(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それぞれ入力されたオーディオ信号に対する信号処理を行う複数のチャンネルモジュールと、該チャンネルモジュールで信号処理されたオーディオ信号を出力するメイン出力部とを備えた音響信号処理装置において、
或る前記チャンネルモジュールをプレビュー対象としてプレビューするためのプレビュー開始指示に応じて一時的に作成され、該プレビュー対象のチャンネルモジュールに入力されるオーディオ信号と同じオーディオ信号が入力され、該プレビュー対象のチャンネルモジュールとは独立にパラメータ変更操作及び信号処理を行い、該信号処理されたオーディオ信号を、前記メイン出力部とは別のモニタ出力部へ出力する一時的チャンネルモジュールを備え、
前記プレビュー開始指示に応じて前記一時的チャンネルモジュールが作成されるときの前記プレビュー対象のチャンネルモジュールの各パラメータの現在値を、該一時的チャンネルモジュールの対応する各パラメータの初期値として設定することを特徴とする音響信号処理装置。
既にプレビューされている前記チャンネルモジュールとは別のチャンネルモジュールをプレビュー対象としてプレビューするための新たなプレビュー開始指示毎に、新たに別の一時的チャンネルモジュールが追加的に作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の音響信号処理装置。
前記モニタ出力部は、前記チャンネルモジュールで信号処理されたオーディオ信号をモニタ用に出力するために恒常的に備わるものであること特徴とする請求項4に記載の音響信号処理装置。
前記一時的チャンネルモジュールのパラメータ値を変更するための操作部であって、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールのパラメータ値を変更するための操作部と同様に又は類似するように構成され、且つ、プレビュー用の操作部である旨が明示されたものを更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の音響信号処理装置。
前記一時的チャンネルモジュールの各パラメータの現在値を、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールの対応するパラメータの現在値としてそれぞれ設定する第2設定部を更に備える請求項1乃至6の何れかに記載の音響信号処理装置。
それぞれ入力されたオーディオ信号に対する信号処理を行う複数のチャンネルモジュールと、該チャンネルモジュールで信号処理されたオーディオ信号を出力するメイン出力部とを備えた音響信号処理装置において、前記信号処理に用いるパラメータ値の変更結果をプレビューするための方法であって、
前記チャンネルモジュールをプレビュー対象としてプレビューするためのプレビュー開始指示に応じて、プレビュー用の信号処理を行うための一時的チャンネルモジュールを作成するステップと、
前記作成された一時的チャンネルモジュールに、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールに入力されるオーディオ信号と同じオーディオ信号を入力するステップと、
前記プレビュー開始指示に応じて前記一時的チャンネルモジュールが作成されるときの前記プレビュー対象のチャンネルモジュールの各パラメータの現在値を、該一時的チャンネルモジュールの対応する各パラメータの初期値として設定するステップと、
前記一時的チャンネルモジュールにおいて、前記入力したオーディオ信号に対して前記プレビュー対象のメインチャンネルモジュールとは独立にパラメータ変更操作及び信号処理を行うステップ、
を備える方法。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、オーディオミキサ(以下単に「ミキサ」ともいう)は、1チャンネル分のオーディオ信号に対する信号処理を行うチャンネルモジュールを複数備えており、1又は複数のオーディオ信号を選択的に混合して、混合されたオーディオ信号をメイン出力から出力する。また、ミキサは、メイン出力とは別のモニタ出力を備え、1又は複数のチャンネルモジュールのオーディオ信号を選択的に、該モニタ出力から出力できる。このモニタ機能により、ユーザは、任意の1又は複数チャンネルのオーディオ信号を、メイン出力とは別のモニタ出力から聞くこと、すなわちモニタすることができる(例えば非特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、従来のモニタ機能では、或るチャンネルモジュールのオーディオ信号をメイン出力に出力している場合、メイン出力のオーディオ信号に影響を与えることなく、そのチャンネルモジュールのパラメータ値を変更して、変更結果をモニタすることはできなかった。例えば、コンサートや演劇舞台等の本番中に、例えば別の演目のためのチェク目的でパラメータ値の変更及び確認を行いたい場合があり得る。しかし、そのような場合であっても、従来のモニタ機能では、メイン出力に使用中のチャンネルモジュールに関しては、パラメータ値をチェック目的で変更することができなかった。
