(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トップカバーは、前記シリンダの前記開口周りの端面と対向する対向面を有し、前記当接面は前記対向面に対して突出し、前記当接面の前記対向面に対する突出高さは、前記トップカバーと前記シリンダは当接することなく、前記弁体と前記トップカバーが当接する高さに設定されている、請求項1または2に記載の昇圧ポンプ。
前記皿ばねの前記貫通孔に、前記ボルトの外周を覆う筒状のスリーブが貫通し、前記皿ばねは、前記スリーブの外表面上に、前記スリープの延在方向に整列するように設けられ、
前記第1のグループと前記第2のグループとの前記境界には、前記第1のグループと前記第2のグループとを離間させて区分けするフランジ突起が設けられ、前記第1のグループの端にある皿ばねと前記第2のグループの端にある皿ばねそれぞれの前記貫通孔周りの内周の縁は、前記フランジ突起の前記延在方向の両側の突出基部に位置決めされる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の昇圧ポンプ。
前記フランジ突起により位置決めされる、前記第1のグループの端にある皿ばねと前記第2のグループの端にある皿ばね同士は、前記付勢力を前記弁体に加える状態でも接触しない、請求項4に記載の昇圧ポンプ。
前記付勢力が、前記低温流体の加圧によって前記弁体が前記トップカバーを押す力を上回る力になるように、前記目標量は設定されている、請求項8に記載の昇圧ポンプの組み立て方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記往復式ポンプにおいて、ピストンにより加圧した低温流体が吸入・吐出用弁体、さらには、トップカバーを押しても、この力を上回る力でトップカバーが吸入・吐出用弁体に対して凹部内の奥行き方向に押圧することで、液化天然ガスのような低温液体を安定して加圧することができる。例えば、低温液体を50MPaGに加圧する場合、トップカバーが吸入・吐出用弁体を押す押圧力は例えば少なくとも720kNを必要とする。
【0006】
このような往復式ポンプにおいて、吸入・吐出用弁体及びシリンダライナは、低温液体と直接接するため、吸入・吐出用弁体及びシリンダライナの温度は、シリンダやトップカバーの温度に比べて低くなり、この温度差によって吸入・吐出用弁体及びシリンダライナは、トップカバーとの間でシリンダの奥行き方向の熱収縮量に差が生じる。この熱収縮量の差は0.2mm程度になる場合がある。したがって、低温液体の加圧の動作に伴って、トップカバーが吸入・吐出用弁体を押す押圧力は低下し、トップカバーと吸入・吐出用弁体等の境目から低温液体の漏れが発生する場合がある。このため、熱収縮量の差によって低下したトップカバーが吸入・吐出用弁体を凹部内の奥行き方向に押圧する押圧力を上昇させるために、トップカバーをシリンダに締結する締結部材(例えばボルト)の増し締めが通常行われる。
また、低温液体の加圧の運転を終了して往復式ポンプを常温に戻す場合、熱収縮の回復により、締結部材、例えばボルトの破断等を避けるために、締結部材の増し締めを緩める必要がある。
このようなボルト等の締結部材の増し締めや増し締めを緩める操作は、煩雑である。
【0007】
そこで、本発明は、液化天然ガス等の低温液体や低温ガスを含む低温流体の加圧を行う昇圧ポンプにおいて、上記熱収縮量の差に起因して生じる、トップカバーが弁体に対してシリンダライナの奥行き方向に押す力の低下を抑制して、締結部材の増し締めや増し締めを緩める操作を不要とすることができる昇圧ポンプ及び昇圧ポンプの組み立て方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、吸入した低温流体を加圧して吐出させる昇圧ポンプである。当該昇圧ポンプは、
低温流体を吸入し加圧するためのピストンと、
前記ピストンとともに、シリンダライナ内空間を形成するシリンダライナと、
前記シリンダライナの端に当接し、前記シリンダライナ内空間内に吸入して前記ピストンにより加圧した低温流体が吐出する弁を有する弁体と、
一方の端が閉塞し、他方の端が開口した筒形状の凹部を備え、前記シリンダライナ及び前記弁体の順番に前記凹部の開口から前記凹部内に組み入れて、前記シリンダライナの端と前記弁体の一方の端とが前記凹部内で当接するように構成されたシリンダと、
前記弁体の他方の端と当接して前記凹部の前記開口を塞ぐトップカバーと、
