特許第6572515号(P6572515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572515
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】超音波接合装置及びその制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   B23K20/10
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-123548(P2015-123548)
(22)【出願日】2015年6月19日
(65)【公開番号】特開2016-20003(P2016-20003A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2018年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-126408(P2014-126408)
(32)【優先日】2014年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社エンビジョンAESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】金 泰元
(72)【発明者】
【氏名】土井 悠平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 孝
(72)【発明者】
【氏名】工藤 強
(72)【発明者】
【氏名】八川 徹也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和也
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−113992(JP,A)
【文献】 特開2008−155240(JP,A)
【文献】 特開2002−333016(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3140503(JP,U)
【文献】 特開平1−133690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合材の接合部に超音波振動を加えて前記被接合材を超音波接合する超音波接合装置の制御装置において、
少なくとも前記被接合材への前記超音波振動の伝播開始時から、前記被接合材の沈み込み量を検出する沈み込み量検出手段と、
少なくとも前記被接合材への前記超音波振動の伝播開始時から、前記超音波振動の振動エネルギーを検出する振動エネルギー検出手段と、
前記沈み込み量検出手段が検出した沈み込み量が第1の沈み込み閾値未満であり、前記第1の沈み込み閾値よりも小さい第2の沈み込み閾値以上であり、且つ前記振動エネルギー検出手段が検出した振動エネルギーが所定の振動エネルギー閾値以上である場合に、前記超音波接合装置に前記超音波接合を停止する停止信号を出力する制御手段と、を備える超音波接合装置の制御装置。
【請求項2】
前記第1の沈み込み閾値は、予め測定された接合強度の分布のシックスシグマ値(μ−6σ)が前記所定の接合強度の下限値を満たす沈み込み量に設定される請求項に記載の超音波接合装置の制御装置。
【請求項3】
接合すべき被接合材に当接するホーン及びアンビルと、
前記ホーンに超音波振動を加えるとともに前記ホーンを前記被接合材に押圧する発振装置と、
前記発振装置を制御する制御装置において、
前記制御装置は、
少なくとも前記被接合材への前記超音波振動の伝播開始時から、前記被接合材の沈み込み量を検出する沈み込み量検出手段と、
少なくとも前記被接合材への前記超音波振動の伝播開始時から、前記超音波振動の振動エネルギーを検出する振動エネルギー検出手段と、
前記沈み込み量検出手段が検出した沈み込み量が第1の沈み込み閾値未満であり、前記第1の沈み込み閾値よりも小さい第2の沈み込み閾値以上であり、且つ前記振動エネルギー検出手段が検出した振動エネルギーが所定の振動エネルギー閾値以上である場合に、前記発振装置に超音波接合の停止信号を出力する制御手段と、を備える超音波接合装置。
【請求項4】
