特許第6572473号(P6572473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572473
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】有機化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/22 20060101AFI20190902BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C07D495/22CSP
   C09K11/06 690
   H05B33/22 B
   H05B33/22 D
   H01L31/04 154B
   H01L29/78 618B
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250H
   !H05B33/14 B
【請求項の数】12
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2016-23852(P2016-23852)
(22)【出願日】2016年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-141193(P2017-141193A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155516
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 亜子佳
(72)【発明者】
【氏名】瀧宮 和男
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正宏
【審査官】 薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/027581(WO,A1)
【文献】 Chem. Mater.,2015年,Vol.27,p.5049-5057
【文献】 阿部 正宏 他,高移動度および高耐熱性を有する有機電界効果トランジスタ,第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,2015年,12p-P12-10
【文献】 Org. Lett.,2012年,Vol.14, No.18,p.4914-4917
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C09K
H01L
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R乃至R16はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアルキル基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアルキルチオ基、置換若しくは無置換のアルキルアミノ基、置換若しくは無置換のジアルキルアミノ基(アルキル基は互いに結合して窒素原子を含む環状構造を形成してもよい)、置換若しくは無置換のアルキルスルホニル基、置換若しくは無置換のトリアルキルシリル基、置換若しくは無置換のトリアルキルシリルエチニル基、置換若しくは無置換のアリールアミノ基、置換若しくは無置換のジアリールアミノ基、又はシアノ基を表す。)
で表される有機化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の有機化合物であって、
乃至R及びR乃至R12がそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のアルキル基であり、
乃至R及びR13乃至R16が水素原子である有機化合物。
【請求項3】
請求項2に記載の有機化合物であって、
乃至R及びR乃至R12がそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは無置換のアルキル基である有機化合物。
【請求項4】
請求項3に記載の有機化合物であって、
乃至R及びR乃至R12がそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基である有機化合物。
【請求項5】
請求項4に記載の有機化合物であって、
乃至R及びR乃至R12が水素原子である有機化合物。
【請求項6】
請求項4に記載の有機化合物であって、
及びR10の一方が炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であって他方が水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であり、かつR、R、R、R、R11及びR12が水素原子であるか、若しくは
及びR11の一方が炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であって他方が水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であり、かつR、R、R、R、R10及びR12が水素原子である有機化合物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の有機化合物を含有する有機半導体材料。
【請求項8】
請求項7に記載の有機半導体材料からなる有機薄膜。
【請求項9】
請求項7に記載の有機半導体材料を含む有機エレクトロニクスデバイス。
【請求項10】
請求項9に記載の有機エレクトロニクスデバイスであって、
薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、有機太陽電池素子、有機EL素子、有機発光トランジスタ素子、又は有機半導体レーザー素子である有機エレクトロニクスデバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の有機エレクトロニクスデバイスであって、
薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、又は有機太陽電池素子である有機エレクトロニクスデバイス。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の有機エレクトロニクスデバイスであって、
薄膜トランジスタ素子である有機エレクトロニクスデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料として有用な新規な有機化合物及びその用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、有機半導体材料として有用な特定の有機化合物、並びに、これを利用した有機半導体材料、有機薄膜、及び薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、有機太陽電池、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、有機発光トランジスタ素子又は有機半導体レーザー素子等の有機エレクトロニクスデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロニクスデバイスヘの関心が高まっている。その特徴としては、従来のアモルファスシリコンや多結晶シリコンを用いた無機エレクトロニクスデバイスとは異なり、デバイス自体がフレキシビリティを有する事や、デバイスの大面積化が可能である事等が挙げられる。また、有機エレクトロニクスデバイスの製造方法として知られている真空蒸着法や塗布法等の成膜方法によれば、製造コストの上昇を抑えることが可能であり、更には、成膜時に必要となるプロセス温度を比較的低温にすることができるため、基板に用いる材料の選択の幅が広がるといった利点があり、その実用化に向けて盛んに研究報告がなされている。
【0003】
代表的な有機エレクトロニクスデバイスとしては有機EL素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子、有機(薄膜)トランジスタ素子などが挙げられる。有機EL素子はフラットパネルディスプレイとして次世代ディスプレイ用途のメインターゲットとして期待され、携帯電話のディスプレイやTV(テレビ受像機)などに応用されており、更に高機能化を目指した開発が継続されている。有機太陽電池素子等は、安価なエネルギー源として、また、有機トランジスタ素子は、フレキシビリティを有するディスプレイや安価なIC(集積回路)への応用を目的として研究開発がなされている。
【0004】
これら有機エレクトロニクスデバイスにおいては、デバイスを構成する半導体材料の開発が非常に重要であり、例えば低分子系の半導体材料(有機トランジスタ材料)としては、アセン系の有機半導体化合物であるペンタセン等が盛んに検討されている。また、複素環を有するヘテロアセン系化合物としては、主に硫黄やセレン等の原子を含んだ材料が検討されている。そのようなヘテロアセン系化合物の具体例としては、ベンゾジチオフェン系化合物(特許文献1や非特許文献1に記載の2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン(DPh−BDT))、特許文献2や非特許文献4に記載のナフトジチオフェン系化合物(NDT)、ベンゾチエノベンゾチオフェン系化合物(特許文献3や非特許文献2に記載の2,7−ジフェニル[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(DPh−BTBT)、特許文献4や非特許文献3に記載の2,7−ジアルキル[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(AlkylBTBT))、ジナフトチエノチオフェン系化合物(特許文献5や非特許文献5に記載のジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[2,3−b]チオフェン(AlkylDNTT)など、大気中で安定な高性能の材料が挙げられる。また、特許文献6に記載の、無置換のヘテロアセン系化合物の中では最高クラスの移動度を有するビスベンゾチエノナフトジチオフェン(BBTNDT)のように、ペンタセンよりも半導体特性や大気安定性などに優れた化合物が開発されているが、未だ市場の要求を満足するものはなく、移動度や大気安定性が高い、様々なデバイスに有用な半導体材料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−154371号公報
【特許文献2】国際公開第2010/058692号
【特許文献3】国際公開第2006/077888号
【特許文献4】国際公開第2008/047896号
【特許文献5】国際公開第2008/050726号
【特許文献6】国際公開第2014/027581号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」、(米国)、2004年、第126号、p.5084−5085
【非特許文献2】「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」、(米国)、2006年、第128号、p.12604−12605
【非特許文献3】「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」、(米国)、2007年、第129号、p.15732−15733
【非特許文献4】「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」、(米国)、2011年、第133号、p.5024−5035
【非特許文献5】「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」、(米国)、2007年、第129号、p.2224−2225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、有機エレクトロニクスデバイスに使用可能な新規な有機化合物を提供することにあり、さらに詳しくは有機EL素子、有機太陽電池素子、有機トランジスタ素子、有機半導体レーザー素子などの有機エレクトロニクスデバイスに応用可能な新規な有機化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々の有機化合物を検討した結果、特定の構造を有する有機化合物を用いることにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、下記の通りである。
[1]下記式(1)
【化1】
(式中、R乃至R16はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアルキル基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアルキルチオ基、置換若しくは無置換のアルキルアミノ基、置換若しくは無置換のジアルキルアミノ基(アルキル基は互いに結合して窒素原子を含む環状構造を形成してもよい)、置換若しくは無置換のアルキルスルホニル基、置換若しくは無置換のトリアルキルシリル基、置換若しくは無置換のトリアルキルシリルエチニル基、置換若しくは無置換のアリールアミノ基、置換若しくは無置換のジアリールアミノ基、又はシアノ基を表す。)
で表される有機化合物、
