特許第6572244号(P6572244)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572244
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】味覚マスキング薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/44 20170101AFI20190826BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20190826BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 31/427 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   A61K47/44
   A61K47/32
   A61K9/50
   A61K47/24
   A61K47/10
   A61K47/34
   A61K47/14
   A61K47/12
   A61K31/573
   A61K31/427
   A61K9/10
   A61K9/14
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-570935(P2016-570935)
(86)(22)【出願日】2015年2月25日
(65)【公表番号】特表2017-506268(P2017-506268A)
(43)【公表日】2017年3月2日
(86)【国際出願番号】US2015017485
(87)【国際公開番号】WO2015130760
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2018年2月26日
(31)【優先権主張番号】61/944,152
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516251679
【氏名又は名称】オービス バイオサイエンシズ, インク.
【氏名又は名称原語表記】ORBIS BIOSCIENCES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】ベークランド コリー
(72)【発明者】
【氏名】シン ミリンド
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−232789(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0141053(US,A1)
【文献】 国際公開第00/018372(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/024023(WO,A1)
【文献】 ACS Nano,2008年,Vol.2, No.8,pp.1696-1702
【文献】 IOSR Journal of Pharmacy,2012年11月,Vol.2, No.6,pp.34-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72
A61K47/00−47/69
A61K31/427
A61K31/573
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部分及びシェル部分を含むマイクロカプセルを含み、前記コア部分が、賦形剤中に非晶質分布している医薬品有効成分を含み、前記賦形剤がポリエチレングリコールであり、前記シェル部分が、脂質である疎水性マトリックス及び前記シェル部分の総重量に基づき約1重量%〜25重量%のpH応答性材料を含み、前記pH応答性材料が、5.0を超えるpHにおいて不溶性であるか、又はそうでなければ唾液中では不溶性であり、5.0未満のpHにおいては可溶性であり、前記シェル部分の残部が、1又は2以上の前記疎水性マトリックス構成成分を含み、前記シェル部分が前記コア部分をカプセル化する、組成物。
【請求項2】
医薬品有効成分が、疎水性である、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
pH応答性材料が、ブチル化メタクリレートコポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
疎水性マトリックスが、ステアリン酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