前記第1の沈み込み閾値は、予め測定された接合強度の分布のシックスシグマ値(μ−6σ)が前記所定の接合強度の下限値を満たす沈み込み量に設定される請求項に記載の超音波接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合材を超音波接合するための超音波接合装置及びその制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホーンの超音波振動の開始時から、超音波金属接合機の出力または接合する2枚の金属板のうち上側の金属板の沈み込み量の少なくとも一方を検出し、所定時間が経過するまでの超音波金属接合機の出力波形または金属板の沈み込み量波形の少なくとも一方の波形を正常接合時と比較することにより、金属板の接合の良否を判断する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−184252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属板の沈み込み量等は、接合する金属板の表面に付着した油脂等の汚れによって減少する。上記の技術では、金属板に付着した油脂等の量が、当該金属板を正常に接合する上で支障が無い程度に少量であったとしても、所定時間が経過するまでに正常接合時と同等の波形が得られない場合は、接合強度が充分であっても不良品判定となるため、金属板接合体の歩留まりが低下する。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、超音波接合体の歩留まりの向上を図ることができる超音波接合装置及びその制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、接合部の沈み込み量が第1の沈み込み閾値未満であり、第1の沈み込み閾値よりも小さい第2の沈み込み閾値以上であり、且つ振動エネルギー検出手段が検出した振動エネルギーが所定の振動エネルギー閾値以上である場合に、超音波接合装置に対して超音波接合の停止信号を出力することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、沈み込み量検出手段が検出した沈み込み量が第1の沈み込み閾値を越えたか否かによって超音波接合強度の良否を判断するため、金属板に油脂等が僅かに付着していた場合において良品が不良品として判定されることを防ぎ、超音波接合体の歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本発明に係る超音波接合装置の制御装置を適用した超音波接合装置の一実施の形態を示すブロック図である。
図1B図1Aの超音波接合装置の動作を示す図(加圧開始)である。
図1C図1Aの超音波接合装置の動作を示す図(超音波発振開始)である。
図1D図1Aの超音波接合装置の動作を示す図(超音波接合完了)である。
図2図1Aの制御装置が実行する制御手順を示すフローチャートである。
図3図1Aの制御装置が実行する第1の制御例を説明するためのグラフである。
図4図1Aの制御装置が実行する第2の制御例を説明するためのグラフである。
図5図1Aの制御装置が実行する第3の制御例を説明するためのグラフである。
図6図1Aの超音波接合装置を用いて、沈み込み量を種々に変化させた場合の被接合材の接合強度を測定した結果を示すグラフの一例である。
図7図1Aの超音波接合装置を用いて、沈み込み量を種々に変化させた場合の被接合材の接合強度を測定した結果を示すグラフの他例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1Aは本発明に係る超音波接合装置の制御装置を適用した超音波接合装置の一実施の形態を示すブロック図であり、アルミニウム、銅などの金属材料からなる2つの被接合材W1,W2を超音波接合する場合を例に本発明の実施形態を説明する。
【0010】
本実施形態の超音波接合装置1は、たとえば薄型二次電池の出力端子同士や、出力端子と集電体などを接合する場合に用いられるが、特に被接合材W1,W2の用途は限定されない。また以下の実施形態では2つの被接合W1,W2を接合する場合を例に挙げて本発明を説明するが、必要に応じて3つ以上の被接合材を接合する場合に用いてもよい。
【0011】
本実施形態の超音波接合装置1は、第1の被接合材W1の上に第2の被接合材W2を重ねた状態で超音波振動を加えることにより、これら第1及び第2の被接合材W1,W2が接合部で相互に接合された超音波接合体を形成するための装置であり、図1Aに示すように、電源12と、ホーン13と、アンビル14と、発振器15と、ブースター16と、押圧器17と、を備える。
【0012】