[2]前項[1]に記載の有機化合物であって、R乃至R及びR乃至R12がそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のアルキル基であり、R乃至R及びR13乃至R16が水素原子である有機化合物、
[3]前項[2]に記載の有機化合物であって、R乃至R及びR乃至R12がそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは無置換のアルキル基である有機化合物、
[4]前項[3]に記載の有機化合物であって、R乃至R及びR乃至R12がそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基である有機化合物、
[5]前項[4]に記載の有機化合物であって、R乃至R及びR乃至R12が水素原子である有機化合物、
[6]前項[4]に記載の有機化合物であって、
及びR10の一方が炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であって他方が水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であり、かつR、R、R、R、R11及びR12が水素原子であるか、若しくは
及びR11の一方が炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であって他方が水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であり、かつR、R、R、R、R10及びR12が水素原子である有機化合物、
[7]前項[1]乃至[6]の何れか一項に記載の有機化合物を含有する有機半導体材料、
[8]前項[7]に記載の有機半導体材料からなる有機薄膜、
[9]前項[7]に記載の有機半導体材料を含む有機エレクトロニクスデバイス、
[10]前項[9]に記載の有機エレクトロニクスデバイスであって、薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、有機太陽電池素子、有機EL素子、有機発光トランジスタ素子、又は有機半導体レーザー素子である有機エレクトロニクスデバイス、
[11]前項[10]に記載の有機エレクトロニクスデバイスであって、薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、又は有機太陽電池素子である有機エレクトロニクスデバイス、
[12]前項[10]又は[11]に記載の有機エレクトロニクスデバイスであって、薄膜トランジスタ素子である有機エレクトロニクスデバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機エレクトロニクスデバイスに使用可能な新規な有機化合物を提供することができる。さらに、本発明によれば、新規な有機化合物を有機半導体材料として用いることにより、閾値電圧、キャリア移動度、オン/オフ比等の半導体特性に優れ、しかも高い大気安定性を有する有機エレクトロニクスデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の薄膜トランジスタ素子の構造のいくつかの態様例を示す概略断面図であり、(a)はボトムコンタクト−ボトムゲート型薄膜トランジスタ素子、(b)はトップコンタクト−ボトムゲート型薄膜トランジスタ素子、(c)はトップコンタクト−トップゲート型薄膜トランジスタ素子、(d)はトップ&ボトムゲート型薄膜トランジスタ素子、(e)は静電誘導トランジスタ素子、(f)はボトムコンタクト−トップゲート型薄膜トランジスタ素子を示す。
図2】本発明の薄膜トランジスタ素子の一態様例としてのトップコンタクト−ボトムゲート型薄膜トランジスタ素子の製造工程を説明するための説明図であり、(a)〜(f)は各製造工程を示す概略断面図である。
図3】本発明の有機エレクトロニクスデバイスの一態様としての有機太陽電池素子の構造の一例を示す概略断面図である。
図4】実施例1で得られた式(11)で表される有機化合物からなる薄膜の、紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。
図5】実施例2で得られた薄膜トランジスタ素子の、作製直後及び1ヶ月後の伝達特性を示すグラフである。
図6】比較例1で得られた薄膜トランジスタ素子の、作製直後及び1ヶ月後の伝達特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
〔有機化合物〕
本発明の有機化合物は、下記式(1)
【化2】
で表される。
【0012】
式(1)中、R乃至R16はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアルキル基、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアルキルチオ基、置換若しくは無置換のアルキルアミノ基、置換若しくは無置換のジアルキルアミノ基(2つのアルキル基が互いに結合して窒素原子を含む環状構造を形成してもよい)、置換若しくは無置換のアルキルスルホニル基、置換若しくは無置換のトリアルキルシリル基、置換若しくは無置換のトリアルキルシリルエチニル基、置換若しくは無置換のアリールアミノ基、置換若しくは無置換のジアリールアミノ基又はシアノ基を表す。なお、ここで、「置換の」とは、母体の基(例えばアルキル基)が有する水素原子の少なくとも1つが置換基で置換されていることを意味し、「無置換の」とは、母体の基が有する水素原子が置換基で置換されていないことを意味する。したがって、例えば、ここでいう「無置換のアルキル基」とは、アルキル基上の水素原子が置換基で置換されていないアルキル基、即ち、炭素原子及び水素原子のみからなる飽和炭化水素基を意味する。
【0013】
式(1)のR乃至R16が表す置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、ベンゾピレニル基等の芳香族炭化水素基;ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、ピリドニル基等の複素環基;ベンゾキノリル基、アントラキノリル基、ベンゾチエニル基及びベンゾフリル基等の縮合系複素環基等が挙げられる。これらのうち、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、及びチエニル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。上記置換若しくは無置換のアリール基の炭素数は3乃至60であることが好ましい。
【0014】
式(1)のR乃至R16が置換のアリール基を表す場合における、置換のアリール基が有する置換基としては、特に制限はないが、例えば、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基等が挙げられる。置換のアリール基が有する置換基としての置換若しくは無置換のアルキル基としては、式(1)のR乃至R16が表す置換若しくは無置換のアルキル基の例として後段で挙げる各基が挙げられる。置換のアリール基が有する置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。置換のアリール基が有する置換基としては、これらの中でも炭素数1乃至3の置換若しくは無置換のアルキル基が好ましい。
【0015】
式(1)のR乃至R16が表す置換若しくは無置換のアルキル基としては、置換若しくは無置換の飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖、又は環状のアルキル基が挙げられる。上記置換若しくは無置換のアルキル基の炭素数は1乃至20であることが好ましい。ここで、無置換の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、アリル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ステアリル基、n−ブテニル基等が挙げられる。また、無置換の環状のアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等の炭素数3乃至12のシクロアルキル基が挙げられる。
【0016】
式(1)のR乃至R16が置換のアルキル基を表す場合における、置換のアルキル基が有する置換基としては、特に制限はないが、例えば、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアリール基等が挙げられる。置換のアルキル基が有する置換基としての置換若しくは無置換のアリール基としては、式(1)のR乃至R16が表す置換若しくは無置換のアリール基の例として先に挙げた各基が挙げられる。置換のアルキル基が有する置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0017】
置換基としてハロゲン原子を有する置換のアルキル基(ハロアルキル基)としては、例えば、クロロメチル基、1−クロロエチル基、2−クロロエチル基、2−クロロイソブチル基、1,2−ジクロロエチル基、1,3−ジクロロイソプロピル基、2,3−ジクロロ−t−ブチル基、1,2,3−トリクロロプロピル基、ブロモメチル基、1−ブロモエチル基、2−ブロモエチル基、2−ブロモイソブチル基、1,2−ジブロモエチル基、1,3−ジブロモイソプロピル基、2,3−ジブロモ−t−ブチル基、1,2,3−トリブロモプロピル基、ヨードメチル基、1−ヨードエチル基、2−ヨードエチル基、2−ヨードイソブチル基、1,2−ジヨードエチル基、1,3−ジヨードイソプロピル基、2,3−ジヨード−t−ブチル基、1,2,3−トリヨードプロピル基、フルオロメチル基、1−フルオロエチル基,2−フルオロエチル基、2−フルオロイソブチル基、1,2−ジフロロエチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロシクロヘキシル基等の基が挙げられる。
【0018】
上記置換若しくは無置換のアルキル基は、好ましくは置換若しくは無置換の飽和の直鎖アルキル基であり、より好ましくは炭素数1乃至3の置換若しくは無置換の飽和の直鎖アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1乃至3の無置換の飽和の直鎖アルキル基である。また、上記置換若しくは無置換のアルキル基は、好ましくは炭素数1乃至3の置換若しくは無置換のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1乃至3の無置換のアルキル基である。
【0019】
式(1)R乃至R16が表す上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0020】
上記置換若しくは無置換のアルコキシ基は、−OZ(Zは上述した置換若しくは無置換のアルキル基を表す)で表される基であり、Zの例としては、上述した置換若しくは無置換のアルキル基の例として挙げた各基が挙げられる。
【0021】
上記置換若しくは無置換のアルキルチオ基は、−SZ(Zは上述した置換又は無置換のアルキル基を表す)で表される基であり、Zの例としては、上述した置換若しくは無置換のアルキル基の例として挙げた各基が挙げられる。
【0022】
上記置換若しくは無置換のアルキルアミノ基は、−NHZ(Zは上述した置換又は無置換のアルキル基を表す)で表される基である。上記置換若しくは無置換のジアルキルアミノ基は−NZ(Z及びZはそれぞれ独立に、上述した置換又は無置換のアルキル基を表す)で表される基である。これらのアルキルアミノ基及びジアルキルアミノ基において、Z及びZの例としては、それぞれ上述した置換若しくは無置換のアルキル基の例として挙げた各基が挙げられる。なお、ジアルキルアミノ基が有する2つのアルキル基は互いに結合して窒素原子を含む環構造を形成してもよく、上記環構造としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環等が挙げられる。
【0023】
上記置換若しくは無置換のアルキルスルホニル基は、−SO(Zは上述した置換又は無置換のアルキル基を表す)で表される基であり、Zの例としては、上述した置換若しくは無置換のアルキル基の例として挙げた各基が挙げられる。
【0024】
上記置換若しくは無置換のトリアルキルシリル基は、−SiZ(Z、Z、及びZはそれぞれ独立に、上述した置換又は無置換のアルキル基を表す)で表される基である。Z、Z、及びZの例としては、それぞれ上述した置換若しくは無置換のアルキル基の例として挙げた各基が挙げられる。上記置換若しくは無置換のトリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基等が挙げられる。
【0025】
上記置換若しくは無置換のトリアルキルシリルエチニル基は、−C≡C−SiZ(Z、Z、及びZはそれぞれ独立に、上述した置換又は無置換のアルキル基を表す)で表される基である。Z、Z、及びZの例としては、それぞれ上述した置換若しくは無置換のアルキル基の例として挙げた各基が挙げられる。上記置換若しくは無置換のトリアルキルシリルエチニル基としては、例えば、トリメチルシリルエチニル基、トリエチルシリルエチニル基、トリイソプロピルシリルエチニル基等が挙げられる。
【0026】