疎水性マトリックスが、ステアリン酸、カルナウバワックス及び蜜蝋を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
pH応答性材料が、メタクリレートコポリマー、ブチル化メタクリレートコポリマー、塩基性ブチル化メタクリレートコポリマー、ポリ(メタクリル酸)、アミノメタクリレートコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒプロメロースフタレート、ポリアクリレート誘導体又はポリメタクリレート誘導体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
疎水性マトリックスが、ステアリン酸を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
疎水性マトリックスが、ステアリン酸、カルナウバワックス及び蜜蝋を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
pH応答性材料が、ブチル化メタクリレートコポリマーを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
医薬品有効成分がプレドニゾン及びリトナビルからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
pH応答性材料が、ブチル化メタクリレートコポリマーを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
約100μm〜約400μmの平均粒子径を有する複数のマイクロカプセルを含み、前記マイクロカプセルの少なくとも80%が、前記複数のマイクロカプセルの前記平均粒子径から25%以内の粒子径を有する、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
液体懸濁液中に複数のマイクロカプセルを含む、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
乾燥粉末として製剤化された複数のマイクロカプセルを含む、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
pH応答性材料がシェル部分の総重量に基づき1重量%〜10重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
シェル部分の残部が疎水性マトリックスである、請求項1に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年2月25日に出願された米国特許仮出願第61/944,152号に対し優先権を主張し、参照によってその全体を本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
小児科病院から退院する79%を超える小児は、成人に使用するためにデザイン、認可及び意図された1又は2以上の薬剤を処方され、このことは、小児科専用の製剤の必要性を強調する。(コンプライアンスを確保するために)味がよく、(新生児から青年の体重/表面積に適切な投与量のニーズを満たすために)用量設定可能な製剤に小児科専用の投与量がない場合、医療提供者は、(i)成人に認可された液体製剤を処方するか、又は(ii)利用可能な製品を操作して(例えば、錠剤を粉砕することによって)即席の製剤を作製する。用量設定可能であり、錠剤及びカプセル剤よりは小児に大いに好ましいが、液体懸濁液は味がよくないことが多く(すなわち、プレドニゾン及びリトナビルの液体形態)、結果としてコンプライアンスが不良になる。即席の製剤は、もとの製品の嗜好性及びバイオアベイラビリティなどの性能が変わってしまう場合があり、それによりコンプライアンス不良(病院においてわずか70%のコンプライアンス)並びに過小量及び過量投薬のリスクの増加の両方をもたらす。易流動性の薬物を充填したマイクロカプセル粉末であれば、薬剤師が正確に全ての年齢の小児に投薬するための極めて味のよいマイクロカプセル液体懸濁液を調製することが可能であろう。
【発明の概要】
【0003】
本組成物及び方法は、pH応答性シェルにカプセル化された、薬物が豊富なコアを含むマイクロカプセル製剤によって、放出プロファイル、バイオアベイラビリティ及び嗜好性を正確に制御することができるという発見に基づく。口腔と関連するpHレベルでは不溶性であるが、胃又は胃腸系のその他の領域と関連するpHレベルでは可溶性であり、それにより適切なpHになるまで医薬品有効成分の放出を防ぐpH応答性シェル。マイクロカプセルの薬物が豊富なコアは、即時放出又は持続放出のいずれにせよ所望の放出プロファイルを可能にするよう適切な賦形剤とともに製剤化されてもよい。これらの組成物を製造する方法も提供される。
