【実施例1】
【0028】
[ばね組立て体]
図1は、ばね組立て体の要部斜視図、
図2は、ばね組立て体の要部分解斜視図、
図3は、コイルばねのみを断面にしたばね組立て体の要部断面図、
図4は、コイルばねに対するばねシート部材の結合を示す平面説明図である。なお、以下の説明において、シート中心とは、ばねシート部材の円形状の座部の中心を示し、シート軸方向とは、シート中心を通る座部の中心軸方向を示し、シート径方向とは、座部の径方向を示し、シート周方向とは、座部の周方向を示す。
【0029】
図1〜
図4で示すばねシート部材1を用いたばね組立て体3は、例えば、自動車のトランスミッションに使用されるロックアップダンパー用スプリング組立て体として構成されるものである。
【0030】
コイルばね5は、所定の有効巻数のコイル部7と、コイル部7両端部に形成された座巻部9とを有している。コイルばね5の両端部に、ばねシート部材1を取り付けた。但し、図面では、ばねシート部材1を一方の端部にのみ取り付けた状態を示している。ばねシート部材1は、必要に応じてコイルばね5の一方の端部にのみ取り付けることができる。
【0031】
座巻部9には、座巻研磨があってもなくても良く、また、コイルばね5の端部は、座巻部が存在しないオープンエンドであってもよい。
【0032】
本実施例において、座巻部9は、双方ともにコイル巻線11の先端11aから3/4周程度まで座面研磨が行なわれ、座面13が形成されている。コイル巻線11の先端の厚みは、コイル巻線11の直径をDcとして1/4・Dc程度に設定されている。但し、座面の研磨代およびコイル巻線11の先端の厚みは適宜変更可能である。
【0033】
なお、コイルばね5に対するばねシート部材1の取り付け状態は、さらに後述する。
【0034】
[ばねシート部材]
図5は、ばねシート部材の斜視図、
図6は、ばねシート部材の平面図である。
【0035】
図1〜
図6のように、ばねシート部材1は、金属製のばね材、樹脂等で形成され、座部15と連結部17a、17bと筒状に配置された一対の弾性部21a、21bとを一体に備えている。このばねシート部材1が金属製のばね材で形成されるとき、プレス加工、切削加工、鍛造加工等により形成することができる。
【0036】
座部15は、コイルばね5の座巻部9に当接可能であり、平面から見て円形状の平板で形成され、座受け面15aと円形の外縁15bとを有している。
【0037】
連結部17a、17bは、周方向で複数分離して部分的に備えられ座部15からシート軸方向に一体に延出され、座受け面15aからほぼ一定幅で立ち上げられている。この連結部17a、17bは、複数形成され、周方向に均等配置されている。本実施例では、一対の連結部17a、17bがシート中心を挟んで対向して備えられている。
【0038】
但し、連結部17a、17bは、後述する取付時もしくは取付状態での変形時に塑性変形を起こさない限り、もしくは一対の弾性部21a、21bの筒状に芯ずれを起こさない限り、3箇所以上設定することもできる。または周方向での均等配置でなくてもよい。
【0039】
弾性部21a、21bは、本実施例において全体の外郭形状が長円状の対称形状に形成され、シート軸方向に一定の長さを有している。
【0040】
ここで、外郭とは、横断面方向で弾性部21a、21bの最外周面に沿った部分を意味し、外郭形状が長円状とは、横断面方向で弾性部21a、21bの最外周面に沿った長円状を意味する。
【0041】
この弾性部21a、21bは、連結部17a、17bにより座部15に結合され、コイルばね5の端部の内径部への圧入配置により連結部17に対するシート周方向およびシート径方向へ弾性変形可能となっている。
【0042】
各弾性部21a、21bは、各連結部17a、17bにそれぞれ結合支持されて各先端側が各連結部17a、17bよりも周方向に伸びている。各弾性部21a、21bは、それぞれシート軸方向寸法が均一の帯状の弾性板であり、各弾性部21a、21b相互の周方向寸法が等しく対称に形成されている。但し、各弾性部21a、21bは、弾性変形時に筒状の芯ずれを大きく起こさない限り、相互の周方向寸法や各連結部17a、17b両側での周方向寸法が異なってもよい。
【0043】
