特許第6572268号(P6572268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6572268-重合反応のための合成核酸 図000005
  • 特許6572268-重合反応のための合成核酸 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572268
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】重合反応のための合成核酸
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20190826BHJP
   C12Q 1/6848 20180101ALI20190826BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20190826BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20190826BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20190826BHJP
【FI】
   C12N15/09 ZZNA
   C12Q1/6848 Z
   C12Q1/686 Z
   !C12N15/54
   !C12N9/12
【請求項の数】27
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-155557(P2017-155557)
(22)【出願日】2017年8月10日
(62)【分割の表示】特願2015-505801(P2015-505801)の分割
【原出願日】2013年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-19699(P2018-19699A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2017年9月8日
(31)【優先権主張番号】61/623,110
(32)【優先日】2012年4月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591021970
【氏名又は名称】ニユー・イングランド・バイオレイブス・インコーポレイテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー・オン
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・シー・エバンス
(72)【発明者】
【氏名】ルシア・グリーナフ
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−504018(JP,A)
【文献】 特表2009−509565(JP,A)
【文献】 特表2008−516613(JP,A)
【文献】 特表2000−508538(JP,A)
【文献】 特表2005−523016(JP,A)
【文献】 特開平09−220087(JP,A)
【文献】 特表2015−512651(JP,A)
【文献】 BMC Molecular Biology,2011年,Vol.12,p.1-12(Article No.6)
【文献】 Journal of Inorganic Biochemistry,2008年,Vol.102,p.1104-1111
【文献】 Journal of Molecular Biology,2006年,Vol.363,p.244-261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68−1/70
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱安定性古細菌DNAポリメラーゼ、
3’末端および5’末端を有し、ヘアピン構造を形成する合成DNAオリゴヌクレオチドであって、該オリゴヌクレオチドはヘアピン構造を形成したときに3’末端から開始する二本鎖領域と5’一本鎖DNA突出部を有し、該5’一本鎖DNA突出部の一本鎖部分は、3’末端と対を形成している塩基に隣接する塩基から数えて4番目の位置にウラシル又はイノシンを含み、
調製物が25℃の温度であるときにおいて該ポリメラーゼを阻害し、72℃以上の温度において該ポリメラーゼを阻害しない、オリゴヌクレオチド
およびバッファーを含む調製物。
【請求項2】
さらにプライマーを含み、少なくとも1つの二本鎖領域が、増幅反応におけるプライマーの融解温度より少なくとも10℃低い融解温度を有する、請求項1記載の調製物。
【請求項3】
