(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アセト酢酸エステルアルカリ金属塩と1,10−ジヨードデカンとを反応させた後、硫酸を用いて脱炭酸することにより製造された2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法であって、
水を1.0質量%以上10.0質量%以下の割合で含む、メタノールと水との混合溶媒を用いて、前記2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶させることを特徴とする2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法。
前記溶解工程で得られた前記再結晶溶液中における前記2,15−ヘキサデカンジオンの含有率が1質量%以上30質量%以下である請求項2に記載の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法。
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法で得られた2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を用いて、当該2,15−ヘキサデカンジオンの分子内縮合反応により、3−メチルシクロペンタデセノン類を得ることを特徴とする3−メチルシクロペンタデセノン類の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[2,15−ヘキサデカンジオンの合成方法]
まず、本発明の精製方法によって精製される2,15−ヘキサデカンジオンの合成方法について説明する。
【0019】
2,15−ヘキサデカンジオンの製造は、(CH
3COCHCOOR)
−M
+の式で示されるアセト酢酸エステルアルカリ金属塩(Mはアルカリ金属)と、I(CH
2)
10Iの式で示される1,10−ジヨードデカンとを反応させた後、硫酸を用いて脱炭酸する方法により行うことができる。
【0020】
より具体的には、例えば、水に任意に混和する非プロトン性有機溶媒(例えば、アセトン)とアセト酢酸エステル(例えば、アセト酢酸エチル)とを混合した後に、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム)を添加して所定時間反応させ、アセト酢酸エチルアルカリ金属塩を合成する。
【0021】
その後、単離したアセト酢酸エチルアルカリ金属塩と、1,10−ジヨードデカンとを反応させる。
【0022】
反応終了後、減圧蒸留により前記非プロトン性有機溶媒を留去し、酸性の水溶液(例えば、塩酸)を加えて中和した後に分液処理を行う。
【0023】
分離した上層の有機層とアルカリ性水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)とを室温下にて混合、撹拌してけん化反応(エステル加水分解)を行った後に、硫酸を添加して脱炭酸反応を行う。
【0024】
脱炭酸反応終了後、分液処理にて上層の有機層を分離し、室温まで冷却させることにより、2,15−ヘキサデカンジオンが析出し、微黄色結晶物として得ることができる。
【0025】
[2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法]
次に、本発明の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法について説明する。
【0026】
2,15−ヘキサデカンジオンは、上述したような方法により合成された物を用いることができる。
【0027】
ここで、メタノール等のアルコールを溶媒として用いて、再結晶法により精製した場合、上記の脱炭酸反応で用いた硫酸が残留していると、酸が触媒となり、ケトン部分に一部がアルコールと縮合反応してヘミアセタール、アセタールに変性してしまい、収率の低下につながる(下記式(1)参照)。これに対し、本発明の精製方法では、ヘミアセタール化およびアセタール化を抑制し、収率を落とさないで、より高純度に2,15−ヘキサデカンジオンを精製することができる。
【0029】
すなわち、本発明の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法は、アセト酢酸エステルアルカリ金属塩と1,10−ジヨードデカンとを反応させた後、硫酸を用いて脱炭酸することにより製造された2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法であって、水を1.0質量%以上10.0質量%以下の割合で含む、メタノールと水との混合溶媒を用いて、前記2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶させることを特徴とする。
【0030】
本発明によれば、所定のメタノールと水との混合溶媒を用いて再結晶することにより、精製時における副反応(ヘミアセタール化反応、アセタール化反応)を抑制しつつ、目的とする2,15−ヘキサデカンジオンを、副生成物等や未反応成分から、比較的温和な条件で、容易かつ効率よく分離することができる。
【0031】
なお、本明細書における再結晶とは、2,15−ヘキサデカンジオンを溶媒に溶解させた後に、再び2,15−ヘキサデカンジオンを結晶として得る操作をいう。
【0032】
本発明の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法により得られる2,15−ヘキサデカンジオンの精製物は、いかなる用途のものであってもよいが、3−メチルシクロペンタデセノン類の合成に用いられるものであるのが好ましい。
【0033】
