特許第6572549号(P6572549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572549
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】ステータコイル製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/085 20060101AFI20190902BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   H02K15/085
   H02K15/12 E
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-20114(P2015-20114)
(22)【出願日】2015年2月4日
(65)【公開番号】特開2016-144360(P2016-144360A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年12月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 泰久
(72)【発明者】
【氏名】西村 公男
(72)【発明者】
【氏名】関川 岳
(72)【発明者】
【氏名】松下 靖志
(72)【発明者】
【氏名】澁川 紘章
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 浩司
(72)【発明者】
【氏名】呉 敏
(72)【発明者】
【氏名】大島 巧
(72)【発明者】
【氏名】堀 晃久
【審査官】 島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−095103(JP,A)
【文献】 特開2015−006034(JP,A)
【文献】 米国特許第07215059(US,B1)
【文献】 特開2003−244907(JP,A)
【文献】 特開2014−050185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/085
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のステータコアの内周に形成された複数のティースに、予めコイル状に巻かれた線材を装着するステータコイル製造装置において、
前記ティース間のスロットに前記線材を仮挿入した後、前記スロットに前記ステータコアの内周側から樹脂を注入する樹脂注入手段と、
前記スロットに相当する間隙を有し、前記線材の前記スロットへの仮挿入から前記樹脂注入手段による前記スロットへの前記樹脂の注入に至る期間に前記ティースの内周に嵌合保持され、前記樹脂注入手段による前記スロットへの前記樹脂の注入を前記間隙から行なった後に撤去される内径治具と、を備え、前記内径治具は前記樹脂注入手段による前記スロットへの前記樹脂の注入完了後に回転変位し、前記樹脂が固化するまでの期間中は前記スロットを塞ぐように構成される、ことを特徴とするステータコイル製造装置。
【請求項2】
前記ステータコアを回転させて前記線材に遠心力を及ぼす回転手段をさらに備える、ことを特徴とする請求項1のステータコイル製造装置。
【請求項3】
前記ステータコアの内周側から外周側に向けて流体を噴出する加圧機構をさらに備える、ことを特徴とする請求項1のステータコイル製造装置。
【請求項4】
前記流体は絶縁性樹脂で構成される、ことを特徴とする請求項3のステータコイル製造装置。
【請求項5】
円筒形状のステータコアの内周に形成された複数のティースに、予めコイル状に巻かれた線材を装着するステータコイル製造方法において、
前記ティース間のスロットに、前記線材を仮挿入した後、前記スロットに前記ステータコアの内周側から樹脂を注入するとともに、
前記スロットに相当する間隙を有する内径治具を、前記線材の前記スロットへの仮挿入から前記スロットへの前記樹脂の注入に至る期間に前記ティースの内周に嵌合保持し、前記スロットへの前記樹脂の注入を前記間隙から行なった後に前記内径治具を撤去するとともに、前記樹脂注入手段による前記スロットへの前記樹脂の注入完了後に前記内径治具を回転変位させ、前記樹脂が固化するまでの期間中は前記スロットを塞ぐことを特徴とするステータコイル製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータなどのステータコイルの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータなどのステータコアにコイルを巻線するための装置として、予めコイル状に巻かれた線材をステータコアのスロットに装着するインサータツールが知られている。ステータコアは両端を開口した中空の円筒形状に形成される。ステータコアは内周に等しい角度間隔で形成されたティースと、ティース間に形成され、内周面と両端面とに開口部を有するスロットと、を有している。インサータツールはティースの内周面に嵌合するティースと同数のブレードと、ブレード間の間隙内を軸方向に変位する突起部を外周に設けた円柱形状のプッシャとを備えている。ブレードの幅は、ブレード間の間隙がスロットの開口部と略等しい幅となるように予め設定される。インサータツールは、コイル状に巻かれた線材が各ティースの一端に掛け回された状態で、プッシャを軸方向に駆動してステータコアの一端の内側へと侵入させる。
