【課題を解決するための手段】
【0017】
その点に関して、本出願の発明者等は、白点または遊離ガラスいずれかに十分な影響なく、非常に高速で、すなわち、非常に高い生産高でガラス繊維強化ポリプロピレン組成物を製造することができる含浸剤を発見した。
【0018】
その程度まで、本発明は、少なくとも6.7m/sのライン速度でガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物を製造する方法であって、
a)少なくとも一本の連続ガラス
多繊維ストランドを提供する工程、
b)その少なくとも一本の連続
多繊維ストランドに、その組成物の質量に基づいて0.5から20質量%の含浸剤を施す工程、および
c)被覆連続
多繊維ストランドを形成するように、工程b)において得られたストランドの周りにポリプロピレン組成物の被覆を施す工程、
を有してなり、
その含浸剤は、含浸剤の質量に基づいて、少なくとも90質量%のマイクロクリスタリンワックスを含有するものである方法に関する。
【0019】
本出願の発明者等は、意外なことに、主にマイクロクリスタリンワックスを含有する含浸剤を使用することにより、非常に速い生産速度、すなわち、少なくとも6.7m/sのライン速度を達成できることを発見した。そのライン速度が6.7〜10m/sであることが好ましい。
【0020】
その点に関して、そのマイクロクリスタリンワックスは、ただ1つマイクロクリスタリンワックスまたはいくつかのマイクロクリスタリンワックスのブレンドであってもよいことを理解すべきである。さらに、その含浸剤は、前記組成物中の別個の成分であり、その製造中にガラス繊維の表面に通常施されるサイズ組成物(サイズ剤)と混同されるべきではないことを理解すべきである。その点に関して、「ガラス繊維」という用語は、ガラス
コアおよびそのガラス
コアと接触したサイズ組成物を有するガラス繊維を意味すると理解すべきである。ガラス繊維の製造にサイズ剤を使用することは、例えば、特許文献5から、よく知られており、ガラス
多繊維ストランドとも称されるロービングの製造にとって必須でさえある。もしくは、サイズ剤が存在しないと、ロービングに組み合わせ、ボビンに巻き付けられるガラス繊維を製造することが不可能になる。
【0021】
そのため、より詳しくは、本発明は、芯およびその芯を取り囲むポリプロピレン被覆を含むガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物であって、その芯はガラス繊維および含浸剤を含み、その含浸剤は、含浸剤の質量に基づいて、少なくとも90質量%のマイクロクリスタリンワックスを含有し、ガラス繊維は、ガラス
コアおよびそのガラス
コアと接触したサイズ組成物を含むものである、ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物を製造する方法に関する。
【0022】
マイクロクリスタリンワックスはよく知られた材料である。一般に、マイクロクリスタリンワックスは、固体の飽和脂肪族炭化水素の精製混合物であり、石油精製プロセスからの特定の留分を脱油することにより製造される。マイクロクリスタリンワックスは、分子構造がより分岐しており、炭化水素鎖がより長い(より高い分子量)という点で精製パラフィン蝋とは異なる。その結果、マイクロクリスタリンワックスの結晶構造は、パラフィン蝋よりもずっと微細であり、これは、そのような材料の機械的性質の多くに直接影響する。マイクロクリスタリンワックスは、パラフィン蝋と比べて、より強靱であり、より柔軟性であり、一般に、融点がより高い。微細な結晶構造により、マイクロクリスタリンワックスは、溶媒または油に結合することができ、それゆえ、組成物からの滲出が防がれる。マイクロクリスタリンワックスは、パラフィン蝋の結晶特性を変更するために使用されることがある。
【0023】
マイクロクリスタリンワックスは、いわゆるイソポリマー(iso-polymer)とも非常に異なる。まず始めに、マイクロクリスタリンワックスは石油系であるのに対し、イソポリマーはポリ−アルファ−オレフィンである。第二に、イソポリマーは、95%を超える非常に高度の分岐を有する一方で、マイクロクリスタリンワックスの分岐の量は、一般に、40〜80質量%の範囲にある。最後に、イソポリマーの融点は、一般に、マイクロクリスタリンワックスの溶融温度と比べて、比較的低い。全般的に、マイクロクリスタリンワックスは、パラフィン蝋またはイソポリマーのいずれとも混同されるべきではない異なる部類の材料を形成する。