3−メチルシクロペンタデセノン類は、高価なものであり、従来に比べて、さらに高い選択性、高い収率で3−メチルシクロペンタデセノン類を合成することが求められている。一方、本発明の精製方法で精製された2,15−ヘキサデカンジオンを用いることにより、従来に比べて、高い選択性、高い収率で、目的とする3−メチルシクロペンタデセノン類を得ることができる。すなわち、2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を3−メチルシクロペンタデセノン類の合成原料として用いる場合には、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0034】
以下の説明では、2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を3−メチルシクロペンタデセノン類の合成原料として用いる場合について、中心的に説明する。
【0035】
<混合溶媒>
本発明の方法では、再結晶溶媒として、所定のメタノールと水との混合溶媒を用いる。
【0036】
2,15−ヘキサデカンジオンは、メタノールには溶けるが水には溶けにくい。主溶媒として良溶媒であるメタノールに、貧溶媒である水を加えることで、混合溶媒全体に対する2,15−ヘキサデカンジオンの溶解度を低下させ、より好適に2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶させることができる。また、ヘミアセタールおよびアセタールは、メタノールには比較的高い溶解度で溶解するが水には溶けにくい。また、水を混合することで、ケトン部分のヘミアセタール化反応、アセタール化反応を好適に抑制することができる。これにより、2,15−ヘキサデカンジオンを高収率、高純度に精製することができる。
【0037】
このように、本発明では、「再結晶時の目的物変性の抑制」と「目的物の溶媒への溶け込み低減」の2つの作用により、2,15−ヘキサデカンジオンをより高収率、高純度での再結晶を可能とした。
【0038】
特に、本発明の精製方法で用いる混合溶媒は、メタノールと水とが予め混合されたものであり、水を1.0質量%以上10.0質量%以下の割合で含むものである。
【0039】
これにより、ヘミアセタール化反応、アセタール化反応をより効果的に抑えつつ、2,15−ヘキサデカンジオンをより好適に溶解することができる。
【0040】
これに対し、このような条件を満足しない再結晶溶媒を用いた場合には、満足のいく結果が得られない。
【0041】
例えば、再結晶溶媒として、水の含有率が前記下限値未満のもの(水を含有しないメタノールを含む)を用いた場合、2,15−ヘキサデカンジオンのヘミアセタール化反応、アセタール化反応が進行しやすくなり、2,15−ヘキサデカンジオンの精製物中における不純物の含有率が高くなったり、2,15−ヘキサデカンジオンの精製物の収率が低下したりする等の問題を生じる。
【0042】
また、再結晶溶媒として、水の含有率が前記上限値以上のもの(メタノールを含有しない水を含む)を用いた場合、再結晶溶媒への2,15−ヘキサデカンジオンの溶解性が著しく低下するため、2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶させるために、再結晶溶媒への溶解時の条件をより過酷なものとしたり、再結晶溶媒の使用量を増やしたりする必要が生じる。その結果、2,15−ヘキサデカンジオンの精製中に新たに不純物を生成したり、再結晶後に再結晶溶媒中に溶解状態で残存する2,15−ヘキサデカンジオンの割合が高くなり、2,15−ヘキサデカンジオンの精製物の収率が低下する。
【0043】
また、精製すべき2,15−ヘキサデカンジオンと混合される溶媒の組成が最終的に前記のような条件を満足したとしても、上記のような条件を満足しない混合溶媒を用いなかった場合には、前記のような優れた効果は得られない。
【0044】
例えば、上記の混合溶媒を用いずに、先に水を用いると、その後にメタノールを添加したとしても、2,15−ヘキサデカンジオンが溶けにくくなってしまい、2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶させることが困難となる。
【0045】
また、メタノールの代わりに他のアルコールを用いた場合も、好適に2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶させることができない。また、メタノール以外のアルコールは、一般に、メタノールよりも高価である。
【0046】
混合溶媒中における水の含有率は、1.0質量%以上10質量%以下であればよいが、2.0質量%以上8.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましい。
【0047】
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。特に、2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を原料として3−メチルシクロペンタデセノン類を製造した際の選択率、収率をより高いものとすることができる。
【0048】
混合溶媒中におけるメタノールの含有率は、90質量%以上99質量%以下であるのが好ましく、92質量%以上98質量%以下であるのがより好ましく、95質量%以上97質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0049】
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。特に、2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を原料として3−メチルシクロペンタデセノン類を製造した際の選択率、収率をより高いものとすることができる。
