(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6572419
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】橋梁の舗装構造及び舗装方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20190902BHJP
E01C 23/01 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
E01D19/12
E01C23/01
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-110571(P2018-110571)
(22)【出願日】2018年6月8日
【審査請求日】2018年8月3日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000181354
【氏名又は名称】鹿島道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 忠
(72)【発明者】
【氏名】児玉 孝喜
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清志
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−196800(JP,A)
【文献】
特開2009−185492(JP,A)
【文献】
特開2015−129393(JP,A)
【文献】
特許第6334802(JP,B1)
【文献】
特開2000−314108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E01C 23/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャスト版が並設され形成された床版の上に床版としての機能を担わないコンクリート層が設けられ、前記コンクリート層が前記床版に接着性のある材料を用いた接着層を介して付着され、前記接着性のある材料として、0.02mm以上のひび割れに浸透可能な浸透性接着剤と、固化した状態でのコンクリートに対する付着強度及び引張接着強度が1N/mm2以上のエポキシ系接着剤が用いられ、前記浸透性接着剤が前記床版の表面に塗布された後に、前記エポキシ系接着剤が塗布されていることを特徴とする橋梁の舗装構造。
【請求項2】
前記コンクリート層の上がアスファルト舗装されている請求項1に記載の橋梁の舗装構
造。
【請求項3】
前記コンクリート層の上面に防水工が設けられる請求項2に記載の橋梁の舗装構造。
【請求項4】
前記コンクリート層の表面に滑り止めが施されている請求項1に記載の橋梁の舗装構造。
【請求項5】
複数のプレキャスト版が並設され形成された床版の上にコンクリートを打設し床版としての機能を担わないコンクリート層を設ける工程と、
前記コンクリート層を設ける前に前記床版の上面に接着性のある材料を塗布する工程と、
を有し、
前記接着性のある材料として、0.02mm以上のひび割れに浸透可能な浸透性接着剤と、固化した状態でのコンクリートに対する付着強度及び引張有接着強度が1N/mm2以上のエポキシ系接着剤が用いられ、前記浸透性接着剤が前記床版の表面に塗布された後に、前記エポキシ系接着剤が塗布されることを特徴とする橋梁の舗装方法。
【請求項6】
前記コンクリート層の上をアスファルト舗装する工程を有する請求項5に記載の橋梁の
舗装方法。
【請求項7】
前記コンクリート層の上面に防水工を設ける工程を有する請求項6に記載の橋梁の舗装方法。
【請求項8】
前記コンクリート層の表面に滑り止めを施す工程を有する請求項5に記載の橋梁の舗装方法。
【請求項9】
前記コンクリート層を設ける前に前記床版の上面を研掃する工程を有する請求項6〜8のいずれかに記載の橋梁の舗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の舗装構造及び舗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に建設された橋梁のコンクリート製の床版(コンクリート版)は、老朽化や設計基準の変遷に伴う耐荷力の不足や耐疲労性の低下などを理由として、近年、新たなコンクリート版へ取り替えられている。
【0003】
しかしながら、道路橋に使用されているコンクリート版は、50年前の厚さに対して50mm程度の厚さが不足しており、これを補うために最新の設計基準に準拠すると50mmが増厚され、新しいものに取り替えた場合は自重が増大してしまう。
【0004】