【0003】
これにより、プッシャの外周の突起部がブレード間の間隙内を軸方向に変位し、各ブレードに掛け回されたコイル状の線材は突起部に押されてスロット内に侵入する。突起部がステータの一端の開口部からもう一端の開口部へと変位することで、線材は各スロットの内側に順次侵入する。これにより、コイル状の線材は、スロット内に侵入した直線部とステータの両端から軸方向外側に突出するコイルエンドとからなるコイルとして各ティースに巻線された状態となる。線材を各スロットに侵入させた後、ステーアコアの中心方向を向いたスロットの開口部を塞ぐウェッジが軸方向からスロットに挿入される。
【0004】
特許文献1は、複数層のコイルを同一のティースに装着する際に、層間に挟み込まれる絶縁紙を支持するための支持機構をインサータツールに設けることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−95186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
突起部の軸方向変位によってコイル状の線材をスロットに侵入させる構造のインサータツールにおいては、突起部は線材を軸方向に押すのみである。しかしながら、一方のコイルエンドがティースに掛け回されているため、コイル状に巻かれた線材は軸方向に変位できない。そのため、線材はスロットの中に退避することで軸方向の押圧力を逃がす。つまり、突起部は線材をスロットの内側へと押し退けながらスロット内を軸方向に移動する。この動作原理のもとでは、いったんスロットに退避した線材に対して、突起部はラジアル方向の力を及ぼすことができない。
【0007】
こうしたインサータツールを用いるステータコイル製造装置においては、巻線の量を増やすと、突起部に押し退けられていったんスロット内に退避した線材が突起部の通過後に再びスロットからはみ出てしまう。そのため、スロット内に密に線材を配置することができず、ステータコイルの占積率、すなわちコイル断面積とスロット断面積との比を高くすることは難しい。
【0008】
この発明は、以上の問題を解決すべくなされたもので、占積率の高いステータコイルを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、この発明は、円筒形状のステータコアの内周に形成された複数のティースに、予めコイル状に巻かれた線材を装着するステータコイル製造装置に適用される。ステータコイル製造装置は、前記ティース間のスロットに前記線材を仮挿入した後、前記スロットに前記ステータコアの内周側から樹脂を注入する樹脂注入手段と、前記スロットに相当する間隙を有し、前記線材の前記スロットへの仮挿入から前記樹脂注入手段による前記スロットへの前記樹脂の注入に至る期間に前記ティースの内周に嵌合保持され、前記樹脂注入手段による前記スロットへの前記樹脂の注入を前記間隙から行なった後に撤去される内径治具と、を備え、前記内径治具は前記樹脂注入手段による前記スロットへの前記樹脂の注入完了後に回転変位し、前記樹脂が固化するまでの期間中は前記スロットを塞ぐように構成される
【発明の効果】
【0010】
線材をスロットに仮挿入した後、ラジアル方向力負荷手段がティース間のスロットに仮挿入された線材に対してラジアル方向外向きの力を及ぼす。ラジアル方向外向きの力は線材をスロット内に押し込む力として作用する。そのため、スロットからステーアコアの中心方向へはみ出した線材もスロット内に押し込まれる。この状態で樹脂注入手段がスロットに樹脂を注入する。注入された樹脂が固化することで線材はスロット内に固定的に保持される。
【0011】
線材をスロット内に押し込む力を加えつつ樹脂をスロットに注入することで、より占積率の高いステータコイルを製造することが可能となる。また、線材をスロット内に確実に保持できるので、スロットの開口部を塞ぐために従来用いられていたウェッジが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の第1実施形態によるステータコイル製造装置の概略縦断面図である。
図2】同じく、樹脂注入段階のステータコイル製造装置の概略縦断面図である。
図3】線材への力の作用を説明するステータコア要部と内径治具と線材の拡大した横断面図である。
図4】内径治具のセットから樹脂の注入、及び内径治具の撤去に至るステータコアへのコイル装着プロセスを説明するステータコアの横断面図である。
図5】この発明の第2実施形態によるステータコイル製造装置の概略縦断面図と概略横断面図である。
図6】この発明の第2実施形態による樹脂注入段階のステータコイル製造装置の概略縦断面図と概略横断面図である。