ホーン13は、発振器15の振動方向、すなわち図1Aの左方向に向かって延在するアーム部131と、当接部132と、を有する。アーム部131は、延在方向に沿って略一定の径を有する円柱形状であり、当該アーム部131の基端(図1Aの右端)は、ブースター16に連結されている。当接部132は、アーム部131の先端(図1Aの左端)に設けられており、当接部132の下面が第2の被接合材W2の上面に当接することにより、アーム部131を介して伝わる発振器15からの超音波振動を当該被接合材W2に対して伝播させる。第2の被接合材W2に当接する当接部132の下面は、必要に応じて窒化処理やダイヤモンドコーティングを施してもよい。
【0013】
本実施形態のアーム部131及び当接部132は一体的に形成され、発振器15が発生する超音波振動の伝達を可能となる硬度を有する材料から形成されている。このような材料としては、例えば、タングステン等の超硬合金等を挙げることができる。なお、アーム部131と当接部132とを別部材で形成した後にこれらを相互に取り付けることにより、ホーン13を形成してもよい。
【0014】
アンビル(anvil)14は、第1の被接合材W1が載置される受け金具であり、当該第1の被接合材W1の上側に第2の被接合材W2がさらに載置される。このアンビル14は、第1及び第2の被接合材W1、W2をホーン13の当接部132との間で挟んだ状態で、ホーン13から伝わる超音波振動及び押圧力を受け止める。
【0015】
発振器15は、電源12の電力を用いて図1Aの水平方向の往復運動である超音波振動を発生させる装置であり、例えば、圧電素子から構成される振動子を有する。この発振器15は、接合制御装置2の制御部22からの指令を受けて、当該振動子に対して所定の周波数の電圧を印加することにより振動子を振動させ、振幅2〜3μmの超音波振動を発生する。
【0016】
ブースター16は、発振器15が生成した超音波振動を増幅させる増幅装置であり、図1Aの右端は発振器15に繋がれていると共に、図1Aの左端はホーン13のアーム部131に繋がれている。このブースター16により、発振器15から伝わる振幅2〜3μmの超音波振動は、振幅20〜30μmの振動幅の超音波振動に増幅される。このブースター16によって増幅された超音波振動は、ホーン13を介して第1及び第2の被接合材W1、W2に伝播される。
【0017】
押圧器17は、第1及び第2の被接合材W1、W2に対してホーン13を押し付ける際の押圧力を発生する装置であり、図1B図1Dに示すように押圧力を計測するロードセル171を有し、例えば、エアシリンダや油圧シリンダ等から構成されている。本実施形態の発振器15、ブースター16及びホーン13は、超音波接合装置1の基台1aに対して上下移動が可能に設けられている。押圧器17の本体は基台1aに設けられ、当該押圧器17の駆動部は、ブースター16の上部に設けられている。そして、超音波接合を開始する際には、押圧器17の駆動部が前進することで発生した押圧力が、ブースター16及びホーン13を介して第1及び第2の被接合材W1、W2に伝達される。また超音波接合を終了すると押圧器17の駆動部が後退することでホーン13が第1及び第2の被接合材W1、W2から離れることになる。
【0018】
また、本実施形態の超音波接合装置1には、図1Aに示すように、エンコーダー18が基台1aと、発振器15、ブースター16及びホーン13の何れかとの間に設けられている。このエンコーダー18は、押圧器17が発生した押圧力によって、ホーン13の当接部132が第1及び第2の被接合材W1、W2に対して所定の基準位置からの沈み込んだ量(深さ)を検出する装置である。このエンコーダー18による検出結果は、接合制御装置2の制御部22に読み込まれる。
【0019】
本実施形態の接合制御装置2は、超音波接合装置1を制御するための装置であり、入力部21と、制御部22と、を備える。
【0020】
入力部21は、制御部22に対して超音波接合装置1の制御に必要となる情報を入力する装置であり、例えば、キーボードやタッチパネル、マウス等のポインティングデバイスから構成される。
【0021】
制御部22は、入力部21に入力された情報に基づいて超音波接合装置1を制御する機能を有し、例えば、RAM、ROM、CPU等を備えたコンピュータから構成される。また、制御部22は、超音波接合開始時からの超音波接合装置1における電源12の消費電力に基づいて、発振器15の振動エネルギー値を算出する機能を有する。この制御部22は、発振器15の振動エネルギー値、入力部21に入力された情報およびエンコーダー18が検出したホーン13の沈み込み量に基づいて、超音波接合装置1の制御を行う。