各連結部17a、17bから周方向に延出する各弾性部21a、21bのシート周方向の各先端は、各連結部17a、17bからシート周方向に離れている。各連結部17a、17bから周方向に延出する各弾性部21a、21bの長さ寸法は、各弾性部21a、21bのシート軸方向寸法よりも大きく形成されている。この場合、各弾性部21a、21bのシート軸方向寸法は、コイルばね5の端部を圧入固定できる最小限の寸法である。各弾性部21a、21bのシート軸方向寸法は、適宜大きくすることもできる。
【0044】
各弾性部21a、21bは、基部21aa、21baの両側に等しい寸法の湾曲した弾性片部21ab、21bbを備えている。弾性片部21ab、21bbは、本実施例において連結部17a、17bから周方向に外れ、基部21aa、21baからシート周方向に片持ち状に伸びている。
【0045】
基部21aa、21baは、シート周方向で連結部17とほぼ同幅に設定された平板状であり、連結部17a、17bに一体に結合され、相互に平行に配置されている。
【0046】
この基部21aa、21baの外郭間(外側面間)の寸法は、コイルばね5の端部への圧入状態でコイルばね5の端部の内径部との間に隙間≧0を形成し、本実施例では隙間>0となっている。
【0047】
弾性片部21ab、21bbの湾曲は、自由状態では円形に沿ったものではなく、各弾性部21a、21bの周方向先端側が、半円弧から外側へ外れるように徐々に曲率を小さくしたものであり、コイルばね5の端部の内径部への圧入によりコイルばね5の端部の内周に沿った半円弧になるような形態である。各弾性部21a、21bは、相互に先端が対向している。
【0048】
なお、弾性片部21ab、21bbの湾曲は、自由状態で半円弧に沿った形態にすることもできる。この場合、半円弧がなす筒状の径は、コイルばね5の端部の内径よりも大きく設定され、圧入を可能とする。
【0049】
弾性片部21ab、21bbの先端間には、変形許容部としてシート軸方向に延びた一対の軸方向スリット23a、23bが形成されている。軸方向スリット23a、23bは、各弾性部21a、21bの先端間にシート周方向の隙間をシート軸方向に沿って一定幅で直状に形成したものである。軸方向スリット23a、23bにより該各弾性部21a、21bのシート径方向内側への弾性変形を許容する。
【0050】
なお、軸方向スリット23a、23bは、弾性部21a、21bの弾性変形を許容するためのものであり、一定幅、直状に限らず、幅を変化させ、或いはかぎ状、湾曲状、凹凸対向形状に形成することもできる。
【0051】
また、弾性部21a、21bの弾性変形が可能であれば、軸方向スリット23a、23bは省くこともできる。この場合、軸方向スリットに代えて折り曲げ部、蛇腹部等が形成される。
【0052】
この軸方向スリット23a、23bは、連結部17a、17bに対しシート中心Cを挟んで対向する位置に備えられている。この位置は、例えば連結部17a、17bに直交する方向となる。
【0053】
前記弾性部21a、21bは、連結部17a、17bに結合される基部21aa、21ba側での外郭間の寸法dよりもこれに交差する側である各弾性部21a、21bの軸方向スリット23a、23b側での外郭間の寸法Dを大きくし、コイルばね5の端部の圧入を行なわせる。この寸法d、Dの関係があれば、弾性部21a、21bは、全体の外郭形状が長円状である必要は無く、他の形状に形成することもできる。
【0054】
ここで、
図6のように、本実施例の寸法dは、各基部21aa、21baに外接する仮想の第2の円C2の径に対応している。本実施例では、仮想の第2の円C2は各基部21aa、21baの対角位置にある各端部、換言すると基部21aa、21baが弾性片部21ab、21bbを結合する境の端部に外接し、第2の円C2の径は、寸法dよりも僅かに大きくなっている。但し、第2の円C2の径を寸法dとし、第2の円C2の基部21aa、21baへの外接を、基部21aa、21baの中央のみでの外接と仮想してもよい。
【0055】
本実施例の寸法Dは、自由状態で各弾性片部21ab、21bbの先端に外接する仮想の第1の円C1の径に対応している。本実施例では、仮想の第1の円C1が各弾性片部21ab、21bbの先端に外接し、第1の円C1の径は、寸法Dよりも僅かに大きくなる。
【0056】