【0004】
この点、例えば、下記特許文献1は、1又は複数のチャンネルモジュールで現在設定されているパラメータの値を別の値に変更した結果、すなわち変更後のパラメータの設定値を、ディスプレイ等に表示するプレビュー機能を開示している。このプレビュー機能により、メイン出力に影響を与えることなく、メイン出力に使用中のチャンネルモジュールのパラメータ値の変更結果を表示により確認し得る。しかし、この技術では、ユーザは変更結果を視認できるだけであり、パラメータ値の変更結果に基づいて信号処理されたオーディオ信号を聞くことはできない。
【0005】
また、従来、ミラーモードとして知られる接続形態は、2台のミキサ(DSPユニットを備える2台のエンジン)を用意し、各ミキサにオーディオ信号をパラレル接続するものである。この接続形態であれば、一方のミキサでの処理結果をメイン出力から出力する一方、他方のミキサでは該一方のミキサとは独立に信号処理を行い、その処理結果をモニタ出力から出力することが可能である(例えば下記特許文献2の段落[0003]、[0004]、
図9を参照)。しかし、この場合、2台のミキサ、すなわちミキサ2台分の信号処理リソースを用意しなければならず、特にチャンネル数の多い大型ミキサの場合は膨大なリソースが必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、メイン出力に影響を与えることなく、そのオーディオ信号に関する信号処理のパラメータ値を変更し、変更結果に基づき信号処理されたオーディオ信号を聞くことができるようにした音響信号処理装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、それぞれ入力されたオーディオ信号に対する信号処理を行う複数のチャンネルモジュールと、該チャンネルモジュールで信号処理されたオーディオ信号を出力するメイン出力部とを備えた音響信号処理装置において、或る前記チャンネルモジュールをプレビュー対象としてプレビューするためのプレビュー開始指示に応じて一時的に作成され、該プレビュー対象のチャンネルモジュールに入力されるオーディオ信号と同じオーディオ信号が入力され
、該入力されたオーディオ信号に対して該プレビュー対象のチャンネルモジュールとは独立にパラメータ変更操作及び信号処理を行い、該信号処理されたオーディオ信号を、前記メイン出力部とは別のモニタ出力部へ出力する一時的チャンネルモジュールを備え
、前記プレビュー開始指示に応じて前記一時的チャンネルモジュールが作成されるときの前記プレビュー対象のチャンネルモジュールの各パラメータの現在値を、該一時的チャンネルモジュールの対応する各パラメータの初期値として設定することを特徴とする音響信号処理装置である。
【0010】
プレビュー開始指示に応じて一時的チャンネルモジュールが作成され、該一時的チャンネルモジュールでは、該プレビュー対象のチャンネルモジュールと同じオーディオ信号が入力され且つ
該プレビュー開始指示に応じて該一時的チャンネルモジュールが作成されるときの該プレビュー対象のチャンネルモジュールの対応する各パラメータの現在値が初期値として設定され、該入力されたオーディオ信号に対して該プレビュー対象のチャンネルモジュールとは独立にパラメータ変更操作及び信号処理を行い、該信号処理されたオーディオ信号を、前記メイン出力部とは別のモニタ出力部へ出力する。従って、プレビュー対象のチャンネルモジュールのオーディオ信号がメイン出力部から出力されている最中であっても、メイン出力のオーディオ信号に影響を与えることなく、そのオーディオ信号に関する信号処理のパラメータ値を現在値から適宜変更して、変更結果に基づき信号処理されたオーディオ信号をモニタ出力部から出力することができ、もって、対象チャンネルモジュールのプレビューを一時的チャンネルモジュールを使用して実現することができる。この一時的チャンネルモジュールはプレビュー開始指示があったときに一時的に作成されるだけなので、必要な信号処理リソースは少なくて済む。また、プレビュー対象のチャンネルモジュールの各パラメータの現在値が一時的チャンネルモジュールの対応する各パラメータの初期値として自動的に設定されるので、プレビューを行う際のパラメータ初期値の設定を極めて容易且つ速やかに行うことができる。
【0011】
一実施形態において、一時的チャンネルモジュールはプレビュー終了指示に応じて消去されてよい。一実施形態に係る音響信号処理装置は、既にプレビューされている前記チャンネルモジュールとは別のチャンネルモジュールをプレビュー対象としてプレビューする新たなプレビュー開始指示毎に、新たに別の一時的チャンネルモジュールが
