特許第6572541号(P6572541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572541
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/08 20060101AFI20190902BHJP
   H01F 27/38 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   H01F38/08 F
   H01F38/08 C
   H01F27/38
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-2970(P2015-2970)
(22)【出願日】2015年1月9日
(65)【公開番号】特開2016-129174(P2016-129174A)
(43)【公開日】2016年7月14日
【審査請求日】2017年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144544
【氏名又は名称】レシップホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147625
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 高志
(72)【発明者】
【氏名】五十川 大舗
(72)【発明者】
【氏名】河合 惇
【審査官】 田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−107030(JP,A)
【文献】 実開平02−022031(JP,U)
【文献】 国際公開第93/014508(WO,A1)
【文献】 特開平8−213263(JP,A)
【文献】 実開昭60−192427(JP,U)
【文献】 特開昭62−119904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F38/08
H01F27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
櫛歯状に同方向に延びる複数の脚部およびこれら複数の脚部の先端を閉じる継鉄部を有する鉄心と、
前記複数の脚部のそれぞれの基端側に挿通される複数の第一ボビンおよびこれらの第一ボビンに巻回される第一巻線を有する第一巻線部と、
前記複数の脚部のそれぞれの先端側に挿通される複数の第二ボビンおよびこれらの第二ボビンに巻回される第二巻線を有する第二巻線部と、
前記第一巻線部と前記第二巻線部の間に介在しかつ前記第一ボビンと前記第二ボビンの間に前記第一巻線部および前記第二巻線部の巻回径方向から挿入されて前記複数の脚部のうちの隣り合う脚部の間に漏れ磁束が流れる漏洩磁路を形成する漏洩鉄心と、を備え、
前記第一ボビンおよび前記第二ボビンの少なくとも一方には、前記漏洩鉄心の挿入深さの位置を決める段差部が形成されていることを特徴とする変圧器。
【請求項2】
前記段差部が形成されている前記第一ボビンおよび/または前記第二ボビンには、前記漏洩鉄心の挿入深さ方向に直交する方向の位置を案内するガイド部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項3】
前記第一ボビンおよび前記第二ボビンは、同一形状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の変圧器。
【請求項4】
前記漏洩鉄心が板状である場合であって、
前記漏洩鉄心は、漏洩磁路の形成方向に拡がる面のサイズよりも大きい所定の寸法に定められた複数の絶縁板によりサンドイッチ状に挟まれており、前記絶縁板内において、前記漏洩鉄心の挿入深さ方向およびこれに直交する方向に位置決め固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の変圧器。
【請求項5】
前記変圧器が三相交流用の磁気漏れ変圧器であり、前記複数の脚部が3本である場合であって、
前記漏洩鉄心は、前記絶縁板内において、前記3本の脚部のうち真ん中の脚部側に片寄って位置していることを特徴とする請求項4に記載の変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩鉄心を備えた変圧器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
漏洩鉄心を備えた変圧器、つまり磁気漏れ変圧器は、二次側のコイル(巻線)に電流が流れると、二次側の電圧が低下して二次側に過大電流が流れないように作用する。このような変圧器は「リーケージトランス」とも呼ばれる。例えば、三相交流用の磁気漏れ変圧器に関する先行技術として、下記特許文献1に開示される「変圧器」がある。
