特許第6572287号(P6572287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572287
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】香材、その製造方法及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9761 20170101AFI20190826BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20190826BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20190826BHJP
   A61L 9/02 20060101ALI20190826BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   A61K8/9761
   A61K8/9789
   A61K8/73
   A61L9/02
   A61Q13/00 101
   A61Q13/00 102
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-212059(P2017-212059)
(22)【出願日】2017年11月1日
(65)【公開番号】特開2019-83854(P2019-83854A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】508228924
【氏名又は名称】株式会社OKUNI
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】小林 治香
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−526906(JP,A)
【文献】 特開平06−047086(JP,A)
【文献】 特開2002−035103(JP,A)
【文献】 特表2004−507512(JP,A)
【文献】 特開2002−241202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00
A61K 8/00
A61Q 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性の芳香成分を少なくとも1種含有する液体芳香材と、
前記液体芳香材が内部に含浸、及び/又は表面にコーティングされた母材と、
前記母材の表面、及び/又は当該母材の表面をコーティングする液体芳香材の少なくとも一部を被覆する被覆材とを含み、
前記液体芳香剤は檜又はジャスミンの精油からなり、
前記母材は、
前記液体芳香材が檜の精油であるときは檜の木材粉からなり、前記液体芳香材がジャスミンの精油であるときはジャスミンの花を乾燥させ粉末状にしたものからなり、
前記被覆材はアラビアガムからなる香材。
【請求項2】
請求項1記載の香材の製造方法であって、
前記液体芳香材と前記母材を接触させることにより、当該母材の内部に当該液体芳香材を含浸させ、及び/又は当該母材の表面にコーティングさせる工程と、
前記液体芳香材に接触させた後の母材と、前記被覆材とを略均一に混合する工程とを含む香材の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の香材の使用方法であって、
前記香材を、常温以上、当該香材が燃焼する燃焼温度以下の環境下で芳香させる香材の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香の持続性及び安定性に優れ、使用温度に応じて香質を変化させることが可能な香材、その製造方法及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
香材を用いて香りを楽しむことは古来より行われている。近年は、その様な香りを楽しむ行為が心を癒す効果もあることから注目されている。香材としては、例えば、沈香、白檀等の香木;当該香木の粉末にその他の天然香原料を調合した粉末状の塗香、焼香、抹香;当該香木の粉末にその他の天然香原料を調合した固形状の線香、練香、印香等が挙げられる(例えば、下記特許文献1及び2参照)。これらの香材を芳香させる手段としては、例えば、直接燃焼させる方法や、香炉を用いてロウソクや炭などで加熱する方法等が挙げられる。
【0003】
