(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572511
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】ビニル化合物の産生能を有する微生物のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
C12Q1/04
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-165905(P2015-165905)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-42075(P2017-42075A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】麻生 祐司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭司
【審査官】
藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−228386(JP,A)
【文献】
特開2017−23081(JP,A)
【文献】
特開2017−42074(JP,A)
【文献】
特開平6−319573(JP,A)
【文献】
特開平6−38774(JP,A)
【文献】
Biochim. Biophys. Acta.,2013年,Vol.1840, No.2,pp.838-846,Author Manuscript
【文献】
日本農芸化学会大会講演要旨集,2016年 3月,Vol.2016th,#2F005
【文献】
化学工学,2015年,Vol.79, No.4,pp.307-309
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 − 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル化合物の産生能を有する微生物のスクリーニング方法であって、
試験微生物を、下記式(I)で表されるチオール化合物とラジカル重合開始剤を含む培地を使って培養する工程を含むことを特徴とする方法。
R1−SH (I)
[式中、R1は、置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示し、ここで置換基は、C1-6アルコキシ基、水酸基、アミノ基およびカルボキシ基から選択される1以上の基をいう]
【請求項2】
さらに、上記ビニル化合物とチオール化合物(I)との反応生成物および残存チオール化合物(I)の少なくとも一方の量を測定する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記チオール化合物(I)としてα−チオグリセロールまたはβ−メルカプトエタノールを用いる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記ラジカル重合開始剤として水溶性ラジカル重合開始剤を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル化合物の産生能を有する微生物をスクリーニングするための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸系ポリマーは、透明性など優れた特性を有するプラスチック材料、オムツなどに利用される超吸収性樹脂、接着剤などのみならず、食品添加物としても用いられている。(メタ)アクリル酸やそのエステル以外にも、ビニル基を有する化合物は、ラジカル重合が可能である。また、2以上のビニル化合物を共重合させ、単独重合物の性質を改善することも行われている。
【0003】
ビニル化合物は、通常、石油由来の化合物などから製造されているが、例えばプラスチック材料としてのアクリル酸系ポリマーは再利用が難しい。また、超吸収性樹脂は焼却が可能であるが、それでは大気中の二酸化炭素濃度を増加させることになる。よって、重合可能なビニル化合物を石油以外から製造する技術が望まれている。
【0004】
植物には、β−ピネンやリモネンといったビニル化合物を産生するものがある。しかしその産生量は微量であるため、ポリマー原料として工業的に利用することは困難である。
【0005】
ビニル化合物の一種であるイタコン酸は、かつてクエン酸の濃厚水溶液を200℃以上に加熱して熱分解し、イタコン酸とシトラコン酸またはそれらの無水物の混合物を得、それから精製されており、非常に高価なものであった。しかし、特許文献1のように微生物を用いた発酵法による製造方法が確立されて製造コストが低下し、モノマーとしての利用が検討されるようになった。例えば、イタコン酸ジメチルとスチレンとの共重合体が製品化されている。