【0050】
混合溶媒中におけるメタノールの含有率をXM[質量%]、混合溶媒中における水の含有率をXH[質量%]としたとき、0.01≦XH/XM≦0.11の関係を満足するのが好ましく、0.02≦XH/XM≦0.09の関係を満足するのがより好ましく、0.03≦XH/XM≦0.06の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0051】
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。特に、2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を原料として3−メチルシクロペンタデセノン類を製造した際の選択率、収率をより高いものとすることができる。
【0052】
混合溶媒は、メタノールおよび水以外の成分(以下、「その他の成分」という)を含んでいてもよい。ただし、混合溶媒中におけるその他の成分の含有率は、3.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.2質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0053】
再結晶法としては、温度による溶解度差を利用する方法、溶媒を濃縮する方法等が挙げられ、本発明においては、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができるが、以下の方法により行うのが好ましい。すなわち、本発明の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法は、混合溶媒に2,15−ヘキサデカンジオンを溶解して再結晶溶液とする溶解工程と、再結晶溶液を加熱する加熱工程と、再結晶溶液を2,15−ヘキサデカンジオンの結晶析出温度である第1の温度まで冷却する第1の冷却工程と、再結晶溶液を第1の温度で所定時間保持する保持工程と、析出した2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶溶液から分離する固液分離工程とを有するのが好ましい。
【0054】
これにより、より短時間で、2,15−ヘキサデカンジオンを、さらに高収率、高純度で精製することができる。
【0055】
また、本実施形態の精製方法では、上記の工程に加えて、保持工程と固液分離工程との間に、再結晶溶液を第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却する第2の冷却工程を有しており、さらに、固液分離工程の後に、固液分離された固相を洗浄する洗浄工程、および、固相を乾燥する乾燥工程を有している。
【0056】
以下、各工程について説明する。
<溶解工程>
溶解工程では、前述した混合溶媒に2,15−ヘキサデカンジオンを溶解して再結晶溶液とする。
【0057】
再結晶溶液中における2,15−ヘキサデカンジオンの含有率は、特に限定されないが、1質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、3質量%以上25質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0058】
これにより、最終的に得られる2,15−ヘキサデカンジオンの精製物中における不純物の含有率をより低くすることができるとともに、再結晶後の溶媒に残存する2,15−ヘキサデカンジオンの割合をより低くすることができ、2,15−ヘキサデカンジオンの収率をより高めることができる。また、短時間で効率よく再結晶を進行させることができる。また、必要以上の混合溶媒を用いないため、省資源、コスト低減の観点からも有利である。
【0059】
なお、本工程終了時において、2,15−ヘキサデカンジオンは完全に溶解していなくてもよい。このような場合であっても、後に詳述する加熱工程で、2,15−ヘキサデカンジオンを好適に溶解させることができる。
【0060】
<加熱工程>
加熱工程では、再結晶溶液を加熱する。
【0061】
これにより、2,15−ヘキサデカンジオンをより好適に混合溶媒に溶解させることができる。
【0062】
加熱工程における加熱温度は、通常、室温以上の温度で、かつ、使用される混合溶媒の沸点未満の温度である。
【0063】
再結晶溶液の加熱温度(最高温度)は、35℃以上64℃以下であるのが好ましく、40℃以上64℃以下であるのがより好ましく、45℃以上64℃以下であるのがさらに好ましい。
【0064】
これにより、2,15−ヘキサデカンジオンをさらに好適に混合溶媒に溶解させることができ、後の工程で冷却した際に、温度による溶解度差に応じて、より好適な純度および収率で結晶化を行うことができる。
【0065】
これに対し、加熱温度が前記下限値未満であると、2,15−ヘキサデカンジオンの溶解性を十分に高めることができず、加熱工程を行うことによる効果が十分に得られない可能性がある。また、加熱温度が前記上限値を超えると、省エネルギーの観点から好ましくなく、また、本工程での溶媒の蒸発量が増加する。
【0066】
本工程では、再結晶溶液を攪拌するのが好ましい。
これにより、2,15−ヘキサデカンジオンをさらに好適に溶解させることができる。
【0067】
攪拌方法としては、特に限定されるないが、例えば、マグネチックスターラーを用いる方法、攪拌機を用いる方法、手動で攪拌する方法等が挙げられる。
【0068】
<第1の冷却工程>
第1の冷却工程では、再結晶溶液を2,15−ヘキサデカンジオンの結晶析出温度である第1の温度まで冷却する。
【0069】
再結晶溶液を結晶析出温度である第1の温度まで冷却すると、通常、結晶の析出開始を目視により確認することができる。