ここで、香材には様々な種類があることから、各々の芳香を十分に引き出すには種類に応じて加熱温度を適切に調節する必要がある。例えば、従来の練香や香木は、燃焼している炭を埋没させた灰の上にこれらを置いて温度調節をしながら加熱する。そのため、温度調節には熟練した技術と煩雑な手間を要する。また、練香や香木は、その製造過程で、低温で揮発性を示す芳香成分の大部分が失われている。そのため、芳香成分としては高温で高い揮発性を示すものが主として含まれる。その結果、常温等の低温で揮発する芳香成分を芳香させることが困難である。さらに、これらの香材を燃焼させた場合、人体に有害なタールを生成し、香材の燃焼に起因した臭気を発生させる場合がある。また、香材を燃焼させると、芳香成分は短時間のうちに芳香し、長時間にわたり芳香を持続させることが困難であるという問題がある。
【0004】
また香材としては、前記香木等の他に、植物由来のエッセンシャルオイル(精油)やアロマオイル等も挙げられる。これらの香材を、例えばドライフラワー等に含浸させて常温下でポプリの様に使用する場合、エッセンシャルオイル等は沸点が低く低温揮発性の物質であるため短時間のうちに揮発し、その結果、長時間にわたり芳香を持続させることが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−88837号公報
【特許文献2】特開2011−168496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、芳香の持続性及び安定性に優れ、使用温度に応じて香質を変化させることが可能な香材、その製造方法及びその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る香材は、前記の課題を解決する為に、揮発性の芳香成分を少なくとも1種含有する液体芳香材と、前記液体芳香材が内部に含浸、及び/又は表面にコーティングされた母材と、前記母材の表面、及び/又は当該母材の表面をコーティングする液体芳香材の少なくとも一部を被覆する被覆材とを含むことを特徴とする。
【0008】
前記の構成によれば、液体芳香材は母材の内部に含浸され、及び/又は母材の表面にコーティングされている。また、被覆材は母材の表面、及び/又は母材の表面をコーティングする液体芳香材の少なくとも一部を被覆している。これにより、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分を、香材内部に留まることなく香材の系外に緩やかに拡散させ芳香させることができる。その結果、前記構成の香材を加熱して用いる場合でも、揮発性の芳香成分による芳香の持続性及び安定性を向上させることができる。また、前記の構成によれば、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分が、例えば常温で揮発する様な低温揮発性の芳香成分と、高温で揮発する様な高温揮発性の芳香成分を両方含むものである場合には、香材を加熱する加熱温度や加熱時間を調節することにより、異なる香質の香りを芳香させることも可能にする。
【0009】
さらに、前記の構成に於いては、前記母材が、他の揮発性の芳香成分を少なくとも1種含有することが好ましい。
【0010】
前記の構成によれば、母材が他の揮発性の芳香成分を含むことにより、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分とは異なる香質の香りを芳香させることもできる。その上、被覆材が母材の表面、及び/又は母材の表面をコーティングする液体芳香材の少なくとも一部を被覆しているので、母材に含まれる他の揮発性の芳香成分も、短期間の内に香材の系外に揮発して拡散するのを抑制することができる。その結果、母材に含まれる他の揮発性の芳香成分についても、その芳香の持続性及び安定性を向上させることができる。さらに、母材に含まれる他の揮発性の芳香成分が、例えば常温で揮発する様な低温揮発性の芳香成分と、高温で揮発する様な高温揮発性の芳香成分の両方を含むものである場合、香材の使用温度を変化させることにより、異なる香質の香りを芳香させることも可能にする。また、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分と異なる香質の香りを芳香させることも可能になる。
【0011】
前記の構成に於いては、前記液体芳香材が精油であることが好ましい。
【0012】
また、前記の構成に於いては、前記母材が多孔質材であることが好ましい。母材として多孔質材を用いることにより、当該多孔質材の細孔内部に液体芳香材を良好に含浸させることができる。
【0013】
前記の構成に於いては、前記被覆材が多糖類であることが好ましい。
【0014】
本発明の香材の製造方法は、前記の課題を解決する為に、前記香材の製造方法であって、前記液体芳香材と前記母材を接触させることにより、当該母材の内部に当該液体芳香材を含浸させ、及び/又は当該母材の表面にコーティングさせる工程と、前記液体芳香材に接触させた後の母材と、前記被覆材とを略均一に混合する工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
