特許第6572216号(P6572216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572216ステンレス鋼ばね、及びステンレス鋼ばねの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572216
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】ステンレス鋼ばね、及びステンレス鋼ばねの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/02 20060101AFI20190826BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20190826BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20190826BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20190826BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20190826BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20190826BHJP
   C23C 8/26 20060101ALI20190826BHJP
   B24C 1/10 20060101ALI20190826BHJP
   F16F 1/02 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C21D9/02 A
   C21D8/06 B
   C21D1/06 A
   C21D7/06 B
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   C23C8/26
   B24C1/10 B
   B24C1/10 F
   F16F1/02 B
   F16F1/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-538475(P2016-538475)
(86)(22)【出願日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】JP2015071999
(87)【国際公開番号】WO2016017823
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-157899(P2014-157899)
(32)【優先日】2014年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507349237
【氏名又は名称】鈴木住電ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】金安 光敏
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】菅野 史人
(72)【発明者】
【氏名】榎田 裕行
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−224366(JP,A)
【文献】 特開2014−055343(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/087978(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00− 9/44
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.08%以下、Si:0.3%〜2.0%、Mn:3.0%以下、Ni:8.0%〜10.5%、Cr:16.0%〜22.0%、Mo:0.5%〜3.0%、N:0.15%〜0.23%を含み、残部がFe及び不純物からなる鋼線に対して、下記式(1)を満たす加工度εで伸線加工を施す工程と、
前記伸線加工を施した鋼線を成形し、コイル状の鋼線を得る工程と、
前記コイル状の鋼線に対して、温度500℃〜600℃、及び時間20分〜40分の条件で熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施されたコイル状の鋼線に対して、窒化処理を施し、前記コイル状の鋼線の表面に厚さ40μm〜60μmの窒化層を形成する工程と、
前記窒化処理が施されたコイル状の鋼線に対して、ショットピーニング処理を施す工程と、
前記ショットピーニング処理が施されたコイル状の鋼線に対して、熱処理を施す工程と、
を有するステンレス鋼ばねの製造方法。
式(1):