上記アリールアミノ基とは、−NHZ(Zは上述した置換又は無置換のアリール基を表す)で表される基である。上記ジアリールアミノ基は−NZ(Z及びZはそれぞれ独立に、上述した置換又は無置換のアリール基を表す)で表される基である。Z及びZの例としては、それぞれ上述した置換若しくは無置換のアリール基の例として挙げた各基が挙げられる。
【0027】
式(1)で表される有機化合物のうち、R乃至R及びR乃至R12がそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のアルキル基であり、R乃至R及びR13乃至R16が水素原子である有機化合物、すなわち下記式(1−1)で表される有機化合物が好ましい。
【化3】
(式中、R乃至R及びR乃至R12はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表す)
【0028】
式(1−1)におけるR乃至R及びR乃至R12は、それぞれ独立に水素原子又は置換若しくは無置換のアルキル基であることが好ましく、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基であることがより好ましく、R乃至R及びR乃至R12の全てが水素原子であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の式(1)で表される有機化合物を有機エレクトロニクスデバイス、例えば薄膜トランジスタ素子に用いる場合、式(1)で表される有機化合物の中でも下記式(1−2)及び(1−3)のような、より棒状に近い分子構造を有する有機化合物を用いて有機薄膜を形成することにより、式(1)で表される有機化合物がその構造中に有する縮環構造(6つのベンゼン環と4つのチオフェン環が縮合した構造部分)のπ共役平面が配列して電荷輸送に高効率な結晶構造をとることにより、高い移動度が達成される。
【0030】
【化4】
(式中、R、R、R10及びR11はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表す)
【0031】
即ち、式(1)で表される有機化合物としては、上記式(1−2)で表される有機化合物(式(1)で表される有機化合物において、R、R乃至R、及びR11乃至R16が水素原子である有機化合物)、及び上記式(1−3)で表される有機化合物(式(1)で表される有機化合物において、R、R、R乃至R10、及びR12乃至R16が水素原子である有機化合物)が好ましい。さらに、これら式(1−2)で表される有機化合物及び式(1−3)で表される有機化合物のうち、式(1−2)におけるR及びR10がそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは無置換のアルキル基である有機化合物、並びに式(1−3)におけるR及びR11がそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは無置換のアルキル基である有機化合物が好ましく、式(1−2)におけるR及びR10がそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基である有機化合物、並びに式(1−3)におけるR及びR11がそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1乃至3の無置換のアルキル基である有機化合物がより好ましく、式(1−2)におけるR及びR10が水素原子である有機化合物、並びに式(1−3)におけるR及びR11が水素原子である有機化合物がさらに好ましい。また、式(1−2)におけるR及びR10の一方がアリール基であり他方がアリール基又は水素原子である有機化合物、並びに式(1−3)におけるR及びR11の一方がアリール基であり他方がアリール基又は水素原子である有機化合物も好ましい。
【0032】
本発明の式(1)で表される有機化合物は、例えば下記の反応工程で得られる。下記の反応工程では、まず、式(2)で示される中間体化合物(特許文献2参照)をスズ化合物と反応させ式(3)で示される中間体化合物を得る。さらに、式(3)で示される中間体化合物と、式(4)及び式(5)で示されるトリフラート化ベンゼン誘導体とのスティルカップリング反応により、式(6)で示される閉環前駆体を合成する。この閉環前駆体の分子内環化及び脱メチル反応を行うことにより、目的とする式(1)で表される有機化合物を得ることができる。
【0033】
【化5】
【0034】
式(1)で表される有機化合物の精製方法は、特に限定されず、再結晶、カラムグロマトグラフィー、及び真空昇華精製等の公知の方法が採用できる。また、必要に応じてこれらの方法を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
式(1)で表される有機化合物の具体例を下記するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0036】
【化6】
【0037】
【化7】
【0038】
【化8】
【0039】
【化9】
【0040】
【化10】
【0041】
【化11】
【0042】
【化12】
【0043】
〔有機半導体材料、有機薄膜〕
本発明の有機半導体材料は、本発明の式(1)で表される有機化合物を含有する。本発明の式(1)で表される有機化合物を含有する有機半導体材料を用いて有機薄膜を作製することができる。該有機薄膜の膜厚は、その用途によって異なるが、通常0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜3μmであり、より好ましくは1nm〜1μmである。
【0044】
有機薄膜の形成方法としては、一般的に、真空プロセスである、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、分子積層法などの方法;溶液プロセスである、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷法、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、シルクスクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法などの方法;これらの手法を複数組み合わせた方法等が挙げられる。これらの中でも、真空プロセスである抵抗加熱蒸着法が好ましい。
【0045】
〔有機エレクトロニクスデバイス〕
本発明の式(1)で表される有機化合物をエレクトロニクス用途の材料として用いて、有機エレクトロニクスデバイスを作製することができる。有機エレクトロニクスデバイスとしては、例えば薄膜トランジスタ素子、有機光電変換素子、有機太陽電池素子、有機EL素子、有機発光トランジスタ素子及び有機半導体レーザー素子等が挙げられる。次に、これらについて詳細に説明する。
【0046】
〔薄膜トランジスタ素子〕
まず、薄膜トランジスタ素子について詳しく説明する。
薄膜トランジスタ素子は、半導体薄膜に接して2つの電極(ソース電極及びドレイン電極)があり、それらの電極間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものである。
【0047】
一般に、薄膜トランジスタ素子には、ゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal−InsuIator−Semiconductor MIS構造)がよく用いられる。MIS構造のうちで絶縁膜に金属酸化膜を用いるものはMOS(Metal−Oxide−Semiconductor)構造と呼ばれる。他の構造の薄膜トランジスタ素子としては、半導体薄膜に対してショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造(すなわちMES構造)もあるが、有機半導体材料を用いた薄膜トランジスタ素子の場合、MIS構造がよく用いられる。
【0048】
以下、図を用いて本発明の有機化合物を含有する半導体薄膜を備える有機系の薄膜トランジスタ素子についてより詳細に説明するが、本発明の薄膜トランジスタ素子は、本発明の有機化合物を含有する有機半導体材料を用いたものであれば、これらの構造には限定されない。
【0049】
図1に、薄膜トランジスタ素子のいくつかの態様例を示す。図1(a)〜図1(f)及び図2において同じ機能を有する部材には同じ番号を付すものとする。
図1(a)〜(f)に示す各態様例の薄膜トランジスタ素子10A乃至10Fは、ソース電極1、有機半導体層2、ドレイン電極3、絶縁体層4、ゲート電極5、及び基板6を備えている。尚、各層や電極の配置は、薄膜トランジスタ素子の用途により適宜選択できる。薄膜トランジスタ素子10A〜10D及び10Fは、基板6と平行な方向に電流が流れるので、横型トランジスタと呼ばれる。薄膜トランジスタ素子10Aは、ゲート電極5上に絶縁体層4を介してソース電極1及びドレイン電極3を設け、さらにその上に有機半導体層2を形成しており、ボトムコンタクト−ボトムゲート構造と呼ばれる。薄膜トランジスタ素子10Bは、ゲート電極5上に絶縁体層4を介して有機半導体層2を設け、さらにその上にソース電極1及びドレイン電極3を形成しており、トップコンタクト−ボトムゲート構造と呼ばれる。また、薄膜トランジスタ素子10Cは、有機半導体層2上に、ソース電極1及びドレイン電極3を設け、さらにその上に絶縁体層4を介してゲート電極5を形成しており、トップコンタクト−トップゲート構造と呼ばれている。薄膜トランジスタ素子10Dは、ゲート電極5上に、絶縁体層4を介してソース電極1を設け、さらにその上に有機半導体層2を形成し、さらにその上にドレイン電極3を形成しており、トップ&ボトムコンタクトボトムゲート型トランジスタと呼ばれる構造である。薄膜トランジスタ素子10Fは、基板6上にソース電極1及びドレイン電極3を設け、さらにその上に有機半導体層2を設け、さらにその上に絶縁体層4を介してゲート電極5を形成しており、ボトムコンタクト−トップゲート構造である。
【0050】
薄膜トランジスタ素子10Eは、縦型の構造をもつトランジスタ、すなわち静電誘導トランジスタ(SIT)である。このSITは、電流の流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリア8が移動できる。また、SITは、ソース電極1とドレイン電極3とが縦に配されているので、電極間距離を小さくできるため、応答が高速である。従って、SITは、大電流を流す、高速のスイッチングを行うなどの用途に好ましく適用できる。なお、図1(e)には、基板を示していないが、通常の場合、図1(e)中のソース電極1又はドレイン電極3の外側には基板が設けられる。以下、この基板についても併せて「基板6」と呼ぶ。
【0051】
次に図1の各態様例における各構成要素につき説明する。
基板6は、その上に形成される各層が剥離することなく保持できることが必要である。基板6としては、例えば、樹脂板、樹脂フィルム、紙、ガラス板、石英板、セラミック板などの絶縁性基板;金属や合金などからなる導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成してなる多層基板;樹脂と無機材料との組合せなどの各種組合せからなる複合基板;等が使用できる。基板6に使用できる樹脂フィルムの例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミドなどのフィルムが挙げられる。基板6として樹脂フィルム又は紙を用いると、薄膜トランジスタ素子10A〜10Fに可撓性を持たせることができ、薄膜トランジスタ素子10A〜10Fがフレキシブルで、軽量となり、実用性が向上する。基板6の厚さは、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜5mmである。
【0052】
ソース電極1、ドレイン電極3、及びゲート電極5には、導電性を有する材料が用いられる。上記導電性を有する材料としては、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫、チタン、インジウム、パラジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム、カリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金;InO2、ZnO2、SnO2、ITO等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ビニレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等の炭素材料;等が使用できる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていてもよい。ドーピングに用いるドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸;スルホン酸等の酸性官能基を有する有機酸;PF5、AsF5、FeCl3等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子;等が挙げられる。ホウ素、リン、砒素などはシリコンなどの無機半導体用のドーパントとしても多用されている。また、上記のドーパント中にカーボンブラックや金属粒子などの導電性分子を分散した導電性の複合材料も上記導電性を有する材料として用いられる。直接、有機半導体層2と接触するソース電極1およびドレイン電極3では、コンタクト抵抗を低減するために、適切な仕事関数の選択や、表面処理などが大切になる。
【0053】