ここで、外接とは、各基部21aa、21ba、各弾性部21a、21bのそれぞれで、シート周方向複数個所においてシート中心を中心とする仮想の円が同時に外接することを意味する。
【0057】
そして、d<Dの設定により圧入配置の前の自由状態で仮想の第1の円C1の径が仮想の第2の円C2の径を上回るようにしている。
【0058】
なお、仮想の第1の円C1は、各弾性部21a、21bの先端に外接するものに限らず、弾性部21a、21bの形状に応じ、各弾性部21a、21bの弾性片部21ab、21bbにおいてシート周方向の中間部などの何れの位置に外接するものでもよい。
【0059】
コイルばね5の端部の内径部の径は、第1の円C1の径よりも小さく第2の円C2の径以上の設定となっている。コイルばね5の端部は、圧入配置により弾性変形した各弾性片部21ab、21bに外接することになる。
【0060】
要するに、d<Dの関係、第1、第2の円C1、C2の径の設定は、ばねシート部材1をコイルばね5の端部に圧入したときに、
図4のように圧入状態で、コイルばね5の端部と基部21aa、21baとの間に隙間を形成させ、或いは隙間を丁度無くすようにするものである。
【0061】
かかる構造により、弾性片部21ab、21bbのシート径方向への変形によりシート径方向内側への倒れによる連結部17a、17bの応力集中を抑制するものである。ここでシート径方向内側への倒れは、例えば基部21aa、21baがシート中心方向へ倒れ変位して連結部17a、17bに曲げ応力が働くような状態である。
【0062】
また、本発明の実施例において連結部がシート周方向で3箇所以上、奇数箇所備えられる場合も同様に仮想の第1、第2の円を設定するように各弾性部が形成され、連結部に結合される。
【0063】
例えば連結部が3箇所の場合、寸法dは、シート中心から各弾性部の各基部外面までの半径で代用され、この半径が3箇所の連結部に結合された各弾性部の各基部に外接する仮想の第2の円に対応し、寸法Dは、連結部から周方向に外れた部分で3箇所の弾性部の弾性片部外面までの半径で代用され、この半径が各弾性片部に外接する仮想の第1の円に対応した寸法となる。
【0064】
また、コイルばね5の端部の内径部の径は、仮想の第1の円C1の径よりも小さく仮想の第2の円C2の径以上の設定となっている。コイルばね5の端部は、圧入配置により弾性変形した各弾性片部21ab、21bに外接することになる。
【0065】
つまり、本実施例の連結部17a、17b間の外郭寸法dは、コイルばね5のコイル内径に対し「d≦コイル内径」の関係を有している。この関係においてd=コイル内径の場合、
図6の形態では、基部21aa、21baがコイルばね5の端部から若干の変形力を受け、
図4に示す隙間はなくなることになる。コイル内径を寸法dよりも大きくすることで、
図4の隙間を維持できる。
【0066】
座部15及び弾性部21a、21b間には、周方向スリット31a、31bが備えられている。周方向スリット31a、31bは、座部15の座受け面15a及び弾性部21a、21b間にシート軸方向の一定幅の隙間を形成している。
【0067】
図7、
図8は、座部及び弾性部間の軸方向の隙間を示す要部断面図である。
【0068】
周方向スリット31a、31bが形成する座受け面15a及び弾性部21a、21b間の隙間寸法をSとして、コイル巻線11の直径Dc、先端11aの厚みを1/4・Dcとし、
S≦1/4・Dc(
図7)又はS≧Dc(
図8)
とした。
【0069】
[コイルばねへの組み付け]
図2のように、コイルばね5のコイル軸心にばねシート部材1のシート軸心を合わせるようにして弾性部21a、21bを座巻部9に対向させる。
【0070】
この状態からばねシート部材1を座巻部9に押し付け圧入する。これに伴って各弾性部21a、21b間の軸方向スリット23a、23b側がコイルばね5の端部の内径部に当接してシート中心C方向への荷重を受ける。この荷重により軸方向スリット23a、23bを介して主に弾性片部21ab、21bbが基部21aa、21ba側に対してシート径方向へ弾性収縮変形する。
【0071】
この弾性変形と共に弾性部21a、21bがコイルばね5の内径部内へ摺動し、座巻部9が座部15の座受け面15aに当接する。この状態で弾性部21a、21bがコイルばね5の内径部側に位置し、