追加的に作成される。したがって、複数の一時的チャンネルモジュールを用いたプレビューが可能できる。一時的チャンネルモジュールを必要な数だけ一時的に作成するので、プレビュー機能用に信号処理リソースを固定的に用意する構成に比べて、少ない信号処理リソースを効率的に利用できる。
【0013】
また、一実施形態において、前記一時的チャンネルモジュールは、作成されたときに前記モニタ出力部に自動的に接続される。これにより一時的チャンネルモジュールをモニタ出力部に手動で接続する手間が不要である。一実施形態において、前記モニタ出力部は、前記チャンネルモジュールで信号処理されたオーディオ信号をモニタ用に出力するために恒常的に備わるものであってよい。この場合、プレビュー専用のバスや出力端子等は不要である。また、モニタ出力部をチャンネルモジュールと一時的チャンネルモジュールとで共用する構成により、チャンネルモジュールのオーディオ信号と一時的チャンネルモジュールのオーディオ信号とを同時に1つのモニタ出力部から出力することができる。
【0014】
また、一実施形態に係る音響信号処理は、前記一時的チャンネルモジュールのパラメータ値を変更するための操作部であって、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールのパラメータ値を変更するための操作部と同様に又は類似するように構成され、且つ、プレビュー用の操作部である旨が明示されたものを更に備える。これにより、プレビュー用のパラメータ値変更操作を、通常のパラメータ値変更操作と同様な操作感覚で行うことできる。
【0015】
別の一実施形態に係る音響信号処理装置は、前記一時的チャンネルモジュールの各パラメータの現在値を、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールの対応するパラメータの現在値としてそれぞれ設定する第2設定部を更に備える。これにより、一時的チャンネルモジュールでのパラメータ値の変更結果を、チャンネルモジュールの信号処理に反映することができる。
【0016】
また、この発明は、それぞれ入力されたオーディオ信号に対する信号処理を行う複数のチャンネルモジュールと、該チャンネルモジュールで信号処理されたオーディオ信号を出力するメイン出力部とを備えた音響信号処理装置において、前記信号処理に用いるパラメータ値の変更結果をプレビューするための方法であって、前記チャンネルモジュールをプレビュー対象としてプレビューするためのプレビュー開始指示に応じて、プレビュー用の信号処理を行うための一時的チャンネルモジュールを作成するステップと、前記作成された一時的チャンネルモジュールに、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールに入力されるオーディオ信号と同じオーディオ信号を入力するステップと、
前記プレビュー開始指示に応じて前記一時的チャンネルモジュールが作成されるときの前記プレビュー対象のチャンネルモジュールの各パラメータの現在値を
、該一時的チャンネルモジュールの対応する各パラメータの初期値として設定するステップと、前記一時的チャンネルモジュールにおいて、前記入力したオーディオ信号に対して前記プレビュー対象のメインチャンネルモジュールとは独立にパラメータ変更操作及び信号処理を行うステップ、を備える方法の発明として構成及び実施できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る音響信号処理装置によれば、プレビュー対象のオーディオ信号がメイン出力部から出力されている最中であっても、そのメイン出力に影響を与えることなく、そのオーディオ信号に対する信号処理パラメータ値の変更結果をプレビューすること、すなわち、一時的チャンネルモジュールでパラメータ値を変更し、変更されたパラメータ値に基づき処理されたオーディオ信号をモニタ出力部から聞くことができる、という優れた効果を奏する。また、
プレビュー開始指示に応じて一時的チャンネルモジュールが作成されるときのプレビュー対象のチャンネルモジュールの各パラメータの現在値が一時的チャンネルモジュールの対応する各パラメータの初期値として自動的に設定されるので、プレビューを行う際のパラメータ初期値の設定を極めて容易且つ速やかに行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、この発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、この発明に係る音響信号処理装置を適用したミキシングコンソール(以下、単に「ミキサ」ともいう)の信号処理構成例であって、この発明の特徴部分を抽出して示すブロック図である。