特許第6572250号(P6572250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572250アルミニウム溶湯用フィルター及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572250
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】アルミニウム溶湯用フィルター及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/565 20060101AFI20190826BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20190826BHJP
   B22D 43/00 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C04B35/565
   B01D39/20 D
   B22D43/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-42364(P2017-42364)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-135255(P2018-135255A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2018年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2017-31617(P2017-31617)
(32)【優先日】2017年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517062894
【氏名又は名称】電化物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140006
【弁理士】
【氏名又は名称】渕上 宏二
(72)【発明者】
【氏名】津山 辰己
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−204836(JP,A)
【文献】 特開平04−114969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/894,38/00−38/10
B22D 43/00
C22B 9/02,21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素を含む骨材粒子100重量部に対して無機質結合材4〜30重量部を結合してなり、
前記無機質結合材が、60〜96重量%の窒化珪素粉を含み、残部成分が、酸化イットリウムおよび酸化アルミニウムを含むことを特徴とする、
アルミニウム溶湯用フィルター。
【請求項2】
請求項1記載のアルミニウム溶湯用フィルターにおいて、
前記骨材粒子100重量部に対して前記無機質結合材4〜30重量部を添加する工程と、
有機バインダー、離型剤や水などを適量添加して混錬する工程と、
成形後に焼結温度1400℃から1850℃、加熱昇温中1000℃以上の温度領域において、窒素又はアンモニアガス雰囲気中、雰囲気圧力が0.1から2.0メガパスカルで焼結する工程を含むことを特徴とする、
アルミニウム溶湯用フィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム及びアルミニウム合金溶湯中の固形不純物粒子を除去するためのアルミニウム溶湯用フィルター及びアルミニウム溶湯用フィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製品を製造する場合、アルミニウム及びアルミニウム合金溶湯(以下アルミ溶湯という)中の固形不純物粒子(以下、不純物という)を除去する必要がある。アルミ溶湯と不純物は自然分離しないことから、フィルターを使用して物理的に不純物を取り除くことが一般的である。アルミ溶湯から不純物を取り除くことにより、アルミニウム製品における歩留の向上、最終製品の欠陥防止に寄与する。
【0003】
フィルターに関する先行技術及び関連技術としては、特許文献1〜10を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−138339号公報
【特許文献2】特開平09−227238号公報
【特許文献3】特開2011−079045号公報
【特許文献4】特開2001−039781号公報
【特許文献5】特開2001−039779号公報
【特許文献6】特開平10−286416号公報
【特許文献7】特開平09−029423号公報
【特許文献8】特開平05−009610号公報
【特許文献9】特開2004−276047号公報
【特許文献10】特開2005−272962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、無機質結合材の原料組成が、酸化ホウ素15〜40重量%、酸化アルミニウム20〜45重量%、シリカ15〜25重量%、残部成分が酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化ストロンチウムの1種以上よりなり、無機質結合材中に生成する9酸化アルミニウム・2酸化ホウ素の針状結晶の長さが10μm以下であることを特徴とする。この材料は、遊離シリコンが溶出しないと謳われているが、数ppmの溶出も許されない高純度アルミ溶湯用フィルターとしては使用できない。
【0006】