図1、
図3、
図4のように弾性片部21ab、21bbでコイルばね5の内径部側に弾接する。
【0072】
この圧入状態で、コイルばね5の端部と基部21aa、21baとの間に隙間を有している。
【0073】
そして、コイルばね5の座巻部9は、ばねシート部材1の座部15の座受け面15aに着座する。
【0074】
[ばねシート部材の作用]
図9は、ばねシート部材に係り、(A)は、変形前、(B)は、変形前後を示すスケルトン要部平面図、
図10は、比較例のばねシート部材に係り、(A)は、斜視図、(B)は、変形前後を示すスケルトン要部平面図である。
【0075】
本実施例のばねシート部材1がコイルばね5の端部に圧入されると、弾性部21a、21bの軸方向スリット23a、23b側で弾性片部21ab、21bbが圧入荷重を受けて
図2、
図5、
図6、
図9(A)の自由状態から
図4、
図9(B)のように変形する。弾性部21a、21bの軸方向スリット23a、23b側で弾性片部21ab、21bbは、シート中心C側へ同程度に変形する。
【0076】
この変形に際し、弾性部21a、21bの基部21aa、21baは、弾性片部21ab、21bbの軸方向スリット23a、23b側がシート径方向内側に変位するときの荷重を受ける。
【0077】
弾性片部21ab、21bbは、連結部17a、17bからシート周方向に寸法を確保しているため、基部21aa、21baに働く周方向での曲げ荷重を小さくすることができる。
【0078】
弾性片部21ab、21bbが変形するとき、周方向での曲げであり、且つ
図3、
図4、
図6のように、連結部17a、17b間の外郭寸法dは、コイルばね5のコイル内径に対し「d≦コイル内径」の関係において、連結部17a、17b及び基部21aa、21baとコイルばね5の端部の内径部との間に僅かな隙間があり、連結部17a、17b及び基部21aa、21baがコイルばね5の有効巻部や座巻部9側の内径部から径方向内側への倒れ方向の荷重を受けることが抑制され、連結部17a、17bに対する無理な曲げ荷重は殆ど発生しない。
【0079】
また、
図9(B)のように、弾性部21a、21bの軸方向スリット23a、23b側で弾性片部21ab、21bbは、シート中心C側へ同程度に変形するから、弾性部21a、21bの筒状の変形前後の中心は、シート中心Cからほとんど動くことがない。
【0080】
これに対し、
図10の比較例のばねシート部材1は、連結部17に対し単一の軸方向スリット23を挟んで一側の周方向に長い弾性片部21acと他側の短い弾性片部21bcとにより弾性部21が形成され、断面円形の筒状が構成されている。
【0081】
このため、弾性部21が座巻部から圧入荷重を受けると、連結部17に対して一側の周方向に長い弾性片部21acが短い弾性片部21bcよりも連結部17側へ
図10(B)のようにより大きく撓むことになる。
【0082】
この撓みにより、弾性部21の変形後の中心がシート中心CからHだけずれることになる。
【0083】
このため、比較例のばねシート部材1は、コイルばねへの取付後にシート中心Cと弾性部21及びコイルばね5の中心とに芯ずれを招く結果となる。
【0084】
次に、本実施例のばねシート部材1は、コイルばね5の端部に対する圧入状態において、
図4のように、弾性片部21ab、21bbがコイルばね5の端部の内径側の円形形状に倣うように変形して密に弾接する。
【0085】
したがって、コイルばね5の端部と弾性片部21ab、21bbとの間の摩擦力がコイルばね5に対するばねシート部材1の抜け力に抗する。
【0086】
ばねシート部材1のコイルばね5の端部に対する圧入状態では、軸方向スリット23a、23bを閉じた状態の設定にしてもよい。この場合、弾性片部21ab、21bbが先端の相互の突き当りでシート径方向外側へ膨らむようにし、コイルばね5の端部への弾接をより強く行なわせることもできる。
【0087】
かかるばねシート部材1を用いたばね組立て体では、上記ばねシート部材1の作用を備えたばね組立て体3となる。
【0088】
このばね組立て体3は、例えば、自動車のトランスミッションに使用されるロックアップダンパー用スプリング組立て体として構成される。
【0089】