【0024】
含浸剤の残りの多くとも10質量%は、天然または合成ワックスもしくはイソポリマーを含むことがある。典型的な天然蝋に、蜜蝋、ラノリンおよび獣脂などの動物系蝋、カルナウバ、カンデリラ、大豆などの植物蝋、パラフィン蝋、セレシン蝋およびモンタン蝋などの鉱蝋がある。典型的な合成ワックスとしては、ポリエチレンワックスまたはポリオールエーテルエステルワックス、塩素化ナフタレンおよびフィッシャー・トロプシュ由来ワックスなどのエチレン系高分子が挙げられる。イソポリマーまたは超分岐高分子の典型的な例に、上述したVybar 260がある。実施の形態において、含浸剤の残りの部分は、ポリエチレンワックス、パラフィンなどの1種類以上の高分岐ポリ−アルファ−オレフィンを含有する、またはそれらからなる。
【0025】
含浸剤は、ガラス繊維強化ポリプロピレン組成物中の別個の成分であるので、含浸剤は、一般に、(a)例えば、シラン、より具体的には、アミン官能性シラン、さらにより具体的には、有機官能性シラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、または3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのカップリング剤を含有しない。そのようなシランは特許文献5に開示されている。
【0026】
好ましい実施の形態において、含浸剤は、少なくとも95質量%の、より好ましくは少なくとも99質量%のマイクロクリスタリンワックスを含む。費用および物流を考慮して、含浸剤がマイクロクリスタリンワックスから実質的になることがさらにより好ましい。すなわち、含浸剤が、成分の混合物と比べて、単一成分材料であることが最も好ましい。
【0027】
言い換えると、含浸剤が実質上マイクロクリスタリンワックスからなることが最も好ましい。実施の形態において、含浸剤はパラフィンを含有しない。「実質上からなる」という用語は、含浸剤が、マイクロクリスタリンワックスからなり、酸化防止剤またはUV安定剤などの、安定化目的のための添加剤を少量、さらに含有することがあるように解釈されるべきである。しかしながら、「実質上からなる」という用語は、さらに別のワックスまたはワックス様材料が存在することを意味しない。
【0028】
好ましい実施の形態において、マイクロクリスタリンワックスは、以下の性質:
−ASTM D127にしたがって決定した、60から90℃の降下融点、
−ASTM D938にしたがって決定した、55から90℃の凝固点、
−ASTM D1321にしたがって決定した、0.7から4mmの25℃でのニードルペン貫通力、
−ASTM D445にしたがって決定した、10から25mPa・sの100℃での粘度、
−ASTM D721にしたがって決定した、マイクロクリスタリンワックスの質量に基づく0から5質量%の油含有量、
の1つ以上を有する。
【0029】
より好ましくは、マイクロクリスタリンワックスは、組合せで上述した性質を有する、すなわち、マイクロクリスタリンワックスは以下の性質:
−ASTM D127にしたがって決定した、60から90℃の降下融点と、
−ASTM D938にしたがって決定した、55から90℃の凝固点と、
−ASTM D1321にしたがって決定した、0.7から4mmの25℃でのニードルペン貫通力と、
−ASTM D445にしたがって決定した、10から25mPa・sの100℃での粘度と、
−ASTM D721にしたがって決定した、マイクロクリスタリンワックスの質量に基づく0から5質量%の油含有量と、
を有する。
【0030】
含浸剤の量は、様々であってよく、組成物の総質量に基づいて、典型的に、0.5から20質量%、好ましくは0.8から7質量%の範囲にある。
【0031】
含浸剤の量は、ガラス繊維の量に対して表されることもある。実施の形態において、含浸剤の量は、ガラス繊維の質量に基づいて、5から15質量%、より好ましくは7から15質量%である。
