【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例による与信判断支援システム1000を示す。本実施例の与信判断支援システム1000は、画面表示部1110と、入力部1120と、個人情報管理部1130と、抽出部1140と、モデル計算部1150と、フォロー判定部1160と、フォロー処理部1170と、外部情報取得部1180と、金融口座DB1210と、個人情報DB1220と、モデル記憶用DB1230と、決済情報DB1240と、フォロー結果DB1250と、制御部1310と、インターフェイス部1320とを備える。ここで、DBとは、DataBase(データベース)の略称であり、それぞれの情報を記憶する手段である。
【0020】
画面表示部1110は、与信にあたり、必要な情報を提示する手段である。
【0021】
入力部1120は、必要な情報を与信判断支援システム1000に対してデータを与える手段である。
【0022】
個人情報管理部1130は、顧客の個人情報(年収、勤務先など)を管理する手段である。なお、本実施例において、ユーザ、被融資者、顧客は同義で使用する。
【0023】
抽出部1140は、必要な情報を抽出する手段である。
【0024】
モデル計算部1150は、抽出されたデータに基づいてスコアリングモデルを構築したり、特化係数などの比較可能な数値を計算する手段である。
【0025】
フォロー判定部1160は、顧客へのフォローの内容を判定する手段である。
【0026】
フォロー処理部1170は、顧客に対してフォローを実行する手段である。
【0027】
外部情報取得部1180は、外部のデータベース等にアクセスして、情報を取得する手段である。例えば、顧客の信用情報などを取得する。
【0028】
金融口座DB1210は、顧客の金融口座の情報を記憶する手段である。
【0029】
個人情報DB1220は、顧客の個人情報(年収、勤務先など)を管理する手段である。
【0030】
モデル記憶用DB1230は、延滞モデルや貸倒モデルなどを記憶する手段である。
【0031】
決済情報DB1240は、金融決済情報を記憶する手段である。
【0032】
フォロー結果DB1250は、顧客に対して実行されたフォローおよびそのフォローに対する結果(顧客の対応など)を記憶する手段である。
【0033】
制御部1310は、与信判断支援システム1000の内部にある各部や各DBを制御する手段である。例えば、プロセッサなどでもよい。
【0034】
インターフェイス部1320は、与信判断支援システム1000の外部のサーバや端末などとデータを送受信する手段である。
【0035】
本実施例において、「延滞」とは、金融機関が決めた返済日を越えて、返済が滞ることある。「軽度延滞」は「延滞」の日数が短いことであり、「重度延滞」は、「延滞」の日数が長いことであるが、本願明細書においては、説明の便宜のため、金融機関が決めた返済日を越えた所定期間内を「軽度延滞」とし、所定期間を越えると「重度延滞」であるとする。「貸倒」とは、貸付金などが回収できなくなることである。「正常」とは、それ以外の状態であること、すなわち、「軽度延滞」「重度延滞」「貸倒」以外の状態を示す。
【0036】
本実施例のスコアリングモデル作成にあたっては、ロジスティック回帰モデルを利用する。ロジスティック回帰モデルは、デフォルト確率(予測デフォルト確率:PD:Probability of Default)を算出するための一般的な手法である。
デフォルト確率は、以下の式により求められる。
【0037】
次に、個人信用情報明細モデルについて説明する。個人信用情報明細モデルは、本発明の予め定められたスコアリングモデルの一例であり、個人信用情報に含まれる情報に基づくデータを入力データとし、デフォルト確率を出力データとするスコアリングモデルである。個人信用情報明細モデルは、予め蓄積された複数の個人信用情報に対して統計処理等を施すことで得ることができる。本実施形態の個人信用情報明細モデルは、ロジスティック回帰分析を用いて構築されたものであり、次の式1、及び、式2で表される。