ロックアップクラッチにトルク変動が入力されると、各ばね組立て体3が円周方向に圧縮され、次に元の状態に戻るという動作を繰り返す。このようにしてばね組立て体3が捩じり振動を吸収し絶縁する。
【0090】
この動作時に、コイルばね5とばねシート部材1とは圧入による固定のため、円周方向に同じように動作する。この結果、前記動作状態によってコイルばね5に捩じりが生じても、コイルばね5とばねシート部材1との動作は安定しており、ばね組立て体3のばねとシート部材が外れにくい。
【0091】
また、コイルばね5とばねシート部材1との固定は圧入による簡単な方法であり、コイルばね5の強度低下が生じにくい。
【0092】
圧入によって座部15に対し弾性部21a、21bが構成する筒状の芯ずれが殆ど無いため、捻り振動吸収時の挙動が安定する。
【0093】
前記のように
図7では、S≦1/4・Dcとしてあり、周方向スリット31にコイル巻線11の先端11aが入り込むことは無く、コイル軸方向の荷重Fが弾性部21a、21bに働くことも無い。
【0094】
同
図8では、S≧Dcとしてあり、周方向スリット31に座巻部9のコイル巻線11が入り込んでも、コイル軸方向の荷重Fが弾性部21a、21bに働くことは無い。
【0095】
[実施例1の効果]
本発明実施例1のばねシート部材1は、上記のように、コイルばね5の端部に当接可能な座部15と、座部15からシート軸方向に突出した連結部17a、17bと、連結部17a、17bにより前記座部15に結合された弾性部21a、21bとを備えた。
【0096】
このため、コイルばね5の端部にばねシート部材1の弾性部21a、21bを圧入したとき、弾性部21a、21bの外郭がコイルばね5の端部の内径部から圧入荷重を受けて弾性部21a、21bが連結部17a、17bに対して弾性変形し、コイルばね5の端部の内径部に弾接する。この弾接により、コイルばね5側の寸法ばらつきは、弾性部21a、21bの弾性変形により吸収することができる。
【0097】
こうして、本発明実施例1のばねシート部材1では、1種類のばねシート部材1でコイルばね5側の寸法ばらつきに対応できる等の利点が得られ、且つ部品点数も少なくなるなどの利点がある。
【0098】
このため、品種の増大を抑制し、製造、部品管理を容易とし、コスト削減を可能とする。
【0099】
しかも、前記連結部17a、17bは、シート周方向に複数分離して配置され、各弾性部21a、21bは、連結部17a、17bに結合された基部21aa、21baと、基部21aa、21baからシート周方向に片持ち状に伸びるシート径方向へ弾性変形可能な弾性片部21ab、21bbとからなり、前記各弾性部21a、21b間にシート周方向の隙間を形成して該各弾性部21a、21bの弾性変形を許容するシート軸方向に延びた軸方向スリット23a、23bを備え、自由状態で各弾性片部21ab、21bbに外接する仮想の第1の円C1の径が各基部21aa、21baに外接する仮想の第2の円C2の径を上回るように設定した。
【0100】
このため、コイルばね5の端部に圧入させたときに、各弾性片部21ab、21bbの変形をシート径方向への曲げとすることができ、基部21aa、21ba側のシート径方向内側への倒れを抑制して連結部17a、17bへの応力の働きを小さくし、又は無くすことができる。
【0101】
したがって、連結部17a、17bの塑性変形を抑制し、又は防止し、コイルばねの脱落を招き難くすることができる。
【0102】
また、各弾性部21a、21bの周方向への変形部分を長くすることもでき、基部21aa、21ba及び連結部17a、17b側への応力の働きを抑制し、変形の基部側となる連結部17a、17b側のシート径方向内側への倒れによる応力の働きをより小さくするか、無くすことができる。
【0103】
連結部17a、17bが一対対称に備えられているため、ばねシート部材1に対する弾性部21a、21bの結合をより安定させることができる。
【0104】
弾性部21a、21bは、軸方向スリット23a、23b側でコイルばね5の端部の内径部に弾接するから、ばねシート部材1とコイルばね5との位相がずれても軸方向スリット23a、23b側での圧入による固定力に変化は無く、抜け力に安定的に抗することができる。
【0105】