また、ソース電極1とドレイン電極3との間の距離(チャネル長)や、ソース電極1とドレイン電極3との間のチャネル領域の幅(チャネル幅)等の構造が薄膜トランジスタ素子10A〜10Fの特性を決める重要なファクターとなる。該チャネル長は、通常0.01〜300μm、好ましくは0.1〜100μmである。チャネル長が短ければ取り出せる電流量は増えるが、逆にコンタクト抵抗の影響など短チャネル効果が発生し、制御が困難となるため、適正なチャネル長が必要である。ソース電極1とドレイン電極3との間のチャネル領域の幅(チャネル幅)は、通常10〜10000μm、好ましくは100〜5000μmである。また、このチャネル幅は、ソース電極1及びドレイン電極3の構造をくし型構造とすることなどにより、さらに長くすることが可能で、必要な電流量や素子の構造などにより、適切な長さにする必要がある。
【0054】
ソース電極1及びドレイン電極3のそれぞれの構造(形)について説明する。ソース電極1の構造とドレイン電極3の構造とは、同じであっても、異なっていてもよい。
ボトムコンタクト構造の場合には、一般的には、リソグラフィー法を用いてソース電極1及びドレイン電極3を作製し、またソース電極1及びドレイン電極3を直方体の形状に形成するのが好ましい。最近は各種印刷方法による印刷精度が向上してきており、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、又はスクリーン印刷法等の手法を用いて精度よくソース電極1及びドレイン電極3を作製することが可能となってきている。有機半導体層2上にソース電極1及びドレイン電極3のあるトップコンタクト構造の場合には、シャドウマスクなどを用いて蒸着することによってソース電極1及びドレイン電極3を作製することができる。インクジェットなどの手法を用いて電極パターンを直接印刷することによってソース電極1及びドレイン電極3を形成することも可能となってきている。ソース電極1及びドレイン電極3の長さは、前記のチャネル幅と同じでよい。ソース電極1及びドレイン電極3の幅は、特に規定は無いが、電気的特性を安定化できる範囲で、薄膜トランジスタ素子10A〜10Fの面積を小さくするためには短い方が好ましい。ソース電極1及びドレイン電極3の幅は、通常0.1〜1000μmであり、好ましくは0.5〜100μmである。ソース電極1及びドレイン電極3の厚みは、通常0.1〜1000nmであり、好ましくは1〜500nmであり、より好ましくは5〜200nmである。ソース電極1、ドレイン電極3、及びゲート電極5には配線が連結されているが、配線も電極(ソース電極1、ドレイン電極3、及びゲート電極5)とほぼ同様の材料により作製される。
【0055】
絶縁体層4としては、絶縁性を有する材料が用いられる。上記の絶縁性を有する材料としては、例えば、ポリパラキシリレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体;二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の金属酸化物;SrTiO3、BaTiO3等の強誘電性金属酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物、硫化物、フッ化物などの誘電体;あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー;等が使用しうる。この絶縁体層4は、リーク電流を少なくするために電気絶縁特性が高いものが好ましく使用できる。それにより、絶縁体層4の層厚を薄くして、絶縁体層4の絶縁容量を高くすることができ、薄膜トランジスタ素子10A〜10D及び10Fから取り出せる電流を多くすることができる。また、有機半導体層2の移動度を向上させるためには、絶縁体層4表面の表面エネルギーを低下させるために絶縁体層4表面が凹凸のないスムースな表面であることが好ましい。そのために、絶縁体層4として、自己組織化単分子膜や、2層の絶縁体層を形成させる場合がある。絶縁体層4の層厚は、材料によって異なるが、通常0.1nm〜100μm、好ましくは0.5nm〜50μm、より好ましくは1nm〜10μmである。
【0056】
有機半導体層2の材料として、本発明の式(1)で表される有機化合物が用いられる。本発明の式(1)で表される有機化合物を用いて、先に示した有機薄膜の形成方法により、有機薄膜として有機半導体層2を形成する。薄膜トランジスタ素子10A〜10Fに対する特性の改善及び他の特性の付与等の目的のために、必要に応じて他の有機半導体材料や各種添加剤を本発明の式(1)で表される有機化合物に混合することも可能である。
【0057】
薄膜トランジスタ素子10A〜10Fにおいては、本発明の式(1)で表される有機化合物の少なくとも1種の化合物が有機半導体層2を構成する有機半導体材料として用いられる。式(1)で表される有機化合物を含有する有機半導体層2の形成時にウェットプロセスで成膜を行った場合、すなわち溶剤を使用して有機半導体層2を形成した場合には、形成された有機半導体層2を、実質的に溶剤を蒸発させた後に使用することが好ましい。有機半導体層2は、ドライプロセスである蒸着方法によって形成することが好ましい。薄膜トランジスタ素子10A〜10Fの特性を改善する目的等のために、有機半導体層2を構成する有機半導体材料にドーパント等の添加剤を含有させることもできる。
【0058】
上記添加剤は、有機半導体層2の材料の総量に対して、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%の範囲で添加される。
【0059】
また、有機半導体層2についても、複数の層を形成してもよい。有機半導体層2の層厚は、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。横型の薄膜トランジスタ素子10A〜10D及び10Fにおいては、有機半導体層2に所定以上の層厚があれば素子の特性は有機半導体層2の層厚に依存しない一方、有機半導体層2の層厚が厚くなると、漏れ電流が増加してくることが多いためである。必要な機能を示すための有機半導体層2の層厚は、通常、1nm〜1μm、好ましくは5nm〜500nm、より好ましくは10nm〜300nmである。
【0060】
薄膜トランジスタ素子10A〜10Fには、例えば、基板6と絶縁体層4との間や、絶縁体層4と有機半導体層2との間や、薄膜トランジスタ素子10A〜10Fの外面に、必要に応じて他の層を設けることができる。例えば、有機半導体層2上に直接、又は他の層を介して、保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を小さくすることができる。また、保護層の形成には、薄膜トランジスタ素子10A〜10FのON/OFF比を上げることができるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
【0061】
上記保護層の材料としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂;酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の無機酸化物;窒化膜等の誘電体;等が好ましく用いられ、特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が好ましい。有機ELディスプレイ用に開発されているガスバリア性保護材料も上記保護層の材料として使用できる。保護層の層厚は、その目的に応じて任意の層厚を選択できるが、通常100nm〜1mmである。
【0062】
また、有機半導体層2が積層される基板6又は絶縁体層4に予め表面改質や表面処理を行うことにより、薄膜トランジスタ素子10A〜10Fの特性を向上させることが可能である。例えば、基板6の表面改質や表面処理によって基板6表面の親水性/疎水性の度合いを調整することにより、その上に成膜される膜の膜質や成膜性を改良することができる。特に、有機半導体材料は分子の配向など膜の状態によって特性が大きく変わることがある。そのため、基板6や絶縁体層4への表面処理によって、基板6や絶縁体層4の上に形成される有機半導体層2と基板6や絶縁体層4との界面部分の分子配向が制御されること、また、基板6や絶縁体層4上のトラップ部位が低減されることにより、キャリア移動度等の特性が改良されるものと考えられる。
【0063】
トラップ部位とは、未処理の基板6に存在する例えば水酸基のような官能基をさし、このような官能基が基板6に存在すると、電子が該官能基に引き寄せられ、この結果としてキャリア移動度が低下する。従って、基板6や絶縁体層4上のトラップ部位を低減することも、キャリア移動度等の特性改良には有効な場合が多い。
【0064】
上記のような特性改良のための表面処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、デシルチオール等による自己組織化単分子膜処理;ポリマーなどによる表面処理;塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理;オゾン処理;フッ素化処理;酸素やアルゴン等のプラズマ処理;ラングミュア・ブロジェット膜を形成する処理;その他の絶縁体や半導体の薄膜を形成する処理;機械的処理;コロナ放電などの電気的処理;繊維等を利用したラビング処理;それらの組み合わせ等が挙げられる。
【0065】
これらの態様において、例えば、基板6、絶縁体層4、有機半導体層2等の各層を設ける方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等が適宜採用できる。
【0066】
次に、本発明に係る薄膜トランジスタ素子の製造方法について、図1(b)に示す態様例のトップコンタクト−ボトムゲート型薄膜トランジスタ素子10Bを例として、図2に基づき以下に説明する。この製造方法は、前記した他の態様の薄膜トランジスタ素子10A,10C〜10F等にも同様に適用しうるものである。
【0067】
(基板6及び基板6の処理)
薄膜トランジスタ素子10Bは、基板6上に必要な各種の層や電極を設けることで作製される(図2(a)参照)。基板6としては、上記で説明したものが使用できる。この基板6上に前述の表面処理などの処理を行うことも可能である。基板6の厚みは、必要な機能を妨げない範囲で薄い方が好ましい。また、必要により、基板6に電極の機能を持たせるようにすることもできる。
【0068】
(ゲート電極5の形成)
基板6上にゲート電極5を形成する(図2(b)参照)。ゲート電極5の材料としては、上記で説明したものが用いられる。ゲート電極5を成膜する方法としては、各種の方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾルゲル法等が採用される。成膜時又は成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行うのが好ましい。パターニングの方法としても、各種の方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチングとを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。また、シャドウマスクを用いた蒸着法;スパッタ方法;インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、凸版印刷等の印刷法;マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法;これら手法を複数組み合わせた手法等を利用して、パターニングすることも可能である。ゲート電極5の厚みは、材料によっても異なるが、通常0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜5μmであり、より好ましくは1nm〜3μmである。また、ゲート電極5が基板6を兼ねるような場合には、ゲート電極5の厚みが上記の厚みの範囲より大きくてもよい。
【0069】
(絶縁体層4の形成)
次に、ゲート電極5上に絶縁体層4を形成する(図2(c)参照)。絶縁体層4の材料としては、上記で説明した材料が用いられる。絶縁体層4の形成方法としては、各種の方法を用いうる。絶縁体層4の形成方法としては、例えば、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、キャスト法、バーコート法、ブレードコーティング法などの塗布法;スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の印刷法;真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD(化学気相成長)法などのドライプロセス法が挙げられる。その他、ゾルゲル法や、熱酸化法などにより金属(シリコン等の半金属を含む)上に金属の酸化物膜を形成する方法(アルミニウム上にアルマイト膜を形成する方法、シリコン上に二酸化シリコン膜を形成する方法等)等が採用される。なお、絶縁体層4と有機半導体層2とが接する部分においては、両層の界面で半導体を構成する分子、例えば上記式(1)で表される有機化合物の分子を良好に配向させるために、絶縁体層4に所定の表面処理を行うこともできる。表面処理の手法としては、基板6の表面処理と同様の手法を用いることができる。絶縁体層4の層厚は、薄くすることでその電気容量を上げることで薄膜トランジスタ素子10Bから取り出す電気量を増やすことができるため、できるだけ薄いことが好ましい。このときに、絶縁体層4が薄い膜になるとリーク電流が増えるため、絶縁体層4は、その機能を損なわない範囲内で薄い方が好ましい。
