特許第6572498号(P6572498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572498
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】フラーレン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 2/86 20060101AFI20190902BHJP
   C07C 13/64 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 69/76 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 41/30 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 43/21 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 17/32 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 25/22 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 69/753 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 69/616 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 67/347 20060101ALI20190902BHJP
   C07D 241/36 20060101ALI20190902BHJP
   C07D 333/78 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C07C2/86
   C07C13/64
   C07C69/76 A
   C07C41/30
   C07C43/21
   C07C17/32
   C07C25/22
   C07C69/753 B
   C07C69/616
   C07C67/347
   C07D241/36
   C07D333/78
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-547416(P2016-547416)
(86)(22)【出願日】2015年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2015075186
(87)【国際公開番号】WO2016039262
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-182133(P2014-182133)
(32)【優先日】2014年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-215192(P2014-215192)
(32)【優先日】2014年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(73)【特許権者】
【識別番号】000005979
【氏名又は名称】三菱商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】金 鉄男
(72)【発明者】
【氏名】司 偉麗
(72)【発明者】
【氏名】山本 嘉則
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 威史
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 LU,S. et al.,Organic Letters,2013, Vol.15, No.15,p.4030-4033
【文献】 WANG,Z. et al.,Journal of Organic Chemistry,2003, Vol.68, No.8,p.3043-3048
【文献】 WANG,G. et al.,Journal of Organic Chemistry,2007, Vol.72, No.13,p.4779-4783
【文献】 WANG,G. et al.,Organic Letters,2006, Vol.8, No.7,p.1355-1358
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン骨格を形成する互いに隣り合った2つの炭素原子と式(2)で示されるハロゲン化化合物とを
芳香族性溶媒とC=OまたはS=O結合を有する非プロトン性極性溶媒との混合溶媒中、マンガン、鉄、亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の存在下において反応させることで、式(1)で示される部分構造を有するフラーレン誘導体の製造方法;
【化1】
(式(1)中、Cはそれぞれフラーレン骨格を形成する互いに隣り合った炭素原子であり、Aは二つのCと環構造を形成する炭素数1〜4の連結基、またはその一部が置換または縮合された基である)
【化2】
(式(2)中、Aは炭素数1〜4の連結基、またはその一部が置換または縮合された基であり、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子である)。
【請求項2】
前記Aの炭素数1〜4の連結基の一部が、芳香族基、ヘテロ芳香族基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基のいずれかで置換されている請求項1に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記Aの炭素数1〜4の連結基の一部が、芳香族環またはヘテロ芳香族環と縮合環構造、または、芳香族環またはヘテロ芳香族環を含む多環構造を形成する請求項1に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記非プロトン性極性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)および/またはジメチルホルムアミド(DMF)である請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記芳香族性溶媒が、o−ジクロロベンゼンである請求項1〜4のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン原子(X)がBrである請求項1〜5のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記金属がMnであり、前記非プロトン性極性溶媒がDMFである請求項1〜6のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記金属がFeであり、前記非プロトン性極性溶媒がDMSOである請求項1〜6のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記金属がMnまたはZnであり、前記非プロトン性極性溶媒がDMSOである請求項1〜6のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体の製造方法に関する。
本願は、2014年9月8日に、日本に出願された特願2014−182133号及び2014年10月22日に、日本に出願された特願2014−215192号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
フラーレン誘導体は、その特異な特性から物理や化学の分野で注目を浴びてきた。特に、1990年のアーク放電による大量合成法が確立されて以来、その研究はより注目を浴びている。フラーレン誘導体は、電子材料、半導体、生理活性物質などとして有用な素材であるということが知られている。
【0003】
フラーレン誘導体は数多く報告されているが、中でも炭化水素からなる環状構造がフラーレン骨格に縮合した構造を有する誘導体は、その耐熱性の高さから有機薄膜太陽電池に用いられるアクセプタ材料や、光応答性を利用した生化学的プローブとして精力的に研究が進められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jan C.Hummelen et al.J.Org.Chem.1995,60,532−538.
【非特許文献2】M.Prato et al.J.Am.Chem.Soc.1993,115,1594−1595.
【非特許文献3】Bratriz M.Illescas et al.J.Org.Chem.1997,62,7585−7591.
【非特許文献4】Shirong Lu et al.Organic Letters.2013,Vol.15,No.15,4030−4033.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環状炭化水素基がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体は、環を形成する炭素数により製造方法がそれぞれ異なるという課題があった。製造方法も多段階反応を要する煩雑なものであったり、特殊な基質を用いる必要があったりと、効率的に生産するという観点からは問題が多かった。
【0006】
例えば、非特許文献1にはシクロプロパン構造がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体であり、有機薄膜太陽電池用アクセプタ材料として代表的な材料であるPCBMの製造方法が記載されている。具体的には、PCBMを製造するには、まずC60とジアゾ化合物を反応させてフレロイドを得た後に、沸点が180℃のオルトジクロロベンゼン中の還流条件下でフレロイドを異性化してPCBMとする。このようにPCBMを製造するためには2段階の反応が必要であり、さらに危険なジアゾ化合物を用いたり、高温が必要であったりと製造上の課題がある。
【0007】
非特許文献2には生化学的用途に用いられるシクロペンタン構造がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体の製造方法が記載されている。すなわち、メチレンシクロプロパン化合物の熱分解により系内で発生させたトリメチレンメタン化合物とC60を反応させてシクロペンタン構造がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体を製造している。しかしながら、原料となるメチレンシクロプロパン化合物が限定されるうえ、メチレンシクロプロパン化合物自体の製造が煩雑であった。
【0008】
非特許文献3には、オルトキノジメタンとC60とを反応させてシクロヘキサン構造がフラーレン骨格と縮合したフラーレン誘導体の製造方法が記載されている。しかしながらこの方法は[4+2]環状付加反応を用いているために6員環構造以外の製造には適用できない。
【0009】
近年Luらは、Mnの存在下、Co錯体を触媒として用い、ジハロゲン化化合物とC60とを室温という温和な条件で反応させ、シクロプロパン、シクロペンタンまたはシクロヘキサン構造がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体を高収率で製造することに成功している(非特許文献4)。しかしながら、この方法においても高価な金属触媒を用いる必要があり、実用的には課題があった。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、環を形成する炭素数に依らず、環状炭素鎖がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体を、温和な条件で効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、フラーレン骨格を形成する互いに隣り合った2つの炭素原子と特定のハロゲン化化合物とを、芳香族性溶媒とC=OまたはS=O結合を有する非プロトン性極性溶媒との混合溶媒中、マンガン、鉄、亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の存在下において反応させることで、環を形成する炭素数に依らず、環状炭素鎖がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体を、温和な条件で効率的に製造することができることを見出した。
すなわち、本発明は以下に示す構成を備えるものである。
【0012】
(1)本発明のフラーレン誘導体の製造方法は、フラーレン骨格を形成する互いに隣り合った2つの炭素原子と式(2)で示されるハロゲン化化合物とを、芳香族性溶媒とC=OまたはS=O結合を有する非プロトン性極性溶媒との混合溶媒中、マンガン、鉄、亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の存在下において反応させることで、式(1)で示される部分構造を有するフラーレン誘導体を製造する。式(1)中、Cはそれぞれフラーレン骨格を形成する互いに隣り合った炭素原子であり、Aは二つのCと環構造を形成する炭素数1〜4の連結基、またはその一部が置換または縮合された基である。式(2)中、Aは炭素数1〜4の連結基、またはその一部が置換または縮合された基であり、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子である。
【0013】
【化1】
【0014】
【化2】
【0015】
(2)上記(1)に記載のフラーレン誘導体の製造方法において、Aの炭素数1〜4の連結基の一部が、芳香族基、ヘテロ芳香族基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基のいずれかで置換されていてもよい。
【0016】
(3)上記(1)に記載のフラーレン誘導体の製造方法において、Aの炭素数1〜4の連結基の一部が、芳香族環またはヘテロ芳香族環と縮合環構造、または、芳香族環またはヘテロ芳香族環を含む多環構造を形成してもよい。
【0017】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のフラーレン誘導体の製造方法において、前記非プロトン性極性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)および/またはジメチルホルムアミド(DMF)であってもよい。
【0018】
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のフラーレン誘導体の製造方法において、前記芳香族性溶媒が、o−ジクロロベンゼンであってもよい。
【0019】
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載のフラーレン誘導体の製造方法において、前記ハロゲン原子(X)がBrであってもよい。
【0020】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載のフラーレン誘導体の製造方法において、前記金属がMnであり、前記非プロトン性極性溶媒がDMFであってもよい。
【0021】
(8)上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載のフラーレン誘導体の製造方法は、前記金属がFeであり、前記非プロトン性極性溶媒がDMSOであってもよい。
【0022】
(9)上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載のフラーレン誘導体の製造方法において、前記金属がMnまたはZnであり、前記非プロトン性極性溶媒がDMSOであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のフラーレン誘導体の製造方法によれば、機能性材料として有用な環状炭素鎖がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体を、温和な条件で簡便に製造することができる。また、環を形成する炭素数(すなわち原料の炭素数)に依らず同様の反応条件が適用できるために、複数のフラーレン誘導体を製造する際に、反応条件および操作を共通化することが可能であり、結果として目的とするフラーレン誘導体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態についてその構成を説明する。本発明は、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
[フラーレン誘導体の製造方法]
本発明の一態様に係るフラーレン誘導体の製造方法は、フラーレン骨格を形成する互いに隣り合った2つの炭素原子と式(2)で示されるハロゲン化化合物とを芳香族性溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合溶媒中、マンガン、鉄、亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の存在下において反応させることで、式(1)で示される部分構造を有するフラーレン誘導体の製造方法である。
式(1)中、Cはそれぞれフラーレン骨格を形成する互いに隣り合った炭素原子であり、Aは二つのCと環構造を形成する炭素数1〜4の連結基、またはその一部が置換または縮合された基である。ここで、2つのCを結ぶ連結ルートが二つ以上ある場合は、最も炭素数の少ないものを連結基とする。式(2)中、Aは炭素数1〜4の連結基、またはその一部が置換または縮合された基であり、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子である。
「フラーレン誘導体」とは、これらのフラーレン骨格に対して特定の基が付加した構造を有する化合物を意味し、「フラーレン骨格」とはフラーレン由来の閉殻構造を構成する炭素骨格をいう。
【0026】
【化3】
【0027】
【化4】
【0028】
ここで、具体的な例を用いて、「炭素数1〜4の連結基、またはその一部が置換または縮合された基」について説明する。例えば1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼンは、以下の式(3)で示される。
【0029】
【化5】
【0030】
式(3)に示すように、1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼンは、二つのBrを繋ぐ炭素が4つであり、炭素数4の連結基を有する。また式(3)中の2番目の炭素と、3番目の炭素はベンゼン環と縮合している。すなわち、式(2)のAは、1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼンでは、炭素数4の連結基の一部が縮合された基と示される。
【0031】
また他の例として、例えばジブロモメチルベンゼンは、以下の式(4)で示される。
【0032】
【化6】
【0033】
式(3)と同様に、式(4)で示すジブロモメチルベンゼンは、二つのBrを繋ぐ炭素が1つであり、炭素数1の連結基を有する。式(4)中の1番目の炭素に繋がる水素は芳香族基に置換されている。すなわち、式(2)のAは、ジブロモメチルベンゼンでは、炭素数1の連結基の一部が置換された基と示される。
【0034】
さらに、例えば2,3−ビス(ブロモメチル)キノキサリンは、以下の式(5)で示される。
【0035】
【化7】
【0036】
式(3)と同様に、式(5)で示す2,3−ビス(ブロモメチル)キノキサリンは、二つのBrを繋ぐ炭素が4つであり、炭素数4の連結基を有する。また式(5)中の2番目の炭素と3番目の炭素は、ヘテロ芳香族環と縮合している。このヘテロ芳香族環は、更に芳香族環と縮合することで、全体として多環構造を形成している。
すなわち、式(2)のAは、2,3−ビス(ブロモメチル)キノキサリンでは、炭素数4の連結基の一部が、芳香族環またはヘテロ芳香族環を含む多環構造と縮合していると示される。
【0037】
また、例えば1,3−ジブロモインダンは、以下の式(6)で示される。
【0038】
【化8】
【0039】
式(3)と同様に、式(6)で示す1,3−ジブロモインダンは、二つのBrを繋ぐ炭素が3つの連結ルートと炭素が4つの連結ルートを有する。上述のように本発明の一態様において、2つのCを結ぶ連結ルートが二つ以上ある場合は、最も炭素数の少ないものを連結基とする。そのため、1,3−ジブロモインダンは、炭素数3の連結基を有する。また式(6)中の1番目の炭素と3番目の炭素は、芳香族環と縮合している。芳香族環が連結基の二つの炭素と結合するように結合することで、芳香族環と連結基によって五員環が形成され、全体として多環構造を形成している。
すなわち、式(2)のAは、1,3−ジブロモインダンでは、炭素数3の連結基の一部が、芳香族環と縮合環構造を形成していると示される。
【0040】
以下、フラーレン誘導体の説明を行いながら、各要素についての詳細を説明する。
まず、フラーレン骨格を有する化合物と、ハロゲン化化合物を準備する。
フラーレン骨格を有する化合物は、公知の方法(例えばアーク放電を利用した方法)等で得ることができる。
フラーレン骨格を有する化合物は、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96、C120、C200等を用いることができる。中でも、フラーレン骨格の炭素数は60〜120であることが好ましく、C60がより好ましい。炭素数の少ないものは純度の高いものを容易に得ることができ、特にC60は他のフラーレン骨格よりも純度の高いものを容易に得ることができるためである。
【0041】
ハロゲン化化合物は、上記式(2)で表されるものであれば特に限定されず、公知の方法で得ることができる。ハロゲン化化合物としては、例えば、1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン、ジブロモメチルベンゼン、1−ジブロモメチル−3−フルオロベンゼン、3,4−ビス(ブロモメチル)−2,5−ジメチルチオフェン、2,3−ビス(ブロモメチル)キノキサリン等のヘテロ環を有するハロゲン化化合物、1,3−ジブロモ−2,3−ジハイドロ−1H−インデン等の5員環を有するハロゲン化化合物、1−ブロモ−4−[1,3−ジブロモ−3−(4−フルオロフェニル)プロピルベンゼン等の反応するハロゲン元素以外にFやBr等のハロゲン元素を有するハロゲン化化合物、アリル化合物が付加されたハロゲン化化合物等を用いることができる。
上記は、ハロゲン化化合物におけるハロゲン元素(式(2)中のX)が臭素(Br)の場合について列記したが、よう素(I)、塩素(Cl)、フッ素(F)等のハロゲン元素に臭素元素を置き換えた物でもよい。ただし、ハロゲン元素は、臭素(Br)の場合が最も好ましい。その理由は、臭素化化合物は塩素化化合物やフッ素化化合物の場合に比べ反応が比較的進行しやすく、また、一般によう素化化合物より安価で、入手もしやすいためである。
【0042】
次に、フラーレン骨格を有する化合物とハロゲン化化合物とを、芳香族性溶媒とC=OまたはS=O結合を有する非プロトン性極性溶媒の混合溶液に加える。
芳香族性溶媒は、芳香環を有する化合物からなる溶媒を示す。芳香族性溶媒は、特に限定されるものではないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、o−ジクロロベンゼン(ODCB)、トリクロロベンゼン等を用いることができる。
芳香族性溶媒は、ハロゲン置換されたものが好ましく、o−ジクロロベンゼンがより好ましい。ハロゲン置換されていることで、原料となるフラーレン骨格を有する化合物とハロゲン化化合物の両方の溶解度が高くなる。о−ジクロロベンゼンは、原料となるフラーレン骨格を有する化合物とハロゲン化化合物の両方に対する溶解度が高く、反応濃度を高めることができる。そのため、о−ジクロロベンゼンを用いることで、反応速度の向上や反応容器のダウンサイズなどを通じて生産性を高めることが可能なため好ましい。
【0043】
C=OまたはS=O結合を有する非プロトン性極性溶媒は、プロトン供与性を有さない極性溶媒であって、その一部にC=OまたはS=O結合を有するものを意味する。
例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO),ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いることができる。ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムアミドは、反応が進行しやすいため好ましい。
【0044】
上記の混合溶液とマンガン、鉄、亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の存在下で、フラーレン骨格を有する化合物のフラーレン骨格を形成する互いに隣り合った2つの炭素原子と式(2)で示されるハロゲン化化合物とを反応させる。
反応は、特に光や熱等を必要とせず、所定の金属存在下で上述の混合溶液中にフラーレン骨格を有する化合物及びハロゲン化化合物を加えることで自動的に反応が進む。
【0045】
当該反応条件で反応を進めると、機能性材料として有用な環状炭素鎖がフラーレン骨格に縮合したフラーレン誘導体を、温和な条件で簡便に、かつ高収率に製造することができる。また、環を形成する炭素数(すなわち原料の炭素数)に依らず同様の反応条件が適用できる。そのために、複数のフラーレン誘導体を製造する際に、反応条件および操作を共通化することが可能である。
【0046】
原料となるフラーレン骨格を有する化合物が置換基を有さないフラーレンの場合、ここで得られるフラーレン誘導体は、式(1)で示される部分構造からなる環状炭素鎖がフラーレン骨格に一つだけが付加したモノシクロ付加体、式(1)で示される部分構造からなる環状炭素鎖がフラーレン骨格に二つ付加したジシクロ付加体、式(1)で示される部分構造からなる環状炭素鎖がフラーレン骨格に三つ以上付加したマルチシクロ付加体のいずれか、またはこれらの混合体である。本発明の方法では、得られるフラーレン誘導体に付加される環状炭素鎖の数を反応時に用いる金属量および/またはハロゲン化化合物の量によって選択的に設定することができ、主成分がモノシクロ付加体、ジシクロ付加体、マルチシクロ付加体となるものそれぞれを必要に応じて作製することができる。
なお、ここで「主成分」とは、式(1)で示される部分構造の数が異なるフラーレン誘導体の混合体の内、50mol%以上の成分を意味する。また本発明の一態様に係るフラーレン誘導体の製造方法では、従来のフラーレン誘導体の製造方法では実現することが難しかった処理バッチごとの再現性も得ることができる。
【0047】
本発明の一態様に係るフラーレン誘導体の製造方法として、添加する金属がMnであり、非プロトン性極性溶媒がDMFであることが好ましい。この場合、1つのフラーレン骨格中に式(1)で示される部分構造を3つ以上有するフラーレン誘導体をより高収率で得ることができる。すなわち、1つのフラーレン骨格中に式(1)で示される部分構造を3つ以上有するフラーレン誘導体が全体の主成分となるフラーレン誘導体を選択的に得ることができる。
【0048】
この他にも、本発明の一態様に係るフラーレン誘導体の製造方法として、添加する金属がFeであり、非プロトン性極性溶媒がDMSOであることが好ましい。この場合、1つのフラーレン骨格中に式(1)で示される部分構造を1つ有するフラーレン誘導体をより高収率で得ることができる。すなわち、1つのフラーレン骨格中に式(1)で示される部分構造を1つ有するフラーレン誘導体が全体の主成分となるフラーレン誘導体を選択的に得ることができる。
【0049】
また、本発明の一態様に係るフラーレン誘導体の製造方法として、添加する金属がMnまたはZnであり、非プロトン性極性溶媒がDMSOであることが好ましい。この場合、1つのフラーレン骨格中に式(1)で示される部分構造を2つ有するフラーレン誘導体をより高収率で得ることができる。すなわち、1つのフラーレン骨格中に式(1)で示される部分構造を2つ有するフラーレン誘導体が全体の主成分となるフラーレン誘導体を選択的に得ることができる。
【0050】
反応時の温度は0℃〜60℃であることが好ましい。当該温度範囲内であれば、より効率的にフラーレン誘導体を生成することができる。また、中でも室温であることが好ましい。室温であれば、加熱・冷却が必要ではなく、特別な設備を要しない等の点でも優れ、安価かつ簡便に作製することができる。
【0051】
また反応時間は、1〜100時間であることが好ましく、10〜50時間であることがより好ましい。当該反応時間内であれば、十分に反応を進めることができ、かつ生産性の観点からも現実的である。
【0052】
反応雰囲気は、不活性ガス中が好ましい。不活性ガス中で反応を行うことで、不要な副反応等の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0054】
(実施例1−1)
実施例1−1として、フラーレン骨格を有する化合物としてC60(21.6mg,0.03mmol)、ハロゲン化化合物としてジブロモベンゼン1a(31.6mg,0.12mmol,4モル当量)を用いた。また混合溶液は、芳香族性溶媒としてODCB(4mL)、非プロトン性極性溶媒としてDMSO(0.4mL)の混合溶液とした。さらに、反応に用いる金属としてMn粉末(15mg,0.27mmol,9モル当量)とし、Ar雰囲気中室温の条件下で12時間反応を行った。
【0055】
【化9】
【0056】
反応は、上記の反応式(A)で示すことができる。反応式(A)で示すように、反応によってフラーレン骨格に二つの環状物質が付加されたジシクロ付加体2a、フラーレン骨格に一つの環状物質が付加されたモノシクロ付加体3a、フラーレン骨格に三つ以上の環状物質が付加されたマルチシクロ付加体のいずれか、またはその混合体が形成される。
反応後の生成物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。HPLCは次の条件で測定した。
カラム:ナカライテスク社製COSMOSIL Buckyprep(4.6mmI.D.×250mm)
移動相:トルエン
流速:0.6mL/min
検出:UV 320nm
測定温度:16℃
このとき、C70を内部標準として用いた。また同時に、未反応のC60の存在比も測定することで、反応の進行状態も確認した。
【0057】
また分離した物質は、それぞれH-NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルにより同定した。この測定はJASTEC社製のJEOL JMTC−270/54/SS(400MHz)を用いた。また高分解能マススペクトル(HRMS)による同定も行った。この結果は、BRUKER社製のAPEXIIIを用いた。
【0058】
ジシクロ付加体2aのデータを以下に示す。
2a:茶褐色固体; 1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 3.49-5.00(8H, m), 7.37-7.83 (8H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 43.52, 44.11, 44.46, 44.79, 45.22, 63.93, 64.05, 64.34, 64.42, 64.65, 127.26, 127.51, 127.69, 137.05, 137.18, 137.45, 140.88, 141.15, 142.38, 142.58, 143.31, 143.99, 144.13, 144.31, 144.44, 144.75, 144.93, 144.99, 145.52, 145.91, 146.26, 146.38, 146.73,147.28, 147.66, 148.17, 148.79, 149.14, 154.32, 154.74, 159.80, 160.94. HRMS (MALDI) C76H16 [M]+: 928.1247, found 928.1247.
【0059】
(実施例1−2、比較例1−1〜1−5)
非プロトン性極性溶媒、またはMnの有無を変化させたこと以外は、実施例1−1と同様の検討を行った。ただし、比較例1−2のみ、反応時間を44時間とした。また比較例1−5は非プロトン性極性溶媒ではなく、プロトン性極性溶媒であるエタノールを用いた。検討の結果を表1に示す。表中、CHCNはアセトニトリル、THFはテトラヒドロフラン、EtOHはエタノールである。
【0060】
(実施例1−3)
実施例1−3として、フラーレン骨格を有する化合物としてC60(21.6mg,0.03mmol)、ハロゲン化化合物として1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(17.4mg,0.066mmol,2.2モル当量)を用いた。また混合溶液は、芳香族性溶媒としてODCB(4mL)、非プロトン性極性溶媒としてDMSO(0.3mL)の混合溶液とした。さらに、反応に用いる金属としてMn粉末(5mg,0.09mmol,3モル当量)とし、Ar雰囲気中室温の条件下で47時間反応を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
(実施例1−4、1−5、比較例1−6〜12)
反応に用いる金属を変化させたこと以外は、実施例1−3と同様の検討を行った。ただし、実施例1−4のみ、反応時間を20時間とした。検討の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1−1〜1−5に示すように、本発明の方法を用いることでフラーレン骨格に環状物質が付加されたフラーレン誘導体を選択的に作製することができる。また実施例1−1と実施例1−3を比較すると、金属のモル当量を減らすことでフラーレン骨格に複数の環状物質が付加される反応を抑制し、ジシクロ付加体の収率を向上させることができることがわかる。
これに対し、比較例1−1、1−2に示すように、金属、非プロトン性極性溶媒が存在しない条件下では、付加物が生成されていないことがわかる。また比較例1−3〜1−5に示すように、C=OまたはS=O結合を有さない非プロトン性極性溶媒およびプロトン性極性溶媒では反応が進行しない。さらに、比較例1−6〜1−8で示すように、Mnを含んでいても酸化物等では効果を有さず、比較例1−9〜1−12に示すように、適切な金属を選択しないと効果を示さない。
【0064】
(実施例2−1〜2−10)
次に、付加するハロゲン化化合物を種々変更させて、フラーレン骨格に環状物質が付加されたフラーレン誘導体を作製した。
フラーレン骨格を有する化合物としてC60(21.6mg,0.03mmol)とし、ハロゲン化化合物(2.2モル当量)と反応させた。この際、混合溶液は、芳香族性溶媒としてODCB(4mL)、非プロトン性極性溶媒としてDMSO(0.3mL)の混合溶液とした。さらに、反応に用いる金属としてMn粉末(5mg,0.09mmol,3モル当量)とし、Ar雰囲気中室温の条件下で反応式(B)の反応を行った。
【0065】
【化10】
【0066】
反応時間、使用したハロゲン化化合物1、また得られたフラーレン誘導体2、その収率について表2に示す。フラーレン誘導体の収率は、実施例1−1と同様に、HPLCを用いて算出した。また得られたフラーレン誘導体2を分離した後に、H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルおよびHRMSスペクトルを測定し、化合物の同定を行った。
【0067】
【表2】
【0068】
各ジシクロ付加体2b〜2kのデータを以下に示す。
2b:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 3.94-4.13 (8H, m), 4.33-5.01 (6H, m), 7.27-8.51 (6H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 44.28, 44.65, 45.04, 51.76, 51.81, 63.73, 63.79, 63.86, 63.92, 64.10, 64.18, 64.43, 64.50, 127.46, 127.73, 128.77, 128.98, 129.57, 137.82, 139.40, 141.00, 141.11, 141.56, 142.38, 142.78, 143.42, 144.23, 144.43, 145.01, 145.60, 145.95, 146.33, 147.72, 148.23, 149.14, 154.01, 154.35, 156.74, 159.41, 160.24,166.01; HRMS (MALDI) calcd for C80H20O4 [M]+: 1044.1356, found 1044.1358.
【0069】
2c:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 3.72-4.91 (14H, m), 6.87-7.66 (6H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 43.76, 44.09, 44.47, 44.79, 45.12, 45.50, 54.67, 54.70, 54.72, 63.84, 63.95, 63.97, 64.20, 64.23, 64.28, 64.34, 64.56, 64.61, 64.70, 64.92, 112.59, 113.29, 128.13, 128.40, 128.98, 129.40, 138.16, 138.55, 140.85, 141.05, 142.55, 143.29, 143.31, 144.10, 144.29, 144.45, 144.74, 144.98, 145.50, 145.83, 146.24, 146.25, 146.27, 146.35, 147.65, 148.16, 148.71, 149.04, 154.27, 154.29, 154.74, 158.82, 159.02, 159.82; HRMS (MALDI) calcd for C88H20O2[M]+: 1108.1458, found 1108.1463.
【0070】
2d:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 2.18 -2.67 (12H, m), 3.85 -4.51 (8H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 12.32, 12.47, 12.53, 12.69, 38.94, 39.54, 39.85, 40.09, 40.27, 62.67, 63.87, 64.15, 64.31, 64.51, 129.10, 129.18, 129.47, 132.59, 132.71, 132.82, 132.98, 139.38, 140.90, 141.12, 141.34, 141.98, 142.57, 143.34, 144.02, 144.16, 144.28, 144.33, 144.52, 144.77, 145.01, 145.07, 145.36, 145.52, 145.94, 146.41, 146.75, 146.80, 147.31, 147.71, 148.19, 148.74, 148.84, 149.16, 149.98, 154.12, 155.04, 160.08, 161.17. HRMS (MALDI) C76H20S2 [M]+: 996.1001, found: 996.1002.
【0071】
2e:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 2.45-4.05 (4H, m), 4.36-5.19 (4H, , m), 7.09-7.82 (8H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 45.18, 45.24, 45.80, 45.91, 5.99, 46.12, 46.31, 47.17, 56.99, 57.09, 57.13, 57.48, 57.51, 57.71, 57.74, 57.82, 57.90, 57.94, 58.06, 58.13, 58.15, 58.78, 73.32, 73.48, 73.54, 73.68, 73.77, 73.88, 74.10, 74.16, 74.25, 123.08, 123.10, 123.21, 123.26, 123.33, 123.43, 123.49, 123.62, 123.65, 123.69, 123.84, 123.96, 126.50, 126.64, 126.79, 126.87, 129.93, 127.02, 127.05, 127.09, 127.22, 127.25, 135.97, 136.12, 136.21, 136.28, 136.35, 136.40, 136.50, 136.54, 137.09, 137.12, 137.34, 140.63, 140.64, 140.70, 140.81, 140.84, 140.91, 141.50, 141.56, 141.71, 141.78, 141.86, 141.96, 142.01, 142.21, 143.21, 143.43, 143.57, 144.02, 144.10, 144.15, 144.17, 144.19, 144.31, 144.36, 144.41, 144.48, 144.51, 144.59, 144.64, 144.68, 144.72, 144.76, 144.84, 144.88, 145.15, 145.19, 145.27, 145.37, 145.39, 145.45, 145.49, 145.51, 145.66, 145.82, 146.14, 146.30, 146.56, 147.10, 147.12, 147.22, 147.26, 147.39, 147.54, 147.58, 147.76, 147.96, 148.04, 148.25, 148.33, 148.49, 154.21, 154.98, 155.56, 156.29, 156.47, 157.46, 158.77; HRMS (MALDI) C78H16 [M]+: 952.1247, found: 952.1246.
【0072】
2f:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 2.62-5.69 (8H, m), 7.00-8.06 (20H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 33.23, 34.13, 34.73, 34.89, 34.98, 35.20, 35.24, 35.28, 35.40, 36.71, 37.21, 37.34, 37.40, 57.00, 57.14, 57.29, 57.43, 57.58, 27.73, 57.99, 58.22, 58.31, 58.70, 58.82, 58.89, 58.95, 58.99, 59.07, 59.12, 59.18, 59.26, 59.43, 59.46, 59.54, 59.66, 59.69, 59.74, 59.80, 60.32, 74.01, 74.06, 74.15, 74.21, 74.27, 74.34, 74.40, 74.42, 74.44, 74.49, 74.53, 74.55, 74.59, 74.64, 74.77, 74.82, 74.86, 74.90, 75.11, 135.08, 137.33, 137.35, 137.47, 137.50, 137.65, 137.67, 137.73, 137.83, 137.89, 138.00, 138.22, 140.34, 140.45, 140.64, 140.87, 140.90, 140.97, 141.01, 141.07, 141.15, 142.13, 143.03, 143.71, 143.75, 144.05, 144.10, 144.12, 144.18, 144.25, 144.46, 144.56, 144.62, 144.73, 144.74, 144.82, 144.85, 145.31, 145.33, 145.48, 146.02, 146.48, 146.60, 147.19, 147.38, 147.47, 147.53, 147.62, 147.66, 147.76, 148.09, 148.21, 148.26, 148.33, 148.36, 148.43, 148.50, 148.54, 148.59, 148.61, 148.67, 152.17, 152.41, 153.99, 154.17, 154.28, 155.32, 155.42, 155.82, 155.96, 157.47. HRMS (MALDI) C90H28 [M]+:1108.2186, found 1108.2187.
【0073】
2g:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 2.41-3.94(4H, m), 4.19-5.72(4H, m),6.83-8.01(18H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2= 1/4) δ 34.97, 5.13, 35.38, 35.46, 36.81, 37.35, 56.55, 56.62, 56.71, 57.19, 57.33, 57.45, 57.58, 57.62, 57.78, 58.10, 58.53, 58.82, 58.88, 59.08, 59.40, 59.59, 59.71, 73.82, 74.11, 74.14, 74.20, 74.29, 74.34, 74.43, 74.65, 74.86, 74.94, 114.47, 144.59, 114.68, 114.80, 114.87, 114.92, 115.02, 115.08, 115.15, 115.24, 115.30, 115.36, 115.43, 115.52, 127.00, 127.06, 127.09, 127.17, 127.25, 127.32, 127.41, 127.48, 127.58, 127.90, 127.94, 127.97, 128.04, 128.07, 128.13, 128.16, 128.20, 128.24, 128.26, 128.32, 128.37, 128.45, 128.53, 128.55, 128.58, 128.72, 128.76, 128.78, 128.81, 128.85, 128.86, 128.89, 128.93, 129.02, 129.05, 129.12, 129.24, 130.03, 130.11, 130.17, 130.23, 130.30, 130.34, 130.42, 130.52, 130.57, 130.60, 130.64, 130.71, 137.52, 140.89, 140.93, 143.84, 144.12, 144.53, 144.58, 144.66, 144.70, 145.28, 147.36, 147.57, 152.38, 153.58, 153.65, 154.17, 155.01, 155.11, 157.07, 157.26, 159.29, 160.33, 160.46, 160.53, 162.74, 162.99. HRMS (MALDI) C90H26F2[M]+: 1144.1997, found 1144.1997.
【0074】
2h:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 2.38-3.91 (4H, m), 4.12-5.68 (4H, m), 6.90-7.88(16H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2=1/4) δ 33.34, 34.66, 34.84, 35.04, 35.41, 35.46, 36.43, 36.67, 56.43, 56.60, 56.70, 56.89, 56.98, 57.38, 57.46, 58.03, 58.07, 58.15, 58.21, 58.34, 58.41, 58.50, 58.78, 58.89, 59.04, 59.10, 73.61, 73.77, 73.82, 73.85, 74.00, 74.13, 74.28, 74.44, 74.59, 74.67, 114.29, 114.74, 114.92, 114.96, 115.16, 115.20, 115.30, 115.37, 115.51, 115.58, 121.53, 121.79, 121.84, 121.98, 122.01, 122.05, 122.13, 122.26,129.87, 129.91, 129.95, 130.02, 130.04, 130.09, 130.22, 130.26, 130.29, 130.34, 130.39, 130.42, 130.51, 130.56, 130.61, 130.69, 130.74, 130.80, 131.04, 131.15, 131.28, 131.36, 131.46, 131.49, 131.56, 131.59, 131.69, 136.45, 136.78, 139.00, 140.60, 140.89, 141.02, 141.26, 141.70, 141.99, 143.11, 143.31, 143.66, 143.81, 143.85, 144.07, 144.19, 144.26, 144.51, 144.56, 144.58, 144.60, 144.69, 144.71, 144.74, 144.82, 145.29, 145.84, 146.38, 146.42, 146.49, 146.61, 147.11, 147.39, 147.66, 147.71, 147.83, 148.33, 148.41, 148.49, 148.70. HRMS (MALDI) C90H24Br2F2 [M]+:1300.0207, found 1300.0212.
【0075】
2i:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 3.32 - 4.57 (8H, m), 5.19-5.69 (4H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ47.56, 47.64, 48.11, 48.37, 48.56, 67.83, 67.88, 68.07, 68.24, 68.29, 109.55, 110.06, 134.47, 134.52, 135.45, 136.32, 137.59, 139.46, 139.80, 140.18, 140.74, 140.79, 140.85, 141.06, 141.16, 141.18, 142.20, 142.82, 143.19, 143.25, 143.37, 143.55, 143.70, 144.04, 144.06, 144.22, 144.35, 144.37, 144.42, 144.65, 144.72, 144.87, 144.95, 144.97, 145.05, 145.35, 145.69, 145.75, 146.36, 146.87, 147.43, 147.67, 147.82, 147.91, 148.04, 148.26, 148.53, 148.56, 148.74, 153.87, 154.37, 154.81, 156.18, 156.94, 156.95, 159.78, 160.36. HRMS (MALDI) C68H12 [M]+: 828.0934, found 828.0934.
【0076】
2j:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2= 1/4) δ 4.54-5.50 (2H, m), 7.26-8.19 (10H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 40.88, 40.94, 41.03, 41.07, 41.23, 41.90, 42.35, 42.42, 42.55, 44.56, 45.12, 70.57, 73.02, 74.29, 74.38, 74.43, 74.59, 74.62, 74.67, 75.01, 75.12, 75.14, 75.25, 75.74, 75.78, 75.86, 75.90, 127.83, 127.87, 127.90, 127.92, 127.97, 128.02, 128.04, 128.14, 128.24, 128.33, 128.38, 128.41, 128.44, 128.60, 130.27, 130.50, 130.60, 130.63, 130.73, 130.75, 130.77, 130.84, 130.87, 130.92, 131.03, 132.05, 132.43, 132.56, 132.61, 132.63, 132.67, 132.80, 132.94, 132.97, 133.07, 133.10, 137.52, 137.59, 137.87, 137.95, 138.00, 138.05, 138.20, 138.32, 138.64, 138.71, 138.76, 138.82, 139.04, 139.16, 139.27, 139.35, 139.48, 139.51, 139.76, , 140.96, 141.12, 141.21, 141.28, 141.31, 141.36, 141.51, 141.90, 141.92, 142.20, 142.55, 142.64, 142.91, 142.93, 142.95, 142.96, 143.40, 143.43, 143.52, 143.53, 143.56, 143.65, 143.74, 143.76, 143.78, 143.80, 143.83, 143.90, 143.94, 144.00, 144.02, 144.09, 144.14, 144.16, 144.25, 144.32, 144.35, 144.51, 144.68, 144.72, 144.76, 144.87, 144.98, 145.12, 145.37, 145.47, 145.64, 145.76, 145.78, 145.85, 145.88, 145.90, 145.92, 145.94, 146.02, 146.04, 146.06, 146.11, 146.19, 146.21, 147.21, 147.39, 147.93, 150.40, 151.13. HRMS (MALDI) C74H12 [M]+: 900.0934, found 900.0934.
【0077】
2k:茶褐色固体;1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2= 1/4) δ 4.47-5.47 (2H, m), 7.05-7.24 (2H, m), 7.39-7.99 (6H, m); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2= 1/4) δ 40.00, 40.03, 40.15, 40.27, 40.28, 40.44, 40.50, 41.02, 41.50, 41.53, 41.56, 41.58, 41.73, 41.75, 43.66, 43.69, 44.24, 44.27, 69.96, 72.54, 73.07, 73.40, 73.67, 73.74, 73.97, 74.01, 74.09, 74.21, 74.25, 74.30, 74.67, 74.77, 74.88, 75.28, 75.30, 75.33, 75.41, 75.49, 114.89, 114.92, 114.96, 114.01, 114.07, 115.10, 115.13, 115.17, 115.21, 115.28, 115.39, 117.43, 117.45, 117.56, 117.66, 117.71, 117.78, 117.82, 117.87, 117.89, 117.93, 117.98, 118.01, 118.03, 118.19, 125.92, 125.94, 126.17, 126.20, 126.27, 126.30, 126.40, 126.43, 126.46, 126.51, 126.54, 126.56, 126.70, 126.73, 129.77, 129.85, 129.89, 129.94, 129.97, 130.05, 130.13, 130.21, 131.75, 133.29, 133.58, 133.68, 133.87, 134.38, 134.45, 134.69, 134.76, 134.79, 134.84, 134.90, 134.98, 135.01, 135.05, 135.09, 135.13, 135.20, 135.31, 135.36, 135.43, 135.62, 135.71, 135.86, 136.00, 136.06, 136.16, 136.28, 136.39, 136.61, 136.78, 137.54, 137.63, 138.04, 138.29, 138.39, 138.73, 138.80, 139.22, 139.30, 139.38, 139.40, 139.54, 139.77, 140.02, 140.31, 140.65, 140.69, 140.72, 140.95, 141.14, 141.29, 141.31, 141.37, 141.39, 141.41, 141.44, 141.49, 141.51, 141.54, 141.59, 141.64, 141.89, 141.91, 141.93, 142.30, 142.48, 142.50, 142.52, 142.62, 142.70, 142.81, 142.82, 142.94, 142.96, 142.98, 143.00, 143.02, 143.04, 143.15, 143.22, 143.28, 143.32, 143.34, 143.38, 143.42, 143.46, 143.49, 143.52, 143.54, 143.60, 143.75, 143.80, 143.83, 143.85, 143.87, 143.91, 143.97, 144.07, 144.09, 144.11, 144.15, 144.22, 144.23, 144.28, 144.31, 144.33, 144.39, 144.42, 144.52, 144.61, 144.63, 144.67, 144.72, 144.76, 144.80, 144.84, 144.86, 144.88, 144.95, 144.98, 145.00, 145.06, 145.09, 145.11, 145.12, 145.15, 145.28, 145.31, 145.33, 145.35, 145.50, 145.51, 145.55, 145.60, 145.68, 145.73, 145.76, 145.78, 145.81, 145.83, 145.88, 145.90, 145.99, 146.01, 146.02, 146.13, 146.42, 146.48, 146.69, 146.78, 146.83, 146.87, 146.94, 146.96, 147.04, 147.06, 147.21, 147.29, 147.43, 147.48, 147.57, 147.61, 147.75, 147.80, 148.16, 148.31, 148.70, 149.07, 149.13, 149.42, 149.52, 149.55, 149.71, 149.76, 149.82, 150.03, 150.13, 150.80, 151.50, 160.92, 60.97, 161.02, 161.18, 163.32, 163.40, 163.44, 163.50, 163.64. HRMS (MALDI) C74H10F2 [M+Na]+: 936.0745, found 976.0743.
【0078】
実施例2−1と実施例2−2を比較すると、環状の付加物に付加するメチルがエステル結合で結合しているかエーテル結合で結合しているかという点が異なる。しかし、それぞれ収率はほぼ同一であり、電子求引性および電子供与性はフラーレン誘導体の選択性に大きな影響を及ぼさないことがわかる。また実施例2−3、2−5、2−6,2−7で得られたフラーレン誘導体2d、2f、2g、2hのようにヘテロ芳香族環や複数の芳香族環を有する化合物であっても得ることができる。
【0079】
(実施例3−1〜3−8)
実施例3−1〜3−8では、フラーレン誘導体として、フラーレン骨格に一つの環状物質が付加されたモノシクロ付加物を選択的に作製した。
フラーレン骨格を有する化合物としてC60(21.6mg,0.03mmol)とし、ハロゲン化化合物(1.0モル当量)と反応させた。この際、混合溶液は、芳香族性溶媒としてODCB(4mL)、非プロトン性極性溶媒としてDMSO(0.4mL)の混合溶液とした。さらに、反応に用いる金属としてMn粉末(1.0モル当量)とし、Ar雰囲気室温の条件下で反応式(C)の反応を行った。
【0080】
【化11】
【0081】
反応時間、使用したハロゲン化化合物1、また得られたフラーレン誘導体3、その収率について表3に示す。フラーレン誘導体の収率は、実施例1−1と同様に、HPLCを用いて算出した。また、得られたフラーレン誘導体3を分離した後に、H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルおよびHRMSスペクトルを測定し、化合物の同定を行った。
【0082】
【表3】
【0083】
実施例3−1〜3−8では、選択的にモノシクロ付加体が得られていることがわかる。これは反応時に用いる金属量および/またはハロゲン化化合物の量を少なくしたことによるものと考えられる。
【0084】
実施例3−2の3,4−ビス(ブロモメチル)安息香酸メチルベンゼン1bを用いて作製したフラーレン誘導体3bは、82%という収率を示しており、従来のCo錯体を用いた方法の64%という収率よりはるかに高い収率を示している。実施例3−3のフラーレン誘導体3cは、従来のCo錯体を用いた方法では反応が進まず得ることができなかったのに対し、本発明の方法を用いることで50%という高い収率を示している。その他のフラーレン誘導体についても、従来のCo錯体を用いた方法と比較して高い収率を得ることができた。実施例3−8のフラーレン誘導体3lは、従来のCo錯体を用いた方法では得ることができないものであった。すなわち、本発明の方法を用いることで、高価なCo錯体を用いずに反応を進めることができるというだけでなく、より選択性を高め、さらに従来得ることができなかった化合物も得ることができる。
【0085】
(実施例4−1)
実施例4−1では、フラーレン誘導体として、フェニルC61酪酸メチルエステル(以下、「[60]PCBM」と記す。)を合成した。尚、[60]PCBMはフラーレン骨格に一つの環状物質が付加されたモノシクロ付加物である。
【0086】
5,5−ジブロモ−5−フェニル吉草酸メチルエステルの合成:アルゴン雰囲気下で5−フェニル吉草酸メチル(東京化成工業製、0.95mL、5mmol)の四塩化炭素(50mL)溶液に、N−ブロモスクシンイミド(1.95g、11mmol)と少量のアゾビスイソブチロニトリルを加えた後、撹拌しながら2時間加熱還流して反応させた。反応後、室温まで冷却し、不溶物をろ過により除き、さらに四塩化炭素で洗浄した。溶媒を留去した後、濃縮物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒から再結晶し、5,5−ジブロモ−5−フェニル吉草酸メチルエステルを白色結晶として、収率90%で得た。
【0087】
[60]PCBMの合成:フラーレン骨格を有する化合物としてのC60(21.6mg,0.03mmol)、ハロゲン化化合物としての5,5−ジブロモ−5−フェニル吉草酸メチルエステル(1.2モル当量)と反応させた。この際、混合溶液は、芳香族性溶媒としてODCB(6mL)、非プロトン性極性溶媒としてDMSO(0.4mL)の混合溶液とした。さらに、反応に用いる金属としてMn粉末(1.5モル当量)とし、Ar雰囲気室温の条件下で7時間反応を行った(反応式(D))。
【0088】
【化12】
【0089】
[60]PCBMの収率は、実施例1−1と同様にHPLCを用いて算出した結果、98%であった。また、得られた[60]PCBMを分離した後に、H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルを測定し、化合物の同定を行った。
【0090】
得られたデータを以下に示す。
[60]PCBM:茶褐色固体; 1H NMR (400 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 2.15-2.23 (2H, m), 2.52 (2H, t, J = 7.2 Hz), 2.90-2.93 (2H, m), 3.67(3H, s), 7.47 (1H, dd, J = 7.2, 7.6 Hz), 7.54 (2H, dd, J = 7.2, 7.6 Hz) 7.91 (2H, d, J = 7.2 Hz); 13C NMR (100 MHz, CDCl3/CS2 = 1/4) δ 22.39, 33.58, 33.71, 52.27, 51.62, 128.01, 128.22, 131.75, 136.33, 137.35, 137.75, 140.48, 140.72, 141.78, 141.81, 141.88, 142.63, 142.69, 142.74, 142.81, 143.44, 143.76, 144.14, 144.18, 144.34, 144.37, 144.45, 144.46, 144.71, 144.74, 144.84, 144.87, 145.48, 147.35, 148.28.
【0091】
このように本発明の方法を用いると、[60]PCBMを、原料のフラーレンから1工程で高収率に製造することが可能である。なお、従来の[60]PCBMの合成法(例えば、非特許文献1に記載の方法)では、原料となるC60から二段階の反応を経て、収率が約57%であった。[60]PCBMは有機薄膜太陽電池材料として好適に用いられており、これを高収率で高価な原料を無駄にすることなく製造できる本発明の方法は工業的な有用性がきわめて高い。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のフラーレン誘導体は、有機太陽電池などの電子材料や樹脂添加剤用途など、様々な用途に用いられる。