【0004】
したがって、一実施形態において、本組成物は、シェル部分によってカプセル化されたコア部分を有するマイクロカプセルを含む。医薬品有効成分及び賦形剤を含むコア部分。疎水性マトリックス及びpH応答性材料を含むシェル部分。
【0005】
医薬品有効成分は、治療薬、特に、不味い治療薬として使用される任意の薬剤を含んでもよい。本明細書中で述べられる特定の医薬品有効成分の例としては、プレドニゾン(prednisone)及びリトナビル(ritonavir)が挙げられる。
【0006】
医薬品有効成分とともに使用される賦形剤は、場合によって、有効成分の特性に左右されることもある。例えば、親水性賦形剤は、疎水性有効成分と関連して使用されてもよい。さらに、賦形剤は、特定の放出プロファイルをもたらすよう選ばれてもよい。適した種類の賦形剤の例としては、ワックス、脂質、ポリエチレングリコール(例えば、PEG 2000及びPEG 6000)、ポリオール、ステアレート(stearate)及びブロックコポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態において、医薬品有効成分がプレドニゾン又はリトナビルである場合、ポリエチレングリコールが適した賦形剤である。
【0007】
シェル部分は、疎水性マトリックス及びpH応答性材料(pH-responsive material)を含む。特定の一例において、pH応答性材料は、5.0を超えるpHにおいて不溶性であるか、又はそうでなければ、唾液中では不溶性であるが、5.0未満のpHにおいては可溶性である。他の実施形態において、pH応答性材料は、所望の放出プロファイルに基づいて胃腸系において生じるさまざまなその他のpHレベルで可溶性、又は不溶性であってもよい。pH応答性材料の例としては、ブチル化メタクリレートコポリマー(Eudragit(登録商標)E - 100 PO)、アミノメタクリレートコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー(aminoakyl methacrylate copolymer)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(hydroxypropylmethycellulose phthalate)、ヒプロメロースフタレート(hypromellose phthalate)、ポリアクリレート誘導体及びポリメタクリレート誘導体が挙げられる。
【0008】
シェルの疎水性マトリックス構成成分としては、1又は2以上のグリセリン脂肪酸エステル(glycerol fatty acid ester)、高分子量のグリコール(例えば、最低20の繰り返し単位を含むポリエチレングリコール)、セルロースエーテル(例えば、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース)、セルロースエステル(例えば、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース(cellulose acetate phthalate)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)、ポロクサマー(poloxamer)、デンプン、ステアリン酸、セレシンワックス(ceresine wax)、蜜蝋、オゾケライト(ozokerite)、微結晶性ワックス(microcrystalline wax)、カンデリラワックス(candelilla wax)、モンタンワックス(montan wax)、カルナウバワックス(carnauba wax)、パラフィンワックス(paraffin wax)、カウアスワックス(cauassu wax)、木蝋及びセラックワックス(Shellac wax)を挙げることができる。
【0009】
任意の上記実施形態の組成物は、約50μmから約500μm、約100μmから約400μm、約150μmから約300μm、及び一般に約200μmの平均粒子径を有する複数のマイクロカプセルを含んでもよく、少なくとも約80%のマイクロカプセルが、平均粒子径から1〜25%、2〜20%、5〜15%以内及び一般に10%以内の粒子径を有してもよい。
【0010】
任意の上記実施形態の組成物は、液体懸濁液、チュアブル錠及び発泡錠を含むさまざまな形式で提供されてもよい。
【0011】