【0006】
このように、ビニル化合物を産生する微生物が見出せれば、産業上価値があるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−319573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ビニル化合物を産生する微生物を見出すための技術が望まれている。
【0009】
しかし、微生物を培養するための培地には様々な成分が含まれており、また、微生物により産生される化合物はそれら成分に比べて微量であることも多い。よって、検出目的の化合物を培地などからある程度精製する必要があるなど、手間を要することがあった。
【0010】
そこで本発明は、ビニル化合物を産生する微生物を簡便にスクリーニングできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、微生物に対して毒性を示すチオール化合物に加え、ラジカル重合開始剤を培地に加えれば、培地中にビニル化合物が含まれている場合にはチオール−エン反応が起こってチオール化合物が無害化されるため、ビニル化合物の産生能を有する微生物を選択的に生育させることができ、当該微生物を容易に検出できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
以下、本発明を示す。
【0013】
[1] ビニル化合物の産生能を有する微生物のスクリーニング方法であって、
試験微生物を、下記式(I)で表されるチオール化合物とラジカル重合開始剤を含む培地を使って培養する工程を含むことを特徴とする方法。
【0014】
R
1−SH (I)
[式中、R
1は、置換基を有していてもよいC
1-6アルキル基を示し、ここで置換基は、C
1-6アルコキシ基、水酸基、アミノ基およびカルボキシ基から選択される1以上の基をいう]
[2] さらに、上記ビニル化合物とチオール化合物(I)との反応生成物および残存チオール化合物(I)の少なくとも一方の量を測定する工程を含む上記[1]に記載の方法。
【0015】
[3] 上記チオール化合物(I)としてα−チオグリセロールまたはβ−メルカプトエタノールを用いる上記[1]または[2]に記載の方法。
【0016】
[4] 上記ラジカル重合開始剤として水溶性ラジカル重合開始剤を用いる上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明方法によれば、チオール−エン反応を利用してビニル化合物の産生能を有する微生物を選択的に生育させ、容易に検出することができる。チオール−エン反応は当業者にとり周知の反応であることから、本発明方法は非常に簡便に行うことができる。よって本発明方法は、産業上有用な微生物のスクリーニングに極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、アクリル酸とα−チオグリセロールを基質化合物として用いたチオール−エン反応におけるラジカル重合開始剤の使用量と反応時間とα−チオグリセロールの残存量との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、イタコン酸産生能を有する真菌と有さない真菌に対して本発明方法を実施した結果を示す写真である。
【
図3】
図3は、イタコン酸産生能を有する真菌と有さない真菌に対して本発明方法を実施した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明方法を工程毎に説明する。
【0020】
1. 反応工程
本工程では、チオール化合物(I)とラジカル重合開始剤を含む培地を使って試験微生物を培養する。
【0021】
本工程で試験する微生物は特に制限されず、ビニル化合物の産生能の有無を試験すべき微生物であればよい。また、たとえ微生物の存在の有無が確認されていないものであっても、ビニル化合物産生能を有する微生物が含まれる可能性のある試料を試験微生物として用いてもよい。かかる試料としては、例えば、土壌、その懸濁液、さらにその濾液、海水、河川水、湖水などを挙げることができる。
【0022】
しかし、上記の直接採取試料には、含有微生物自体が少ない場合があり得る。そこで、自然界から採取した測定試料に含まれる微生物を前培養してもよい。
【0023】
例えば、上記の直接採取試料やその濾液を固体培地に塗布し、形成されたコロニーを分離してさらに液体培地で培養した培養液や、培養した菌体の破砕液を用いてもよい。これら前培養液や破砕液であれば、含まれる微生物は一種類であり、複数の微生物からビニル化合物の産生能を有するものを分離特定する必要は無いし、ビニル化合物の産生能を有するものであれば、微生物自体やビニル化合物の濃度は上記の直接採取試料よりも高く、検出し易いと考えられる。