【0070】
(有機半導体層2の形成)
次に、絶縁体層4上に有機半導体層2を形成する(図2(d)参照)。本発明の式(1)で表される有機化合物を含む有機半導体材料は、有機半導体層2の形成に使用される。有機半導体層2を形成するにあたっては、各種の方法を用いることができる。有機半導体層2を形成する方法としては、具体的には、スパッタリング法、CVD法、分子線エピタキシャル成長法、真空蒸着法等の真空プロセスによる形成方法;ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法等の塗布法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの溶液プロセスによる形成方法;などが挙げられる。
【0071】
まず、真空プロセスによって有機半導体材料を成膜し有機半導体層2を得る方法について説明する。真空プロセスによる有機半導体材料の成膜方法としては、本発明の式(1)で表される有機化合物を含む前記の有機半導体材料をルツボや金属のボート中で真空下、加熱し、蒸発した有機半導体材料を、有機半導体層2がその上に形成される基板(基板6、絶縁体層4、ソース電極1及びドレイン電極3などの基材)に付着(蒸着)させる方法、すなわち真空蒸着法が好ましく採用される。この際、真空度は、通常1.0×10−1Pa以下、好ましくは1.0×10−3Pa以下である。また、蒸着時の基板(基材)温度(蒸着温度)によって、有機半導体層2の特性、ひいては薄膜トランジスタ素子10Bの特性が変化する場合があるので、注意深く基板温度を選択するのが好ましい。蒸着時の基板温度は、通常0〜250℃であり、好ましくは5〜200℃であり、より好ましくは10〜180℃であり、さらに好ましくは15〜150℃であり、特に好ましくは20〜130℃である。
【0072】
また、蒸着速度は、通常0.001nm/秒〜10nm/秒であり、好ましくは0.01nm/秒〜1nm/秒である。
【0073】
なお、有機半導体層2を形成するための有機半導体材料を加熱、蒸発させ基板(基材)に付着させる蒸着方法に代えて、その他の手法を用いてもよい。
【0074】
次いで、溶液プロセスによって有機半導体材料を成膜し有機半導体層2を得る方法について説明する。本発明の式(1)で表される有機化合物を溶剤等に溶解し、さらに必要であれば添加剤などを添加することによって作製した組成物(インク)を、基板(基材)表面(絶縁体層4、ソース電極1、及びドレイン電極3の露出部の表面)に塗布する。塗布の方法としては、キャスティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、ブレードコーティング法、ワイヤバーコーティング法、スプレーコーティング法等のコーティング法;インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法等の印刷法;マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法;これらの手法を複数組み合わせた方法等が挙げられる。
【0075】
さらに、塗布方法に類似した方法として水面上に上記のインクを滴下することにより作製した有機半導体層の単分子膜を基板(基材)に移し積層するラングミュア−ブロジェット法、液晶や融液状態の材料を2枚の基板(基材)で挟んで毛管現象で基板(基材)間に導入する方法等も採用できる。
【0076】
成膜時における基板(基材)や組成物の温度などの環境も重要で、基板(基材)や組成物の温度によって薄膜トランジスタ素子10Bの特性が変化する場合があるので、注意深く基板及び組成物の温度を選択するのが好ましい。基板温度は、通常、0〜200℃であり、好ましくは10〜120℃であり、より好ましくは15〜100℃である。基板温度の選択は、用いる組成物中の溶剤などに大きく依存するため、注意が必要である。
【0077】
この方法により作製される有機半導体層2の層厚は、その機能を損なわない範囲で、薄い方が好ましい。有機半導体層2の層厚が厚くなると、漏れ電流が大きくなる懸念がある。有機半導体層2の層厚は、通常1nm〜1μm、好ましくは5nm〜500nm、より好ましくは10nm〜300nmである。
【0078】
このように形成された有機半導体層2(図2(d)参照)は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、熱処理により、成膜時に生じた有機半導体層2中の歪みが緩和されること、有機半導体層2中のピンホール等が低減されること、有機半導体層2中の配列・配向が制御できる等の理由により、有機半導体層2の有機半導体特性の向上や安定化を図ることができる。本発明の一形態に係る薄膜トランジスタ素子10Bの作製時には、この熱処理を行うことが薄膜トランジスタ素子10Bの特性の向上のためには効果的である。当該熱処理は、有機半導体層2を形成した後に基板(基材)を加熱することによって行う。熱処理の温度は、特に制限は無いが、通常、室温から200℃程度、好ましくは40〜150℃、より好ましくは45〜120℃である。このときの熱処理時間は、特に制限は無いが、通常10秒から24時間、好ましくは30秒から3時間程度である。熱処理のときの雰囲気は、大気中でもよいが、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下でもよい。その他の後処理として、溶媒蒸気による有機半導体層2の形状の制御などが可能である。
【0079】
また、その他の有機半導体層2の後処理方法として、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や、酸化性あるいは還元性の液体などを用いて処理することにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは、例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
【0080】
また、ドーピングと呼ばれる手法において、微量の元素、原子団、分子、又は高分子を有機半導体層2に加えることにより、有機半導体層2の特性を変化させることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸;PF、AsF、FeCl等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;ナトリウム、カリウム等の金属原子;TCNQやフラーレン等のアクセプター化合物を有機半導体層2にドーピングすることができる。これらによる有機半導体層2のドーピングは、これらのガスを有機半導体層2に接触させたり、これらの溶液に有機半導体層2を浸したり、これらによる電気化学的なドーピング処理を有機半導体層2にしたりすることにより、達成できる。これらのドーピングに使用する材料は、有機半導体層2の作製後に添加しなくてもよく、本発明の式(1)で表される有機化合物の合成時に添加したり、組成物(インク)を用いて有機半導体層2を作製する溶液プロセスを用いる場合に組成物(インク)に添加したり、有機半導体層2を形成する工程段階などで添加したりすることもできる。また、蒸着によって有機半導体層2を形成する場合には、蒸着時に有機半導体層2を形成する材料にドーピングに用いる材料を添加して共蒸着したり、有機半導体層2を作製する時の周囲の雰囲気に混合(ドーピングに用いる材料を存在させた環境下で有機半導体層2を作製)したり、ドーピング用のイオンを真空中で加速して有機半導体層2に衝突させてドーピングしたりすることも可能である。
【0081】
これらのドーピングの効果としては、キャリア密度の増加又は減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられる。
【0082】
(ソース電極1及びドレイン電極3の形成)
次に、有機半導体層2上にソース電極1及びドレイン電極3を形成する(図2(e)参照)。ソース電極1及びドレイン電極3の形成等の工程は、ゲート電極5の場合に準じて行うことができる。また、ソース電極1及びドレイン電極3においては、有機半導体層2との接触抵抗を低減するために、各種添加剤などを用いることが可能である。
【0083】
(保護層7の形成)
次に、必要に応じて有機半導体層2上に保護層7を形成する(図2(f)参照)。有機半導体層2上に保護層7を形成すると、外気の影響を最小限にでき、また、有機薄膜トランジスタ素子10Bの電気的特性を安定化できるという利点がある。保護層7の材料としては、前記のものが使用される。保護層7の層厚は、その目的に応じて任意の層厚を採用できるが、通常100nm〜1mmである。
【0084】
保護層7を形成するための成膜方法としては、各種の方法を採用しうるが、保護層が樹脂からなる場合には、例えば、樹脂溶液を塗布後に乾燥させて樹脂膜とする方法;樹脂モノマーを塗布又は蒸着した後に重合することによって樹脂膜とする方法;などが挙げられる。樹脂膜の成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護層7が無機物からなる場合には、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法等の溶液プロセスでの形成方法も保護層7の形成に用いることができる。
【0085】
薄膜トランジスタ素子10Bにおいては、有機半導体層2上の他、各層の間にも必要に応じて保護層を設けることができる。それらの位置に設けられた保護層は、薄膜トランジスタ素子10Bの電気的特性の安定化に役立つ場合がある。
【0086】
薄膜トランジスタ素子10Bは、有機半導体材料として式(1)で表される有機化合物を用いているため、比較的低温プロセスで製造することができる。従って、高温にさらされる条件下では使用できなかったプラスチック板、プラスチックフィルム等のフレキシブルな材質の基板も基板6として用いることができる。その結果、軽量で柔軟性に優れた壊れにくい薄膜トランジスタ素子の製造が可能になり、ディスプレイのアクティブマトリクスのスイッチング素子等として薄膜トランジスタ素子を利用することができる。
【0087】
(電極上の自己組織化単分子膜の形成)
薄膜トランジスタ素子10Aのように、ソース電極1及びドレイン電極3の上に有機半導体層2を形成する場合、ソース電極1及びドレイン電極3をあらかじめ表面処理することができる。このような表面処理は、移動度や閾値電圧等の特性改良には有効な場合が多い。
【0088】
上記のような特性改良のための表面処理としては、ベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオール、アルカンチオール等のチオール誘導体による自己組織化単分子膜処理が挙げられる。
【0089】
本発明の薄膜トランジスタ素子は、メモリー回路、信号ドライバー回路、信号処理回路などの、デジタル又はアナログの回路を構成する素子として利用できる。さらにこれら回路を組み合わせることにより、ディスプレイ、ICカードやICタグ等の作製が可能となる。さらに、本発明の薄膜トランジスタ素子は、化学物質等の外部刺激によりその特性に変化を起こすことができるので、FET(電界効果トランジスタ)センサーとしての利用も可能である。
【0090】
〔有機EL素子〕
次に、有機EL素子について説明する。
有機EL素子は、固体で自己発光型の大面積カラー表示や照明などの用途に利用できることが注目され、数多くの開発がなされている。有機EL素子の構成としては、陰極と陽極とからなる対向電極の間に、発光層及び電荷輸送層の2層を有する構造のもの;対向電極の間に、積層された電子輸送層、発光層、及び正孔輸送層の3層を有する構造のもの;対向電極の間に、3層以上の層を有する構造のもの;等が知られており、また、発光層が単層であるもの等も知られている。
【0091】
ここで、上記正孔輸送層は、正孔を陽極から注入させ、正孔を発光層へ輸送し、発光層への正孔の注入を容易にする機能と、電子をブロックする機能とを有する。また、上記電子輸送層は、電子を陰極から注入させ、電子を発光層へ輸送し、発光層への電子の注入を容易にする機能と、正孔をブロックする機能とを有する。さらに、上記発光層においては、それぞれ注入された電子と正孔とが再結合することにより励起子が生じ、その励起子が放射失活する過程で放射されるエネルギーが発光として検出される。
以下に、有機EL素子の好ましい態様を記載する。
【0092】
有機EL素子は、陽極と陰極との間に、1層または複数層の有機薄膜が形成された、電気エネルギーにより発光する素子である。
有機EL素子において使用されうる陽極は、正孔を、正孔注入層、正孔輸送層、及び発光層に注入する機能を有する電極である。陽極の材料としては、一般的に、仕事関数が4.5eV以上の、金属酸化物、金属、合金、導電性材料などが適している。陽極の材料としては、具体的には、特に限定されるものでないが、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、タングステンなどの金属;ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質;ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマー;炭素などが挙げられる。それらの中でも、ITOやNESAを陽極の材料として用いることが好ましい。
【0093】