前記の構成によれば、先ず、液体芳香材と母材を接触させることにより、母材の内部に当該液体芳香材を含浸させ、及び/又は母材の表面に液体芳香材をコーティングすることができる。次いで、液体芳香材に接触後の母材と、被覆材とを接触させることにより、母材表面、又は母材表面をコーティングしている液体芳香材を被覆材で被覆させることができる。これにより、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分を、香材の系外に緩やかに拡散させ、長期にわたって安定して芳香させることが可能な香材を製造することができる。
【0016】
また、前記の構成によれば、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分や、母材中に含まれる他の揮発性の芳香成分が、例えば、低温揮発性の芳香成分や高温揮発性の芳香成分を含む場合には、香材の使用(加熱)温度や使用(加熱)時間等を調節することで、異なる香質の香りを芳香させることが可能な香材を製造することができる。
【0017】
本発明の香材の使用方法は、前記の課題を解決する為に、前記香材の使用方法であって、前記香材を、常温以上、当該香材が燃焼する燃焼温度以下の環境下で芳香させることを特徴とする。
【0018】
前記の構成によれば、常温以上、香材が燃焼する燃焼温度以下の環境下において、持続性及び安定性に優れた芳香を可能にする。すなわち、本発明の香材は、液体芳香材を有する母材に、被覆材を被覆した構造であるため、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分を、香材の系外に緩やかに拡散させることができる。さらに、液体芳香材が母材内部に含浸されている場合には、揮発性の芳香成分が短時間の内に拡散するのを一層抑制することができる。そのため、前記の構成によれば、香材を長時間、安定して芳香させることが可能になる。また、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分や、母材中に含まれる他の揮発性の芳香成分が、例えば、低温揮発性の芳香成分や高温揮発性の芳香成分を含む場合には、常温〜香材が燃焼する燃焼温度の範囲内で適宜使用温度を調節することにより、異なる香質の香りを芳香させることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明の香材によれば、揮発性の芳香成分を少なくとも1種含有する液体芳香材を、母材の内部に含浸及び/又は表面にコーティングさせている。また、被覆材を、母材表面、及び/又は母材表面をコーティングする液体芳香材の少なくとも一部に付着させて被覆している。これにより、本発明においては、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分が短期間の内に揮発し拡散するのを抑制することができる。その結果、本発明によれば、芳香の持続性及び安定性に優れ、使用温度に伴い香質を変化させることが可能な香材、その製造方法及びその使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(香材)
本発明の実施の一形態に係る香材について、以下に説明する。
本実施の形態の香材は、液体芳香材と、前記液体芳香材を内部に含浸し、及び/又は表面にコーティングした母材と、前記母材表面、及び/又は当該母材表面をコーティングする液体芳香材を被覆する被覆材とを少なくとも含む。
【0021】
前記液体芳香材は、常温において液体状であり、少なくとも1種の揮発性の芳香成分を含有するものである。ここで、本明細書において、「常温」とは5℃〜35℃の温度範囲にあることを意味する。また、「芳香成分」とは芳香効果を有する化合物又は成分を意味し、天然物であっても合成物であってもよい。「芳香効果」は、嗅覚及び/又は味覚を刺激することによって特徴的な香りを有すると感知される効果をいい、その意味で、芳香成分には香味成分も含み得る。
【0022】
前記液体芳香材としては特に限定されず、精油(エッセンシャルオイル)や人口香料等が挙げられる。これらの液体芳香材の内、本実施の形態に於いては天然由来の精油が好ましい。
【0023】