【0038】
Z=β0+β1×x1+β2×x2・・・ (式1)
【0039】
PD=1/(1+exp(−Z))・・・ (式2)
【0040】
式1のZはスコアであり、x1、x2・・・は説明変数、β0、β1・・・はロジスティック回帰分析によって予め決定されているパラメータである。式2のPDはデフォルト確率(Possibility of Default)であり、expはe(自然対数の底)を底とする指数関数を表す。
【0041】
説明変数x1、x2・・・が個人信用情報明細モデルの入力データであり、デフォルト確率が個人信用情報明細モデルの出力データである。デフォルト確率は、説明変数x1、x2・・・の基となる個人信用情報が表す顧客のデフォルト確率である。デフォルト確率とは、貸し倒れや延滞、あるいは債務者区分変更や条件変更など、当初契約していた条件での貸出先からの返済が滞る確率、すなわち、貸出先が将来的に債務不履行の状態に陥る確率である。本実施例においては、「軽度延滞」または「重度延滞」または「貸倒」の状態に陥る確率である。
【0042】
説明変数の一例を以下に示す。
説明変数x1:顧客属性情報
説明変数x2:顧客金融口座情報
説明変数x3:顧客信用内部情報(借入額、クレジットの申込内容や契約内容、支払状況、残高などから与信された金融機関内部で与信されて生成された信用情報など)
説明変数x4:顧客信用外部情報(金融機関の外部から取得した信用情報など)
説明変数x5:顧客金融行動情報(コンビニATMの利用回数、時間外利用多発など)
説明変数x6:顧客フォロー情報(顧客フォロー結果)
【0043】
これら説明変数に使用される情報(パラメータ)は、延滞や貸倒と相関関係がある。例えば、金融機関に預けられている金融残高が低い顧客の方が、延滞や貸倒を生じやすい傾向(すなわち、デフォルト確率が高くなる傾向)を有していることが一般的である。本実施例では、このような傾向を有している情報を活用して、延滞および貸倒を予測するモデルを作成する。
【0044】
パラメータβ0からβ6までは、例えば、予め与信判断支援システム1000が蓄積した個人信用情報である基礎情報を用いて、与信判断支援1000がロジスティック回帰分析を行うことで決定する。パラメータβ0からβ6までは、本発明のシステムとは別の情報処理装置が決定してもよい。
【0045】
説明変数x1は、顧客属性情報であり、金融機関が有している情報である。説明変数x1は、年齢を基に計算される。更に、就業形態、住所変更履歴、姓変更履歴、性別を基に計算されてもよい。更に、例えば、氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、及び、勤務先等の情報、顧客年齢、就業形態など金融機関が有している情報である。顧客年齢は、顧客の生年月日を基に計算される。就業形態については、会社などの法人や団体等に勤務しているか否か、若しくは会社等を経営している経営者か否か、若しくは、無職か否かなどの観点で判別される。以下、個人信用情報明細モデルと比較するモデルについて説明する。ここでは、個人信用情報明細モデルと比較するスコアリングモデルとして、属性モデル、及び、属性個人信用情報明細モデルを挙げる。
【0046】
属性モデルが個人信用情報明細モデルと異なるのは、説明変数として属性データのみが使われる点である。属性データは、顧客がローン等の契約の申込書に記入したデータである。属性モデルでは、属性データとして、職種、従業員数、勤続年数、業種、住居形態、勤務形態、未既婚、就職時年齢、子供人数、同居家族数、年齢、性別、業種と規模、家族状況、年収、及び、借入に関する情報が使われる。
【0047】
