に基づきVII−VIIIの溶液におけるVIIの濃
度又は割合を算出することを含む。
一の実施形態において、陰極電解液又は陽極電解液としてVIV及びVVの溶液と、残りの充電が算定可能な第2半電池とを備える電気化学電池の充電状態(SoC)を算出するステップが提供される。
一の実施形態において、同方法は、直接又は並列のいずれかで接続された同じ型の電気化学電池群に対して使用される。
一の実施形態において、同方法は、直接又は並列のいずれかで接続された異なる型の電気化学電池群であって、半電池の一部又は全てがVIVとVVの溶液の混合を使用する電気化学電池群に対して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明は、添付の図面を参照した以下の実施形態の説明によってより明確に理解されるものである。ただし、これらは例示に過ぎない。
図1】バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)の充電状態(SoC)を判定する方法の例を示す。
図2】VRFBのSoCの判定を容易にする、正の電解液の混合比を判定する方法の例を示す。
図3】(a)VII、(b)VIII、(c)VIV、及び(d)VVの溶液に関して、1.54モルdm-3、0.77モルdm-3、及び1.54モルdm-3の濃度における吸光度スペクトルを示す。全ての溶液は、3モルdm-3のH2SO4の支持電解質において必要な濃度のVOSO4溶液から、必要に応じて充電又は放電することにより生成される。
図4】(a)は、図3に示す1.5モルdm-3のVII及びVIIIの溶液の混合について、波長の関数である吸光度、(b)は全体のバナジウムに対するVIIの割合の関数である吸光度を示す。
図5】全体のバナジウムに対するVVの割合の関数である、760nmでの各吸光度値における希釈の効果を示すグラフである。溶液の全体のバナジウム濃度は、(a)1.24、(b)0.77、(c)0.30、及び(d)0.06モルdm-3である。元の溶液は、3モルdm-3のH2SO4の支持電解質における1.55モルdm-3のVOSO4溶液のバナジウムを、VVの状態まで充電することにより生成される。
図6】(a)は波長の関数として、(b)は図5に示すVIV及びVVの溶液の混合に関してバナジウム全体に対するVVの割合の関数として、吸光度、予測吸光度及び双方の差(つまり、過剰吸光度)を示す。
図7図6に示すものと同じ混合について、(a)760nm、(b)670nm、(c)521nm、及び(d)450nmにおけるVVの割合の関数である実験上(ドット)と予測(実線)の吸光度を比較するグラフを示す。
図8図6に示すように、1.24モルdm-3バナジウムのVIVとVVの溶液の異なる混合に対する吸光度スペクトルを示す。同混合は、バナジウム全体のおよそ0、10、30、51、66、89、100パーセントのVVに関する。
図9図9(a)は、図8に示すものと同様に、1.24モルdm-3バナジウム溶液の異なる混合について、波長の関数としての過剰吸光度の値を示すグラフである。一方図9(b)は、VVの割合の関数として520nmにおける吸光度に対する750nm又は450nmにおける過剰吸光度の比のグラフを示す。三角や丸はそれぞれ、A*(760nm)/A*(520nm)及びA*(450nm)/A*(520nm)を表す。1.55、1.24、0.77及び0.30モルdm-3の全体のバナジウム濃度はそれぞれ、黒、青、赤、及び緑の記号で表されている。
図10】明細書に記載された式(4)と同様の式を用いて、1.24モルdm-3の混合について、作成され(分光法によって)算定されたVVの割合を比較したテーブルである。A*760nm/A*520nm及びA*450nm/A*520nmの値は、図9(b)からとって、1.09と0.50とそれぞれされている。減衰係数εv520nm=0.52モルdm-3cm-1、εvIV760nm=17.8モルdm-3cm-1、εvv450nm=7.04モルdm-3cm-1は、VIV及びVVのスペクトルから算出され、光路(L)は0.1cmであった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、充電状態におけるバナジウム種の量、つまり、VII/VIII及びVIV/VVの混合溶液におけるVIIとVVの濃度をそれぞれ判定する一連の方法に関する。これらの方法によりは、バナジウムレドックスフロー電池(VRFC)の双方の正極及び負極の半電池の充電状態(SoC)の算出が可能になり、これにより図1に示すようにVRFCのSoCだけでなく、二つの半電池の状態における不均衡についても、判定可能になる。