【0022】
次に、本実施形態の接合制御装置2が実行する超音波接合装置1の制御手順について説明する。図2は、本実施形態の超音波接合装置1の接合制御装置2が実行する制御手順を示すフローチャートであり、このルーチンはたとえば数msec間隔で実行される。また、図1B図1Dは、超音波接合装置1の動作を示す図、図3図5は本実施形態の超音波接合装置1の接合制御装置2が実行する制御例を説明するためのグラフである。
【0023】
まず、ステップS01では、入力部21から、第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量の設定値と、発振器15の振動エネルギー値の設定値が入力される。具体的には、ホーン13の沈み込み量の第1の沈み込み閾値Cth1と、当該第1の沈み込み閾値よりも低い第2の沈み込み閾値Cth2と、が設定されると共に、発振器15の振動エネルギーの閾値Vthが設定される。
【0024】
ここで、本発明に係る接合制御装置2でいう沈み込み量(Collapse)とは、ホーン13の当接部132及びアンビル14の当接部がそれぞれ被接合材W1,W2に入り込んだ量の総和(沈み込んだ総量)と定義するものとし、エンコーダー18により検出される値から求められる。すなわち、ホーン13の当接部132が第2の被接合材W2に接触した位置を基準とし、ここからホーン13の当接部132及びアンビル14の当接部が被接合材W1,W2にそれぞれ入り込んだ(沈み込んだ)長さの合計長さと定義する。尤も、この沈み込み量は、被接合材W1,W2側に形成された圧痕の深さに相関するが、この圧痕の深さはホーン13の当接部132の摩耗状態等に影響され、また超音波接合中に圧痕の深さを検出するのは実際的に困難だからである。
【0025】
第1の沈み込み閾値Cth1とは、第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量が当該閾値Cth1以上である場合には、第1の被接合材W1と第2の被接合材W2との接合強度や外観品質の規格値の中央値となる沈み込み閾値である。図6は、本実施形態の超音波接合装置1を用いて、沈み込み量をCmm〜Cmmの間で変化させた場合の被接合材W1,W2の接合強度を測定した結果を示すグラフ(各沈み込み量について水準n10)である。この場合の接合強度の規格値はSNであり、この規格値を満たす沈み込み量の下限値はCminmmとなる。ただし、沈み込み量がCmaxmmを超えたサンプルについては圧痕の外観不良が発生したため、Cmaxmmが規格値の上限値となる。したがって、図示する結果における第1の沈み込み量Cth1は、下限値Cminmmと上限値Cmaxmmの中央値、すなわち(Cmax+Cmin)/2mmとなる。
【0026】
なお、第1の沈み込み閾値Cth1は、上述した中央値を用いて求める以外にも、標準偏差のたとえばシックスシグマ6σを用いて求めてもよい。図7は、本実施形態の超音波接合装置1を用いて、沈み込み量をCmm〜Cmmの間で変化させた場合の被接合材W1,W2の接合強度を測定した結果を示すグラフである。この場合には、まず最初に沈み込み量をCmm〜Cmmの間で水準nとして接合強度を求め、得られた沈み込み量と接合強度との関係より、接合強度の平均値μと標準偏差σを用いたμ−6σの値が、図示するように接合強度の規格値SNよりも大きくなりそうな沈み込み量を選定する。そして、これら選定された沈み込み量については水準nを増加させて接合強度を求め、最終的にμ−6σが、接合強度の規格値であるSNを満足する沈み込み量を第1の沈み込み閾値Cth1とする。図示する例では、図示する第1の沈み込み閾値Cth1となる。なお、第1の沈み込み閾値Cth1の左側3つの沈み込み量については増加させた水準の全てのプロットを省略してあり、これらについてはSN以上を満足していない。
【0027】
これに対し、第2の沈み込み閾値Cth2とは、第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量が第1の沈み込み閾値Cth1未満であった場合であっても、発振器15が所定量の振動エネルギーを被接合材W1、W2に与えること前提条件として、第1の被接合材W1と第2の被接合材W2との接合強度が、例えば規格値の下限値となる沈み込み閾値である。なお、このときの前提条件となる発振器15の振動エネルギーが、振動エネルギー閾値Vthとして設定される。これらの各閾値(第1の沈み込み閾値Cth1、第2の沈み込み閾値Cth2、及び振動エネルギー閾値Vth)は、例えば、接合させる被接合材W1、W2の種類や厚さ、発振器15が発生する超音波振動の振動数、ブースター16による超音波振動の増幅率、押圧器17による押圧力等に応じて適宜設定される。