さまざまなマイクロカプセル組成物を製造する方法も提供される。一実施形態において、本方法は、以下のステップ:(1)エタノールに医薬品有効成分を溶解させて、医薬品有効成分−エタノール混合物を製造するステップ;(2)医薬品有効成分−エタノール混合物を、融解した賦形剤とともに共融解させて、コア分散体を得るステップ;(3)ポリマー及び脂質を融解させて、シェル混合物を形成するステップ;及び(4)振動励起(vibrational excitation)の存在下においてノズルの中心部分を通してコア分散体を施し、中心部分を取り囲むノズルの環状部分を通してシェル混合物を同時に施すことによって、コア部分及びシェル部分を含むマイクロカプセルを形成するステップ、を含む。本方法は、マイクロカプセルの径を縮小するために、マイクロカプセルがノズルから出るときに安定化空気流をノズルにあてるステップをさらに含んでもよい。本方法は、さまざまなマイクロカプセル組成物に関して本明細書に記載される医薬品有効成分、賦形剤、ポリマー及び疎水性マトリックスの組み合わせの任意の組み合わせを用いて行われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
以下に記載される図に加えて、本明細書に添付の付属書類Aに記載される提示にさらなる図の概要が示されている。
図1】親水性マトリックス中のAPI及びそれらの分散体のDSCサーモグラムである。プレドニゾン(A)及びリトナビル(B)の両方は、別個の薬物融解ピークがないため、非晶質の様式でマトリックス中に分散していることを実証している。薬物の結晶化が低いと、マイクロカプセルシェルが分解すれば、溶解が速まることにもなる。
図2】本開示によるプレドニゾン(A)及びリトナビル(B)マイクロカプセルの光学顕微鏡画像である。異なるコア及びシェルが両方のタイプの粉末において見られる。
図3】中性及び酸性条件における本開示のプレドニゾン(A)及びリトナビル(B)マイクロカプセルのそれらのRLDシロップ製剤と比較した溶解プロファイルである。最初の2分間(黄色)は、マイクロカプセル製剤が中性環境において薬物放出を減じ、それから、APIをその後急速に放出する。
図4】作製直後及び25℃で4週間保管した後の酸性条件におけるリトナビルマイクロカプセルの溶解プロファイルである。
図5】中性(最初の2分間)及びその後の酸性条件(その期間の間、中性条件下に維持された製剤1、2、5及び6を除く)における本開示のプレドニゾン(A)及びリトナビル(B)マイクロカプセルのそれらそれぞれのRLDシロップ製剤と比較した溶解プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、概して正確な投薬及びさまざまな投薬形式に処理する能力を可能にする化合物の味覚マスキング製剤並びにその製剤を製造するためのプロセスに関する。
【0014】
高いレベルの味覚マスキング並びに剤形が口腔を通過した直後の速やかで完全な放出の両方を提供する投与量を製剤研究者が開発することは難しい場合が多い。大半の味覚マスキング技術が段々に厚い味覚マスキングシェルを加えて、口腔におけるシェルを通した薬物放出を段々に低減することに頼っていることを考えると、これは特に最も不味い薬物に当てはまる。不運にも、口腔を通過した後、この同じ味覚マスキングシェルコーティングが急速な放出に対する障害になる。
【0015】
この問題に対処するために、本開示は、一実施形態において、口腔に見られる中性のpHにおいて不溶性であるが、胃に見られる酸性のpHにおいては容易に溶解し、それにより胃に到達するまで薬物充填コアの放出を制限するpH応答性シェルについて記載する。
【0016】
さらに一般に、本開示は、各マイクロカプセルがコア部分及びシェル部分を有する複数のマイクロカプセルを含む組成物を提供する。コア部分は、医薬品有効成分(API,active pharmaceutical ingredient)及び賦形剤を含む。シェル部分は、pH応答性材料及び疎水性マトリックス構成成分を含む。
【0017】
コア部分は、API充填を最大にし、水性環境への曝露時に急速に溶解するAPIの製剤を可能にするようデザインされる。こうした目的にかなうように、コア部分は、粒子を固める前に、細かく分散した(固体分散体)又は溶けた(固溶体)状態をもたらすことになるAPIと賦形剤の間のバランスが取れた状態を含まなければならない。コア部分に利用される賦形剤は、少なくとも部分的にAPIの特性、例えば、APIの親水性又は疎水性に左右される。したがって、特定の実施形態において、賦形剤が親水性である。さらに、API充填を最大にするために賦形剤が、均質な分散、可溶化又はAPIと複合体を形成する能力を増進してもよい。例えば、賦形剤は、ワックス、脂質、ポリエチレングリコール(PEG,polyethylene glycol)、ポリオール、ステアレート並びにポロクサマー及びルトロール(lutrol)などのブロックコポリマーからなる群から選択される。