前記トップカバーを前記シリンダと締結する締結部材と、
前記締結部材の弾性特性に比べて低弾性の弾性特性を有し、前記締結部材が前記トップカバーを前記凹部の閉塞端の方向に押すことによって撓みが生じるように前記締結部材に係止された部材であって、該撓みによって発生する前記部材の付勢力を、前記トップカバーを介して前記弁体に加える弾性体と、を備える。
前記トップカバーは、前記シリンダと当接せず、前記弁体と当接する当接面を備え、
前記トップカバーと前記シリンダの締結は、ねじ孔と前記ねじ孔に螺合するボルトにより行われ、
前記弾性体は、中心軸を有し、前記中心軸周りに前記ボルトを通す貫通孔が空いた複数の皿ばねで構成され、前記ボルトが、複数の前記皿ばねの前記貫通孔を貫通し、
前記皿ばねのそれぞれは、前記貫通孔の内周側から前記皿ばねの外周側に進むにつれ前記中心軸の一方の方向に突出した突出方向を有し、
前記皿ばねの全ては、前記突出方向が前記ボルトの軸方向のうち第1の方向に向いて前記ボルトの軸に沿って連続して配列した複数の皿ばねからなる第1のグループと、前記突出方向が前記第1の方向と反対の第2の方向に向いて前記ボルトの軸に沿って連続して配列した複数の皿ばねからなる第2のグループと、に分けられ、
前記第1のグループと前記第2のグループとの境界からみて、前記第1の方向と前記第2の方向は、互いに前記境界から離れる方向である。
【0009】
前記付勢力は、前記締結部材が前記弾性
体を前記閉塞端の方向に押すことによって撓む前記弾性
体の撓み量を目標量にすることによって、前記低温流体の加圧によって前記弁体が前記トップカバーを押す力を上回る力となっている、ことが好ましい。
【0010】
前記トップカバーは、前記シリンダの前記開口周りの端面と対向する対向面を有し、前記当接面は前記対向面に対して突出し、前記当接面の前記対向面に対する突出高さは、前記トップカバーと前記シリンダは当接することなく、前記弁体と前記トップカバーが当接する高さに設定されている、ことが好ましい。
【0012】
前記皿ばねの前記貫通孔に、前記ボルトの外周を覆う筒状のスリーブが貫通し、前記皿ばねは、前記スリーブの外表面上に、前記スリープの延在方向に整列するように設けられ、
前記第1のグループと前記第2のグループとの前記境界には、前記第1のグループと前記第2のグループとを離間させて区分けするフランジ突起が設けられ、前記第1のグループの端にある皿ばねと前記第2のグループの端にある皿ばねそれぞれの前記貫通孔周りの内周の縁は、前記フランジ突起の前記延在方向の両側の突出基部に位置決めされる、ことが好ましい。
【0013】
前記フランジ突起により位置決めされる、前記第1のグループの端にある皿ばねと前記第2のグループの端にある皿ばね同士は、前記付勢力を前記弁体に加える状態でも接触しない、ことが好ましい。
【0014】
前記第1のグループの前記皿ばねの数と、前記第2のグループの前記皿ばねの数は同じである、ことが好ましい。
【0015】
本発明の他の一態様
も、吸入した低温流体を加圧して吐出させる昇圧ポンプである。当該昇圧ポンプは、
低温流体を吸入し加圧するためのピストンと、
前記ピストンとともに、シリンダライナ内空間を形成するシリンダライナと、
前記シリンダライナの端に当接し、前記シリンダライナ内空間内に吸入して前記ピストンにより加圧した低温流体が吐出する弁を有する弁体と、
一方の端が閉塞し、他方の端が開口した筒形状の凹部を備え、前記シリンダライナ及び前記弁体の順番に前記凹部の開口から前記凹部内に組み入れて、前記シリンダライナの端と前記弁体の一方の端とが前記凹部内で当接するように構成されたシリンダと、
前記弁体の他方の端と当接して前記凹部の前記開口を塞ぐトップカバーと、
前記トップカバーを前記シリンダと締結する締結部材と、
前記締結部材の弾性特性に比べて低弾性の弾性特性を有し、前記締結部材が前記トップカバーを前記凹部の閉塞端の方向に押すことによって撓みが生じるように前記締結部材に係止された部材であって、該撓みによって発生する前記部材の付勢力を、前記トップカバーを介して前記弁体に加える弾性体と、を備える。
前記トップカバーは、前記シリンダと当接せず、前記弁体と当接する当接面を備え、
前記弾性特性は、前記弾性体の撓み量の増大時に発揮する付勢力の撓み量に対する第1特性曲線と、前記弾性体の撓み量の低減時に発揮する付勢力の撓み量に対する第2特性曲線と、を有し、前記第1特性曲線と前記第2特性曲線とは互いに異なり、
