特許第6572631号(P6572631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572631タイヤ用ゴム組成物およびその製造方法並びに空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572631
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物およびその製造方法並びに空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20190902BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20190902BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20190902BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20190902BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C08L7/00
   C08K5/42
   C08K3/04
   B60C1/00 Z
   C08L9/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-115515(P2015-115515)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2017-2141(P2017-2141A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】鹿久保 隆志
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−040898(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0043014(US,A1)
【文献】 特開2005−082620(JP,A)
【文献】 特開2012−236951(JP,A)
【文献】 特開2004−161898(JP,A)
【文献】 特開平03−168752(JP,A)
【文献】 特開2002−225438(JP,A)
【文献】 特開2010−269545(JP,A)
【文献】 特開2008−303289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08J3、C08K3、5
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物を0.5〜15質量部およびカーボンブラックを10〜80質量部配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム100質量部中、天然ゴムが50質量部以上を占めることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物が、ヒドラジノベンゼンスルホン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
天然ゴムを50質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物のみを0.5〜15質量部添加し、両者を混合する第1工程と、前記第1工程後、カーボンブラックを10〜80質量部配合し混合する第2工程とを有することを特徴とするタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物およびその製造方法並びに空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、ゴム中のカーボンブラックの凝集を抑制し、優れた低発熱性を付与し得るタイヤ用ゴム組成物およびその製造方法並びに空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境を保護する観点から、空気入りタイヤにも環境への配慮が求められ、例えばタイヤを低発熱化し、転がり抵抗性を改善して優れた燃費性能を付与することが求められている。
【0003】
なお、天然ゴムの物性を改善するためにヒドラジン化合物を配合する技術が幾つか提案されているが(例えば特許文献1〜3参照)、従来技術では、下記で説明する分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物を配合してカーボンブラックの凝集を抑制し、低発熱性を得るという技術思想は何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−143859号公報
【特許文献2】特開2006−143860号公報
【特許文献3】特開2006−213752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、ゴム中のカーボンブラックの凝集を抑制し、優れた低発熱性を付与し得るタイヤ用ゴム組成物およびその製造方法並びに空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物およびカーボンブラックを特定量配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0007】
1.ジエン系ゴム100質量部に対し、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物を0.5〜15質量部およびカーボンブラックを10〜80質量部配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
2.前記ジエン系ゴム100質量部中、天然ゴムが50質量部以上を占めることを特徴とする前記1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
3.分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物が、ヒドラジノベンゼンスルホン酸であることを特徴とする前記1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
4.天然ゴムを50質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物のみを0.5〜15質量部添加し、両者を混合した後、カーボンブラックを10〜80質量部配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
5.天然ゴムを50質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物のみを0.5〜15質量部添加し、両者を混合する第1工程と、前記第1工程後、カーボンブラックを10〜80質量部配合し混合する第2工程とを有することを特徴とするタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
6.前記1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物(以下、特定化合物と言うことがある)およびカーボンブラックを特定量配合したので、ゴム中のカーボンブラックの凝集を抑制することができ、優れた低発熱性を付与し得るタイヤ用ゴム組成物およびその製造方法並びに空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、タイヤ用ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていてもよい。
【0011】