特許文献2は、無機質結合材の原料組成が、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムからなるスピネル型結晶構造を持つことを特徴とする。この材料は、遊離シリコンの溶出はないが、マグネシウム成分の溶出があるため、高純度アルミ溶湯用フィルターとしては使用できない。
【0007】
特許文献3は、無機質結合材の原料組成が、酸化ホウ素40〜60重量%、酸化アルミニウム5〜30重量%、シリカ7〜15重量%、残部成分が酸化ナトリウム、酸化カリウム及び酸化カルシウムよりなり、結晶粒微細化剤を適量通過させることを特徴とする。よって、溶出成分の抑制には主眼がおかれていないため、数十ppmの成分溶出があることから、高純度アルミ溶湯用フィルターとしては使用できない。
【0008】
特許文献4は、無機質結合材の原料組成が、酸化ホウ素20〜60重量%、酸化アルミニウム15〜35重量%、シリカ7〜30重量%、残部成分が酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの少なくとも1種以上よりなり、所定温度で加熱溶融することにより無機質結合材を形成させた後、870から750℃まで冷却し、その温度に3〜9時間保持することを特徴とする。これは、冷却中に生成される結晶量を安定させるためであるが、数十ppmの成分溶出量があるため、高純度アルミ溶湯用フィルターとして使用できない。
【0009】
特許文献5は、特許文献4と同様の原料組成でからなり、1150℃〜1400℃まで加熱して原料を溶融することにより無機質結合材を形成させた後、冷却を750℃まで1時間当たり20〜60℃の冷却速度で実施することで得られることを特徴とする。ホウ素成分及びシリコン成分の溶出が少ないとあるが、数十ppmの成分溶出量があるため、高純度アルミ溶湯用フィルターとしては使用できない。
【0010】
特許文献6は、無機質結合材の原料組成が、酸化アルミニウム15〜35重量%、酸化ホウ素30〜40重量%、シリカ7〜15重量%、残部成分が酸化マグネシウムよりなり、1150℃〜1300℃で焼結することを特徴とする。シリコン、ホウ素、マグネシウムの各成分において数ppm以上の成分溶出量があるため、高純度アルミ溶湯用フィルターとしては使用できない。
【0011】
特許文献7は、無機質結合材の原料組成が、シリカ25〜35重量%、酸化ホウ素20〜60重量%、酸化アルミニウム25〜35重量%、残部成分が酸化マグネシウムよりなり、焼結温度を1200℃〜1300℃として、生成する9酸化アルミニウム・2酸化ホウ素針状結晶の量と長さに特徴がある。ここでも、シリコン、ホウ素、マグネシウムの各成分において数ppm以上の成分溶出量があるため、高純度アルミ溶湯用フィルターとしては使用できない。
【0012】
特許文献8は、無機質結合材の原料組成が、酸化ホウ素5〜15重量%、酸化マグネシウム5〜50重量%、シリカ3〜10重量%、残部成分が酸化アルミニウムよりなり、実操業に十分耐え得る強度を持つものであるが、シリコン成分の溶出量は10ppm以上であり、高純度アルミ溶湯用フィルターとしては使用できない。
【0013】
特許文献9は、無機質結合材の原料組成が、酸化ホウ素15〜80質量%、酸化アルミニウム2〜60質量%、酸化マグネシウム5〜50質量%よりなり、また、酸化カルシウムを30質量%以下の割合で含有してもよい。この無機質結合材と骨材を混錬、成形、乾燥後、焼結温度を1350℃とし、その後800℃まで、1時間当たり30〜70℃の冷却速度にて無機質結合材を結晶化させたフィルターを得る。さらに、液状のシリカ及びアルカリ成分をスプレー法やディッピング法でフィルター表面にコーティングすることにより、アルミ溶湯が浸透し易く、ろ過効率の高いフィルターを得ることができる。しかしながらこの方法においても、シリコン成分において数ppm以上の成分溶出量があるため、高純度アルミ溶湯用フィルターとしては使用できない。
【0014】
特許文献10は、特許文献9の改良であり、無機質結合材の原料組成は特許文献9と同様である。特許文献9ではコーティングの焼結は言及されていなかったが、本文献では基材と同時または先に基材だけを焼結し、その後コーティングし、さらに焼結することにより、アルミ溶湯が更に浸透し易くなったことを特徴とするものである。シリコン成分の成分溶出量には言及されていないが、反応度合が極少と記載されていることから、いくらかのシリコン成分の溶出は想像できる。実際にこのフィルターは、高純度アルミ溶湯用フィルターとして使用されていない。
【0015】
本発明の目的は、従来技術の無機質結合材成分とは全く違う組成成分を使うことにより、成分の溶出がなく、かつ従来のフィルターと同等以上の曲げ強度、アルミ溶湯との適度な濡れ性を有する、高純度アルミ溶湯に対して実用可能なアルミニウム溶湯用フィルター及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、炭化珪素および電融アルミナ、焼結アルミナ、窒化珪素から選択される少なくとも1種類を含む骨材粒子100重量部に対して無機質結合材4〜30重量部を結合してなり、前記無機質結合材が、60〜96重量%の金属シリコン粉および窒化珪素粉から選択される少なくとも1種類を含み、残部成分が、酸化イットリウムおよび酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、シリカ、酸化クロム、酸化セリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム、酸化ストロンチウム、炭化珪素、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムから選択される少なくとも1種類を含むことを特徴とするアルミニウム溶湯用フィルターである。