前記締結部材は、前記弾性体の撓み量が前記第2特性曲線における目標とする付勢力を発揮する撓み量になるように、前記トップカバーと前記シリンダとを締結する。
【0016】
本発明のさらに他の一態様は、吸入した低温流体を加圧して吐出させる昇圧ポンプの組み立て方法である。
前記昇圧ポンプは、
低温流体を吸入し加圧するためのピストンと、
前記ピストンとともに、シリンダライナ内空間を形成するシリンダライナと、
前記シリンダライナの端に当接し、前記シリンダライナ内空間内に吸入して前記ピストンにより加圧した低温流体が吐出する弁を有する弁体と、
一方の端が閉塞し、他方の端が開口した筒形状の凹部を備えるシリンダと、
前記凹部の前記開口を塞ぐトップカバーと、
前記トップカバーを前記シリンダに締結する締結部材と、
前記締結部材の弾性特性に比べて低弾性の弾性特性を有し、前記締結部材が前記トップカバーを前記凹部の奥行き方向に押すことによって撓みが生じる、前記締結部材に係止された弾性体と、を備え、
前記トップカバーと前記シリンダの締結は、ねじ孔と前記ねじ孔に螺合するボルトにより行われ、
前記弾性体は、中心軸を有し、前記中心軸周りに前記ボルトを通す貫通孔が空いた複数の皿ばねで構成され、前記ボルトが、複数の前記皿ばねの前記貫通孔を貫通し、
前記皿ばねのそれぞれは、前記貫通孔の内周側から前記皿ばねの外周側に進むにつれ前記中心軸の一方の方向に突出した突出方向を有し、
前記皿ばねの全ては、前記突出方向が前記ボルトの軸方向のうち第1の方向に向いて前記ボルトの軸に沿って連続して配列した複数の皿ばねからなる第1のグループと、前記突出方向が前記第1の方向と反対の第2の方向に向いて前記ボルトの軸に沿って連続して配列した複数の皿ばねからなる第2のグループと、に分けられ、
前記第1のグループと前記第2のグループとの境界からみて、前記第1の方向と前記第2の方向は、互いに前記境界から離れる方向である。
前記昇圧ポンプの組み立方法は、
前記シリンダライナ及び前記弁体の順番に前記凹部の開口から前記凹部内に組み入れて、前記シリンダライナの端と前記弁体の一方の端とを当接させるステップと、
前記トップカバーによって前記凹部を塞いで前記トップカバーを前記シリンダに締結するとき、前記締結部材が前記トップカバーを前記凹部の閉塞端の方向に押すことによって前記弾性体の撓みを生じさせ、該撓みによって発生する前記弾性体の付勢力を、前記トップカバーを介して前記弁体に加えるステップと、を含み、
前記付勢力は、前記弾性体の撓み量が目標量になるように調整される。
前記付勢力が、前記低温流体の加圧によって前記弁体が前記トップカバーを押す力を上回る力になるように、前記目標量は設定されている、ことが好ましい。
【0017】
本発明のさらに他の一態様は、吸入した低温流体を加圧して吐出させる昇圧ポンプの組み立て方法である。
前記昇圧ポンプは、
低温流体を吸入し加圧するためのピストンと、
前記ピストンとともに、シリンダライナ内空間を形成するシリンダライナと、
前記シリンダライナの端に当接し、前記シリンダライナ内空間内に吸入して前記ピストンにより加圧した低温流体が吐出する弁を有する弁体と、
一方の端が閉塞し、他方の端が開口した筒形状の凹部を備えるシリンダと、
前記凹部の前記開口を塞ぐトップカバーと、
前記トップカバーを前記シリンダに締結する締結部材と、
前記締結部材の弾性特性に比べて低弾性の弾性特性を有し、前記締結部材が前記トップカバーを前記凹部の奥行き方向に押すことによって撓みが生じる、前記締結部材に係止された弾性体と、を備える。
前記昇圧ポンプの組み立て方法は、
前記シリンダライナ及び前記弁体の順番に前記凹部の開口から前記凹部内に組み入れて、前記シリンダライナの端と前記弁体の一方の端とを当接させるステップと、
前記トップカバーによって前記凹部を塞いで前記トップカバーを前記シリンダに締結するとき、前記締結部材が前記トップカバーを前記凹部の閉塞端の方向に押すことによって前記弾性体の撓みを生じさせ、該撓みによって発生する前記弾性体の付勢力を、前記トップカバーを介して前記弁体に加えるステップと、を含み、
前記付勢力は、前記弾性体の撓み量が目標量になるように調整され、
前記弾性特性は、前記弾性体の撓み量の増大時に発揮する付勢力の撓み量に対する第1特性曲線と、前記弾性体の撓み量の低減時に発揮する付勢力の撓み量に対する第2特性曲線と、を有し、前記第1特性曲線と前記第2特性曲線とは互いに異なり、
前記締結部材は、前記弾性体の撓み量が前記第2特性曲線における目標とする付勢力を発揮する撓み量になるように、前記トップカバーと前記シリンダとを締結する。