【0003】
この技術では、U相、V相、W相の交流電圧が一次側コイルに入力されることにより発生する磁束が通る鉄心のヨークや3本のレグ(脚部)の磁路に対して、変圧作用に寄与しないコ字形状のパスコア(漏洩鉄心)を真ん中のレグを跨ぐように配置する。即ち、3本のレグに挟まれる2つの鉄心窓のそれぞれにコ字形状の突出部を差し込むようにパスコアを挿入する。これにより、両側のレグを通る磁束の一部がコ字形状のパスコアを介してバイパスされて一次側コイルに戻り得ることから、二次側コイルに発生する電流の均一化を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−8131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示される先行技術は、三相交流の各相に対して励磁される二次側コイルの電流のアンバランスを抑制して、二次側コイルに発生する電流を均一にするものである。ところが、同文献にも記載されているように、実際には、負荷の接続状態、変圧器の結線接続や変圧器の電気的特性のバラツキ等により、二次側コイルの各相の電流値が同じになることはあまりない(特許文献1の段落0013)。
【0006】
その一方で、鉄心窓に挿入されるパスコア(漏洩鉄心)は、その挿入位置や、大きさ、厚さ等が、二次側コイルの電流増加に対して出力電圧が低下する出力特性に大きな影響を与え得る。特に、鉄心窓に対する垂直方向の位置、つまりパスコアの挿入深さの位置は、パスコアの磁束の通過方向(漏洩磁路の形成方向)に拡がる面のサイズに左右され易く、出力特性に与える影響が大きい。
【0007】
このため、変圧器の電気的な仕様の違いによって、パスコアのサイズや挿入深さが変更され得る場合には、パスコアの挿入位置を適正にして出力特性の安定化を維持する方が、二次側コイルに発生する電流の均一化よりも優先される場合が少なくない。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、出力特性のバラツキを抑制し得る変圧器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の変圧器は、櫛歯状に同方向に延びる複数の脚部およびこれら複数の脚部の先端を閉じる継鉄部を有する鉄心と、前記複数の脚部のそれぞれの基端側に挿通される複数の第一ボビンおよびこれらの第一ボビンに巻回される第一巻線を有する第一巻線部と、前記複数の脚部のそれぞれの先端側に挿通される複数の第二ボビンおよびこれらの第二ボビンに巻回される第二巻線を有する第二巻線部と、前記第一巻線部と前記第二巻線部の間に介在しかつ前記第一ボビンと前記第二ボビンの間に前記第一巻線部および前記第二巻線部の巻回径方向から挿入されて前記複数の脚部のうちの隣り合う脚部の間に漏れ磁束が流れる漏洩磁路を形成する漏洩鉄心と、を備え、前記第一ボビンおよび前記第二ボビンの少なくとも一方には、前記漏洩鉄心の挿入深さの位置を決める段差部が形成されていることを技術的特徴とする。
【0010】
本発明の変圧器では、第一巻線が巻回される第一ボビンおよび第二巻線が巻回される第二ボビンの少なくとも一方には、漏洩鉄心の挿入深さを決める段差部が形成されている。これにより、例えば、変圧器の電気的な仕様の違いによって、第一ボビンと第二ボビンの間に第一巻線部および第二巻線部の巻回径方向から挿入される漏洩鉄心のサイズや挿入深さが変更され得る場合があっても、漏洩鉄心の挿入深さの位置を適正に保つことが可能になる。
【0011】
また、本発明の変圧器は、上記発明の変圧器において、前記段差部が形成されている前記第一ボビンおよび/または前記第二ボビンには、前記漏洩鉄心の挿入深さ方向に直交する方向の位置を案内するガイド部が形成されていることを技術的特徴とする。
【0012】
これにより、漏洩鉄心の挿入深さの位置に加えて、挿入深さ方向に直交する方向の位置についても漏洩鉄心の挿入位置を適正に保つことが可能になる。なお、「および/または」は、「および」と「または」のいずれか一方を選択し得る表現である。
また、本発明の変圧器は、上記各発明の変圧器において、前記第一ボビンおよび前記第二ボビンは、同一形状に形成されていることを技術的特徴とする。
これにより、形状の異なる2種類のボビン(第一ボビンおよび第二ボビン)を用意する必要がないことから、2種類のボビンを用意する場合に比べて、製造コストを削減することが可能になる。
【0013】
さらに、本発明の変圧器は、上記各発明の変圧器において、前記漏洩鉄心が板状である場合であって、前記漏洩鉄心は、漏洩磁路の形成方向に拡がる面のサイズよりも大きい所定の寸法に定められた複数の絶縁板によりサンドイッチ状に挟まれており、前記絶縁板内において、前記漏洩鉄心の挿入深さ方向およびこれに直交する方向に位置決め固定されていることを技術的特徴とする。
