特許第6572660号(P6572660)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572660
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】スクライビングホイール
(51)【国際特許分類】
   B28D 5/00 20060101AFI20190902BHJP
   B28D 1/24 20060101ALI20190902BHJP
   C03B 33/027 20060101ALI20190902BHJP
   C03B 33/10 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   B28D5/00 Z
   B28D1/24
   C03B33/027
   C03B33/10
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-151697(P2015-151697)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-30216(P2017-30216A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084364
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 宜喜
(72)【発明者】
【氏名】林 弘義
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−126382(JP,A)
【文献】 特開2013−220554(JP,A)
【文献】 特開2013−202975(JP,A)
【文献】 特開2007−031200(JP,A)
【文献】 特開2013−049597(JP,A)
【文献】 特開2013−079154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/00 − 7/04
C03B 23/00 − 35/26、40/00 − 40/04
G02F 1/13、1/137 − 1/141
G02F 1/133、1/1333、1/1334、
1/1339 − 1/1341、1/1347
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板の周囲にダイヤモンドにより構成された稜線と一対の傾斜面から成る断面V字形の刃先を有し、前記一対の傾斜面の算術平均粗さを0.01μm以下とし、前記刃先の傾斜面の稜線から所定間隔隔てた位置に0.5μm以上、12μm未満のピッチの窪みが全周に設けられており、
前記窪みの深さは、0.05μm以上0.7μm未満であるスクライビングホイール。
【請求項2】
前記スクライビングホイールは、その傾斜面に沿った前記窪みの前記稜線側端部と稜線との距離Lが1μm以上、5μm以下である請求項1記載のスクライビングホイール。
【請求項3】
前記スクライビングホイールは、単結晶ダイヤモンドから成る請求項1又は2記載のスクライビングホイール。
【請求項4】
前記スクライビングホイールの窪みの深さは、0.3μm以下である請求項1〜3のいずれか1項記載のスクライビングホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度の脆性材料基板をスクライブするために好適なスクライビングホイールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示パネルや太陽電池等の製造工程では、脆性材料基板の分断工程が設けられている。分断工程では、超硬合金や多結晶焼結ダイヤモンド(PCD)等から成るスクライビングホイールに脆性材料基板の材質や厚み等の諸条件に見合った荷重を付加しながら、スクライビングホイールを脆性材料基板の表面上を転動させてスクライブラインを形成し、スクライブラインから脆性材料基板の厚さ方向に伸びる垂直クラックを形成する。そして脆性材料基板のスクライブラインに沿って所定の力を加えることによって脆性材料基板を分断し、夫々のパネルやガラス板を製造している。
【0003】
ガラス素材メーカにおいて、基板の材料における改良、熱処理加工における各種改良が行われてきた結果、従来の刃先(ノーマル刃先) を備えたスクライビングホイール(以下、ノーマルホイールともいう)を用いてスクライブした場合に、「かかりが悪い」状態、すなわちスクライビングホイールの転動直後に刃先が基板表面で滑り、スクライブラインが形成されないという現象が見られるようになってきた。
【0004】
特許文献1には、高浸透効果を有するスクライビングホイールが開示されている。このスクライビングホイールは、断面V字形の円周稜線に沿って円周方向に交互に形成された多数の切り欠きと突起を有している。このスクライビングホイールを用いると、ガラス基板の表面から垂直方向にガラス基板の板厚に対して相対的に深い垂直クラックを形成することができる。