さらに、前記弾性部21a、21bは、前記各基部21aa、21baの外郭(外側面)間の寸法dよりも前記軸方向スリット23a、23b側での外郭間の寸法Dを大きくし、外郭寸法dは、コイルばね5のコイル内径に対し「d≦コイル内径」の関係を有している。
【0106】
このため、基部21aa、21ba側は、コイルばね5の有効巻部や座巻部9側の内径部から径方向内側へ倒れる曲げ荷重を受けることが抑制され、連結部17a、17bに対する無理な曲げ荷重は殆ど発生しない。したがって、連結部17a、17bが径方向へ倒れる曲げ方向での大きな応力作用は抑制され、連結部17a、17b側での塑性変形を抑制することができる。この塑性変形の抑制でコイルばね5のばねシート部材1からの脱落や耐久での折損を防止することができる。
【0107】
ばねシート部材1は、コイルばね5の端部の内径部に、軸方向スリット23a、23bの働きにより各弾性部21a、21bで弾接することができ、弾性部21a、21bがコイルばね5の端部の内径部に接触する力が緩衝され、コイルばね5の破損を防止し、耐久性を向上させることができる。
【0108】
組み付け状態においてコイルばね5の端部と弾性部21a、21bとの間の隙間が殆どないか、極めて小さくすることができ、ばね組立て体3としてがたつきを抑制し、コイルばね5に対するばねシート部材1の傾きを防止できる。
【0109】
弾性片部21ab、21bbが先端の相互の突き当りで圧入時および作動時に弾性部に許容以上の応力が発生することを確実に防止できる。
【0110】
加えて、弾性片部21ab、21bbが各軸方向スリット23a、23b側の外郭で概ね均等に弾性変形するため、コイルばね5とばねシート部材1との芯ずれを招き難くすることができる。
【0111】
このため、ロックアップダンパー用スプリング組立て体などとして構成したとき、動作時にコイルばね5に捩りが生じても、コイルばね5とばねシート部材1との動作は同心的となり、挙動を安定させることができ、シート部材の外れを防止することができる。
【0112】
図7、
図8のように、周方向スリット31にコイル巻線11の先端11aが入り込むことにより作用するコイル軸方向の荷重Fが弾性部21a、21bに働くことは無く、連結部17a、17bに無理な荷重が働くことは無く、耐久性を向上させ、コイルばね5のばねシート部材1からの脱落を招き難くすることができる。
【0113】
座部15は、円形状の平板であるから、ダブルスプリングに組み付けたとき、スプリングインナーの座巻部を座部15の座受け面15aで受けることができる。
【実施例5】
【0157】
図17、
図18は、実施例5に係り、
図17は、ばねシート部材の斜視図、
図18は、ばねシート部材の平面図である。なお、基本的な構成は実施例1と同様であり、対応する構成部分の同符号にEを付し、重複した説明は省略する。
【0158】
図17、
図18のように、本発明実施例5のばねシート部材1Eは、実施例1と同様にばね組み立て体として構成され、コイルばねの両座巻部、或いは一方の座巻部に取り付けられている。但し、
図17、
図18ではコイルばねを省略する。
【0159】
本実施例5のばねシート部材1Eは、筒状に配置された弾性部21Ea、21Ebが平面から見てほぼ楕円状に形成され、連結部17Ea、17Eb及び軸方向スリット23Ea、23Ebは、それぞれ一対備えられている。一対の連結部17Ea、17Ebは、シート中心を挟んで対向している。
【0160】
本実施例5のばねシート部材1Eの座部15Eは、リング状に形成され、座受け面15Ea及び円形の外縁15Ebの他に円形の内縁15Ecを備えている。
【0161】
一対の連結部17Ea、17Ebは、座部15Eの円形の内縁15Ecから立ち上げられている。
【0162】
筒状に配置された各弾性部21Ea、21Ebは、全体が湾曲した例えば渦巻き状の外郭を形成し、各弾性片部21Eab、21Ebbを備えている。
【0163】
各弾性部21Ea、21Ebの一端の湾曲した基部21Eaa、21Ebaが連結部17Ea、17Ebにそれぞれ一体に結合され、弾性片部21Eab、21Ebbがシート周方向で片持ち状となっている。
【0164】
各弾性部21Ea、21Ebの他端は、連結部17Ea、17Eb側で他方側の各弾性部21Ea、21Ebの基部21Eaa、21Ebaに対向し、軸方向スリット23Ea、23Ebを形成している。