少なくとも1つの二本鎖領域が、90℃未満の融解温度を有する、請求項1または請求項2記載の調製物。
【請求項4】
合成核酸が、複数の一本鎖領域を形成しうる、請求項1〜のいずれか1項記載の調製物。
【請求項5】
第2一本鎖領域が、スペーサーである、請求項記載の調製物。
【請求項6】
第3一本鎖領域が、合成核酸内の内部位置で一本鎖ループを形成する、請求項4又は5記載の調製物。
【請求項7】
ポリメラーゼ、dNTP、またはプライマーの少なくとも1つを更に含む、請求項1〜のいずれか1項記載の調製物。
【請求項8】
スペーサーが、ヘキサ−エチレングリコールまたは1’,2’−ジデオキシリボースを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の調製物。
【請求項9】
合成核酸が、3’末端の配列内に少なくとも1つの誘導体ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド結合を含有する、請求項1〜のいずれか1項記載の調製物。
【請求項10】
少なくとも1つの誘導体ヌクレオチドが、1以上の逆方向ヌクレオチド、ジ−デオキシヌクレオチドまたはアミノ修飾ヌクレオチドから選択される、請求項記載の調製物。
【請求項11】
少なくとも1つのヌクレオチド結合が、ホスホロチオアート結合である、請求項1〜のいずれか1項記載の調製物。
【請求項12】
合成核酸および熱安定性ポリメラーゼが、0.5:1〜10:1のモル比で存在する、請求項1〜11のいずれか1項記載の調製物。
【請求項13】
野生型ポリメラーゼの変異体を更に含む、請求項1〜12のいずれか1項記載の調製物。
【請求項14】
野生型ポリメラーゼの変異体が、配列番号25に対して少なくとも93%の配列同一性を含み、更に、配列番号25における278、307および/または402に対応するアミノ酸位置に少なくとも1つの突然変異を含む、野生型ポリメラーゼの変異体である請求項13記載の調製物
【請求項15】
野生型ポリメラーゼの変異体が、DNA結合ドメインに融合している、請求項14記載の調製物
【請求項16】
野生型ポリメラーゼの変異体のDNA結合ドメインが、Sso7dである、請求項14又は15記載の調製物
【請求項17】
野生型ポリメラーゼの変異体における、278、307および/または402に対応する位置の1以上におけるアミノ酸が、ヒスチジンではなく、場合により、DNA結合タンパク質に融合していてもよい、請求項14〜16のいずれか1項記載の調製物
【請求項18】
野生型ポリメラーゼの変異体が、H278Q、H307R、H402Qに対応する突然変異の群から選択される1以上の突然変異を更に含み、場合により、DNA結合タンパク質に融合していてもよい、請求項14〜17のいずれか1項記載の調製物
【請求項19】
(a)少なくとも1つのポリメラーゼ、標的DNAおよびdNTPを含有する混合物に、請求項1〜13のいずれか1項記載の調製物を加え、
(b)標的DNAの伸長または増幅の前に、合成DNAオリゴヌクレオチドの二本鎖部分の融解温度より低い温度で混合物を維持することを含む、ポリメラーゼ伸長反応を抑制する方法であって、
ウラシルまたはイノシンが、合成DNAオリゴヌクレオチドの5’一本鎖DNA突出部において、3’末端と対形成している塩基に隣接する塩基から数えて4番目の位置に位置する、方法
【請求項20】
合成核酸の二本鎖部分の融解温度が、90℃未満である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
合成核酸が、複数の一本鎖領域を形成しうる、請求項19または20記載の方法。
【請求項22】
第2一本鎖領域が、スペーサーである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
第3一本鎖領域が、合成核酸内の内部位置でループを形成する、請求項21又は22記載の方法。
【請求項24】
スペーサーが、ヘキサ−エチレングリコールまたは1’,2’−ジデオキシリボースを含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
3’末端が、誘導体ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド結合を含有する、請求項19〜24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
誘導体ヌクレオチドが、1以上の逆方向ヌクレオチド、ジ−デオキシヌクレオチドまたはアミノ修飾ヌクレオチドから選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