【発明の効果】
【0018】
上述の昇圧ポンプ及び昇圧ポンプの組み立て方法によれば、低温流体と接する部材と低温流体と接しない部材の熱収縮量の差に起因して生じる、トップカバーが弁体に対してシリンダライナの奥行き方向に押す力の低下を抑制して、締結部材の増し締めや増し締めを緩める操作を不要とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、一実施形態の昇圧ポンプを、図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態の昇圧ポンプ20の構成を示す断面図である。
昇圧ポンプ20は、吸入した低温流体を加圧して吐出させるポンプである。ここで、低温流体は、液体あるいは気体を含む。液体は、例えば液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、メタン、プロパン、ブタン等の液化ガスを含む。以下の説明では、低温流体として低温の液体燃料を用いて説明する。低温流体は、例えば、−120℃以下の流体であることが好ましい。
昇圧ポンプ20は、シリンダ201の外周に設けられた液体燃料供給口202を通して図示されない低圧液体燃料供給管と接続され、液体燃料が昇圧ポンプ20のシリンダライナ空間内に吸入される。液体燃料は、ピストン206で押されて高圧となり、吸入・吐出用弁体208の吐出弁を通して昇圧ポンプ20の一端から排出用貫通孔216を通して吐出される。ピストン206は、図示されない油圧モータにより駆動され往復運動をする。
【0021】
昇圧ポンプ20は、主な部材として、シリンダ201と、シリンダライナ204と、ピストン206と、吸入・吐出用弁体208と、トップカバー212と、を含む。
【0022】
昇圧ポンプ20は、ピストン206とシリンダライナ204により形成されたシリンダ内空間を有する。
ピストン206は、図示されない油圧モータの回転運動を往復運動に変換する図示されないリニアアクチュエータ等の機構に接続されている。
シリンダ201は、筒形状を成し、一方の端が閉塞し、他方の端が開口した筒形状の凹部を備える。シリンダ201の凹部に、シリンダライナ204及び吸入・吐出用弁体208が、この順番に凹部の開口から凹部内に組み入れられて、シリンダライナ204の端と吸入・吐出用弁体208の一方の端とが凹部内で当接するように、シリンダ201は構成されている。
シリンダライナ204は、ピストン206ととともに液体燃料が吸入されるシリンダ内空間を形成する。
吸入・吐出用弁体208は、シリンダライナ204の端に当接し、シリンダライナ内空間内に液体燃料を吸入する吸入弁と、吸入してピストン206により加圧した液体燃料が吐出する吐出弁を有する。
ピストン206は、図示されない油圧モータを動力源として、シリンダ内空間を往復運動する。ピストン206の側壁には、リング溝220が複数設けられ、各リング溝220にピストンリング(
図1では省略されている)が設けられている。
図1に示す例では、リング溝220は4つ設けられるが、リング溝220の数は4つに制限されず、2つ、3つ、あるいは5つ、6つ、7つ、8つ等であってもよい。
【0023】
シリンダ201の凹部の壁、すなわちシリンダ201の筒形状の側壁には、液体燃料を供給するための供給用貫通孔214を備える。吸入・吐出用弁体208は、供給用貫通孔214と接続された流体供給部が吸入用弁体を備え、この流体供給部を介してシリンダ内空間に接続するようにシリンダライナ204に対して当接されて配置される。
また、吸入・吐出用弁体208には、ピストン206により昇圧した液体燃料をシリンダ内空間から吐出用弁体を介して排出するための流体排出部を備える。流体排出部は、排出用貫通孔216と接続されている。
【0024】
トップカバー212は、吸入・吐出用弁体208の他方の端(吸入・吐出用弁体208がシリンダライナ204と当接する端と反対側の端)と当接してシリンダ201の凹部の開口を塞ぐように構成されている。トップカバー212は、締結部材によりシリンダ201と締結されている。
図1に示す実施形態では、トップカバー212とシリンダ210の締結は、シリンダ201の端面に設けられたねじ孔201Aと、ねじ孔201Aに螺合するボルト300によって行われる。ねじ孔201Aが設けられたシリンダ201の端面と対向するトップカバー212の対向面には、トップカバー212を貫通した貫通孔212Aが設けられている。ボルト300は、トップカバー212の対向面と反対側の面(