そこで、従来の厚さ程度で現在の設計荷重に対応するために、鉄筋コンクリート版、プレストレストコンクリート版、更に薄くすることが可能な超高強度繊維補強コンクリートで製作したプレキャスト版が必要となる。これらのプレキャスト版は、工期短縮を考慮すると予め工場で製作し、建設現場まで車両等で運び、現場で
図2(C)に示すように並設する取り替え床版構造が提案され、採用されている。
【0005】
ところが、プレキャスト化したコンクリート版(プレキャスト版)は最小の設計厚で製作されることが多い。一方、コンクリート版の上には防水工やアスファルト舗装が施されるが、このアスファルト舗装は7〜15年前後で打ち替えされるところ、大型の切削機で切削されることから、プレキャスト版の表面に損傷が与えられることから弱点となる。また、必要な厚さを満たさないものとなる。
【0006】
ただし、この問題については、舗装取り替え工事においてプレキャスト版が被る損傷を低く抑えて対応することが考えられる。例えば、特開2000−314108には、舗装面のアスファルトコンクリートの取り替え作業で起用される解体重機によりコンクリート床版の表面が損傷される問題の解決方法として,プレキャストプレストレストコンクリート版(プレキャスト版に相当)に予め、アスファルトコンクリート舗装に接する面に,表面保護層を構成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−314108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
工場で製作されるプレキャスト版を現場で並設して床版を構築する場合、現場に並設された複数のプレキャスト版はその場で接合され一体化される。なお、プレキャスト版の接合には様々な手法が存在し、プレキャスト版同士をボルトで接合する手法や、隣接するプレキャスト版の鉄筋が延出する向かい合う端面の間にコンクリートを打ち込み一体化させる手法など、現場の状況に適した手法が採用されている。
【0009】
しかしながら、プレキャスト版の接合にいずれの手法が用いられた場合であっても、継ぎ目部分の強度や弾性係数を、工場で製作したコンクリート版と同等にすることは難しい。そのため、プレキャスト版の上に敷設された舗装上を車輌が走行する際、剛性の差による変形が発生するおそれがある。また、継ぎ目部分が開くことも考えられる。更に、アスファルト舗装打ち替え工事の際には、仮に表面保護層を備えたプレキャスト版を使用した場合であっても、継ぎ目部分が損傷するおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、プレキャスト版の継ぎ目部分が、車輛走行時に変形することを抑制でき、また、舗装打ち替え工事の際にも損傷することのない、橋梁の舗装構造及び舗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る橋梁の舗装構造では、複数のプレキャスト版が並設され形成された床版の
上に床版としての機能を担わないコンクリート層が設けられ、
前記コンクリート層が前記床版に接着性のある材料を用いた接着層を介して付着され、前記接着性のある材料として、0.02mm以上のひび割れに浸透可能な浸透性接着剤と、固化した状態でのコンクリートに対する付着強度及び引張接着強度が1N/mm2以上のエポキシ系接着剤が用いられ、前記浸透性接着剤が前記床版の表面に塗布された後に、前記エポキシ系接着剤が塗布されている。
【0012】
前記コンクリート層の上がアスファルト舗装されていてもよく、その場合、更に、前記コンクリート層の上面に防水工が設けられていてもよい。
【0013】
前記コンクリート層の表面に滑り止めが施されていてもよい。
【0014】
前記コンクリート層が前記床版に接着性のある材料を用いた接着層を介して付着されてもよい。
【0017】
本発明に係る橋梁の舗装方法では、複数のプレキャスト版が並設され形成された床版の上にコンクリートを打設し床版としての機能を担わないコンクリート層を設ける工程を有
、前記接着性のある材料として、0.02mm以上のひび割れに浸透可能な浸透性接着剤と、固化した状態でのコンクリートに対する付着強度及び引張有接着強度が1N/mm2以上のエポキシ系接着剤が用いられ、前記浸透性接着剤が前記床版の表面に塗布された後に、前記エポキシ系接着剤が塗布される。
【0018】
前記コンクリート層の上をアスファルト舗装する工程を有してもよく、その場合、前記コンクリート層の上面に防水工を設ける工程を有してもよい。
【0019】
前記コンクリート層の表面に滑り止めを施す工程を有してもよい。
【0020】
前記コンクリート層を設ける前に前記床版の上面を研掃する工程を有してもよい。
【0021】
