特許第6572227号(P6572227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572227
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】低温硬化重合開始剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/40 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
   C08F4/40
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-553644(P2016-553644)
(86)(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公表番号】特表2017-506689(P2017-506689A)
(43)【公表日】2017年3月9日
(86)【国際出願番号】US2015016780
(87)【国際公開番号】WO2015130565
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2017年12月8日
(31)【優先権主張番号】14/194,053
(32)【優先日】2014年2月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513284830
【氏名又は名称】エランタス ピー・ディー・ジー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ELANTAS PDG, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ジェー マレー
(72)【発明者】
【氏名】ヘータ エス ラヴァル
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−521772(JP,A)
【文献】 特表2014−515768(JP,A)
【文献】 特開昭58−117201(JP,A)
【文献】 特開昭56−135518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ピナコール化合物と、(ii)金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物と、(iii)有機ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物とを含み、
前記ピナコール化合物は、下記一般式
【化1】
(式中、RおよびRは、同一であるかまたは異なる、置換または未置換の芳香族基であり;RおよびRは、同一であるかまたは異なる、置換または未置換の芳香族基であり;XおよびYは、同一であるかまたは異なる、水酸基、アルコキシ基、または、アリールオキシ基である)を有する、重合開始剤システム。
【請求項2】
〜Rが、未置換の芳香族基であり、XおよびYが、両方とも水酸基である、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項3】
前記未置換の芳香族基が、フェニル基である、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項4】
前記金属−有機チタン化合物が、テトラブチルチタネート、テトラt−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−プロピルチタネート、クロロトリブチルチタネート、ジクロロジブチルチタネート、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、シクロペンタジエニルチタントリクロリド、チタンテトラクロリド、チタンテトラブロミド、チタノセンジクロリド、アルキル置換チタノセンジクロリド、アルキル置換シクロペンタジエニルチタントリメトキシド、チタントリイソステアロイルイソプロポキシド、チタンテトラキス(ビス2,2−(アリルオキシ−メチル)ブトキシド、チタントリアクリレートメトキシエトキシエトキシド、クレシルチタネート、フェニルチタントリイソプロポキシド、および、チタン3,6−ジオキサヘプタノエートからなる群から選択されるチタネートである、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項5】
前記金属−有機ジルコニウム化合物が、テトラブチルジルコネート、テトライソプロピルジルコネート、テトラn−プロピルジルコネート、ジルコニウムジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、ジルコニウム(テトラ−2,4−ペンタンジオネート)、ジルコニウムジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、シクロペンタジエニルジルコニウムトリクロリド、ジルコニウムテトラクロリド、ジルコニウムテトラブロミド、ジルコノセンジクロリド、アルキル置換ジルコノセンジクロリド、および、アルキル置換シクロペンタジエニルジルコノセントリメトキシドからなる群から選択されるジルコネートである、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項6】
前記有機ペルオキシド化合物が、ヒドロペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシケタール、ジアルキルペルオキシド、環状ペルオキシド、および、それらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項7】
(i)前記ヒドロペルオキシドが、t−ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、および、それらの混合物からなる群から選択され、(ii)前記ペルオキシエステルが、t−ブチルペルオキシネオデカネート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、および、それらの混合物からなる群から選択され、(iii)前記ジアルキルペルオキシドが、ジクミルペルオキシド、2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、および、それらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項8】
前記ジアゾ化合物が、2,2’−アゾジ(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾジ(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾジ(ヘキサヒドロベンゾニトリル)、および、それらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項9】
(i)前記ピナコール化合物と前記金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物との反応生成物と、(ii)前記有機ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物とを含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の重合開始剤システム。
【請求項10】
前記ピナコール化合物と前記金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物との反応生成物が、下記一般式
【化2】
(式中、Mはチタンおよびジルコニウムから選択される金属であり;RおよびR’は有機部分を含む)を含む、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項11】
前記ピナコール化合物と前記金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物との反応生成物が、下記一般式
【化3】
(式中、Mはチタンおよびジルコニウムから選択される金属であり;RおよびR’は有機部分を含む)を含む、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項12】
前記重合開始剤が、下記化学構造
【化4】
のベンゾピナコールのチタンアルコキシドを含む、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項13】
前記重合開始剤が、下記化学構造
【化5】
のベンゾピナコールのジルコニウムアルコキシドを含む、請求項に記載の重合開始剤システム。
【請求項14】
