特許第6572513号(P6572513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572513
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】磁気メモリ素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20190902BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   H01L27/105 447
   H01L29/82 Z
   H01L43/08 Z
   H01L43/10
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-536563(P2017-536563)
(86)(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公表番号】特表2018-505555(P2018-505555A)
(43)【公表日】2018年2月22日
(86)【国際出願番号】KR2016004964
(87)【国際公開番号】WO2016182354
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0066853
(32)【優先日】2015年5月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,キョンジン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ヒョヌ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ビョングク
【審査官】 宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−045196(JP,A)
【文献】 特開2002−359413(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/046361(WO,A1)
【文献】 特開2010−245415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239
H01L 27/105
H01L 29/82
H01L 43/08
H01L 43/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定磁性層、絶縁層及び自由磁性層がそれぞれ順に積層されたトンネル接合単位セルと、
前記自由磁性層に隣接して配置された反強磁性(antiferromagnetic)層及び前記反強磁性層に隣接して配置され、面内磁気異方性を有する強磁性層を有する導線体と、
前記トンネル接合単位セルそれぞれに独立的に選択電圧を印加する電圧印加部と、を含み、
前記自由磁性層は垂直磁気異方性を有、前記導線体に面内電流を供給し、
前記面内電流及び前記選択電圧によってトンネル接合単位セルのそれぞれの磁化方向を選択的に変化させることを特徴とする磁気メモリ素子。
【請求項2】
前記固定磁性層及び前記自由磁性層は、Fe、Co、Ni、B、Si、Zr、Pt、Tb、Pd、Cu及びWがなす強磁性体群から選択される少なくとも一つの物質からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項3】
前記絶縁層は、AlO、MgO、TaO、ZrO、及びこれらの混合物の中から選択される物質からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項4】
前記導線体に含まれた前記反強磁性層及び前記強磁性層のそれぞれは、Co、Fe、Ni、O、N、Cu、Ta、Pt、W、Hf、Ir、Rh、Pd、Gd、Bi、Ir及びMnがなす金属群から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項5】
前記反強磁性層は、フェリ磁性特性を有する物質からなり、前記自由磁性層に面接するように備えることを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項6】
前記導線体は前記自由磁性層に水平方向の交換バイアス磁場を誘導し、前記導線体に流れる電流はスピン−軌道スピントルクを発生させることを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項7】
前記反強磁性層及び前記強磁性層は、相互面接するように備えることを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項8】
前記反強磁性層及び前記強磁性層は水平磁場下で熱的アニーリング工程を通じて前記強磁性層は前記反強磁性層に水平方向の交換バイアスを誘導することを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン伝達トルク方式の磁気メモリ素子に関するものとして、より詳細には、磁気トンネル接合をなす単位セルに含まれた自由磁性層の磁化を反転させて、データを保存し、又は読み込む磁気メモリ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体(ferromagnetic material)は、外部から磁場を印加しなくても、自発的に磁化されている物質をいう。前記強磁性体からなる2つの強磁性層の間に絶縁物質からなる絶縁層が挿入された磁気トンネル接合構造(第1強磁性層/絶縁層/第2強磁性層)を有するトンネル接合単位セルが備わる。
