特許第6572223号(P6572223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572223重水素低減水の製造方法、重水と軽水の分離方法、および重水素濃縮水の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572223
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】重水素低減水の製造方法、重水と軽水の分離方法、および重水素濃縮水の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 5/00 20060101AFI20190826BHJP
   B01D 59/26 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C01B5/00 Z
   B01D59/26
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-545601(P2016-545601)
(86)(22)【出願日】2015年8月27日
(86)【国際出願番号】JP2015074154
(87)【国際公開番号】WO2016031896
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2018年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-175354(P2014-175354)
(32)【優先日】2014年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514166746
【氏名又は名称】株式会社寿通商
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(74)【代理人】
【識別番号】100204308
【弁理士】
【氏名又は名称】土橋 順
(74)【代理人】
【識別番号】100098419
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 敬一
(74)【代理人】
【識別番号】100156649
【弁理士】
【氏名又は名称】野原 淳史
(74)【代理人】
【識別番号】100075199
【弁理士】
【氏名又は名称】土橋 皓
(72)【発明者】
【氏名】金子 克美
(72)【発明者】
【氏名】高城 壽雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 克之
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−128072(JP,A)
【文献】 特開昭53−034098(JP,A)
【文献】 特開平05−031331(JP,A)
【文献】 Chu XIAO-ZHONG,Dynamic experiments and model of hydrogen and deuterium separation with micropore molecular sieve Y at 77K,Chemical Engineering Journal,2009年,Vol. 152,P.428-433
【文献】 Stephen A. FITZGERALD,Highly Selective Quantum Sieving of D2 from H2 by a Metal-Organic Framework As Determined by Gas Manometry and infrared,J. Am. Chem. Soc.,2013年,Vol. 135,P. 9458-9464
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 5/00−5/02
B01D 59/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水から重水および半重水を除去し、重水素低減水を製造する方法であって、
所定の吸着材に対し、水蒸気を上記重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させ、上記吸着材に吸着しない水蒸気を回収する吸着工程を有し、
この吸着工程において上記水蒸気を供給する上記圧力は、上記吸着材における軽水の吸着等温線の傾きが最大となる圧力以下の低圧であることを特徴とする重水素低減水の製造方法。
【請求項2】
水から重水および半重水を除去し、重水素低減水を製造する方法であって、
水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から脱離した水蒸気を回収する脱離工程を有することを特徴とする重水素低減水の製造方法。
【請求項3】
水から重水および半重水を除去し、重水素低減水を製造する方法であって、
所定の吸着材に対し、水蒸気を供給して吸着させる工程と、