(A)(i)ピナコール化合物と、(ii)金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物と、(iii)有機ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物との混合物、または、(B)(i)ピナコール化合物と金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物との反応生成物と、(ii)有機ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物との混合物を含む重合開始剤組成物を、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に添加するステップと;
前記反応性モノマーおよび/または前記不飽和ポリマーを90℃以下で重合するステップと、を含み、
前記ピナコール化合物は、下記一般式
【化6】
(式中、RおよびRは、同一であるかまたは異なる、置換または未置換の芳香族基であり;RおよびRは、同一であるかまたは異なる、置換または未置換の芳香族基であり;XおよびYは、同一であるかまたは異なる、水酸基、アルコキシ基、または、アリールオキシ基である)を有する、重合方法。
【請求項15】
前記金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物を、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に添加して第1の混合物を調製するステップと;
前記ピナコール化合物と前記有機ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物とを、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に添加して第2の混合物を調製するステップと;
前記第1の混合物と前記第2の混合物とを組み合わせるステップと;
前記組み合わされた第1の混合物および第2の混合物に存在する前記反応性モノマーおよび/または前記不飽和ポリマーを90℃以下で重合するステップと、を含む、請求項14に記載の重合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反応性モノマーおよび不飽和ポリマーのための重合開始剤に関する。特に、本開示は、不飽和ポリマーおよび/またはモノマーの25℃という低温での硬化に、第4族遷移金属と組み合わせて使用可能な、ピナコールとペルオキシド化合物またはジアゾ化合物との混合物に基づく重合開始剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ペルオキシドは、不飽和ポリエステル樹脂を重合するための業界標準である。ペルオキシドの構造に応じて、室温から180℃の高温の範囲で硬化を行うことができる。低温(120℃未満)で硬化することがほぼ一様に望まれている。明らかに省エネとなることに加えて、硬化対象の物品の温度を上げる必要が無いため、スループットを大幅に上昇させることができるからである。他の低温硬化開始剤システムにはジアゾ化合物も含まれ得る。低温硬化用のペルオキシド化合物またはジアゾ化合物の欠点は、ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物の安定性である。ペルオキシドの多くは、低温保存しなければならず、また、冷蔵条件で出荷しなければならない。ペルオキシドの熱に対する不安定性および取り扱いは、当該物質を使用する従業員にとって危険であることがよく知られている。他の欠点は、低温硬化ペルオキシドでは、触媒された物質の可使時間が短くなり得ることである。
【0003】
また、促進剤をペルオキシドと組み合わせて使用して硬化温度を下げることができる。コバルト、鉄、マンガンの誘導体などの促進剤を使用して低温硬化を促進することが一般的である。また、ペルオキシドの分解を促進し硬化に必要な高いラジカルフラックスを得るために、アミン、アセトアセテート、アミドがコバルトなどの金属と組み合わせて使用され得る。
【0004】
好適なラジカル重合開始剤として、ベンゾピナコールがしばらく前から知られている。しかしながら、その反応性や最終生成物の性質は、ペルオキシド系ラジカル重合開始剤と比較して、余分な調製費用が克服できる程には十分ではない。反応性および溶解性を改善するために、ベンゾピナコールのカリウム塩およびナトリウム塩をジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、または、ポリオルガノシラン/シロキサン材料と反応させることが行われている。これらの生成物の商業的成功は限定的であるが、不飽和ポリマーの硬化温度を大幅に低下させることは示されていない。
【0005】
ポリウレタン誘導体化ベンゾピナコール開始剤が知られており、「生きた」触媒として振る舞うことが報告された。反応性もベンゾピナコール自身と類似している。同様の研究が、フェニルイソシアネートなどの単官能イソシアネートを使用して、Chenらにより示されている(非特許文献1)。これらの開始剤も「生きた」触媒であることが見出された。
【0006】
ベンゾピナコールのブロモアセチル誘導体が不飽和ポリエステル(UPE)システムを重合するための難燃性開始剤として知られている。さらに、UPEシステムのための難燃性開始剤としてベンゾピナコールのリンエーテルおよびシリルエーテルが報告されている。
【0007】
ヒドロペルオキシドの還元にTi(III)種を使用することが調査されている。例えば、TiClによるt−ブチルヒドロペルオキシドの還元を介したエーテルのラジカルアミノアルキル化が研究されている。また、不安定なTi(III)種のin situな発生が、Ti(IV)種の亜鉛金属またはマンガン金属による還元を介して触媒的に達成され得ることが示されている。しかしながら、本開示のようにTi(IV)のTi(III)への還元にピナコール化合物または任意の他の有機物質を使用することは当該技術分では知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】European Polymer Journal, 36 (2002) 1547-1554
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(i)ピナコール化合物と、(ii)第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物と、(iii)還元可能であり、かつ、重合開始可能なラジカルを発生可能な電子受容種とを含む重合開始剤システムが提供される。
【0010】
ある例示的な実施形態によれば、上記重合開始剤システムは、(i)ピナコール化合物と第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物との反応生成物と、(ii)還元可能であり、かつ、重合開始可能なラジカルを発生可能な電子受容種とを含む。
【0011】
さらに、(A)(i)ピナコール化合物と、(ii)第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物と、(iii)重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種との混合物、または、(B)(i)ピナコール化合物と第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物との反応生成物と、(ii)重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種との混合物を含む重合開始剤システムを、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に添加するステップと;上記反応性モノマーおよび/または上記不飽和ポリマーを重合するステップと、を含む重合方法が提供される。
【0012】
ある例示的な実施形態によれば、上記重合方法は、第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物を、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に添加して第1の混合物を調製するステップと;ピナコール化合物と、重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種とを、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に添加して第2の混合物を調製するステップと;上記第1の混合物と上記第2の混合物とを組み合わせるステップと;上記組み合わされた第1の混合物および第2の混合物に存在する上記反応性モノマーおよび/または上記不飽和ポリマーを重合するステップと、を含む。
【0013】