−0.79×Ln(d1)+2.36≦ε≦−0.79×Ln(d1)+2.66
但し、式(1)中、εは加工度=Ln(d)×2を示す。Lnは自然対数を示す。dはd0/d1を示す。d0は伸線処理前の鋼線の線径(mm)を示す。d1は伸線処理後の鋼線の線径(mm)を示す。
【請求項2】
前記ショットピーニング処理が、多段階のショットピーニング処理である請求項に記載のステンレス鋼ばねの製造方法。
【請求項3】
前記式(1)中のd1が2.00mm〜5.00mmである請求項又は請求項に記載のステンレス鋼ばねの製造方法。
【請求項4】
前記窒化層の厚さが、45μm〜58μmである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のステンレス鋼ばねの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼ばね、及びステンレス鋼ばねの製造方法に関する。特に、本発明は、例えば、ディーゼルエンジンの吸排気弁のリターン機構として用いられるバルブスプリング、及びディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプの昇圧ピストンのリターン機構として用いられるプランジャースプリング等に利用するステンレス鋼ばね、及びステンレス鋼ばねの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ディーゼルエンジンの吸排気弁のリターン機構として用いられるバルブスプリング、及び燃料噴射ポンプの昇圧ピストンのリターン機構として用いられるプランジャースプリング等には、疲労強度の高い鋼ばねが要求されている。
【0003】
この疲労強度の高い鋼ばねを実現するために、線材として、シリコンクロム鋼オイルテンパー線(SWOSC−V)が多く用いられている。このシリコンクロム鋼オイルテンパー線(SWOSC−V)は、鋼製の材料であり、耐食性が高くない。このため、例えば、吸排気弁のバルブスプリング等のように、硫黄成分が混入している潤滑油で潤滑される腐食環境下で作動する鋼ばねは、潤滑油中の硫黄成分によって表面が腐食する場合がある。また、燃料噴射ポンプ用のプランジャースプリング等のように、排気ガスのクリーン化のために潤滑油ではなく燃料で潤滑される環境で作動する鋼ばねも、燃料中に含まれる水分によって表面が腐食する場合がある。
【0004】
この鋼ばねの腐食予防として、鋼ばねの表面全体に塗装を施すことが知られている。しかし、この塗装を施すと、コストアップになると共に、鋼ばねの作動中に剥離した塗料が潤滑油フィルター、又は燃料フィルター等の目詰りを引き起こす場合がある。
【0005】
これに対して、耐食性が高い線材として、ステンレス鋼線を用いた鋼ばねが知られている。しかし、ステンレス鋼線は、SWOSC−Vに比して疲労強度が低い。ステンレス鋼線を用いて、要求される鋼ばねの疲労強度を実現するためには、SWOSC−Vに比して大きいサイズのステンレス鋼線を用いなければならず、鋼ばねの重量及び大きさが増す。このため、ステンレス鋼線を用いた鋼ばねは、ディーゼルエンジン、又は燃料噴射ポンプ等のレイアウト上、成立し難いのが現状である。
【0006】
一方、疲労強度が高いステンレス鋼線として、SUS304にNとMoを添加して強度を高めた住友電工スチールワイヤー株式会社製の「Super Dolce」が知られている(文献1〜3参照)。
更に、このステンレス鋼線を用いて、高強度の鋼ばねを加工及び製造する技術としては、「ステンレス鋼線にばね加工を施してばね形状を形成する工程と、ばね形状のステンレス鋼線を425℃〜600℃の温度で焼鈍する工程、ばね形状のステンレス鋼線に窒化処理を施す工程、ばね形状のステンレス鋼線をショットピーニングする工程とを経て、高強度ステンレス鋼ばねを製造する方法(文献4参照)」がある。
【0007】
また、高強度のステンレス鋼線の製造方法としては、「重量%でC:0.04%以上を含有するオーステナイト系ステンレス鋼線材に加工温度150℃以下、加工度60%以上90%以下の伸線加工を行う第一の伸線加工工程と、前記加工された線材に600℃以上900℃以下の熱処理を行って、熱処理後のオーステナイト結晶粒の平均径を1μm以上3μm以下とする熱処理工程と、前記熱処理された線材に加工温度150℃以下、加工度50%以上の伸線加工を行って引張強度が1500N/mm以上の鋼線とする第二の伸線加工工程とを具えるステンレス鋼線の製造方法(文献6参照)」や、「所定の組成の鋼線を70〜400℃の温間域に加熱して合計減面率:40〜95%の伸線加工を施すステンレス鋼線の製造方法(文献7参照)」もある。
【0008】
