(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電解質膜の両側に少なくとも、触媒層と;マイクロポーラス層ならびに本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含む導電性のガス拡散層基材を含むガス拡散層と;をこの順で有する膜電極接合体であって、
前記ガス拡散層の少なくとも一方が、当該ガス拡散層に接触している触媒層より平面方向に大きな外周領域を有しており、かつ、当該ガス拡散層に接触している触媒層が、前記電解質膜より平面方向に小さく、
前記外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂が配置されてなる部位を有し、前記外周領域の少なくとも一部の表面に配置された樹脂の厚みが、前記ガス拡散層に接触している触媒層より薄い、膜電極接合体。
電解質膜の両側に少なくとも、触媒層と;マイクロポーラス層ならびに本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含む導電性のガス拡散層基材を含むガス拡散層と;をこの順で有する膜電極接合体の製造方法であって、
前記ガス拡散層の少なくとも一方が、当該ガス拡散層に接触している触媒層より平面方向に大きな外周領域を有しており、かつ、当該ガス拡散層に接触している触媒層が、前記電解質膜より平面方向に小さく、
前記外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂が配置されてなる部位を作製する工程を有し、ただし、前記外周領域の少なくとも一部の表面に配置された樹脂の厚みが、前記ガス拡散層に接触している触媒層より薄い、膜電極接合体の製造方法。
マイクロポーラス層と、本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含むガス拡散層基材とを積層することによってガス拡散層前駆体を準備する工程と;
前記ガス拡散層前駆体の外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、前記樹脂を含浸させた後に、接触させる触媒層より平面方向に大きくなるように前記ガス拡散層として成形する工程と;
を有する、請求項4に記載の製造方法。
マイクロポーラス層と、本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含むガス拡散層基材とを積層することによってガス拡散層前駆体を準備する工程と;
前記ガス拡散層前駆体を、前記ガス拡散層が接触する触媒層より平面方向に大きくなるように成形する工程と;
前記成形されたガス拡散層前駆体の外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、前記樹脂を含浸させる工程と;
を有する、請求項4に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0018】
本発明の一実施形態の膜電極接合体は、燃料電池に好ましく適用できる。よって、本発明では、膜電極接合体を含む、燃料電池をも提供する。以下では、本発明の一実施形態の膜電極接合体を、燃料電池に適用した形態を例に挙げて説明する。
【0019】
<燃料電池>
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。
【0020】
本発明の一実施形態の膜電極接合体(MEA)は、電解質膜の両側に少なくとも、触媒層と;マイクロポーラス層ならびに本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含む導電性のガス拡散層基材を含むガス拡散層と;をこの順で有する膜電極接合体であって、前記ガス拡散層の少なくとも一方が、当該ガス拡散層に接触している触媒層より平面方向に大きな外周領域を有しており、かつ、当該ガス拡散層に接触している触媒層が、前記電解質膜より平面方向に小さく、前記外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂が配置されてなる部位を有する、膜電極接合体である。
【0021】
このような構成により、ガス拡散層において外側に向けて伸びている先鋭な端部から、その樹脂が、電解質膜を保護する。そのことによって、クロスリーク、ゆえに発電性能の低下や、燃費の低下を抑制する。また、基材の先鋭な端部がマイクロポーラス層を突き抜け、電解質膜に直接接触することを抑制する。
【0022】
まずは、
図1を用いて、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を説明し、樹脂が配置されてなる部位を有する形態については、
図2以降で説明する。
【0023】
図1に示されるように、PEFC1は、電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、PEFC1は、電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
【0024】