【0003】
ここで、前記第1及び第2強磁性層の間の相対的な磁化方向によって電気抵抗が変わるトンネル磁気抵抗効果が発生する。これは、磁気トンネル接合構造でアップスピンとダウンスピンを有する電子のそれぞれが絶縁層をトンネリングして流れる程度が互いに異なるから発生する。結果的に、前記トンネル磁気抵抗効果によって、前記第1及び第2強磁性層の間の相対的な磁化方向が前記トンネル接合単位セルに流れる電流を制御する。
【0004】
一方、ニュートンの第3法則である作用−反作用の法則に従って、磁化方向が電流の流れを制御できれば、その反作用で電流を流して強磁性層の磁化方向を制御することも可能である。磁気トンネル接合構造をなす磁気接合単位セルの垂直(厚さ)方向に電流が流れる場合、第1磁性層(固定磁性層)によってスピン分極された電流が第2磁性層(自由磁性層)を通過し、それ自身のスピン角運動量を自由磁性層の磁化(magnetization)に伝達する。このようなスピン角運動量の伝達によって磁化が感じるトルクをスピン伝達トルク(spin−transfer−torque)といい、前記スピン伝達トルクを用いて自由磁性層の磁化を反転させるか、又は持続的に回転させる。
【0005】
図1は、従来のスピン伝達トルクを用いた磁気メモリ素子の構造を説明するための断面図である。
【0006】
図1に示すように、従来の磁気メモリ素子は、膜面に対して垂直な磁化を有する強磁性層及びこれらの間に介在された絶縁層からなるトンネル接合単位セルを含む。
【0007】
すなわち、前記磁気メモリ素子は、第1電極、第1磁性層101(固定磁性層)/絶縁層102/電流によって磁化の方向が変わる第2磁性層103(自由磁性層)に備わったトンネル接合単位セル及び第2電極を含む。ここで、第2磁性層は、電極に連結されて膜面に対して垂直な方向に流れる電流によって磁化反転が誘導される。この時、固定磁性層と自由磁性層磁化の相対的な方向に応じて高い抵抗と低い抵抗の2つの電気的信号が具現されるが、これを“0”又は“1”の情報で記録する磁気メモリ素子の応用が可能である。
【0008】
一方、自由磁性層の磁化を制御する制御源として、電流でない外部磁場が用いられる場合、素子の大きさが小さくなるほど半選択セル(half−selected cell)問題が発生して、素子の高集積化に制約が伴う。反面、素子に電流を印加して発生するスピン伝達トルクを用いる場合には、素子の大きさに関係なく選択的なセルの磁化反転が容易である。
【0009】
上述の電流を用いたスピン伝達トルク方式の磁気メモリ素子によると、自由磁性層に発生するスピン伝達トルクの大きさは、印加された電流密度の量によって決定される。したがって、自由磁性層の磁化反転のための臨界電流密度が存在する。
【0010】
固定磁性層と自由磁性層が全て垂直磁気異方性を有する物質で構成される場合、臨界電流密度Jは、下記[数学式1]のとおりである。
【数1】
ここで、αはGilbert減衰定数であり、
【数2】
はPlanck定数を2πで割った値であり、e(=1.6×10−19 C)は電子の電荷量、ηは物質及び全体構造によって決定されるスピン分極効率定数として0と1との間の値を有し、Mは磁性体の飽和磁化量、dは自由磁性層の厚さ、HK⊥=(2K⊥/M)は自由磁性層の垂直磁気異方性磁界であり、Kは自由磁性層の垂直磁気異方性エネルギ密度であり、自由磁性層の垂直方向の有効異方性磁界HK、effはHK、eff=(HK⊥−N)と定義され、Nは垂直方向の有効減磁界定数としてCGS単位で記述した時、自由磁性層の模様によって0と4πとの間の値を有する。
【0011】
一方、高集積メモリ素子に含まれた磁気接合単位セルの大きさが減少すると、常温での熱エネルギによって記録された磁化方向が任意的に変わる超常磁性限界が発生する。これで記録された磁気情報が意に反して削除される問題を引き起こす。熱エネルギに抵抗して平均的に磁化方向が維持される時間τは、下記[数学式2]のとおりである。
【数3】
ここで、τは、試図周波数の逆数で、1 ns程度であり、Keffは自由磁性層の有効磁気異方性エネルギ密度(=HK、eff/2)、Vは自由磁性層の体積、Kはボルツマン定数(=1.381×10−16 erg/K)、Tはケルビン温度である。
【0012】
また、KeffV/KTが磁気メモリ素子の熱的安定性Δに定義される。不揮発性メモリとしての商用化のためには、一般的にΔ>50の条件が満足されなければならない。素子の高集積化のために自由磁性層の体積Vを減らすと、Δ>50の条件を満足させるためにKeffを増加させなければならない。
【0013】
しかし、自由磁性層の有効磁気異方性エネルギ密度Keffが増加する場合、臨界電流密度Jが増加する恐れがある。
【0014】
このように、図1に示した既存構造でスピン伝達トルクを用いて磁化反転を誘導する場合、熱的安定性Δと臨界電流密度Jが、いずれもKeffに比例するため、商用化に適した十分に高いΔと十分に低いJを同時に満足させることは非常に難しい。
【0015】
その上、一般的に磁気トンネル接合に電流を印加する素子(例えば、トランジスタ)で提供できる電流の量は、電流を印加する素子の大きさに比例するが、これは臨界電流密度J以上の電流密度を印加するためには、適正値以上の素子の大きさを維持しなければならないということを意味する。したがって、J以上の電流を印加するための電流供給部の大きさが磁気メモリ素子の高集積化において限界となる。
【0016】