また、別々の第1の成分および第2の成分を含む重合反応のための2成分キットが提供される。ある実施形態によれば、上記キットは、ピナコールと第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物とを含む第1の成分と、重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種を含む第2の成分とを含む。他の例示的な実施形態によれば、上記キットは、ピナコールと重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種とを含む第1の成分と、第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物を含む第2の成分とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来の促進剤または不安定なペルオキシドを使用せずに不飽和システムの低温硬化を可能とする重合開始剤システムが開示される。本願明細書において、「低温硬化」は、ポリマーを120℃未満で硬化させることをいう。ある実施形態によれば、「低温硬化」は、ポリマーを90℃以下で硬化させることをいう。ある実施形態によれば、「低温硬化」は、ポリマーを80℃以下で硬化させることをいう。ある実施形態によれば、「低温硬化」は、ポリマーを25℃で硬化させることをいう。25℃という低温であっても、完全に硬化した物品が得られる。本重合開始剤組成物を用いると、最終硬化製品において表面阻害や表面の粘着性(タック)が観察されない。また本重合開始剤システムを使用することにより、少量(通常、1〜3重量%)の危険なペルオキシドを樹脂材料に配合しなければならないペルオキシドシステムと比較して、混合比を任意の範囲とした2成分システムが可能となる。
【0015】
上記重合開始剤システムは、(i)ピナコール化合物と、(ii)第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物と、(iii)重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種とを含む。ある例示的な実施形態によれば、上記重合開始剤システムは、(i)ピナコール化合物と、(ii)第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物と、(iii)ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物とを含む。あるいは、他の例示的な実施形態によれば、上記重合開始剤システムは、(i)ピナコール化合物と第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物との反応生成物と、(ii)ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物とを含む。
【0016】
ある例示的な実施形態によれば、上記重合開始剤システムのピナコール化合物は、下記一般式を含む。
【化1】
(式中、RおよびRは、同一であるかまたは異なる、置換または未置換の芳香族基であり;RおよびRは、同一であるかまたは異なる、置換または未置換の脂肪族基または芳香族基であり;XおよびYは、同一であるかまたは異なり、水酸基、アルコキシ基、または、アリールオキシ基を含み得る)
【0017】
ある例示的な実施形態によれば、ピナコールは下記式を含む。
【化2】
(式中、R〜Rは、未置換の芳香族基であり;XおよびYは、同一であるかまたは異なり、水酸基、アルコキシ基、または、アリールオキシ基を含み得る)
【0018】
ある例示的な実施形態によれば、ピナコールは下記式のベンゾピナコールを含む。
【化3】
(式中、R〜Rは、未置換のフェニル基であり;XおよびYは、両方とも水酸基である)
【0019】
ある例示的な実施形態によれば、上記重合開始剤システムのピナコール化合物は、下記一般式のベンゾピナコールを含む。
【化4】
(式中、R〜Rは、同一であるかまたは異なる置換芳香族基であり;XおよびYは、同一であるかまたは異なり、水酸基、アルコキシ基、または、アリールオキシ基を含み得る)
【0020】
ある例示的な実施形態によれば、上記重合開始剤システムのピナコール化合物は、下記一般式のベンゾピナコールを含む。
【化5】
(式中、R〜Rは、それぞれ、置換フェニル基であり;XおよびYは、両方とも水酸基である)R〜Rのフェニル基の1つ以上が置換されている場合、この化合物はベンゾピナコール誘導体またはベンゾピナコールの誘導体と称され得る。
【0021】
本願明細書において、「第4族遷移金属」は、元素の周期表の第4族縦列に見出される任意の遷移金属をいう。疑義を回避するために、第4族遷移金属には、Ti、Zr、Hf、Rfが含まれる。
【0022】
本願明細書において、「ペルオキシド化合物」は、ペルオキシド基またはペルオキソ基としても知られているO−O基を含む任意の化合物をいう。
【0023】
本願明細書において、「ジアゾ化合物」は、末端官能基として2つの結合N原子を含む任意の有機化合物をいう。
【0024】
低温硬化を達成するために、ある実施形態よれば、上記方法は、スチレンまたは他の反応性モノマーを含む不飽和ポリエステル樹脂のための開始剤システムとして、ベンゾピナコール、ペルオキシド、および、金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物を利用する。上記方法で使用するラジカル重合開始剤は、樹脂を商品に硬化する際に、不安定なペルオキシドまたは促進剤を使用せずに低温硬化を可能とする。
【0025】
限定されずかつ例示のみを目的として、好適な金属−有機チタン化合物には、テトラブチルチタネート、テトラt−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−プロピルチタネート、クロロトリブチルチタネート、ジクロロジブチルチタネート、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)(Tyzor GBA)、チタンジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、シクロペンタジエニルチタントリクロリド、チタンテトラクロリド、チタンテトラブロミド、チタノセンジクロリド、アルキル置換チタノセンジクロリド、アルキル置換シクロペンタジエニルチタントリメトキシド、チタントリイソステアロイルイソプロポキシド、チタンテトラキス(ビス2,2−(アリルオキシ−メチル)ブトキシド、チタントリアクリレートメトキシエトキシエトキシド、クレシルチタネート、フェニルチタントリイソプロポキシド、チタン3,6−ジオキサヘプタノエートなどのチタネートが含まれる。チタン(III)化合物も使用され得るが、対応するチタン(IV)複合体よりも安定性が低い場合がある。
【0026】
限定されずかつ例示のみを目的として、好適な金属−有機ジルコニウム化合物には、テトラブチルジルコネート、テトライソプロピルジルコネート、テトラn−プロピルジルコネート、ジルコニウムジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、ジルコニウム(テトラ−2,4−ペンタンジオネート)、ジルコニウムジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、シクロペンタジエニルジルコニウムトリクロリド、ジルコニウムテトラクロリド、ジルコニウムテトラブロミド、ジルコノセンジクロリド、アルキル置換ジルコノセンジクロリド、アルキル置換シクロペンタジエニルジルコノセントリメトキシドなどのジルコネートが含まれ得る。ジルコニウム(III)も使用され得るが、対応するジルコニウム(IV)複合体よりも安定性が低い場合がある。
【0027】
上に開示したとおり、ある例示的な実施形態によれば、ピナコール化合物は、R〜Rのそれぞれがフェニル環であってX基およびY基が両方とも水酸基であるベンゾピナコールを含む。ある例示的な実施形態によれば、ベンゾピナコール分子上の1つ以上のフェニル環は置換され得る。例えば、限定されないが、ベンゾピナコール分子上の1つ以上のフェニル環は、ベンゾピナコールの誘導体を与える、アルキル置換基、アリール置換基、アルコキシ置換基、ハロゲン置換基を含み得る。
【0028】
重合開始剤システムとして、ベンゾピナコールのチタンアルコキシドがペルオキシド化合物またはジアゾ化合物と組み合わせて使用され得る。ベンゾピナコールのチタンアルコキシドは、ベンゾピナコールをテトラアルキルチタネートと反応させることにより調製され得る。テトラアルキルチタネートは不活性溶媒に溶解され得る。ある例示的な実施形態によれば、テトラアルキルチタネートまたは他の脱離基を有するチタネートは、テトラブチルチタネート、テトラt−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−プロピルチタネート、クロロトリブチルチタネート、ジクロロジブチルチタネート、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、シクロペンタジエニルチタントリクロリド、チタンテトラクロリド、チタンテトラブロミド、チタノセンジクロリド、チタントリイソステアロイルイソプロポキシド、チタンテトラキス(ビス2,2−(アリルオキシ−メチル)ブトキシド、チタントリアクリレートメトキシエトキシエトキシド、クレシルチタネート、フェニルチタントリイソプロポキシド、チタン3,6−ジオキサヘプタノエートを含み得る。テトラブチルチタネート(1モル)がトルエンなどの不活性溶媒に溶解され得る。ベンゾピナコールのチタンアルコキシドの調製方法に使用され得る溶媒または溶媒の組み合わせの種類は限定されず、非反応性である限り他の溶媒を使用してもよい。ベンゾピナコール(1モル)および他の単官能、二官能または三官能アルコール(ROH、0〜1モル)を溶解したテトラアルキルチタネートに添加する。得られた混合物を真空蒸留(ロータリーエバポレーターを使用)に供し、減圧下で溶媒を除去する。このプロセスは溶媒およびブチルアルコールが除去されるまで継続する。