【0014】
これにより、漏洩鉄心の磁束の通過方向(漏洩磁路の形成方向)に拡がる面のサイズや漏洩鉄心の厚さ(高さ)が、変圧器の電気的な仕様の違いにより変わる場合があっても、漏洩鉄心をサンドイッチ状に挟み込む絶縁板のサイズは所定の寸法に定められており変動しない。そのため、このような絶縁板のサイズに合わせて、第一ボビンや第二ボビンに段部やガイド部を形成することにより、漏洩鉄心のサイズに従って様々な第一ボビンや第二ボビンを用意することなく、一種類の第一ボビンや第二ボビンで対応することが可能になる。
さらにまた、本発明の変圧器は、上記各発明の変圧器が三相交流用の磁気漏れ変圧器であり、前記複数の脚部が3本である場合であって、前記漏洩鉄心は、前記絶縁板内において、前記3本の脚部のうち真ん中の脚部側に片寄って位置していることを技術的特徴とする。
これにより、漏洩鉄心は、3本の脚部のうち真ん中の脚部に近づいた位置に配置されることから、漏洩磁路の形成を安定させることが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、漏洩鉄心の挿入位置を適正に保つことが可能になるため、変圧器の出力特性のバラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るトランスの構成を示す斜視図である。
図2】本実施形態のトランスの構成を示す平面図である。
図3】本実施形態のトランスの構成を示す正面図である。
図4】本実施形態のトランスの構成を示す回路図である。
図5図5(A)は、図3に示す5A−5A線による断面図であり、図5(B)は、図3に示す5B−5B線による断面図である。
図6図5(B)に示す断面図に相当するものであり、パスコアユニットの挿入工程を示す説明図である。
図7図7(A)は、パスコアユニットの構成を示す斜視図であり、図7(B)は、パスコアユニットの構成を示す分解図である。
図8図8(A)は、コイルボビンの構成を示す斜視図であり、図8(B)は、コイルボビンとパスコアユニットの位置関係を示す説明図である。
図9】コイルボビンの外観構成を示す図であり、図9(A)は平面図、図9(B)は左側面図、図9(C)は正面図、図9(D)は背面図、図9(E)は底面図、である。
図10図10(A)は、図9(A)に示す10A−10A線による断面図であり、図10(B)は、図9(A)に示す10B−10B線による断面図であり、図10(C)は、図9(A)に示す10C−10C線による断面図、図10(D)は、図9(A)に示す10D−10D線による断面図、図10(E)は、図9(A)に示す10E−10E線による断面図である。
図11図11(A)は、改変例のコイルボビンを使用した場合におけるトランスの構成例を示す断面図であり、図5(A)に相当するものである。図11(B)は、同トランスのEIコアのX軸方向中心からYZ平面で切断した断面図である。
図12図12(A)は、図11に示すトランスのコイルボビンの構成を示す斜視図であり、図12(B)は、コイルボビンとパスコアユニットの位置関係を示す説明図である。
図13図11に示すトランスのコイルボビンの外観構成を示す図であり、図13(A)は平面図、図13(B)は左側面図、図13(C)は正面図、図13(D)は背面図、図13(E)は底面図、である。
図14図14(A)は、図13(A)に示す14A−14A線による断面図であり、図14(B)は、図13(A)に示す14B−14B線による断面図であり、図14(C)は、図13(A)に示す14C−14C線による断面図であり、図14(D)は、図13(A)に示す14D−14D線による断面図、図14(E)は、図13(A)に示す14E−14E線による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のトランスの実施形態について図を参照して説明する。まず、本発明の実施形態に係るトランス20の構成を図1図4に基づいて説明する。図1にはトランス20の構成を示す斜視図、図2にはトランス20の構成を示す平面図、図3にはトランス20の構成を示す正面図、図4にはトランス20の構成を示す回路図、がそれぞれ図示されている。
【0018】
図1に示すように、トランス20は、主に、鉄心部21、一次巻線部23、二次巻線部25、漏洩鉄心部27により構成されている。本実施形態のトランス20は、三相交流用のリーケージトランス(磁気漏れ変圧器)である。そのため、三相交流のU相、V相、W相の各相に対応して3つの一次巻線部23と3つの二次巻線部25を備えているほかに、漏洩鉄心部27を有している。
【0019】