【0018】
APIとしては、限定されるものではないが、不味く、一般に小児科患者における安定して安全な投薬形式を可能にさせる製剤に容易に利用できないものを含むさまざまな化合物が挙げられる。特定の一例において、APIは、プレドニゾン及びリトナビルからなる群から選択される。コア中のAPIの割合は、約1%から100%であってもよい(API自体が融解した薬物又はビタミンEなどの液体の形態である場合は100%)。さらに、コア部分中のAPIの割合は、約1%から50%、約1%から25%及び約1%から約10%であってもよい。APIが融解又は溶解できない場合(すなわち、懸濁液中の微細な薬剤粒子)、コア部分中のAPIの割合は、10%以下であってもよい。APIの上記の割合のいずれに関しても、コア部分の残部は、1又は2以上の賦形剤であってもよい。
【0019】
シェル部分は、保管環境からコア配合物を保護することによって安定性を促進し、患者への投与中のコア放出を調節するようデザインされる。保管環境は、水性、油懸濁剤、又は単に標準的な水分含有量の空気であってもよい。放出を調節するために、シェル部分は、特定のpH範囲、温度変化及び水和の程度又は特定の酵素に対する応答などのその他の固有の生理化学的特性に応答する材料を含んでもよい。
【0020】
シェル部分の安定化又は疎水性マトリックス構成成分に関して、適した材料としては、室温でいかなる相転移にも近づかないもの、例えば、ワックス、脂質及び高分子量のコポリマーが挙げられる。適した疎水性マトリックス材料の例としては、カルナウバワックス、グリセリルトリステアレート(glyceril tristearate)、グリセリルトリミリステート(glyceril trimyristate)、蜜蝋、カンデリラワックス、ステアリルアルコール(stearyl alcohol)、ステアリン酸、グリセリルモノステアレート(gylceryl monostearate)、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxpropylmethylcellulose)、ポリ(エチレングリコール)、ソルビタンオレアート、ソルビタンモノオレアート、ポロクサマー及びゼラチン並びにさまざまなそれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
「放出応答性構成成分」とも呼ばれるpH応答性材料に関して、適した材料としては、胃において生じるpHレベル(<5.0)では可溶性であるが、口腔において生じるpHレベル(>5.0)では不溶性であるか、又はそうでなければ唾液中では不溶性であるものが挙げられる。そのようなpH応答性材料の例としては、メタクリレートコポリマー、ブチル化メタクリレートコポリマー、塩基性ブチル化メタクリレートコポリマー(Eudragit(登録商標)E)又はポリ(メタクリル酸)が挙げられ、あるいはハイドロゲルなどの水和応答性ポリマーネットワークを挙げることができる。応答性放出構成成分は、APIが必要とする保護の程度、その作用の潜在的な範囲及び意図される誘発条件に基づいてシェル部分のある割合を構成してもよい。放出応答性構成成分は、シェル部分の約1%から約100%を構成してもよい(放出応答性構成成分が安定化構成成分としても働くことができる場合は100%)。さらに、シェル部分中の放出応答性構成成分の割合は、約1%から50%、約1%から25%及び約1%から約10%であってもよい。場合によっては、放出応答性構成成分は、その作用がコア/シェル粒子の形態に影響を及ぼすほど十分に大きい場合は極めて小さな割合で使用されてもよい。放出応答性構成成分の上記割合のいずれに関しても、シェル部分の残部は、1又は2以上の疎水性マトリックス構成成分を含んでもよい。
【0022】
本明細書に記載される実施形態のいずれかにおいて、本組成物のマイクロカプセルは、約50μmから約500μm、約100μmから約400μm、約150μmから約350μm又は約200μmから約300μmの粒子径を含んでもよい。別の実施形態において、本組成物のマイクロカプセルは、約50μmから約500μm、約100μmから約400μm、約150μmから約350μm又は約200μmから約300μmの平均粒子径を含んでもよい。
【0023】