【0029】
ある例示的な実施形態によれば、(i)ベンゾピナコールと第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物との反応生成物と、(ii)重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種(ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物など)との混合物を含む重合開始剤システムの調製方法は、ベンゾピナコールのチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドを調製するステップを含む。上記方法は、ベンゾピナコールまたはベンゾピナコールの誘導体を、揮発性リガンドを有する金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物、および、任意で不活性溶媒と反応させるステップを含む。
【0030】
ある例示的な実施形態によれば、ベンゾピナコールのチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドは下記一般式を含む。
【化6】
(式中、Mはチタンまたはジルコニウムを含み;RおよびRは同一でも異なってもよく、有機部分を含む)
【0031】
ある例示的な実施形態によれば、有機部分はアルキル基、アルコキシ基、または、アリール基を含み得る。
【0032】
ある例示的な実施形態によれば、ベンゾピナコールのチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドは下記一般式を含む。
【化7】
(式中、Mはチタンおよびジルコニウムから選択される金属を含み;RおよびR’は有機部分を含む)
【0033】
ある例示的な実施形態によれば、ベンゾピナコールのチタンアルコキシドの調製方法は下記一般反応スキームを含む。
【化8】
【0034】
ある例示的な実施形態によれば、ベンゾピナコールのジルコニウムアルコキシドの調製方法は下記一般反応スキームを含む。
【化9】
【0035】
ベンゾピナコールのチタンアルコキシド開始剤およびベンゾピナコールのジルコニウムアルコキシド開始剤の調製方法には、多様なポリオールを使用することができる。好適なポリオールには、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチルー1,3−プロパンジオールなどの一般的なジオール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコールエーテル;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールが含まれる。グリセロール、トリメチロールプロパン、それらのオキシアルキル化付加物などのトリオールおよびそれより多官能のポリオールを使用することもできる。好ましくは、ポリオールは脂肪族または脂環族であり、任意でC−O−C結合を含む。
【0036】
限定されずかつ例示のみを目的として、上記重合開始剤システムの好適なペルオキシド化合物には、ヒドロペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシケタール、ジアルキルペルオキシド、環状ペルオキシドが含まれ得る。ヒドロペルオキシドには、限定されないが、t−ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、テトラメチルブチルヒドロペルオキシドが含まれ得る。ペルオキシエステルには、限定されないが、t−ブチルペルオキシネオデカネート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(Akzo Nobel Polymer Chemicals LLC(シカゴ、イリノイ州)から、Trigonox 121の製品表示で市販)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン(Akzo Nobel Polymer Chemicals LLC(シカゴ、イリノイ州)から、Trigonox 141の製品表示で市販)が含まれ得る。ジアルキルペルオキシドには、限定されないが、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5)ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(Arkema Inc(フィラデルフィア、ペンシルベニア州)から、Luprox 101の製品表示で市販)が含まれ得る。
【0037】
1/2(0.1h)は、一般的に利用されているペルオキシドの安定性の尺度である。これは、50%のペルオキシドが0.1時間で分解する温度である。一般的に使用されているペルオキシドは、t1/2(0.1h)を50℃〜230℃の範囲で示す。100℃未満の硬化の場合、合理的な時間で十分に硬化させるために、典型的には、t1/2が120℃以下であるペルオキシドが使用される。
【0038】
限定されずかつ例示のみを目的として、上記重合開始剤システムの好適なジアゾ化合物には、2,2’−アゾジ(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾジ(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾジ(ヘキサヒドロベンゾニトリル)が含まれ得る。
【0039】
上記重合開始剤システムは、ベンゾピナコールなどのピナコールと;金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物などの第4族遷移金属含有化合物と;重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種(ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物など)とを含み得る。還元種とも称され得る上記重合開始剤システムの電子受容種は、第4族金属または第4族金属−化合物から電子を受容可能あるいは他の方法で入手することが可能であり、そのため、還元されて、反応性モノマーおよびUPE樹脂の重合を開始可能なラジカルを発生させる。例えば、金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物は、ベンゾピナコールおよびペルオキシドに対して触媒的に使用することができる。ベンゾピナコールは、金属−有機チタンまたは金属−有機ジルコニウム種で触媒されたホモリティックな結合開裂を低温で受ける。生じたラジカルから電子が1つ金属に移動して、当該金属をIV酸化数状態からIII酸化数状態に還元する。次いで、この金属は、ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物を、フリーラジカル重合を開始させるラジカル種に還元する。このスキームを下記に示す。
【化10】
【0040】
不飽和ポリエステル(UPE)樹脂をどのように合成することができるかは、よく知られている。反応の進行は、混合物の酸価を測定することにより追跡することができる。無水マレイン酸を含む不飽和2価酸と共にグリコールを添加し、混合物をスターリングなどの撹拌下で約355゜F〜約430゜Fに加熱する。また、ジシクロペンタジエンを、クラッキング(ディールス−アルダー様式)させながらまたは加水分解条件で添加し、ポリマーに添加してもよい。揮発物を蒸留などで除去し、次いで、混合物の酸価(ASTM D1639−90で測定)および粘度(ASTM D1545−89で測定)を所望するエンドポイントに達するまでモニターする。また、グリコールとの反応は、大豆油などのエチレン性不飽和結合を含むオイルの存在下で行うこともできる。反応混合液を冷却し、モノマーを添加して所望のUPE樹脂を得る。樹脂の保存安定性を長期化するために阻害剤をモノマーに添加することができる。
【0041】
UPE樹脂の調製に有用な不飽和カルボン酸および対応する無水物の例には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸が含まれる。さらに、他の酸、当該酸の無水物またはエステルを添加して化学組成を調整することができる。このような酸および無水物の非限定的な例には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、フタル酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、ジメチルテレフタレートなどが含まれる。例示的な実施形態ではマレイン酸およびマレイン酸無水物が使用されている。