図1中の右側の面、以降この面を表面という)から貫通孔212A及びねじ孔201Aに挿入されて、ねじ孔201Aと螺合する。一方、トップカバー212から突出した部分には、ワッシャ、弾性体310、ワッシャを介してナット302、304が止められている。ナット302,304を締め付けることによりトップカバー212をシリンダ201の凹部の奥行き方向の側(閉塞端の側)に向かって吸入・吐出用弁体208を押圧した状態で、トップカバー212はシリンダ201と締結される。ここで、弾性体310は、締結部材であるボルト300に係止されており、ボルト300の弾性特性に比べて低弾性の弾性特性を有し、締結部材がトップカバー212を凹部の奥行き方向に押すことによって撓みが生じる部材である。例えば、皿ばねが好適に用いられる。
【0025】
図1に示すように、トップカバー212が締結された状態では、トップカバー212は、吸入・吐出用弁体208の端と当接するが、シリンダ201の端面とトップカバー212の対向面とは当接せず、隙間を有している。すなわち、トップカバー212は、シリンダ201と当接することなく、吸入・吐出用弁体208と当接する当接面212Bを備える。
このように、トップカバー212は、シリンダ201と当接することなく、吸入・吐出用弁体208と当接させるのは、弾性体310の付勢力を、トップカバー212を介して吸入・吐出用弁体208に加えるためである。弾性体310は、ボルト300の弾性特性に比べて低弾性の弾性特性を有するので、シリンダライナ206が低温の液体燃料によって冷されてシリンダライナ206の熱収縮量が大きくなっても、付勢力を発生させる弾性体310の弾性特性によって付勢力の低下を小さくする。従来のように、弾性体310を用いることなく、締結部材で締め付ける構成の場合、締結部材は弾性体310に比べて高い弾性特性を有するので、上記シリンダライナ206の熱収縮によってトップカバー212が吸入・吐出用弁体208を押圧する力は大きく低下する。トップカバー212が吸入・吐出用弁体208を押圧する力が低下すると、トップカバー212と吸入・吐出用弁体208との境目から液体燃料が漏れ出す虞があり、好ましくない。
本来、トップカバー212が吸入・吐出用弁体208を押圧するのは、ピストン206によって加圧された低温の液体燃料によって吸入・吐出用弁体208がトップカバー212の側に向けて押す力に抗するようにするためである。このため、弾性体310の付勢力、すなわち、トップカバー212が吸入・吐出用弁体208を押圧する力が低下しても、吸入・吐出用弁体208を押圧する力は、液体燃料の加圧によって吸入・吐出用弁体208がトップカバー212を押す力を上回る力となっていることが好ましい。この点で、熱収縮量の差に起因してトップカバー212が吸入・吐出用弁体208を押圧する力が低下しても、付勢力の低下の小さい弾性体310を用いることは好ましい。これにより、昇圧ポンプ20は、加圧した液体燃料を安定して吐出させることができる。
【0026】
図1に示す実施形態に示すように、トップカバー212の吸入・吐出用弁体208と当接する当接面212Bは、シリンダ201の開口周りの端面と対向する対向面212Cに対して突出し、当接面212Bの対向面212Cに対する突出高さは、トップカバー212とシリンダ201は当接することなく、吸入・吐出用弁体208とトップカバー212が当接するように設定されていることが好ましい。これにより、弾性体310の付勢力が、ロスすることなく吸入・吐出用弁体208を押圧する力となるので、昇圧ポンプ20は、加圧した液体燃料を安定して吐出させることができる。
【0027】
図2は、締結部材として用いるボルト300及び弾性体310を説明する図である。
図3(a),(b)は、弾性体310の一例である皿ばね312を説明する図である。
図3(b)は、
図3(a)に示すA−A線に沿った矢視断面を示す。
図4は、一実施形態の皿ばね312A、312Bを用いた弾性体310の一例の断面図である。
図4では、皿ばね312の形状を強調して示している。
図2、
図4では、ボルト300に設けられるねじ山の図示は省略されている。
図2に示すように、ボルト300に沿ってワッシャ306、弾性体310、ワッシャ308、ナット302,304が設けられている。ワッシャ306、弾性体310、ワッシャ308には、貫通孔が設けられており、ボルト300が、ワッシャ306、弾性体310、ワッシャ308の貫通孔を貫通している。トップカバー212は、吸入・吐出用弁体208を押圧した状態で、ナット302,304によってシリンダ201に確実に締結される。