また、既存構造で電流が磁気トンネル接合を通じて流れるとき、絶縁層の厚さが厚くなるほどトンネリングする電子のアップスピンとダウンスピンの差がさらに大きくなるにつれて、トンネル磁気抵抗が増加する。しかし、前記絶縁層が厚くなるほど、トンネリングする電流自体の量が減少するにつれて、磁化反転のためのスピン伝達トルクを自由磁性層の磁化に効果的に伝達することが難しくなる。すなわち、絶縁体の厚さが厚くなると、トンネル磁気抵抗値が大きくなって、非常に速い速度で磁化状態を読み込むことができるが、同時に電流密度自体が減少するにつれて、トンネル磁気抵抗値及び電流密度値を同時に満足させる素子を具現することは困難である。
【0017】
図2は、従来のスピン−軌道スピン伝達トルクと外部磁場を用いたトンネル接合単位セルを含む磁気メモリ素子を説明するための断面図である。
【0018】
図2に示すように、最近本出願の発明者の一人が発明し、出願、登録されたスピン−軌道スピン伝達トルクを用いた磁気メモリ(図2;大韓民国登録特許第10-1266791号)は、上述の問題点を解決する。従来磁気トンネル接合構造を垂直方向に流れる電流によるスピン伝達トルクを用いて自由磁性層の磁化反転を誘導する構造で存在した2つの問題を解決することができる。すなわち、(i)臨界電流密度と熱的安定性が同一の物質変数であるKeff(自由磁性層の有効磁気異方性エネルギ密度)に比例するため、商用化に必要である十分に低い臨界電流密度と十分に高い熱的安定性を同時に満足させることが難しい問題と、(ii)磁気トンネル接合構造の絶縁体を厚くすると、トンネル磁気抵抗が大きくなって磁化状態をより速く読み込むが、同時に電流密度自体が減少して磁化状態を変更することが難しい問題を解決することができる。
【0019】
また、磁気メモリ素子の高集積化を具現させるために、自由磁性層に隣接して配置され、非磁性特性を有する導線が備わる。前記導線に流れる面内電流によって発現されるスピンホール効果(spin hall effect)或いはラシュバ効果(Rashba effect)によるスピン−軌道スピン伝達トルクによって自由磁性層の磁化反転を誘導し、それぞれの磁気トンネル接合メモリセルごとに選択的に印加される電圧を用いて、各セルの選択的な磁化反転が可能な磁気メモリ素子を提供する。
【0020】
しかし、既存のスピン−軌道スピン伝達トルクを用いた磁気メモリを駆動するためには、追加的な面内磁場が必須である。これはスピン−軌道スピン伝達トルクのうち、垂直磁化のスイッチングを誘導する反減衰成分τ(antidamping torque)が下記のように与えられるからである。
【数4】
【0021】
ここで、γは磁気回転定数(gyromagnetic ratio)であり、Cはスピン−軌道スピントルクの反減衰成分の大きさを磁場単位で表したもので、電流密度に比例し、
【数5】
【0022】
十分に大きな電流密度が印加された場合、τが0になるまで磁化方向
【数6】
【0023】
以後、この状態で電流を切ると垂直磁気異方性によってそれぞれ半分(1/2)の確率で
【数7】
に整列される。すなわち、スピン−軌道スピン伝達トルクだけを印加する場合には、スイッチング後の磁化方向を選択的に決定することが難しい。反面、スピン−軌道スピン伝達トルクを用いたトンネル接合単位セルをメモリ素子として適用するために、選択的にスイッチング後の磁化方向を決定する必要がある。
【0024】
スイッチング後の磁化方向を選択的に決定するために、スピン−軌道スピン伝達トルクとともに面内磁場を印加する場合、電流が印加されている時の磁化方向が
【数8】
から外れて垂直成分を有する。したがって、スピン−軌道スピン伝達トルクと面内磁場を同時に印加すると、選択的スイッチングが可能である(I.M.Mironなど、Nature 476、189(2011)参照)。
【0025】
しかし、追加的な面内磁場を備えるためには、磁気メモリアレイ(array)全体に一定の磁場を印加するための追加回路を備えるか、又は電流によって磁場を生成する追加的な導線を備えるか、又は磁気トンネル接合の一部の構造に面内磁場を発生させる追加的な水平磁性層を備える必要がある。これは追加的な電力損失及び全体層の厚さの増加による製造コストの上昇などの問題を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の一目的は、磁気トンネル接合構造で十分に低い臨界電流密度と十分に高い熱的安定性を同時に満足させ、トンネル磁気抵抗を高め、電流密度を増大させるスピン伝達トルク磁気メモリ素子を提供することにある。
【0027】
また、従来面内電流によるスピン−軌道スピン伝達トルクを用いて自由磁性層の磁化反転を誘導する構造で存在する他の問題点である外部磁場の必要性を除去して、外部磁場を追加することなく高集積化を実現することができる磁気メモリ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の実施例による磁気メモリ素子は、固定磁性層、絶縁層及び自由磁性層がそれぞれ順に積層されたトンネル接合単位セル、前記単位セルに面内電流を供給し、前記自由磁性層に隣接して配置された反強磁性(antiferromagnetic)層及び前記反強磁性層に隣接して配置され、面内磁気異方性を有する強磁性層を有する導線体、及び前記トンネル接合単位セルそれぞれに独立的に選択電圧を印加する電圧印加部を含み、前記面内電流及び前記選択電圧によってトンネル接合単位セルのそれぞれの磁化方向を選択的に変化させる。
【0029】
本発明の一実施例において、前記固定磁性層及び前記自由磁性層は、Fe、Co、Ni、B、Si、Zr、Pt、Tb、Pd、Cu又はWからなる。
本発明の一実施例において、前記絶縁層は、AlO、MgO、TaO又はZrOからなる。
【0030】