本実施形態では、鉄心部21は、漢字の「日」の字を横に倒して寝かしたような形状を呈するように構成されている。例えば、3本の脚部31,32,33を有するE型のコアと、これらの3本の脚部31〜33の開放側端(先端)を閉じる継鉄部34であるI型のコアと、を組み合わせることによって鉄心部21を構成している。そのため、本実施形態では、鉄心部21のことを「EIコア30」と表現する場合もあるので注意されたい。脚部31と脚部32の間には、窓部35が形成され、また脚部32と脚部33との間には、窓部36が形成されている。
【0020】
鉄心部21は、例えば、ケイ素鋼板等の電磁鋼板を複数枚積層したものである。これらの電磁鋼板は、例えば、E字形状のE型鋼板とI字形状のI型鋼板とを数枚ごとにE字形状が逆向きになるように交互に向きを変えて積層されている。なお、鉄心部21は、その積層状態を維持可能に図略のボルトとナットによって積層方向に加圧されている。
【0021】
このように構成される鉄心部21は、その脚部31〜33に一次巻線部23と二次巻線部25が巻回されている。本実施形態では、例えば、鉄心部21の上側(図1に示す座標系においてZ軸の矢印側)に一次巻線部23を配置し、鉄心部21の下側(図1に示す座標系においてZ軸の根元側)に二次巻線部25を配置している。一次巻線部23は、図2および図3に示すように、コイルボビン40に一次コイルを巻回することにより構成されており、また二次巻線部25は、図3に示すように、コイルボビン40に二次コイルを巻回することにより構成されている。
【0022】
なお、符号53a,53b,53cにより表されている端子付きの引き出し線は、一次巻線部23を構成する一次コイルに接続されている入力線を指し示している。また、符号54a,54b,54cにより表されている端子付きの引き出し線は、二次巻線部25を構成する二次コイルに接続されている出力線を指し示している。一次コイルおよび二次コイルについては、巻回された線材の表面が絶縁紙59により覆われているため、図1図3においては、符号により指し示されていないことに注意されたい。
【0023】
図2に示すように、トランス20をその上面から見ると、3つの一次巻線部23とその前後方向に配置されている入力線53a,53b、53cと出力線54a,54b,54cとの位置関係がわかる。また図3に示すように、トランス20をその正面から見ると、一次巻線部23と二次巻線部25の間に隙間SPが形成されており、この隙間SPのうちの窓部35,36の内側にパスコアユニット60が配置されていることがわかる。パスコアユニット60については、後で詳述する。なお、図2および図3においては、入力線53a,53b、53cのそれぞれに接続されている入力端子に符号57が付されており、また出力線54a,54b,54cのそれぞれに接続されている出力端子に符号58が付されている。
【0024】
このようなトランス20を回路図(結線図)により表現すると、図4に示すように表される。この図においては、U相、V相、W相の各相に対応して、コイルボビン40に巻回されて一次巻線部23を構成する3つの一次コイル51と、コイルボビン40に巻回されて二次巻線部25を構成する3つの二次コイル52とが、コイルの回路記号により表現されている。一次コイル51に3本の入力線53aが接続されているのは、入力電圧が異なる場合に電圧(例えば、200V,220V,240V)に応じた一次コイル51の巻回数に対応して適切な入力端子を選択可能にするためである。入力線53b、53cについても同様である。
【0025】
これらの一次コイル51や二次コイル52は、それぞれにおいて3つのコイルがスター接続されている。即ち、一次コイル51については、入力線53a,53b,53cが接続されていない側の端部がそれぞれ一緒に接続されており(符号55)、また二次コイル52についても、出力線54a,54b,54cが接続されていない側の端部がそれぞれ一緒に接続されている(符号56)。これらは、図2図3において、入力側結線部55と出力側結線部56として図示されている。
【0026】
なお、トランス20をその等価回路により表した場合には、図4に示す一次コイル51の入力線53a,53b,53cまたは二次コイル52の出力線54a,54b,54cに、漏洩鉄心部27(パスコアユニット60のパスコア)による漏れインダクタンス相当のチョークコイルを直列に接続されたものとして表される。
【0027】
次に、一次巻線部23と二次巻線部25の間の隙間SPに挿入されるパスコアユニット60について図5図7を参照して説明する。図5にはトランス20の断面図が図示されている。図5(A)は、図3に表す5A−5A線による断面図を示し、また図5(B)は、図3に表す5B−5B線による断面図を示す。また、図6には、パスコアユニット60の挿入工程を表す説明図として、図5(B)に示す断面図に相当するものが図示されている。図7(A)には、パスコアユニット60の構成を示す斜視図が図示されており、また図7(B)には、パスコアユニット60の構成を表す分解図が図示されている。