【0042】
上記方法では、溶媒、異性化触媒、縮合触媒、促進剤などの不飽和ポリエステル樹脂の合成に一般的に使用されている他の材料を使用することができる。溶媒の非限定的な例は当該技術分野で一般的に知られているものであり、その例には、限定されないが、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、混合溶媒が含まれる。一般的に使用されている阻害剤には、ヒドロキノン、p−ベンゾキノン、ジ−t−ブチルヒドロキノン、t−ブチルカテコール、フェノチアジンなどが含まれる。縮合反応の促進に使用される触媒には、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、亜鉛の塩(アセテートなど)、有機スズ化合物(酸化ジブチルスズ)や、当業者に知られている他の物質が含まれる。異性化触媒には、モルフォリン、ピペリジンなどの有機アミンが含まれ得る。
【0043】
さらに、ピナコールと、第4族遷移金属、または、金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物などの第4族遷移金属含有化合物と、重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種(ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物など)とを含む重合開始剤組成物を、反応性モノマーに不飽和ポリマーと共にまたは不飽和ポリマーなしで添加するステップと;反応性システムを重合するステップとを含む重合方法が開示される。上記方法は、第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物を触媒的に使用してピナコールのホモリティックな結合開裂を発生させ、これにより、電子を1つ金属に移動させて当該金属をIV酸化数状態からIII酸化数状態に還元するラジカルを発生させ、その後、III酸化数状態の金属で電子受容種を還元して重合開始可能なラジカルを発生させるステップと;電子受容種の還元により発生したラジカルにより重合を開始するステップとを含む。
【0044】
ある例示的な実施形態によれば、上記重合方法は、(i)第4族遷移金属、または、金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物などの第4族遷移金属含有化合物と、(ii)ベンゾピナコールなどのピナコール化合物と、(iii)ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物とを、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に別々に添加して混合物を形成するステップと;上記混合物の上記反応性モノマーおよび/または不飽和ポリマーを重合するステップと、を含む。
【0045】
ある例示的な実施形態によれば、上記重合方法は、第4族遷移金属、または、金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物などの第4族遷移金属含有化合物を、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に添加して第1の混合物を作製するステップと;ベンゾピナコールなどのピナコール化合物とペルオキシド化合物またはジアゾ化合物とを、反応性モノマー、不飽和ポリマー、または、不飽和ポリマーと反応性モノマーとの混合物に添加して第2の混合物を調製するステップと;上記第1の混合物と上記第2の混合物とを組み合わせるステップと;上記組み合わされた第1の混合物および第2の混合物に存在する上記反応性モノマーおよび/または不飽和ポリマーを重合するステップと、を含む。
【0046】
本方法に使用され得る市販のUPE樹脂の好適な例には、Pedigree(R) 600 Styrene、Pedigree(R) 600 VT、Pedigree(R) 70 VTが含まれる。これらは全て触媒されていないが、TBPまたはジクミルペルオキシドなどの従来のペルオキシド系開始剤で硬化することができる。本開示は電気絶縁材料に使用されるUPE樹脂に限定されず、反応性モノマー(スチレン、ビニルトルエン、ジアリルフタレート、アクリレート、メタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アクリル化ビスフェノールA、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ビニルピロリドン、ジアリルマレート、ブチルビニルエーテルなど)を有するUPE樹脂を使用する、成形材料や他の全ての樹脂システムでも使用され得る。
【0047】
一般的に、不飽和ポリエステルの触媒方法は2つの手法により実施され得る。第1の方法では、第4族遷移金属、または、金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物などの第4族遷移金属含有化合物を樹脂に導入する。これは、限定されないが、混合ブレード、または、時間および温度による溶解のいずれかにより達成され得る。他より溶解し易くUPE樹脂への溶解に要するエネルギーが低い誘導体もあれば、溶解により多くのエネルギーを要する誘導体もある。ベンゾピナコールはUPE樹脂に混合下で添加される。ベンゾピナコールはまた、UPE樹脂溶液に添加する前に、他の液体に事前に溶解または分散させてもよい。最後に、ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物などの電子受容種(すなわち、還元種)を混合下で添加するか、必要に応じて他の溶媒に事前に溶解することができる。ある実施形態によれば、第4族遷移金属、または、金属−有機チタン化合物などの第4族遷移金属含有化合物は、UPE樹脂材料に約0.001重量%〜約10重量%の量で添加することができる。ある実施形態によれば、ベンゾピナコールは、UPE樹脂材料に約0.1%〜約10%の量で添加することができる。ある実施形態によれば、電子受容種(ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物)は、UPE樹脂材料に約0.1%〜約10%の量で添加することができる。代替的な実施形態では、上記開始剤システムの配合量は、UPE樹脂材料に対して約1%〜約4%の量である。
【0048】
第2の方法は、第4族遷移金属、または、金属−有機チタン化合物または金属−有機ジルコニウム化合物などの第4族遷移金属含有化合物を樹脂システムに混合して第1の混合物(Aパート)を調製し、ベンゾピナコール/ペルオキシド(またはジアゾ)を樹脂の別部分に混合して第2の混合物(Bパート)を調製する。AパートのBパートに対する比は、混合比が樹脂/モノマーに対して所望な開始剤パッケージ濃度をもたらすように、ベンゾピナコール/ペルオキシドおよび金属−有機チタン/ジルコニウム化合物の濃度により調整することができる。2パートシステムを使用する利点は、AパートおよびBパートの双方が良好な貯蔵安定性を示すことである。これは、反応性が高い公知のペルオキシド系システムでは安定である期間が短いため不可能である。2パートシステムについて、1:1に近づく混合比が使用され得る。ある実施形態によれば、金属−有機チタン化合物は、UPE樹脂材料に約0.001%〜約10%の量で添加することができる。ある実施形態によれば、ベンゾピナコールおよびペルオキシド(ジアゾ)はUPE樹脂材料に約0.1%〜約10%の量で添加することができる。
【0049】
チタノセンは、UV領域および可視光領域で光触媒活性を有することがよく知られている。かかる領域で光照射するとフリーラジカル重合が多少起こるが、商品の十分な硬化には十分ではない。ベンゾピナコールおよびペルオキシドにチタノセンを組み合わせて使用することは、二重硬化メカニズムの機会を付与する。多少のフリーラジカル重合をもたらす光活性化に続く熱により、最終硬化が推進する。
【0050】
また、ベンゾピナコールは、イソプロパノールの存在下でベンゾフェノンをUV光で励起することにより合成されることも当該技術分野でよく知られている。アセトンおよびベンゾピナコールが形成する。ベンゾフェノン、イソプロパノール、第4族遷移金属、および、ペルオキシド化合物またはジアゾ化合物が低温で硬化を開始する触媒システムでもこの方法が使用され得ることは自明である。この例では、ベンゾフェノンはUV光の存在下でカップリングしてベンゾピナコールを形成する。次いで、ベンゾピナコールはチタン(IV)種をチタン(III)に還元して、副生成物としてベンゾフェノンを形成する。チタン(III)はペルオキシドを還元して硬化を開始させ、そして、ベンゾフェノンはUV光により再びベンゾピナコールにリサイクルされる。
【0051】