【0165】
各弾性部21Ea、21Ebの湾曲は、連結部17Ea、17Eb側から曲率を徐々に小さくなるように形成している。
【0166】
したがって、連結部17Ea、17Eb側での外郭間の寸法dよりもこれに交差する各弾性部21Ea、21Ebの軸方向スリット23Ea、23Eb側での外郭間の寸法Dが大きくなっている。
【0167】
そして、本実施例の寸法dは、各基部21Eaa、21Ebaに外接する仮想の第2の円の径となる。寸法dは、基部21Eaa、21Ebaが円弧であることを考慮すると、基部21Eaa、21Ebaの弧状の位置に係わらず一定となる。
【0168】
本実施例の寸法Dは、圧入配置の前の自由状態で各弾性片部21Eab、21Ebbの先端に外接する仮想の第1の円の径となる。仮想の第1の円は、必ずしも各弾性部21Ea、21Ebの軸方向スリット23Ea、23Eb側先端にのみ外接するものに限らず、弾性部21Ea、21Ebの形状に応じ、各弾性部21Ea、21Ebの弾性片部21Eab、21Ebbにおいてシート周方向の中間部などの何れの位置で外接するものでもよい。
【0169】
そして、各基部21Eaa、21Ebaの外郭間の寸法dは、コイルばね5のコイル内径に対し「d=コイル内径」の関係にあり、圧入後に基部21Eaa、21Ebaとコイルばね5の端部の内径部との間に隙間は無くなる。
【0170】
弾性片部21Eab、21Ebbは、シート軸方向の第1の壁部19Ea及び第2の壁部19Ebからなっている。第1の壁部19Eaは、円筒状に形成され、連結部17Ea、17Ebに結合されている。第2の壁部19Ebは、第1の壁部19Eaから漸時傾斜形成され、弾性部21Ea、21Ebが構成する筒状が先細になっている。弾性片部21Eab、21Ebbの第2の壁部19Ebによる先細形状は、コイルばね5の端部を圧入するときのガイドとなる。
【0171】
他の構成は実施例1と同様である。
【0172】
このばねシート部材1Eは、実施例2等と同様に金属製のばね材、樹脂等で形成し、金属製のばね材で形成するとき、プレス加工等で成形することができる。
【0173】
そして、ばねシート部材1Eが前記コイルばね5の端部に圧入されると、各弾性部21Ea、21Ebが曲率を縮小するように圧入荷重を受ける。この圧入荷重を受けると軸方向スリット23Ea、23Ebで各弾性部21Ea、21Ebの変形を許容する。
【0174】
このため、弾性部21Ea、21Ebが構成する筒状がシート中心から移動することは無く、ばねシート部材1Eが動くことは殆ど無い。
【0175】
また、各弾性部21Ea、21Ebの弾性変形に際し、実施例1同様に弾性部21Ea、21Ebは、連結部17Ea、17Eb側でコイルばね5の有効巻部や座巻部9からシート径方向へ倒れる曲げ荷重を殆ど受けない。
【0176】
こうして、実施例1同様の作用効果を奏することができる。そして、本実施例の寸法d、D、仮想の第1、第2の円、その他の構成は、実施例1と同様であり、且つ「d<コイル内径」の関係も含まれる。
【実施例6】
【0177】
図19〜
図21は、実施例6に係り、
図19は、ばねシート部材の斜視図、
図20は、ばねシート部材の平面図、
図21は、ばねシート部材の分解斜視図である。なお、基本的な構成は実施例1と同様であり、対応する構成部分の同符号にFを付し、重複した説明は省略する。
【0178】
図19、
図20のように、本発明実施例6のばねシート部材1Fは、実施例1と同様にばね組み立て体として構成され、コイルばねの両座巻部、或いは一方の座巻部に取り付けられている。但し、
図19、
図20ではコイルばねを省略する。
【0179】
本実施例6のばねシート部材1Fは、座部15Fと連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fbとは、別部材であり、座部15Fと連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fbとの一方に形成された中心孔が他方に形成された円形凸部に嵌合し、一体に結合されたものである。一体に結合されることにより座部15Fからシート軸方向に連結部17Fa、17Fbが突出した構成となる。この別部材構造の詳細は後述する。