【0028】
図5(A)に示すように、本実施形態のトランス20では、一次巻線部23や二次巻線部25を構成するコイルボビン40に、パスコアユニット60の挿入深さの位置決めを可能にする段差部45を設けている。即ち、本実施例では、コイルボビン40の一部に肉厚部46を設けることにより形成した段差部45を、パスコアユニット60の位置合わせに使用している。ここでは、パスコアユニット60について説明をして、この段差部45については図5および図6を参照しながら後で詳述する。
【0029】
図5(B)および図7に示すように、パスコアユニット60には、漏洩鉄心部27としてのパスコア63が2枚の絶縁プレート61によりサンドイッチ状に挟み込まれている。パスコア63は、1枚のコアプレート65、または複数枚のコアプレート65を積層したものである。コアプレート65は、例えば、ケイ素鋼板等の電磁鋼板を短冊形状または矩形状に形成したものである。
【0030】
本実施形態では、コアプレート65は、その磁束の通過方向(漏洩磁路の形成方向)に拡がる面のサイズが、EIコア30の脚部31と脚部32との間、またはEIコア30の脚部32と脚部33との間、において漏洩磁束が流れる漏洩磁路を形成し得るのに必要なものに設定されている。具体的には、トランス20の電気的な仕様に従って所望の出力電圧および出力電流の各特性を得られるように、実験や計算機シミュレーションの結果に基づいてコアプレート65のサイズ(長手方向、短手方向および厚さ)や電磁鋼板の材質が定められる。
【0031】
また、必要なコアプレート65の枚数についても、実験や計算機シミュレーションの結果に基づいて、このような漏洩磁路を形成し得るのに必要な数に設定されている。コアプレート65が複数枚になる場合には、必要枚数のコアプレート65を積層してパスコア63を構成する。積層されたコアプレート65は、例えば、接着テープで結束されてブロック状に固定される。なお、一次巻線部23と二次巻線部25の間に形成される隙間SPの間隔から絶縁プレート61の2枚分の厚さを差し引いた間隔に相当する厚さまで、コアプレート65の積層が許容される。換言すると、トランス20の電気的な仕様から予定されるパスコアユニット60の最大厚さ以上に隙間SPの間隔が設定されている。
【0032】
これに対して、コアプレート65を覆う絶縁プレート61は、例えば、アラミド(全芳香族ポリアミド)ポリマーから作られた絶縁紙(アラミド絶縁紙)を平板状に積層したものであり、その平板状のサイズは、絶縁プレート61の漏洩磁路の形成方向に拡がる面のサイズよりも大きい所定のサイズに設定されている。アラミドポリマーは、高温環境下における耐久性、機械的および電気的特性に優れており、トランスのコイル表面を覆う絶縁紙59にも使用されている。本実施例では、コアプレート65の厚さは、例えば、0.5mm(ミリメートル)以上1.5mm(ミリメートル)以下の範囲に設定されている。
【0033】
このような絶縁プレート61の長手方向(または短手方向)とパスコア63の長手方向(または短手方向)を合わせて両者の長辺が一方側に揃うように位置合わせをして、2枚の絶縁プレート61でパスコア63の両面方向からサンドイッチ状に挟み込む。パスコア63のこのような位置合わせは、絶縁プレート61でサンドイッチ状に挟み込んでから行ってもよい。位置合わせが完了すると、例えば、図7(A)に示すように、2枚の絶縁プレート61の間において、パスコア63が絶縁プレート61の短手方向の片側(長辺の一方側)に片寄って配置される。パスコアユニット60では、絶縁プレート61の間で位置合わせされたパスコア63を絶縁プレート61内で固定するため、例えば、パスコア63の平面側の両面に両面テープを貼ったり接着剤や絶縁ワニス等を塗ったりして、絶縁プレート61にパスコア63を貼り付ける。
【0034】
このように構成されるパスコアユニット60を、本実施例では、一次巻線部23と二次巻線部25の隙間SP、即ち、一次コイル51用のコイルボビン40と二次コイル52用のコイルボビン40と間に挿入する。図5(A)の紙面左側(Y軸の矢印側)のパスコアユニット60は、隙間SPに挿入している途中段階のものを表しているのに対して、図5(A)の紙面右側(Y軸の根元側)のパスコアユニット60は、隙間SPへの挿入完了後のものを表している。挿入完了後のパスコアユニット60は、絶縁プレート61の挿入方向先端がコイルボビン40の段差部45に当接していることがわかる。
【0035】