【0070】
第1の温度は、混合溶媒の組成や使用量等により異なるが、0℃以上55℃以下であるのが好ましく、3℃以上53℃以下であるのがより好ましく、5℃以上51℃以下であるのがさらに好ましい。
【0071】
これにより、再結晶溶液中に溶解している2,15−ヘキサデカンジオンをより好適に析出させることができる。
【0072】
再結晶溶液の冷却方法としては、例えば、空冷、水冷、氷冷、溶媒冷、風冷、冷蔵、恒温槽を用いた方法等が挙げられる。
【0073】
第1の冷却工程における再結晶溶液の冷却速度は、0.05℃/分以上2.0℃/分以下であるのが好ましく、0.1℃/分以上1.5℃/分以下であるのがより好ましく、0.2℃/分以上1.0℃/分以下であるのがさらに好ましい。
【0074】
これにより、2,15−ヘキサデカンジオンからの不純物の分離をより高精度に行うことができ、また、比較的大きな結晶を得ることができ、後の工程での分離がより容易となる。また、工業的にも好ましい速度で析出させることができる。
【0075】
<保持工程>
保持工程では、再結晶溶液を第1の温度で所定時間保持する。
【0076】
これにより、再結晶溶液中に溶解している2,15−ヘキサデカンジオンのうち、より多くの2,15−ヘキサデカンジオンを析出させることができる。また、析出する結晶をより大きく成長させることができ、後の工程での分離をより好適に行うことができ、収率をさらに向上させることができる。
【0077】
保持工程における保持時間としては、10分間以上5.0時間以下が好ましく、20分間以上4.0時間以下がより好ましく、30分間以上3.0時間以下がさらに好ましい。
【0078】
これにより、再結晶溶液中に溶解している2,15−ヘキサデカンジオンをより好適に析出させることができる。また、工業的にも好ましい時間で析出させることができる。
【0079】
再結晶溶液を第1の温度で保持する方法としては、例えば、恒温槽を用いるのが好ましい。これにより、再結晶溶液を第1の温度でより好適に温度保持することができる。
【0080】
なお、保持工程では、前述した第1の温度の範囲内で温度変動があってもよい。ただし、保持工程での温度の変動幅は、7℃以下であるのが好ましく、5℃以下であるのがより好ましく、3℃以下であるのがさらに好ましい。
【0081】
<第2の冷却工程>
第2の冷却工程では、再結晶溶液を第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却する。
【0082】
これにより、再結晶溶液中に溶解している2,15−ヘキサデカンジオンを、より好適に析出させるとともに、析出した結晶が精製の途中段階で、再溶解してしまうことをより好適に防止することができる。また、析出する結晶をさらに大きく成長させることができる。
【0083】
第2の温度は、混合溶媒の組成や使用量等により異なるが、−15℃以上15℃以下であるのが好ましく、−10℃以上12℃以下であるのがより好ましく、3℃以上10℃以下であるのがさらに好ましい。
【0084】
これにより、再結晶溶液中の2,15−ヘキサデカンジオンをさらに好適に析出させることができ、さらに高純度の2,15−ヘキサデカンジオンをさらに高収率で得ることができる。
【0085】
第2の冷却工程における再結晶溶液の冷却速度は、0.05℃/分以上2.0℃/分以下であるのが好ましく、0.1℃/分以上1.5℃/分以下であるのがより好ましく、0.2℃/分以上1.0℃/分以下であるのがさらに好ましい。
【0086】
これにより、より高純度の2,15−ヘキサデカンジオンをより好適に析出させることができる。また、工業的にも好ましい速度で析出させることができる。
【0087】
<固液分離工程>
固液分離工程では、析出した2,15−ヘキサデカンジオンの結晶(固相)を再結晶溶液(液相)から固液分離する。
【0088】
これにより、2,15−ヘキサデカンジオンからの不純物の分離が高精度かつ容易にできるので、高品質の2,15−ヘキサデカンジオンを容易に得ることができる。
【0089】
結晶化が完了した再結晶溶液からの固液分離方法は特に限定されないが、例えば、遠心分離、ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過等の方法で分離することができる。これにより、固相を液相からより効率よく分離することができる。
【0090】
固液分離は、再結晶溶液を冷却した状態(例えば、第2の温度に保持した状態)で行うのが好ましい。これにより、析出した2,15−ヘキサデカンジオンの結晶が精製の途中段階で、再溶解してしまうことをより好適に防止することができる。
【0091】
固液分離された液体部分である溶媒は、再結晶溶媒(母液)として再利用可能である。これにより、再結晶溶液中に残存している2,15−ヘキサデカンジオンをより有効に使用することができる。
【0092】
<洗浄工程>
洗浄工程では、固液分離された2,15−ヘキサデカンジオンの結晶を洗浄する。
【0093】
これにより、不純物をより効果的に除去することができ、純度をさらに高めることができる。
【0094】
洗浄には、例えば、再結晶溶媒として説明したのと同様の組成の溶媒(洗浄溶媒)を用いることができる。ただし、溶解工程で用いた再結晶溶媒と、本工程で用いる溶媒とは、同一の組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。
【0095】
洗浄溶媒は、冷却して用いるのが好ましい。
これにより、2,15−ヘキサデカンジオンの再溶解を抑制し、2,15−ヘキサデカンジオンの収率の低下をより効果的に防止しつつ、不純物を効果的に除去することができる。
【0096】
洗浄溶媒による洗浄は、1回のみ行ってもよいが、複数回行うのが好ましい。