【0005】
このような高浸透刃先のスクライビングホイールは、ノーマル刃先のスクライビングホイールよりも「かかりの良い」刃先として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3074143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるにガラス基板より硬質なセラミック等高硬度の脆性材料基板をスクライブする場合には、超硬合金やPCD製のスクライビングホイールでは、炭化タングステン又はダイヤモンド粒子とコバルト等の結合材で構成されるため、刃先が欠けたり摩耗したりして長い距離クラックを形成することができないことがある。従って硬質な脆性材料基板をスクライブする場合には、超硬合金や焼結ダイヤモンドよりも硬質で、且つ均質な材料の単結晶等のダイヤモンド製スクライビングホイールが好ましい。ダイヤモンド素材のスクライビングホイールでは、刃先は鏡面状となり、傾斜面の表面粗さが小さくなる。そのためさらに基板上で滑りやすく、「かかり」が悪くなり、スクライブ開始直後から垂直クラックを発生させることが難しくなると考えられる。
【0008】
本発明はこのようなダイヤモンド素材のスクライビングホイールの問題点に鑑みてなされたものであって、脆性材料基板をダイヤモンド素材のスクライビングホイールを用いてスクライブする場合であっても、「かかり」が良く、垂直クラックを発生させ易いスクライビングホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明のスクライビングホイールは、円板の周囲にダイヤモンドにより構成された稜線と一対の傾斜面から成る断面V字形の刃先を有し、前記一対の傾斜面の算術平均粗さを0.01μm以下とし、前記刃先の傾斜面の稜線から所定間隔隔てた位置に0.5μm以上、12μm未満のピッチの窪みを全周に設け、前記窪みの深さは、0.05μm以上0.7μm未満であるものである。
【0010】
ここで前記スクライビングホイールは、前記傾斜面に沿った前記窪みの前記稜線側端部と稜線との距離Lが1μm以上、5μm以下であるようにしてもよい。
【0011】
ここで前記スクライビングホイールは、単結晶ダイヤモンドから成るようにしてもよい。
【0012】
ここで前記スクライビングホイールの窪みの深さは、0.3μm以下としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有する本発明によれば、スクライビングホイールの傾斜面に刃先の稜線から所定距離を隔てた両側の傾斜面の全周に、12μm未満の小さいピッチで窪みが形成されている。このため、スクライブ時にかかり性が良好となり、スクライブ開始直後から深いクラックで硬度の高い基板をスクライブすることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の実施の形態によるスクライビングホイールの側面図及び正面図である。
図2図2は本実施の形態のダイヤモンドホイールの刃先部分を拡大して示す側面図及び正面図である。
図3図3は本実施の形態のスクライビングホイールの刃先の稜線部分の断面図である。
図4図4は本実施の形態のスクライビングホイールを用いてスクライブする状態を示す拡大断面図である。
図5図5は本発明の第2の実施の形態によるスクライビングホイールの刃先部分を拡大して示す側面図及び正面図である。
図6図6は本発明の第3の実施の形態によるスクライビングホイールの刃先部分を拡大して示す側面図及び正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態によるスクライビングホイールについて図面を用いて詳細に説明する。本実施の形態において加工の対象となる脆性材料基板は、硬度の高いSiC基板としているが、これに限定されるものではなく、液晶表示パネル、プラズマディスプレイパネルなどのガラス基板、単結晶シリコン基板、セラミック基板、サファイア基板などの脆性材料基板であってもよい。また、本明細書で用いられている「算術平均粗さRa」とは、JISB0601で規定された工業製品の表面粗さを表すパラメーターの一つである。
【0016】
本発明の実施の形態によるスクライビングホイールの形状を説明する。図1(a)は本実施の形態によるスクライビングホイールをその中心軸方向から見た正面図であり、図1(b)はそのスクライビングホイールの側面図である。又図2(a)は稜線部分を拡大して示す側面図、図2(b)はその正面図である。
【0017】