【0032】
含浸剤が、特許文献1に提示された要件を満たす、すなわち、含浸剤は、ポリプロピレン被覆のポリプロピレンと相溶性であり、不揮発性であり、ポリオレフィン被覆のポリオレフィンの融点より少なくとも20℃低い融点を有し、施用温度で2.5から100cSの粘度を有することが好ましい。相溶性の要件は、含浸剤が、少なくとも90質量%のマイクロクリスタリンワックスを含むことを考えれば、満たされている。
【0033】
ポリプロピレン組成物
(ポリプロピレン)のポリプロピレン組成物は、プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンランダムコポリマーなどのプロピレン−アルファオレフィンランダムコポリマー、異相プロピレンコポリマーと呼ばれることもある耐衝撃性プロピレンコポリマー、プロピレンブロックコポリマーに基づいてよい。複数のポリプロピレンの混合物も可能である。
【0034】
そのポリプロピレン組成物は、酸化防止剤、UV安定剤、難燃剤、顔料、染料、変性ポリプロピレン、特に、マレイン酸変性ポリプロピレンなどの接着促進剤、帯電防止剤、離型剤、核形成剤などのような添加剤および/または安定剤をさらに含有してもよい。
【0035】
前記ポリプロピレン組成物は、一般に、引き抜き成形法に使用されるポリプロピレン組成物と比べて著しく低いメルトフローレート(MFR)を有する。このように、このポリプロピレン組成物のMFRは、ISO 1133(2.16kg、230℃)にしたがって測定して、10〜100g/10分、好ましくは30〜80g/10分であってよい。前記ポリプロピレン組成物に比較的低いMFRを有するポリプロピレンを使用することが好ましい。何故ならば、それらの材料は、MFRが高いポリプロピレン材料よりも改善された機械的性質を本質的に有するからである。
【0036】
放出特性、すなわち、入射日光などの高温への暴露の際に放出されることのある低分子量材料の存在を考慮すると、ポリプロピレンが非レオロジー制御または非ビスブレーキポリプロピレンであることが好ましい。
【0037】
特別な実施の形態において、前記被覆の材料は、タルク、ガラス短繊維およびガラスなどの無機補強材、またはアラミド繊維、ポリエステル繊維、および炭素繊維などの有機補強材のような補強添加剤をさらに含有することがある。一般に、被覆材料は、被覆材料の質量に基づいて、約30質量%までそのような補強添加剤を含有してもよい。
【0038】
誤解を避けるために、「被覆(sheath)」という用語は、芯(
core)をきつく収容する層として考えるべきことを理解すべきである。
【0039】
本発明による方法におけるガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物は、一般に、その組成物の総質量に基づいて、10から70質量%のガラス繊維を有する。
【0040】
本発明に使用されるガラス繊維は、一般に、5から50マイクロメートル、好ましくは15から25マイクロメートルなどの10から30マイクロメートルの範囲の直径を有する。より細いガラス繊維は、一般に、ガラス繊維強化組成物から調製された最終製品中のガラス繊維のより高いアスペクト比(長さ対直径比)をもたらし、けれども、より細いガラス繊維は、製造および/または取扱いがより難しいであろう。本発明による方法において、ガラス繊維が、ガラスロービングとも称されるガラス
多繊維ストランドを起源とすることが好ましい。
【0041】
そのガラス
多繊維ストランドまたはロービングは、好ましくはストランド当たり500から10000のガラス
単繊維、より好ましくはストランド当たり2000から5000のガラス
単繊維を含有する。その
多繊維ストランドの線密度が1000から5000texであることが好ましく、これは、1000メートル当たり1000から5000グラムに相当する。通常、ガラス繊維は、断面が円形であり、先に定義されたような厚さが直径を意味することを意味する。
【0042】