本発明の一実施例において、前記導線体に含まれた前記反強磁性層及び前記強磁性層のそれぞれは、Co、Fe、Ni、O、N、Cu、Ta、Pt、W、Hf、Ir、Rh、Pd、Gd、Bi、Ir又はMnからなる。
【0031】
本発明の一実施例において、前記反強磁性層は、フェリ磁性特性を有する物質からなり、前記自由磁性層に面接するように備える。
【0032】
本発明の一実施例において、前記導線体は前記自由磁性層に水平方向の交換バイアス磁場を誘導し、前記導線体に流れる電流はスピン−軌道スピントルクを発生させる。
【0033】
本発明の一実施例において、前記反強磁性層及び前記強磁性層は、相互面接するように備える。
【0034】
本発明の一実施例において、前記反強磁性層及び前記強磁性層は水平磁場下で熱的アニーリング工程を通じて前記強磁性層は前記反強磁性層に水平方向の交換バイアスを誘導する。
【発明の効果】
【0035】
本発明の実施例による磁気メモリ素子は、自由磁性層に隣接した導線体に沿って面内電流が流れる時、自由磁性層にスピン−軌道スピントルクが発生する。一方、前記導線体に含まれた反強磁性特性を有する反強磁性層及び面内磁気異方性を有する強磁性層の間の交換相互作用によって、反強磁性層に反強磁性規則(antiferromagnetic order)が発生し、前記反強磁性規則によって自由磁性層に水平交換バイアス磁場(exchange bias field)が誘起される。
【0036】
これで、別途の外部磁場の助けを借りずに自由磁性層の磁化を反転させ、各磁気メモリセルごとに印加される選択電圧によって各セルが含む自由磁性層の磁気異方性を変化させ、又は一般的なスピン伝達トルクを発生させて、その特定のセルを選択的に磁化反転させる。結果的に、スピン−軌道スピントルクによる磁化反転において、臨界電流密度は従来の構造と同様に、自由磁性層の垂直磁気異方性と体積にも比例するが、スピンホール或いはラシュバ効果によって発生される印加電流に対するスピン電流の量に反比例する。
【0037】
したがって、素子の高集積化のための素子の体積を減少させる場合、垂直磁気異方性を増加させて熱的安定性を確保し、同時に発生するスピン電流の量を効果的に増加させて、これを通じて臨界電流密度を減少させる。すなわち、素子の熱的安定性の確保と臨界電流密度を同時に満足させるメモリ素子である。
【0038】
一方、スピン−軌道スピントルクを発生させて磁化を反転させる電流が素子を通じて垂直方向に流れるのではなく、導線体の面内に流れる。したがって、前記電流を供給するための電流供給部が磁気トンネル接合構造を有するトンネル接合単位セルからなるアレイアの外に配置される。これによってトンネル接合単位セルの大きさに関係なく、電流供給部の大きさ又は配列が比較的に自由に調節される。したがって、スピン−軌道スピントルクを発生させて磁化反転を可能にする臨界電流密度以上の値を得るために、前記の電流供給部が相対的に大きな電流を前記導線体に供給するという長所がある。
【0039】
また、電子がトンネル接合単位セル内の絶縁層をトンネリングしてスピントルクを自由磁性層の磁化に伝達する従来構造とは異なって、スピン−軌道スピントルクは導線と隣接した自由磁性層界面で発生する。したがって、相対的に多い量の電流が磁気トンネル接合構造内の絶縁層を必ずしもトンネリングして流れる必要はない。したがって、絶縁層の厚さを増加させてトンネル磁気抵抗を十分に増加させても臨界電流密度には影響を与えない。
【0040】
結果的に、絶縁層の厚さが増加される場合、臨界電流密度とは関係なく、トンネル磁気抵抗が増加して磁化状態を読み込む速度が増加する。
【0041】
さらに、前記絶縁層が電子がトンネリング可能な程度の厚さに維持される場合、垂直電流による既存スピントルクの伝達効果に加えて、面内電流によるスピン−軌道スピントルクの効果が追加的に発生する。これで、従来の垂直電流による既存スピントルク伝達効果だけを用いて磁化反転させるために要求される電流密度に比べて、著しく低い電流密度が前記絶縁層を通じて流れるので、磁気メモリ素子の駆動のための電力消費の減少とともに、磁気メモリ素子に含まれた絶縁層の安定性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】従来のスピン伝達トルクを用いた磁気メモリ素子の構造を説明するための断面図である。
図2】従来のスピン−軌道スピン伝達トルクと外部磁場を用いた磁気トンネル接合構造のトンネル接合単位セルを含む磁気メモリ素子を説明するための断面図である。
図3】本発明の一実施例による磁気メモリ素子を説明するための断面図である。
図4】本発明の一実施例による複数のトンネル接合単位セルが導線体に連結されている磁気メモリ素子を説明するための断面図である。
図5】従来のスピン−軌道スピン伝達トルク磁気メモリ素子に面内交流電流を印加して、スピン−軌道スピン伝達トルクを測定したグラフである。
図6】本発明の一実施例による反強磁性層を有する導線体から発生するスピン−軌道スピン伝達トルクを測定したグラフである。
図7図2に図示した従来のスピン−軌道スピントルク利用磁気メモリ素子に外部磁場が加われない状態で、非磁性導線に面内電流を印加した時に発生する自由磁性層が磁化反転するか否かを示したグラフである。
図8】本発明の一実施例によるスピン−軌道スピントルク利用磁気メモリ素子に含まれた導線体に面内電流だけを印加した時に発生する自由磁性層が磁化反転するか否かを示したグラフである。
図9】本発明の一実施例によるスピン−軌道スピントルク利用磁気メモリ素子に含まれた導線体に面内電流だけを印加した時に発生する自由磁性層が磁化反転するか否かを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、添付した図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。本発明は、様々な変更を加え、様々な形を有するところ、特定実施例を図面に例示して本文に詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定した開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術の範囲に含まれる全ての変更、均等物ないし代替物を含むものと理解されなければならない。添付した図面において、対象物の大きさと量は、本発明の明確性を期するために実際より拡大又は縮小して図示した。
【0044】
第1、第2などの用語は、多様な構成要素を説明するために使用されるが、前記構成要素は、前記用語によって限定されてはならない。前記用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的にだけ使用される。例えば、本発明の権利範囲を逸脱しない上に第1構成要素は第2構成要素と命名され、類似して第2構成要素も第1構成要素と命名される。
【0045】
本出願で使用した用語は、ただ特定の実施例を説明するために使用されたもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明らかに別の意味を示していると判断されない限り、複数の表現を含む。本出願で“含む”又は“備える”などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、他の特徴や段階、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものの存在又は付加可能性を事前に排除しないものと理解されなければならない。
【0046】
一方、別途定義されない限り、技術的や科学的な用語を含んで、ここで使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有している。一般的に使用される辞書に定義されているものと同様の用語は、関連技術の文脈上有する意味と一致する意味を有すると解釈されなければならず、本出願で明白に定義しない限り、理想的又は過度に形式的な意味で解釈されない。
【0047】
図3は、本発明の一実施例による磁気メモリ素子を説明するための断面図である。
【0048】
図3に示すように、本発明の実施例による磁気メモリ素子は、トンネル接合単位セル、導線体及び電圧印加部を含む。
【0049】
前記トンネル接合単位セルは、垂直方向の磁化を有する固定磁性層301、絶縁層302及び自由磁性層303を含む。
【0050】
前記自由磁性層303は、前記導線体に流れる面内電流と電場によって選択的に磁化の方向が変わり、垂直磁気異方性を有する。
【0051】
前記固定磁性層301及び前記自由磁性層303は、Fe、Co、Ni、B、Si、Zr、Pt、Tb、Pd、Cu又はWからなる。
【0052】
前記固定磁性層301は、X層及びYからなった二重層がn個積層されてなる多層薄膜((X/Y)、n≧1)の多層薄膜構造物を含む。
【0053】
前記固定磁性層301は、第1磁性層、非磁性層及び第2磁性層からなる反強磁性体構造を有する。この時、前記第1磁性層及び前記第2磁性層は、それぞれ独立的にFe、Co、Ni、B、Si、Zr、Pt、Tb、Pd、Cu、W又はTaからなる。さらに、前記非磁性層は、Ru、Cu、W、Hf又はTaを含む。
【0054】
前記固定磁性層301は、反強磁性層、第1磁性層、非磁性層及び第2磁性層からなる交換バイオスされた反強磁性体構造を有する。
【0055】
前記導線体は、前記単位セルに含まれた自由磁性層に隣接して配置された反強磁性層304及び前記反強磁性層304に隣接して配置された強磁性層305を含む。
【0056】
前記強磁性層305は、前記反強磁性層304に隣接して配置される。例えば、前記強磁性層305は、前記反強磁性層304上に相互面接するように配置される。また、前記強磁性層305は、面内磁気異方性を有する。この時、自由磁性層303の磁化反転のために導線体304及び305に流れる電流は、面内方向に流れる。
【0057】
前記反強磁性層304は、その上部に面接した前記強磁性層305によって面内方向に反強磁性整列を行う。前記反強磁性層304は、前記反強磁性層の下部に隣接した垂直自由磁性層303に水平方向の交換バイアス磁場を提供する。
【0058】
前記反強磁性層304は、フェリ磁性(ferrimagnetic property)を有する物質からなる。
【0059】
前記電圧印加部(図示せず)は、複数のトンネル接合単位セルのうち、磁化反転のために選択しようとする単位セルに選択電圧を印加する。これで、前記単位セルのうち、特定の単位セルが選択される。前記選択された単位セルに含まれた自由磁性層303の磁気異方性が変更され、又は前記選択電圧によって発生する垂直方向電流によるスピン伝達トルクが前記自由磁性層303の磁化に伝達される。この状態で外部に備わった電流供給部が前記反強磁性層304を通じて適正な大きさの面内電流を供給すると、自由磁性層303はスピン−軌道スピントルクの伝達を受け、磁化反転を行う。
【0060】
前記導線体304及び305内に面内電流が流れる場合、アップスピンとダウンスピンの電子はスピン−軌道相互作用によってそれぞれ異なる方向に偏向されるスピンホール或いはラシュバ効果が発生し、これによって面内電流の方向に垂直な全ての方向にスピン電流が発生する。この時、各方向に発生したスピン電流は、その方向に垂直に偏向されたスピン成分を有している。図3に表示した座標系に基づき、反強磁性層304内の面内電流がx方向に流れる場合、発生したスピン電流のうち、−z方向成分に流れる、すなわち自由磁性層303に入射するスピン電流はy方向又は−y方向のスピン成分を有し、自由磁性層303に流入される。
【0061】
前記自由磁性層303に流入されたスピン電流によって、自由磁性層303はスピン−軌道スピントルクを受ける。前記導線体304及び305によって自由磁性層303に誘起された交換バイアス磁場(図示せず)とともにスピントルクを受けた自由磁性層303は、外部磁場の助けを借りずに磁化反転される。
【0062】
ここで、前記交換バイアス磁場は、前記外部磁場の役割を代替し、スピン−軌道スピントルクに対する磁化反応の均衡を破って印加された電流の方向に従って、+z軸から−z軸に、又は−z軸から+z軸にのような、ある一方向に磁化反転を可能とする。
【0063】
従来の磁気トンネル接合構造を垂直方向に流れる電流によるスピン伝達トルクを用いて自由磁性層の磁化反転を誘導する。反面、本発明の実施例による磁気メモリ素子は、自由磁性層303に隣接し、反強磁性層304及び面内磁気異方性を有する強磁性層305からなった前記導線体に流れる面内電流によるスピン−軌道スピントルクを用いて自由磁性層303の磁化反転を外部磁場無しに誘導される。
【0064】
また、本発明の実施例による磁気メモリ素子は,複数のトンネル接合単位セルの中に特定の単位セルに印加される選択電圧を通じて各特定の単位セルを選択的に磁化反転させる。
【0065】
これによって、従来の磁気トンネル接合構造を垂直方向に流れる電流で駆動される構造が有していた低い臨界電流密度と高い熱的安定性を同時に満足させなかった問題点を解決するとともに、磁気トンネル接合構造の絶縁層を厚くすると、トンネル磁気抵抗が大きくなって、磁化状態をより速く読み込むが、同時に電流密度が低くなって磁化状態を変更することが難しいという問題を同時に解決する。
【0066】
さらに、本発明の実施例による磁気メモリ素子は、構造上に磁化反転のための臨界電流密度が熱的安定性及びトンネル磁気抵抗を決定する絶縁層の厚さとも独立的に分離された構造である。また、セル選択のために、選択セルに選択電圧を印加して自由磁性層の磁気異方性の変化を用い、又はスピン−軌道スピントルクとともに選択電圧によって発生する従来のスピントルクを同時に用いる。
【0067】
また、従来の磁気トンネル接合構造の自由磁性層に隣接した非磁性導線に面内方向に印加された電流で駆動される構造が有していた、追加的な面内の磁場が必ず必要だという問題点を解決する。
【0068】
さらに、本発明の実施例による磁気メモリ素子において、素子の大きさを減らして高集積化を具現すると同時に、熱的安定性を維持し、臨界電流密度を下げ、トンネル磁気抵抗TMR(tunnel magnetic resistance)を高めて、磁気メモリ素子の読み込む速度を改善する。
【0069】
本発明の一実施例において、前記導線体に印加される面内電流は、前記導線体に連結されて電流を供給する電流供給部が追加的に備わる。一方、各単位セルに印加される選択電圧は、各セルに連結されて電圧を印加する電圧印加部から提供される。前記電流供給部及び前記電圧印加部は、例えば、トランジスタ或いはダイオードを含む。
【0070】
一方、前記の電圧印加部は、複数のトンネル接合セルのうち、特定の磁気トンネル接合セルを選択的に磁化反転させるために、特定のセルに電圧、すなわち電場を印加する。
【0071】
トンネル接合単位セルのうち選択された特定の単位セルに垂直方向に電圧、すなわち電場を加えると、前記特定の単位セルに含まれた自由磁性層の垂直磁気異方性エネルギ密度Kが変わる。すなわち、トンネル接合単位セルに選択電圧が印加されると、電気長が形成され、形成された電場によって自由磁性層に含まれた磁性体の垂直磁気異方性エネルギ密度が変化する。
【0072】
例えば、選択電圧Vを印加する時に減る垂直磁気異方性エネルギ密度の大きさをΔK(V)と定義すると、自由磁性層の垂直方向の有効異方性磁界HK、effは、HK、eff=2(K-ΔK(V)/(M−N)で置換される。したがって、電圧を印加した時、HK、effが減少する。HK、effは、自由磁性層の磁化が垂直方向にどれほど強く維持されるかを表す尺度であるので、電圧を印加してHK、effを減少させることによって、自由磁性層の磁化を反転させることがより容易になる。
【0073】
また、トンネル接合単位セルに垂直方向に選択電圧を印加すると、磁気トンネル接合の抵抗に従って垂直方向電流が一部発生する。この垂直方向電流は、固定磁性層301によってスピン分極されてスピン−軌道スピントルク以外に一般的なスピン伝達トルクを自由磁性層303に発生させ、結果的にスイッチングに必要な全体電力を減らし、選択的スイッチングが可能になる。
【0074】
図4は、本発明の一実施例による複数のトンネル接合単位セルが導線体に連結されている磁気メモリ素子を説明するための断面図である。
【0075】
図4に示すように、本発明の一実施例による磁気メモリ素子は、複数のトンネル接合単位セルが反強磁性層及び強磁性層を備えた導線体に接合されている。
【0076】
前記反強磁性層304及び前記反強磁性層304に隣接して配置された強磁性層305に連結された電流供給部は、前記導線体を通じて導線面内に電流が流れて、導線体304/305に接合されている全ての単位セルにスピン−軌道スピントルクを誘発する。
【0077】
この時、各単位セルごとに連結された電圧印加部が特定の単位セルにだけ電圧が印加されて電気長を形成し、その特定の単位セルの選択的な磁化反転を可能にする。