下記実施例は、ベンゾピナコールのチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの例示的な実施形態の合成方法、および、重合開始剤システムの調製および使用方法を更に具体的に記載するために、ならびに、開始剤システムの例示的な調製方法および使用方法を説明するために記載するものである。下記実施例は、いかなる形でも、開始剤、開始剤の調製方法、および、重合反応における開始剤の使用方法を限定するものとして解釈してはならない。
【実施例】
【0052】
ベンゾピナコールのチタンアルコキシド開始剤の合成
テトラブチルチタネート0.053モル(18.02g)、ベンゾピナコール0.053モル(19.4g)、および、へキシレングリコール0.027モル(3.127g)を酢酸エチル250gおよびトルエン250gに溶解し、室温で約2時間混合した。黄褐色の液体に濃縮されるまで酢酸エチル、トルエン、および、発生したブタノールを50℃で真空蒸留(ロータリーエバポレーターを使用)により除去した。トルエン500gを添加し、ロータリーエバポレーター処理を繰り返した。トルエン500gを更に添加し、ロータリーエバポレーター処理を再度繰り返したところ、黄褐色の液体/ペースト状物質が得られ、40℃で乾燥して若干粘性のあるペーストにした。
【0053】
ベンゾピナコールのジルコニウムアルコキシド開始剤の合成
テトライソプロピルジルコネート0.053モル(17.3g)、ベンゾピナコール0.053モル(19.4g)、および、へキシレングリコール0.027モル(3.127g)を酢酸エチル250gおよびトルエン250gに溶解し、室温で約2時間混合した。透明な液体に濃縮されるまで酢酸エチル、トルエン、および、発生したi−プロパノールを50℃で真空蒸留(ロータリーエバポレーターを使用)により除去した。トルエン500gを添加し、ロータリーエバポレーター処理を繰り返した。トルエン500gを更に添加し、ロータリーエバポレーター処理を再度繰り返したところ、無色の固体が得られ、40℃で乾燥した。
【0054】
比較重合例1
コールズブレード(cowles blade)を使用して、ベンゾピナコールをPedigree 600Sに分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いで、得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは80℃で1時間後、未硬化であった。
【0055】
比較重合例2
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。次いで、得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは80℃で1時間後、未硬化であった。
【0056】
比較重合例3
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ベンゾピナコールをこの混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いで、得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、軟らかくかつ部分的に硬化しているのみであり、表面が非常に粘着質であった。
【0057】
比較重合例4
t−ブチルペルオキシベンゾエート(TBP)を、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。次いで、得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは80℃で1時間後、未硬化であった。
【0058】
比較重合例5
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、t−ブチルペルオキシベンゾエートを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いで、得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、未硬化であった。
【0059】
比較重合例6
テトラブチルチタネート(TNBT)を、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、t−ブチルペルオキシベンゾエートを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いで、得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、未硬化であった。
【0060】
比較重合例7
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いで、得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、軟らかくかつ部分的に硬化しているのみであり、表面が非常に粘着質であった。
【0061】
重合例1
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.50%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、t−ブチルペルオキシベンゾエートを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面に粘着性はなかった。
【0062】
重合例2
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、t−ブチルペルオキシベンゾエートを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を90℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表1に示す。このサンプルは、90℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(わずかに粘着性あり)。
【0063】
表1は、TBP(t1/2 142℃)のような熱的に安定なペルオキシエステル開始剤を使用して、ベンゾピナコールおよびチタンのような第4族遷移金属の存在下で、モノマーおよび不飽和ポリエステルを低温硬化することができることを実証している。Ti(IV)還元の触媒的なサイクルはベンゾピナコールによるTi(III)への還元により促進される。次いでこれが、TBPをフリーラジカル重合の促進に非常に効率的なペルオキシラジカルに還元する。これらの比較例は、TBP、ベンゾピナコールまたはチタン種を単独でまたは2種の混合物として使用することは、完全な低温硬化を促進しないことを実証している。ベンゾピナコールおよびチタンは低温硬化(DSC)を開始させるが、空気阻害および低反応エンタルピー(DSC)により完全な硬化が妨害される。
【0064】
【表1】
【0065】
重合例3
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を90℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表2に示す。このサンプルは、90℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0066】
重合例4
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで2%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を90℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表2に示す。このサンプルは、90℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0067】
重合例5
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に0.5%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を90℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表2に示す。このサンプルは、90℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(わずかに粘着性あり)。
【0068】
重合例6
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.1%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を90℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表2に示す。このサンプルは、90℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(わずかに粘着性あり)。
【0069】
重合例7