これにより、不純物をより効果的に除去することができ、2,15−ヘキサデカンジオンの純度をさらに高めることができる。効率の観点から、洗浄溶媒による洗浄は、例えば、2回以上4回以下行うのが好ましい。
【0097】
洗浄に用いた溶媒は、再結晶溶媒として再利用可能することができる。
これにより、溶媒に溶け込んだ2,15−ヘキサデカンジオンをより有効に使用することができる。
【0098】
<乾燥工程>
乾燥工程では、得られた固相を乾燥する。
【0099】
乾燥方法としては、例えば、ろ紙上での風乾、真空デシケーターでの減圧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
以上のようにして、2,15−ヘキサデカンジオンが、微黄色結晶物として得られる。
【0100】
このように、本発明によれば、変性を抑制しつつ、目的とする2,15−ヘキサデカンジオンを副生成物等や未反応成分から、比較的温和な条件で、容易かつ効率よく分離することができる。より具体的には、ケトン部分のヘミアセタール化、アセタール化を抑制しつつ、目的とする2,15−ヘキサデカンジオンをより好適に析出させることができる。
【0101】
[3−メチルシクロペンタデセノン類の製造方法]
次に、本発明の3−メチルシクロペンタデセノン類の製造方法について説明する。
【0102】
本発明の3−メチルシクロペンタデセノン類の製造方法は、前述した本発明の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法で得られた2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を用いて、当該2,15−ヘキサデカンジオンの分子内縮合反応により、3−メチルシクロペンタデセノン類を得ることを特徴とする。
【0103】
これにより、下記式(2)で示される3−メチルシクロペンタデセノン類を高選択率、高収率で製造することができる3−メチルシクロペンタデセノン類の製造方法を提供することができる。
【0105】
2,15−ヘキサデカンジオンの分子内縮合反応は、例えば、BET比表面積が10m
2/g以下の触媒を用いることにより、好適に進行させることができる。より詳しく説明すると、触媒上での分子間縮合反応の増加による収率の低下を抑制できるとともに、触媒の劣化を抑制できるので、分子内縮合反応で効率的に3−メチルシクロペンタデセノン類を合成できる。
【0106】
前記触媒は、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化亜鉛よりなる群から選択される1種または2種以上であるのが好ましく、酸化亜鉛であるのがより好ましい。
【0107】
上記のように、前記触媒のBET比表面積は、10m
2/g以下であるのが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0108】
2,15−ヘキサデカンジオンの分子内縮合反応は、例えば、触媒を充填した反応管へ、2,15−ヘキサデカンジオンを導入することにより、好適に進行させることができる。
【0109】
触媒を充填した反応管への2,15−ヘキサデカンジオンの導入は、2,15−ヘキサデカンジオンをガス状にした状態で行い、気相反応として分子内縮合反応を行うのが好ましい。
【0110】
分子内縮合反応では、副反応として生じる分子間縮合反応を抑制するために、溶媒または不活性ガスが用いられ、原料の2,15−ヘキサデカンジオンは、溶媒に溶解し、不活性ガスのキャリア下にて、蒸発管または蒸発缶等の蒸発部にて気化させた後、触媒を充填した反応管へ導入されることが好ましい。
【0111】
溶媒としては、通常、炭化水素類が用いられ、特に、炭素数が6以上14以下の炭化水素類が好適であるが、反応に不活性なものであれば適宜用いることができる。具体的には、炭素数が6以上14以下の炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレン、デカリン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0112】
不活性ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素等が用いられるが、反応に不活性なものであれば適宜用いることができる。
【0113】
なお、不活性ガスの使用量は、多過ぎると経済的ではなく、少な過ぎると副反応を抑制できなくなるので、通常、原料の2,15−ヘキサデカンジオン1gに対して、0.2L以上20L以下で不活性ガスが用いられる。
【0114】
蒸発部の温度は、200℃以上350℃以下であるのが好ましい。
反応温度は、300℃以上400℃以下であるのが好ましく、350℃以上380℃以下であるのがより好ましい。
【0115】
これにより、分解反応をより好適に防止しつつ、目的とする分子内縮合反応の反応速度をより高いものとすることができる。
【0116】
原料である2,15−ヘキサデカンジオンの触媒への導入速度は、原料の2,15−ヘキサデカンジオンのLHSVが0.002以上0.10以下の範囲で調整するのが好ましい。
【0117】
反応中は、反応時間の経過とともに触媒活性が徐々に低下するが、反応温度を徐々に上昇させることにより、触媒再賦活化までの触媒使用時間を長くすることができるので好ましい。
【0118】
なお、例えば、反応温度を380℃まで上昇させても3−メチルシクロペンタデセノン類の選択率が上がらなくなり、触媒活性が低下してきた時点で原料の供給を停止し、触媒の再賦活化を行ってもよい。
【0119】
触媒の再賦活化は、触媒層への空気または酸素を導入し、触媒層に蓄積した高沸点副生成物を焼却除去するものである。なお、触媒層への空気の導入速度は適宜設定できる。また、再賦活化の温度は400℃以上であるのが好ましく、450℃以上500℃以下であるのがより好ましい。