本発明において、ジエン系ゴムはその全体を100質量部としたときに、天然ゴムが50質量部以上を占めていることが好ましい。天然ゴムは本発明における特定化合物と反応し易く、カーボンブラックの凝集を抑制しやすい。
天然ゴムのさらに好ましい配合量は、ジエン系ゴムの全体を100質量部としたときに、50質量部以上である。
【0012】
本発明で使用される特定化合物は、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物である。
このような化合物としては、例えばヒドラジノベンゼンスルホン酸、2−ヒドラジノエタンスルホン酸、4−ヒドラジノブタンスルホン酸、4,4’−ジヒドラジノ−2,2’−スチルベンジスルホン酸、3,6−ジクロロ−4−ヒドラジノベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0013】
本発明で使用される特定化合物において、ヒドラジノ基はジエン系ゴムの官能基と反応する。とくにジエン系ゴムとして天然ゴムを使用した場合、ヒドラジノ基は天然ゴムの末端基、アルデヒド基、カルボキシル基と反応することができる。また特定化合物におけるスルホン酸基は、カーボンブラックの極性基と親和性があり、その結果、カーボンブラックの凝集を抑制し、補強性を損なわずに低発熱化を達成することができる。
【0014】
なお、特定化合物としてヒドラジノベンゼンスルホン酸を使用した場合、ベンゼン環の存在によって、カーボンブラックとの親和性がさらに高まり、上記効果が一層顕著となり、好ましい。
【0015】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、とくに制限されないが、本発明の効果向上の観点から、窒素吸着比表面積(NSA)が30〜160m/gであるのが好ましい。なお、窒素吸着比表面積(NSA)はJIS K6217−2に準拠して求めた値である。
【0016】
(タイヤ用ゴム組成物の配合割合)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、特定化合物を0.5〜15質量部およびカーボンブラックを10〜80質量部配合してなることを特徴とする。
特定化合物の配合量が0.5質量部未満の場合、配合量が少なすぎて本発明の効果を奏することができない。逆に15質量部を超えると発熱性および破断強度が悪化する。
カーボンブラックの配合量が10質量部未満であると、補強性が悪化する。逆に80質量部を超えると、発熱性が悪化する。
【0017】
さらに好ましい特定化合物の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、1〜12質量部である。
さらに好ましいカーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、30〜70質量部である。
【0018】
(その他成分)
本発明におけるタイヤ用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムのような各種充填剤;老化防止剤;可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0019】
また本発明では、天然ゴムを含むジエン系ゴムを使用する場合、特定化合物を混合する時期を特定することにより、本発明の効果をさらに高めることができる。
すなわち本発明では、まず、該ジエン系ゴムおよび特定化合物のみを混合する第1工程を行う。この第1工程により、特定化合物のヒドラジノ基と天然ゴムの末端基、アルデヒド基、カルボキシル基とが、他の成分によって阻害されることなく反応する(特定化合物は他の成分と反応しやすい)。第1工程における混合は、加熱下で行うのが好ましく、混合温度は例えば60〜160℃であり、混合時間は例えば1分〜20分である。
続いて、得られた混合物に対し、カーボンブラックを加え、混合する第2工程を行う。一般的にこのような第2工程は、カーボンブラック以外にも、タイヤ用ゴム組成物に所望の特性を与えるその他の成分を加え、混合される。なお硫黄や加硫促進剤のような加硫系配合物は、第2工程後に実施されるファイナル混合工程で添加され混合される。
【0020】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0022】
実施例1〜4および比較例1〜2
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、天然ゴムおよび特定化合物のみを混合する第1工程を行った。第1工程における混合温度は120℃であり、混合時間は1分である。使用したミキサーは1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーである。
続いて、加硫促進剤と硫黄を除く成分を該ミキサーに導入し混合する第2工程を行った。第2工程における混合温度は150℃であり、混合時間は5分である。
最後に、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混合するファイナル混合工程を行い、タイヤ用ゴム組成物を得た。なお、ファイナル混合工程における混合温度は100℃であり、混合時間は3分である。
次に得られたタイヤ用ゴム組成物を所定の金型中で170℃、10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0023】
tanδ(60℃):(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用い、初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件で、tanδ(60℃)を測定した。結果は、比較例1の値を100として指数表示した。指数が小さいほど低発熱性であることを示す。
結果を表1に示す。
【0024】
実施離5〜8
実施例1〜4において、天然ゴムおよび特定化合物のみを混合する第1工程を行わず、第2工程で他の成分とともに天然ゴムおよび特定化合物を混合し、最後に、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混合するファイナル混合工程を行ったこと以外は、実施例1〜4を繰り返した。
結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
*1:NR(STR20)
*2:特定化合物(和光純薬工業(株)製p−ヒドラジノベンゼンスルホン酸)
*3:カーボンブラック(東海カーボン(株)製シーストN、窒素吸着比表面積(NSA)=74m/g)
*4:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*5:ステアリン酸(日油(株)製ステアリン酸)
*6:老化防止剤(フレキシス製サントフレックス6PPD)
*7:オイル(昭和シェル石油(株)製エキストラクト4号S)
*8:硫黄(アクゾノーベル(株)製クリステックスHS OT 20)
*9:加硫促進剤(三新化学工業(株)製サンセラーNS)
【0027】
前記の表1の結果から明らかなように、実施例1〜8で得られたタイヤ用ゴム組成物は、分子内にスルホン酸基とヒドラジノ基とを含む化合物(特定化合物)およびカーボンブラックを特定量配合したので、比較例1のゴム組成物に比べ、優れた低発熱性を付与し得ることが判明した。実施例のゴム組成物は、ゴム中のカーボンブラックの凝集が抑制されているものと推測される。
とくに、天然ゴムと特定化合物のみを混合する第1工程と、カーボンブラックを配合し混合する第2工程とを行った実施例1〜4は、実施例5〜8のゴム組成物に比べ、発熱性が一層改善されていることが分かる。
比較例2は、特定化合物の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、発熱性が悪化した。