陽極は、必要であれば、複数の材料を用いて構成してもよく、また2層以上で構成してもよい。陽極の抵抗は、有機EL素子の発光に十分な電流を供給できるものであれば限定されないが、有機EL素子の消費電力の観点からは低抵抗であることが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下の導電性基板(例えばITO基板)であれば有機EL素子の陽極として機能するが、シート抵抗値が数Ω/□程度の導電性基板の供給も可能になっていることから、低抵抗で、かつ透過率の高い導電性基板を陽極として使用することが望ましい。ITO基板等の陽極の厚みは、抵抗値に合わせて任意に選択することができるが、通常5〜1000nm、好ましくは10〜500nmである。ITOなどの陽極材料を成膜する方法としては、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、塗布法などが挙げられる。
【0094】
有機EL素子において使用されうる陰極は、電子を電子注入層、電子輸送層、及び発光層に注入する機能を有する電極である。陰極の材料としては、一般的に、仕事関数の小さい(おおよそ4eV以下である)金属や合金が適している。陰極に使用されうる金属としては、具体的には、特に限定されないが、白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。電子注入効率を上げて有機EL素子の特性を向上させるためには、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムが好ましい。合金を使用した陰極としては、これら低仕事関数の金属とアルミニウムもしくは銀等の金属との合金からなる電極、又は、これら低仕事関数の金属とアルミニウムもしくは銀等の金属とを積層した構造の電極等が使用できる。積層構造の陰極には、フッ化リチウムのような無機塩の使用も可能である。また、陽極側でなく陰極側へ発光を取り出す場合は、できるだけ低温で製膜可能なITOなどの透明電極を陰極に使用することもできる。陰極の形成方法としては、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、塗布法などが挙げられるが、特に制限されるものではない。陰極の抵抗は、有機EL素子の発光に十分な電流を供給できるものであれば限定されないが、有機EL素子の消費電力の観点からは低抵抗であることが好ましく、数100〜数Ω/□程度が好ましい。陰極の厚みは、通常5〜1000nm、好ましくは10〜500nmの範囲内である。
【0095】
さらに、封止及び保護のために、保護用材料で陰極を保護し、脱水剤と共に封止することができる。上記保護用材料としては、例えば、酸化チタン、窒化ケイ素、酸化珪素、窒化酸化ケイ素、酸化ゲルマニウムなどの、酸化物、窒化物、又はそれらの混合物;ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、炭化水素系高分子、フッ素系高分子などの高分子などが挙げられる。上記脱水剤としては、例えば、酸化バリウム、五酸化リン、酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0096】
また、有機EL素子から発光を取り出すために、一般的には、有機EL素子の発光波長領域で十分に透明性を有する基板上に電極(陽極、陰極)を作製することが好ましい。そのような透明性の基板としては、ガラス基板やポリマー基板などが挙げられる。上記ガラス基板は、機械的・熱的強度を保つのに十分な厚みを有していればよく、0.5mm以上の厚みを有することが好ましい。上記ガラス基板を構成するガラスとしては、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英などが用いられる。上記ガラスは、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよく、無アルカリガラスであることが好ましい。このようなガラスとして、SiOなどのバリアコートを施したソーダライムガラスが市販されているので、これを使用することもできる。また、ポリマー基板を構成するポリマーとしては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0097】
有機EL素子の有機薄膜は、陽極と陰極との間に、1層又は複数の層として形成されている。その有機薄膜に式(1)で表される有機化合物を含有させることにより、電気エネルギーにより発光する本発明の有機EL素子が得られる。
有機薄膜を形成する1層又は複数の層の「層」とは、正孔輸送層、電子輸送層、正孔輸送性発光層、電子輸送性発光層、正孔阻止層、電子阻止層、正孔注入層、電子注入層、発光層、又は、下記構成例9)に示すようにこれらの層が有する機能を併せ持つ単一の層を意味する。本発明における有機薄膜を形成する層の構成としては、以下の構成例1)から9)が挙げられ、いずれの構成であってもよい。
【0098】
構成例
1)正孔輸送層/電子輸送性発光層。
2)正孔輸送層/発光層/電子輸送層。
3)正孔輸送性発光層/電子輸送層。
4)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層。
5)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層。
6)正孔輸送性発光層/正孔阻止層/電子輸送層。
7)前記1)から6)の組み合わせのそれぞれにおいて、正孔輸送層もしくは正孔輸送性発光層の前に正孔注入層をさらにもう一層付与した構成。
8)前記1)から7)の組み合わせのそれぞれにおいて、電子輸送層もしくは電子輸送性発光層の前に電子注入層をさらにもう一層付与した構成。
9)前記1)から8)の組み合わせにおいて使用する材料をそれぞれ混合し、この混合した材料を含有する一層のみを有する構成。
なお、前記9)は、一般にバイポーラー性の発光材料と言われる材料で形成される単一の層;又は、発光材料と正孔輸送材料又は電子輸送材料とを含む層を一層設けるだけでもよい。一般的に、多層構造とすることで、電荷、すなわち正孔及び/又は電子を効率良く輸送し、これらの電荷を再結合させることができる。また、一般的に、多層構造とすることで、電荷のクエンチングなどが抑えられることにより、有機EL素子の安定性の低下を防ぎ、発光の効率を向上させることができる。
【0099】
正孔注入層及び正孔輸送層は、一種類の正孔輸送材料単独で形成されるか、あるいは二種類以上の正孔輸送材料を混合又は積層することにより形成される。上記正孔輸送材料としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミンなどのトリフェニルアミン類、ビス(N−アリルカルバゾール)、ビス(N−アルキルカルバゾール)類、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、及びポルフィリン誘導体に代表される複素環化合物;前記複素環化合物を側鎖に有するポリカーボネート、スチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどのポリマー系が好ましく使用できる。上記正孔輸送材料は、有機EL素子の作製に必要な薄膜を形成し、陽極から正孔が注入できて、さらに正孔を輸送できる物質であれば、特に限定されるものではない。正孔注入性を向上するための、正孔輸送層と陽極との間に設ける正孔注入層としては、フタロシアニン誘導体;m−MTDATA(4,4’,4''−トリス[フェニル(m−トリル)アミノ]トリフェニルアミン)等のスターバーストアミン類;PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))等のポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール誘導体等の高分子等を使用して作製されたものが挙げられる。
【0100】
電子注入層及び電子輸送層は、電子輸送材料単独で形成されるか、あるいは二種類以上の電子輸送材料を積層することにより形成される。上記電子輸送材料としては、電界を与えられた電極(陽極及び陰極)間において陰極から注入された電子を効率良く輸送することが必要である。電子輸送材料は、電子注入効率が高く、注入された電子を効率良く輸送することが好ましい。そのためには、電子輸送材料は、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが要求される。このような条件を満たす電子輸送材料として、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体に代表されるキノリノール誘導体金属錯体、トロボロン金属錯体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、ナフタルイミド誘導体、ナフタル酸誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、キノキサリン誘導体などが挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの電子輸送材料は、単独で使用することができるが、異なる複数の電子輸送材料を積層又は混合して使用することもできる。電子注入性を向上するための、電子輸送層と陰極との間に設けられる電子注入層としては、セシウム、リチウム、ストロンチウムなどの金属や、フッ化リチウムなどが挙げられる。
【0101】
上記正孔阻止層は、一種類の正孔阻止性物質単独で形成されるか、あるいは二種類以上の正孔阻止性物質を積層又は混合することにより形成される。上記正孔阻止性物質としては、バソフェナントロリン、バソキュプロイン等のフェナントロリン誘導体、シロール誘導体、キノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体などが好ましい。ただし、上記正孔阻止性物質は、正孔が陰極側から素子外部に流れ出てしまい発光効率が低下するのを阻止することができる化合物であれば、特に限定されるものではない。
【0102】
発光層とは、発光する有機薄膜の意味であり、例えば、強い発光性を有する、正孔輸送層(正孔輸送性発光層)、電子輸送層(電子輸送性発光層)、又はバイポーラー輸送層である。発光層は、発光材料(ホスト材料、ドーパント材料など)により形成されていればよく、ホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であってもよい。ホスト材料及びドーパント材料のそれぞれは、一種類の材料であっても、複数種類の材料の組み合わせであってもよい。
【0103】
上記ドーパント材料は、ホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれであってもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれであってもよい。発光層として、例えば、前述の正孔輸送層や電子輸送層が挙げられる。発光層に使用される材料としては、カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体、ナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フェニルブタジエン誘導体、スチリル誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、テトラセン誘導体、ペリレン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ポルフィリン誘導体、燐光性金属錯体(Ir錯体、Pt錯体、Eu錯体など)などが挙げられる。
【0104】
有機EL素子における有機薄膜の各層の形成方法としては、一般的に、真空プロセスである、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、分子積層法;溶液プロセスである、キャスティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、ブレードコーティング法、ワイヤバーコーティング法、スプレーコーティング法等のコーティング法;溶液プロセスである、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、凸版印刷法等の印刷法;溶液プロセスであるマイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法;これらの手法を複数組み合わせた方法等が挙げられる。有機薄膜の各層の厚みは、構成物質の抵抗値や電荷移動度にもよるので限定することはできないが、0.1〜500nmの間から選ばれる。有機薄膜の各層の厚みは、好ましくは0.5〜300nm、より好ましくは1〜100nmである。
【0105】
本発明における有機EL素子が有する有機薄膜のうち、陽極と陰極との間に存在する、発光層、正孔輸送層、電子輸送層などの有機薄膜の1層又は複数層に式(1)で表される有機化合物を含有させることにより、低電気エネルギーでも効率良く発光する有機EL素子が得られる。
【0106】
式(1)で表される有機化合物を含む層は、陽極と陰極との間に1層または複数層形成することができる。式(1)で表される有機化合物を使用する部位に特に制限は無いが、正孔輸送層や発光層の構成材料として、また、ドーパント材料と組み合わせたホスト材料として好適に使用できる。
【0107】