【0078】
複数のトンネル接合単位セル401が導線体304/305に接している時、導線体304/305を通じて面内電流が印加されると、前記説明した原理によって特定の単位セルに含まれた自由磁性層が選択的に磁化反転される。
【0079】
前記導線体304/305に流れる面内電流は、導線304/305の末端 に連結された電流給電部から提供される。
【0080】
この時、前記導線体に供給された面内電流によって発生されたスピン−軌道スピントルクと反強磁性層304と面内磁気異方性を有する強磁性層で構成された導線体によって垂直自由磁性層に誘導される水平交換バイアス磁場の大きさが自由磁性層の垂直磁気異方性を克服できるくらい大きな値であれば、導線体に連結されている全ての単位セルにそれぞれ含まれた自由磁性層が磁化反転される。
【0081】
しかし、相対的に低い面内電流が供給された状態で選択しようとする特定の単位セルにだけ独立的に選択電圧を印加すると、選択した単位セルに含まれた自由磁性層の垂直磁気異方性が減少するか、又は垂直電流による追加的なスピントルクの助けで選択的に選択された単位セルだけが磁化反転を引き起こす。
【0082】
前記特定の単位セルに独立的に印加される選択電圧は、各セルに独立的に連結された電圧印加部から提供される。この時、選択されない単位セルには導線体304/305を通じて選択されたセルのような面内電流が供給されるが、その値が前記自由磁性層の垂直磁気異方性を克服できるくらい大きな値ではないため、磁化反転が引き起こさない。
【0083】
すなわち、適正な価格の面内電流を導線体304/305に印加した状態で、選択しようとする単位セルにだけ選択電圧を加えば、選択した単位セルだけを磁化反転させる。この場合、スピン−軌道スピントルクを発生させる面内電流は、導線体304/305に面内方向に流れるので、素子の熱的安定性及びトンネル磁気抵抗と独立的であり、従って熱的安定性の確保、トンネル磁気抵抗の増加を同時に満足させる磁気メモリ素子を具現させる。
【0084】
本発明による磁気メモリ素子では高い電流密度を得るために、パターニング技術を用いて可能な限り小さな大きさの構造で具現することが好ましい。
【0085】
本発明の効果が発現されるためには、垂直磁気異方性を有する自由磁性層に隣接し、反強磁性を有する第1導線層が(i)自由磁性層と第1導線層との間の界面に水平方向の交換バイアス磁場を誘導し、(ii)第1導線層内に流れる電流がスピン−軌道スピントルクを発生させなければならない。面内磁気異方性を有する磁性層と隣接した反強磁性層が前記面内磁気異方性を有する磁性層自体に水平方向の交換バイアス磁場を発生させることは公知の事実である。しかし、垂直磁気異方性を有する磁性層と隣接した反強磁性層が前記垂直磁気異方性を有する磁性層自体に水平方向の交換バイアス磁場を発生させることは、技術的に容易ではない。これは、磁性層と隣接した反強磁性層がどのような方向の交換バイアス磁場を発生させるかは、反強磁性層と隣接した磁性層の磁化方向によって決定されるためであり、より具体的に、これは交換バイアス磁場の方向が薄膜構造製造後の磁場下で熱的アニーリング(annealing)処理を通じて設定されるためである。すなわち、面内磁気異方性を有し、面内に磁化された磁性層と隣接した反強磁性層の反強磁性規則は面内で整列されて、その結果、水平方向の交換バイアス磁場を発生させ、その一方で垂直磁気異方性を有し、膜面に垂直に磁化された磁性層と隣接した反強磁性層の反強磁性規則は垂直に整列されて、その結果垂直方向の交換バイアス磁場を発生させる。
【0086】
本発明の効果が発現するための第1条件として、垂直磁気異方性を有する自由磁性層に隣接した反強磁性層が垂直磁気異方性を有する自由磁性層に水平方向の交換バイアス磁場を発生させなければならない。
【0087】
本発明では、垂直磁気異方性を有する自由磁性層と隣接した反強磁性層の上面に面接するように備わった面内磁気異方性を有する磁性層が備わる。したがって、水平磁場の下で熱的アニーリングする時、面内磁気異方性を有する磁性層と反強磁性層との間の交換相互作用によって反強磁性層に面内方向の反強磁性に整列される。これで、反強磁性規則によって他の側に隣接した垂直磁気異方性を有する自由磁性層に水平方向の交換バイアス磁場が誘導される。
【0088】
なお、本発明の効果が発現するための第2条件として、反強磁性層を有する導線に流れる電流がスピン−軌道スピントルクを発生させるためには、異常ホール効果(anomalous Hall effect)或いはスピンホール効果が発生しなければならない。最近、報告された理論研究(H.Chenなど、Phys.Rev.Lett.112、017205(2014))によれば、代表的な反強磁性物質であるIrMnで非常に大きな異常ホール効果が存在することを予測した。また、最近報告された実験研究(J.B.S.Mendesなど、Phys.Rev.B 89、140406(R)、(2014))によれば、IrMnでPtと同じ程度の非常に大きな逆スピンホール効果(inverse spin Hall effect)が観測された。逆スピンホール効果は、オンサーガー関係(Onsager relation)によってスピンホール効果の反作用であるので、この実験結果は、IrMnにスピンホール効果が存在することを意味するが、この反作用、すなわち反強磁性物質によるスピン−軌道スピン伝達トルクは実測されたことがない。本発明ではIrMnで発生するスピン−軌道スピントルクを実測して、その存在を証明した。
【0089】