また、本実施例では、EIコア30に設けられている3本の脚部31〜33のうち、真ん中の脚部32に対して、コアプレート65が最も近づくようにパスコアユニット60を位置合わせしている。即ち、パスコアユニット60においては、前述したように、パスコア63が絶縁プレート61の短手方向の片側(長辺の一方側)に片寄るように配置している。そのため、本実施例では、パスコア63の片寄った側、つまりパスコア63が近い側を脚部32の方向に向けて、パスコアユニット60を隙間SPに挿入する。これにより、3本のうちの真ん中に位置する脚部32にコアプレート65が近づくことから、漏洩磁路の形成が安定する。
【0036】
隙間SPにパスコアユニット60が挿入されてトランス20の組み付けが完了すると、トランス20の表面のほぼ全体に絶縁ワニスが塗布される。このとき、隙間SPに挿入されているパスコアユニット60の周囲にも絶縁ワニスが浸入する。これにより、絶縁ワニスの乾燥、硬化によってパスコアユニット60が隙間SP内に固定されるため、パスコアユニット60のパスコア63(漏洩鉄心部27)が適正な位置に固定される。ここで、図8を参照してコイルボビン40の構成を説明する。図8(A)には、コイルボビン40の構成を表す斜視図が図示されており、また図8(B)には、コイルボビン40とパスコアユニット60の位置関係を表す説明図が図示されている。なお、図8の両図には、上下を反対方向に向けたコイルボビン40が表されていることに注意されたい。
【0037】
図8に示すように、コイルボビン40は、脚部31〜33のいずれにも使用可能に角筒部41の開口部49の形状の一部が、脚部31〜33の断面外周形状よりも僅かに小さく設定されている。本実施例では、例えば、脚部31〜33の断面形状の長手方向に対向する開口部49の短辺の対向間隔を、脚部31〜33の同長手方向幅よりも僅かに小さく設定している。また、本実施例では、開口部49の短辺方向の内面に線条溝42を複数本(3本)形成している。これにより、このような線条溝42が形成されていない場合に比べて、脚部31〜33とコイルボビン40との隙間を確保するとともにこの隙間に浸入する絶縁ワニスによる両者の強固な固定を可能にしている。
【0038】
このような開口部49が形成される角筒部41の両端には、外側方向に拡がる上鍔部43と下鍔部44が形成されている。図8では、上下が逆転しているため、上鍔部43が紙面に下側に位置し、下鍔部44が紙面上側に位置している。上鍔部43と下鍔部44の相違は、段差部45および肉厚部46が形成されているか否かであり、両方とも一部において切欠き部44aが設けられているため、鍔部がコ字形状を成している。この切欠き部44aは、一次巻線部23の入力線53a,53b,53cや、二次巻線部25の出力線54a,54b,54cを上下方向(Z軸方向)に引き出す際に、鍔部が障害(邪魔)にならないようにするために設けられている。
【0039】
本実施例では、下鍔部44において、切欠き部44aが設けられていない下鍔部44の一部に肉厚部46を設けて、肉厚部46のうちのパスコアユニット60を配置する範囲を除くように(囲むように)段差部45を形成している。図5および図6に示すように、一次巻線部23の一次コイル51が巻回されるコイルボビン40だけが、パスコアユニット60の深さ方向(X軸方向)の位置決めに寄与している。図6(A)に示すトランス20’は、パスコアユニット60を挿入する前段階のものであり、図6(B)に示すトランス20”は、図6(A)に表す矢印方向にパスコアユニット60を挿入している途中段階のものである。これらの図から、パスコアユニット60の深さ方向(X軸方向、パスコアユニット60の長手方向)の位置が段差部45により決まることが理解できる。
【0040】
段差部45の高さ(深さ)は、例えば、パスコアユニット60を構成する絶縁プレート61の1枚分の厚さ以上2枚分の厚さ未満(例えば、1.5枚分の厚さ)に設定されている。絶縁プレート61の1枚分の厚さ未満では、パスコアユニット60の挿入方向先端が段差部45に当接し難くなる場合があり、また絶縁プレート61の2枚分の厚さ以上では、肉厚部46を形成する下鍔部44の厚さが必要以上に肉厚になり製造コストの増大に繋がり得る場合があるからである。
【0041】
本実施例において、一次巻線部23のコイルボビン40の下鍔部44に段差部45を設けて、二次巻線部25のコイルボビン40の上鍔部43には段差部45を設けていない理由は、次の2つである。
【0042】
(1)二次巻線部25の出力線54a等が引き出される側、つまり二次コイル52用のコイルボビン40に切欠き部44aが形成される側においては、上側方向(Z軸の矢印方向)に立ち上がる出力線54a等の一部がパスコアユニット60の挿入に際して障害(邪魔)になりパスコアユニット60を隙間SPに挿入できないためである。