前記コンクリート層を設ける前に前記床版の上面に接着性のある材料を塗布する工程を有してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、コンクリート層を舗装として機能させてもよく、或いは、コンクリート層の上にアスファルト舗装をしてもよい。そして、何れの場合であっても、プレキャスト版で形成した床版の上に敷設された舗装の上を走行する車輛の荷重は、コンクリート層を介し、プレキャスト版の全面に分散され、プレキャスト版の接合部に対する荷重の集中を抑制できる。従って、プレキャスト版の継ぎ目部分が、プレキャスト版の上に敷設された舗装の上を走行する車輛の荷重により変形することを防止できる。
【0025】
また、コンクリート層の上をアスファルト舗装した場合は、舗装の打ち替えに際してコンクリート層が切削されることになるため、プレキャスト版の継ぎ目部分が損傷することもない。なお、コンクリート層をコンクリート舗装として機能させる場合は、打ち替えの必要はなく、プレキャスト版自体が損傷することがない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る橋梁の舗装構造を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る橋梁の舗装構造を従来の舗装構造との比較において示し、(a)は
図1に示す実施形態を橋梁の幅方向の端面側から見た図、(b)は本発明に係る舗装構造の他の実施形態を橋梁の幅方向の端面側から見た図、(c)はプレキャスト版を現場で並設して構築した床版の上に敷設される従来の舗装構造を橋梁の幅方向の端面側から見た図である。
【
図3】具体例の供試体を使用して行った疲労実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1及び
図2を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、
図1及び
図2においては、本発明の理解を容易にするため、説明の便宜上、誇張して表示されている部分があり、部位間の相対寸法は正確ではない。
【0028】
この実施形態において舗装される床版1は、複数のプレキャスト版10を利用して構築されている。プレキャスト版10は、床版1に要求される強度を有する、底面形状が矩形の板材で、その複数が一対の橋桁20の上に並べて配置されている。
【0029】
プレキャスト版10に十分な強度を持たせるためには、鉄筋コンクリート版、プレストレストコンクリート版や超高強度を有するコンクリートで製作したコンクリート版を採用することが好ましい。その場合、必要な強度を持たせるための最小厚みを小さく抑えることができ、重量を低減することができる。
【0030】
また、この実施形態では、プレキャスト版10の幅(底面の短辺寸法)として2〜3mが想定されているが、製作や運搬、或いは現場施工の状況に応じて適宜決めることができる。なお、プレキャスト版10の幅は、小さくすることにより取扱い易いものにできる一方で、大きくすることにより設置数を削減し継ぎ目部分を減らすことができる。この実施形態では、橋梁の長さが20mであれば、9か所程度の継ぎ目部分が設けられることになる。
【0031】
プレキャスト版10を接合する手法に制限はなく、プレキャスト版同士をボルトで接合する手法や、隣接するプレキャスト版の鉄筋が延出する向かい合う端面の間にコンクリートを打ち込み一体化させる手法など、現場の状況に適した手法を採用すればよい。なお、
図1及び
図2において、プレキャスト版10を接合する構造の図示は省略されている。
【0032】
床版1の上にはコンクリート層2が設けられている。コンクリート層2は、床版1の上面にコンクリートを打設して形成されている。なお、コンクリート層2は床版としての機能を担う必要はないため、鉄筋や鉄板を配置する必要はない。層厚や材質も、強度を考慮することなく決めることができる。床版1の上に敷設される舗装の上を走行する車輛の荷重を分散できるものであれば、施工効率等を考慮し適宜決めることができる。なお、この実施形態では、30〜40mmの範囲の層厚が想定されている。
【0033】
コンクリート層2の床版1に対する付着性を高める必要がある場合は、コンクリート層3を設ける前に床版1の上面を研掃してもよい。研掃は公知の手法、例えばシュットブラスト研掃で行うことができる。
【0034】
或いは、コンクリート層2を設ける前に床版1の上面に接着層を設け、接着層を介してコンクリート層2を床版1に密着させることとしてもよい。なお、接着層を形成する材料としては、固化した状態でのコンクリートに対する付着強度及び引張有接着強度が1N/mm
2以上のエポキシ系接着剤が好ましい。例えば、KSボンド(商品名、鹿島道路株式会社)を用いることができる。
