【実施例】
【0021】
以下に試験例を示し、本発明を具体的に説明する。
試験1.筋肉に対するマイオカイン産生促進作用確認試験
(1)試験方法
筋肉組織モデルとして培養横紋筋細胞によって形成された筋管組織を用いた。
1)筋管形成
培養マウス横紋筋細胞C2C12株(DSファーマバイオメディカル株式会社)を用い、筋管を形成させた。増殖用培地にはFBS10%含有DMEM high glucose(GIBCO)にペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma Aldrich/)を1%配合したものを用いた。C2C12細胞の継代にはT75フラスコを用い、1フラスコ当たり細胞数が1.5×10
5cellsとなるように播種した。
継代後2〜3日で細胞密度がフラスコ面積の60〜70%となったことを顕微鏡観察によって確認し、0.05% Trypsin−EDTAを用いて細胞を剥離した。次いで、0.02%のコラーゲン(株式会社高研)でコートした6−well plateに、1ウェル当たり細胞数が1.8×10
4 cellsとなるように播種した。
その後細胞がコンフルエントに達したことを確認した後、増殖用培地を分化用培地に切り替えた。
分化用培地は、DMEM high glucose(GIBCO)にHorse serum2%含有させた培地に、非必須アミノ酸溶液(NEAA:Sigma Aldrich)を1%、ペニシリン/ストレプトマイシンを1%添加したものを用いた。培地切り替えから3〜7日後、筋管が十分形成されていることを顕微鏡で確認した。筋管組織が形成されたものを以下の試験に用いた。
なお、すべての細胞培養環境は37℃、5%CO
2とした。
【0022】
2)マイオカイン産生促進試験(IL−6)
上記で調製した分化3日目の筋管組織を用いてマイオカイン産生促進効果を試験した。
試験に用いた精油は、市販されている香料用の精油であって、ローズマリー精油(RM ローズマリー油,香栄興業)、カモミール精油(RM ローマカミツレ油,PATAN & BERTRAND)、ニュウコウジュ精油(ニュウコウジュ油,山本香料),及びメントール (L−メントール, 和光純薬工業)及び酢酸リナリル(和光純薬工業)、リナロール(和光純薬工業)、α−ピネン(和光純薬工業)、リモネン(和光純薬工業)を用いた。また陽性対照として、筋肉組織にマイオカイン産生を促進させることが明らかな合成ペプチド、MG−132(Z−Leu−Leu−Leu−CHO:American Peptide)を用いた。これらの添加成分は、分化培地に添加後超音波破砕装置にて均一に分散させた。
各精油及びメントールは、培地中の濃度が0.01質量%及び0.05質量%、酢酸リナリル、α−ピネン、リモネンは0.3mM、リナロールは0.03mMになるように添加し、1時間培養した後に新しい分化培地に入れ替え、その5時間培養後に培地の上清を回収し、マイオカインの変化を測定した。マイオカインの指標としてIL−6量を測定した。IL−6の測定は、マウス・ラット可溶性タンパクMaster Buffer Kit(日本ベクトンディッキンソン)およびマウス可溶性タンパクFlex set IL−6(日本ベクトンディッキンソン)を用いて、FACS Calibur(日本ベクトンディッキンソン)を用いて、回収した培地上清中に含まれるIL−6タンパク質量を測定した。
【0023】
3)マイオカイン産生促進試験(Angplt4)
上記で調製した分化3日目の筋管組織を用いて、脂質代謝に関わるマイオカインの1つであるAngptl4の産生促進効果を遺伝子発現レベルで試験した。
試験に用いた精油は、市販されている香料用のカモミール精油を用い、分化培地に添加後超音波破砕装置にて均一に分散させた。
精油は、培地中の濃度が0.01質量%、0.1質量%になるように添加し、1時間培養した後に新しい分化培地に入れ替え、その3時間培養後に細胞からRNAを抽出した。RNAからcDNAへの逆転写には、PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ)及びTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標)GradientTP600(タカラバイオ)を用いた。定量PCR反応には、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(商標)II(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ)及びLightCycler 480 system II(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いた。ハウスキーピング遺伝子としてβグルコシダーゼ(Gusb)を用いた。なおマウス配列を基にしたGusb及びAngptl4のプライマーの配列(配列1〜4)を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