【0024】
本発明において用いるチオール化合物は、下記式(I)の構造を有する。
R
1−SH (I)
[式中、R
1は、置換基を有していてもよいC
1-6アルキル基を示し、ここで置換基は、C
1-6アルコキシ基、水酸基、アミノ基およびカルボキシ基から選択される1以上の基をいう]
【0025】
本発明において「C
1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等である。好ましくはC
1-4アルキル基である。
【0026】
「C
1-6アルコキシ基」とは、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素オキシ基をいう。例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキソキシ等であり、好ましくはC
1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC
1-2アルコキシ基である。
【0027】
チオール化合物(I)が置換基を有する場合、置換基の数は置換可能である限り特に制限されないが、例えば、1以上で、且つ、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がよりさらに好ましい。また、置換基数が2以上である場合、置換基は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
本工程においては、チオール化合物(I)を含む培地を用い、培地に含まれる溶媒は一般的に水系溶媒であるので、チオール化合物(I)としては水溶性を示すものが好ましい。ここでいう「水溶性」とは、一般的な微生物に対して十分な毒性を示す濃度でチオール化合物(I)が水に対して溶解する性質をいうものとする。
【0029】
チオール化合物(I)としては、α−チオグリセロール、β−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸などを挙げることができ、安全性からα−チオグリセロールが好ましい。なお、α−チオグリセロールは大腸菌や糸状菌(Aspergillus parasiticus)に抗菌性を示すことが報告されており、β−メルカプトエタノールは糸状菌に抗菌性を示すことが報告されている。
【0030】
チオール化合物(I)の使用量は、微生物に対して毒性を示すよう調整することが好ましい。例えば、使用する培地での濃度として10mM以上とすることができ、20mM以上または30mM以上が好ましく、40mM以上がより好ましい。一方、当該濃度が高過ぎるとビニル化合物産生微生物も十分に生育できない可能性があり得るので、当該濃度としては100mM以下または80mM以下が好ましく、70mM以下または60mM以下がより好ましい。標準的には当該濃度を50mMとすることができる。
【0031】
ラジカル重合開始剤は、穏和な条件でラジカルを発生させ、ラジカル重合反応を開始させる化合物をいう。本発明においては、下記反応式のとおり、ラジカル重合開始剤によりチオール化合物(I)のチオール基から水素を引き抜いてチイルラジカル(R
1−S
・)を生成させる。このチイルラジカルがビニル化合物と反応し、アルキルラジカルが生成する。このアルキルラジカルがチオール化合物(I)から水素を引き抜いてチオエーテル化合物となる。
【0032】
【化1】
[式中、R
1は前記と同義を示し、R
2とR
3は独立して水素原子または有機基を示し、R
4は有機基を示す]
【0033】
上記チオエーテル化合物はチオール化合物(I)と異なり微生物に対する毒性を示さない。即ち、試験微生物がビニル化合物を産生する場合には、培地中のチオール化合物(I)は無害化され、試験微生物の生育が可能になる。
【0034】
ラジカル重合開始剤は、微生物の成育に影響の無い穏和な条件、例えば比較的低温での加熱や光照射によりラジカルを発生させることができるものであれば特に制限されないが、培地に均一溶解できることから水溶性のラジカル重合開始剤が好ましい。例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミドなどのアゾニトリル系重合開始剤;2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などのアゾアミド重合開始剤;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン] n−水和物などのアゾアミジン重合開始剤;2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩・二水和物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などのアゾイミダゾリン重合開始剤;ターシャリーヘキシルパーオキシネオデカノエートや過硫酸塩など、水溶性の過酸化物重合開始剤;2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノンなど、水溶性の光ラジカル発生剤;リボフラビン、エオシン、エオシンYおよびローズベンガルなど、水溶性の光重合開始剤を挙げることができる。