ヌクレオチド結合が、ホスホロチオアート結合である、請求項25記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合反応のための合成核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモサイクリングDNA増幅反応、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、または等温DNA増幅反応、例えばループ媒介性等温増幅(LAMP)における反応開始前の非特異的プライマー伸長は特異的産物形成を抑制し、非特異的増幅および反応の再現不能性を招く。したがって、反応開始前にポリメラーゼの活性を阻止し、それによりプライマー伸長を抑制することが望ましい。これは、抗体(Kelloggら,Biotechniques,16(6):1134−7(1994))、アフィボディ(Affibody AB,Stockholm,Sweden)、アプタマー(Dangら,Journal of Molecular Biology,264(2):268−78(1996))およびポリメラーゼの化学修飾(米国特許第6,183,998号)により達成されている。これらの技術のそれぞれは有効でありうるが、それらはそれぞれ、特有の欠点を有する。例えば、抗体の製造は動物系の使用を要し、アフィボディおよびアプタマーは分子変異体のライブラリーのスクリーニングを要し、化学修飾は、不活性化修飾を逆転させるための追加的な加熱インキュベーション工程を要する。DNAポリメラーゼに標的化されるホット・スタート・インヒビターを迅速かつ有効に製造するための一般化可能なアプローチを得ることが望ましいであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kelloggら,Biotechniques,16(6):1134−7(1994)
【非特許文献2】Dangら,Journal of Molecular Biology,264(2):268−78(1996)
【発明の概要】
【0004】
一般に、1つの態様においては、3’末端から伸長する二本鎖領域と、少なくとも1つのウラシルまたはイノシンを含有する5’一本鎖伸長を有する一本鎖領域とを形成しうる、3’末端および5’末端を有する合成一本鎖核酸、およびバッファーを含む調製物を提供する。合成一本鎖核酸の一例を図1に示す。
【0005】
実施形態は以下の特徴の1以上を含みうる:前記の少なくとも1つの二本鎖領域は、例えば90℃、89℃、88℃、87℃、86℃、85℃、75℃、65℃、55℃、45℃または35℃未満のような、増幅反応における標的DNAのTmより少なくとも10℃低い融解温度(Tm)を有する;ウラシルまたはイノシンは、該5’一本鎖伸長において、3’末端から数えて4番目の位置に位置する;該合成核酸は複数の一本鎖領域を形成しうる;第2一本鎖領域はスペーサーである;第3一本鎖領域は該合成核酸内の内部位置で一本鎖ループを形成する;該バッファーはポリメラーゼ、dNTP、またはプライマーの少なくとも1つを含有しうる;該スペーサーはヘキサ−エチレングリコール、3炭素の分子または1’,2’−ジデオキシリボースを含む;該合成核酸は3’末端の核酸配列内に誘導体ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド結合を含有し、ここで、該誘導体ヌクレオチドは、1以上の逆方向ヌクレオチド、ジ−デオキシヌクレオチドまたはアミノ修飾ヌクレオチドから選択されることが可能であり、例えば、該ヌクレオチド結合はホスホロチオアート結合でありうる。
【0006】
1つの実施形態においては、該調製物は更に、1以上のポリメラーゼ、例えば1以上の熱安定性ポリメラーゼ、例えば少なくとも1つの古細菌ポリメラーゼ;細菌ポリメラーゼ、および/または野生型古細菌もしくは細菌ポリメラーゼの変異体を含む。該合成核酸および該ポリメラーゼは0.5:1〜10:1のモル比で存在しうる。
【0007】
一般に、1つの態様においては、野生型ポリメラーゼの変異体は配列番号25に対して少なくとも93%の配列同一性を含み、更に、配列番号25における278、307および/または402に対応するアミノ酸位置に少なくとも1つの突然変異を含む。もう1つの態様においては、278、307および/または402における突然変異は、米国特許出願第13/823,811号に記載されているBstポリメラーゼ変異体のいずれかに挿入されうる。
【0008】
実施形態は該調製物の以下の特徴の1以上を含みうる:Sso7dのようなDNA結合ドメインとの変異体ポリメラーゼの融合;および/または278、307および/または402に対応する位置の1以上に、ヒスチジンではないアミノ酸を場合により有しうる変異体ポリメラーゼ;例えば、ここで、1以上の突然変異は、H278Q、H307R、H402Qに対応する突然変異の群から選択されうる。