【0028】
次いで、ステップS02では、ステップS01において入力された情報に基づいて、超音波接合装置1の電源12をON状態にすると共に、発振器15及び押圧器17を作動させる。具体的には、発振器15が生成した超音波振動はブースター16によって増幅され、増幅された超音波振動はホーン13へと伝播される。そして、押圧器17は、図1Bに示すように、発振器15、ブースター16及びホーン13を下降させ、ホーン13に図1Aの下向きの押圧力を印加する。これにより、図1Cに示すように、ホーン13の当接部132が第2の被接合材W2の上面に当接し、ホーン13とアンビル14との間に挟まれた第1及び第2の被接合材W1、W2は、水平方向に超音波振動が伝播されつつ下方向に押圧される。
【0029】
この際、エンコーダー18は、押圧器17により印加される押圧力によって、第1及び第2の被接合材W1、W2に対してホーン13の当接部132が沈み込む沈み込み量を経時測定し、接合制御装置2の制御部22は当該測定の結果を読み込む。また、制御部22は、発振器15において超音波振動の発生のために消費された電源12の電力に関する情報も同時に読み込む(ステップS03)。
【0030】
次いで、ステップS04では、制御部22は、エンコーダー18が測定したホーン13の沈み込み量が、ステップS01で設定された第1の沈み込み閾値Cth1に達したか否かを判定する。第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量が第1の沈み込み閾値Cth1以上になった場合には(ステップS04においてYES)、制御部22は、第1の被接合材W1と第2の被接合材W2との超音波接合は正常に行われたと判断し、超音波接合装置1に対して超音波接合の停止信号を送出し、接合制御装置2の制御を終了する(第1の制御例、図3参照)。超音波振動の停止信号を受け取った超音波接合装置1は、例えば、発振器15への電源12の電力の供給を停止させると共に、押圧器17による押圧力の発生を停止させる(図1D参照)。
【0031】
以上のように、ステップS04において第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量が、第1の沈み込み閾値Cth1に達している場合には、例えば図3に示すように、超音波接合の開始時から徐々にホーン13の沈み込み量及び発振器15の振動エネルギーが上昇している状態となっている。この場合には、第1及び第2の被接合材W1、W2の接合部は、十分な接合強度(例えば規格値の中央値又はシックスシグマ値)で接合される。
【0032】
ステップS04において、第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量が、第1の沈み込み閾値Cth1未満である場合には(ステップS04においてNO)、ステップS06へと進む。ステップS06では、超音波接合動作(超音波振動の伝播及び押圧力の印加)をさらに継続する。
【0033】
続いて、エンコーダー18は、押圧器17により印加される押圧力によって、第1及び第2の被接合材W1、W2に対してホーン13の当接部132が沈み込む沈み込み量を経時測定し、接合制御装置2の制御部22は、当該測定の結果を読み込む。また、制御部22は、発振器15において超音波振動の発生のために消費された電源12の電力に関する情報も同時に読み込む(ステップS07)。
【0034】
次いで、ステップS08では、まず、発振器15において消費された電源12の電力に関する情報に基づいて発振器15の振動エネルギーを算出する。そして、制御部22は、発振器15の振動エネルギーがステップS01において設定された振動エネルギー閾値Vth以上となっているか否かを判定する。発振器15の振動エネルギーが振動エネルギー閾値Vth以上になった場合には(ステップS08においてYES)、ステップS09へ進む。発振器15の振動エネルギーが振動エネルギー閾値Vth未満である場合には(ステップS08においてNO)、ステップS06へと戻り、超音波接合動作をさらに継続する。そして、発振器15の振動エネルギーが振動エネルギー閾値Vth以上となった場合には(ステップS08においてYES)、ステップS09へと進む。
【0035】