ミキサ10は、所定数のチャンネルモジュール20a、20b・・・(図において「入力ch1」、「入力ch2」・・・)を具備しており、各チャンネルモジュール20a、20b・・・で処理されたオーディオ信号を、MIXバス22(図において「1」、「2」、「3」・・・「M」)に選択的に出力し、MIXバス22を介してメイン出力26から出力するように構成される。ミキサ10は、また、周知のモニタ機能を有しており、各チャンネルモジュール20a、20b・・・のオーディオ信号を、CUEバス32を介してメイン出力26とは別のモニタ出力36に選択的に出力できるように構成される。なお、この明細書において、「チャンネルモジュール」とは、1チャンネル分のオーディオ信号に対して信号処理を行う構成要素である。また、この明細書では、例えば入力チャンネルモジュールなど複数備わる構成要素を個々に区別する場合、例えば「20a」や「20b」等のようにアルファベットを添えた符号を参照符号として用いるが、当該構成要素を個々に区別する必要の無い場合は、例えば「20」のように数字のみの符号を参照符号として用いる。
【0021】
この実施例に係るミキサ10は、或るチャンネルモジュール20をプレビュー対象としてプレビューするためのプレビュー開始指示に応じて一時的に作成される一時的チャンネルモジュール30を備え、該作成された一時的チャンネルモジュール30に対して該プレビュー対象のチャンネルモジュール20に入力されるオーディオ信号と同じオーディオ信号を入力し、該一時的チャンネルモジュール30において、該プレビュー対象のチャンネルモジュール20とは独立に該入力されたオーディオ信号に対する信号処理を行い、該一時的チャンネルモジュール30で信号処理されたオーディオ信号をモニタ出力36へ出力するように構成される。一時的チャンネルモジュール30は、対応するプレビュー対象のチャンネルモジュール20と同じ信号処理要素(後述
図4参照)を具備するが、該一時的チャンネルモジュール30の信号処理に用いるパラメータの値は、対応するプレビュー対象のチャンネルモジュール20とは独立に可変設定される。
図1に示す通り、プレビュー対象のチャンネルモジュール20からメイン出力26への出力経路と、一時的チャンネルモジュール30からモニタ出力36への出力経路は独立しているので、一時的チャンネルモジュール30での信号処理結果が、メイン出力26に影響を与えることはない。
図1に示すMIXバス22とメイン出力26とが、チャンネルモジュールで信号処理されたオーディオ信号を出力するメイン出力部に相当する。また、
図1に示すCUEバス32とモニタ出力36とが、一時的チャンネルモジュール30で信号処理されたオーディオ信号の出力先となる、前記メイン出力部とは別のモニタ出力部に相当する。
【0022】
この明細書において「プレビュー」とは、一時的チャンネルモジュール30で信号処理されたオーディオ信号がモニタ出力36から出力されること、及び、一時的チャンネルモジュール30の各パラメータの値を画面等に表示すること、また、ユーザがモニタ出力36から出力されたオーディオ信号を聞くこと、及び、ユーザが画面等に表示されたパラメータの値を視認することを含む。また、この明細書において、「プレビュー」という用語と「モニタ」という用語は、互換的に使用される。
【0023】
例えば、入力チャンネルモジュール20a(図において「入力ch1」)をプレビュー対象としてプレビューするためのプレビュー開始指示に応じて、一時的チャンネルモジュール30a(図において「一時的ch1」)が作成され、該作成された一時的チャンネルモジュール30aには、「入力ch1」に入力されるオーディオ信号と同じオーディオ信号が入力される。また、「入力ch1」をプレビューしている最中に、当該プレビュー中の「入力ch1」とは別の入力チャンネルモジュール20b(図において「入力ch2」)をプレビュー対象としてプレビューするためのプレビュー開始指示に応じて、「入力ch2」に対応する一時的チャンネルモジュール30b(図において「一時的ch2」)が新たに作成され、この一時的チャンネルモジュール30bには「入力ch2」に入力されるオーディオ信号と同じオーディオ信号が入力される。このように、複数の一時的チャンネルモジュール30を使って複数チャンネル分のオーディオ信号を同時にプレビューすることができる。
【0024】
図2は、
図1に示すミキサ10の電気的ハードウェア構成例を示す。
図2において、ミキサ10は、中央処理装置(CPU)11、メモリ12、表示部13、操作部14、信号処理部15(MIX部)を備える。各部11〜15は、通信バス16を介して接続され、CPU11と各部12〜15との間で各種制御信号を通信できる。また、MIX部15は、マイクロフォンや再生装置等の入力機器又はアンプやスピーカ等の出力機器との間で、アナログオーディオ信号又はデジタルオーディオ信号を入力又は出力できる。
【0025】