【0035】
ラジカル重合開始剤の使用量は、ビニル化合物の存在により上記反応が進行する範囲で適宜決定すればよい。例えば、ラジカル重合開始剤の濃度に依存して反応速度は高まるので、0.1mM以上が好ましく、0.2mM以上がより好ましい。一方、ラジカル重合開始剤の濃度が過剰に高いと微生物に悪影響が及ぶおそれがあり得るので、当該濃度としては100mM以下が好ましく、50mM以下がより好ましい。
【0036】
本工程で用いる培地は特に制限されず、一般的な微生物の培養に用いられるものであればよい。例えば、LB培地、M9培地、GYP培地、MRS培地といった細菌用培地;PSA培地、OA培地、マツタケ培地、MA培地、PCA培地、SWS培地など糸状菌用培地;YM Agar培地、YPD培地など酵母用培地;ISP Medium 2、ベネット寒天培地、マルトース−ベネット寒天培地、YSA培地など放線菌用培地;IMK(SW)培地など微細藻類用培地などを用いることができる。また、液体培地、固体培地のいずれを用いてもよい。
【0037】
反応条件も、反応が十分に進行する範囲で適宜調整すればよく、予備実験で決定してもよいが、例えば、微生物の生育に適した20℃以上、40℃以下で、10時間以上、4週間以下程度とすることができる。
【0038】
2.判定工程
上記反応工程1において、試験微生物がビニル化合物の産生能を有する場合には、チオール化合物(I)がチオエーテル化合物に変換されることにより毒性が消失するため、試験微生物は培養により増殖する。一方、試験微生物がビニル化合物の産生能を有さない場合には、チオール化合物(I)は無害化されないため、試験微生物は増殖できない。よって、上記反応工程1における培養後に増殖するか否かにより、試験微生物のビニル化合物産生能の有無を判定することができる。
【0039】
例えば、上記反応工程1の後、コロニーを形成している微生物を、ビニル化合物産生能を有するものと判定することができる。また、液体培地を用いる場合であっても、ビニル化合物産生能を有する微生物は選択的に増殖するはずであるので、増殖した微生物を、ビニル化合物産生能を有するものと判定することができる。但し、液体培地を用いた場合には、増殖した微生物を単離するために、固体培地を用いて培養してコロニーを形成させることが好ましい。
【0040】
本工程に付した試料中に複数の微生物が含まれており、複数の微生物が増殖している可能性がある場合には、各コロニーから微生物を採取し培養することにより、単一微生物を増殖せしめることができる。なお、試料中にビニル化合物を大量に産生する微生物が含まれている場合には、液体培地を用いると、ビニル化合物を産生しない微生物も増殖する可能性がある。このような場合には、固体培地を用いて各微生物をコロニーとして分離した後、上記反応工程1を再度行うことが好ましい。
【0041】
3.定量工程
本工程では、上記反応工程1による上記ビニル化合物とチオール化合物(I)との反応生成物および残存チオール化合物(I)の少なくとも一方の量を測定する。本工程の実施は任意であるが、本工程により、ビニル化合物産生微生物のビニル化合物産生能を評価できる可能性がある。
【0042】
即ち、適量のチオール化合物(I)を用い、同量の試験微生物間において同様の条件で上記反応工程1を実施すれば、ビニル化合物とチオール化合物(I)との反応生成物であるチオエーテル化合物がビニル化合物と同モル生成し、また、産生されたビニル化合物の量に応じてチオール化合物(I)が残存するはずである。よって、培地中の反応生成物または残存チオール化合物(I)の量を測定することにより、培地中に存在したビニル化合物の量を間接的に定量でき、その量が試験微生物のビニル化合物産生能を反映している可能性がある。
【0043】
但し、試験微生物間で増殖能やチオール化合物(I)に対する耐性が異なる場合があり、上記反応生成物または残存チオール化合物(I)の量がビニル化合物産生能を必ず反映しているとは限らないので、上記評価はある程度定性的なものとならざるを得ない可能性もあり得る。
【0044】
反応生成物および残存チオール化合物(I)の量の測定方法は特に制限されず、公知方法を用いればよい。例えば、クロマトグラフィなどを用いた定量の他、チオール化合物感受性微生物を指示菌として、生育阻止円から間接的に定量するといった生物化学的定量法を用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
実施例1: チオール−エン反応の条件の検討
濃度10mMのα−チオグリセロール水溶液(100μL)と濃度10mMのイタコン酸水溶液またはアクリル酸水溶液(100μL)に加え、濃度0.0001〜1Mの水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤(和光純薬工業社製「VA−044」)の水溶液(10μL)を混合し、30℃でインキュベートした。反応開始時におけるα−チオグリセロールと重合開始剤の終濃度は、それぞれ5mMと0.005〜50mMとなる。かかるα−チオグリセロールの濃度は、Ellman試薬で定量評価しやすい濃度(5mM)である。また、反応温度は環境微生物の生育至適温度付近である30℃とした。18時間、24時間、48時間または72時間のインキュベート後、Ellman試薬(40μL)を添加し、5分間撹拌した。なお、Ellman試薬は、濃度5mMの5,5’−ジチオビス−2−ニトロ安息香酸のエタノール溶液と、濃度250mMのTris−HClバッファー(pH8.0)を等量混合したものである。次いで、412nmでの吸光度を測定し、検量線を用いて未反応α−チオグリセロールの割合を算出した。
【0047】
重合開始剤の濃度を変化させたときの反応時間と未反応α−チオグリセロールの割合との関係を
図1に示す。添加した重合開始剤の濃度に依存して、チオール−エン反応が進行した。よって、VA−044などのラジカル重合開始剤がチオール−エン反応に有効であることがわかった。糸状菌の生育速度が1週間程度までと比較的遅いことを考慮して、以降の実験では重合開始剤の濃度を0.5mMと仮決めした。以上のように、本手法はビニル化合物をチオールと反応させ、その生成物を分析あるいは未反応チオール量を定量することで反応の進行を確認し、反応性化合物を選抜する操作に適用可能である。
【0048】
実施例2: イタコン酸産生菌を用いた条件検討
α−チオグリセロールを0または50mM、および水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤(和光純薬工業社製「VA−044」)を0または0.5mM含むポテトデキストロース(PD)寒天培地を調製した。当該培地へ、陽性対照としてイタコン酸産生菌であるアスペルギルス テレウス NBRC6123株、陰性対照としてアスペルギルス オリザエ バー オリザエ NBRC30113株の培養液(3μL)をスポットした後、30℃で3日間培養した。なお、50mMとのα−チオグリセロール濃度は、アスペルギルス属糸状菌に対して生育阻害を示す濃度である(J.Gen.Microbiol.,132(10),pp.2767−2773(1986))。培養後の写真を
図2に示す。
【0049】
図2に示す結果のとおり、PD寒天培地に50mMのα−チオグリセロールのみを添加することで菌の生育が抑制されることが確認されたが、イタコン酸産生菌であるNBRC6123株のコロニーはわずかに成長した。α−チオグリセロールに加えてラジカル重合開始剤(VA−044)を加えた場合、NBRC30113株の生育は依然として抑制されていたのに対し、イタコン酸産生菌であるNBRC6123株のコロニーは大きく成長した。このように、ラジカル重合開始剤を添加する方がチオール−エン反応の効果が明確に表れやすいことが実証された。
【0050】
実施例3: イタコン酸産生菌の選抜
50mMのα−チオグリセロールと0.5mMのラジカル重合開始剤(和光純薬工業社製「VA−044」)を添加したPD寒天培地を調製した。当該培地に、陽性対照としてイタコン酸産生菌であるアスペルギルス テレウス NBRC6123株、または、陰性対照としてアスペルギルス ニガー NBRC33023株もしくは陰性対照としてアスペルギルス オリザエ バー オリザエ NBRC30113株の胞子懸濁液を、それぞれ胞子数10個程度となるように塗布し、30℃で10日間インキュベーションした。また、上記3株の胞子懸濁液を混合したもの、および、土壌にイタコン酸産生菌NBRC6123株の胞子懸濁液を添加したものについても、同様に培養した。さらに、α−チオグリセロールとラジカル重合開始剤を非添加のPD寒天培地に上記3株の胞子懸濁液を塗布する実験も行った。結果を
図3に示す。
【0051】
図3に示す結果のとおり、イタコン酸産生菌であるNBRC6123株のコロニーは黄色であるため、他のコロニーと簡単に判別可能である。3株の胞子懸濁液を混合した場合でも、NBRC6123株のコロニーを検出することができた。さらに、他の菌が存在する土壌を胞子懸濁液に添加した場合でも、イタコン酸産生菌を分離可能であることが示された。