また、高強度の鋼ばねを加工及び製造する技術としては、「ステンレス鋼線を冷間コイリング、低温焼鈍しをした後、ショットピーニングによる表面活性化処理およびガス窒化処理を行いその後ショットピーニングによる表層圧縮応力付与処理を実施する高疲労強度ステンレスばねの製造方法(文献8参照)」もある
【0009】
文献1:日本国特許3975019号明細書
文献2:日本国特許4080321号明細書
文献3:日本国特許4245457号明細書
文献4:日本国特開2007−224366号公報
文献6:日本国特開2003−231919号公報
文献7:日本国特許第4519513号明細書
文献8:日本国特開8−281363号公報
【発明の概要】
【0010】
しかし、これら強度を高めたステンレス鋼線を用いた鋼ばねも、SUS631J1WPCを用いた鋼ばねと同様に、疲労強度がSWOSC−Vを用いた鋼ばねに及んでいない。このため、ステンレス鋼線を用いた鋼ばねでは、ディーゼルエンジン、又は燃料噴射ポンプ等の軽量化及び小型化には限界があるのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、耐食性と共に、疲労強度に優れたステンレス鋼ばね、及びステンレス鋼ばねの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
<1>
質量%で、C:0.08%以下、Si:0.3%〜2.0%、Mn:3.0%以下、Ni:8.0%〜10.5%、Cr:16.0%〜22.0%、Mo:0.5%〜3.0%、N:0.15%〜0.23%を含み、残部がFe及び不純物からなる鋼線に対して、下記式(1)を満たす加工度εで伸線加工を施す工程と、
前記伸線加工を施した鋼線を成形し、コイル状の鋼線を得る工程と、
前記コイル状の鋼線に対して、温度500℃〜600℃、及び時間20分〜40分の条件で熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施されたコイル状の鋼線に対して、窒化処理を施し、前記コイル状の鋼線の表面に厚さ40μm〜60μmの窒化層を形成する工程と、
前記窒化処理が施されたコイル状の鋼線に対して、ショットピーニング処理を施す工程と、
前記ショットピーニング処理が施されたコイル状の鋼線に対して、熱処理を施す工程と、
を経て得られたステンレス鋼ばね。
式(1):
−0.79×Ln(d1)+2.36≦ε≦−0.79×Ln(d1)+2.66
但し、式(1)中、εは加工度=Ln(d)×2を示す。Lnは自然対数を示す。dはd0/d1を示す。d0は伸線処理前の鋼線の線径を示す。d1は伸線処理後の鋼線の線径を示す。
【0014】
<2>
前記ショットピーニング処理が、多段階のショットピーニング処理である<1>に記載のステンレス鋼ばね。
【0015】
<3>
前記式(1)中のd1が2.00mm〜5.00mmである<1>又は<2>に記載のステンレス鋼ばね。
【0016】
<4>
質量%で、C:0.08%以下、Si:0.3%〜2.0%、Mn:3.0%以下、Ni:8.0%〜10.5%、Cr:16.0%〜22.0%、Mo:0.5%〜3.0%、N:0.15%〜0.23%を含み、残部がFe及び不純物からなる鋼線に対して、下記式(1)を満たす加工度εで伸線加工を施す工程と、
前記伸線加工を施した鋼線を成形し、コイル状の鋼線を得る工程と、
前記コイル状の鋼線に対して、温度500℃〜600℃、及び時間20分〜40分の条件で熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施されたコイル状の鋼線に対して、窒化処理を施し、前記コイル状の鋼線の表面に厚さ40μm〜60μmの窒化層を形成する工程と、
前記窒化処理が施されたコイル状の鋼線に対して、ショットピーニング処理を施す工程と、
前記ショットピーニング処理が施されたコイル状の鋼線に対して、熱処理を施す工程と、
を有するステンレス鋼ばねの製造方法。
式(1):
−0.79×Ln(d1)+2.36≦ε≦−0.79×Ln(d1)+2.66
但し、式(1)中、εは加工度=Ln(d)×2を示す。Lnは自然対数を示す。dはd0/d1を示す。d0は伸線処理前の鋼線の線径を示す。d1は伸線処理後の鋼線の線径を示す。
【0017】
<5>
前記ショットピーニング処理が、多段階のショットピーニング処理である<4>に記載のステンレス鋼ばねの製造方法。
【0018】
<6>
前記式(1)中のd1が2.00mm〜5.00mmである<4>又は<5>に記載のステンレス鋼ばねの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐食性と共に、疲労強度に優れたステンレス鋼ばね、及びステンレス鋼ばねの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の繰り返し回数(耐久回数)10回とした疲労試験の結果を示す図である。