属性個人信用情報明細モデルが個人信用情報明細モデルと異なるのは、説明変数として、個人信用情報明細モデルの説明変数に加えて、属性データが使われる点である。属性個人信用情報明細モデルでは、属性データとして、住居形態、勤続年数、及び、年収に関する情報が使われる。
【0048】
以下、説明変数のパラメータ、当該パラメータの説明、当該パラメータにおけるデフォルト確率との関係性の一例について説明する。以下の説明変数を使用する際には、1つのパラメータを使用してもよく、複数のパラメータの組み合わせを使用してもよい。
【0049】
【表1】
【0050】
説明変数x2は、顧客金融口座情報であり、顧客が有している預金残高や取引履歴などである。顧客金融口座情報(説明変数x2)は、顧客金融口座情報(融資)と、顧客金融講座情報(預金)に細分化しもよい。更に、顧客金融情報(その他)に細分化してもよい。かかる場合において、顧客金融口座情報(融資)は、契約状況、借入残高(住宅ローン、自動車ローン、教育ローンなどを個別に分けてもよい)、を基に計算される。更に、その他のパラメータを基に計算されてもよい。
顧客金融口座情報(預金)は、預金月末残高(普通預金、定期預金などを個別に分けてもよい)、預金月中平均残高を基に計算される。
【0051】
顧客金融口座情報(その他)は、投資信託、保険などの契約状況、自社(自行)発行のクレジットカードの契約状況を基に計算されてもよい。
【0052】
【表2】
【0053】
説明変数x3は、顧客信用内部情報(借入額、クレジットの申込内容や契約内容、支払状況、残高などから与信された金融機関内部で与信されて生成された信用情報)である。例えば、借入額や支払残高、消化率(借入限度額のうち、いくらまで利用しているかの割合)、返済履歴(延滞有無)に基づいて計算されてもよい。個人信用情報は、ローン等の契約内容や支払い状況等を表す情報である。
【0054】
【表3】
【0055】
説明変数x4は、顧客信用外部情報であり、金融機関の外部から取得した信用情報である。説明変数x4は、個人信用情報の照会件数や頻度、借入残高、返済実績(自社口座以外での延滞有無など)、ネガティブ情報の有無に基づいて計算されてもよい。
【0056】
【表4】
【0057】
説明変数x5は、顧客金融行動情報であり、顧客金融行動情報(受動的)と顧客金融行動情報(能動的)に細分化してもよい。
【0058】
顧客金融行動情報(受動的)は、給与振込件数および金額、口座引落失敗件数を基に計算される。更に、付加的には、給与振込件数および金額に加えて、年金振込件数および金額、配当金受取件数および金額などの入金件数および金額に基づいて計算されてもよい。更に、付加的には、入金件数及び金額に加えて、公共料金口座引落件数、金額、種類(電気、ガス、水道など)、学費引落件数、金額、種類(授業料、保育料など)、他社(他行)発行クレジットカード口座引落件数、金額、種類などの出金件数および金額に基づいて計算されてもよい。更に、付加的には、口座引落失敗件数に加えて、公共料金口座引落失敗件数、金額、種類(電気、ガス、水道など)、学費引落失敗件数、金額、種類(授業料、保育料など)、他社(他行)発行クレジットカード口座引落失敗件数、金額、種類などに基づいて計算されてもよい。
【0059】
【表5】
【0060】
顧客金融行動情報(能動的)は、ATM利用回数、件数、場所、曜日、時間帯を基に計算される。更に、付加的には、窓口利用回数、件数、場所、曜日、時間帯や、インターネットバンキング利用回数、件数、場所、曜日、時間帯を基に計算されてもよい。コンビニATMの利用回数、時間外利用多発は、ATM(現金自動預け払い機:Automatic Teller Machine)の利用回数を記録しておき、例えば、ある所定期間において、金融機関のATMの利用回数、コンビニエンスストア等に設置されているATMの利用回数、時間外利用回数などの利用場所や利用回数などを記録しておく。
【0061】
【表6】
【0062】
説明変数x6は、顧客フォロー情報であり、前回のフォロー内容およびフォロー結果を基に計算される。
【0063】
【表7】
【0064】
個人信用情報の変化を予測し、個人信用情報取得の必要性を判断する。具体的には、本実施例のスコアリングモデルで、貸倒に至る第1ステップに「引落失敗」を想定し、具体的には、コンビニATMや時間外利用多発なので予測する。これにより、実質的に全ての顧客の情報を取得することと同じ効果を得られる。
【0065】
本実施例において、上述した説明変数の各パラメータにおける(デフォルト確率との)関係性は、延滞でも貸倒でも同様の傾向を有していることが必要であり、延滞と貸倒で異なる傾向を有してはいけない。ここで、同様の傾向とは、例えば、あるパラメータの値が上昇するように変化すると、延滞においても貸倒においてもデフォルト確率が上昇(または下降)するように変化する関係性である(ただし、延滞と貸倒とで変化の程度は異なってもよい)。一方、異なる傾向とは、例えば、あるパラメータの値が上昇するように変化すると、延滞においてはデフォルト確率が上昇するように変化するが、貸倒においてはデフォルト確率が下降若しくは変化しないような関係性である。
【0066】
なお、本実施例では、ロジスティック回帰モデルを使った例を説明したが、別の実施例として、サポートベクターマシン、決定木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、ディープラーニングなどの手法(スコアリングモデル)を用いても、本実施例と同様の入力変数(パラメータ)を用いて、デフォルト確率を算出とすることができる。
【0067】
図3は、フォロー処理部1170が参照する処理テーブルを示す。
まず、前回判定結果を参照する。本実施例においては、前回判定結果は、「なし」「正常」「軽度延滞」「重度延滞」「貸倒」である。そして、前回判定結果に対して、本実施例のシステムが顧客に対して実行したフォローに対して、当該顧客が対応したか否かを確認する。本実施例においては、顧客が対応した場合は「対応済」であり、顧客が対応しなかった場合は「未対応」である。そして、前回判定の判定結果および顧客対応と、今回判定とのマトリックスにより、該当する項目を、本実施例のシステムが新たなフォローを実行する。また、当該新たなフォローに対する顧客の対応についても、本実施例の任意の記憶手段(図示せず)に記憶するように構成されてもよい。例えば、前回の判定結果が「なし」(すなわち、今回の判定が初回の判定である場合)は、前回の顧客対応も「なし」なので、今回の判定を参照する。今回判定が、正常の場合は、「静観」(すなわち、本実施例のシステムは顧客に対して何もフォローをおこさない)し、「軽度延滞」の場合は、顧客が使用しているスマートフォンのアプリケーションに対して「軽度延滞」が発生している旨の通知を表示させたり、顧客のメールアドレス宛に、「軽度延滞」している旨の電子メールを自動送信するようにしたりしてもよい。また、「重度延滞」の場合は、金融機関の顧客担当者から顧客に対して、フォローコール(直接電話をかけて、自立支援や返済支援の提案などをする)をするように構成されてもよい。また、「貸倒」の場合は、直ぐに「与信停止」をしてもよい。なお、顧客対応の判定および記録にあたっては、フォロー毎に異なってもよく、アプリ/メール通知にあたっては、アプリの通知が既読判定された場合は、自動送信されたメールに返信をしたときに、システムが「対応済」であると判定し、それ以外の場合は「未対応」であると判定してもよい。また、フォローコールの場合には、フォローコールの電話が、本システムに登録された相手先の電話に着信すれば、自動的に「対応済」であると判定してもよく、また、金融機関の担当者が、顧客とのフォローコールにおける対話において顧客の反応に応じて、「対応済」「未対応」を決定する、もしくは(自動登録された顧客対応の内容を)変更するように構成されてもよい。
【0068】
データの構築について説明する。
【0069】
以下の表(分析対象の抽出件数・割合の例)に示すように、分析対象となる各状態(正常、軽度延滞、重度延滞、貸倒)の件数(割合)を以下のようにする。例えば、正常の件数を任意に設定する(本実施例では、30万件)。そして、また、正常では無い状態の合計の件数(割合)を、正常の状態の件数(割合)よりも小さく(本実施例では、正常の件数の10分の1である1万件)なるように設定する。ここで、正常では無い状態(軽度延滞、重度延滞、貸倒)のそれぞれの件数(割合)が互いに等しくなるように設定されている。
【0070】
スコアリングモデル構築の際に使用するデータに関して、予測する状態の重み付けの調整について説明する。
【0071】
一般的に、予測する各状態は、「軽度延滞」、「重度延滞」、「貸倒」の順に件数が少なくなるため、単純に構築したスコアリングモデルは件数の順に従うので、「軽度延滞」の特性が強く反映されてしまう。そこで、以下の表に示すように、分析対象となる各状態(正常、軽度延滞、重度延滞、貸倒)の件数(割合)を以下のように設定する。例えば、正常の件数を任意に設定する(本実施例では、30万件)。そして、正常ではない状態(軽度延滞、重度延滞、貸倒)を。正常の状態よりも小さく(本実施例では、正常の件数の10分の1である1万件)なるように設定する。ここで、正常ではない状態(軽度延滞、重度延滞、貸倒)のそれぞれの件数(割合)が互いに等しくなるように設定されている。
【0072】
このようなスコアリングモデルを構築するために、本実施例では、まず、任意のデータベースから収集可能な(または所望の)貸倒の件数を決定する。そして、その貸倒の件数と同数の軽度延滞および重度延滞を抽出する。抽出方法は、ランダムに決定してよい。そして、正常ではない件数(軽度延滞、重度延滞、貸倒の合計の件数)または貸倒単独の件数よりも大きな数(例えば、10倍などの所定の倍率)となるような正常の件数(且つデータベースから収集可能な件数)を決定し、正常の個々のデータをランダムに抽出してもよい。別の実施例として、正常の件数を基準にして、延滞や貸倒の件数を決定してもよい。もし、データベースに記録されている正常、延滞、貸倒の件数が、上述した手順で決定した件数に満たない場合は、抽出不可能であるので、数値(件数や倍率)を手動または自動で変更できる旨を表示するように、本システムが構成されてもよい。
【0073】
本実施例のようにスコアリングモデルを構築することによって、本来件数の多い「軽度延滞」の重み付けを減らし、本来件数の少ない「貸倒」の重み付けを増す効果を実質的に得ることができる。
【0074】
一般的に、正常の件数が一番多く、軽度の延滞、重度延滞、貸倒の順に件数が少なくなる。よって、本実施例では、まず、収集可能な(または所望の)貸倒の件数を決定する。そして、その貸倒の件数と同数の軽度延滞および重度延滞を抽出する。抽出方法は、ランダムに決定してよい。そして、正常ではない件数(軽度延滞、重度延滞、貸倒の合計の件数)または、貸倒単独の件数よりも大きな数(例えば、統計処理上少なくとも10倍)となるような正常の件数を決定し、正常の個々のデータをランダムに抽出してもよい。別の実施例として、正常の件数を基準にして、延滞や貸倒の件数を決定してもよい。更に別の実施例として、取得すべき件数全体を決定して、まずはランダムに取得した後に、正常、延滞、貸倒の件数の比率を計算し、比率が所定範囲内(例えば、正常:延滞:貸倒=100:10:1を基準に、それぞれの件数がプラスマイナス10%以内)に収まるように、必要な件数を追加してもよい。
【0075】
ここで、正常の件数と正常ではない(非正常)件数との割合の関係については、後述するランク付けとの関係で、調整することができる。例えば、ランクを10段階に分けた場合に、1段階から6段階まで(上位ランク)は、正常であると判定でき、7段階から9段階まで(中位ランク)は、延滞(軽度延滞でも重度延滞でもよい)であると判定でき、最後の10段階(下位ランク)が、貸倒と判定できるというようなモデルを構築したいと顧客が本システムに指定したときに、本システムは、このようなモデルが構築できるか否かを判定し、このようなランク付けで判定できない場合は、正常の件数と正常ではない件数との割合を調整する。例えば、正常と判定できるランクの範囲が狭い場合は、正常の件数を増加する(本実施例では、10倍よりも大きくする)または非正常の件数を減少するように調整すればよく、逆に、正常と判定できるランクの範囲が広い場合は、正常の件数を減少する(本実施例では、10倍よりも小さくする)または非正常の件数を増加するように調整すればよい。なお、以下の表で示した件数は、おおよその数である。
【0076】
【表8】
【0077】
上述した実施例においては、延滞の件数と貸倒の件数が(実質的に)等しい例について説明したが、延滞の数と貸倒の件数に差がある例について説明する。
一般的に、延滞(重度延滞および軽度延滞)の件数は、貸倒の数の数十倍以上(例えば、延滞:貸倒=40:1)あるので、単純に、正常、延滞、貸倒の件数を抽出しても、1つのスコアリングモデルでは、延滞および/または貸倒を高い確度で予測することはできない。一方で、貸倒の件数は、正常や延滞のデータと比較して非常に少ないので、延滞と貸倒の件数を実質等しい数だけ取得できない場合もある。かかる場合には、統計処理上許容される範囲内で、延滞と貸倒の件数を取得してもよい。一例として下表に示すように、延滞と貸倒の数の差が10倍程度までであれば、実施例1は実施可能である。そして、正常の件数は、延滞の件数に対して10倍程度以上取得する。
【0078】
【表9】
【0079】
図2は、本発明の一実施例によるスコアリングモデル作成に関する情報処理のフローチャートを示す。S2010−S2030は、上表(分析対象の抽出件数・割合の例)で説明したような手順で実行される。なお、S2010−S2030については、上述したように、手順が入れ替わってもよい。S2040は、S2010−S2030で抽出されたデータを用いて、前述したような説明変数などを用いてスコアリングモデルを構築する。
【0080】
図3は、本発明の一実施例による定期的な与信に関する情報処理のフローチャートを示す。
【0081】
S3010は、事前に作成されたスコアリングモデルを取得する。
【0082】
S3020は、状態を判定したい任意の顧客について、S3010で取得したスコアリングモデルを用いて、正常、延滞、貸倒などの顧客の状態を判断する。
【0083】
S3030は、前回の記録と今回(S3020)の状態に基づくフォローを実行(フォローコールなど)する。ここで、フォローとは、融資をしている金融機関が顧客に対する行動であり、後述するような判定テーブルを用いて実行する。
【0084】
S3040は、フォロー結果を記録する。具体的には、判定テーブルによって、判定されたフォロー(顧客に対してとった行動)と、当該フォローに対する顧客の反応(例えば、フォローに対して、対応したか否か)を、所定のデータベースに記録する。
【0085】
スコアリングモデルの出力結果を予測する状態「軽度延滞」「重度延滞」「貸倒」の関係について説明する。「軽度延滞」「重度延滞」「貸倒」の各状態と、それ以外の状態である「正常」の割合について、それぞれが比較可能な調整を行う。本実施例においては、それぞれの状態の平均値を1に揃えた特化係数を用いた。比較可能な調整できる値であれば、偏差値などの特化係数でなくてもよい。
【0086】
以下の表では、特化係数の数値例を示す。以下の表に示すように、例えば、スコアを10段階に分けた場合に、1段階から6段階まで(上位ランクと称する)は、正常であると判定でき、7段階から9段階まで(中位ランクと称する)は、延滞(例えば、7段階を軽度延滞、8段階と9段階を重度延滞に分けてもよい)であると判定でき、10段階(下位ランクと称する)を貸倒と判定できるようなモデルを構築したいと顧客が本システムに指定したときに、本システムは、このようなモデルが構築できるか否かを判定し、このようなスコア付けで判定できない場合は、正常の件数と正常ではない件数との割合を調整する。具体的には、前述したように、延滞と貸倒の件数(割合)がそれぞれ同程度になるように調整する。