【0120】
反応生成物は、30℃以上60℃以下の範囲で捕集することにより液状で得られる。なお、この反応生成物の主組成物は、使用した溶媒、3−メチルシクロペンタデセノン類および未反応2,15−ヘキサデカンジオンである。
【0121】
また、液状の反応生成物が得られた場合には、その反応生成液をさらに冷却することにより、未反応2,15−ヘキサデカンジオンの大部分を晶出分離できる。なお、回収した未反応2,15−ヘキサデカンジオンは循環利用可能である。
【0122】
未反応ジケトン類の大部分を分離した後の3−メチルシクロペンタデセノン類含有液からは、蒸留等での分離により、容易に3−メチルシクロペンタデセノン類を取得できる。
【0123】
このような、2,15−ヘキサデカンジオンの分子内縮合反応で得られる3−メチルシクロペンタデセノン類とは、(E)−3−メチル−2−シクロペンタデセノン、(Z)−3−メチル−2−シクロペンタデセノン、(E)−3−メチル−3−シクロペンタデセノン、(Z)−3−メチル−3−シクロペンタデセノン、および、3−メチレン−シクロペンタデカノンであり、少なくとも(E)−3−メチル−2−シクロペンタデセノンおよび(Z)−3−メチル−2−シクロペンタデセノンを含有している(上記式(2)参照)。
【0124】
これらのメチルシクロペンタデセノン類は、香料中間体等の各種の用途での有用性が特に高い化合物である。
【0125】
上記の精製方法により得られた2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を用いることにより、3−メチルシクロペンタデセノン類の選択率、収率は、高いものとなる。これは、原料として用いる2,15−ヘキサデカンジオンが高純度のものであり、2,15−ヘキサデカンジオンの分子内縮合反応を阻害する不純物や、副反応に寄与する不純物の含有率が極めて低いことによると考えられる。分子内縮合反応を阻害する不純物としては、下記式(3)〜下記式(6)で示される化合物等が考えられる。なお、当該化合物は、前述した化合物に対して硫酸を用いた脱炭酸反応を行った際に生じる副生成物である。
【0130】
原料である2,15−ヘキサデカンジオンや生成物である3−メチルシクロペンタデセノン類は、ともに高価なものであるので、少しの純度や収率の違いも、コスト的には大きな違いとなる。
【0131】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0132】
例えば、本発明の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法は、所定の割合の水を含む、メタノールと水との混合溶媒を用いて、2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶させる方法であればよく、前述した各工程を有していなくてもよい。例えば、前述した各工程のうちの少なくとも一部を省略したり、他の工程、処理で置換したりしてもよい。また、さらに、他の工程を有していてもよい。
【0133】
また、本発明の精製方法で得られた2,15−ヘキサデカンジオンの精製物は、3−メチルシクロペンタデセノン類の製造以外に用いてもよい。
【0134】
また、例えば、本発明の3−メチルシクロペンタデセノン類の製造方法は、本発明の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法で得られた2,15−ヘキサデカンジオンの精製物を用いて、当該2,15−ヘキサデカンジオンの分子内縮合反応を行う方法であればよく、前述した各工程を有していなくてもよい。例えば、前述した各工程のうちの少なくとも一部を省略したり、他の工程、処理で置換したりしてもよい。また、さらに、他の工程を有していてもよい。
【実施例】
【0135】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例中の処理、測定で、温度条件を示していないものについては、室温(23℃)で行った。
【0136】
[2,15−ヘキサデカンジオンの合成]
脂肪族ジケトンである2,15−ヘキサデカンジオンを以下のようにして合成した。
【0137】
まず、撹拌機、温度計および還流冷却器を付した2L四つ口フラスコに、アセト酢酸エチル260.3g(2.0モル)とアセトン500mlとを供給し撹拌して混合させた後に、97質量%水酸化ナトリウム61.9g(1.5モル)を添加して15分間反応させた。
【0138】
次いで、1,10−ジヨードデカン197.0g(0.5モル)を添加した後、還流下にて6時間反応させた。
【0139】
反応終了後、減圧蒸留によりアセトンを留去し、2N塩酸を加えて中和した後に分液処理を行い、上層の有機層を下層の水槽から分離した。
【0140】
分液処理後、上層の有機層と10質量%水酸化ナトリウム水溶液800g(2.0モル)とを室温下にて8時間撹拌してけん化反応を行い、その後、50質量%硫酸水溶液205.8g(1.1モル)を添加して3時間全還流して脱炭酸反応を行った。
【0141】
脱炭酸反応終了後、分液処理にて上層の有機層(2,15−ヘキサデカンジオン溶解)と硫酸層とを分離し、有機層を室温まで冷却させて微黄色結晶物として2,15−ヘキサデカンジオンの粗生成物130.8gを得た。
【0142】
得られた結晶物の一部を採取し、ガスクロマトグラフにて分析した結果、1,10−ジヨードデカンの転化率は100%、2,15−ヘキサデカンジオンの純度は92%、1,10−ジヨードデカンに対する2,15−ヘキサデカンジオンの収率は95%であった。
【0143】
[再結晶溶媒とアセタール化との関係の検討]
(実施例A1)
まず、50mLのフラスコに、メタノールと水との混合溶媒を18g入れた。混合溶媒における水の割合は1.0質量%、メタノールの割合は99.0質量%とした。