図7】この発明の第3実施形態によるステータコイル製造装置の概略縦断面図である。
図8】この発明の第4実施形態によるステータコイル製造装置の内型の回転を説明する、ステータコイル製造装置の概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1-4を参照して、この発明の第1実施形態を説明する。
【0014】
図1に示すステータコイル製造装置1は電動モータなどのステータコア2へのコイルの装着を行なう装置である。
【0015】
図4(a)を参照すると、円筒形状のステータコア2の内周には予め複数のティース3が等しい角度間隔で形成される。隣接するティース3の間にはステータコア2の中心方向及び軸方向に向かって開口するスロット4が形成される。コイルは予め所定の形状に巻いた線材5を、スロット4を利用して各ティース3に装着することで、ティース3に巻き回される。ティース3に巻き回されたコイルは、ティース3の周方向の両側のスロット4を通り、図1に示すように180度に屈曲するコイルエンド5Aを、ステータコア2の軸方向の両端面からそれぞれ軸方向外側に突出する。
【0016】
コイルのステータコア2への装着は、まず予めコイル状に巻回した線材5を、インサータツールを用いて各スロット4に挿入することで行なわれる。インサータツールの構成については前記特許文献1に開示されるように公知であるので説明を省略する。
【0017】
インサータツールは、図4(a)に示すように、各ティース3の内周面に嵌合する内径治具としてのブレード6を備える。ブレード6はティース3の間のスロット4に相当する間隙6Aをあけて配置される。
【0018】
図1はコイル状に巻かれた線材5のインサータツールによる各ティース3への装着が終了した状態を示す。インサータツールの適用後は、各スロット4に挿入された線材5をスロット4内に保持する力は作用しない。そのため、インサータツールによる各スロット4への線材5の挿入をここでは仮挿入と称する。コイル状に巻かれた線材5をインサータツールが各ティース3の周方向両側のスロット4に仮挿入することで、各ティース3にコイルが巻き回された状態となる。各スロット4に仮挿入された線材5を、樹脂モールド装置7から各スロット4に注入される樹脂9で固めることで、ステータコア2へのコイルの装着が完了する。
【0019】
樹脂モールド装置7は、ステータコアを保持する外型7A−7Cと、ブレード6の内周に嵌合する円筒壁8Aを有する内型8と、外型7Bに形成された注入口7Dと、注入口7Dに樹脂9を圧入するピストン10とを備える。
【0020】
ところで、以上のプロセスにおいてインサータツールによって各スロット4に仮挿入された線材5は、上述のようにインサータツールの適用後はスロット4内への保持力が失われてしまう。そのためコイルの占積率を高めるべくインサータツールが大量の線材5を高密度でスロット4に挿入すると、インサータツールが通過した後に、図3(a)に示すように、線材5の一部がスロット4からテータコア2の中心方向に向かってブレード6の隙間6Aへとはみ出してしまう。この状態では線材をスロット4内に保持することができない。そこで、従来のステータコイル製造装置のもとでは線材5の量を抑えざるを得ず、結果としてステータコイルの占積率を高めることは難しかった。
【0021】
この発明は、ステータコイルの占積率を高めるために、スロット4に仮挿入された前記線材に対してラジアル方向外向きの力を及ぼすラジアル方向力負荷手段を備える。この実施形態においては、樹脂モールド装置7が、ラジアル方向力負荷手段とスロットに樹脂を注入する樹脂注入手段とを兼用する。
【0022】
図2を参照すると、樹脂モールド装置7はステータコア2の一方の端面から各スロット4内に樹脂9を注入する。樹脂9のステータコア2への注入口はラジアル方向に関して内型8の円筒壁8Aの近傍に設けられる。ピストン10を図の下向きに駆動することで、ピストン10に加圧された樹脂9は図3(a)に示すように、まず間隙6Aの線材5と円筒壁8Aの間のスペースに侵入する。ピストン10を図1の下向きにさらに駆動すると、間隙6A内の樹脂はステータコア2の内周側から外周側に向かって各スロット4に侵入する。各スロット4への樹脂9の侵入圧力は、図3(b)の矢印に示されるように線材5に対してラジアル方向外向きの力を及ぼす。この力の作用で、スロット4から間隙6A内にはみ出していた線材5はスロット4内へと後退する。
【0023】
このようにしてスロット4に注入された樹脂9は、図4(b)に示すように、線材5をスロット4内に押し込んだ後にスロット4内で固化する。スロット4内の樹脂9が固化した後は、図4(c)に示されるように、ブレード6は内型8とともにステータコア2から取り外される。
【0024】
このステータコイル製造装置1によれば、インサートツールにより線材5をスロット4へ仮挿入した後に、線材5がスロット4から間隙6A内にはみ出しても、はみ出した線材は樹脂9が及ぼすラジアル方向外向きの力でスロット4内に押し戻され、スロット4内で固化した樹脂9によりスロット4内に安定的に保持される。そのため、大量の線材5をスロット4に収装することが可能となり、ステータコイルの占積率を高めることができる。また、線材5をスロット4内に確実に保持できるので、スロット4の開口部を塞ぐために従来用いられていたウェッジも不要となる。