上記吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から脱離した水蒸気を回収する脱離工程とを少なくとも1回ずつ有することを特徴とする重水素低減水の製造方法。
【請求項4】
水から重水および半重水を除去し、重水素低減水を製造する方法であって、
第一吸着槽において水蒸気を吸着させた所定の第一吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記第一吸着材から脱離した水蒸気を回収するとともに、第二吸着槽において所定の第二吸着材に対し、上記第一吸着槽で回収した水蒸気を供給して吸着させる第一工程と、
上記第二吸着槽において上記水蒸気を吸着させた第二吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記第二吸着材から脱離した水蒸気を回収するとともに、上記第一吸着槽において上記第一吸着材に対し、上記第二吸着槽で回収した水蒸気を供給して吸着させる第二工程とを少なくとも1回ずつ有することを特徴とする重水素低減水の製造方法。
【請求項5】
上記吸着材が、水蒸気吸着等温線のIUPACの分類においてIV型またはV型に分類される材料から形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の重水素低減水の製造方法。
【請求項6】
水を、軽水と重水および半重水とに分離する方法であって、
所定の吸着材に対し、水蒸気を上記重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させる吸着工程を有し、
この吸着工程において上記水蒸気を供給する上記圧力は、上記吸着材における軽水の吸着等温線の傾きが最大となる圧力以下の低圧であることを特徴とする重水と軽水の分離方法。
【請求項7】
水を、軽水と重水および半重水とに分離する方法であって、
水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から水蒸気を脱離させることを特徴とする重水と軽水の分離方法。
【請求項8】
水から軽水を除去し、重水素濃縮水を製造する方法であって、
所定の吸着材に対し、水蒸気を重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させ、上記吸着材に吸着した水を回収する吸着工程を有し、
この吸着工程において上記水蒸気を供給する上記圧力は、上記吸着材における軽水の吸着等温線の傾きが最大となる圧力以下の低圧であることを特徴とする重水素濃縮水の製造方法。
【請求項9】
水から軽水を除去し、重水素濃縮水を製造する方法であって、
水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から水蒸気を脱離させる脱離工程の後、上記吸着材に残存する水を回収することを特徴とする重水素濃縮水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な水から重水または半重水の量を低減させた重水素低減水を製造する方法に関する。
また、本発明は、軽水から重水および半重水を分離する方法、および重水や半重水を多く含む重水素濃縮水を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な水には、HO(軽水)と、水素原子の同位体である重水素原子を含んだ水分子である、DO(重水)やDHO(半重水)とが混在している。自然界にある水に含まれる重水および半重水の濃度は、採取される場所によって差があるが、平地では約150ppm程度であり、そのほとんどは半重水である。
人体に含まれる重水および半重水の量は、例えば体重60kgの成人であれば体重の95ppmと微量である。
しかし、重水や半重水は、物質の溶解度、電気伝導度、電離度などの物性や反応速度が軽水とは異なるため、大量に摂取すると生体内反応に失調をきたし、また、純粋な重水中では生物は死滅する。そのため、飲用水等の重水素濃度が低いほど人体の健康にとって望ましいと言われ、検証が進められている。
重水や半重水をほとんど含まない重水素低減水は、日本では厚生労働省からは認可されていないものの、ハンガリーでは動物用の抗がん剤として認可されており、ガン患者等が飲用することも多い。
【0003】
一般的な水から重水素低減水を製造する方法として、従来の技術では、水素と重水素とのごくわずかな物理的性質の差を利用し、蒸留を繰り返す方法(特許文献1)や水電解法による方法(特許文献2)で重水素低減水を製造していた。
【0004】
しかし、重水素低減水を製造する従来の方法では、大型の設備や複雑な作業の繰り返しが必要であり、その製造コストは高かった。そのため、ガン患者や、各種効能を期待して飲用を望む者にとって、大きな経済負担となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−512338号公報
【特許文献2】特開2012−158499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、重水素低減水を容易かつ低コストで製造することを課題とする。