前記精油としては特に限定されず、例えば、ヒバ油、ヒノキ油、クスノキ油、ニオイコブシ油、ヒメコマツ油、クロモジ油、スギ油、モミ油、アスナロ油、ミズメザクラ油、サンショウ油、モクセイ油、ユーカリ油、アニス油、アミリス油、アンジェリカ油、安息香油、イモテール油、イランイラン油、エレミ油、オリガナム油、オレンジ油、カモミール油、カユプテ油、カルダモン油、ガルバナム油、カンファー油、キャラウェイ油、キャロットシード油、グアヤックウッド油、クミン油、クラリセージ油、グレープフルーツ油、クローブ油、コリアンダー油、サイプレス油、サンダルウッド油、サントリナ油、シダーウッド油、シトロネラ油、シナモン油、ジャスミン油、ジュニパー油、ジンジャー油、スターアニス油、スパイクラベンダー油、スペアミント油、セージ油、ゼラニウム油、セロリ油、タイム油、タジェティーズ油、タラゴン油、タンジェリン油、ティートリー油、ディル油、テレビン油、ナツメグ油、ニアウリ油、乳香油、ネロリ油、バイオレット油、パイン油、バジル油、パセリ油、バーチ油、パチュリー油、バーベナ油、ローズ油、パルマローザ油、ヒソップ油、ピメント油、ファー油、ファンネル油、プチグレン油、ブラックパッパー油、ベチバー油、ペパーミント油、ベルガモット油、ボダイジュ花油、マージョラム油、マートル油、マンダリン油、メリッサ油、没薬油、ヤロウ油、ユーカリ油、ライム油、ラバンジン油、ラベンダー油、リツェアクベバ油、レモン油、レモングラス油、ローズウッド油、ローズマリー油、ローレル油、ユズ油等が挙げられる。これらの精油は適宜必要に応じて、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0024】
前記人工香料としては特に限定されず、例えば、アロマオイル等が挙げられる。アロマオイルとしては、前記に列挙した精油をエタノール等のアルコールや、グリセリン、プロピレングリコール、キャリアオイル等の他の溶剤で希釈したものが挙げられる。前記キャリアオイルとしては特に限定されず、例えば、ホホバオイル、オリーブオイル、マルラオイル、カスターオイル、アルガンオイル、グレープシードオイル、スイートアーモンドオイル、タマヌオイル、シアオイル、ヘンプシードオイル、マカデミアナッツオイル、ローズヒップオイル、アサイオイル等が挙げられる。
【0025】
前記揮発性の芳香成分とは、前記に例示した精油や人口香料等に含まれる低温揮発性の芳香成分及び/又は高温揮発性の芳香成分を意味する。芳香成分として、低温揮発性の芳香成分と高温揮発性の芳香成分の両方を含むものを用いた場合には、使用(加熱)温度を変更することで、異なる香質の香りを芳香させることが可能になる。ここで、本明細書において「低温揮発性」とは、例えば、常圧下において、主に常温以上、150℃未満の温度範囲で高い揮発性を示す性質のことを意味する。従って、低温揮発性の芳香成分には、150℃以上の温度で併せて揮発性を示すものも含み得る。また、本明細書において「高温揮発性」とは、例えば、常圧下において、主に150℃以上250℃以下の温度範囲で高い揮発性を示す性質のことを意味する。従って、高温揮発性の芳香成分には、併せて常温等の150℃未満の温度範囲で揮発し得るものも含み得る。さらに、本明細書において「香質」とは、香気又は香味の質を意味する。
【0026】
前記揮発性の芳香成分としては、具体的には、例えば、テルペン類等が挙げられる。前記テルペン類としては、具体的には、例えばモノテルペン類(C10)、セスキテルペン類(C15)、ジテルペン類(C20)等が挙げられる。モノテルペン類としては、例えば、ミルセン、リナロール、ネロール、リモネン、カルボン、α−ピネン、カンファー、テルピネン、セピネン、パラシメン、シトロネロール、ゲラニオール、L−メントール、テルピネオール、ツヤノール等が挙げられる。また、セスキテルペン類としては、例えば、ファルネソール、カジネン、フムレン、ヌートカトン、セドロール、グアイアズレン、バーノレピン、プタキロシド、ペリプラノン、アブシシン酸、ゴシポール、アズレン、カマズレン、サンタレン、サンタロール、β−カリオフィレン、β−ビサボレン、ブルネッセン、ネロリドール、ファルネセン等が挙げられる。ジテルペン類としては、例えば、スクラレオール、フィトール、ジテルペンアルコール等が挙げられる。
【0027】
前記テルペン類以外の芳香族化合物としては、例えばカルバクロール、オイゲノール、チモール、チャビコール等のフェノール類;トランスアネトール、チャコピコールメチルエーテル、サフロール等のフェノールエーテル類、シトラール、シトロネラール等のアルデヒド類;カンファー、ジャスミン、クリプトン、ベルベノン、ツヨン、ピノカルポン、メントン、フェンコン、カルボン等のケトン類;酢酸ベンジル、酢酸リナリル等のエステル類;1,8−シネオール、アスカリドール、ビサボロールオキサイド等のオキサイド類;ジャスミンラクトン、クマリン、ベルガプテン等のラクトン類が挙げられる。
【0028】
前記に例示した液体芳香材は、一種単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0029】
液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分の含有量(複数の芳香成分が含まれる場合はそれらの合計量)は、当該液体芳香材の全質量に対し10質量%〜100質量%であることが好ましく、30質量%〜80質量%であることがより好ましく、50質量%〜60質量%であることが特に好ましい。揮発性の芳香成分を10質量%以上含有させることにより、当該芳香成分の芳香効果の有効性を維持することができる。