【0025】
内型治具としてのブレード6は、線材5のスロット4への仮挿入から樹脂モールド装置7によるスロット4への樹脂の注入に至る期間を通じてティース3の内周に嵌合保持され、樹脂9の注入完了後に撤去される。
【0026】
ブレード6が形成する隙間6Aは、インサータツールが通過した後にスロット4からはみ出す線材5を隙間6A内に留めるとともに、線材5と円筒壁8Aの間に注入された樹脂9をスロット4へと案内するガイドとして機能する。そのため、スロット4に侵入する樹脂9はスロット4から隙間6Aにはみ出した線材5に対してラジアル方向外向きの力を直接及ぼすことになる。これにより、スロット4から隙間6Aへとはみ出した線材5はスロット4へ確実に押し戻される。また、ブレード6がティース3の内周に嵌合することで、スロット4に注入された樹脂9がスロット4から隙間6Aにはみ出す量を減らすことができる。隙間6Aにはみ出した樹脂9は必要に応じて機械加工により除去しても良い。このステータコイル製造装置1によれば、その場合も機械加工の手間を大幅に削減することができる。
【0027】
図5と6を参照してこの発明の第2の実施形態を説明する。
【0028】
この実施形態によるステータコイル製造装置1は、ラジアル方向力負荷手段として、ステーアコア2の回転装置を備える。回転装置として、ステータコイル製造装置1は電動モータなどの手段により回転する基台12を備える。
【0029】
インサータツールもしくは手作業で線材5をスロット4に仮挿入した後、基台12を回転させる。基台12とともに回転するステータコア2には遠心力が作用する。この遠心力は線材5に対してラジアル方向外向きの力を及ぼす。そのため、インサータツールによってスロット4に仮挿入された線材5が、インサータツールの使用後にスロット4から隙間6Aへとはみ出しても、はみ出した線材5は遠心力がもたらすラジアル方向外向きの力によって再びスロット4に押し戻される。
【0030】
このようにして、線材5がスロット4に押し戻された状態で、基台12の回転を維持しつつ、図6に示すように、樹脂モールド装置7がピストン10の駆動により樹脂9を隙間6Aに注入する。注入された樹脂9は遠心力によりスロット4内に侵入し、その過程で線材5に対して遠心力がもたらすラジアル方向外向きの力を及ぼす。
【0031】
つまり、遠心力が直接線材5に及ぼすラジアル方向外向きの力に加えて、遠心力でスロット4に侵入する樹脂9の侵入圧力が、隙間6Aにはみ出した線材をスロット4に押し戻す力として作用する。このようにして、線材5をスロット4に保持しつつ、樹脂9の注入が完了する。
【0032】
樹脂9注入後は、注入された樹脂9の固化を待って外型7A−7Cと、内型8をステータコア2から取り外す。
【0033】
以上のとおり、この実施形態によっても大量の線材5をスロット4内に保持することが可能となり、ステータコイルの占積率を高めることができる。
【0034】
また、この実施形態では隙間6Aに注入された樹脂9にも遠心力が作用するので、樹脂9の注入完了後に隙間6Aには樹脂9がほとんど残留しない。したがって、隙間6Aにはみ出した樹脂9の除去作業の手間を削減することができる。
【0035】
図7を参照してこの発明の第3実施形態を説明する。
【0036】
この実施形態によるステータコイル製造装置1は、ラジアル方向力負荷手段として、外型7Cを貫通して内型8の内部に導かれる高圧流体の通路11を備える。ここでは、高圧流体として高圧空気を用いる。高圧空気は通路11に接続されたコンプレッサから供給される。通路11には内型8内においてラジアル方向に分岐する複数の枝通路11Aが接続される。複数の枝通路11Aはそれぞれ円筒壁8Aに設けた開口部を備える。
【0037】
以上の構成により、通路11に供給される高圧空気は複数の枝通路11Aを介して円筒壁9Aからラジアル方向外向きに高圧空気を吹き出す。吹き出した高圧空気は隙間6Aから各スロット4に侵入し、さらにスロット4内を軸方向に流れることでステータコア2の両端面から外型7A−7Cに囲まれた空間へと流出する。
【0038】
一方、樹脂モールド装置7の外側7Aと7Bの間、及び外側7Cと7Bの間には、ステータコア2の両端面からこれらの空間に流出した空気を大気中に放出する隙間が図に示すように形成される。
【0039】
インサータツールもしくは手作業で線材5をスロット4に仮挿入した後、コンプレッサを運転して通路11に高圧空気を供給する。通路11から複数の枝通路11Aに分流された高圧空気は円筒壁8Aに形成された枝通路11Aの開口部からラジアル方向外向きに高圧空気を吹き出す。吹き出された高圧空気は、図3(a)に示すブレード6の隙間6Aから各スロット4内に侵入し、ステータコア2の両端面の開口部から流出し、外型7Aと7Bの隙間及び外型7Aと7Cの隙間から大気中に放出される。
