特許第6572518号(P6572518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6572518-回転機器の回転軸貫通部の水密構造 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572518
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】回転機器の回転軸貫通部の水密構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/46 20060101AFI20190902BHJP
   H02K 5/10 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   F16J15/46
   H02K5/10 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-42288(P2014-42288)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-169217(P2015-169217A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】須川 剛
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−101366(JP,A)
【文献】 特開平07−158748(JP,A)
【文献】 特開2000−130605(JP,A)
【文献】 実開昭57−000167(JP,U)
【文献】 特開2006−174581(JP,A)
【文献】 実開昭47−022341(JP,U)
【文献】 特開2003−120571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16 −15/32
F16J 15/324−15/3296
F16J 15/46 −15/53
H02K 5/00 − 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に浸からないで使用される回転機器の機器ハウジングに設けた回転軸貫通部から突出した回転軸の一端部付近の当該回転軸の軸受けの外側にて当該機器ハウジングに着脱自在に配置された状態で当該回転軸貫通部の内周面と当該回転軸の外周面の間をシールするシール構造を有し、
前記シール構造は、前記回転機器が水没時や冠水の恐れのある緊急時においてのみ前記回転軸の外周面に接触して回転軸と機器ハウジングの間をシールする防水シールを有し、
前記防水シールは、
前記緊急時にエアーの注入により膨張して内周面が前記回転軸の外周面に接触するエアーチューブと、
このエアーチューブを収納するリング状のエアーチューブホルダと
を備え、
前記エアーチューブホルダは、前記機器ハウジングの側面に着脱自在に取り付けられること
を特徴とする回転機器の回転軸貫通部の水密構造。
【請求項2】
前記防水シールは、前記エアーチューブにエアーを供給するエアーボンベを備えたことを特徴とする請求項1に記載の回転機器の回転軸貫通部の水密構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の回転機器の回転軸貫通部の水密構造(軸シール構造)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4図5に示すように、モータ等の回転機器においては、機器ハウジング(筐体)101に設けた回転軸貫通部102から回転軸103の一端部を突出させている。
【0003】
回転軸貫通部102から回転軸103の一端部を突出させると、回転軸貫通部102の内周面と回転軸103の外周面の間には不可避的に隙間が発生し、該隙間から機外の雨水等が機器ハウジング101内に浸入する。
【0004】
回転機器の種類によっては、前記隙間から雨水等が機器ハウジング101内に浸入するのを許容する形式の回転機器も存在するが、一般的には、回転軸貫通部102の内周面と回転軸103の外周面の間に、防水シール104を設け、雨水等の浸入を阻止している。
【0005】
防水シール104としては、図4に示すように、円筒状の基部104aと、該基部104aの内周に形成されたフランジ状のリップ部(舌片部)104bと、によりリング状に形成されたもの(以下、リップ状シールと称する)が知られている。
【0006】
前記リップ状シール104は、ゴム等の柔軟性を有する素材で形成されている。そして、基部104aが機器ハウジング101に取り付けられ、リップ部104bの先端部が回転軸103の外周面に接触している。(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0007】
前記リップ部104bは、撓み易く、外部からの圧力により容易に変形してシール効果を喪失する恐れがある。このため、例えば、水没や浸水する恐れのある場所等に使用する回転機器に、前記リップ状シール104を使用する場合には、機器ハウジング101内部への雨水等が浸入する恐れがある。
【0008】
そこで、雨水等の浸入の恐れを無くすために、前記リップ状シール104に代えて、或いはリップ状シール104の外側に更に、図5に示すように、断面が四角形のグランドパッキン105を配置した回転機器が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−174581号公報(段落0003、図3参照)