(2)試験結果
図1(0.01質量%)、及び
図2(0.05質量%)に各精油及びメントールによるIL−6産生量促進効果を測定した結果を示した。なお測定結果は対照(コントロール)の産生量を1とした相対値で示した。
図1、
図2からローズマリー精油、カモミール精油、ニュウコウジュ精油、メントールはいずれもIL−6の産生を促進することが確認できた。また、マイオカイン産生を促進させることが明らかな合成ペプチドMG−132でも、毎試行IL−6産生の促進を確認できた。
図3に酢酸リナリル、リナロール、α−ピネン、リモネンによるIL−6産生量促進効果を測定した結果を示した。なお測定結果はコントロールの発現量を1とした相対値で示した。
図3から明らかなように、酢酸リナリル、リナロール、α−ピネン、リモネンはいずれもIL−6の産生を促進することが確認出来た。
図4にカモミール精油によるAngptl4遺伝子の発現促進効果を測定した結果を記した。なお測定結果はコントロールの発現量を1とした相対値で示した。
図4からカモミール精油がIL−6の産生のみならず、Angptl4遺伝子の発現をも促進することが確認出来た。
【0026】
試験2.乳酸蓄積によるマイオカイン産生能抑制確認試験
乳酸蓄積による筋肉のマイオカイン産生能抑制を確認した。その試験について次に説明する。
(1)試験方法
試験1と同様に筋肉組織モデルとして培養横紋筋細胞によって形成された筋管組織を用いた。
1)筋管形成
試験1と同様に筋管を形成させた。これを試験に用いた。
【0027】
2)乳酸負荷によるマイオカイン産生抑制の確認試験
上記で調製した分化3日目の筋管組織を用いて試験を行った。
【0028】
3)乳酸負荷
分化誘導後3日後および7日後の筋管を乳酸0〜40mMを含む培地で24時間培養した後培養上清を回収し、試験1と同様の方法で培地中のIL−6を測定した。
【0029】
(2)試験結果
図5(分化3日目)、
図6(分化7日目)に、筋管の産生するIL−6の測定結果を示す。
図5、6から明らかなように乳酸は筋肉のマイオカイン産生機能を抑制していることが確認できた。
【0030】
試験3.乳酸蓄積によるマイオカイン産生能抑制試験
乳酸蓄積による筋肉のマイオカイン産生能抑制確認をした。その試験について次に説明する。
(1)試験方法
試験1と同様に筋肉組織モデルとして培養横紋筋細胞によって形成された筋管組織を用いた。
1)筋管形成
試験1と同様に筋管を形成させた。これを試験に用いた。
【0031】
2)乳酸負荷によるマイオカイン産生抑制からの回復試験
上記で調製した分化3日目の筋管組織を用いて試験を行った。
【0032】
3)乳酸負荷
分化誘導後3日後筋管を、乳酸20mMを含む培地で1時間培養、又は乳酸20mMと各精油又はメントール0.01質量%を添加した培地で1時間培養後、新しい分化培地に入れ替え、その5時間培養後に培養上清を回収し、試験1と同様の方法で培地中のIL−6を測定した。
【0033】
(2)試験結果
図7に筋管の産生するIL−6の測定結果を示す。測定結果は対照(乳酸、精油又はメントール無添加)の産生量を1とした相対値で示した。
図7から明らかなように、乳酸は筋肉のマイオカイン産生機能を抑制するが、精油又はメントールを添加することで、乳酸によるマイオカイン産生抑制作用を解消し、マイオカインの産生を促進することが明らかとなった。また乳酸蓄積に伴う機能低下を予防できることが明らかとなった。
【0034】
以上の試験1、試験2、試験3の結果から植物由来の精油又はメントールは筋肉組織に作用してマイオカイン産生を促進させ、さらに運動不足や血行不良に伴う乳酸の蓄積による影響を解消する作用を有しているということができる。
【0035】
試験4.マイオカインが線維芽細胞に及ぼす効果試験
筋肉組織近傍に存在する線維芽細胞に対する効果を確認した。
(1)試験方法
1)細胞培養
線維芽細胞としてBALB/3T3cell (継代22回) を用いた。これをT25培養フラスコ1枚に細胞密度1×10
4cells/cm