【0040】
高圧空気のこの流れは図3(b)の矢印に示すように、隙間6Aにはみ出していた線材5に対してラジアル方向の力を及ぼす。このラジアル方向の力により、スロット4から隙間6A内にはみ出していた線材5はスロット4内に押し込められる。
【0041】
このようにして、高圧空気の流れの力で線材5をスロット4内に押し込めた状態で、樹脂モールド装置7を駆動し、ピストン10により樹脂9を注入口7Dから隙間6Aへ注入する。注入された樹脂は隙間6A内を図の下方へと侵入し、さらに隙間6Aから各スロット4に侵入する。スロット4内に侵入した樹脂9はスロット4内を内周部から外周部へ向かって移動することで各スロット4に充填される。
【0042】
樹脂モールド装置7によるスロット4への樹脂9の充填は枝通路11Aが高圧空気を噴出している状態で行なわれ、樹脂9の注入中も高圧空気の流れの力が線材5をスロット4内に保持する力として作用する。さらに、スロット4内を内周側から外周側へと移動する樹脂9により線材5は樹脂の充填が完了するまで確実にスロット4内に保持される。
【0043】
この実施形態によれば、加圧機構8が高圧空気をブレード6の隙間6Aに噴出し、スロット4から隙間6Aにはみ出している線材5をスロット4内に押し込めるラジアル方向の力を及ぼす。そのため、線材5をスロット4内に密に配置することが可能となり、ステータコイルの占積率を高めることができる。また、線材5をスロット4内に押し込んだ状態で樹脂9の充填が行なわれるため、スロット4の内周側の開口部が樹脂9により閉塞される。そのため、従来はスロット4を塞ぐために必要であったウェッジが不要となり、インサータツールにウェッジ挿入機構を設ける必要がなくなり、その分インサータツールの構造を段純化できる。
【0044】
また、枝通路11Aから高圧空気を吹き出しつつ樹脂9の充填を行なうため、樹脂9がスロット4から隙間6A側にはみ出しにくい環境が得られる。そのため、内型8をステータコア2から取り外した後に、スロット4の外側に残留する樹脂9を除去する手間を省略ないし減らすことができる。
【0045】
この実施形態では流体として高圧空気を用いているが、流体は高圧空気に限定されない、例えば、流体として絶縁性樹脂のワニスを用いることも可能である。噴出したワニスがスロット4内で固化して線材5の保持を行なう。したがって、ワニスを噴出する複数のラジアル方向の枝通路11Aが樹脂モールド装置7を兼用することができ、ステータコイル製造装置の構成を簡略化することが可能となる。
【0046】
また、ラジアル方向力負荷手段として、円筒壁8Aからラジアル方向外向きに吹き出す高圧流体が線材5をスロット4内に押し戻すため、樹脂モールド装置7は第1の実施形態と同じである必要はなく、スロット4に樹脂9を注入する機能を有する限り、いかなる形式であっても良い。
【0047】
図8を参照して、この発明の第4実施形態を説明する。
【0048】
この実施形態は第1―第3の実施形態のいずれかと組み合わされる実施形態である。ステータコイル製造装置1は、内径治具としてのブレード6を回転変位させる電動モータなどの回転変位手段を備える。回転変位手段として、人力によりブレード6を回転させることも可能である。
【0049】
このステータコイル製造装置1は、第1―第3の実施形態で説明したいずれかのラジアル方向力負荷手段と樹脂注入手段により、スロット4に樹脂9を充填した後、樹脂9が固化する前にブレード6を図8(B)の矢印に示すように回転変位させ、ブレード6をスロット4のラジアル方向内向きの開口部に対峙させる。この操作により、樹脂9が固化するまで、線材5がスロット4から外側にはみ出すのを阻止することができる。また、固化する前の樹脂9がスロット4から外側にはみ出すのも阻止することができ。ブレード6を撤去した後に、スロット4からはみ出した樹脂9を除去する作業が不要となる。
【0050】
以上のように、この発明をいくつかの特定の実施形態を通じて説明して来たが、この発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。当業者にとっては、特許請求の範囲でこれらの実施形態にさまざまな修正あるいは変更を加えることが可能である。
【0051】
例えば、以上の各実施形態では、コイル状に巻回した線材5を、インサータツールを用いてスロットに仮挿入しているが、この発明は線材5のスロット4への仮挿入手段には限定されない。例えば、線材5を手作業でスロット4に仮挿入する場合にも、この発明によるステータコイル製造装置は適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ステータコイル製造装置
2 ステーアコア
3 ティース
4 スロット
5 線材
6 ブレード
7 樹脂モールド装置
7A,7B,7C 外型
7D 注入口
8 内型
8A 円筒壁
9 樹脂
10 ピストン
11 通路
11A 枝通路
12 基台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8