ステップS09では、制御部22は、第1及び第2の被接合材W1、W1に対するホーン13の沈み込み量が、ステップS01で設定された第2の沈み込み閾値以上であるか否かを判定する。当該沈み込み量が、第2の沈み込み閾値Cth2以上である場合には(ステップS09においてYES)、ステップS05へと進み、超音波接合装置1に対して超音波接合の停止信号を送出して制御を終了する(第2の制御例、図4参照)。そして、超音波振動の停止信号を受け取った超音波接合装置1は、例えば、発振器15への電源12の電力の供給を停止させると共に、押圧器17による押圧力の発生を停止させる。
【0036】
第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量が、第1の沈み込み閾値Cth1未満ではあるが第2の沈み込み閾値Cth2以上である場合には(ステップS09においてYES)、図4に示すように、超音波接合の開始時から徐々にホーン13の沈み込み量及び発振器15の振動エネルギーが上昇し、振動エネルギーが振動エネルギー閾値Vthに達すると共に、沈み込み量が第2の閾値Cth2以上かつ第1の閾値Cth1未満の状態となっている。例えば、第1の被接合材W1と第2の被接合材W2との間に、厚さ1μm以下の微小な異物が混入した場合には、ホーン13の沈み込み量は多少減少し、当該沈み込み量は第2の閾値Cth2以上かつ第1の閾値Cth1未満の状態となるものの、継続される超音波振動の伝播によって当該異物は徐々に除去されるため、結果として規格値内の接合強度を得ることができる。
【0037】
一方、ステップS09において、第1及び第2の被接合材W1、W1に対するホーン13の沈み込み量が、第2の沈み込み閾値Cth2未満であった場合には(ステップS09においてNO)、ステップS10へと進む。
【0038】
ステップS10では、制御部22は、第1の被接合材W1と第2の被接合材W2との超音波接合は正常に行われていないと判断する。この場合には、図5に示すように、発振器15の振動エネルギーが上昇して振動エネルギー閾値Vthに達する一方、ホーン13の沈み込み量は超音波接合の開始時から徐々に上昇するものの、当該沈み込み量が第2の閾値Cth2を越えず、上述した第1の制御例(図3参照)に比べて沈み込み量は大幅に減少した状態となる。例えば、第1の被接合材W1と第2の被接合材W2との間に、厚さ数百μm程度の異物(フィルム等)が混入した場合には、ホーン13の沈み込み量は大幅に減少し、適切な接合強度を得ることができない。
【0039】
この場合には、超音波接合装置1に対して超音波接合の停止信号を送出すると共に、超音波接合が適切に行われていない旨の信号も超音波接合装置1に対して送出し、制御を終了する(第3の制御例、図5参照)。超音波振動の停止信号を受け取った超音波接合装置1は、例えば、発振器15への電源12の電力の供給を停止させると共に、押圧器17による押圧力の発生を停止させる。また、超音波接合装置1は、超音波接合が適切に行われていない旨の信号を接合制御装置2から受けて、操作者に対しアラーム等の警告を行う。
【0040】
以上のとおり、本実施形態の超音波接合装置1の接合制御装置2によれば以下の作用効果を奏する。
【0041】
超音波接合装置1を用いて被接合材W1,W2を超音波接合する際に、当該被接合材W1,W2に油脂等が付着していた場合には、当該油脂等の存在によって超音波振動が被接合材W1,W2に対して伝播され難くなる。しかし、被接合材W1,W2に付着した油脂等が微量である場合には、超音波振動を当該被接合材W1,W2に与え続けることによって徐々に当該超音波振動が被接合材W1,W2に伝播され、被接合材W1,W2の適切な超音波接合ができることになる。従来、超音波接合を開始してから一定時間後に超音波接合の良否を判断するので、被接合材W1,W2に付着した油脂等の量が、適切な超音波接合を行い得る量であっても、当該一定時間後の良否判断において超音波接合体が不良品扱いとなる場合がある。
【0042】