【0144】
次に、前記フラスコに、2,15−ヘキサデカンジオン(純度96.2%)2.0gを投入し、混合溶媒で溶解させた。
【0145】
次に、溶液を50℃に加熱し、3時間攪拌することにより混合溶媒に2,15−ヘキサデカンジオンを溶解させた。
【0146】
その後、室温で8時間放置した。
次に、エバポレーターを用いて溶媒を留去することにより析出した固形物を、真空乾燥した。
【0147】
次に、フラスコから得られた固形物の一部を採取し、ガスクロマトグラフィーによる分析を行い、アセタールのGC−Areaの面積率、2,15−ヘキサデカンジオンの純度を求めた。
【0148】
(実施例A2〜A4)
前記混合溶媒の組成および攪拌時間を表1に示すようにした以外は、前記実施例A1と同様の処理を行い、溶媒を留去することにより析出した固形物(真空乾燥済みのもの)の一部について、ガスクロマトグラフィーによる分析を行い、アセタールのGC−Areaの面積率、2,15−ヘキサデカンジオンの純度を求めた。
【0149】
(比較例A1)
前記混合溶媒の代わりにメタノールを用い、攪拌時間を6時間に変更した以外は、前記実施例A1と同様の処理を行い、溶媒を留去することにより析出した固形物(真空乾燥済みのもの)の一部について、ガスクロマトグラフィーによる分析を行い、アセタールのGC−Areaの面積率、2,15−ヘキサデカンジオンの純度を求めた。
【0150】
(比較例A2)
前記混合溶媒の組成および攪拌時間を表1に示すようにした以外は、前記実施例A1と同様の処理を行い、溶媒を留去することにより析出した固形物(真空乾燥済みのもの)の一部について、ガスクロマトグラフィーによる分析を行い、アセタールのGC−Areaの面積率、2,15−ヘキサデカンジオンの純度を求めた。
【0151】
前記各実施例および各比較例について、2,15−ヘキサデカンジオンの溶解に用いた溶媒、撹拌時間および評価結果を表1にまとめて示す。
【0152】
【表1】
【0153】
表1から明らかなように、水を1.0質量%以上10.0質量%以下の割合で含む、メタノールと水との混合溶媒を用いると、2,15−ヘキサデカンジオンのアセタール化反応が効果的に防止される一方で、溶媒としてメタノールのみを用いた場合や、水の割合が1.0質量%未満の場合には、ジケトンを各溶媒に溶解した後、加熱下で攪拌することにより、アセタールが比較的多く生成することが確認された。これに対し、再結晶溶媒としてメタノールと水の混合溶媒であって、水の割合が1.0質量%以上である溶媒を用いることにより、アセタールの生成が抑えられていることが確認された。
【0154】
[2,15−ヘキサデカンジオンの精製]
(実施例B1)
まず、1000mLのフラスコに、メタノールと水との混合溶媒を630g入れた。混合溶媒における水の割合は3.0質量%、メタノールの割合は97.0質量%とした。
【0155】
次に、前記フラスコに、2,15−ヘキサデカンジオン(純度87.3%)70gを投入し、混合溶媒で溶解させた(溶解工程)。
【0156】
次に、溶解工程で得られた溶液(再結晶溶液)を50℃に加熱し、0.5時間攪拌することにより混合溶媒に2,15−ヘキサデカンジオンを完全に溶解させた(加熱工程)。
【0157】
その後、再結晶溶液を結晶析出温度である41.5℃まで、0.3℃/分の冷却速度で冷却した(第1の冷却工程)。
【0158】
その後、再結晶溶液を41.5℃で1時間保持した(第1の保持工程)。
さらに、再結晶溶液を3時間かけて7℃まで冷却した(第2の冷却工程)。
【0159】
その後、吸引ろ過により、析出した結晶(固相)と溶媒(液相)とを分離した(固液分離工程)。
【0160】
次に、分離した結晶を、前記と同一の組成の混合溶媒を用いて、3回洗浄した(洗浄工程)。
【0161】
最後に、結晶を真空乾燥することにより、精製された2,15−ヘキサデカンジオンを得た(乾燥工程)。
【0162】
再結晶による精製終了直後に、得られた結晶物の一部を採取し、ガスクロマトグラフィーによる分析を行い、2,15−ヘキサデカンジオンの精製品の純度および収率(精製前の2,15−ヘキサデカンジオンの質量をX
A[g]、精製により得られた固形物としての2,15−ヘキサデカンジオンの質量をX
A’[g]としたとき、(X
A’/X
A)×100で示される値)を求めた。
【0163】
(実施例B2、B3)
前記混合溶媒の組成を表2に示すようにした以外は、前記実施例B1と同様の処理を行い、再結晶により得られた2,15−ヘキサデカンジオンの精製品の純度および収率を求めた。
【0164】
(比較例B1)
前記混合溶媒の代わりにメタノールを用いた以外は、前記実施例B1と同様の処理を行い、再結晶により得られた2,15−ヘキサデカンジオンの精製品の純度および収率を求めた。
【0165】
(比較例B2)
メタノールと水との混合溶媒との代わりに、エタノールと水との混合溶媒(水の割合が7.6質量%、エタノールの割合が92.4質量%)を用いた以外は、前記実施例B1と同様の処理を行い、再結晶により得られた2,15−ヘキサデカンジオンの精製品の純度および収率を求めた。
【0166】
(比較例B3)
1,000mLのフラスコに2,15−ヘキサデカンジオン(純度88.0%)494gを投入し、0.90kPaにてマントルヒーターで210℃に加熱し、蒸留精製を行った。蒸留により精製された2,15−ヘキサデカンジオンの一部を採取し、ガスクロマトグラフィーによる分析を行い、2,15−ヘキサデカンジオンの精製品の純度および収率を求めた。
【0167】
これらの各実施例および各比較例について、2,15−ヘキサデカンジオンの精製条件および評価結果を表2にまとめて示す。
【0168】
【表2】
【0169】