図2】実施例1の繰り返し回数(耐久回数)10回とした疲労試験の結果を示す図である。
図3】実施例1の温間締付試験の結果を示す図である。
図4】実施例1の熱処理の温度と引張強さとの関係を示す図である。
図5】実施例2の疲労試験の結果を示す図である。
図6】実施例3の窒化層の厚みと表面硬度との関係を示す図である。
図7】実施例4の疲労試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のステンレス鋼ばねについて詳細に説明する。なお、本発明のステンレス鋼ばねの詳細な説明は、ステンレス鋼ばねの製造方法に基づいて説明する。
【0022】
本発明のステンレス鋼ばね(以下「鋼ばね」とも称する)の製造方法は、鋼線に対して伸線加工を施す工程(以下「伸線加工工程」と称する)と、伸線加工を施した鋼線を成形し、コイル状の鋼線を得る工程(以下「鋼線成形工程」と称する)と、コイル状の鋼線に対して熱処理を施す工程(以下「第1熱処理工程」と称する)と、熱処理が施されたコイル状の鋼線に対して窒化処理を施す工程(以下「窒化処理工程」と称する)と、窒化処理が施されたコイル状の鋼線に対してショットピーニング処理を施す工程(「ショットピーニング工程」と称する)と、ショットピーニング処理が施されたコイル状の鋼線に対して熱処理を施す工程(以下「第2熱処理工程」と称する)と、を有する。
【0023】
つまり、本発明の鋼ばねは、これら工程を経て得られた鋼ばねである。以下に詳述する各工程を経て得られた本発明の鋼ばねは、耐食性と共に、疲労強度に優れる。具体的には、例えば、本発明の鋼ばねは、耐食性と共に、SWOSC−Vを用いた鋼ばねと同等又はそれ以上の疲労強度に優れる。
また、本発明の鋼ばねは、優れた耐熱へたり特性を持ち、同一動作環境下でSWOSC−Vを用いた鋼ばねよりも荷重損失を抑えられる。
これにより、本発明の鋼ばねは、耐食性を有しつつ、軽量及び小型化が実現され、ディーゼルエンジン、又は燃料噴射ポンプ等の軽量化及び小型化に寄与することができる。
【0024】
以下、工程の詳細について説明する。
【0025】
(伸線加工工程)
伸線加工工程では、質量%で、C:0.08%以下、Si:0.3%〜2.0%、Mn:3.0%以下、Ni:8.0%〜10.5%、Cr:16.0%〜22.0%、Mo:0.5%〜3.0%、N:0.15%〜0.23%を含み、残部がFe及び不純物からなる鋼線に対して、下記式(1)を満たす加工度εで伸線加工を施す。
【0026】
ここで、伸線加工を施す鋼線は、SUS304の成分に、Mo、及びNを添加し、固溶強化を図ったステンレス鋼線である。以下、鋼線の構成元素の選定及び含有量を限定する理由を述べる。
【0027】
−C:0.08%以下−
Cは、結晶格子中に侵入型固溶し、歪を導入して強化する効果を有する。さらに、Cは、コットレル雰囲気を形成し、金属組織中の転位を固着させ、強度を向上させる効果がある。一方で、Cは、鋼中のCr等と結合し、炭化物を形成する傾向がある。例えば、Cr炭化物が結晶粒界に存在すると、オーステナイト中のCrの拡散速度が低いため、粒界周辺にCr欠乏層が生じ、靭性および耐食性の低下が起こる傾向がある。
そこで、靭性および耐食性の低下を抑制する点で、Cの含有量は0.08質量%以下とする。また、靭性および耐食性の低下の抑制と共に、強度向上の点から、Cの含有量は、0.04質量%〜0.08質量%が好ましい。
【0028】
−Si:0.3%〜2.0%−
Siは、固溶することで積層欠陥エネルギーを下げ、機械的特性を向上させる効果を有する。また、Siは、溶解精錬時の脱酸剤としても有効である。通常のオーステナイト系ステンレスには、Siは0.6質量%〜0.7質量%程度で含有する。一方で、Siを多量に含有すると、靭性が劣化する傾向がある。
そこで、靱性の低下の抑制、及び固溶強化による機械的特性を得る点から、Siの含有量は0.3質量%〜2.0質量%とし、0.9質量%〜1.3質量%がより好ましい。
【0029】
−Mn:3.0%以下−
Mnは、溶解精錬時の脱酸剤として機能する。また、Mnは、オーステナイト系ステンレスのγ相(オーステナイト)の相安定にも有効で、高価なNiの代替元素となりうる。また、Mnは、オーステナイト中へのNの固溶限を上げる効果も持つ。一方で、Mnを多量に含有すると、高温での耐酸化性には悪影響を及ぼす傾向がある。
そこで、耐酸化性の点から、Mnの含有量は3.0質量%以下とする。また、γ相(オーステナイト)の相安定性に加え、Nの固溶限を上げ、Nのミクロブローホールを低減する点から、Mnの含有量は、0.5質量%〜2.0質量%が好ましい。
【0030】
−Ni:8.0%〜10.5%−
Niは、γ相(オーステナイト)の安定化に有効である。一方で、Niを多量に含有すると、ブローホール発生の原因となる。