CPU11は、メモリ12に記憶された各種のプログラムを実行して、ミキサ10の全体動作を制御する。メモリ12は、CPU11が実行する各種のプログラムや各種のデータなどを不揮発に格納するほか、CPU11が実行するプログラムのロード領域やワーク領域に使用される。メモリ12は、リードオンリーメモリ、ランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリあるいはハードディスク等の各種メモリ装置を適宜組み合わせて構成されてよい。
【0026】
表示部13は、ディスプレイおよび関連するインターフェース回路等であり、CPU11から与えられた表示制御信号に基づく各種情報を、各種画像や文字列等により表示する。操作部14は、複数の操作子および関連するインターフェース回路等である。オペレータは、操作部14の各種操作子を用いて各種パラメータの設定や変更のための操作を行う。CPU11は、ユーザによる操作部14又はディスプレイ(表示部13)での入力操作に応じた検出信号を取得して、検出信号に基づいてミキサ10の動作を制御する。
【0027】
MIX部15は、例えばDSP(Digital Signal Processor)や、CPU11およびメモリ12に記憶されたソフトウェアにより仮想的に実現された信号処理装置で構成される。MIX部15は、信号処理用のプログラムを実行することにより、図示しない入力機器から供給された1又は複数のデジタルオーディオ信号を処理して、該処理されたデジタルオーディオ信号を、図示しない出力機器へ出力する。MIX部15が実行する信号処理は、複数のオーディオ信号を混合するミキシング処理を含む。この信号処理は、メモリ12に記憶された複数のパラメータの現在値に基づいて制御される。
【0028】
図3は、
図1に示すミキサ10に備わる通常の信号処理機能の構成例を説明するブロック図である。
図3に示す通常の信号処理機能とは、ミキサ10に恒常的又は固定的に備わる信号処理機能である。
図3に示す複数チャンネルモジュールにより通常の信号処理機能を実行するために必要な、MIX部15やメモリ12の信号処理リソースは予め固定的に割り当てられている。
図3に示す通り、ミキサ10は、通常の信号処理機能として、複数の入力チャンネルモジュール(図において「入力ch1」、「入力ch2」、「入力ch3」・・・「入力chN」)20a〜20n、複数のMIXバス22a〜22m(図において「1」、「2」、「3」・・・「M」)、ステレオ出力バス25(図において「ST L、R」)、CUEバス32、出力チャンネルモジュール(図において「出力ch1」、「出力ch2」、「出力ch3」・・・「出力chM」)24a〜24m、及び、ステレオ出力チャンネルモジュール27を備える。各入力チャンネルモジュール20a〜20nは、それぞれ入力パッチ23を介して対応付けられた入力ポート(図示略)からのオーディオ信号を受け取って、各種パラメータの値に基づく信号処理を行い、該処理済みのオーディオ信号を、MIXバス22a〜22m、ステレオ出力バス25又はCUEバス32へ選択的に出力する。各出力チャンネルモジュール24a〜24m及び27はそれぞれ、対応する1つのバス22a〜22m又は25から出力されたオーディオ信号に対して、チャンネル毎の各種パラメータの値に基づく信号処理を行い、該処理済みのオーディオ信号を、出力パッチ29を介してメイン出力26へ出力する。メイン出力26は、例えば会場内の客席等に向けられたメインスピーカや、録音機器等に接続される。各チャンネルモジュール20、24及び27における各種信号処理は、メモリ12に記憶された各種パラメータの現在値に従った音量レベルの調整、イコライジング、各種エフェクト等である。
【0029】
また、CUEバス32に入力された1又は複数のオーディオ信号は、CUEモジュール34を介してモニタ出力36へ出力される。CUEモジュール34は、例えば音量レベル調整等を行う。モニタ出力36には、例えばヘッドフォン等が接続される。
【0030】
図4は、一例として、入力チャンネルモジュール20の詳細構成例を示す。入力チャンネルモジュール20は、複数の信号処理要素として、ヘッドアンプ(図において「HA」)40、ハイパスフィルタ(図において「HPF」)42、イコライジング(図において「EQ」)44、ゲート、コンプレサ等を含むダイナミクス調整(図において「Dynamics」)46、及び、音量レベル調整(図において「Level」)48を備える。メモリ12に記憶された当該入力チャンネルモジュール20の対応するパラメータの値に基づいて、これら各信号要素40、42、44、46及び48の信号処理が行われる。
【0031】
また、
図4に示す通り、入力チャンネルモジュール20は、複数のCUE出力ポイント41、43、及び45を有し、CUE出力ポイント41、43又は45から取り出されたオーディオ信号を、CUEバス32に出力できる。CUE出力ポイントの選択は、メモリ12に記憶された当該入力チャンネルモジュール20のCUEオン・オフパラメータの値に基づき制御される。CUEオン・オフパラメータの値は、いずれのCUE出力ポイント41、43又は45が選択されるか、又は、何れも選択されない(すなわちCUEオフ)かを示す。なお、CUE出力ポイントは、