表2から明らかなように、本発明の実施例では、高い純度、高い収率で、目的とする2,15−ヘキサデカンジオンを精製することができた。特に、好ましい条件の溶媒を用いた場合に、特に優れた結果が得られた。これに対し、比較例に示されるように、再結晶溶媒としてメタノールのみを用いた場合や、メタノール以外のアルコールの混合溶媒を用いた場合、蒸留による精製を行った場合には、2,15−ヘキサデカンジオンの純度、収率を十分に高いものとすることができなかった。
【0170】
[3−メチルシクロペンタデセノン類の製造]
(実施例C1)
原料の2,15−ヘキサデカンジオンとして、前記実施例B1で精製した2,15−ヘキサデカンジオンを用いて、以下のようにして、触媒の存在下にて、気相で分子内縮合反応を行い、3−メチルシクロペンタデセノン類を製造した。
【0171】
まず、22mmφ、長さ40cmカラムにおいて、3〜4mmφの磁製ラシヒ40mLを上部に充填し、触媒としてBET比表面積が5.6m
2/gの酸化亜鉛ペレット(3〜5mmφ)60mLを下部に充填し、ラシヒ層温度が315℃となり、触媒層温度が360℃となるように加熱した。
【0172】
この加熱したカラムへ、不活性ガスとしての窒素(5L/時間)キャリア下にて、5質量%の2,15−ヘキサデカンジオンを溶解したn−デカン溶液を25g/時間の速度で導入して分子内縮合反応を行った。また、反応生成物を30〜50℃へ冷却して捕集した。
【0173】
そして、6時間の連続反応を行った。
環化反応終了直後に、反応生成物の一部を採取し、ガスクロマトグラフィーによる分析を行い、転化率(反応基質として用いた2,15−ヘキサデカンジオンの物質量をY
A[mol]、環化工程での2,15−ヘキサデカンジオンの消費量(原料としての2,15−ヘキサデカンジオンの物質量と環化反応終了時に残存する2,15−ヘキサデカンジオンの物質量との差)をY
A’[mol]としたとき、(Y
A’/Y
A)×100で示される値)、選択率(環化反応終了時における3−メチルシクロペンタデセノン類の物質量をY
PB[mol]、環化反応終了時における環状エノン化合物の物質量(ただし二重結合位置は限定せず)をY
B[mol]としたとき、(Y
PB/Y
B)×100で示される値)、収率(転化率と(Y
PB/Y
B)との積で示される値)を求めた。
【0174】
(実施例C2)
原料の2,15−ヘキサデカンジオンとして、前記実施例B2で再結晶精製した2,15−ヘキサデカンジオンを用いた以外は、前記実施例C1と同様の処理を行い、合成終了時における2,15−ヘキサデカンジオンの転化率、3−メチルシクロペンタデセノン類の選択率および収率を求めた。
【0175】
(比較例C1)
原料の2,15−ヘキサデカンジオンとして、前記比較例B1で再結晶精製した2,15−ヘキサデカンジオンを用いた以外は、前記実施例C1と同様の処理を行い、合成終了時における2,15−ヘキサデカンジオンの転化率、3−メチルシクロペンタデセノン類の選択率および収率を求めた。
【0176】
(比較例C2)
原料の2,15−ヘキサデカンジオンとして、前記比較例B2で再結晶精製した2,15−ヘキサデカンジオンを用いた以外は、前記実施例C1と同様の処理を行い、合成終了時における2,15−ヘキサデカンジオンの転化率、3−メチルシクロペンタデセノン類の選択率および収率を求めた。
【0177】
(比較例C3)
原料の2,15−ヘキサデカンジオンとして、前記比較例B3で蒸留精製した2,15−ヘキサデカンジオンを用いた以外は、前記実施例C1と同様の処理を行い、合成終了時における2,15−ヘキサデカンジオンの転化率、3−メチルシクロペンタデセノン類の選択率および収率を求めた。
【0178】
(比較例C4)
原料の2,15−ヘキサデカンジオンとして、精製していない粗2,15−ヘキサデカンジオン(上記の[2,15−ヘキサデカンジオンの合成]で合成した2,15−ヘキサデカンジオン)を用いた以外は、前記実施例C1と同様の処理を行い、合成終了時における2,15−ヘキサデカンジオンの転化率、3−メチルシクロペンタデセノン類の選択率および収率を求めた。
【0179】
これらの各実施例および各比較例について、2,15−ヘキサデカンジオンの精製条件および評価結果を表3にまとめて示す。
【0180】
【表3】
【0181】
表3から明らかなように、本発明の実施例では、高い転化率、高い選択率、高い収率で、目的とする3−メチルシクロペンタデセノン類を得ることができた。特に、好ましい条件の混合溶媒を用いた場合に、特に優れた結果が得られた。これに対し、比較例に示されるように、再結晶溶媒としてメタノールのみを用いて精製された2,15−ヘキサデカンジオンを原料として用いた場合、メタノール以外のアルコールの混合溶媒を用いて精製された2,15−ヘキサデカンジオンを原料として用いた場合、蒸留により精製された2,15−ヘキサデカンジオンを原料として用いた場合、精製していない粗2,15−ヘキサデカンジオンを原料として用いた場合には、目的とする3−メチルシクロペンタデセノン類を十分に高い転化率、十分に高い選択率、十分に高い収率で得ることはできなかった。
【課題】2,15−ヘキサデカンジオンをより高収率、高純度で精製することができる2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法を提供すること、また、3−メチルシクロペンタデセノン類を高選択率、高収率で製造することができる3−メチルシクロペンタデセノン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法は、アセト酢酸エステルアルカリ金属塩と1,10−ジヨードデカンとを反応させた後、硫酸を用いて脱炭酸することにより製造された2,15−ヘキサデカンジオンの精製方法であって、水を1.0質量%以上10.0質量%以下の割合で含む、メタノールと水との混合溶媒を用いて、前記2,15−ヘキサデカンジオンを再結晶させることを特徴とする。