【特許文献2】特開2006−187076号公報(段落0004、図3参照)
【特許文献3】特開2003−120571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、図5に示した従来の回転機器は、断面が四角形のグランドパッキン105を使用するので、外部からの圧力によっても容易に変形することが抑制され、シール効果を維持するという利点がある反面、以下に述べるような課題があった。
(1)グランドパッキン105は、内周面の全域が回転軸103の外周面に接触し、両者間の摩擦が大となり、そのぶんモータのエネルギーロスは大となる。
(2)回転軸103を高速で回転させると、回転軸103とグランドパッキン105の間で大きな摩擦熱が発生する。このため、グランドパッキン105は、高速の回転機器には不向きであり、専ら低速機に使用される。
(3)グランドパッキン105への定期的な潤滑剤の塗布や、グランドパッキン105の交換が必要である。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決した回転機器の水密構造を提供することを目的に成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、回転機器の回転軸貫通部の水密構造であって、水に浸からないで使用される回転機器の機器ハウジングに設けた回転軸貫通部から突出した回転軸の一端部付近の当該回転軸の軸受けの外側にて当該機器ハウジングに着脱自在に配置された状態で当該回転軸貫通部の内周面と当該回転軸の外周面の間をシールするシール構造を有し、前記シール構造は、前記回転機器が水没時や冠水の恐れのある緊急時においてのみ前記回転軸の外周面に接触して回転軸と機器ハウジングの間をシールする防水シールを有し、前記防水シールは、前記緊急時にエアーの注入により膨張して内周面が前記回転軸の外周面に接触するエアーチューブと、このエアーチューブを収納するリング状のエアーチューブホルダとを備え、前記エアーチューブホルダは、前記機器ハウジングの側面に着脱自在に取り付けられることを特徴とする。
【0015】
請求項の発明は、請求項1の水密構造において、前記防水シールは、前記エアーチューブにエアーを供給するエアーボンベを備えことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
(1)請求項1の回転機器の回転軸貫通部の水密構造は、水に浸からない使用される回転機器が水没時や冠水の恐れのある緊急時において、防水シールが回転軸の外周面に接触して、回転軸貫通部の内周面との間をシールし、水没時や冠水の恐れのない非緊急時においては、防水シールを回転軸に対して非接触状態にして、防水シールの磨耗や、エネルギーロスを抑制する。
また、前記水密構造は、前記緊急時に、防水シールのエアーチューブにエアーを注入してエアーチューブの内周面を回転軸の外周面に圧着させて防水効果を確実なものにする。
さらに、前記水密構造は、エアーチューブをエアーチューブホルダ内に収容して保護する。そして、エアーを注入すると膨張して、エアーチューブの内周面がエアーチューブホルダから突出して回転軸の外周面に接触して回転軸貫通部の内周面と回転軸の外周面の間をシールする。
)請求項2の水密構造は、請求項1の水密構造において、前記防水シールはエアーボンベを備えているので、サプライバルブとリリーフバルブの開閉により簡単、容易にエアーチューブへのエアーの供給と、エアーチューブからのエアーの排出を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のモータの使用例を示す説明図。
図2】モータの回転軸貫通部の断面図(第2防水シール不使用状態)。
図3】モータの回転軸貫通部の断面図(第2防水シール使用状態)。
図4】従来例の断面図。
図5】他の従来例の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の水密構造を施したモータを使用した下水道のポンプ施設1の概略を示す説明図である。ポンプ施設1は、流水渠2から流入してきた下水を沈砂池3に導入し、小石や砂等を除去した後に、ポンプ井4、流出渠5を介して分水槽6に供給する。7は流水渠2と沈砂池3の間に配置されたゲート、8は沈砂池3とポンプ井4の間に配置されたスクリーン、9はポンプ井4に配置されたポンプ、10はポンプ9と流出渠5の間に配置されたバルブ、11はポンプ9を駆動するモータ、1Aはポンプ施設1の建屋である。
【0019】
前記建屋1Aの地下部分に前記流水渠2、沈砂池3、ポンプ井4が配置され、地下2階B2Fにはポンプ9が配置され、地下1階B1Fにはモータ11が配置されている。
【0020】
モータ11をポンプ9よりも上方の地下1階B1Fに配置したのは洪水等が発生した場合でもモータ11の冠水を避けるためであるが、モータ11のエネルギー効率を考慮するとモータ11はできるだけポンプ9に近づけて配置するのが望ましい。しかし、モータ11をポンプ8に近づけると、洪水等の際にモータ11が冠水して、回転軸貫通部等からモータ11内部に水が浸入する恐れがあり、あまり近づけることができない。
【0021】
そこで、従来は、水の浸入対策として図5に示したように、断面が四角形のグランドパッキン105を使用することにより水密効果(シール効果)を向上させての浸入を防止していたが、これには前述したように、回転軸とグランドパッキンの間で大きな摩擦が発生し、高速の回転機器には不向きであり、低速機にしか適用できないという問題点があった。