そこで、γ相(オーステナイト)の安定化、ブローホール抑制、及びコスト上昇抑制の点から、Niの含有量は、8.0質量%〜10.5質量%とする。また、同じ点から、Niの含有量は、8.0質量%〜10.0質量%がより好ましい。
なお、Niは、含有量が10.5質量%以下の場合、特に溶解鋳造工程でNを容易に固溶させることが可能になるので、Nの含有により、高価な元素であるNiの使用量を極力低減することはコスト的に大きなメリットがある。
【0031】
−Cr:16.0%〜22.0%−
Crは、オーステナイト系ステンレスの主要な構成元素であり、耐熱特性と耐酸化性を得るために有効な元素である。一方で、Crを多量に含有すると、靱性が劣化する傾向がある。
そこで、γ相(オーステナイト)の相安定性、耐熱特性、耐酸化性、及び靱性の点から、Crの含有量は16.0質量%〜22.0質量%とする。より好ましくは18.0質量%〜20.0質量%である。
【0032】
−Mo:0.5%〜3.0%−
Moは、γ相(オーステナイト)中に置換型固溶し、強度の向上と耐食性の確保に大きく寄与する。さらに、Moは、Nとクラスターを形成することで、高い強度上昇を得ることができる。一方で、Moを多量に含有すると、加工性の劣化が生じる傾向があり、原料コストも上昇する。
そこで、強度の向上、加工性、及び原料コストの点から、Moの含有量は0.5質量%〜3.0質量%とする。より好ましくは0.5質量%〜1.0質量%である。
【0033】
−N:0.15%〜0.23%−
Nは、Cと同様に、侵入型固溶強化元素であり、コットレル雰囲気形成元素でもある。また、鋼中のCr,Moとクラスターを形成することにより、強度を高める効果を有する。このクラスターによる強度向上効果は、時効により得られるものである。一方で、Nを多量に含有すると、溶解または鋳造時のブローホール発生の要因となる。この現象は、Cr,MnなどのNとの親和力が高い元素を添加することで固溶限を上げ、ある程度の抑制が可能であるが、過度に添加する場合、溶解時に温度などの雰囲気制御が必要となり、コスト増加を招く恐れがある。
そこで、Nの含有によるオーステナイト相の安定性、クラスターの形成による強度上昇、ブローホールの低減、及び溶解鋳造の難易度の点から、Nの含有量は0.15質量%〜0.23質量%とする。より好ましくは0.19質量%〜0.22質量%である。
【0034】
−不純物−
不純物は、Fe及び上記成分元素以外であって、意図せず鋼線の原料に含まれる元素、及び、意図せず鋼線の製造工程中で混入する元素である。
【0035】
なお、以上の元素で構成される鋼を溶製すると、鋼の金属組織はほぼオーステナイト単相となり、鋼線の表面には、主にCr酸化物を主成分とする不動態皮膜が形成される。この不動態皮膜は非常に薄く均一であり密な構造を有するため、鋼線の耐食性を発揮する上で非常に大きな役割を有する。また、この不動態被膜は、鋼線の美観性(金属光沢)を発揮する上でも非常に大きな役割を有する。
【0036】
次に、伸線加工について詳細に説明する。
伸線加工は、上記特定の組成の鋼線に対して、下記式(1)を満たす加工度εで施す。加工度εが下記式(1)を満たすように、上記特定の組成の鋼線に対して、伸線加工を施すと、鋼ばねの疲労強度が向上する。
【0037】
式(1):
−0.79×Ln(d1)+2.36≦ε≦−0.79×Ln(d1)+2.66

但し、式(1)中、εは加工度=Ln(d)×2を示す。Lnは自然対数を示す。dはd0/d1を示す。d0は伸線処理前の鋼線の線径を示す。d1は伸線処理後の鋼線の線径を示す。
【0038】
式(1)において、d1は、鋼ばねの疲労強度向上の点から、2.00mm〜5.00mmの範囲が好ましい。
なお、線径d0及び線径d1とは、鋼線の直径を示す。鋼線が真円以外の形状の場合、線径d0及び線径d1は、最大直径と最小直径との平均値を示す。
【0039】
伸線加工は、例えば、常温下で行う冷間伸線加工がよい。伸線加工は、例えば、ローラ、又はダイス等による伸線加工方法を利用してもよいが、精度の点から、ダイスによる伸線加工方法を利用することがよい。
【0040】
なお、伸線加工は、下記式(1)を満たす加工度εとなれば、1回でも、複数回行ってもよい。
【0041】
(鋼線成形工程)
鋼線成形工程は、伸線加工を施した鋼線を成形し、コイル状の鋼線を得る工程である。鋼線成形は、例えば、常温下で行う冷間成形がよい。鋼線成形は、例えば、ばね成形機(コイリングマシン)を用いる方法、芯金を用いる方法等を利用する。
【0042】
(第1熱処理工程)
第1熱処理工程は、コイル状の鋼線に対して、温度500℃〜600℃、及び時間20分〜40分の条件で熱処理を施す工程である。第1熱処理工程により、加工歪みの除去、及び時効硬化が進行し、鋼線の引張強さが高まり、鋼ばねの疲労強度が向上する。
【0043】