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.1%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで2%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を90℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表2に示す。このサンプルは、90℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(わずかに粘着性あり)。
【0070】
重合例8
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を90℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表2に示す。このサンプルは、90℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(わずかに粘着性あり)。
【0071】
表2に示す実施例3〜8は、ジクミルペルオキシド(t1/2 154℃)のような熱的に安定なジアルキルペルオキシド開始剤を使用して、ベンゾピナコールおよびチタンのような第4族遷移金属の存在下で、これらが触媒量であっても、モノマーおよび不飽和ポリエステルを低温硬化することができることを実証している。Ti(IV)還元の触媒的なサイクルはベンゾピナコールによるTi(III)への還元により促進される。次いでこれが、ジクミルペルオキシドをフリーラジカル重合の促進に非常に効率的なペルオキシラジカルに還元する。ベンゾピナコールは少量で使用することができるが(実施例5)、若干硬化が少ない物質が生じた。また、性質改善は観察されなかったものの、ペルオキシドの量をより多くすることもできる(実施例4および7)。
【0072】
【表2】
【0073】
比較重合例8
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いで、得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表3に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、未硬化であった。
【0074】
重合例9
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を80℃で1時間硬化させ、また、Q200 Modulated DSCで試験した。結果を表2に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0075】
重合例10
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に0.5%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表2に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0076】
重合例11
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.25%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表2に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0077】
重合例12
テトラブチルチタネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルヒドロペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表2に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0078】
重合例13
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルヒドロペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表2に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0079】
重合例14
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.25%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ジクミルヒドロペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。ベンゾピナコールをこの混合物に1.0%濃度で添加し、均質になるまで混合した。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表2に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0080】
表3に示す実施例9〜14は、ジクミルペルオキシド(t1/2 154℃)のような熱的に安定なジアルキルペルオキシド開始剤およびクメンヒドロペルオキシド(t1/2 195℃)のようなヒドロペルオキシドを使用して、ベンゾピナコールおよびチタンのような第4族遷移金属の存在下で、これらが触媒量であっても、モノマーおよび不飽和ポリエステルを低温硬化することができることを実証している。Ti(IV)還元の触媒的なサイクルはベンゾピナコールによるTi(III)への還元により促進される。次いでこれが、ジクミルペルオキシドまたはクミルヒドロペルオキシドをフリーラジカル重合の促進に非常に効率的なペルオキシラジカルに還元する。比較例8は、ベンゾピナコールが存在しないと、Ti(IV)がTi(III)に還元する触媒的なサイクルが崩壊し低温硬化が起こらないことを実証している。
【0081】
【表3】
【0082】
比較重合例9
Luprox 101を、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表4に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、未硬化であった。
【0083】
比較重合例10
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。次いで、コールズブレードを使用して、Luprox 101を、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表4に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、軟らかくかつ部分的に硬化しており、表面は粘着質であった。
【0084】
重合例15
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、Luprox 101を、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表4に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0085】
重合例16
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、Luprox 101を、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、分散液が得られるまでこの混合物に0.5%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表4に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0086】
表4に示す実施例15および16は、Luprox 101(t1/2 164℃)のようなもう一つの熱的に安定なジアルキルペルオキシド開始剤を使用して、ベンゾピナコールおよびチタンのような第4族遷移金属の存在下で、これらが触媒量であっても、モノマーおよび不飽和ポリエステルを低温硬化することができることを実証している。Ti(IV)還元の触媒的なサイクルはベンゾピナコールによるTi(III)への還元により促進される。次いでこれが、Luprox 101をフリーラジカル重合の促進に非常に効率的なペルオキシラジカルに還元する。比較例9および10は、ベンゾピナコールが存在しないと、Ti(IV)がTi(III)に還元する触媒的なサイクルが崩壊し低温硬化が起こらないことを再度実証している。
【0087】
【表4】
【0088】
重合例17
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、AIBNを、この混合物に分散液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。コールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、分散液が得られるまでこの混合物に1%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表5に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0089】