したがって、本発明の効果が発現されるために要求される2つの条件、すなわち垂直磁気異方性を有する自由磁性層に隣接し、反強磁性を有する導線が、(i)自由磁性層に水平方向の交換バイアス磁場を誘導し、(ii)導線内に流れる電流がスピン−軌道スピントルクを発生させなければならないという条件が満足される。
【実施例】
【0090】
本発明による磁気メモリ素子の効果を確認するために、従来のスピン−軌道スピン伝達トルクを有する比較例1として、(Ta(5nm)/CoFeB(1nm)/MgO(1.6nm))を準備した。
一方、本特許の効果を有するために、垂直磁化異方性を有する自由磁性層であるCoFeB層に隣接して反強磁性特性を有するIrMn(Ir:Mn=1:3)層が備わった実施例として、(Ta(5nm)/IrMn(5nm)/CoFeB(1nm)/MgO(1.6nm))を準備した。
前記比較例1及び実施例に対してそれぞれスピン−軌道スピン伝達トルクの符号を測定した。この時、幅が5μmであるホールバでパターンした後、交流電流(周波数=50Hz)を印加しながらlock−in装備を用いて1st harmonicホール信号V1wと2nd harmonicホール信号V2wを測定した。
【0091】
また、外部磁場を電流と同じ方向(x方向)或いは膜面内で電流と垂直な方向(y方向)に印加し、V1wとV2wを測定した。V1w測定を通じて磁化が垂直方向でどれほど外れるかを測定し、V2w測定を通じてスピン−軌道スピン伝達トルクの符号及び大きさを決定する(K.Garelloなど、Nature Nanotechnology 8、587-593(2013))。
【0092】
実験例1. 本発明による素子に対してスピン−軌道スピン伝達トルクが発生するか否か
【0093】
図5は、従来のスピン−軌道スピン伝達トルク磁気メモリ素子に面内交流電流を印加して、スピン−軌道スピン伝達トルクを測定したグラフである。図6は、本発明の一実施例によって反強磁性層を有する導線体から発生するスピン−軌道スピン伝達トルクを測定したグラフである。
【0094】
図5及び道6を示すように、V1wの符号は両構造で同一であり、外部磁場Bをx或いはy方向に印加して得たV2wは二構造で符号が反対であることが確認される。実施例でCoFeB層(自由磁性層)に隣接した反強磁性IrMn層(反強磁性層)がスピン−軌道スピン伝達トルクを作り、その符号がTaが作るスピン−軌道スピン伝達トルクと反対であることが確認される。
【0095】
実験例2. 本発明による素子対して外部磁場無しに印加された電流だけで自由磁性層が磁化反転するか否か
【0096】
図7は、図2に図示した従来のスピン−軌道スピントルク利用磁気メモリ素子に外部磁場が加えられない状態で非磁性導線に面内電流を印加した時に発生する自由磁性層が磁化反転するか否かを示したグラフである。
【0097】
図7に示すように、従来技術に該当する構造Ta(5nm)/Ti(5nm)/CoFeB(1nm)/MgO(1.6nm)に対して、外部磁場無しに面内電流を印加して磁化反転を試みた結果を示したグラフである。正の電流或いは負の電流を印加した時、磁化の正規化された垂直方向成分Mが+1或いは−1に変わらず、無作為な変化を見せている。これは、外部磁場がない状況ではスピン−軌道スピン伝達トルクによって垂直磁化を特定方向に磁化反転させることができないという既存結果(I.M.Mironなど、Nature 476、189-193(2011))と一致することが確認される。
【0098】
図8及び図9は、本発明の一実施例によるスピン−軌道スピントルク利用磁気メモリ素子に含まれた導線体に面内電流だけを印加した時に発生する自由磁性層が磁化反転するか否かを示したグラフである。
【0099】
図8及び図9に示すように、本発明の実施例による磁気メモリ素子は、Ta(5nm)/CoFeB(3nm)/IrMn(3nm)/CoFeB(1nm)/MgO(1.6nm)の構造を有することによって、別途の外部磁無しに面内電流を印加して磁化反転を試みた。
【0100】
実施例による磁気メモリ素子において、CoFeB(1nm)は垂直磁気異方性を有する自由磁性層である。一方、IrMn(3nm)は反強磁性層に該当し、CoFeB(3nm)は面内垂直異方性を有する強磁性層に該当する。
【0101】
図8に示すように、磁化反転の実験前に外部磁場Bsetを+x方向に印加して面内磁化を有するCoFeB(3nm)層を+x方向に完璧に整列した後、外部磁場を除去した状況で、面内電流を通じて磁化反転するか否かを観測した結果である。正の電流を印加した時、Mが+1から−1に磁化反転し、負の電流が印加された時、Mが−1から+1に磁化反転することを見せる。すなわち、外部磁場無しに面内電流だけを用いて選択的に垂直磁化の磁化反転が可能であることを証明する。
【0102】
図9に示すように、磁化反転の実験前に外部磁場Bsetを−x方向に印加して面内磁化を有するCoFeB(3nm)層を−x方向に完璧に整列した後、外部磁場を除去した状況で、面内電流を通じて磁化反転するか否かを観測した結果である。すなわち、+x方向にBsetを印加した図8と比較して正確に反対方向の磁化反転が観測された。
【0103】
図8図9の結果は、外部から磁化反転の実験前に仕掛けたBsetによって面内交換バイアス磁場方向が設定され、その結果、外部磁場が印加されない環境で面内交換バイアス磁場が外部磁場のような役割を果たすことによって、選択的な垂直磁化の磁化反転が可能であることを証明する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明による磁気メモリ素子は、スピン−軌道スピントルク磁気メモリ素子に適用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9