図4に例示する3箇所に限らず、入力チャンネルモジュール20上の適宜の1又は複数個所に設けられてよい。
【0032】
なお、出力チャンネルモジュール24及びステレオ出力チャンネルモジュール27も、
図4に示す入力チャンネルモジュール20と概ね同様に構成される、すなわち、複数の信号処理要素と、複数のCUE出力ポイントを備え、メモリ12に記憶された各種パラメータの現在値に従った信号処理を行う。
【0033】
前述の通り、通常のモニタ機能では、或るチャンネルモジュール20、24又は27のオーディオ信号がメイン出力26から出力されている場合、メイン出力26に影響を与えることなく、そのオーディオ信号に関する信号処理のパラメータ値をチェック目的で変更したり、変更結果をモニタしたりすることはできなかった。
この点、この発明のミキサ10は、メイン出力26に影響を与えることなく信号処理のパラメータ値を変更したり、変更結果をモニタしたりするために、
図1に示す通りプレビュー開始指示に応じてプレビュー専用の一時的チャンネルモジュール30を作成するように構成されている。すなわち、ミキサ10は、1又は複数の一時的チャンネルモジュール30の信号処理のために必要な信号処理リソースを潜在的に確保しており、プレビュー開始指示があったときに、その都度、新たに作成された一時的チャンネルモジュール30に対してMIX部15やメモリ12の信号処理リソースを割り当てるように構成されている。
【0034】
図5は、一時的チャンネルモジュール30を作成する処理例を示すフローチャートである。以下の説明は、一例として、或る1つの入力チャンネルモジュール20をプレビュー対象に指定した場合について説明する。プレビュー開始を指示する手段は、プレビュー対象となるチャンネルモジュールを特定して、そのチャンネルモジュールのプレビューの開始を指示できさえすればどのようなものでもよい。例えば、ミキサ10は、チャンネルストリップ(1チャンネル分のパラメータ値調整用の操作子群をまとめた部位)毎に設けられたプレビューオンオフスイッチ(操作部14に含まれる物理的操作子)を備える。別の例として、ミキサ10は、ディスプレイ(表示部13)にプレビューオンオフスイッチ画像を表示する。
【0035】
CPU11は、或る入力チャンネルモジュール20をプレビュー対象としてプレビューするためのプレビュー開始指示に応じて、
図5の処理を起動する。ステップS1において、CPU11は、プレビュー対象の入力チャンネルモジュール20に対応する一時的チャンネルモジュール30を作成する。例えば、「入力ch1」20aがプレビュー対象の場合、それに対応する一時的チャンネルモジュール30a(
図1参照)を作成する。当該ステップS1において、CPU11は、今回プレビュー開始指示された一時的チャンネルモジュール30に対するMIX部15やメモリ12の信号処理リソースの割り当てや、MIX部15に対する各種設定等を行う。
【0036】
前記ステップS1で作成される一時的チャンネルモジュール30は、プレビュー対象の入力チャンネルモジュール20と同様に、ヘッドアンプ40、ハイパスフィルタ42、イコライジング44、ダイナミクス調整46、及び、音量レベル調整48を具備するとともに、複数のCUE出力ポイント41、43及び45を有する(
図4参照)。一方で、一時的チャンネルモジュール30は、プレビュー対象の入力チャンネルモジュール20と異なり、MIXバス22及びステレオ出力バス25への出力経路を具備しなくてよい。
【0037】
ステップS2において、CPU11は、前記作成された一時的チャンネルモジュール30に対して、プレビュー対象のチャンネルモジュール20に入力されるオーディオ信号とと同じオーディオ信号が入力されるように、入力パッチ23を設定する。例えば、「入力ch1」20aがプレビュー対象の場合、CPU11は、入力パッチ23を介して、プレビュー対象の「入力ch1」20aに対応付けられた入力ポートを、今回作成された一時的チャンネルモジュール30aに対応付ける。これにより、
図1に示すように、プレビュー対象の入力チャンネルモジュール20に入力されているオーディオ信号は、その入力チャンネルモジュール20と、対応する一時的チャンネルモジュール30aとの両方に並行して入力される。
【0038】
ステップS3において、CPU11は、メモリ12に記憶されたプレビュー対象の入力チャンネルモジュール20の各パラメータの値をコピーして、該コピーされた各パラメータの値を一時的チャンネルモジュール30のパラメータ値としてメモリ12に格納する。これにより、一時的チャンネルモジュール30の各パラメータ値の初期値として、プレビュー対象のチャンネルモジュール20の対応するパラメータの現在値が設定される。CPU11とステップS3の処理が、作成された一時的チャンネルモジュール30の各パラメータの値として、プレビュー対象の入力チャンネルモジュール20の対応するパラメータの現在値を設定する第1設定部に相当する。