式(1)で表される有機化合物は、正孔輸送層や発光層の材料として好適に用いることができる。式(1)で表される有機化合物は、例えば前述した電子輸送材料又は正孔輸送材料、発光材料などの他の材料と組み合わせて使用したり、それらの他の材料と混合して使用したりすることができる。
【0108】
式(1)で表される有機化合物をドーパント材料と組み合わせてホスト材料として用いるときの、ドーパント材料としては、特に限定されるものではなく、具体的には例えば、ビス(ジイソプロピルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸イミドなどのべリレン誘導体、ペリノン誘導体、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)やその類縁体、マグネシウムフタロシアニンやアルミニウムクロロフタロシアニンなどの金属フタロシアニン誘導体、ローダミン化合物、デアザフラビン誘導体、クマリン誘導体、オキサジン化合物、スクアリリウム化合物、ビオラントロン化合物、ナイルレッド、5−シアノピロメテン−BF錯体等のピロメテン誘導体などを用いることができる。また、燐光材料として、アセチルアセトンやベンゾイルアセトン、フェナントロリンなどを配位子とするEu錯体や、Ir錯体、Ru錯体、Pt錯体、Os錯体などのポルフィリン、オルトメタル金属錯体をドーパント材料として使用することもできる。また、2種類のドーパント材料を混合して使用する場合には、ルブレンのようなアシストドーパントを用いてホスト材料(ホスト色素)からのエネルギーを効率良く移動して色純度の向上した発光を得ることも可能である。いずれの場合にも、高輝度特性を得るためには、蛍光量子収率が高いものをドーピングすることが好ましい。
【0109】
ドーパント材料は、使用量が多すぎると濃度消光現象が起きるため、通常ホスト材料に対して30質量%以下で用いられる。ドーパント材料の使用量は、好ましくはホスト材料に対して20質量%以下であり、より好ましくはホスト材料に対して10質量%以下である。発光層におけるドーパント材料をホスト材料にドーピングする方法としては、ドーパント材料とホスト材料との共蒸着法によって発光層を形成する方法を用いることができるが、ドーパント材料をホスト材料と予め混合してから同時に蒸着する方法を用いてもよい。また、ドーパント材料をホスト材料にサンドイッチ状に挟んで使用することも可能である。この場合、ドーパント材料を一層又は二層以上のドーパント層として、ホスト材料と積層してもよい。
【0110】
これらのドーパント層の各層は、単独のドーパント材料で形成してもよく、そのドーパント材料をホスト材料等と混合して使用してもよい。また、ドーパント材料を、高分子結着剤に溶解又は分散させて用いることも可能である。上記高分子結着剤としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(メチル)(メタ)アタリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリブタジエン、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリサルフォン、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)、ポリウレタン樹脂などの溶剤可溶性樹脂;フェノール樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの硬化性樹脂が挙げられる。
【0111】
有機EL素子は、フラットパネルディスプレイとして好適に使用することができる。また、有機EL素子は、フラットバックライトとしても用いることができ、この場合、有色光を発する有機EL素子でも白色光を発する有機EL素子でもフラットバックライトとして使用できる。バックライトは、主に自発光しない表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶表示装置、時計、オーディオ機器、自動車パネル、表示板、標識などに使用される。特に、液晶表示装置、中でも薄型化が課題となっているパソコン用途のための液晶表示装置のバックライトにおいて、従来のバックライトは蛍光灯や導光板からなっているため薄型化が困難であったが、本発明の有機EL素子を用いたバックライトは薄型及び軽量が特徴であるために上記問題点を解消できる。同様に、本発明の有機EL素子は、照明にも有用に用いることができる。
【0112】
本発明の式(1)で表される有機化合物を用いると、発光効率が高く、寿命が長い有機EL表示装置(有機EL素子を用いた表示装置)を得ることができる。さらに、上記有機EL表示装置を本発明の薄膜トランジスタ素子と組み合わせることで、印加電圧のオンオフ現象を電気的に高精度に制御した有機EL表示装置を低コストで供給することが可能となる。
【0113】
〔有機発光トランジスタ素子〕
次に、有機発光トランジスタ素子について説明する。式(1)で表される有機化合物は、有機発光トランジスタ素子にも用いることができる。薄膜トランジスタ素子と有機エレクトロルミネッセンス素子とを融合した有機発光トランジスタ素子は、ディスプレイにおける駆動回路と発光部分とが一体化した構造をもち、駆動トランジスタ回路の占有面積を低減することができ、表示部の開口率を挙げることができる。つまり部品点数の低減が可能で作製プロセスが単純になることで、さらにコストの安いディスプレイが得られることになる。原理的には薄膜トランジスタ素子のソース電極及びドレイン電極から、それぞれ電子・正孔を有機発光材料中に同時に注入し、再結合させることにより発光させる。発光量の調整はゲート電極からの電界によって制御することになる。
【0114】
有機発光トランジスタ素子の構造は、薄膜トランジスタ素子の項で述べたものと同様でよく、その場合の有機半導体層には、薄膜トランジスタ素子用の材料に代えて発光トランジスタ素子用の材料を用いることができる。有機発光トランジスタ素子は、有機半導体層に使用する有機半導体材料の特性に応じて適宜使用する材料やプロセスを選択することができ、光を外部に取り出すための構成であることが望ましい。通常の薄膜トランジスタ素子では、電子又は正孔の片方だけを注入するのみでよいが、有機発光トランジスタ素子の場合には、有機半導体層中での電子と正孔との結合により発光するため、電極から効果的な電荷の注入・結合・発光を促す構造であることが好ましい。
【0115】
〔有機光電変換素子〕
本発明の式(1)で表される有機化合物は、その半導体特性を利用することにより、有機光電変換素子の構成材料としての利用が可能である。有機光電変換素子としては、固体撮像素子であるイメージセンサとして、動画や静止画等の映像信号をデジタル信号へ変換する機能を有する電荷結合素子(CCD)等が挙げられる。本発明の式(1)で表される有機化合物を用いた有機光電変換素子は、より安価、大面積化加工性、有機物固有のフレキシブル機能性等の利点を有することが期待される。
【0116】
〔有機太陽電池素子〕
本発明の式(1)で表される有機化合物を用いて、フレキシブルで低コストの、有機太陽電池素子を簡便に作製することができる。すなわち、有機太陽電池素子は、固体素子であるため、柔軟性や寿命向上の点で有利であることが特長である、従来は導電性ポリマーやフラーレンなどを組み合わせた有機薄膜半導体を用いる太陽電池の開発が主流であったが、発電変換効率が問題となっている。
【0117】
一般に有機太陽電池素子の構成は、シリコン系の太陽電池と同様に、発電を行う層(発電層)を陽極と陰極とではさみ、光を吸収することで発生した正孔と電子を各電極で受け取ることで太陽電池として機能する。その発電層は、p型のドナー材料と、n型のアクセプター材料と、バッファー層などのその他の材料とで構成されており、発電層の材料に有機材料が用いられている太陽電池を有機太陽電池素子という。
【0118】
有機太陽電池素子の構造としては、ショットキー接合、ヘテロ接合、バルクヘテロ接合、ナノ構造接合、ハイブリッドなどが挙げられる。有機太陽電池素子は、各材料が効率的に入射光を吸収し、電荷を発生させ、発生した電荷(正孔と電子)を分離・輸送・収集することで太陽電池として機能する。なお、一般的な有機太陽電池素子の構造である、ヘテロ接合素子の一例の構造を図3に示した。
【0119】
図3に示す有機太陽電池素子20は、基板21と、基板21の上面上に形成された陽極22と、陽極22の上面上に形成された発電層23と、発電層23の上面上に形成された陰極24とを備えており、発電層23が、陽極22の上面上に形成されたp型のドナー材料からなるp型層231と、p型層231の上面上に形成されたn型のアクセプター材料からなるn型層232と、n型層232の上面上に形成されたバッファー層233とで構成されている。
【0120】
次に、有機太陽電池素子の構成要素について説明する。
有機太陽電池素子における陽極及び陰極は、先に述べた有機EL素子と同様である。陽極及び陰極は、光を効率的に取り込む必要があるため、発電層の吸収波長領域で透明性を有する電極とすることが望ましい。また、良好な太陽電池特性を有するためには、陽極及び陰極は、シート抵抗が20Ω/□以下であり、かつ光の透過率が85%以上であることが好ましい。
【0121】
有機太陽電池素子における発電層は、少なくとも本発明の式(1)で表される有機化合物を含有する有機薄膜の1層又は複数層から形成されている。有機太陽電池素子は、先に示した構造をとることが可能であるが、基本的に、p型のドナー材料及びn型のアクセプター材料並びにバッファー層で構成されている。
【0122】
p型のドナー材料としては、基本的に有機EL素子の項で述べた正孔注入層及び正孔輸送層の材料と同様に、正孔を輸送できる化合物;ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアニリン誘導体等のπ共役型ポリマー;カルバゾールやその他複素環を側鎖に持つポリマー等が挙げられる。また、p型のドナー材料として、ペンタセン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、インジゴ誘導体、キナクリドン誘導体、メロシアニン誘導体、シアニン誘導体、スクアリウム誘導体、ベンゾキノン誘導体などの低分子化合物も挙げられる。
【0123】
n型のアクセプター材料としては、基本的に有機EL素子の項で述べた電子輸送層と同様に、電子を輸送できる化合物;ピリジン及びその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、キノリンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、ベンゾフェナンスロリン類及びその誘導体を持つポリマー;シアノポリフェニレンビニレン(CN−PPV)及びその誘導体などの高分子材料;フッ素化フタロシアニン誘導体、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、バソキュプロイン誘導体、フラーレン(C60やC70など)及びその誘導体(例えば、PCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル))などの低分子材料が挙げられる。
p型のドナー材料及びn型のアクセプター材料としては、それぞれ、光を効率的に吸収し、電荷を発生させる材料が好ましく、吸光係数が高い材料が好ましい。
【0124】
本発明の式(1)の有機化合物は、特にp型のドナー材料として好適に用いることができる。有機太陽電池の発電層用の有機薄膜の形成方法は、先述の有機EL素子の項で述べた方法と同様でよい。有機薄膜の膜厚は、太陽電池の構成によっても異なるが、光を十分に吸収するため及び短絡を防ぐためには厚い方が良いが、発生した電荷を輸送する距離が短い方が良いために薄い方が適している。一般的には、発電層としての有機薄膜の膜厚は、10〜500nm程度であることが好ましい。
【0125】
〔有機半導体レーザー素子〕
本発明の式(1)で表される有機化合物は、半導体特性を有する有機化合物であることから、有機半導体レーザー素子としての利用が期待される。
すなわち、本発明の式(1)で表される有機化合物を含有する有機半導体素子に共振器構造を組み込み、効率的にキャリアを注入して励起状態の密度を十分に高めることができれば、光が増幅されレーザー発振に至る事が期待される。従来、光励起によるレーザー発振が観測されるのみで、電気励起によるレーザー発振に必要とされる、高密度のキャリアを有機半導体素子に注入し、高密度の励起状態を発生させるのは非常に困難と提唱されているが、本発明の式(1)で表される有機化合物を含有する有機半導体素子を用いることで、高効率な発光(電界発光)が起こる可能性が期待される。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例中、Mはモル濃度を表し、化合物の式番号は、上記の具体的に記載した化合物の式番号にそれぞれ対応する。また、反応温度は、特に断りのない限り反応系内の内温を記載した。
【0127】
合成例にて得られた各種の化合物は、必要に応じてEI−MSスペクトル(電子衝撃質量分析スペクトル)、1H−NMRスペクトル(プロトン核磁気共鳴分光スペクトル)、λmax(極大吸収波長)の測定を行うことにより、その構造を決定した。これらの測定に用いた測定機器は、以下の通りである。
【0128】
EI−MSスペクトル:ガスクロマトグラフ質量分析計(型式名「QP−5050A」、株式会社島津製作所製)
H−NMRスペクトル:核磁気共鳴装置(型式名「JEOL Lambda 400」、日本電子株式会社製)