また、本発明は、重水や半重水を多く含む重水素濃縮水を容易かつ低コストで製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において、上記課題が解決される手段は以下の通りである。
第1の発明は、水から重水および半重水を除去し、重水素低減水を製造する方法であって、所定の吸着材に対し、水蒸気を上記重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させ、上記吸着材に吸着しない水蒸気を回収する吸着工程を有することを特徴とする。
なお、重水または半重水を多く含有する水を回収し利用する場合にも、上記方法を用いることができる。
【0008】
第2の発明は、水から重水および半重水を除去し、重水素低減水を製造する方法であって、水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から脱離した水蒸気を回収する脱離工程を有することを特徴とする。
なお、重水または半重水を多く含有する水を回収し利用する場合にも、上記方法を用いることができる。
【0009】
第3の発明は、水から重水および半重水を除去し、重水素低減水を製造する方法であって、所定の吸着材に対し、水蒸気を供給して吸着させる工程と、上記吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から脱離した水蒸気を回収する脱離工程とを少なくとも1回ずつ有することを特徴とする。
なお、重水または半重水を多く含有する水を回収し利用する場合にも、上記方法を用いることができる。
【0010】
第4の発明は、水から重水および半重水を除去し、重水素低減水を製造する方法であって、第一吸着槽において水蒸気を吸着させた所定の第一吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記第一吸着材から脱離した水蒸気を回収するとともに、第二吸着槽において所定の第二吸着材に対し、上記第一吸着槽で回収した水蒸気を供給して吸着させる第一工程と、上記第二吸着槽において上記水蒸気を吸着させた第二吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記第二吸着材から脱離した水蒸気を回収するとともに、上記第一吸着槽において上記第一吸着材に対し、上記第二吸着槽で回収した水蒸気を供給して吸着させる第二工程とを少なくとも1回ずつ有することを特徴とする。
なお、重水または半重水を多く含有する水を回収し利用する場合にも、上記方法を用いることができる。
【0011】
第5の発明は、上記吸着材が、水蒸気吸着等温線のIUPACの分類においてIV型またはV型に分類される材料から形成されることを特徴とする。
【0012】
第6の発明は、水を、軽水と重水および半重水とに分離する方法であって、所定の吸着材に対し、水蒸気を上記重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させることを特徴とする。
【0013】
第7の発明は、水を、軽水と重水および半重水とに分離する方法であって、水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から水蒸気を脱離させることを特徴とする。
【0014】
第8の発明は、水から軽水を除去し、重水素濃縮水を製造する方法であって、所定の吸着材に対し、水蒸気を重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させ、上記吸着材に吸着した水を回収する吸着工程を有することを特徴とする。
【0015】
第9の発明は、水から軽水を除去し、重水素濃縮水を製造する方法であって、水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から水蒸気を脱離させる脱離工程の後、上記吸着材に残存する水を回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、所定の吸着材に対し、水蒸気を上記重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させ、上記吸着材に吸着しない水蒸気を回収する吸着工程を有することにより、従来に比べて簡素な装置で、低コストかつ容易に重水素低減水を製造することができる。
また、吸着材に残留した水には、重水や半重水が濃縮されて多量に含まれているため、これを利用することもできる。
【0017】
第2の発明によれば、水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から脱離した水蒸気を回収する脱離工程を有することにより、従来に比べて簡素な装置で、低コストかつ容易に重水素低減水を製造することができる。
また、吸着材に残留した水には、重水や半重水が濃縮されて多量に含まれているため、これを利用することもできる。
【0018】