ここで、アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4cは、ガス拡散層基材(4ag、4cg)と、マイクロポーラス層(4am、4cm)とが積層されることによりなる。ここで、触媒層(3a、3c)側にマイクロポーラス層(4am、4cm)を有する。すなわち、本発明の一実施形態に係るPEFC1は、電解質膜2の両側に少なくとも、触媒層(3a、3c)と;マイクロポーラス層(4am、4cm)およびにガス拡散層基材(4ag、4cg)を含むガス拡散層と;をこの順で有する。
【0025】
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。
図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部(ガスケット)が配置されるが、
図1ではこれらの記載を省略する。
【0026】
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで
図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのアノードガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのカソードガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
【0027】
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
【0028】
なお、
図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
【0029】
[膜電極接合体]
図2は、本発明の膜電極接合体の第1の実施形態を示す概略断面図である。
【0030】
(ガス拡散層)
図2において、ガス拡散層(4a、4c)は、ガス拡散層基材(4ag、4cg)と、ガス拡散層基材上に隣接して配置されるマイクロポーラス層(4am、4cm)からなる。マイクロポーラス層(4am、4cm)は、触媒層(3a、3c)側に配置されている。
【0031】
本実施形態のガス拡散層(4a、4c)では、ガス拡散層基材(4ag、4cg)と、マイクロポーラス層(4am、4cm)との間に中間層を設けてもよい。しかし、ガス拡散層基材(4ag、4cg)上に直接マイクロポーラス層(4am、4cm)が配置されてなる形態が好ましい。かような形態であると、ガス拡散層全体(4a、4c)の抵抗が上昇することなく、排水を効率的に行うことができ、電池特性が向上するためである。
【0032】
ガス拡散層(4a、4c)は、セパレータのガス流路を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)を触媒層(3a、3c)へと拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0033】
本発明の膜電極接合体の一実施形態において、ガス拡散層基材(4ag、4cg)を構成する材料は、本体をなす基部と、前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含む。より具体的に、ガス拡散層基材(4ag、4cg)を構成する材料は、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロス等の炭素繊維で形成された炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料;ならびに金網、発泡金属、エキスパンドメタル、精密プレス加工プレート、金属メッシュ、金属細線焼結体、金属不織布などが挙げられる。
【0034】
ここで、カーボンペーパの場合の「本体をなす基部」は、炭素繊維で形成された導電性の多孔質性シート状材料を指す。また、「基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部」は、炭素繊維で形成された多孔質性シート状材料などは、通常、毛羽立って繊維の端部が外側に向けて飛び出している部分があり、それを意味している。また、金網の場合の「本体をなす基部」は、線材を編んだり重ねたりして作った多孔性シートを指す。また、「基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部」は、金網などは、通常、金網を構成する線材の表面が削れたり剥けたりして外側に向けて飛び出している部分があり、それを意味している。
【0035】
一方、本発明の第1の実施形態では、
図2に示されるように、ガス拡散層(4a、4c)は、当該ガス拡散層(4a、4c)に接触している触媒層(3a、3c)より平面方向に大きな外周領域を有している。このような構成であることによって、触媒層(3a、3c)の反応有効面積を最大限に利用している。また、当該ガス拡散層(4a、4c)に接触している触媒層(3a、3c)は、電解質膜2より平面方向に小さい。換言すれば、電解質膜2は、触媒層(3a、3c)より平面方向に大きい。これにより、触媒層(3a、3c)の反応有効面積を最大限に利用している。
【0036】