【0087】
【表10】
【0088】
従来、予測対象を「貸倒」または「延滞(軽度延滞及び/または重度延滞)」として、単純に1つモデル式を使って強引に予測しようとすると、スコアと状態の序列が担保されなくなる(
図4(a)を参照)。すなわち、最下位スコアのほとんどが貸倒ではなく延滞である可能性があり、貸倒と延滞の状態を正しく予測できなくなるという問題点があった。このような問題点が生じる理由の1つは、延滞はある程度の件数が発生するが、貸倒までに至る件数は現実的には少なく、単純に貸倒または延滞をひとつのモデルで予測すると、延滞の傾向に引っぱられるからである。一例を示すと、全体で10,000件のケースのうち、延滞が3,000件(全体の30%)あったとすれば、貸倒は100件(1%)であることが知られている。
一方、本実施例では、分析対象の抽出件数・割合の例でも説明したように、延滞と貸倒の件数(割合)がそれぞれ同程度になるように調整すると共に、延滞と貸倒の両方において、デフォルト確率の関係性が同じような傾向を有するようなパラメータを利用することにより、上述したような問題点が生じることはなく、スコアと状態の序列(正常−>延滞−>貸倒)を担保することができるようになる(
図4(b)を参照)。
【0089】
フォロー判定テーブルについて説明する。最初のフォローに関しては、前回の判定がないので、最初の判定(今回判定を参照)に対応したフォローをする。例えば、今回判定が正常の場合は、静観(金融機関から顧客へは何もしない)をし、軽度延滞の場合は、スマートフォンのアプリケーションや電子メールを通じて、軽度延滞が発生している旨を顧客に連絡し、重度延滞の場合は、金融機関から顧客に対して電話をする(フォローコール)をし、貸倒の場合は、与信停止(貸付停止)をする。ここで、軽度延滞と重度延滞の場合は、金融機関からのフォローに対する顧客の対応を記録する。例えば、軽度延滞のメール通知に対して、顧客からメールの返信の有無をデータベースに記録する。
【0090】
【表11】
【0091】
ここで、フォロー判定テーブルにおいて、催告通知とは、例えば、書面で返済を迫ったり、期限までに返済がない場合には法的手段をとる旨を通知したりすることである。また、訪問ヒアリングとは、例えば、実際に金融機関の担当者が、融資先(顧客の自宅など)に訪問することである。なお、催告通知や訪問ヒアリングをした場合に、顧客の対応結果(対応したか未対応か)を、金融機関の担当者が与信判断支援システムの入力部1120からデータを入力する。なお、入力部1120からデータ入力ができるフォロー結果(催告通知、フォローコール、訪問ヒアリングなど)の場合に、対応結果が未入力対策として、仮のフォロー結果(例えば「未対応」)が予めデータ入力されていてもよい。
【0092】
そして、初回の判定後の任意の期間経過後に、次の判定(以下、第2回判定と称する)をおこなう。第2回判定でも初回判定と同様に、正常、軽度延滞、重度延滞、貸倒のいずれかに該当するか否かを判定する。そして、前回判定結果(初回判定結果)、そのフォロー、その顧客対応をデータベースから取得する。そして、
図8のテーブルを参照して、第2回判定に加えて、前回判定の判定結果、フォロー、顧客対応を加味して、次のフォロー内容を決定する。例えば、第1回判定が正常で、金融機関からのフォローが正常だった場合に、第2回判定が正常だった場合には、金融機関は、静観を続けるか利用促進(金融機関から顧客へ更なる運転資金等の融資を提案する)をする。このような手順で判定することにより、顧客に対して適切な対応をすることができるようになる。
【0093】
なお、フォロー判定テーブルは、複数種類のものを任意のデータベースに記憶しておき、顧客毎及び/または金融機関毎に選択できるようにしてもよい。