ロービングは、一般に入手でき、当該技術分野によく知られている。適切なロービングの例に、例えば、1200または2400texで得られる、SE4220、SE4230、またはSE4535と示される、3B Fibre Glass companyから入手できるAdvantex製品、もしくはPPG Fibre Glassから入手できるTUFRov 4575、TUFRov 4588がある。
【0043】
本発明の方法により製造されるような組成物がペレットの形態にあることが好ましい。そのペレットは5から40mmの長さを有することが好まし
く、例えば8から20mm、
より好ましくは10から18mm
である。当業者には、ペレットが、円形断面を有する実質的に円柱状であることが好ましく、けれども、例えば、楕円、三角形または(丸められた)正方形のような他の断面形状も、本発明の範囲に含まれることが理解されよう。
【0044】
そのペレットにおいて、ガラス繊維は、一般に、長手方向に延在し、その結果、互いに実質的に平行にある。長手方向に延在するガラス繊維は、ペレットの長さの95%と105%の間、より詳しくは99%と101%の間の長さを有する。繊維の長さがペレットの長さと実質的に同じであることが理想的であるが、ある程度のずれ、ねじれ、またはプロセスの不正確さのために、長さは上述した範囲内で変動してよい。
【0045】
方法
本発明による方法は、一般に、ワイヤ被覆法として知られている。ワイヤ被覆は、連続ガラス
多繊維ストランド(ロービング)をワイヤ被覆ダイに通過させることによって行われる。そのダイは、ダイを通るガラス
多繊維ストランドの方向に対して実質的に垂直な開口を通じて溶融ポリプロピレン組成物を供給する押出機に取り付けられている。このように、熱可塑性高分子は、基本的に、「被覆」されるべき「ワイヤ」であるガラス
多繊維ストランドを被覆または被包する。そのようなプロセスが、特許文献5にも開示されており、根本的な違いは、特許文献5には、熱可塑性ポリオレフィンによる被覆の前に、含浸剤の適用を必要としないことである。
【0046】
当業者には、ガラス繊維および含浸剤を含むペレットの芯は、長手方向にポリオレフィン被覆にしか取り囲まれないことが理解されるであろう。それゆえ、ペレットの芯は、2つの切断面、すなわちペレットが切断された位置に対応する断面で環境に暴露される。この理由のために、ガラス繊維がポリオレフィン被覆に不十分に結合された際に、ガラス繊維はペレットから分離し、先に説明したように、遊離ガラスとなるであろう。
【0047】
本発明による方法において、工程b)が含浸位置で行われ、工程c)が被覆位置で行われ、よって、含浸位置が被覆位置から、多くとも100cm、好ましくは多くとも50cm、より好ましくは多くとも25cmしか離れていないことが好ましい。含浸位置と被覆位置の間の距離が、できるだけ小さいことが好ましく、10cm未満であることさえある。厳密にそれに束縛する意図はないが、本出願の発明者等は、含浸剤を施した後に、比較的迅速にポリプロピレン被覆を施すことが有益であると考えている。何故ならば、これにより、含浸剤がより長い時間に亘り比較的高温に維持され、これは転じて、ガラス
多繊維ストランドの含浸を改善できるからである。含浸位置と被覆位置の間の距離が長すぎると、含浸剤は、施された後に、粘度を急激に増加させる、または被覆の施用前に、固化さえするかもしれず、それはおそらく、ガラス
多繊維ストランドの含浸をより悪化させるであろう。
【0048】
本発明の方法により製造されたガラス繊維強化ポリプロピレン組成物は、公知の後続加工技術による物品または構造部品の製造に使用してもよい。そのような技術に、射出成形、押出成形、加圧成形などがある。
【0049】
本発明の組成物の一般的な用途は、高剛性を要する構造部品である。
【0050】
例えば、本発明の組成物は、バンパー、計器パネル支持体、ドアモジュール、テールゲート、前部モジュール、アクセルペダルモジュール、エアバッグ筐体、空気路、サンルーフ構造、蓄電池外箱などの自動車部品の製造に使用できる。
【0051】
あるいは、本発明の組成物は、自動車または非自動車いずれかの任意の構造用途のための基本的な構築ブロックを形成する棒材、シート、管またはパイプの製造に使用できる。
【0052】
その上、本発明の組成物は、洗濯機、洗濯乾燥機のような屋内電気器具、コーヒーメーカー、トースター、冷蔵庫、掃除機などの電化製品の製造に使用してもよい。