【0009】
一般に、1つの態様においては、ポリメラーゼ伸長反応を抑制するための方法を提供し、該方法は、ポリメラーゼ、標的DNAおよびdNTPを含有する混合物に前記の調製物を加え、該標的DNAの伸長または増幅の前に一定時間にわたって、該合成核酸の二本鎖部分のTmより低い温度で該混合物を維持することを含む。
【0010】
実施形態は以下の特徴の1以上を含みうる:前記の少なくとも1つの二本鎖領域は、例えば90℃、89℃、88℃、87℃、86℃、85℃、75℃、65℃、55℃、45℃または35℃未満のような、増幅反応における標的DNAのTmより少なくとも10℃低いTmを有する;ウラシルまたはイノシンは、該5’一本鎖伸長において、3’末端から数えて4番目の位置に位置する;該合成核酸は追加的な一本鎖核酸領域を含むことが可能であり、例えば、第2一本鎖領域はスペーサーである;ここで、例えば、該スペーサーはヘキサ−エチレングリコール、3炭素の分子または1’,2’−ジデオキシリボースを含むことが可能である;および/または第3一本鎖領域は該合成核酸内の内部位置で一本鎖ループを形成する。
【0011】
1つの実施形態においては、該合成核酸は3’末端に少なくとも1つの誘導体ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド結合を含有し、ここで、そのような少なくとも1つの誘導体ヌクレオチドは、1以上の逆方向ヌクレオチド、ジ−デオキシヌクレオチドまたはアミノ修飾ヌクレオチドから選択されることが可能であり、例えば、そのような少なくとも1つのヌクレオチド結合はホスホロチオアート結合でありうる。
【0012】
1つの実施形態においては、前記の1以上のポリメラーゼは、1以上の熱安定性ポリメラーゼ、例えば少なくとも1つの古細菌ポリメラーゼ;細菌ポリメラーゼ、および/または野生型古細菌もしくは細菌ポリメラーゼの変異体を含みうる。該合成核酸および該ポリメラーゼは0.5:1〜10:1のモル比で存在しうる。
【0013】
1つの実施形態においては、該反応温度を該合成核酸のTmより高くすることにより、ポリメラーゼ伸長反応の抑制を逆転させる追加的な工程が含まれうる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ポリメラーゼ伸長反応を可逆的に抑制する合成核酸を記載する。これらの合成核酸は、好ましくは、二本鎖領域に隣接する5’一本鎖突出において少なくとも1つの非鎖塩基(例えば、UまたはI)を含有する。該二本鎖領域が一本鎖に変性したら、該合成核酸は、もはや、ポリメラーゼが基質DNAを複製するのを阻止しない。好ましくは、ポリメラーゼ活性の抑制は、ポリメラーゼ伸長反応に適した第2温度より少なくとも10℃低い第1温度で生じる。ポリメラーゼ伸長反応はポリメラーゼによる第1一本鎖核酸の伸長を意味し、ここで、該伸長は、第1鎖に結合した第2核酸に相補的である。
【0015】
1つの実施形態においては、合成核酸は、該二本鎖領域が所望の温度で融解するように操作され、そのような所望の温度は、重合伸長条件より約15℃または14℃または13℃または12℃または11℃または10℃または9℃または8℃低い温度でそれが融解するように選択される。ポリメラーゼ伸長条件は、例えば65℃で生じる等温増幅、またはより高い温度、例えば約95℃で生じるPCRのようなサーモサイクリング増幅のための条件を含む。例えば、該合成核酸内の二本鎖領域は、−80℃〜37℃の範囲の特定の温度では無傷のままであるが、37℃〜100℃の範囲の特定の温度では変性するように設計されうる。該合成核酸のTmは、該二本鎖領域の配列または長さの変化、内部一本鎖領域の長さの変化、該二本鎖領域へのミスマッチまたは修飾塩基の付加、選択された塩型(例えば、マグネシウム)および濃度を有する重合反応バッファーにおける、より弱い塩基対形成特性を有するヌクレオチド組成(例えば、アデニン、チミンまたはウラシルに富む配列)またはイノシンもしくは非塩基部位、例えば1’,2’ジデオキシリボースを含有する配列の選択を含む1以上の要因により調節されうる。バッファーの一例として、Thermopol(登録商標)バッファー(New England Biolabs,Ipswich,MA)が挙げられる。
【0016】