【0028】
図2に示す実施形態では、例えば、
図3(a),(b)に示す皿ばね312が用いられる。
皿ばね312には、中心軸Axを有し、中心軸Ax周りにボルト300を通す貫通孔313があいている。皿ばね312は、貫通孔313の内周側から皿ばね312の外周側に進むにつれ中心軸Axの一方の方向に突出した突出方向を有する。
図3(a),(b)では、上方に突出している。
このような皿ばね312の貫通孔313には、ボルト300が貫通して複数連続して配置されている。
図4に示す実施形態では、6つの皿ばね312(312A,312B)が設けられている。
【0029】
図4に示す実施形態の6つの皿ばね312は、突出方向がボルト300の軸方向のうち第1の方向(
図4中の右側)に向いてボルト300の軸に沿って連続して配列し3つの皿ばね312Aからなる第1のグループと、突出方向が第1の方向と反対の第2の方向(
図4中の左側)に向いてボルト300の軸に沿って連続して配列した3つの皿ばね312Bからなる第2のグループと、に分けられる。
このとき、
図4に示すように、第1のグループと第2のグループとの境界からみて、第1の方向と第2の方向は、互いに境界から離れる方向である、ことが好ましい。皿ばね312の突出方向が向き合うように皿ばね312を配置すると、皿ばね312の外周側の角部が対向する皿ばね312の面あるいは角部と接触し摩擦を大きくして、不安定な弾性特性となり易い。安定した弾性特性を得る点から、皿ばね312Aの第1のグループと皿ばね312Bの第2のグループとの境界からみて、第1の方向と第2の方向は、互いに境界から離れる方向である、ことが好ましい。
【0030】
また、
図4に示すように、皿ばね312の貫通孔313に、ボルト300の外周を覆う筒状のスリーブ314がボルト300とともに貫通し、皿ばね312は、スリーブ314の外表面上に、スリープ314の延在方向に整列するように設けられている。
上記第1のグループと上記第2のグループとの境界には、第1のグループと第2のグループとを離間させて区分けするフランジ突起314Aが設けられている。第1のグループの端にある皿ばね312Aと第2のグループの端にある皿ばね312Bそれぞれの貫通孔313周りの内周の縁は、フランジ突起314Aのスリーブ314Aの延在方向の両側の突出基部に位置決めされることが好ましい。第1のグループの端にある皿ばね312Aと第2のグループの端にある皿ばね312Bとが、フランジ突起314Aを介して離間することにより、第1のグループの端にある皿ばね312Aと第2のグループの端にある皿ばね312Bとが接触して互いに干渉することを防ぎ、安定した弾性特性を得ることができる。
【0031】
皿ばね312は、ナット302,304の締め付けによって撓み、第1のグループの端にある皿ばね312Aと第2のグループの端にある皿ばね312Bの面が近づくように変形する。しかし、第1のグループの
図4中の左端にある皿ばね312Aと第2のグループの
図4中の右端にある皿ばね312B同士は、付勢力を吸入・吐出用弁体208に加える状態でも接触しないことが、安定した弾性特性を得ることができる点から好ましい。フランジ突起314Aの突起幅と突起高さを調整することにより、第1のグループの端にある皿ばね312Aと第2のグループの端にある皿ばね312B同士は、付勢力を吸入・吐出用弁体208に加える状態でも接触しないようにすることができる。また、締結部材として、
図1に示すように、締結部材の緩み止めを防止する点から、ナット302,304(ダブルナット)を用いることが好ましい。
また、一実施形態によれば、第1のグループの皿ばね312Aの数と、第2のグループの皿ばね312Bの数は同じであることが、安定した弾性特性を得ることができる点から好ましい。
【0032】
このように、ピストン206によって加圧された低温の液体燃料によって吸入・吐出用弁体208がトップカバー212の側に向けて押す力に抗するような付勢力を弾性体310に発生させることは、昇圧ポンプ20を組み立てる際、弾性体310の撓み量が目標量になるように管理することで達成することができる。