これに対し、本実施形態における超音波接合装置1の接合制御装置2では、まず、第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量のみに基づいて超音波接合の良否判断を行う。これにより、被接合材W1、W2に付着した油脂が、適正な接合強度となる超音波接合を行い得る量であるにも関わらず、超音波接合体が不良品判定となることを防ぐことができるため、得られる超音波接合体の歩留まりを向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態では、第1及び第2の被接合材W1、W2の間に微小な異物が混入したことによりホーン13の沈み込み量が第1の沈み込み閾値Cth1に達しない場合においても、当該沈み込み量が予め設定した第2の沈み込み閾値Cth2以上となり、且つ、発振器15の振動エネルギーが振動エネルギー閾値Vth以上である場合には、超音波接合体を良品として判定する。このため、良品である超音波接合体を不良品と誤判定することを回避でき、得られる超音波接合体の歩留まりをさらに向上させることができる。
【0044】
また、第1及び第2の被接合材W1、W2に対するホーン13の沈み込み量が第1の沈み込み閾値Cth1に達しない場合において、当該沈み込み量が予め設定した第2の沈み込み閾値Cth2以上とならず、且つ、発振器15の振動エネルギーが振動エネルギー閾値Vth以上である場合には、制御部22は、超音波接合体は不良であると判定する。このため、発振器15の振動エネルギーがホーン13に与えられ続けることによる当該ホーン13の損傷を抑制し、超音波接合体の生産性向上を図ることができる。
【0045】
ところで、上述した第1の沈み込み閾値Cth1を設定するにあたり、図6に示すように接合強度の規格値を満足する沈み込み量の下限値と上限値の中央値を当該第1の沈み込み閾値Cth1とするほか、図7に示すように、シックスシグマμ−6σが、接合強度の規格値の下限値を満足する沈み込み量Cth1を第1の沈み込み閾値としてもよい。図6及び図7に示す被接合材W1,W2の材質が異なることから、結果的に図7に示す第1の沈み込み閾値Cth1の方が大きくなっているが、図7に示す第1の沈み込み閾値Cth1の方が、図6に示す中央値に比べて、接合強度の規格値の下限に近づいた第1の沈み込み閾値Cth1となる。
【0046】
ここで、被接合材W1,W2が、銅などのように比較的硬い材料である場合に、超音波接合において被接合材W1,W2がアルミニウムの場合よりも長い時間(多いエネルギー)を必要とする。したがって、ホーン13の温度上昇幅が比較的大きく、繰り返しの超音波接合によりホーン13に熱が蓄積し、一定接合条件で接合した場合においてこのホーン13の温度上昇にともなって接合品質の不良が発生し易くなる。このため、図7に示すように、第1の沈み込み閾値を接合強度の規格値の下限値を満たす最小値又はこれに近似する値(換言すれば、規格値の範囲内で、より下限値に近い値)に設定することで、ホーン13の温度上昇にともなう接合品質の不良の発生を抑制しつつ、異物混入にともなう接合不良の判定精度を、ある程度確保することができる。図6に示すように規格値の範囲の中央値まで接合を行う場合と比較すれば、接合時間が短くなり、ホーン13を延命させることができる。
【0047】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0048】
例えば、上述の実施形態では、適正な超音波接合が行われなかった場合にのみ、超音波接合装置1に対して接合制御装置2が、停止信号及び異常終了信号を出力することとしているが、特にこれに限定されない。例えば、適正な超音波接合が行われた場合にのみ、超音波接合装置1に対して接合制御装置2が停止信号及び正常終了信号を出力することとしてもよい。また、適正な超音波接合が行われた場合には、超音波接合装置1に対して接合制御装置2が停止信号及び正常終了信号を出力すると共に、適正な超音波接合が行われなかった場合には、超音波接合装置1に対して接合制御装置2が停止信号及び異常終了信号を出力することとしてもよい。
【0049】
上記エンコーダー18が、本発明に係る沈み込み量検出手段に相当し、上記接合制御装置2が本発明に係る制御手段に相当し、上記接合制御装置2及びエンコーダー18が本発明に係る制御装置に相当し、上記制御部22が本発明に係る振動エネルギー検出手段に相当し、ホーン13、ブースター16、発振器15及び電源12が本発明に係る発振装置に相当する。
【符号の説明】
【0050】
1・・・超音波接合装置
1a・・・基台
12・・・電源
13・・・ホーン
131・・・アーム部
132・・・当接部
14・・・アンビル
15・・・発振器
16・・・ブースター
17・・・押圧器
18・・・エンコーダー
2・・・接合制御装置
21・・・入力部
22・・・制御部
W1・・・第1の被接合材
W2・・・第2の被接合材
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7