表5に示す実施例17は、AIBN(t1/2 101℃)のようなジアゾ開始剤を使用して、ベンゾピナコールおよびチタンのような第4族遷移金属の存在下で、モノマーおよび不飽和ポリエステルを低温硬化することができることを実証している。Ti(IV)還元の触媒的なサイクルはベンゾピナコールによるTi(III)への還元により促進される。次いでこれが、AIBNをフリーラジカル重合の促進に非常に効率的なアルキルラジカルに還元する。
【0090】
【表5】
【0091】
比較重合例11
アルミニウムアセチルアセトネートを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表6に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、未硬化であった。
【0092】
比較重合例12
ホウ酸トリイソプロピルを、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表6に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、未硬化であった。
【0093】
比較重合例13
【化11】
の構造を有するニッケル系開始剤(開始剤1)を、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ジクミルペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表6に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、未硬化であった。
【0094】
重合例18
【化12】
の構造を有するジルコニウム系開始剤(開始剤2)を、Pedigree 600Sに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ジクミルヒドロペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表6に示す。このサンプルは、80℃で1時間後、完全に硬化しており、表面は硬かった(粘着性なし)。
【0095】
表6に示す実施例10および18は、ジクミルペルオキシド(t1/2 154℃)のような熱的に安定なジアルキルペルオキシド開始剤およびクメンヒドロペルオキシド(t1/2 195℃)のようなヒドロペルオキシドを使用して、ベンゾピナコールならびにチタンまたはジルコニウムのような第4族遷移金属の存在下で、これらが触媒量であっても、モノマーおよび不飽和ポリエステルを低温硬化することができることを実証している。Ti(IV)またはZr(IV)還元の触媒的なサイクルはベンゾピナコールによるTi(III)またはZr(III)への還元により促進される。次いでこれが、Dicup(ジクミルペルオキシド)またはクミルヒドロペルオキシドをフリーラジカル重合の促進に非常に効率的なペルオキシラジカルに還元する。比較例11〜13は、非第4族金属は、ベンゾピナコールおよびペルオキシドと組み合わせて使用した場合に低温硬化を加速しないことを実証している。
【0096】
【表6】
【0097】
重合例19〜22
UPE 600Sを等重量となるように2つに分けた。コールズブレードを使用して、一方に、ベンゾピナコールおよびペルオキシドを、溶液が得られるまでそれぞれ1%濃度で混合した。他方にオルガノチタン(IV)種であるTyzor GBAを混合した。両者は何日も室温で安定であった。そして、両者を混合して室温(25℃)で硬化させた。結果を表7に示す。これらのサンプルは、25℃で3時間後、硬化し、表面および下面は硬かった。また実施例22では上面が乾燥していた。
【0098】
表7に示す実施例19〜22は、ジクミルペルオキシド(t1/2 154℃)のような熱的に安定なジアルキルペルオキシド開始剤およびt−ブチルヒドロペルオキシド(t1/2 207℃)のようなヒドロペルオキシドを使用して、ベンゾピナコールおよびTyzor GBAのような第4族遷移金属の存在下で、モノマーおよび不飽和ポリエステルを低温かつ短時間で硬化することができることを実証している。Tyzor GBAおよびチタノセンなどのチタネート種の組み合わせを使用することで、硬く硬化した物質だけでなく、乾燥した、粘着性のない表面を得ることができる。これらの実施例はまた、室温での硬化であっても、混合したときに高い反応性を示す2つの安定な溶液を使用することができることを実証している。
【0099】
【表7】
【0100】
比較重合例14および15
表8に示すペルオキシドを、Pedigree 70VTに均質な混合液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表8に示す。これらのサンプルは、80℃で1時間後、未硬化であった。
【0101】
重合例23〜27
チタノセンジクロリドを、Pedigree 70VTに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ペルオキシドを、この混合物に分散液が得られるまで1%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、この混合物に溶液が得られるまで1%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表8に示す。これらのサンプルは、80℃で1時間後、粘着性あり〜粘着性なしで完全に硬化した。
【0102】
表8に示す実施例23〜27は、ビニルトルエンモノマーもスチレンとまったく同様に低温硬化可能であることを実証している。比較例14および15は、ベンゾピナコールが存在しないと、Ti(IV)がTi(III)に還元する触媒的なサイクルが崩壊し低温硬化が起こらないことを再度実証している。
【0103】
【表8】
【0104】
重合例28〜32
チタノセンジクロリドを、Pedigree 600 Acrylateに均質な混合液が得られるまで0.5%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ペルオキシドを、この混合物に溶液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。次いでコールズブレードを使用して、ベンゾピナコールを、この混合物に溶液が得られるまで1.0%濃度でブレンドした。得られた物質を80℃で1時間硬化させた。結果を表9に示す。これらのサンプルは、80℃で1時間後、注釈を付けたものを除き、粘着性あり〜粘着性なしで完全に硬化した。ジクミルペルオキシドおよびLuperox 101はヒドロペルオキシドほどの効果はなかったものの、若干高温では硬化させた。
【0105】
表9に示す実施例28〜32は、アクリレートモノマーもスチレンとまったく同様に低温硬化可能であることを実証している。全てのペルオキシドが等価であるわけではないが、当業者は、使用するモノマーに関係なく所望の温度で硬化を行うために配合を最適化することができる。
【0106】
【表9】
【0107】
上記重合開始剤システムは、重合反応のための2成分キットとして提供され得る。この2成分キットは、別々の第1の成分および第2の成分を含む。ある実施形態によれば、上記キットは、ピナコール化合物と第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物との混合物またはブレンドを含む第1の成分と、重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種または化合物を含む第2の成分とを含む。他の例示的な実施形態によれば、上記キットは、ピナコールと重合開始可能なラジカルを発生させる電子受容種または化合物とを含む第1の成分と、第4族遷移金属または第4族遷移金属含有化合物を含む第2の成分とを含む。したがって、「キット」とは、別々に梱包された第1の成分および第2の成分の両方が1つのオーバーパック内に含まれている場合;別々に梱包された第1の成分および第2の成分が別々のパッケージに保持され、セットにされてキットとなっている場合;または、別々に梱包された第1の成分および第2の成分が別々のパッケージに保持され、オーバーパック容器内に含まれたり、セットにされていない成分のキットとして単に一緒に販売される場合、を包含する。
【0108】
以上、調製方法および使用方法を様々な例示的な実施形態に関連して説明したが、本願明細書に開示した機能を行うために、本願明細書から逸脱しない範囲で他の類似する実施形態を採用してもよいこと、また、上述の実施形態に変更および追加を行ってもよいことを理解されたい。また、様々な実施形態を組み合わせて所望の特性を得てもよいため、上述の実施形態は必ずしも選択的ではない。よって、上記調製および方法は如何なる単一の実施形態に限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきである。