(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アクリル酸系ポリマーは、透明性など優れた特性を有するプラスチック材料、オムツなどに利用される超吸収性樹脂、接着剤などのみならず、食品添加物としても用いられている。(メタ)アクリル酸やそのエステル以外にも、ビニル基を有する化合物は、重合が可能である。また、2以上のビニル化合物を共重合させ、単独重合物の性質を改善することも行われている。
【0003】
ビニル化合物は、通常、石油由来の化合物などから製造されているが、例えばプラスチック材料としてのアクリル酸系ポリマーは再利用が難しい。また、超吸収性樹脂は焼却が可能であるが、それでは大気中の二酸化炭素濃度を増加させることになる。よって、重合可能なビニル化合物を石油以外から製造する技術が望まれている。
【0004】
植物には、β−ピネンやリモネンといったビニル化合物を産生するものがある。しかしその産生量は微量であるため、ポリマー原料として工業的に利用することは困難である。
【0005】
ビニル化合物の一種であるイタコン酸は、かつてクエン酸の濃厚水溶液を200℃以上に加熱して熱分解し、イタコン酸とシトラコン酸またはそれらの無水物の混合物を得、それから精製されており、非常に高価なものであった。しかし、特許文献1のように微生物を用いた発酵法による製造方法が確立されて製造コストが低下し、モノマーとしての利用が検討されるようになった。例えば、イタコン酸ジメチルとスチレンとの共重合体が製品化されている。
【0006】
このように、ビニル化合物を産生する微生物が見出せれば、産業上価値があるといえる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ビニル化合物を産生する微生物を見出すための技術が望まれている。
【0009】
しかし、微生物を培養するための培地には様々な成分が含まれており、また、微生物により産生される化合物はそれら成分に比べて微量であることも多い。よって、検出目的の化合物を培地などからある程度精製する必要があるなど、手間を要することがあった。
【0010】
そこで本発明は、ビニル化合物を産生する微生物を簡便かつ高感度にスクリーニングできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、Mizoroki−Heck反応とヨウ素デンプン反応を組み合わせることにより、培地などの試験試料中におけるビニル化合物の有無を容易にかつ高感度で判断できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
以下、本発明を示す。
【0013】
[1] ビニル化合物の産生能を有する微生物のスクリーニング方法であって、
測定試料にパラジウム触媒と下記式(I)で表されるヨウ化化合物を加え、測定試料中に含まれるビニル化合物とでMizoroki−Heck反応を行う工程、
R
1−I (I)
[式中、R
1は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、または置換基を有していてもよいベンジル基を示し、ここで置換基は、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基およびニトロ基から選択される1以上の基をいう]
上記Mizoroki−Heck反応の反応液を酸性化した後、酸化剤とデンプンを添加し、上記ビニル化合物と上記ヨウ化化合物(I)との反応で副生するヨウ化水素の酸化により生成するヨウ素をヨウ素デンプン反応で検出する工程を含むことを特徴とする方法。
【0014】
[2] 上記測定試料として、単離微生物の培養液またはその菌体破砕液を用いる上記[1]に記載の方法。
【0015】
[3] 上記反応液を濃縮してから水に再溶解した後に酸化剤とデンプンを添加する上記[1]または[2]に記載の方法。
【0016】
[4] 上記パラジウム触媒として二価パラジウムを用いる上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【0017】
[5] 酸化剤として亜硝酸塩を用いる上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明方法によれば、微生物を培養した培地などの試料に含まれるビニル化合物の存在を、Mizoroki−Heck反応とヨウ素デンプン反応を組み合わせることにより、試料の呈色として明確に可視化することができる。Mizoroki−Heck反応は当業者にとり周知の反応であり、また、ヨウ素デンプン反応は小学校で習うような容易な呈色反応であることから、本発明方法は非常に簡便に行うことができる。一方、測定試料にビニル化合物が含まれていない場合には、Mizoroki−Heck反応は進行せず、ヨウ素は生成しないことから、ヨウ素デンプン反応を行っても呈色せず、ビニル化合物が存在する場合との相違は明確である。よって本発明方法は、産業上有用な微生物のスクリーニングに極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明方法を工程毎に説明する。
【0021】
1. 反応工程
本工程では、測定試料にパラジウム触媒とヨウ化化合物(I)を加え、Mizoroki−Heck反応を行う。
【0022】
本工程で処理する測定試料は、ビニル化合物の産生能を有する微生物が含まれている可能性があるものであれば特に制限されない。例えば、土壌、その懸濁液、さらにその濾液、海水、河川水、湖水などを挙げることができる。
【0023】
しかし、上記の直接採取試料には、含有微生物自体が少なく、含まれるビニル化合物がさらに少ないことから本発明方法であっても検出が難しい場合があり得る。そこで、自然界から採取した測定試料に含まれる微生物を培養することが好ましい。
【0024】
例えば、上記の直接採取試料やその濾液を固体培地に塗布し、形成されたコロニーを分離してさらに液体培地で培養した培養液や、培養した菌体の破砕液を用いることが好ましい。これら培養液や菌体破砕液であれば、含まれる微生物は一種類であり、複数の微生物からビニル化合物の産生能を有するものを分離特定する必要は無いし、ビニル化合物の産生能を有するものであれば、その濃度は上記の直接採取試料よりも高く、検出し易いと考えられる。
【0025】
本発明方法では、測定試料に含まれるビニル化合物をMizoroki−Heck反応で生成するヨウ化水素(HI)を経由して間接的に検出するので、エタノールや還元性化合物であるグルコースなど、本発明で目的とする反応との競合反応を引き起こすような化合物は測定試料に極力含ませないことが好ましい。例えば、エタノールは培養液に含まれている場合があるので、エタノールの含有量を問題が生じなくなる程度まで低減するために培養液や菌体破砕液を濃縮した後、水で希釈すればよい。もちろん、培養液や菌体破砕液はいったん乾固させた後に水で希釈してもよい。
【0026】
本発明においてMizoroki−Heck反応で用いるヨウ化化合物は、下記式(I)の構造を有する。
R
1−I (I)
[式中、R
1は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、または置換基を有していてもよいベンジル基を示し、ここで置換基は、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基およびニトロ基から選択される1以上の基をいう]
【0027】
本発明において「アリール基」とは、好ましくは炭素数が6以上、12以下の一価芳香族炭化水素基をいう。例えば、フェニル、ナフチル、インデニル、ビフェニル等であり、好ましくはフェニルである。
【0028】
「ヘテロアリール基」とは、窒素原子、酸素原子および硫黄原子などのヘテロ原子を少なくとも1個有する5員環芳香族ヘテロシクリル基、6員環芳香族ヘテロシクリル基または縮合環芳香族ヘテロシクリル基をいう。例えば、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チエニル、フリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾール等の5員環ヘテロアリール基;ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル等の6員環ヘテロアリール基;インドリル、イソインドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル等の縮合環芳香族ヘテロシクリル基を挙げることができる。好ましくは窒素原子を含むヘテロアリールであり、より好ましくはピリジルである。
【0029】
「ベンジル基」とはフェニルメチル基をいう。ベンジル基が置換基を有する場合には、当該置換基は好ましくはベンゼン環上に位置する。
【0030】
「C
1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等である。好ましくはC
1-4アルキル基であり、より好ましくはC
1-2アルキル基であり、最も好ましくはメチルである。
【0031】
「C
1-6アルコキシ基」とは、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素オキシ基をいう。例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキソキシ等であり、好ましくはC
1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC
1-2アルコキシ基である。
【0032】
「アミノ基」には、無置換のアミノ基(−NH
2)のほか、1個の上記C
1-6アルキル基に置換されたモノC
1-6アルキルアミノ基と2個の上記C
1-6アルキル基に置換されたジC
1-6アルキルアミノ基が含まれるものとする。かかるアミノ基としては、アミノ(−NH
2);メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n−ブチルアミノ、イソブチルアミノ、t−ブチルアミノ、n−ペンチルアミノ、n−ヘキシルアミノ等のモノC