更に詳しくは、本発明の方法は、図2に示すように、VIV及びVV溶液(つまり、正の電解液又は陰極電解液)の混合におけるVV状態(正の電解液の充電状態)において、バナジウムの割合を正確に測定することにより、バナジウム溶液における正の電解液についての吸光度とVV比の間の非線形関係という問題を解消できる。VIV/VV溶液におけるVVの割合の測定は、本発明の方法により行うことができ、その結果は、通常の分光法や(本発明の背景で記載したような)その他の方法と組み合わせて、負の電解液(つまり、VII/VIII混合)におけるVII状態(負の電解液の充電状態)におけるバナジウムの割合を測定することができる。これにより、VRFB、その他VIV及びVVの溶液の混合を用いる電池や装置のSoCやその他パラメータを判定することができる。
図3に示すように、四つのバナジウム種―つまり、溶液に存在する四つのバナジウム酸化状態:VII、VIII、VIV及びVV―は、有意差のある吸光度スペクトルを有する。これらのバナジウム種のうち二つの混合を含む溶液は、それぞれの二つの種による成分からなる。よって、これらの種が複合体を形成するように相互作用しない限り、混合物のスペクトルは、単純に各種による吸光度を加算したものになる。これは、(図4に示すように)VII/VIIIやVIII/VIVの場合であり、VIV/VVの混合は(図5dに示すように)希釈する。しかし、VRFBで用いられる濃度のVIV/VVの混合では、吸光度の値は三つの吸光度成分の合計、つまり、図6に示すように、VIV及びVV種の吸光度と同二つの種の複合体による吸光度とによる成分の合計である。このため、全体のバナジウム濃度を上げる溶液に対して、吸光度とVVの割合との関係は、図5に示すように直線から放物線状になる。残念ながら、複合体の濃度は、判定を容易にするほど有意なものではなく、吸光度から濃縮されたバナジウム溶液におけるVVの割合を決定することは容易ではない。
図2はVVの割合を判定することによって正の電解液のSoCを決定する方法を示す。溶液における全体のバナジウム濃度が既知である場合、吸光度は特定の波長で測定され、図6(b)の760nmで示すように、(その波長に対する)VVの割合に関する吸光度を示す参照グラフと比較することができる。参照グラフは、既知の混合比で同じ全体のバナジウム濃度の溶液をいくつか準備しそれらの吸光度を測定し、結果のデータセットに対し二次曲線(VIVとVVの濃度の積に対する複合体の濃度の比率が極めて小さい場合、通常は放物線となる)を当てはめることにより、経験的に作成することができる。或いは、同グラフは、理論に基づき生成し、既知の濃度(必ずしも検査対象の溶液と同じでなくてもよい)のVIV溶液と、既知の混合比及び全体のバナジウム濃度が同じ溶液を、検査対象の電解液として用いて計算してもよい。
図2に示すように、正の電解液の吸光度を各参照グラフと比較すると、3つの有効な結果が得られる。
1.第1のケースでは、電解液の吸光度は最大値に近く、VVの割合の可能値の範囲は広くなり、正確な結果とならない。かかる場合には、図7に示すように、第2の波長における吸光度(その最大吸光度の値はVVの割合の可能値範囲外になる)を観察できる。
2.第2のケースでは、吸光度のVVの割合に対する二次従属性によって、測定された電解液の吸光度は、二つの異なる混合比の溶液に起因する。かかるケースは、第2の波長における吸光度を観察することにより解決できる。第2の波長において、二つまで可能なVVの割合を決める。しかし、これらも可能な割合のうち一つは、テストされた第1の波長における吸光度となるVVの割合に一致する。更に、第2の波長における吸光度を観察する代わりに、他の選択も可能である。例えば、予め取得した正極のSoC、負極のSoC、或いは電池電圧を利用したり、或いは電解液の充放電による吸光度の変化を観察することも可能である。これらにより、VVの割合に対するいずれの結果が有効であるかを示すことが可能である。
3.第3のケースでは、第1の波長で測定された吸光度は一意の結果となり得るため、正極のSoCは一つの波長における吸光度から判定できる。
各波長における吸光度は、一つ、二つ、或いは所定の範囲の結果を与えるため、同結果の精度やシステムの再検査の必要性を決めるのに、いくつかの波長を用いることができる。