【0017】
また、前記骨材粒子100重量部に対して前記無機質結合材4〜30重量部を添加する工程と、有機バインダー、離型剤や水などを適量添加して混錬する工程と、成形後に焼結温度1400℃から1850℃、加熱昇温中1000℃以上の温度領域において、窒素又はアンモニアガス雰囲気中、雰囲気圧力が0.1から2.0メガパスカルで焼結する工程を含むことを特徴とするアルミニウム溶湯用フィルターの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
高純度アルミ溶湯用フィルターは、740℃の高純度アルミ溶湯中で60日間浸漬試験した結果、成分の溶出はほとんどなかった。従来技術で作られたフィルターが、同温度条件、高純度アルミ溶湯中3日間の浸漬でシリコン成分やホウ素成分が数十ppm溶出することに鑑みると、本フィルターは耐成分溶出性において優れた特性を持つのは明らかである。
【0019】
また、従来技術で作られたフィルターと比較して同等以上の強度を有し、濡れ性においても十分に浸透することが確認できたことから、十分に実用可能なフィルターである。
【0020】
高純度アルミ溶湯だけではなく一般アルミ溶湯であってもフィルターを長期間浸漬、保持しても成分の溶出がないことから、成分再調整の必要がなく、作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】高純度アルミ溶湯用フィルターの構造を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の高純度アルミ溶湯用フィルター(以下、本フィルターという)の一実施形態を説明する。なお、本発明の範囲は、この実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本フィルターは、炭化珪素、電融アルミナ、焼結アルミナ、及び窒化珪素の1種類以上よりなる骨材粒子100重量部に対して、無機質結合材4〜30重量部にて結合してなるものである。無機質結合材2は、60〜96重量%の金属シリコン粉及び窒化珪素粉の一方又は両方からなり、残部成分が酸化イットリウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、シリカ、酸化クロム、酸化セリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム、酸化ストロンチウム、炭化珪素、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムの1種類以上よりなる。
【0024】
本フィルターの構造を模式的に表したものを図1に示す。粒子径の揃った骨材1を結合材2で結合した3次元網目構造体であり、複数の空隙3を備えている。
【0025】
本フィルターは、骨材100重量部に対して、無機質結合材4〜30重量部を添加し、更に有機バインダー、離型剤や水などを適量添加して混錬し、これを成形、乾燥、焼結させて製造することができる。この焼結は、1400℃から1850℃で、加熱昇温中1000℃以上の領域で、0.1〜2.0メガパスカルの圧力の窒素雰囲気、またはアンモニアガス雰囲気中で焼結することにより得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明の範囲は、この実施例に限定されるものではない。
【0027】
表1に骨材として炭化珪素を用いた実施例1〜6、比較例1〜4を示した。
【0028】
骨材粒子、無機質結合材、有機バインダー、離型剤と適量の水とを混合し、型に入れて成形する。乾燥後、焼結炉にて所定温度、所定圧力の窒素雰囲気または、アンモニアガス雰囲気中で焼結することにより目的のフィルターを作製した。
【0029】
【表1】
【0030】
上記の実施例、比較例の評価項目と評価方法について説明する。
【0031】
(室温曲げ強度)
10mm×10mm×100mmに切り出した板状試験体をアムスラー試験機により、2点支持1点荷重(支持スパン70mm)で荷重を掛け、試験体が破損する荷重を測定した。
【0032】
(800℃曲げ強度)
室温曲げ強度と測定方法は同様であり、試験体を800℃、10分保持後、アムスラー試験機により荷重を掛け、破損する荷重を測定した。
【0033】
(アルミニウム含浸性)
30mm×10mm×300mmの板状試験体を容器底部に固定し、750℃、30分保持後、740℃の高純度(99.99%)アルミ溶湯を300mmの高さまで注入する。30分後に試験体を炉外に取り出し、冷却後、試験体を長さ方向に切断し、試験体空隙内部までアルミが浸透した高さを測定した。
【0034】
(耐成分溶出性)
高純度(99.99%)アルミ溶湯10部に対し、試験体1部を60日浸漬し、浸漬前後の各表記成分を測定した。分析機器は、島津製作所製発光分光分析装置PDA−8000、分析方法はJIS H1305:2005に準じて行なった。本測定の測定限界は10ppmであり、測定結果が9ppm以下の場合は未溶出と表記した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
実施例に示した通り、本フィルターは、60日間アルミ溶湯に浸漬させても、溶出の成分量が測定限界以下であり、従来技術で作られたフィルターでは対応できなかった高純度(99.99%)アルミ溶湯での使用が可能である。また、本フィルターは高純度アルミ溶湯用だけではなく、一般アルミ溶湯で使用しても成分の溶出が極めて少ないことから、成分変化を嫌う合金系でも更なる品質の安定に寄与するものである。
【符号の説明】
【0036】
1 骨材
2 結合材
3 空隙
図1