【0039】
ステップS4において、CPU11は、メモリ12に記憶されたCUEオン・オフパラメータの値に基づいて、作成された一時的チャンネルモジュール30のいずれか1つのCUE出力ポイント41、43又は45をCUEバス32に自動的に接続する。これにより、選択されたCUE出力ポイント41、43又は45から取り出されたオーディオ信号が、CUEバス32を介してモニタ出力36から出力される。自動的に接続することにより、手動操作による経路設定の手間がかからない。なお、CUEオン・オフパラメータの値がオフを示場合、当該ステップS4では、一時的チャンネルモジュール30はCUEバス32に接続されない。
【0040】
ユーザは、一時的チャンネルモジュール30のパラメータの値を、ディスプレイ(表示部13)に表示されたプレビュー表示用画面から変更できる。
図6は、プレビュー表示用画面の一例として、1つの一時的チャンネルモジュール30に関するチャンネルビュー画面(CH View)を示す。CPU11は、ユーザに指定された一時的チャンネルモジュール30に関するチャンネルビュー画面60を、ディスプレイ(表示部13)に表示する。
図6に示す通り、チャンネルビュー画面60には、ヘッドアンプ62、イコライジング63、ダイナミクス調整64、音量レベル調整用フェーダ操作子65及びチャンネルオン/オフ66といった各種信号処理要素のアイコンが表示される。これらアイコン62〜66は、それぞれ、指定された一時的チャンネルモジュール30における対応するパラメータの現在値を表示する。チャンネルビュー画面60には、その他にも、複数チャンネルの信号レベルを表示するレベルメータ67や、チャンネル番号等を示すチャンネル情報68が表示される。
【0041】
図6に示すプレビュー表示用のチャンネルビュー画面60は、プレビュー対象のチャンネルモジュール20のパラメータ値を変更するための、通常のチャンネルビュー画面と同様に又は類似するように構成される。すなわち、通常のチャンネルビュー画面も
図6に示す各種表示物62〜68を、
図6と同じ配置で表示する。プレビュー表示用のチャンネルビュー画面60は、通常のチャンネルビュー画面と区別するために、プレビュー用表示中である旨を明示する標識(図において文字列「プレビュー」)61を表示する。一例として、プレビュー標識61は、例えば点滅表示等、他の表示物62〜68とは異なる表示形態で表示されてよい。プレビュー表示用のチャンネルビュー画面60を、通常のチャンネルビュー画面と同様に又は類似するように構成することで、ユーザにとって分かり易く且つ操作しやすいインタフェースを提供できる。また、ピレビュー表示用と通常とで同様の画面構成であっても、プレビュー標識61により、ユーザが両者を取り違えることを防止できる。
【0042】
ユーザは、操作部14を用いてアイコン62〜66に対する操作を行い、該操作により、それぞれ対応するパラメータの値を変更できる。値変更操作に応じて、CPU11は、メモリ12に記憶された対応するパラメータの値を変更する。
【0043】
プレビュー表示用画面は、チャンネルビュー画面60に限らず、例えば
図7に示すイコライジング調整画面70や
図8に示すダイナミクス調整画面80など、1つの信号処理要素のパラメータの値を詳細に調整するための詳細調整画面でもよい。CPU11は、チャンネルビュー画面60で何れか1つのアイコン62〜66が選択され、画面の表示が指示されたとき、CPU11は、選択されたアイコンに対応する信号処理要素の詳細調整画面をディスプレイ(表示部13)に表示する。詳細調整画面70、80も、通常の詳細調整画面と同様に又は類似するように構成され、且つ、標識表示71、81によりプレビュー用表示中である旨を明示する。詳細調整画面70、80におけるユーザの値操作に応じて、CPU11は、メモリ12に記憶された対応するパラメータの値を変更する。
【0044】
前記
図6〜
図8に示す各プレビュー表示用画面60、70及び80には、設定指示ボタン69、79及び89(図において「対象チャンネルに設定」)が設けられている。該設定指示ボタン69、79又は89の操作に応じて、CPU11は、メモリ12に記憶された一時的チャンネルモジュール30の各パラメータの値を、プレビュー対象の入力チャンネルモジュール20の対応するパラメータの値としてメモリ12に格納する(
図9のステップS5)。これにより、メイン出力26の出力信号に一時的チャンネルモジュール30でのパラメータ値変更結果が反映される。CPU11とステップS5が、前記一時的チャンネルモジュールの各パラメータの現在値を、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールの対応するパラメータの現在値としてそれぞれ設定する第2設定部に相当する。