全体のバナジウム濃度が未知である場合やシステムの検証又は検査を決める場合、複合体を知ることによってバナジウムの濃度の決定やVVの割合の決定を促進することができる。例えば、520nm付近のVIV及びVVの吸光度は略同じであり、ほとんどゼロである(図8を参照)。つまり、VIV及びVVが双方とも同じようにモル吸光計数が低いこの波長付近に等吸収点がある。よって、VRFBバナジウム濃度におけるVIV及びVVの混合についてのこの波長の吸光度は、大半が、図7c及び図8に示すように、複合体による吸光度によるものである。更に、その他の波長における複合体の存在に起因する過剰吸光度(図9を参照)は、520nmにおける過剰吸光度を特性定数と乗算することにより算出できる。任意の二つの波長における過剰吸光度の比は、図9(b)に示すように、0.7モルdm-3以上の濃度に対して定数であり、これは混合比や全体のバナジウム濃度とは関係がない。この方法により、VIV及びVVの濃度は別々に算出可能であるため、溶液のバナジウム全体の濃度と混合比は、予めバナジウムの濃度を知らなくても算出できる。よって、任意の波長における過剰吸光度は、520nm付近の過剰吸光度から算出できるため、VIV及びVV種だけによる吸光度を特定できる。この結果、混合比及び全体のバナジウム濃度を算出できる。
図9(a)は、波長の関数として、1.24モルdm-3の混合に対する過剰吸光度の値を示す。任意の二つの異なる波長における過剰吸光度の比はほとんど一定である(つまり、混合比に関係なく一定である)ことが分かる。例えば、図9(b)に示すように、1.24モルdm-3の混合(青色)について、A*450nm/A*521nm(丸)は〜0.5で、A*760nm/A*521nm(三角)は〜1.1である(ただし、Aλは吸光度の値である)。異なる全体のバナジウム濃度の溶液を分析する同じ方法を用いて、1.55モルdm-3(黒色)及び0.77モルdm-3(赤色)の混合について、これらの割合(A*450nm/A*521nm及びA*760nm/A*521nm)は、1.24モルdm-3の混合について算出された値と略同じである。しかし、0.30モルdm-3(緑色)の溶液については、これらの割合は混合比の変化によって変わることも分かる。よって、0.77モルdm-3以上については、過剰吸光度の割合は、濃度や混合比とは関係ない。
以下の微分を使って、VIV又はVVの混合比及び濃度は、過剰吸光度の割合を用いて決定できる。一例として、1.24モルdm-3の混合に対する吸光度の値を観察する。まず、過剰吸光度は、所定の波長(図8(a)にある400nmから800nmまでの各波長)における溶液の吸光度の値から、VIV及びVVの吸光度の合算値を引くことにより算出できる。つまり、以下の通りである。
【0011】
【数3】
ただし、[VIV]及び[VV]はそれぞれ、複合体の形成前のVIV及びVVの濃度であり、Lは溶液を通過する光の光路長であり、ελVIV及びελVVはそれぞれ、対象の波長(λ)におけるVIV及びVV種の減衰係数である。
V、εVV760nmによる760nmの減衰係数はほぼゼロであるため、混合に対する760nmの吸光度は主に、過剰吸光度とVIVの吸光度とから構成される。この結果、式(1)より、次の通りとなる。
【0012】
【数4】
ただし、δ*760nmは減衰係数と複合体の濃度に依存する定数である。
同様に、(520nm付近の)VIV及びVVのスペクトルの等吸収(交差)点において、εVIV520nmとεVV520nmは双方がほぼ同じであるため、VVの割合の関数として520nmにおける吸光度の変化は、単に(一定の全体のバナジウム濃度に対する)複合体の濃度の変化によるものである。この結果、式(1)は次のようになる。
【0013】
【数5】
ここで、δ*520nmは式(2)における各定数と同様であり、また520nmを除いては直線比例の関係にあるが、εV520nmは520nmにおけるVIV及びVVの減衰係数である。複合体の減衰係数及び複合体の濃度は決定が難しく、複合体の形成に対する平衡定数K(ただし、[complex]=K[VIVeq[VVeq)は未知である。しかし、式2及び3は次のように組み合わせることができる。
【0014】
【数6】
ここで、δ*760nm/δ*520nmはA*760nm/A*520nmに等しい。同様に、450nmの吸光度に対する式は、[VV]に関して導くことができる。(更に、いずれの数の波長を組み合わせにおける吸光度を選択しても、同様の式を導くことができる。)この結果、図10に示すように、3つの波長における吸光度を測定することにより、二つの未知の値[VIV]と[VV]を有する二つの式を生成できるため、解を得ることができる。