【0043】
(2)一次巻線部23のコイルボビン40の下鍔部44の段差部45に合わせて、二次巻線部25のコイルボビン40の上鍔部43に段差部を形成する場合には、上鍔部43の切欠き部44aの付近に肉厚部46を設けることになることから、2種類のコイルボビンを用意する必要があり製造コストの増大に繋がり得るためである。
【0044】
なお、一次巻線部23と二次巻線部25の隙間SPよりも、パスコアユニット60の厚さの方が薄い(小さい)場合には、段差部45が形成されていない二次巻線部25のコイルボビン40とパスコアユニット60の間に不足する厚さ分だけ絶縁プレート61を挿入する。これにより、一次巻線部23のコイルボビン40により位置決めされたパスコアユニット60の挿入深さの位置が変動してしまうのを抑制する。
【0045】
このように構成されるコイルボビン40の全体形状は、図8(A)に示す斜視図、図9に示す平面図等および図10に示す断面図により把握することができる。なお、図8(A)は、コイルボビン40の下鍔部44を上側にして鍔部の切欠き部44aがある方向を正面にした場合における、正面右上方から見た斜視図である。
【0046】
この場合において、図9(A)はコイルボビン40の平面図、図9(B)はコイルボビン40の左側面図、図9(C)はコイルボビン40の正面図、図9(D)はコイルボビン40の背面図、図9(E)はコイルボビン40の底面図、である。また、この場合において、図8(B)は、コイルボビン40の下鍔部44に形成される段差部45にパスコアユニット60を位置合わせした状態(使用例)を示す斜視図である。図10(A)は、図9(A)に示す10A−10A線による断面図であり、図10(B)は、図9(A)に示す10B−10B線による断面図であり、図10(C)は、図9(A)に示す10C−10C線による断面図、図10(D)は、図9(A)に示す10D−10D線による断面図、図10(E)は、図9(A)に示す10E−10E線による断面図である。なお、コイルボビン40の右側面図は、その左側面図と同様に現れるので省略している。
【0047】
なお、コイルボビン40の改変例として、図12に示すようにガイド部77を設けてもよい(コイルボビン70)。即ち、コイルボビン40代えてコイルボビン70を用いたトランス120では、図11に示すように、パスコアユニット60の挿入深さ方向(X軸の根元方向)に直交する方向(Y軸方向)の位置を案内するガイド部77をコイルボビン70の開口部79の短手方向両側(長辺側)に設けている。ガイド部77が設けられる部分については、肉厚部46と同様の厚さに設定された肉厚部76が形成されている。
【0048】
これにより、段差部45によるパスコアユニット60の挿入深さの位置決めに加えて、挿入深さ方向に直交する方向の位置(Y軸方向、パスコアユニット60の短手方向)についてもパスコアユニット60の挿入位置を適正に保つことが可能になる。
【0049】
なお、図11(A)には、改変例のコイルボビン70を使用した場合のトランス120の構成を表す断面図として、図5(A)に相当するものが図示されている。また、図11(B)には、トランス120のEIコア30をそのX軸方向中心からYZ平面で切断した断面図が図示されている。
【0050】
このように構成されるコイルボビン70の全体形状は、図12(A)に示す斜視図、図13に示す平面図等および図14に示す断面図により把握することができる。なお、図12(A)は、コイルボビン70の下鍔部44を上側にして鍔部の切欠き部44aがある方向を正面にした場合における、正面右上方から見た斜視図である。
【0051】
この場合において、図13(A)はコイルボビン70の平面図、図13(B)はコイルボビン70の左側面図、図13(C)はコイルボビン70の正面図、図13(D)はコイルボビン70の背面図、図13(E)はコイルボビン70の底面図、である。また、この場合において、図12(B)は、コイルボビン70の下鍔部44に形成される段差部45およびガイド部77にパスコアユニット60を位置合わせした状態(使用例)を示す斜視図である。図14(A)は、図13(A)に示す14A−14A線による断面図であり、図14(B)は、図13(A)に示す14B−14B線による断面図であり、図14(C)は、図13(A)に示す14C−14C線による断面図、図14(D)は、図13(A)に示す14D−14D線による断面図、図14(E)は、図13(A)に示す14E−14E線による断面図である。なお、コイルボビン70の右側面図は、その左側面図と同様に現れるので省略している。
【0052】