第1熱処理工程において、熱処理の温度は、十分な加工歪みの除去、及び十分な時効硬化を実現し、鋼ばねの疲労強度を向上する点から、500℃〜600℃の範囲とし、530℃〜570℃の範囲が好ましい。
熱処理の時間は、十分な加工歪みの除去、及び十分な時効硬化を実現し、鋼ばねの疲労強度を向上する点から、20分〜40分の範囲とし、30分〜40分の範囲が好ましい。
【0044】
なお、第1熱処理工程において、熱処理後は、例えば、コイル状の鋼線を自然冷却する。
【0045】
ここで、第1熱処理工程後、窒化処理工程前に、必要に応じて、座研磨工程を実施してもよい。座研磨工程は、コイル状の鋼線(ばね)の両端面をコイル状の鋼線(ばね)の軸芯に対して直角な平面になるように研削する工程である。
【0046】
(窒化処理工程)
窒化処理工程は、第1熱処理が施されたコイル状の鋼線に対して、窒化処理を施し、コイル状の鋼線の表面に厚さ40μm〜60μmの窒化層を形成する工程である。この窒化処理工程により、鋼ばねの疲労強度が向上する。また、鋼ばねの耐食性も向上する。
【0047】
窒化処理工程において、窒化層の厚さは、鋼ばねの耐食性及び疲労強度を向上する点から、40μm〜60μmの範囲とし、鋼ばねの耐食性を向上する点から、45μm〜55μmが好ましい。
なお、窒化層の厚さは、次に示す方法により測定する。コイル縦断面方向に水冷式精密カッターで切断、研摩樹脂に埋め込み鏡面研磨した上で、電子線プローブマイクロアナライザーを用いてEPMA(Electron Probe Microanalyzer)分析を行う。標準サンプルによる検量線法によるライン分析にて、窒素の拡散層の深さを測定する。
【0048】
窒化処理工程は、例えば、アンモニア等の窒素含有ガス雰囲気下で、温度400℃〜500℃、時間30分〜120分の条件で実施する。
【0049】
(ショットピーニング工程)
ショットピーニング工程は、窒化処理が施されたコイル状の鋼線に対して、ショットピーニング処理を施す工程である。ショットピーニング工程により、鋼線の表面に圧縮残留応力を付与し、鋼ばねの疲労強度が向上する。
【0050】
ショットピーニング工程は、例えば、カットワイヤ、スチールボール等の金属粒(ショット)を投射し、金属粒をコイル状の鋼線の表面に衝突させることにより実施する。ショットピーニング工程による圧縮残留応力の付与は、金属粒(ショット)の球相当径や投射速度、投射時間、及び多段階での投射方式で調整する。
【0051】
ショットピーニング工程では、鋼線の表面に圧縮残留応力を付与し、鋼ばねの疲労強度を向上する点から、多段階(好ましくは2段階〜3段階、より好ましくは3段階)のショットピーニング処理を実施することがよい。
多段階のショットピーニング処理は、鋼ばねの疲労強度を向上する点から、先の段階のショットピーニング処理よりも、後の段階のショットピーニング処理のアークハイト値が小さくなるように実施することがよい。
【0052】
なお、アークハイト値とは、試験片として、所定の形状に成形された特殊帯鋼からなる試験片に対して、ショットピーニング処理を施したとき、その試験片の反り量(単位mm)を測定した値である。アークハイト値の測定は、社団法人日本ばね工業界から発行された「ショットピーニング作業基準」に準じ、A片を用いて行う。
【0053】
多段階のショットピーニング処理を実施する場合、各段階のショットピーニング処理後に、熱処理を行ってよい。
【0054】
(第2熱処理工程)
第2熱処理工程は、ショットピーニング処理が施されたコイル状の鋼線に対して、熱処理を施す工程である。第2熱処理工程により、ショットピーニング処理による微細な加工歪みを除去し、鋼ばねの疲労強度が向上する。
【0055】
第2熱処理工程において、熱処理の温度は、十分な加工歪みの除去を実現し、鋼ばねの疲労強度を向上する点から、200℃〜250℃の範囲が好ましい。
熱処理の時間は、十分な加工歪みの除去を実現し、鋼ばねの疲労強度を向上する点から、10分〜20分の範囲が好ましい。
【0056】
なお、第2熱処理工程において、熱処理後は、例えば、コイル状の鋼線を自然冷却する。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
溶解鋳造、鍛造、及び熱間圧延、伸線、熱処理を経て得られ、線径7.0mmであり、表1に示す組成の鋼線No1に対して、次の処理を行って、鋼ばねNo1を作製した。
【0059】
【表1】
【0060】
まず、鋼線に対して、加工度ε=1.7でダイスによる伸線加工を施し、線径3.00mmの鋼線を得た。
次に、コイリングマシンにより、伸線加工を施した鋼線を冷間成形し、コイル状の鋼線を得た。
次に、コイル状の鋼線に対して、温度550℃、時間30分で熱処理を施した。その後、大気中で徐冷した。そして、コイル状の鋼線(ばね)の両端面をコイル状の鋼線(ばね)の軸芯に対して直角な平面になるように研削した。
次に、熱処理が施されたコイル状の鋼線に対して、アンモニアガス雰囲気下で、温度450℃、時間90分の条件で窒化処理を施し、コイル状の鋼線の表面に厚さ45μmの窒化層を形成した。
次に、窒化処理が施されたコイル状の鋼線に対して、表2に示す条件の3段階のショットピーニング処理を施した。
【0061】
【表2】
【0062】
次に、ショットピーニング処理が施されたコイル状の鋼線に対して、温度230℃、時間10分で熱処理を施した。
【0063】
以上の工程を経て、表3に示すばね諸元の鋼ばね(1−1)を得た。
【0064】
【表3】
【0065】
−疲労試験−
得られた鋼ばね(1−1)について、疲労試験機による疲労試験を実施した。疲労試験は、試験数を8個、平均応力τmを686MPaで一定とし、応力振幅τaを変えて実施した。なお、繰り返し回数(耐久回数)10回とした。そして、同様にして、SWOSC−Vで作製した、鋼ばね(1−1)と同じばね諸元の鋼ばねについても疲労試験を実施した。その結果を図1に示す。なお、図1中、鋼ばね(1−1)は「本発明」、SWOSC−Vで作製した鋼ばねは「SWOSC−V」と表記している。
図1に示す疲労試験の結果から、鋼ばね(1−1)[本発明]は、繰り返し回数(耐久回数)が10回まで未折損であるときの疲労限(応力振幅τa)は530MPaであった。つまり、繰り返し回数(耐久回数)10回の未折損応力振幅は、686±530MPaであった。そして、鋼ばね(1−1)[本発明]は、繰り返し回数(耐久回数)10回の未折損応力振幅がSWOSC−Vで作製した鋼ばね[比較例]と同程度、又はそれ以上であることがわかる。
【0066】
また、得られた鋼ばね(1−1)について、繰り返し回数(耐久回数)10回とした以外は、同じ条件で疲労試験を行った。その結果を図2に示す。なお、図2中、鋼ばね(1−1)は「本発明」と表記している。
図2に示す疲労試験の結果から、鋼ばね(1−1)[本発明]は、繰り返し回数(耐久回数)が5×10回まで未折損であるときの疲労限(応力振幅τa)は450MPaであった。
【0067】
以上から、本発明の鋼ばねは、繰り返し回数10回の未折損応力振幅=686±530MPa以上の疲労強度を持ち、SWOSC−Vで作製した鋼ばね[比較例]と同程度、又はそれ以上の疲労強度を持つことがわかる。
【0068】
−締付け試験−
得られた鋼ばね(1−1)について、温間締付け試験を実施し、試験後の残留せん断歪(荷重損失)を測定した。締付け試験は、120℃、48時間の条件で、締付け応力(最大せん断応力)を895MPa〜925MPaの間で、各試験毎に変動させて実施した。また、同様にして、SWOSC−Vで作製した鋼ばねについても、温間締付け試験を実施し、試験後の残留せん断歪γを測定した。その結果を図3に示す。なお、図3中、鋼ばね(1−1)は「本発明」、SWOSC−Vで作製した鋼ばねは「SWOSC−V」と表記している。
【0069】
図3の結果から、鋼ばね(1−1)[本発明]の残留せん断歪γ(へたり量)は、SWOSC−Vで作製した鋼ばね[比較例]の約1/2であり、優れた耐熱へたり性能を持つことがわかる。
【0070】
以上から、本発明の鋼ばねは、優れた耐熱へたり性能を持ち、同一作動環境ではSWOSC−Vで作製した鋼ばね[比較例]に比べ荷重損失が抑えられることがわかる。
【0071】
−引張強さ測定−
成形前の鋼線に対して、熱処理の時間を30分と一定とし、表4に示す温度(テンパー温度)に変更して熱処理を施し、熱処理鋼線(1−1)〜(1−6)を得た。そして、得られた熱処理鋼線(1−1)〜(1−6)について、引張強さを測定した。熱処理前の鋼線についても、引張強さを測定した。引張強さの測定に使用した試験片は、JIS Z 2201に規定する9A号試験片とし、試験方法は、JIS Z 2241によるものとした。但し、試験温度は20±5℃を標準とし、引張速度(平均応力増加率)は70N/mm・s以下として測定した。その結果を表4及び図4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
表4及び図4の結果から、熱処理の時間が30分で、熱処理の温度が500℃〜600℃の熱処理鋼線(1−4)〜(1−6)は、熱処理の温度が450℃以下の鋼線(1−1)〜(1−3)に比べ、疲労強度に相関関係がある引張強さが高まることがわかる。これにより、熱処理鋼線(1−4)〜(1−6)を用いた鋼ばねは、疲労強度が高まることがわかる。
【0074】
以上から、本発明の鋼ばねは、窒化処理前のコイル状の鋼線に対して、温度500℃〜600℃、及び時間20分〜40分の条件で熱処理を施すことにより、疲労強度が優れることがわかる。
【0075】
(実施例2)
表5に示す加工度εで伸線加工を実施した以外は、実施例1の鋼ばね(1−1)と同様にして、鋼ばね(2−1)〜(2−6)を作製した。
【0076】
作製した鋼ばね(2−1)〜(2−4)について、疲労試験機による疲労試験を実施した。疲労試験は、試験数を8個、試験応力を686±560MPa(平均応力=686MPa、応力振幅=560MPa)で実施した。なお、繰り返し回数(耐久回数)10回とした。その結果を図5に示す。
【0077】
作製した鋼ばね(2−5)〜(2〜6)についても、疲労試験機による同様の疲労試験を実施した。鋼ばね(2−1)〜(2−4)と共に、鋼ばね(2−5)〜(2〜6)の折損するまでの耐久回数(繰り返し回数)の結果を、表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
図5及び表5の結果から、式(1)を満たす加工度εで伸線加工を施し、伸線加工後の鋼線の線径を3.00mmとした鋼ばね(2−2)、(2−3)[本発明]は、式(1)を満たさない加工度εで伸線加工を施した鋼ばね(2−1)、(2−4)[比較例]に比べ、折損するまでの耐久回数(繰り返し回数)が高くなっていることがわかる。
また、式(1)を満たす加工度εで伸線加工を施し、伸線加工後の鋼線の線径を4.50mmとした鋼ばね(2−5)[本発明]も、式(1)を満たさない加工度εで伸線加工を施した鋼ばね(2−6)[比較例]に比べ、折損するまでの耐久回数(繰り返し回数)が高くなっていることがわかる。
【0080】
以上から、本発明の鋼ばねは、式(1)を満たす加工度εで伸線加工を施すことにより、疲労強度が優れることがわかる。
【0081】
(実施例3)
窒化処理の条件を変更し、表6に示す厚みの窒化層を形成した以外は、実施例1の鋼ばね(1−1)と同様にして、鋼ばね(3−1)〜(3−6)を作製した。但し、鋼ばね(3−1)は、窒化処理を実施せずに作製した。
【0082】
作製した鋼ばね(3−1)〜(3−6)について、表面硬さHv(ビッカース硬さHv)を測定した。表面硬さHvは、マイクロビッカース硬度計を使用して測定した。その結果を表6及び図6に示す。なお、
また、作製した鋼ばね(3−1)〜(3−6)について、塩水噴射試験を行った。塩水噴射試験では、濃度5質量%の塩水を噴射し、500時間の錆の発生状況を調べた。その結果を表6に示す。
【0083】
【表6】
【0084】
表6及び図6の結果から、窒化層の厚さが40μm以上の鋼ばね(3−3)〜(3−6)は、表面硬さの上昇していることがわかる。また、窒化層の厚さが40μm未満の鋼ばね(3−1)〜(3−2)は、表面硬さの上昇が認められないことがわかる。
一方で、窒化層の厚さがが60μmを超えた鋼ばね(3−6)は、錆が全周に発生しており、耐食性に劣ることがわかる。
【0085】
以上から、本発明の鋼ばねは、厚さ40μm〜60μmの窒化層を有することで、耐食性と共に、疲労強度も優れることがわかる。
【0086】
(実施例4)
窒化処理を実施せず、実施例1で示したショット1段階目及び2段階目のショットピーニング処理条件で、2段階のショットピーニング処理を施した以外は、実施例1の鋼ばね(1−1)と同様にして、鋼ばね(4−1)を作製した。
また、実施例1で示したショット1段階目及び2段階目のショットピーニング処理条件で、2段階のショットピーニング処理を施した以外は、実施例1の鋼ばね(1−1)と同様にして、鋼ばね(4−2)を作製した。
【0087】
作製した鋼ばね(4−1)〜(4−2)と共に、実施例1の鋼ばね(1−1)について、疲労試験機による疲労試験を実施した。疲労試験は、試験数を8個、試験応力を686±590MPa(平均応力=686MPa、応力振幅=590MPa)で実施した。なお、繰り返し回数(耐久回数)10回とした。その結果を図7に示す。
【0088】
図7の結果から、窒化処理を実施した後、2段階のショットピーニング処理を実施した鋼ばね(4−2)[本発明]は、窒化処理を実施せずに、2段階のショットピーニング処理を実施した鋼ばね(4−1)[比較例]に比べ、折損するまでの耐久回数(繰り返し回数)が高くなっていることがわかる。
更に、窒化処理を実施した後、3段階のショットピーニング処理を実施した鋼ばね(1−1)[本発明]は、窒化処理を実施した後、2段階のショットピーニング処理を実施した鋼ばね(4−2)[本発明]に比べ、折損するまでの耐久回数(繰り返し回数)が高くなっていることがわかる。
【0089】
以上から、本発明の鋼ばねは、窒化処理を施した後、ショットピーニング処理を施すことにより(つまり、窒化層を形成した後、ショットピーニング処理を施すことにより)、疲労強度が優れることがわかる。
特に、本発明の鋼ばねは、窒化処理を施した後、多段階のショットピーニング処理を施すことにより、疲労強度が更に高まることがわかる。
【0090】
なお、日本国特許出願第2014−157899号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7