【0180】
本実施例6のばねシート部材1Fの座部15Fは、実施例1と同様に平面から見て円形状の平板で形成され、座受け面15Faと円形の外縁15Fbとを有している。
【0181】
本実施例6のばねシート部材1Fは、筒状に配置された弾性部21Fa、21Fbが平面から見て対称形状の楕円状に形成され、連結部17Fa、17Fb及び軸方向スリット23Fa、23Fbは、それぞれ一対備えられている。一対の連結部17Fa、17Fbは、シート中心を挟んで対向している。弾性部21Fa、21Fbの筒状の配置は、平面視で長円状等に形成することもできる。
【0182】
ばねシート部材1Fの別部材構造は
図21のようになっている。
図21のように、座部15Fには、中央部に円環状の突条部15Fdが形成されている。突条部15Fdは、連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fb側を圧入固定するためのものである。
【0183】
連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fbは一体に形成され、連結部17Fa、17Fbが固定リング部25により座部15Fに結合されている。固定リング部25には、嵌合孔25aが設けられている。
【0184】
座部15Fと連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fbとは、共に金属製のばね材、樹脂等で形成し、金属製のばね材で形成するとき、プレス加工等で成形することができる。座部15Fを切削加工、鍛造加工等で成形し、連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fbをプレス加工で成形することもできる。
【0185】
プレス加工の場合、連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fbは、まず固定リング部25と共に平板状態で打ち抜かれ、その後固定リング部25に対し連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fbが立ち上げ形成される。
【0186】
固定リング部25の嵌合孔25aが座部15Fの突条部15Fdに圧入またはカシメ固定され、
図19、
図20のようにばねシート部材1Fが形成される。この構造では、連結部17Fa、17Fbが固定リング部25を介して座部15Fからシート軸方向に間接的に突出するため、座部15Fからシート軸方向に連結部17Fa、17Fbが突出した構成となる。
【0187】
したがって、本実施例では、座部15Fと連結部17Fa、17Fb及び弾性部21Fa、21Fb側との組み合わせの自由度があり、設計自由度が拡大する。
【0188】
その他、実施例2と同様な作用効果を奏することができる。そして、本実施例の寸法d、D、仮想の第1、第2の円、その他の構成、及び「d≦コイル内径」の関係は、実施例1と同様である。
【0189】
なお、本実施例では、座部15Fの突条部15Fdの内側を貫通形成することもできる。この場合でも、ダブルスプリングのスプリングインナーを、各弾性部21Fa、21Fbと突条部15Fd外周側との間に嵌合させ、座受け面15Fa上の固定リング部25で受けさせることができる。固定リング部25は、座受け面となる。
【0190】
固定リング部25側に突条部15Fdを形成し、座部15F側に嵌合孔25aを形成することもできる。
【0191】
固定リング部25の嵌合孔25aに座部15Fの突条部15Fdを固定することなく、相対回転可能に結合させることもできる。
【0192】
この構造でも、連結部17Fa、17Fbが相対回転可能な固定リング部25を介して座部15Fからシート軸方向に突出するため、座部15Fからシート軸方向に連結部17Fa、17Fbが突出した構成となる。
【0193】
要するに、座部からシート軸方向に突出した連結部は、座部から一体に直接突出する形態の他、座部とは別部材であり一体ではないが、一体的又は相対回転可能に座部に後付けされた部分を介して座部から連結部が間接的に突出する形態の何れも含む。
[その他]
連結部及び軸方向スリットの数及び位置は、特に限定されない。