本実施の形態のスクライビングホイール10は、単結晶ダイヤモンドで形成された円板状のホイールであり、図1に示すように、中心軸11の中心にスクライビングホイール10を軸支するための図示しないピンが貫通される貫通孔12を有する。このスクライビングホイール10の外周面は断面がV字形となるように切欠かれ、その中心に稜線13が形成され、左右には図示のように傾斜面14a,14bを有している。傾斜面14a,14bは、収束角度(α)を有するように形成されている。傾斜面14a,14bは、傾斜面の算術平均粗さRaが0.01μm以下となるように加工されている。
【0018】
さてこの実施の形態のスクライビングホイールは、図2に示すように刃先の稜線13を中心に含む傾斜面14a,14bに、稜線13からわずかに離れた位置に等間隔で一定のピッチPにより窪み15が全周に施されたものである。ここで窪み加工は少なくともスクライブ時に基板と接触する部分に形成されていることが好ましい。図3は刃先部分の断面を示す拡大断面図であり、本図に示すように傾斜面に沿った稜線13と窪み15の稜線側の端部との距離Lは、例えば1μm以上、5μm以下とする。この窪み15はほぼ円形の窪み状であり、稜線13の両側に所定間隔隔てて形成されている。この窪み15のピッチPは0.5μm以上で、12μm未満、好ましくは8μm未満、さらに好ましくは1μm以下とする。又窪み15の深さdは0.05μm以上0.7μm未満、好ましくは0.3μm以下とする。
【0019】
図4は本実施の形態によるスクライビングホイールを用いてガラス基板をスクライブするときの刃先部分の断面を示す拡大断面図である。本図に示すようにスクライブする際には刃先の先端がガラス基板20に食い込んでおり、ガラス20の面が窪み15にまで入り込むようにスクライブしている。このように微細な窪み加工を稜線13の両側に形成することによって、高い硬度のSiC基板等の基板に対しても一定の摩擦係数を確保することができ、かかり性の改善を図ることができる。又窪み15は稜線13には掛かっていないため、このスクライビングホイール10を用いてスクライブし分断したときの基板の端面強度を向上させることができる。
【0020】
本実施の形態のダイヤモンドで形成されたスクライビングホイールの傾斜面に対する窪み加工は、フェムト秒レーザによる表面加工装置を用いて行うことができる。フェムト秒レーザはフェムト秒単位の、極めて短い時間にパワーを圧縮した光源であり、種々の材料に周期的な構造の溝やパターンを形成することができる。ここでは図2図3に示すように稜線13の近傍の傾斜面14a,14bに一定ピッチPで窪み加工を行う。そしてこのフェムト秒レーザの光源やパルス幅を適宜選択することによって所望のサイズ、ピッチP及び深さdの窪み加工を行うことができる。
【0021】
尚本実施の形態では、窪み加工は図2図3では円形としているが、図5に第2の実施の形態のスクライビングホイールを示すように長円形の窪み16であってもよく、又楕円形の窪みであってもよい。この場合にはスクライブする際に基板に食い込む深さを変化させることができるため、スクライブ荷重の幅を大きくすることができる。
【0022】
又本発明の第1の実施の形態では図3に示すように稜線13に対して傾斜面14a,14bに対称に窪み15を配置しているが、図6に第3の実施の形態を示すように、傾斜面14a,14bに互い違いに窪み15が形成されたものであってもよい。また、傾斜面14、14bのいずれか一方にのみ窪み15が形成されたものであってもよい。
【0023】
本発明にかかる実施の形態のスクライビングホイールは、かかり性が良好であり、高硬度の基板に対しても滑ることなく、スクライブ開始直後から垂直クラックを生じさせることができる。従って高い硬度の基板に対しても内切りスクライブをすることができるという優れた効果が得られる。また、滑りが生じないためスクライビングホイール稜線が均一に摩耗することになり、スクライビングホイールの寿命をさらに長くすることができる。
【0024】
尚この実施の形態ではスクライビングホイールの素材を単結晶ダイヤモンドとしているが、多結晶ダイヤモンドを素材として用いてもよい。この場合にもスクライビングホイールの稜線部分に同様の窪み加工を施すことによって同様の効果を有するスクライビングホイールを構成することができる。
【0025】
又、本実施の形態においては、スクライビングホイール全体が単結晶ダイヤモンドからなるものを示したが、例えば、超硬合金等で構成されたホイール本体部に単結晶又は多結晶ダイヤモンドで構成された刃先部分を接着又は成膜等により固定したスクライビングホイールに対しても本発明は適用可能である。このような構成のスクライビングホイールであれば、高価な単結晶ダイヤモンドの使用を減らし、安価なスクライビングホイールを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は高硬度の脆性材料基板をスクライブするスクライブ装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 スクライビングホイール
11 中心軸
12 貫通孔
13 稜線
14a,14b 傾斜面
15,16 窪み
図1
図2
図3
図4
図5
図6