本明細書に記載される実施形態のいずれかに関して、比較的狭い粒度分布が好ましい場合もある。そのような粒度分布は、「微粉」がないことから利益を得る。粒子微粉は、製造過程で残った小さな粒子である。それらの小さな有効表面積は、より速い溶解速度をもたらす。本明細書中で使用される場合、「微粉」という用語は、平均粒子径の10%以下の粒度を有する微粒子を指す。それゆえに、粒子微粉を含む製剤は、実質的に単分散でなく、所望の溶解特性及び/又はバイオアベイラビリティをもたらさない可能性もある。したがって、組成物中の少なくとも80%、場合によっては、少なくとも90%及びその他の例においては、約100%のマイクロカプセルが、約25%から約1%、約20%から約2%、約15%から約5%、一般に10%以下平均粒子径からはずれた粒子径を有し、それにより放出特性の高精度の制御が可能になる。
【0024】
本明細書に記載される本組成物の実施形態は、持続放出及び/又は即時放出プロファイルを提供してもよい。一実施形態において、本組成物は、口腔環境における最初の2分間はAPIの放出を減じ、胃及び胃腸管内などの酸性環境に接したとき、30分の時点においてAPIの完全な溶解を伴う加速した放出をもたらすことができる。
【0025】
特定の一実施形態において、本組成物は、各マイクロカプセルがプレドニゾンを約2.5%から約15%及びPEG 2000又は6000を約85%から約97.5%含むコア構成成分並びにEudragit(登録商標)EPOを約10〜20%、ステアリン酸を約80〜90%含み、及び蜜蝋を約10%含んでいてもよいシェル構成成分を有する複数のマイクロカプセルを含む。あるいは、この実施形態において、シェル構成成分は、カルナウバワックスを約50〜70%、蜜蝋を10〜20%、ステアリン酸を5〜10%及びEudragit(登録商標)EPOを5〜10%含んでもよい。
【0026】
別の特定の実施形態において、本組成物は、リトナビル(ritonavor)を約2.5〜20%及びPEG 2000又は6000を約80〜97.5%含むコア構成成分及びEudragit(登録商標)EPOを約10〜20%、ステアリン酸を約80%含み、蜜蝋を約10%含んでいてもよいシェル構成成分を有する複数のマイクロカプセルを含む。
【0027】
任意の上記実施形態の組成物は、液体懸濁液、チュアブル錠及び発泡錠などのさまざまな形式で提供されてもよい。
【0028】
本開示は、本明細書に記載される組成物を製造するための方法をさらに提供する。一実施形態において、本方法は、(1)エタノールにAPIを溶解させるステップ;(2)API−エタノール混合物を、融解した賦形剤とともに共融解させて、コア部分を得るステップ;(3)安定化構成成分を放出応答性構成成分とともに共融解させて、シェル部分を形成するステップ;(4)精密粒子製造を使用してコア部分及びシェル部分からマイクロカプセルを形成するステップを含む。精密粒子製造(PPF,precision particle fabrication)については、米国特許第6,669,961号にさらに詳細に記載されており、参照によってその全体を本明細書に組み込まれる。簡単にいえば、PPFでは、コア部分溶液が(i)一定の液滴を生成するための振動励起、(ii)コア構成成分を覆う環状のシェル溶液及び(iii)出てくる噴出物の径を縮小するための安定化空気流を伴ってノズルを通して噴霧される。
[実施例]
【0029】
以下の実施例において、ORB−101は、APIがプレドニゾンである本開示の例となる組成物を指し、ORB−102は、APIがリトナビル(ritonavor)である本開示の例となる組成物を指す。
【0030】
水溶性が乏しいAPIは、固体分散体技術を利用することによって高い薬物充填でマイクロカプセル化することができる
プレドニゾン及びリトナビルに対する従来の送達アプローチには、高い薬物充填及び速やかなバイオアベイラビリティが可能になるため、錠剤化又はシロップ/懸濁液製剤のいずれかが含まれる。これらの製剤に関する重大な欠点は嗜好性である。プレドニゾン及びリトナビルの両方とも並外れて不味く、これにより、錠剤の表面にあるか、又はシロップ中に十分に分散したわずかな薬物であっても味覚系が感知できるため、経口投与が不快なものになるか、又は小児科集団においては経口投与を行うこともできなくなる。さらに、速やかなバイオアベイラビリティを犠牲にすることなく、完全にプレドニゾン及びリトナビルなどの薬物を味覚マスキングすることができる新規の製剤に対する需要が増加している。
【0031】
この目的を達成するために、100%エタノール中の製剤化前のAPIの固体分散体を作製し、その後、融解した形態の親水性賦形剤に添加した。これらはそれぞれ加工性及び溶解の態様に対処するものであった。長時間加熱すると、エタノールが蒸発して、融解した賦形剤中のAPIの均質な懸濁液が残った。原料及び製剤に対して得られた示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムは、分散工程が溶液中の薬物の非晶質分布を作り出す際に効果的であったことを実証した(図1)。さらに、これらの溶液を、その後、ORB−101及びORB−102のコアとしてPPFにより加工するために準備した。