【0030】
液体芳香材には、他の任意の芳香成分(以下、「任意芳香成分」という。)が含まれていてもよい。他の任意芳香成分の種類としては、前記揮発性の芳香成分の芳香効果を阻害せず、揮発性を有するものであれば特に限定されない。また、任意芳香成分の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0031】
液体芳香材の含有量は、香材の全質量に対し、20質量%〜45質量%であることが好ましく、25質量%〜40質量%であることがより好ましく、30質量%〜35質量%であることが特に好ましい。液体芳香材の含有量を20質量%以上にすることにより、低温揮発性の芳香成分による芳香を維持することができる。
【0032】
前記母材は、液体芳香材を内部に含浸し、及び/又は表面にコーティングされたものである。母材としては多孔質材のものが好ましい。多孔質材は細孔を有しているので、これにより多孔質材の内部に液体芳香材を良好に含浸させることができる。その結果、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分が短期間の内に揮発して香材の系外に拡散するのを防止し、芳香の持続性が低下するのを抑制することができる。
【0033】
母材としては、木材粉(おが屑)や、葉、花、花弁、茎、根、根茎、球根、蕾、鞘、表皮、果皮、種子等又はこれらを乾燥させ、粉末状にしたもの等を用いることができる。また母材として、木炭、竹炭、褐炭、多孔質シリカゲル、ドライハーブ等を用いてもよい。ドライハーブとしては特に限定されず、例えば、アニス、スターアニス、ローレル、ラベンダー、セージ、コリアンダー、フェンネル、ヒソップ、オレガノ、ペパーミント、ローズマリー、スペアミント、キャラウェイ、オレンジピール、レモンピール、ヤチヤナギ、ジャスミン、バジル、ゆず皮等のハーブを乾燥させたものが挙げられる。
【0034】
母材の原料としては特に限定されず、例えば、ヒノキ科ヒノキ属のヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、ローソンヒノキ、チャボヒバ、サワラ、クジャクヒバ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、イトヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ヒムロスギ等;ヒノキ科スギ属のスギ、アシウスギ、エンコウスギ、ヨレスギ、オウゴンスギ、セッカスギ、ミドリスギ等;マツ科モミ属のトドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等;フトモモ科ユーカリ属のユーカリ、ギンマルバユーカリ、カマルドレンシス、レモンユーカリ等;コウヤマキ科コウヤマキ属のコウヤマキ等;ヒノキ科アスナロ属のヒバ、アスナロ、ヒノキアスナロ、ホソバアスナロ等が挙げられる。
【0035】
これらの原料を母材に用いた場合、母材は他の揮発性の芳香成分を含有させたものとすることができる。他の揮発性の芳香成分には、低温揮発性の芳香成分及び/又は高温揮発性の芳香成分を含み得る。これにより、例えば、液体芳香材として低温揮発性の芳香成分を含む精油等を用いた場合、使用(加熱)温度を変更することにより異なる香質の香りを芳香させることが可能になる。例えば、母材の原料として、前記原料のうち高温揮発性の芳香成分を含むヒノキ等を用いた場合に、液体芳香材として低温揮発性の芳香成分を含むものを用いたとき、使用(加熱)温度を変化させることにより、異なる香質の香りを芳香させることが可能になる。
【0036】
また、母材の形態は特に限定されず、例えば、原料そのままの状態、粒状、粉末状、又は任意の形状の成形体の何れであってもよい。また、母材の大きさも特に限定されず、母材の形態等に応じて適宜設定することができる。母材が粒状又は粉末状の場合、通常は、最大径が100μm〜2000μmの範囲であり、好ましくは150μm〜1000μm、より好ましくは300μm〜800μmである。
【0037】
前記母材の含有量は、香材の全質量に対し、5質量%〜15質量%であることが好ましく、7質量%〜13質量%であることがより好ましく、8質量%〜10質量%であることが特に好ましい。母材の含有量を5質量%以上にすることにより、母材に担持されない液体芳香材が発生するのを抑制することができる。その結果、そのような液体芳香材が、使用の際に一度に揮発し芳香するのを低減することができる。その一方、母材の含有量を15質量%以下にすることにより、液体芳香材に対する母材の量が多くなり過ぎるのを防止し、香材の使用量に対する芳香効果が低減するのを抑制することができる。