【0035】
コンクリート層2の床版1に対する付着性を更に高める必要がある場合は、床版1の上面を研掃した後、研掃された面に接着層を設けてもよい。
【0036】
なお、床版1が設置作業や研掃作業など生じたひび割れを表面に有する場合は、ひび割れを補修して床版1の表面を強固なものにしておくことが好ましい。ひび割れの補修には、0.02mm以上のひび割れに浸透可能な浸透性接着剤を用いることが好ましい。また、浸透性接着剤として、例えば、浸透性KSプライマー(商品名、鹿島道路株式会社)を用いることができる。
【0037】
コンクリート層2の上面には防水工が施され、更にその上にアスファルト舗装が施されている。そして、アスファルト舗装をなすアスファルト層3とコンクリート層2で構成される舗装構造4が、本発明の舗装構造に相当するものとなっている。この実施形態では、アスファルト層3の厚みとして35mm程度が想定されている。なお、
図2において、アスファルト層はドット柄で示すものとする。
【0038】
周囲に民家が存在しない地域に構築された橋梁など、走行車両により発生する騒音が問題とならない状況では、コンクリート層2を舗装として機能させることもできる。その場合、
図2(b)に示すように、アスファルト層3を設けることなく、コンクリート層2の厚みを大きくする。例えば、
図1及び
図2(a)に示す実施形態では、コンクリート層2の厚みとして30〜40mmの範囲が想定されているが、
図2(b)に示す実施形態では、コンクリート層2の厚みとして50〜75mmの範囲が想定されている。
【0039】
なお、コンクリート層2を舗装として機能させる場合、荷重分散効果の高く、割れにくく、所定の強度を有するコンクリート材を用いることが好ましい。繊維を混入したコンクリートを用いてもよい。
【0040】
また、コンクリート層2を舗装として機能させる場合、舗装表面に滑り止めを施すことが好ましい。滑り止めは、グルービングやほうき目仕上げなどの公知の手法で施すことも可能である。
【実施例】
【0041】
以下の供試体1、2、3に直接輪荷重を載荷し、連続走行による疲労実験を行った場合の、破壊までの走行回数(等価走行回数)を計測した。その結果を
図3に示す。なお、
図3において、「コンクリート版」が供試体1を、「コンクリート舗装」が供試体2を「接着剤+コンクリート舗装」が供試体3示すものとなっている。
<供試体1>
実構造寸法のモデル化した寸法とされた、軸直角方向および軸方向の支点間寸法が1400mm×1400mm、厚さが150mmのコンクリート版(本発明の床版に相当)
<供試体2>
供試体1の上面に厚さ40mmのコンクリート層を設けた。コンクリート層の形成には、3時間後に設計基準強度24N/mm
2以上を確保できる材料であって、早強セメントに混和剤、繊維を配合した特殊コンクリートを使用した。
<供試体3>
供試体1の上面を10mm切削し、研掃した後、切削時に発生したコンクリート表面の微細なひび割れ補修するとともに、コンクリート表面を強固にするための浸透性接着剤を塗布した。浸透性接着剤として、付着強度2.6N/mm
2が確保される浸透性KSプライマー(商品名、鹿島道路株式会社)を用いた。更に、その後、コンクリート層との付着性を高めるために付着用接着剤を約1mmの厚さで塗布し、その上に厚さ40mmのコンクリート層を設けた。コンクリート層を形成する材料には供試体2と同じものを使用した。また付着用接着剤として、付着強度3.7N/mm
2が確保されるKSボンド(商品名、鹿島道路株式会社)を使用した。
【0042】
供試体1の等価走行回数に対し、供試体2の等価走行回数は約26倍、供試体3の等価走行回数は48倍以上となった。コンクリート版の上にコンクリート層を施すことでコンクリート版にかかる荷重が分散された結果によるものと考えられる。
【符号の説明】
【0043】
1 床版
2 コンクリート層
3 アスファルト層
4 舗装構造
10 プレキャスト版
20 橋桁
【要約】
【課題】プレキャスト版の継ぎ目部分が、車輛走行時に変形することを抑制でき、また、舗装打ち替え工事の際にも損傷することのない、橋梁の舗装構造及び舗装方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る橋梁の舗装構造では、複数のプレキャスト版が並設され形成された床版の上にコンクリート層が設けられている。コンクリート層を舗装として機能させてもよく、或いは、コンクリート層の上にアスファルト舗装をしてもよい。何れの場合であっても、プレキャスト版で形成した床版の上に敷設された舗装の上を走行する車輛の荷重は、コンクリート層を介し、プレキャスト版の全面に分散され、プレキャスト版の接合部に対する荷重の集中を抑制できる。
【選択図】
図1