【0022】
本願発明の回転機器の回転軸貫通部の水密構造は、図2図3に示すように、水没や冠水等の恐れのある緊急時においてモータ11の回転軸14の外周面に接触して機器ハウジング(筐体)12の回転軸貫通部13の内周面と、回転軸14の外周面の間をシールする緊急時用の防水シール15を備えている。
【0023】
緊急時用の防水シール15は、エアーの注入により膨張するエアーチューブ15aと、該エアーチューブ15aを保持するエアーチューブホルダ15bと、を備えている。防水シール15は、ユニット化されていて、機器ハウジング12の外側面に着脱可能に取り付けられる。
【0024】
エアーチューブ15aは、ゴムや合成樹脂等の弾性材により中空のリング状に形成されていて、エアーを注入する前は、図2に示すように、内周面は、回転軸の外周面と非接触状態に保たれ、エアーを注入すると、図3に示すように、膨張して内周面が回転軸14の外周面と接触して、回転軸貫通部13の内周面と回転軸14の外周面の間をシールする。
【0025】
前記エアーチューブホルダ15bは、金属等の硬質材によりリング状に形成されていて、機器ハウジング12の側面にネジ16により着脱自在に取り付けられている。
【0026】
エアーチューブホルダ15bは、機器ハウジング12の外側面との間でリング状の凹部17を形成し、該凹部17内にエアーチューブ15aを収納保持している。
【0027】
防水シール15は、エアーチューブ15aにエアー(圧縮空気)を供給するエアーボンベ(圧縮空気ボンベ)18を備えている。エアーボンベ18のエアーは、サプライバルブ19を介してエアーチューブ15aに供給される。また、エアーチューブ15a内のエアーは、リリーフバルブ20を介して外部に排出される。
【0028】
21は回転軸受け、22は緊急時用の防水シール15の内側に配置された非緊急時用の防水シールである。非緊急時用の防水シール22は、円筒状の基部22aと、該基部22aの内周に形成されたリップ部(舌片部)22bと、からなり、ゴム等の柔軟性を有する素材でリング状に形成されている。そして、基部22aが機器ハウジング12に取り付けられ、リップ部22bの先端部が回転軸14の外周面に接触している。非緊急時用の防水シール22は、非緊急時においても常時、回転軸14の周面に接触している。なお、図1において、23は建屋1Aを保護するため地上GLに設けられた防護壁である。建屋1A内には、サプライバルブ19やリリーフバルブ20等の制御を行なう制御盤(図示省略)が設けられている。
【0029】
次に、実施例のモータの回転軸貫通部の水密構造の作用について説明する。
モータが冠水等の恐れのない場合には、緊急時用の防水シール15のエアーチューブ15aからエアーを抜いて、エアーチューブ15aの内周面を回転軸14の外周面と非接触状態にして、非緊急時用の防水シール22のみで回転軸貫通部13をシールする。
【0030】
水没や冠水等の恐れが生じた場合には、エアーボンベ18のエアーを、サプライバルブ19を介してエアーチューブ15aに供給し、エアーチューブ15aを膨張させ、その空気圧でエアーチューブ15aの内周面を、回転軸14の外周面に圧着させる。
【0031】
冠水等の恐れが無くなった場合には、エアーチューブ15aのエアーを、リリーフバルブ20を介して外部に排出して、エアーチューブ15aを収縮させて、エアーチューブ15aの内周面と、回転軸14の外周面を非接触状態して、再び非緊急時用の防水シール22のみで回転軸貫通部13をシールする。なお、前記実施形態においては、非緊急時用の防水シール22を設けた場合を示したが、非緊急時用の防水シール22は、必ずしも設ける必要はない。
【0032】
実施例のモータの回転軸貫通部の水密構造は上述のような構成であって次に述べるような効果がある。
(1)柔軟性を有するエアーチューブ15aにエアーを注入して、空気圧により、エアーチューブ15aの内周面を、回転軸14の外周面に押し付ける構成にしたので、エアーチューブ15aの内周面は、回転軸14の外周面に沿って変形、密着して、シール効果を確実なものにする。
(2)緊急時用の防水シール15のエアーチューブ15aは、水没や冠水等の恐れの無い緊急時以外は、回転軸14の外周面に対して非接触状態に保つことができるので、エアーチューブ15aの内周面と回転軸14の外周面の摩擦による発熱やエネルギーロスを抑制することができ、高速の回転機器にも適用が可能になる。
(3)緊急時用の防水シール15をユニット化したので、既存機にも適用が容易である。
(4)外部電源を必要としないため、災害時等の電源供給が断たれた場合でも作動させることができる。また、リリーフバルブ20を開放することにより即座にエアーチューブ15aを回転軸14の外周面に対して非接触状態にして、モータ11の運転を再開することができる。
(5)緊急時用の防水シール15のエアーチューブ15aは、従来のグランドパッキン105のように常時、回転軸14の外周面に接触していないので給油等を頻繁に行なう必要がなくメンテナンスが容易になる。
【0033】
なお、実施例では、回転電機としてモータの場合を示したが、モータに限定されるものではなく、ジェネレータや本発明の適用される回転電機は、ジェネレータやその他の回転電機にも適用される。
【符号の説明】
【0034】
11…モータ
12…機器ハウジング
13…回転軸貫通部
14…回転軸
15…緊急時用の防水シール
15a…リング状のエアーチューブ
15b…チューブホルダ
16…ネジ
17…凹部
18…圧縮ガスボンベ
19…サプライバルブ
20…リリーフバルブ
図1
図2
図3
図4
図5