【0038】
液体芳香材と母材の配合比は特に限定されないが、1:0.2〜1:0.25が好ましく、1:0.21〜1:0.24がより好ましい。
【0039】
前記被覆材は、母材表面の少なくとも一部に付着して被覆する。また、母材表面に液体芳香材がコーティングしている場合は、当該液体芳香材に吸着して、その少なくとも一部を被覆する。被覆材が母材表面等を被覆することにより、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分や、母材に含まれる他の揮発性の芳香成分を、香材の系外に緩やかに拡散させ、長期にわたって芳香させることが可能になる。
【0040】
被覆材としては特に限定されないが、多糖類からなるものが好ましい。多糖類としては特に限定されず、例えば、アラビアガム(ポリウロン酸)、カラヤガム、トラガカントガム、タラガム、ジェランガム、カラギナン、イナゴマメ、寒天、ゼラチン、デンプン等が挙げられる。
【0041】
また、前記被覆材の形状としては、粒状、粉末状又はゼリー状であることが好ましい。また、被覆材が粒状又は粉末状である場合、その大きさは、母材の大きさや被覆材の形状等に応じて適宜設定することができる。通常は、最大径が10μm〜1000μmの範囲であり、好ましくは100μm〜500μm、より好ましくは200μm〜300μmである。
【0042】
前記被覆材の含有量は、香材の全質量に対し、45質量%〜60質量%であることが好ましく、50質量%〜55質量%であることがより好ましい。被覆材の含有量を45質量%以上にすることにより、低温揮発性の芳香成分や高温揮発性の芳香成分による芳香を維持することができる。その一方、被覆材の含有量を60質量%以下にすることにより、液体芳香材中の芳香成分等の芳香が過度に抑制されるのを防止することができる。
【0043】
母材と被覆材の配合比は特に限定されないが、1:6〜1:10が好ましく、1:7〜1:8がより好ましい。
【0044】
以上のように、本実施の形態の香材であると、揮発性の芳香成分が短期間の内に揮発し拡散するのを抑制することができる。その結果、芳香の持続性及び安定性を向上させることができる。また、使用(加熱)温度の変化に伴い香質を変化させることもできる。例えば、使用温度が低温の場合では、低温揮発性の芳香成分を芳香させることにより、さわやか(フレッシュ)な香りを芳香させることができ、使用温度が高温の場合では、高温揮発性の芳香成分を芳香させることにより、落ち着いた(深みのある)香りを芳香させることができる。さらに、液体芳香材、母材及び被覆材の全てについて、天然由来の原料のみで構成することも可能である。
【0045】
(香材の製造方法)
次に、本実施の形態に係る香材の製造方法について、以下に説明する。
本実施の形態の香材の製造方法は、液体芳香材と母材を接触させる工程と、当該液体芳香材に接触後の母材と被覆材とを混合する工程とを少なくとも含む。
【0046】
液体芳香材と母材を接触させることにより、母材内部に液体芳香材を含浸させることができる。また、母材の表面に液体芳香材をコーティングさせることができる。液体芳香材と母材の接触方法は特に限定されず、例えば、常温下で、液体状の液体芳香材中に母材を添加する等の方法が挙げられる。接触時間は、母材の構造等により適宜設定することができる。例えば、母材が多孔質材からなり細孔内部まで液体芳香材を十分に含浸させたい場合には、接触時間を十分に確保するのが好ましい。通常は、1時間〜数日の範囲内であり、好ましくは1時間〜24時間、より好ましくは2時間〜10時間である。
【0047】
次に、液体芳香材に接触後の母材と被覆材とを混合することにより、母材の表面の少なくとも一部に被覆材を付着させて被覆させる。また、液体芳香材が母材の表面をコーティングしている場合には、当該液体芳香材に被覆材を吸着させることにより、少なくとも液体芳香材の一部を被覆させる。これにより、本実施の形態に係る香材を作製することができる。尚、混合は、作製される香材の一部が塊状とならないように行うことが好ましい。
【0048】
以上のように、本実施の形態の製造方法によれば、芳香の持続性及び安定性に優れ、使用温度の変化に伴い香質を変化させることが可能な香材を、成形することなく極めて簡便に作製することができる。
【0049】
作製された香材は、例えば、密閉容器内に保管し、液体芳香材、母材及び被覆材を馴染ませるのが好ましい。保管期間や保管温度としては、液体芳香材、母材又は被覆材の種類や量等に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
(香材の使用方法)
次に、本実施の形態に係る香材の使用方法について、以下に説明する。
本実施の形態に係る香材は、常温以上、当該香材が燃焼する燃焼温度以下、より好ましくは常温以上、香材が燃焼する温度未満の環境下で芳香させることにより使用される。