したがって、昇圧ポンプ20を組み立てる場合、シリンダライナ204及び吸入・吐出用弁体208の順番に、この凹部の開口からシリンダ201の凹部内に、専用治具によって組み入れて、シリンダライナ204の端と吸入・吐出用弁体208の一方の端とを当接させる。この後、トップカバー212によって上記凹部を塞いでトップカバー212をシリンダ201にボルト300とナット302,304である締結部材によって専用治具で締結する。このとき、締結部材がトップカバー212を凹部の奥行き方向に押すことによって弾性部材310の撓みを生じさせ、この撓みによって発生する弾性部材の付勢力を、トップカバー212を介して吸入・吐出用弁体208に加える。このとき、付勢力は、弾性部材310の撓み量の調整によって調整され、管理される。具体的には、撓み量が目標量になるようにナット302,304の締め付けが行われ。
図4に示す実施形態では、ワッシャ306とワッシャ308の間の距離を計測することによって、撓み量が目標量になるように、撓み量を調整し管理することができる。したがって、付勢力は、締結部材が弾性部材310を奥行き方向(シリンダ201の閉塞端の方向)に押すことによって撓む弾性部材の撓み量を目標量にすることによって、液体燃料の加圧によって吸入・吐出用弁体208がトップカバー212を押す力を上回る力となっていることが好ましい。したがって、昇圧ポンプ20を組み立てる場合、付勢力が、液体燃料の加圧によって吸入・吐出用弁体208がトップカバー212を押す力を上回るように、目標量が設定されていることが好ましい。
【0033】
図5は、
図4に示す皿ばね312A,312Bを用いた弾性体310の弾性特性である撓み量−力特性の一例を示す図である。
図5に示すように、同じ撓み量でも、撓みを増大させた場合に発生する力の特性曲線1と、撓みを減少させた場合に発生する力の特性曲線2とは異なる。本実施形態の昇圧ポンプ20の場合、シリンダライナ204は熱収縮によって収縮するので、この収縮によって弾性部材310である皿ばね312の撓み量は小さくなるよう変化する。したがって、
図5に示す撓み−力特性において、特性曲線2で付勢力を与えることが好ましい。
【0034】
例えば、専用治具によって弾性体310に付勢力として60kN発生させる場合、特性曲線1にしたがって、95kN程度の付勢力(点A)を与えたのち、ナット302,304をわずかに緩めて特性曲線2にしたがって60kN程度(点B)にすることが好ましい。
したがって、
図5に示すように、専用治具で、弾性部材310の撓み量は、締結部材の締結力の増大により目標量より大きくした後、締結部材の締結力の低下によって目標量に比べて大きな撓み量の側から目標量に近づけることが好ましい。
【0035】
以上説明したように、低温の液体燃料を昇圧ポンプ20で加圧する際、シリンダライナ204は、液体燃料に接して冷却されてシリンダ201に比べて大きく熱収縮する。この熱収縮により、吸入・吐出用弁体208がシリンダライナ204の側に微小変位するが、吸入・吐出用弁体208が微小変位しても、弾性体310の低弾性特性により、弾性体310の付勢力の低下を小さくすることができる。
さらに、弾性体310の撓み量を管理して、トップカバー212の吸入・吐出用弁体208への付勢力、すなわち押圧力を調整するので、トップカバー212の吸入・吐出用弁体208への押圧力の調整が容易にできる。しかも、常温から低温へ、低温から常温へシリンダライナ204、吸入・吐出用弁体208が変化しても、付勢力、すなわち押圧力の変化は小さいので、従来のように、締結部材の増し締め、増し締めを緩める操作をする必要がなくなる。
例えば、液体燃料を50MPaGに加圧する場合、トップカバー212が吸入・吐出用弁体208を押す押圧力は例えば720kNを必要とする。この場合、締結部材によるトップカバー212とシリンダ201との締結を、周上の12箇所で行なう場合、1つの場所で弾性体310で発生させる付勢力は60kNとなる。60kNの付勢力は、
図5に示す点Bに対応する。
【0036】
このような昇圧ポンプ20は、
図6に示す燃料ガス供給装置10に適用することができる。
図6は、昇圧ポンプ20を使用する燃料ガス供給装置10の概略の構成図である。
【0037】
燃料ガス供給装置10は、ガス燃焼エンジン28の燃焼室内へ、液体燃料(低温液化ガスの流体)を気化させた燃料ガスを高圧で噴射して供給する装置である。ガス燃焼エンジン28は船舶に搭載されるディーゼルエンジンであり、例えば2ストロークサイクルの低速ディーゼルエンジンを用いることができる。
【0038】
燃料ガス供給装置10は、