以上説明したように本実施形態のトランス20,120では、櫛歯状に同方向に延びる複数の脚部31〜33およびこれら複数の脚部31〜33の先端を閉じる継鉄部34を有するEIコア30(鉄心部21)と、複数の脚部31〜33のそれぞれの基端側に挿通されるコイルボビン40,70およびこれらのコイルボビン40,70に巻回される一次コイル51を有する一次巻線部23と、複数の脚部31〜33のそれぞれの先端側に挿通されるコイルボビン40,70およびこれらのコイルボビン40,70に巻回される二次コイル52を有する二次巻線部25と、一次巻線部23と二次巻線部25の間に介在して複数の脚部31〜33のうちの隣り合う脚部31,32(または脚部32,33)の間に漏れ磁束が流れる漏洩磁路を形成するパスコア63と、を備えている。そして、一次コイル51用または二次コイル52用のコイルボビン40,70の少なくとも一方には、パスコア63の挿入深さの位置を決める段差部45が形成されている。これにより、例えば、トランス20の電気的な仕様の違いによって、パスコア63のサイズや挿入深さが変更され得る場合があっても、パスコア63の挿入深さの位置を適正に保つことが可能になる。したがって、トランス20,120の出力特性のバラツキを抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態のトランス20,120では、パスコア63は、所定の寸法に定められた複数の絶縁プレート61によりサンドイッチ状に挟まれており、絶縁プレート61の間において、パスコア63の挿入深さ方向およびこれに直交する方向に位置決め固定されている。これにより、パスコア63の磁束の通過方向(漏洩磁路の形成方向)に拡がる面のサイズやパスコア63の厚さ(高さ)が、トランス20の電気的な仕様の違いにより変わる場合があっても、パスコア63をサンドイッチ状に挟み込む絶縁プレート61のサイズは所定の寸法に定められており変動しない。そのため、このような絶縁プレート61のサイズに合わせて、一次コイル51用および/または二次コイル52用のコイルボビン40,70に段差部45やガイド部77を形成することにより、パスコア63のサイズに従って様々なコイルボビンを用意することなく、一種類のコイルボビン40,70で対応することが可能になる。したがって、パスコア63のサイズに従って様々なコイルボビンを用意する場合に比べて低いコストでトランス20の出力特性のバラツキを抑制することができる。
【0054】
さらに、本実施形態のトランス120では、一次コイル51用および/または二次コイル52用のコイルボビン70には、パスコア63の挿入深さ方向(X軸の根元方向)に直交する方向(Y軸方向)の位置を案内するガイド部77が形成されている。これにより、パスコア63の挿入深さの位置に加えて、挿入深さ方向(X軸の根元方向)に直交する方向(Y軸方向)の位置についてもパスコア63の挿入位置を適正に保つことが可能になる。したがって、パスコア63の挿入位置をさらに適正に保つことが可能になるため、トランス120の出力特性のバラツキをより一層抑制することができる。
【0055】
なお、上述した実施形態では、コイルボビン40、70の下鍔部44にのみ、段差部45やガイド部77を設けたが、下鍔部44と同様に、上鍔部43にも段差部45やガイド部77を設けてもよい。この場合、下鍔部44と同様に、切欠き部44aが形成されていない上鍔部43の一部に肉厚部46や肉厚部76を形成する。また、トランス20,120として、鉄心の脚部が3本の三相交流用のものを例示して説明したが、脚部の本数が複数であれば、脚部が他の構成を採る鉄心でもよい。
【0056】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、上述した具体例を様々に変形または変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。さらに、本明細書または図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つ。なお、[符号の説明]の欄における括弧内の記載は、上述した各実施形態で用いた用語と、特許請求の範囲に記載の用語との対応関係を明示するものである。
【符号の説明】
【0057】
20,120…トランス(変圧器)
21…鉄心部(鉄心)
23…一次巻線部(第一巻線部)
25…二次巻線部(第二巻線部)
27…漏洩鉄心部(漏洩鉄心)
30…EIコア(鉄心)
31〜33…脚部(複数の脚部)
34…継鉄部
35,36…窓部
40、70…コイルボビン(第一ボビン、第二ボビン)
45…段差部
51…一次コイル(第一巻線)
52…二次コイル(第二巻線)
60…パスコアユニット
61…絶縁プレート(絶縁板)
63…パスコア(漏洩鉄心)
65…コアプレート
77…ガイド部
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