1-6アルキルアミノ;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ(n−プロピル)アミノ、ジイソプロピルアミノ、ジ(n−ブチル)アミノ、ジイソブチルアミノ、ジ(n−ペンチル)アミノ、ジ(n−ヘキシル)アミノ、エチルメチルアミノ、メチル(n−プロピル)アミノ、n−ブチルメチルアミノ、エチル(n−プロピル)アミノ、n−ブチルエチルアミノ等のジC
1-6アルキルアミノを挙げることができる。好ましくは、無置換のアミノ基である。
【0033】
アリール基、ヘテロアリール基およびベンジル基が置換基を有する場合、置換基の数は置換可能である限り特に制限されないが、例えば、1以上で、且つ、5以下または4以下が好ましく、3以下または2以下がより好ましく、1がよりさらに好ましい。また、置換基数が2以上である場合、置換基は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
ヨウ化化合物(I)の使用量は、測定試料に含まれるビニル化合物と十分にカップリングできる量とすることができ、実際には予備実験などで決定すればよいが、例えば、測定試料1mLあたり0.001μmol以上、1μmol以下程度とすることができる。
【0035】
パラジウム触媒は、Mizoroki−Heck反応を促進するために用いる。Mizoroki−Heck反応では0価パラジウム触媒を用いることが好ましいといえるが、二価パラジウム触媒も用いることは可能である。また、二価パラジウム触媒を用いる場合には、パラジウムを0価に還元するためトリフェニルホスフィンなどのホスフィン配位子を併用することが一般的である。
【0036】
パラジウム触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウム(0)−BINAP錯体、酢酸パラジウム、塩化パラジウムを挙げることができる。
【0037】
本発明方法では、測定試料に含まれるビニル化合物をMizoroki−Heck反応で生成するヨウ化水素を経由して間接的に検出するので、本発明で目的とする反応との競合反応は抑制することが好ましい。そのために、例えば、ホスフィン配位子を用いずに、酢酸パラジウムや塩化パラジウムなどの二価パラジウム触媒を単独で用いることが好ましい。
【0038】
パラジウム触媒の使用量は触媒量でよく、適宜調整すればよいが、例えば、パラジウム換算で、測定試料1mLあたり0.01mg以上、2mg以下程度用いることができる。
【0039】
本工程では、測定試料にパラジウム触媒とヨウ化化合物(I)を加えて反応させる。一般的に、自然界から直接採取された試料や培養液に含まれる主な液体は水である一方で、ヨウ化化合物(I)は水に対して難溶である。そこで、溶媒として、測定試料に含まれている水と混和できる程度に水への親和性を有する親水性有機溶媒を用いることが好ましく、水に対して無制限に混和する水混和性有機溶媒を用いることがより好ましい。かかる水混和性有機溶媒としては、ジメチルスルホキシドなどの低級アルキルスルホキシド溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの低級アルコール溶媒;アセトンなどの低級ケトン溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド溶媒;プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル溶媒を挙げることができる。さらに具体的には、溶媒1Lに対し水を50g以上溶解でき、且つ、ハロゲン化ベンゼンを溶媒1Lに対し50g以上溶解できる溶媒が好ましい。これらの溶媒の中から、化学反応に対して反応阻害などの悪影響を与えないことを事前に確認することで、適宜選択して用いればよい。
【0040】
溶媒の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、反応系における水の量に対して0.5容量倍以上、5容量倍以下程度とすることができる。
【0041】
Mizoroki−Heck反応においては、塩基を用いることが好ましい。かかる塩基としては、例えば、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなど弱酸とアルカリ金属との塩;トリエチルアミンやトリブチルアミンなどの有機アミンを挙げることができる。
【0042】
塩基の使用量は、反応が有効に進行する範囲で適宜調整すればよいが、例えば、測定試料1mLあたり0.005μmol以上、5μmol以下程度とすることができる。
【0043】
反応条件も、反応が十分に進行する範囲で適宜調整すればよく、予備実験で決定してもよいが、例えば、20℃以上、120℃以下で、10分間以上、180分間以下程度とすることができる。
【0044】
但し、本発明では競合する副反応を抑制するために、例えば、反応温度としては80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、また、反応時間としては60分間以下が好ましく、40分間以下がより好ましい。
【0045】
ビニル基とは、一般的にCH
2=CH−をいうが、本発明で検出すべきビニル化合物は、置換されるべき水素原子がある炭素−炭素二重結合が構造中に含まれるものであれば、厳密な意味でのビニル基を有さないものであってもよい。すなわち、本発明方法におけるMizoroki−Heck反応は、以下のとおりである。
【0047】
[式中、R
1は前記と同義を示し、R
2とR
3は独立して水素原子または有機基を示し、R
4は有機基を示す]
【0048】
2. 反応液の分析工程
本工程では、上記反応工程1で得られたMizoroki−Heck反応の反応液を酸性化した後、少なくとも酸化剤とデンプンを加え、ヨウ素デンプン反応を行う。測定試料中にビニル化合物が含まれている場合には、上記Mizoroki−Heck反応により1モルのビニル化合物あたり1モルのヨウ化物イオンが生成する。ヨウ化物イオンは酸性条件下で酸化剤により酸化されるとヨウ素(I
2)となる。本発明では、このヨウ素の存在をヨウ素デンプン反応により検出する。
【0049】
本発明で用いる反応液は、上記反応工程1で得られた反応液全量でもよいが、呈色の有無が観察できる範囲での少量、例えば1μL以上、1mL以下程度用いることができる。
【0050】
上記Mizoroki−Heck反応により生成したヨウ化物イオンは、反応液中の塩基により中和される。例えば、上記Mizoroki−Heck反応において塩基としてアルカリ金属イオンの塩を用いた場合には、ヨウ化物イオンはアルカリ金属のヨウ化物塩となる。しかし、塩基性条件下ではヨウ化物イオンからヨウ素への酸化反応が進行しないため、反応液を酸性化する。かかる酸性化のための酸は特に制限されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸を用いることができる。
【0051】
本発明において使用する酸化剤は、ヨウ化物イオンをヨウ素に酸化できるものであれば特に制限されないが、例えば、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3)などの硝酸塩を用いることができる。
【0052】
酸化剤の使用量は適宜調整すればよく、具体的には予備実験により決定すればよいが、例えば、測定試料1mLあたり0.01g以上、0.5g以下程度用いることができる。
【0053】
本発明において使用するデンプンは、ヨウ素の存在により呈色するものであればよく、アミロース、アミノペクチン、およびこれらの混合物などを特に制限なく用いることができる。
【0054】
デンプンの使用量は適宜調整すればよく、具体的には予備実験により決定すればよいが、例えば、測定試料1mLあたり0.01g以上、0.5g以下程度用いることができる。
【0055】
ヨウ素デンプン反応の条件は特に調整する必要はなく、ヨウ素とデンプンの存在により、ヨウ素がデンプン分子中に取り込まれることにより速やかに呈色する。
【0056】
また、本発明方法では、測定試料に含まれるビニル化合物2分子あたりヨウ素が1分子生成するので、測定試料以外の条件を同一にすれば、測定試料に含まれるビニル化合物が多いほど濃く呈色するはずである。よって、ヨウ素デンプン反応による呈色の強度により測定試料に関係する微生物のビニル化合物産生能を比較することも可能であり得る。また、様々な濃度のビニル化合物溶液について、ヨウ素デンプン反応後の溶液の適切な波長の吸光度を測定して検量線を作成することにより、測定試料中におけるビニル化合物を定量することも可能であり得る。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0058】
実施例1: Mizoroki−Heck反応の条件の検討
1mMアクリル酸水溶液(250μL)、ヨードベンゼンの50mM DMSO溶液(250μL)、酢酸パラジウム複合体触媒(和光純薬工業社製「FibreCat1001」)の50mg/mL DMSO溶液(50μL)、および750mM炭酸カリウム水溶液(50μL)を、ガラス瓶中で混合し、20℃、40℃、60℃、80℃または100℃で、5分、10分、30分、60分、90分、120分または180分間、Mizoroki−Heck反応を行った。なお、上記酢酸パラジウム触媒は、酢酸パラジウムとトリフェニルホスフィンをポリエチレン繊維に固定化したものである。
【0059】
また、反応条件の検討のため、触媒として酢酸パラジウム、塩基として水酸化カリウムまたはトリエチルアミン、溶媒としてメタノール、エタノールまたはアセトンを用い、同様の条件で実験を行った。
【0060】
反応後、5mM 3−ヒドロキシ桂皮酸(50μL)を内部標準物質として添加し、フィルター(φ0.45μm,PTFE)を用いてパラジウム触媒を除去した。得られた濾液に1.5N HCl(100μL)を添加してpHを1とした後、ODSカラムを有するHPLCに供して分析した。HPLCでは0.01% TFAを含む30%アセトニトリル水溶液を移動相とした。試薬から調整した既知濃度のtrans−桂皮酸を用いて作成した検量線を用いて反応率を算出した。また、反応液から生成物をクロロホルムで抽出後に乾燥させ、重水素化クロロホルムに溶解した。当該溶液を
1H−NMRおよびLDI−MSに供し分析した。
【0061】
反応時間と反応率との関係を
図1に、反応時間を30分間に固定した場合における反応温度と反応率との関係を
図2に示す。
図1および
図2に示す結果のとおり、反応温度60℃、反応時間30分間で反応率98.2%を得ることができた。また、用いるアクリル酸濃度を0.01〜10mMにした場合の平均反応率は96.0%であったことから、用いるアクリル酸に濃度差があっても反応率はほぼ100%となることがわかった。
【0062】
また、反応温度60℃、反応時間30分間で、触媒、塩基および溶媒を変更した場合の反応率を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1より、反応率が最も良い組み合わせは、触媒として二価パラジウムとホスフィン配位子との組み合わせ、塩基として炭酸カリウム、溶媒としてDMSOであることがわかった。また、
1H−NMRおよびLDI−MSの結果、生成物はtrans−桂皮酸であることが確認された。従って、目論見通りの反応が進行することが確認された。
【0065】
実施例2
(1) 予備試験
日本各地より採取した56種の土壌に蒸留水を添加し、これを適量とって0.1% Triton X−100と25μg/mLクロラムフェニコールを含むポテトデキストロース(PD)寒天培地に塗布した。寒天培地上に形成されたコロニーからランダムに95株を選択し、PD液体培地に接種し、菌が生育するまで30℃で3〜5日培養した。このとき、イコタン酸産生菌であるA.terreus NBRC6123株およびイタコン酸水溶液を陽性対照として液体培地に添加し、同様に培養した。
【0066】
上記培養後の培養液(10μL)、ヨードベンゼンの50mM DMSO溶液(10μL)、酢酸パラジウム複合体触媒(和光純薬工業社製「FibreCat1001」)の50mg/mL DMSO溶液(2μL)、および750mM炭酸カリウム水溶液(2μL)を、マイクロチューブ中で混合し、60℃で30分間、Mizoroki−Heck反応を行った。次いで、反応液に濃塩酸(4μL)を添加し、さらに10%NaNO
2水溶液(28μL)と10%デンプン水溶液(28μL)を添加することにより発色させた。即ち、Mizoroki−Heck反応の進行により生成するヨウ素イオンをヨウ素デンプン反応による呈色により検出することを試みた。また、陰性対照として、培養液の代わりにPD液体培地のみを添加した反応液も呈色操作に供した。
【0067】
陰性対照であるPD液体培地のみの場合の呈色結果を
図3(1)に、イタコン酸産生菌であるA.terreus NBRC6123株の培養液の呈色結果を
図3(2)に示す。
図3の結果のとおり、PD培地のみではヨウ素デンプン反応は起こらなかった。それに対して、イタコン酸産生菌の培養液中にはビニル化合物であるイタコン酸が含まれており、イタコン酸を基質とするMizoroki−Heck反応によりヨウ化水素が生成し、さらにヨウ化水素が酸化されてヨウ素が生じ、反応液が呈色したと考えられる。
【0068】
また、本実験で新たに分離した95株についての呈色操作結果を
図4に示す。
図4に示す結果のとおり、予想に反して多くの培養液が呈色を示し、再現性と信頼性が悪かった。
【0069】
(2) 本試験
PD液体培地の培養液中には期待される反応と競合して起こる副反応を引き起こすと考えられるエタノールなどの培地由来成分が共存する。そこで、PD液体培地の代わりにツァペック・ドックス(CD)液体培地を用いた以外は上記予備試験と同様にして分離した95株を培養後、培養液を真空乾燥した上で純水に再溶解することでエタノールを除去した。また、Mizoroki−Heck反応において、酢酸パラジウム複合体触媒(和光純薬工業社製「FibreCat1001」)の50mg/mL溶液の代わりに酢酸パラジウムの1mg/mL溶液を使い、反応時間を2時間に変更した。結果を
図5に示す。
【0070】
図5に示す結果のとおり、呈色しないものと呈色したものとの差が明確となった。また、同様の実験を複数回繰り返した場合の再現性が改善された。かかる結果は、エタノールを除去したことと、酢酸パラジウム複合体触媒であるFibreCat1001の代わりに用いた酢酸パラジウムが、活性は比較的低いものの溶媒に対する分散性が良好であったことによると考えられた。
【0071】
(3) ビニル化合物
上記実験で呈色を示した培養液を2種選択し、再度、酢酸パラジウム触媒(和光純薬工業社製「FibreCat1001」)の50mg/mL DMSO溶液(10μL)を用いて60℃で一晩Mizoroki−Heck反応を行った。反応液から真空乾燥によりDMSOを除去し、アセトニトリルに再溶解後、ODSカラムを有するLC−MSを用いて質量分析した。
【0072】
その結果、いずれの培養液においてもベンジリデンコハク酸の脱プロトン化物と一致する質量(205.0506)および保持時間(10.4min)を示すピークが得られた。よって、呈色操作により選抜した少なくとも2株はイタコン酸を産生することが明らかとなった。