本発明の1つの実施形態においては、ポリメラーゼ伸長反応の合成核酸可逆的インヒビターの設計は以下の特徴を含む。該合成核酸はDNA、DNA/RNA、RNAまたはRNA/RNAでありうる。それは2つの一本鎖から又は単一核酸(オリゴヌクレオチド)から形成されうるが、少なくとも1つの二本鎖領域および5’一本鎖突出を形成しうるものであるべきである。それは、場合により、複数の一本鎖領域および複数の二本鎖領域を含有しうる。該合成核酸がオリゴヌクレオチドである場合、それは、前記のとおり、反応温度より低い温度で、少なくとも1つの二本鎖領域を含有するようにフォールディングしうるものであるべきである。該オリゴヌクレオチドは8〜200ヌクレオチドの範囲の長さを有しうる。該インヒビターにおけるいずれの二本鎖領域も、好ましくは、4〜35ヌクレオチドの長さを有する。
【0017】
該5’一本鎖突出は少なくとも4ヌクレオチド、好ましくは100ヌクレオチド長未満、例えば4〜40ヌクレオチド、例えば6〜10ヌクレオチドであるべきであり、該二本鎖領域から数えて該突出の2位と10位との間、例えば4位に位置する例えばUまたはIのような1以上の非鎖ヌクレオチドを含有するべきであり、ここで、そのような1以上の非鎖ヌクレオチドは1〜5個のウラシルまたは1〜5個のイノシンでありうる。例えば、表1に示されている配列は全て、可逆的結合性オリゴヌクレオチドとして有効であることが判明した。
【0018】
また、合成核酸は、場合により、エキソヌクレアーゼ活性に対して抵抗性であり及び/又はポリメラーゼにより伸長され得ない3’末端を有しうる。該オリゴヌクレオチドの3’末端は、修飾、例えばジデオキシヌクレオチド、スペーサー分子、逆方向塩基またはアミノ修飾ヌクレオチドにより、伸長から遮断されうる。該3’末端は、3’末端における又はその付近における1以上の塩基の間のホスホロチオアート結合の付加あるいは3’末端における逆方向塩基の使用により、エキソヌクレアーゼ分解に対して抵抗性にされうる。該オリゴヌクレオチドは、該内部配列内に複製不能塩基、例えば炭素スペーサー、1’,2’−ジデオキシリボース、非塩基部位またはチミン二量体を付加することにより、増幅不能にされうる。
【0019】
表1は、本明細書に記載されているアッセイにおいて有効であることが判明した、ヘアピンを形成しうる合成核酸分子の具体例を示す。例示されている合成核酸分子はTまたはX(ここで、T(4−g)またはX(i−4))のスペーサー、修飾塩基を含有する5’末端、U(i−5)またはI(i−3)を有し、該二本鎖領域から数えて4位にUまたはIを有する。該5’末端は、示されているとおり様々である。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明の1つの実施形態においては、1以上のポリメラーゼを該合成核酸に加える。該ポリメラーゼは熱安定性ポリメラーゼ、例えば野生型または組換え古細菌DNAポリメラーゼまたは細菌DNAポリメラーゼまたはそれらの変異体(突然変異体)であることが可能であり、DNA結合ドメイン、例えばSso7d(米国特許第7,666,645号)に該ポリメラーゼまたはその変異体が融合していてもよい融合タンパク質を含みうる。DNA結合ドメインへの融合(そのようなものが存在する場合)の前に配列番号25に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、95%または98%のアミノ酸配列相同性または類似性を有する細菌ポリメラーゼの変異体が例示されている。追加的なDNA結合ドメインの存在には無関係に、該変異体は、好ましくは、配列番号25における52(Rではない)、278、307、402および/または578(Rではない)に対応する位置における1以上の変異、例えば、以下の突然変異の1以上を含む:H278Q、H307R、H402Q。追加的な突然変異は、場合により、ランダムまたは特異的な突然変異誘発の通常の方法により、該ポリメラーゼ内に導入されうる。
【0022】
本明細書に記載されている増幅方法は、標準的なサーモサイクリングまたは等温増幅反応、例えばPCR増幅またはLAMP(Gillら,Nucleos.Nucleot.Nucleic Acids,27:224−43(2008);Kimら,Bioanalysis,3:227−39(2011);Nagamineら,Mol.Cel.Probes,16:223−9(2002);Notomiら,Nucleic Acids Res.,28:E63(2000);およびNagamineら,Clin.Chem.,47:1742−3(2001))、ヘリカーゼ置換増幅(HDA)、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)、ニッキング酵素増幅反応(NEAR)および/または鎖置換増幅(SDA)を含む。本明細書に記載されている変異体ポリメラーゼは、本明細書に記載されている合成核酸を使用して又は使用しないで、増幅または配列決定反応において使用されうる。
【0023】
野生型Bstポリメラーゼのアミノ酸配列
【0024】
【化1】
【0025】