図6に示すように、作動油貯留タンク12と、油圧ポンプ14と、油圧モータ16と、液体燃料タンク18と、昇圧ポンプ20と、気化装置22と、調圧弁24と、を主に有する。この他に、燃料ガス供給装置10は、油圧管15と、低圧液体燃料供給管19と、高圧液体燃料供給管21と、ガス燃料供給管26を有する。
燃料ガス供給装置10のこれらの構成要素は全て船舶に搭載される。
作動油貯留タンク12は、油圧モータ16を駆動させる油圧を供給するための作動油を貯留する。
液体燃料タンク18は、ガス燃焼エンジン28に供給される燃料ガスが気化される前の液体燃料を貯留する。液体燃料として、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)等を用いることができる。液体燃料タンク18は、低圧液体燃料供給管19と接続されており、低圧液体燃料供給管19を介して液体燃料を昇圧ポンプ20に供給する。
【0039】
昇圧ポンプ20は、入口側が低圧液体燃料供給管19と接続され、出口側が高圧液体燃料供給管21と接続されている。昇圧ポンプ20は、液体燃料タンク18から低圧液体燃料供給管19を介して吸入された液体燃料を所定の圧力に昇圧し、高圧液体燃料供給管21を介して気化装置22に排出する。昇圧ポンプ20では、
図1に示したようにピストン206が往復運動を行う。
【0040】
油圧モータ16は昇圧ポンプ20を駆動する動力源である。例えば、昇圧ポンプ20のピストン206と同様に前進後退をするリニアアクチュエータ(リニアモータ)であってもよい。また、図示しないクランクを用いて、油圧モータ16の回転運動を昇圧ポンプ20のピストン206の往復運動に変換することもできる。
油圧モータ16は、作動油貯留タンク12から吸入した作動油を油圧ポンプ14で昇圧した後油圧管15を通して供給した油圧により駆動される。作動油としては、油や水溶性作動油を用いることができる。水溶性作動油は、主成分として水を含む作動油であり、例えば、O/Wエマルション、W/Oエマルション、ポリグリコール溶液を含む。
実施形態では、油圧により駆動される油圧モータ16を用いるが、作動油貯留タンク12、油圧ポンプ14、及び油圧モータ16に代えて電動機を用いることもできる。危険区域において電動機を用いる場合、防爆処理が施されることが好ましい。このように、昇圧ポンプ20の動力源は、公知のものであれば良く、特に制限されない。
【0041】
気化装置22は、入口側が高圧液体燃料供給管21と接続され、出口側がガス燃料供給管26と接続されている。気化装置22は、高圧液体燃料供給管21を介して供給される昇圧後の液体燃料を加熱し気化させて、液体燃料をガスとする。液体燃料を加熱する熱源として、例えば、液体燃料タンク18で発生するボイルオフガスの燃焼熱を用いることができる。例えば、ボイルオフガスの燃焼熱で加熱した温水との熱交換により液体燃料を加熱してもよい。
燃料ガス供給管26には、調圧弁24が設けられており、一端が気化装置22と、他端がガス燃焼エンジン28の燃焼室と接続されている。液体燃料が気化した燃料ガスは、調圧弁24により所定の範囲の圧力(例えば、15〜50MPaG)に調圧された後、燃料ガス供給管26を介してガス燃焼エンジン28の燃焼室に供給される。
図6には示されていないが、油圧や液体燃料やガスの供給量や圧力を調整するための油圧バルブ(リリーフ弁、チェック弁、流量制御弁等)が適宜用いられる。
【0042】
以上、本発明の昇圧ポンプ及び昇圧ポンプの組み立て方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【課題】液化天然ガス等の低温液体や低温ガスを含む低温流体の加圧を行う昇圧ポンプにおいて、熱収縮量の差によって、トップカバーが弁体に対して押す力が低下することを抑制する。
【解決手段】昇圧ポンプは、ピストンと、シリンダライナと、前記シリンダライナの端に当接し、前記ピストンにより加圧した低温流体が吐出する吐出弁を有する弁体と、筒形状の凹部を備え、前記シリンダライナの端と前記弁体の一方の端とが当接するシリンダと、前記弁体の他方の端と当接して前記凹部の前記開口を塞ぐトップカバーと、前記トップカバーを前記シリンダと締結する締結部材と、前記締結部材が前記トップカバーを前記凹部の奥行き方向に押すことによって撓みが生じる部材で、該撓みによって発生する前記部材の付勢力を、前記トップカバーを介して前記弁体に加える弾性体と、を備える。前記トップカバーは、前記シリンダと当接せず、前記弁体と当接する当接面を備える。