図10は異なる混合比の溶液における種の濃度を算出したものを示す。ただし、全体のバナジウム濃度は同じである(1.24モルdm-3)。図8に示すVIV/VV混合に対する吸光度の値を用いて、全体のバナジウム濃度と共にVVの割合([VV]/[VIV]+[VV])が算出された。同方法により、混合比及び全体のバナジウム濃度を極めて高い精度で算定することができる。
この技術は、VIV、VV或いは全体のバナジウム濃度を判定するための他の方法と併用することにより、これらの3つの濃度を二以上の波長における吸光度から算出するようにしてもよい。更に、ここで選択した三つの波長以外の波長を用いてもよい。
或いは、全体のバナジウム濃度を、電解液(又は電解液のアリコート)の充放電の間に、任意の波長(又はいくつかの波長)における吸光度の変化を観察することにより判定できる。この技術はまた、各波長の特性定数(B=ε*λKL)に過剰吸光度が依存することに基づく。この結果、520nmより大きい波長、例えば760nmにおける吸光度は以下のように表現できる。
【0015】
【数7】
ただし、B、C、Dは定数である。よって、充電又はVIV濃度による吸光度の変化は次のように表現できる。
【0016】
【数8】
これにより、dA760nm/dVIVがVIV濃度又はVIV濃度における変化に対してプロットされると、直線グラフとなる。グラフの傾斜は−2B/[V]2であるため、全体のバナジウム濃度は、既知の正の電解液の容量に対する短時間の充放電の際に計算することができる。これが決定すると、先に説明したように(図2を参照)、正の電解液のVVの割合(つまりSoC)を決定できる。或いは、VIV又はVVの濃度を式(4)等の式に挿入することにより決定することができる。
複合体の濃度(つまり、複合体による過剰吸光度)と、ここで示すもの以外の混合溶液におけるVIV又はVVの濃度との二次関係に対し別の数学的操作を行って、一以上の波長における吸光度からVIV及び/又はVVの濃度の値を得てもよい。更に、先に記載した技術の一つの全部又は一部と併用して、二次関係の操作によって算定したVIV又はVVの濃度、或いはVIV又はVVの割合を用いて、VIV、VV及び全体バナジウムの濃度を特定してもよい。
更に、これらの技術は、反射、屈折、全体内部反射等、透過率及び吸光度以外のバナジウム溶液の光学的特性を用いる分析装置まで適用を拡げてもよい。
上述の方法には、バナジウム溶液の混合比を判定する従来の方法に対して複数の利点があることが理解できる。まず、これらの方法により、二つの半電池の混合比、そして充電状態を、それぞれ別個に且つシステムの電気化学に関係なく測定できる。また、これらの方法により、各電解液の混合比がそのままの状態で測定でき、バナジウム濃度と混合比の双方を判定できることは、実システムにおいては大変重要である。なぜなら、溶液がシステムから蒸発したり、溶液の種が膜を通って移動したりすることによって、電解液の体積(よって濃度)は変化し得るため、元のバナジウム濃度に依存する必要がないことが重要であるからである。実際、溶液の種が移動することにより、保持したバナジウム分子の総数(よってその濃度)が実験の間に変化することがある。
図面を参照して説明した本発明における実施形態は、参照チャートや計算により構成される。しかし、本発明はまた、本発明を実施させる、コンピュータ装置、及び/又はコンピュータ装置により実行されるプロセス、コンピュータプログラム、特に媒体に保有されるコンピュータプログラムまで拡げることができる。プログラムは、ソースコード、オブジェクトコード、ソースコードとオブジェクトコードの中間コードの形式であってもよく、例えば、部分的にコンパイルされた形式等、その他本発明に係る方法の実施に用いるのに適した形式であればよい。媒体は、ROM、例えばCD−ROMや、フロッピディスクやハードディスク等の磁気記録媒体等の記憶媒体により構成されてもよい。媒体は、電気又は光ケーブルや、無線等の手段により伝送される電気又は光信号であってもよい。
本明細書において、「備える」(comprise,comprises, comprising)、「構成される」(comprised)やその他の変化形の用語や、「含む」(include,includes, including)、「含まれる」(included)やその他の変化形の用語は、全て置き換え可能であり、最も広い解釈及びその反対も許容されるべきである。
本発明はここに記載した実施形態に限定されるものでなく、構造及び詳細の双方において変形可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10