本明細書中で引用されている全ての参考文献を参照により本明細書に組み入れることとする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】5’突出部、DNAポリメラーゼ伸長およびエキソヌクレアーゼ切断を妨げる3’遮断末端ならびに少なくとも1つの非鎖塩基を含有するヘアピンオリゴヌクレオチドの形態の合成核酸を示す。(1)は任意のスペーサーであり、(2)は二本鎖領域または「ステム」であり、(3)は5’一本鎖であり、(4)は遮断3’末端である。N=rNMP、dNMPまたは非鎖塩基;X=DNAポリメラーゼウラシル結合ポケットにより認識される塩基;=3’末端修飾:ホスホロチオアート結合および/または逆方向塩基および/またはジデオキシヌクレオチシド。
図2】ヘアピンオリゴヌクレオチドインヒビターの存在下または非存在下、古細菌ポリメラーゼで得られたPCR産物のゲルを示す。該ヘアピンオリゴヌクレオチドの非存在下では、該ポリメラーゼは、予想される2kbの産物を増幅できない。該オリゴヌクレオチドの存在下では、該2kb産物が増幅される。 レーン1は、2Kb アンプリコンの検出のためのMWマーカーである2−log DNAラダー(New England Biolabs,Ipswich,MA)を含有する。 レーン2は、該合成核酸の非存在下、5nM 古細菌ファミリーB DNAポリメラーゼを含有する。 レーン3は、5nM 古細菌ファミリーB DNAポリメラーゼおよび5nM 該合成核酸,TM39U 1G−ISを含有する。 レーン4は、5nM 古細菌ファミリーB DNAポリメラーゼおよび5nM 該合成核酸,TM39U 1G−Iを含有する。 レーン5は、5nM 古細菌ファミリーB DNAポリメラーゼおよび5nM 該合成核酸,TM39Uを含有する。 レーン6は、5nM 古細菌ファミリーB DNAポリメラーゼおよび5nM 該合成核酸,TM39LooplOTを含有する。 レーン7は、5nM 古細菌ファミリーB DNAポリメラーゼおよび5nM 該合成核酸,TM39U3−ISを含有する。
【実施例】
【0027】
PCRサイクリング前にポリメラーゼ活性の抑制を測定するためのアッセイ
後続のPCRアッセイにおいて用いられる温度より低い温度でポリメラーゼ活性の抑制を測定した。
【0028】
該アッセイは、以下のとおりに行った。
【0029】
2kb ラムダ(Lambda)DNAアンプリコンを産生するPCRのためにプライマーを作製した。また、該リバースプライマーの3’末端は、ラムダDNAにアニールして偽プライミング部位を生成して非特異的な737bpのアンプリコンを与えうる8個のヌクレオチドを含有していた。
【0030】
該PCRアッセイは、高レベルのヒトゲノムDNAの存在下で行った。該反応混合物を該熱安定性ポリメラーゼと共にPCRサイクリングの前に25℃で15分間インキュベートした。これらの条件は、非特異的産物を形成する多数の機会をもたらした。増幅前にポリメラーゼ活性を抑制する核酸組成物の存在は、非特異的産物を最小限度で伴って又は全く伴わないで2kbのアンプリコンを得るために必要であった。該反応混合物は氷上に配置され、以下の試薬を含有していた:テルモポール(Thermopol)バッファー、0.4pg/μl ラムダDNA、2.0ng/μl ジュルカット(Jurkat)ゲノムDNA、0.2mM dNTPおよび0.2μM プライマー。
【0031】
フォワードプライマー,L30350F:5’CCTGCTCTGCCGCTTCACGC3’(配列番号1)。
【0032】
リバースプライマー,L2kbalt4rv:5’GGGCCGTGGCAGTCGCATCCC3’(配列番号2)。
【0033】
0.25μl〜0.50μlの2.0単位/μl Vent(登録商標)DNAポリメラーゼ(NEB,Ipswich,MA)を該核酸組成物の存在下または非存在下(図2を参照されたい)、0.25μlまたは50μlの該反応混合物に加え、PCR装置に移し、25℃で15〜30分間のサイクル、ついで98℃で10秒間、45℃で20秒間、72℃で60秒間、72℃で4分間の35回のサイクルに付した。PCRサイクルにより産生されDNA産物をアガロースゲル電気泳動により分析した。
【0034】
可逆的抑制性合成核酸の非存在下では、該ポリメラーゼは、予想される2kbのラムダアンプリコンを産生しなかった。737bpのアンプリコンを含む非特異的産物が観察された。オリゴヌクレオチドインヒビターの存在下では、確固たる収率の、予想される2kbのラムダアンプリコンが、非特異的産物を最低限度で伴って又は全く伴うことなく産生された。
図1
図2
【配列表】
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