【0045】
一時的チャンネルモジュール30はプレビュー終了時に消去される。プレビュー終了は、プレビューオンオフスイッチ又はプレビューオンオフスイッチ画像の操作により、一時的チャンネルモジュール30毎に指示できる。CPU11は、或る一時的チャンネルモジュール30に関するプレビュー終了指示に応じて、その一時的チャンネルモジュール30を消去する(
図10のステップS6)。すなわち、CPU11は、その一時的チャンネルモジュール30に対して割り当てられた信号処理リソースを解放するとともに、その一時的チャンネルモジュール30に対するオーディオ信号の入出力設定を消去する。
【0046】
以上説明したとおり、プレビュー開始指示に応じて、一時的チャンネルモジュール30を作成することにより、作成された一時的チャンネルモジュール30を用いて、プレビュー対象のチャンネルモジュール20とは独立にプレビュー対象のオーディオ信号に対する信号処理を行い、処理結果をモニタ出力36へ出力することができる。この一時的チャンネルモジュール30の出力信号はメイン出力26へは出力されない。一方、プレビュー対象の入力チャンネルモジュール20は、一時的チャンネルモジュール30の作成された後も、信号処理結果のオーディオ信号をメイン出力26に出力し続ける。したがって、一時的チャンネルモジュール30でパラメータの値を変更しても、メイン出力26から出力されるオーディオ信号には影響が無い。よって、例えば、コンサートや演劇舞台等の本番中であっても、メイン出力26にオーディオ信号を出力中の入力チャンネルモジュール20に関して、メイン出力26に影響を与えることなく、別の演目のためのパラメータ値に変更し、その変更結果をプレビューすることができる。
【0047】
一時的チャンネルモジュール30はプレビュー開始指示に応じて一時的に作成されるので、プレビュー機能用にチャンネルモジュール30を固定的に用意する構成に比べて、プレビュー機能実現に必要な信号処理リソースは少なくて済み、且つ、少ない信号処理リソースを効率的に利用できる。また、プレビューに用いる出力経路(CUEバス32及びモニタ出力36)は、プレビュー機能に専用ではなく、ミキサ10に恒常的に備わるものであるから、構成要素を増やすことなく経済的にプレビュー機能を実現できる。また、この出力経路(CUEバス32及びモニタ出力36)は、通常のチャンネルモジュール20のモニタ機能にも共用される(
図1、
図3を参照)ので、チャンネルモジュール20のオーディオ信号と一時的チャンネルモジュール30のオーディオ信号とを同時にモニタすることができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、プレビュー対象は出力チャンネルモジュール24でも、ステレオ出力チャンネルモジュール27でもよい。また、前記ステップS3で設定される一時的チャンネルモジュール30の各パラメータの初期値は、プレビュー対象のチャンネルモジュール20、24又は27の現在値に限らず、例えば或る所定値でもよい。また、プレビュー機能に専用の出力経路(CUEバス及びモニタ出力)を備えるようにしてもよい。
【0049】
また、この発明に係る音響信号処理装置は、ハードウェアのミキサ10に限らず、例えばパーソナルコンピュータにおいて、ソフトプログラムにより仮想的に実現されたミキサに適用されてもよい。また、オーディオミキサに限らず、例えば多チャンネル録音装置など、どのような音響信号処理装置に適用されてもよい。
【0050】
また、この発明は、それぞれ入力されたオーディオ信号に対する信号処理を行う複数のチャンネルモジュールと、該チャンネルモジュールで信号処理されたオーディオ信号を出力するメイン出力部とを備えた音響信号処理装置において、前記信号処理に用いるパラメータ値の変更結果をプレビューするための方法であって、前記チャンネルモジュールをプレビュー対象とするプレビュー開始指示に応じて、プレビュー用の信号処理を行うための一時的チャンネルモジュールを作成するステップと、前記作成された一時的チャンネルモジュールに、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールと同じオーディオ信号を入力するステップを備える方法の発明として実施及び構成してよい。また、この発明は、前記の音響信号処理装置において、前記信号処理に用いるパラメータ値の変更結果をプレビューする処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記チャンネルモジュールをプレビュー対象とするプレビュー開始指示に応じて、プレビュー用の信号処理を行うための一時的チャンネルモジュールを作成するステップと、前記作成された一時的チャンネルモジュールに、前記プレビュー対象のチャンネルモジュールと同じオーディオ信号を入力するステップを、該コンピュータに実行させるためのプログラムの発明として実施及び構成されてよい。