極大吸収波長:紫外可視近赤外分光光度計(型式名「UV−3150」、株式会社島津製作所製)
【0129】
〔実施例1〕(上記具体例の式(11)で表される本発明の一例の有機化合物の合成)
(工程1)下記式(3−1)で表される中間体化合物の合成
本工程では、下記の反応式に従って、下記式(2−1)で表される化合物(式(2)のR、R、R14、及びR15の全てが水素原子である化合物)から下記式(3−1)で表される中間体化合物(式(3)のR、R、R14、及びR15の全てが水素原子である化合物)を合成した。
【0130】
【化13】
【0131】
具体的には、窒素雰囲気下、−78℃において、ナフト[2,3−b:6,7−b’]ジチオフェン(式(2−1)で表される化合物)675mg(2.8mmol)を無水テトラヒドロフラン(THF)80mlに溶解して得られた溶液に、n−ブチルリチウム(n−BuLi)の1.57Nヘキサン溶液5.7ml(8.9mmol)をゆっくり混合した後、1.5時間加熱還流した。反応液を−78℃まで冷却し、そこへ塩化トリメチルスズ2.24g(11.2mmol)を加えて室温で11時間攪拌した後、水100mlを加えた。得られた混合物を分液し、水層を塩化メチレン100mlで3回抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥し、さらに減圧濃縮した。減圧濃縮で得られた残渣をアセトンで再結晶することにより、式(3−1)で表される化合物861mg(収率54%)を黄色固体として得た。
【0132】
この式(3−1)で表される化合物のH−NMRスペクトル及びEI−MSスペクトルの測定結果は、以下のとおりであった。
H−NMR(400MHz,CDCl3)0.48(s,18H),7.49(s,2H),8.35(s,2H),8.48(s,2H);EI−MS(70eV)m/z=566(M
【0133】
(工程2)下記式(b)で表される中間体化合物の合成
本工程では、下記の反応式に従って、下記式(b)で表される中間体化合物(式(4)のR乃至R及びR16の全てが水素原子である化合物;式(5)のR乃至R13の全てが水素原子である化合物)を合成した。
【0134】
【化14】
【0135】
具体的には、窒素雰囲気下、3−メチルチオ−2−ナフチルトリフルオロメタンスルホネート(上記式(7)で表される化合物)2.0g(6.2mmol)を塩化メチレン100mlに溶解して得られた溶液を、0℃に冷却し、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)1.07g(6.2mmol)を加えた後に、徐々に室温に戻しながら22時間撹拌した。得られた反応液に2Mの炭酸カリウム水溶液30mlを加えた後、混合液を分液し、水層を塩化メチレン50mlで2回抽出し、有機層を2Mの炭酸カリウム水溶液30mlで洗浄した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、さらに減圧濃縮した。減圧濃縮で得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:酢酸エチル)で精製することにより、上記式(b)で表される化合物1.82g(収率87%)を白色固体として得た。
【0136】
この式(b)で表される化合物のH−NMRスペクトル及びEI−MSスペクトルの測定結果は、以下のとおりであった。
H−NMR(400MHz,CDCl)2.90(s,3H),7.69(m,2H),7.86(s,1H),7.95(quart,1H),8.03(quart,1H),8.51(s,1H);EI−MS(70eV)m/z=338(M
【0137】
(工程3)下記式(c)で表される中間体化合物の合成
本工程では、下記の反応式に従って、工程1で得られた式(3−1)で表される化合物と工程2で得られた式(b)で表される化合物とから、下記式(c)で表される中間体化合物(式(6)のR乃至R16の全てが水素原子である化合物)を合成した。
【0138】
【化15】
【0139】
具体的には、窒素雰囲気下、工程1で得られた式(3−1)で表される化合物0.70g(1.24mmol)及び工程2で得られた式(b)で表される化合物1.00g(2.96mmol)をトルエン55mLに溶解して得られた溶液に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh)143mg(0.124mmol)を加え、還流温度で63時間攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、固形分を濾取した。濾取した固形分を水及びエタノールで洗浄することにより、式(c)で表される化合物0.46g(収率60%)を黄土色固体として得た。
【0140】
この式(c)で表される化合物のH−NMRスペクトル及びEI−MSスペクトルの測定結果は、以下のとおりであった。
H−NMR(400MHz,CDCl)2.61(s,6H),7.66(m,6H),7.97(quart,2H),8.07(quart,2H),8.13(s,2H),8.46(s,2H),8.53(s,2H),8.67(s,2H);EI−MS(70eV)m/z=616(M
【0141】
(工程4)下記式(11)で表される本発明の有機化合物の合成
本工程では、下記の反応式の従って、工程3で得られた式(c)で表される化合物から、式(11)で表される化合物を合成した。
【0142】
【化16】
【0143】
具体的には、窒素雰囲気下、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)20mlに、工程3で得られた式(c)で表される化合物0.25g(0.41mmol)を加え、室温で96時間攪拌した。反応終了後、氷水に反応混合物を注ぎ、得られた沈殿物を濾別した後、水で洗浄して固形分を得た。窒素雰囲気下、ピリジン25mlに前記で得られた固形分を加え、45時間加熱還流した後、水を加えて析出した沈殿物をろ過し、水、メタノール、及びアセトンで洗浄した。前記で得られた洗浄後の沈殿物を乾燥させた後、真空昇華精製を施すことにより、式(11)で表される本発明の一例に係る有機化合物22mg(収率8%)を赤色固体として得た。
【0144】
この式(11)で表される有機化合物のEI−MSスペクトル及び極大吸収波長の測定結果は、以下のとおりであった。
EI−MS(70eV)m/z=552(M);λmax:536nm(薄膜)
また、この式(11)で表される有機化合物からなる薄膜の紫外可視吸収スペクトルを図4に示す。
【0145】
〔実施例2〕(実施例1で得られた式(11)で表される有機化合物を用いた本発明の一例に係る薄膜トランジスタ素子(ボトムコンタクト−ボトムゲート型薄膜トランジスタ素子、図1(a)参照)の作製及び評価)
ヘキサメチルジシラザン処理を行った膜厚300nmのSiO熱酸化膜(図1(a)における絶縁体層4)付きnドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下、図1(a)におけるゲート電極5及び基板6を兼ねる)におけるSiO2熱酸化膜が付いている面の裏面上に電極作製用シャドウマスクを取り付け、真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10−4Pa以下になるまで排気し、抵抗加熱蒸着法によって、金製の電極、すなわちソース電極(図1(a)におけるソース電極1)及びドレイン電極(図1(a)におけるドレイン電極3)を50nmの厚さに蒸着した。
【0146】
次いで、この金電極付きの基板を、ペンタフルオロベンゼンチオールのイソプロピルアルコール溶液で処理し、金電極上に自己組織化単分子膜を形成した。さらに、イソプロピルアルコールで基板を洗浄したのち、ホットプレート上で70℃に加熱し乾燥した。
【0147】
次いで、この基板上に有機半導体用シャドウマスクを取り付け、真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10−3Pa以下になるまで排気し、前記基板における金電極が形成されている側の表面上に、抵抗加熱蒸着法により、約100℃の基板温度(蒸着温度)の条件下で、実施例1で得られた式(11)で表される有機化合物を1Å/secの蒸着速度で50nmの厚さに蒸着し、有機半導体層(図1(a)における有機半導体層2)を形成した後、電極作成用シャドウマスクを取り外した。これにより、本発明の一例に係る電界効果型の薄膜トランジスタ素子(チャネル長50μm、チャネル幅2000μm)を得た。
【0148】
得られた有機トランジスタ素子をプローバー内に設置し、半導体パラメーターアナライザー(型式名「4200SCS」、株式会社TFFケースレーインスツルメンツ社製)を用いて半導体特性を測定した。
【0149】
図5は、本実施例で得られた本発明の一例に係る薄膜トランジスタ素子の半導体特性を示すグラフであり、ドレイン電圧を飽和領域である−60Vに固定し、ゲート電圧を40Vから−60Vまで走査し、ドレイン電流−ゲート電圧特性(伝達特性)を測定した結果を示している。具体的には、図5は、横軸にゲート電圧(V/V)をとり、縦軸にドレイン電流(−I/A;左端目盛り)と、ドレイン電流の絶対値の平方根(|I1/2/A1/2;右端目盛り)とをとって、実施例2で作成した薄膜トランジスタ素子の半導体特性を示したグラフである。図5中、破線は作製直後の半導体特性を、実線は大気中で1週間放置した後の半導体特性をそれぞれ示す。
【0150】
図5に示した測定結果から、実施例2で作製した薄膜トランジスタ素子の閾値電圧、キャリア移動度、及びオン/オフ比を以下に記載の方法でそれぞれ求めた。
【0151】
<閾値電圧>
図5に示したゲート電圧(V/V)と、ドレイン電流の絶対値の平方根(|I1/2/A1/2)との関係を示す曲線では、0V近傍で、傾きが大きく変化している。図5に示すゲート電圧(V/V)と、ドレイン電流の絶対値の平方根(−I/A)との関係を示す曲線では、曲線のうちで、傾きが略一定と見なせる範囲(図5に例示する測定結果では−60乃至−30V)を直線近似し、その近似線を外挿した直線がX軸と交わる点(I=0Aとなる点)の電圧値を、閾値電圧として求めた。
【0152】
<キャリア移動度>
飽和領域におけるドレイン電流−ゲート電圧特性は、下記の式(a)で表されることから、式(a)を用いてキャリア移動度を算出した。
【0153】
=(1/2)W・μ・Cp(V−Vth)/L …(a)
但し、I:ドレイン電流
W:チャネル幅
μ:キャリア移動度
Cp:絶縁体層4(SiO熱酸化膜)の静電容量
:ゲート電圧
Vth:閾値電圧
L:チャネル長
【0154】
なお、今回の測定において、チャネル幅Wは2000μm、絶縁体層4の静電容量は11.5×10−9F、チャネル長Lは50μmである。また、ゲート電圧Vgは、飽和領域となる−60Vとした。
【0155】
<オン/オフ比>
ドレイン電流−ゲート電圧特性の測定範囲内において、ドレイン電流の最大値(V=−60Vの場合の電流値)と、ドレイン電流の最小値との比としてオン/オフ比を算出した。
【0156】
以上の測定及び計算により、実施例2で得られた薄膜トランジスタ素子の作製直後の閾値電圧(Vth)は−8V、キャリア移動度は2.4×10−2cm/Vs、オン/オフ比(Ion/Ioff)は7.8×10であった。
【0157】
また、上記薄膜トランジスタ素子を大気中で1週間放置した後の閾値電圧(Vth)は−5V、キャリア移動度は2.0×10−2cm/Vs、オン/オフ比(Ion/Ioff)は6.0×10であった。この結果から、本薄膜トランジスタ素子が、高い大気安定性を有していることは明らかである。
【0158】
〔比較例1〕(特許文献6に記載のビスベンゾチエノナフトジチオフェンを用いた比較用の薄膜トランジスタ素子(ボトムコンタクト−ボトムゲート型薄膜トランジスタ素子)の作製及び評価)
【0159】
実施例1で得られた式(11)で表される化合物の代りに下記式(x)で表されるビスベンゾチエノナフトジチオフェンを用いたこと以外は実施例2と同様の方法で比較用の薄膜トランジスタ素子を作製し、実施例2と同様の方法で半導体特性を測定した。
【0160】
【化17】
【0161】
図6は、比較例1で得られた比較用の薄膜トランジスタ素子の半導体特性(伝達特性)を示すグラフである。図6中、破線は作製直後の半導体特性を、実線は大気中で1週間放置した後の半導体特性をそれぞれ示す。
【0162】
図6に示した測定結果から、比較例1で作製した薄膜トランジスタ素子の作製直後の閾値電圧(Vth)は−6V、キャリア移動度は3.9×10−2cm/Vs、オン/オフ比(Ion/Ioff)は3.1×10であった。また、上記薄膜トランジスタ素子を大気中で1週間放置した後の閾値電圧(Vth)は18V、キャリア移動度は2.6×10−2cm/Vs、オン/オフ比(Ion/Ioff)は5.6×10であった。
【0163】
上記の実施例からも明らかなように、本発明の式(1)で表される有機化合物は、有機薄膜トランジスタ素子を構成する有機半導体材料として優れた半導体特性を示しており、有機エレクトロニクスデバイスの材料として高い汎用性を有した非常に有用な有機化合物であると言える。
【符号の説明】
【0164】
1 ソース電極
2 有機半導体層
3 ドレイン電極
4 絶縁体層
5 ゲート電極
6 基板
7 保護層
10A〜10F 薄膜トランジスタ素子
20 有機太陽電池素子
21 基板
22 陽極
23 発電層
24 陰極
231 p型層
232 n型層
233 バッファー層
図1
図2
図3
図4
図5
図6