2になるように播種し、3日間培養した。次いで、0.025% trypsin−EDTAで細胞を剥離して回収し、さらに96well plate 5枚に、1×10
4cells/mlで播種した。
コンフルエントの80%に増殖した状態で、培地交換を行った。
交換用培地は、試験1に示したC2C12細胞の分化用培地を用いて培養した7日目の培地を回収し、これを3T3細胞の培地に、表2に示した配合比率で混合した。
培地交換24時間後にCell Counting Kit−8(同仁化学研究所)を用いて細胞数を測定した。
【0036】
【表2】
【0037】
2)線維芽細胞(3T3)のミトコンドリア活性の測定
線維芽細胞としてBALB/3T3 cell(継代22回) を用いた。これをT25培養フラスコ1枚に細胞密度1×10
4cells/cm
2になるように播種し、3日間培養した。次いで、0.025% trypsin−EDTAで細胞を剥離して回収し、さらにT75フラスコ2枚に、0.8×10
4cells/mlで播種した。
コンフルエントの80%に増殖した状態で、培地交換を行った。
交換用培地は、試験1に示したC2C12細胞の分化用培地を用いて培養した7日目の培地を回収し、これを3T3細胞の培地に、表2に示した配合比率で混合した。
培地交換24時間後にMitoProbe(商標)JC−1アッセイ(Molecular probes)によりミトコンドリア膜電位を測定した。
【0038】
3)線維芽細胞(3T3)のコラーゲンゲル収縮測定
線維芽細胞としてBALB/3T3 cell(継代22回)を用いた。これをT25培養フラスコ1枚に細胞密度1×10
4cells/cm
2になるように播種し、3日間培養した。次いで、0.025% trypsin−EDTAで細胞を剥離して回収し、さらにT75フラスコ2枚に、0.8×10
4cells/mlで播種した。
コンフルエントの80%に増殖した状態で、培地交換を行った。
培地交換6日後に細胞を剥離して回収し、表3に示す組成のコラーゲンゲルに播種した。培地は、試験1に示したC2C12細胞の分化用培地を用いて培養した7日目の培地(Sup)を回収し、表4に示した配合比率で混合したものを各々添加した。
7日間培養し、コラーゲンゲルの収縮を観察して撮影し、得られた画像をImage−Jを用いてゲルサイズを測定し収縮率を算出した。
コラーゲンゲルの調製及び収縮測定は特開2011−157281号公報に記載された方法に従った。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
(2)結果
1)細胞数
図8に測定結果を示す。
7日目のC2C12細胞の分化用培地(Sup)の添加量に対応して線維芽細胞数が増加した。筋管組織から分泌されるマイオカインが線維芽細胞の増殖に寄与したものと考えられた。
【0042】
2)ミトコンドリア膜電位
図9にJC1の測定結果を示す。線維芽細胞(3T3)のミトコンドリア膜電位が、筋管培養上清(Sup)の濃度依存的に低下することが確認された。
【0043】
3)コラーゲンゲル収縮
コラーゲンゲルの収縮状態を観察した結果得られた収縮率を
図10に示す。
線維芽細胞(3T3)入りコラーゲンゲルが、筋管培養上清(Sup)の濃度依存的に収縮することが観察された。
以上の試験結果から、次のことが明らかとなった。
筋管培養上清により、線維芽細胞(3T3)の増殖が起こり、ミトコンドリア膜電位の低下が認められた。これは筋管培養上清に含まれるマイオカインにより線維芽細胞賦活が起こり、細胞が増殖し、また増殖したことによりミトコンドリア膜電位の低下が起こったと考えられた。
コラーゲンゲル収縮法は、I型コラーゲンゲル中に線維芽細胞を包埋し通常の培養条件下で培養を行うと、コラーゲンゲルの体積が収縮する現象が観察される。コラーゲンゲル収縮の程度は細胞数が多いほど、あるいは培地中の血清濃度が高いほど大きいことが知られている。また、高齢者由来の線維芽細胞では若齢者由来の線維芽細胞と比較してゲルの収縮能力が低下することが明らかになっており、真皮線維芽細胞包埋コラーゲンゲルの収縮能力の測定は、加齢に伴う真皮の弾力やハリ、たるみ予防改善用薬剤の評価方法として用いられている。筋管培養上清によるコラーゲンゲル収縮が認められたことは、筋管培養上清に含まれるマイオカインが、たるみなどの皮膚機能に関する抗老化作用を持つことが考えられた。
以上のことより、植物由来の精油又はメントールは、マイオカイン産生を促進し、さらに産生されたマイオカインは皮膚細胞賦活(増殖)に働くことにより、コラーゲンゲルを収縮させ、皮膚のたるみやシワを改善するものと考えられた。