【0032】
薬物を含まないシェルは、PPFを用いた単一のステップを使用して脂質及び/又はpH応答性材料から作製することができる。
「コア」溶液に関する製剤開発が完了したら、微小なカプセルの形成のための「シェル」材料を調査した。一般的に使用される3種の経口用賦形剤を調査した:2種の脂質及びpH応答性のイオン性コポリマー。この実施例の主な目的は、水を伴わないマイクロカプセル化工程の後に、どのシェル材料がORB−101及びORB−102コアに対する保護コーティングを提供し、微細で乾燥した流動性のある粉末をもたらすことができるかを確認することであった。具体的には、薬物を含まない賦形剤のさまざまな組み合わせを融解させ、カスタムのPPF用ノズル中の薬物が豊富なコア溶液の周囲にともに流し、これにより200と300μmの間のマイクロカプセルを得た(図2)。平均粒子径が200μmの典型的なカプセル製剤は、それぞれ4.8±0.3%w/w及び6.5±0.2%w/wのプレドニゾン及びリトナビルの薬物充填になった。
【0033】
コア−シェルORB−101及びORB−102カプセルは、それぞれ中性及び酸性環境において遅い及び加速した放出動態を呈した。
ORB−101及びORB−102製剤を、37℃、中性及び酸性環境の両方で米国薬局方(USP,United States Pharmacopeia)タイプII装置において溶解特性に関して繰り返し試験した。インビトロにおける味覚マスキング能力を示すのに最も重要な期間であるため、最初の2分間の製剤の放出動態に特に注目した。プレドニゾン及びリトナビルマイクロカプセル、ORB−101及びORB−102をまた、薬物、それぞれプレドニゾン及びノービア(Norvir)の商業的に入手可能な液体製剤と比較した。
【0034】
この結果は、(口腔と類似した)中性環境において、Orbis社製剤が、最初の2分間にAPI放出を減じ、その後のゆっくりとした放出をもたらすことができたことを示していた。(胃及び胃腸管と類似した)酸性条件において、製剤はまた、最初の2分間、API放出を減じたが、その後速やかに薬物を放出した。これらの動態学的な特性は、互いに併せて考慮すると(図3)、ORB−101及びORB−202製剤は、口腔環境における最初の2分間は薬物放出を減じるが、その後、胃及び胃腸管のより低いpH環境に到達すると加速度的な様式で薬物を放出する能力を有することを実証している。具体的には、中性環境における2分の時点で、ORB−101及びORB−102製剤は、それぞれプレドニゾン及びリトナビル液剤よりも55及び92%少ないAPIを放出した。重要なことに、プレドニゾン及びリトナビルの両シロップ製剤は、5分までに90%を超える累積放出を伴い30分までに完全に溶解した。
【0035】
ORB−101及びORB−102製剤は、付加的な薬物安定化がなくても少なくとも1カ月保存安定である。
コア−シェルプレドニゾン及びリトナビルカプセルのサンプルを、密閉ガラスバイアルに25℃で1カ月間維持した後、それらの溶解挙動を再び試験した。カプセルは、中性条件において、新しく作製したサンプルと比較してほぼ同じ放出動態を有していただけでなく、酸性媒体中において以前に確認された加速する放出も示した(図4)。さらに、本製剤は、何らかの共同する安定化労力を必要とすることなく元来の保存安定性を示した。
【0036】
プレドニゾン及びリトナビルのさまざまなマイクロカプセル製剤の溶解プロファイル
表1の製剤を、上記のとおりにPPFを使用して製造した。37℃及び75rpmでUSPタイプII装置を使用して900mLのpH2の溶液中において製剤1、2、5及び6に関する溶解調査を行った。37℃及び75rpmでUSPタイプII装置を使用して900mLのpH7.4及び900mLのpH2の両方の溶液中において製剤3、4及び7に関する溶解調査を行った。中性条件(pH7.4)において最初の2分間、続いて酸性条件(pH2)において5〜30分間溶解させた。製剤1〜4及び5〜7に関する溶解プロファイルを、それぞれプレドニゾンシロップ及びリトナビルシロップと比較した。この溶解の結果を図5及び6に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
したがって、本発明は、言及される目的及び利点並びにそれに固有のものを達成するために十分に適応している。当業者によって数々の変更が行われてもよいが、そのような変更は添付の特許請求の範囲によって部分的に示されるとおり本発明の趣旨内に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5