第3の発明によれば、所定の吸着材に対し、水蒸気を供給して吸着させる工程と、上記吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から脱離した水蒸気を回収する脱離工程とを少なくとも1回ずつ有することにより、吸着材に効率的に重水および半重水を吸着させて、低コストかつ容易に重水素低減水を製造することができる。
また、吸着材に残留した水には、重水や半重水が濃縮されて多量に含まれているため、これを利用することもできる。
【0019】
第4の発明によれば、第一吸着槽と第二吸着槽との一方で脱離工程を行うと同時に他方で水蒸気の吸着を行うことにより、第一吸着材および第二吸着材にきわめて効率的に重水および半重水を吸着させて、低コストかつ容易に重水素低減水を製造することができる。
また、第一吸着材および第二吸着材に残留した水には、重水や半重水が濃縮されて多量に含まれているため、これを利用することもできる。
【0020】
第5の発明によれば、上記吸着材が、水蒸気吸着等温線のIUPACの分類においてIV型またはV型に分類される材料から形成されることにより、容易に重水および半重水を分離して、重水素低減水を製造することができる。
【0021】
第6の発明によれば、所定の吸着材に対し、水蒸気を上記重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させることにより、従来に比べて簡素な装置で、低コストかつ容易に軽水から重水および半重水を分離することができる。
【0022】
第7の発明によれば、水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から水蒸気を脱離させることにより、従来に比べて簡素な装置で、低コストかつ容易に軽水から重水および半重水を分離することができる。
【0023】
第8の発明によれば、所定の吸着材に対し、水蒸気を重水および半重水が上記吸着材に吸着し軽水が吸着しにくい圧力で供給して重水および半重水を吸着させ、上記吸着材に吸着した水を回収する吸着工程を有することにより、従来に比べて簡素な装置で、低コストかつ容易に重水素濃縮水を製造することができる。
【0024】
第9の発明によれば、水蒸気を吸着させた所定の吸着材の周囲の気圧を軽水が脱離し重水および半重水が脱離しにくい範囲に保持し、上記吸着材から水蒸気を脱離させる脱離工程の後、上記吸着材に残存する水を回収することにより、従来に比べて簡素な装置で、低コストかつ容易に重水素濃縮水を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】重水、半重水、軽水の活性炭に対する25℃での水蒸気吸着等温線である。
図2】本発明の第一実施形態および第二実施形態にかかる分離装置を示す図である。
図3】同第一実施形態の他の分離装置を示す図である。
図4】同第三実施形態の分離装置を示す図である。
図5】同第四実施形態の分離装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る重水素低減水の製造方法について説明する。
本発明は、所定の吸着材に対して重水や半重水が軽水よりも吸着しやすく、脱離しにくいことを利用したものである。
【0027】
吸着材には、水蒸気に対し、IUPACの吸着等温線の分類においてIV型またはV型に分類される材料を用いることが好ましい。IV型またはV型の材料は、小さな圧力変化で吸着量が大きく変化するためである。
このような材料としては、活性炭、活性炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素系の吸着材や、シリカゲル、ゼオライトなどの無機多孔体などが例示できる。
この中では、AQSOA(登録商標)やALPO−5などのAlPO系ゼオライトの材料が吸着性能に優れ、活性炭が低コストである。
以下では、吸着材として活性炭を使用した例に基づいて説明する。
【0028】
図1は、吸着材を活性炭(株式会社アドール製活性炭素繊維「A−20」)とした場合の25℃での水蒸気吸着等温線を、重水、半重水、軽水に分けて示したグラフである。
図1に示すように、重水、半重水、軽水のいずれも、小さな圧力変化で活性炭への吸着量が大きく変化する。また、重水、半重水、軽水のいずれも活性炭への吸着時と脱離時とでヒステリシスを示す。
水蒸気圧を低圧から上昇させて水蒸気を活性炭に吸着させると、14〜17Torrで多量の重水が活性炭に吸着し、15〜18Torrで多量の半重水が活性炭に吸着し、16〜19Torrで多量の軽水が活性炭に吸着する。
また、活性炭に水蒸気を十分に吸着させた後、水蒸気圧を高圧から低下させて水蒸気を活性炭から脱離させると、14〜13Torrで多量の軽水が活性炭から脱離し、13〜12Torrで多量の半重水が活性炭から脱離し、12〜11Torrで多量の重水が活性炭から脱離する。
【0029】
<第一実施形態>
第一実施形態では、活性炭を用意し、重水や半重水が吸着して軽水が吸着しにくい圧力で水蒸気を供給することを特徴とする。
第一実施形態に用いる分離装置は、水を水蒸気にして供給する気化装置1を有する。
この気化装置1から延びる配管は、吸着槽2に接続されている。
吸着槽2の内部には活性炭からなる吸着材が配置されている。
【0030】
吸着槽2の下流側には、水蒸気を水に戻す液化装置3が設けられている。
吸着槽2と液化装置3とを接続する配管の途中には遮断弁4が設けられている。
吸着槽2と液化装置3とを接続する配管は途中で分岐し、遮断弁5を経由して水蒸気を排気することができる。
【0031】
図2の分離装置では、まず、気化装置1で水を気化させ、25℃、16Torrで水蒸気を吸着槽2に流すと、吸着材に対して重水は軽水の約5倍吸着する。そのため、水蒸気を供給し続けながら遮断弁4を開け、吸着せずに残った水蒸気を順次液化装置3で水に戻して回収することにより、重水素の濃度を低下させた重水素低減水を得ることができる。
吸着材への重水および半重水の吸着量が多くなったら、遮断弁4を閉じるとともに遮断弁5を開け、重水および半重水を吸着材から脱離させて排気する。
【0032】
また、図3に示すように、複数の吸着槽7,8を設けた分離装置を用いることもできる。
この分離装置では、気化装置6の下流に第一吸着槽7を設けるとともに、第一吸着槽7の下流に第二吸着槽8を設けている。
第一吸着槽7と第二吸着槽8とを接続する配管の途中には遮断弁10が設けられている。
また、第一吸着槽7と第二吸着槽8とを接続する配管は途中で分岐し、遮断弁11を経由して水蒸気を排気することができる。
第二吸着槽8と液化装置9とを接続する配管の途中には遮断弁12が設けられている。
また、第二吸着槽8と液化装置9とを接続する配管は途中で分岐し、遮断弁13を経由して水蒸気を排気することができる。
【0033】
図3の分離装置では、まず、気化装置6で水を気化させ、25℃、16Torrで水蒸気を第一吸着槽7に流すと、第一吸着材に対して重水は軽水の約5倍吸着する。
遮断弁10,12は予め開けておき、水蒸気が順次第一吸着槽7から第二吸着槽8に流れると、第二吸着材に対しても重水は軽水の約5倍吸着する。
そのため、水蒸気を供給し続けながら吸着せずに残った水蒸気を順次液化装置9で水に戻して回収することにより、重水素の濃度をさらに低下させた重水素低減水を得ることができる。
第一吸着材および第二吸着材への重水および半重水の吸着量が多くなったら、遮断弁10,12を閉じるとともに遮断弁11,13を開け、重水および半重水を第一吸着材および第二吸着材から脱離させて排気する。
【0034】
<第二実施形態>
第二実施形態では、水蒸気を十分に吸着させた活性炭を用意し、周囲の気圧を、軽水が脱離して重水および半重水が脱離しにくい圧力に保持することを特徴とする。
第二実施形態では、第一実施形態と同じく図2に記載した分離装置を用いる。
【0035】
第二実施形態では、まず、気化装置1で水を気化させて吸着槽2へ供給し、たとえば25℃で気圧を20Torr以上にして水蒸気を十分に吸着材に吸着させた後、13Torrまで低下させると、多量の軽水が脱離する。次いで、遮断弁4を開け、この脱離した水蒸気を液化装置3で水に戻して回収することにより、重水素の濃度を低下させた重水素低減水を得ることができる。
【0036】
図1の重水、半重水、軽水の吸着等温線は、脱離時の傾きが吸着時の傾きよりも急であり、小さな圧力変化で吸着量がより大きく変化するため、第二実施形態では、第一実施形態以上に重水素の濃度を低下させることが期待できる。
また、軽水の吸着・脱離速度は、重水および半重水よりも速い。したがって、第二実施形態において、13Torrに圧力を低下させた後、重水、半重水、軽水の脱離が均衡(飽和)状態になり安定する前に脱離した水蒸気を回収すると、一層重水素の濃度の低い重水素低減水を得ることができる。
【0037】
<第三実施形態>
第三実施形態は、第二実施形態の脱離工程を繰り返すことを特徴とする。
第三実施形態の分離装置は、水を水蒸気にして供給する気化装置14を有する。
この気化装置14から延びる配管は、吸着槽15に接続されている。
この配管の途中には、遮断弁22が設けられている。
【0038】
吸着槽15の内部には活性炭からなる吸着材が配置されている。
吸着槽15は所定の配管によって第一ガス槽16と接続され、この配管中にはポンプ17が配置されている。ポンプ17により、吸着槽15と第一ガス槽16との間で水蒸気を行き来させることができる。
【0039】
また、吸着槽15と第一ガス槽16とからそれぞれ下流側へ延びる配管には、それぞれ遮断弁23,24が設けられ、その下流で1本に合流して第二ガス槽18へと接続されている。
第二ガス槽18には、水蒸気中の重水、半重水、軽水の比率を分析する分析器19が併設されている。
第二ガス槽18の下流側には、水蒸気を水に戻す液化装置20が設けられている。
第二ガス槽18と液化装置20とを接続する配管は途中で分岐し、遮断弁25とポンプ21とを経由して水蒸気を排気することができる。
【0040】
第三実施形態では、まず、気化装置14から吸着槽15に水蒸気を25℃、20Torr以上で供給して、吸着材に水蒸気を飽和吸着させる。
次いで、吸着槽15内の水蒸気をポンプ17によって第一ガス槽16に供給し、吸着槽15を13〜14Torrまで減圧して、第二実施形態の脱離工程を行う。
その後、第一ガス槽16内の水蒸気をポンプ17によって吸着槽15へ戻し、20Torr以上に加圧して吸着材に飽和吸着させる。
以下、飽和吸着と脱離工程とを交互に繰り返した後、遮断弁23,24を開き、水蒸気を第二ガス槽18に供給して分析器19で分析する。
【0041】
分析器19で水蒸気中の重水および半重水の濃度を測定して、所望の濃度より高い場合には、水蒸気を吸着槽15に戻し、再び脱離工程を繰り返す。
重水および半重水の濃度が所望の濃度以下であることが確認できたら、液化装置に供給し、水蒸気を液化することより、重水素低減水を得ることができる。
【0042】
その後、遮断弁23,24,25を開け、ポンプ21によって重水および半重水を吸着材から脱離させて排気する。
【0043】
このように第二実施形態の脱離工程を複数回繰り返すことにより、吸着材に吸着した水蒸気では重水および半重水の濃度が上昇し、回収される水蒸気では重水および半重水の濃度が低下していくため、より重水素の濃度の低い重水素低減水を得ることができる。
【0044】
<第四実施形態>
第四実施形態では、それぞれが吸着材を内蔵する2つの吸着槽27,28を有する分離装置を用いる。
この分離装置は、水を水蒸気にして供給する気化装置26を有する。
この気化装置26から延びる配管は、途中で2本に分岐して、それぞれ第一吸着槽27と第二吸着槽28とに接続されている。
配管の分岐点から第一吸着槽27または第二吸着槽28までの間には、それぞれ遮断弁34,35が設けられている。
【0045】
第一吸着槽27の内部には活性炭からなる第一吸着材が配置され、第二吸着槽28の内部にも活性炭からなる第二吸着材が配置されている。
第一吸着槽27と第二吸着槽28とは所定の配管で接続され、この配管中にはポンプ29が配置されている。このポンプ29により、第一吸着槽27と第二吸着槽28との間で水蒸気を行き来させることができる。
【0046】
また、第一吸着槽27と第二吸着槽28とからそれぞれ下流側へ延びる配管には、それぞれ遮断弁36,37が設けられ、その下流で1本に合流してガス槽30へと接続されている。
ガス槽30には水蒸気中の重水、半重水、軽水の比率を分析する分析器31が併設されている。
ガス槽30の下流側には、水蒸気を水に戻す液化装置32が設けられている。
ガス槽30と液化装置32とを接続する配管は途中で分離し、遮断弁38とポンプ33とを経由して水蒸気を排気することができる。
【0047】
この分離装置で重水素低減水を製造するには、まず、遮断弁34を開け、気化装置26から第一吸着槽27に水蒸気を25℃、20Torr以上で供給して、第一吸着材に水蒸気を飽和吸着させる。
【0048】
次いで、第一吸着槽27内の水蒸気をポンプ29によって第二吸着槽28へ供給し、第一吸着槽27を13〜14Torrまで減圧して、第二実施形態の脱離工程を行う。これと同時に、第二吸着槽28の水蒸気を20Torr以上に加圧して、飽和吸着を行う(第一工程)。
【0049】
次いで、第二吸着槽28内の水蒸気をポンプ29によって第一吸着槽27へ供給し、第二吸着槽28を13〜14Torrまで減圧して、第二実施形態の脱離工程を行う。これと同時に、第一吸着槽27の水蒸気を20Torr以上に加圧して、飽和吸着を行う(第二工程)。
【0050】
第一工程と第二工程とを交互に複数回繰り返した後、遮断弁36,37を解放して回収した水蒸気をガス槽30に導出する。
分析器31で水蒸気中の重水および半重水の濃度を測定して、所望の濃度より高い場合には、水蒸気を第一吸着槽27および第二吸着槽28に戻し、再び第一工程と第二工程とを繰り返す。
重水および半重水の濃度が所望の濃度以下であることが確認できたら、水蒸気を液化装置32に供給し、水蒸気を液化することより、重水素低減水を得ることができる。
【0051】
その後、遮断弁36,37,38を開放し、ポンプ33によって第一吸着材および第二吸着材に吸着した水蒸気を脱離させて排気する。
【0052】
第四実施形態では、第一吸着槽27と第二吸着槽28との間で水蒸気を行き来させることにより、一方で脱離工程を行うと同時に他方で飽和吸着を行うことができ、効率的に水蒸気中の重水および半重水を低減させ、容易に重水素低減水を製造することができる。
また、ガス槽30に併設された分析器31で水蒸気中の重水および半重水の濃度を測定して、所望の濃度より高い場合には、水蒸気を第一吸着槽27および第二吸着槽28に戻すことが可能であり、重水および半重水を十分に低減させた水蒸気を液化した重水素低減水を製造することができる。
【0053】
なお、第一実施形態から第四実施形態では、吸着材に残留した重水や半重水を多量に含む水を廃棄しているが、これを回収して、重水や半重水が必要とされる用途に用いることもできる。
【符号の説明】
【0054】
1,6,14,26 気化装置
2,7,8,15,27,28 吸着槽
3,9,20,32 液化装置
17,21,29,33 ポンプ
16,18,30 ガス槽
19,31 分析器
4,5,10,11,12,13,22,23,24,25,34,35,36,37,38 遮断弁
図1
図2
図3
図4
図5