【0051】
液体芳香材や母材中に低温揮発性の芳香成分を含む場合、香材を常温の環境下で使用することにより、当該低温揮発性の芳香成分を芳香させることができる。ここで、母材の表面等の少なくとも一部には被覆材が被覆しているため、低温揮発性の芳香成分の拡散を緩やかにすることができる。その結果、従来の香材よりも長期間にわたって、低温揮発性の芳香成分を芳香させることができる。また、芳香の安定性も向上させることができる。
【0052】
また、液体芳香材や母材中に高温揮発性の芳香成分を含む場合、香材を、当該香材が燃焼する燃焼温度以下で使用することにより、当該高温揮発性の芳香成分についても芳香させることができる。この場合においても、母材の表面等の少なくとも一部には被覆材が被覆しているため、高温揮発性の芳香成分の拡散を緩やかにすることができ、従来の香材より長期間にわたって、高温揮発性の芳香成分を芳香させることができる。また、芳香の安定性も向上させることができる。ここで、「香材が燃焼する」とは、香材を構成する液体芳香材、母材、又は被覆材の少なくとも何れかが燃焼することを意味する。
【0053】
ここで、香材を、液体芳香材及び母材中に含まれる高温揮発性の芳香成分が揮発しない温度以下で加熱した場合には、当該液体芳香材及び母材中に含まれる低温揮発性の芳香成分の芳香を促進させることもできる。また、香材を、液体芳香材及び母材中に含まれる高温揮発性の芳香成分が揮発可能な温度以上で加熱した場合には、当該液体芳香材及び母材中に含まれる低温揮発性の芳香成分及び高温揮発性の芳香成分の両方を同時に芳香させることもできる。さらに、当初、液体芳香材及び母材中に含まれる高温揮発性の芳香成分が揮発可能な温度以上で加熱し、その後に当該高温揮発性の芳香成分が揮発しない温度以下で使用した場合には、従来の香材よりも長期にわたり安定し芳香させることができる。
【0054】
尚、香材の種類によっては、香材を燃焼させた際に、当該香材の燃焼に起因した臭気が発生するものがある。そのような香材を使用する場合には、当該香材の燃焼温度未満で加熱するのが好ましい場合もある。これにより、液体芳香材に含まれる揮発性の芳香成分や、母材に含まれる他の揮発性の芳香成分のみを芳香させることができる。
【0055】
香材を加熱する際の加熱時間(使用時間)は、使用する香材の種類や量等に応じて認定で設定することができる。
【0056】
尚、本実施の形態の香材を使用するにあたっては、加熱源として木炭又はロウソク等を用いた香炉や、電気香炉等を用いることができる。木炭としては、例えば、備長炭等の白炭、黒炭、竹炭等が挙げられる。また、本実施の形態の香材を焼香させるなどして使用してもよい。
【実施例】
【0057】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0058】
(実施例1)
本実施例においては、先ず、液体芳香材としての檜の精油5mlに、母材としての檜のおが屑1gを加え、1時間、静置した。続いて、被覆材として、粉末状のアラビアガム6.5gを加え、塊状とならないように十分に撹拌した。その後、密閉容器に3日間を保管し、檜の精油、おが屑及びアラビアガムを十分に馴染ませた。これにより、本実施例に係る香材を作製した。
【0059】
続いて、作製した香材を、香炉を用いて加熱し芳香させた。すなわち、先ず230℃で香材を5分間加熱した後、加熱温度を150℃に変更して、さらに2時間加熱した。これにより、当初は檜の精油に含まれる低温揮発性の芳香成分を揮発させることができ、甘さとスパイシーさを併せもつフローラル調の香りを芳香させることができた。また同時に、母材に含まれる高温揮発性の芳香成分も揮発し、低温揮発性の芳香成分よりも深い香りを芳香させることができた。さらに、加熱温度を150℃に変更した後、芳香時間を2時間まで持続させることができた。
【0060】
(実施例2)
本実施例においては、先ず、ジャスミンの精油1.5mlをホホバオイル2.5mlで希釈した液体芳香材を作製した。さらに、この液体芳香材に、母材としてのジャスミンの花(粉末)1gを加え、1時間静置した。続いて、被覆材として、粉末状のアラビアガム5gを加え、塊状とならないように十分に撹拌した。その後、密閉容器に3日間を保管して馴染ませた後、本実施例の香材を作製した。
【0061】
続いて、作製した香材を、香炉を用いて加熱し芳香させた。すなわち、先ず230℃で香材を5分間加熱した後、加熱温度を150℃に変更して、2時間加熱した。これにより、当初はジャスミンの精油に含まれる低温揮発性の芳香成分を揮発させることができ、濃厚でフローラルな甘い香りを芳香させることができた。また同時に、母材に含まれる高温揮発性の芳香成分も揮発し、低温揮発性の芳香成分よりも深い香りを芳香させることができた。さらに、加熱温度を150℃に変更した後、芳香時間を2時間持続させることができた。