しかし、このような大小関係を有する膜電極接合体10においては、ガス拡散層基材(4ag、4cg)における外側に向けて伸びている先鋭な端部が、電解質膜2に接触し易くなる。これは、例えマイクロポーラス層(4am、4cm)があったとしても同様である。
【0037】
そして電解質膜は、一般に、薄膜であり、その薄さ故、損傷を外部から受け易い。ガス拡散層基材(4ag、4cg)における外側に向けて伸びている先鋭な端部が直接、電解質膜2に接触すると、当該電解質膜2を突き刺してしまうことがあり、なおさら損傷を受け易くなる。これはマイクロポーラス層が介在しても、マイクロポーラス層も一般に薄膜であり同様である。電解質膜2が損傷を受けてしまうと、クロスリークが発生する可能性がある。クロスリークが発生すると、発電性能の低下や、燃費の低下に繋がってしまう。
【0038】
これに対し、
図2に示される本発明の膜電極接合体の第1の実施形態では、ガス拡散層(4a、4c)における、触媒層(3a、3c)より平面方向に大きな領域の少なくとも一部の内部に、樹脂が配置されてなる部位Rを有する。このような構成によって、その樹脂が、ガス拡散層基材の先鋭な部分から、電解質膜2を保護する。そのことによって、発電性能の低下や、燃費の低下を抑制することができる。より具体的に説明すると、外側に向けて伸びている先鋭な端部(炭素繊維であれば、突出し繊維)を、当該樹脂が被覆し、当該突出し繊維が、電解質膜2に直接接触することを抑制する。また、樹脂がガス拡散層基材の外周領域の変形を防ぎ、マイクロポーラス層の外周領域を固くするという効果も有する。なお、「触媒層(3a、3c)より平面方向に大きな領域」のことを、本明細書中、単に「外周領域」とも称する。
【0039】
また、ガス拡散層(4a、4c)は、その作製の工程上、打ち抜き、カット等によって成形されることが一般的である。このようにして成形されたガス拡散層(4a、4c)(特に、外周領域)には、本体をなす基部から切断されてしまった、本体をなす基部を構成する先鋭な部材が残留している場合がある。そうすると、膜電極接合体10を作製する際や、膜電極接合体10の使用時(つまり、燃料電池の運転時)などに、先鋭な部材が脱落し、それが電解質膜2に接触する可能性もある。
【0040】
これに対し、本発明の膜電極接合体の一実施形態では、切断された(あるいは切断される可能性のある)先鋭な部材を、当該樹脂によって、本体をなす基部に固定しておくことができる。そうすることで、上記のような脱落を抑制し、燃料電池の信頼性を向上させることができる。
【0041】
なお、本発明の膜電極接合体の一実施形態では、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域の少なくとも一部の内部に、樹脂が配置されてなる部位Rを有すればよい。よって例えば、額縁状の外周領域において、少なくとも1辺、2辺または3辺に、樹脂が配置されてなる部位Rを有させ、その他の辺には、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域と、電解質膜2とが直接接触しないように、中間層を設けてもよい。このような形態とすることによって、膜電極接合体の製造性が良くなり、歩留り向上、低コスト化の効果を有する。
【0042】
また、ガス拡散層の外周領域の少なくとも一部の内部において、樹脂の厚みは、ガス拡散層の外周領域の厚みと一致していなくてもよく、好ましくはガス拡散層の外周領域の厚みの50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上の厚みを有しているとよい。また、ガス拡散層の外周領域の少なくとも一部の内部において、樹脂の厚さは部分的に異なっていてもよい。この時、マイクロポーラス層側に配置していることがより好ましい。
【0043】
なお、外周領域は、四角形状の額縁状に限られず、各角に丸みを帯びさせてもよい。
【0044】
また、各辺において、樹脂は、連続的に配置されていなくてもよい。
図3は、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域の一辺をガス流路と直行するように切った概略断面図である。
図3に示されるように、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域において、樹脂が配置されてなる部位Rが、非連続的に設けられている(
図3では、点在的に設けられている)。
【0045】
このように樹脂を非連続的に設けることによって、樹脂の使用量を減少させつつ、本発明の所期の効果と同様の効果を得ることができる。
【0046】
なお、樹脂が配置されてなる部位Rが位置する場所は、特に制限されないが、
図3に示されるように、セパレータ(5a、5c)の凸部(リブ)が直上(方向によっては直下)になるように設けるとよい。このように設けることによって、膜電極接合体の機械的強度の向上を期待することができる。また、ガス拡散層が電解質膜と接触し損傷を受けやすい部位を保護することが可能となりクロスリークを抑制する効果がある。
【0047】
なお、樹脂が配置されてなる部位Rを非連続的に位置させる場合、ガス拡散層と触媒層の各投影面積差に対し、例えば5〜50%程度、あるいは9〜25%程度設けておくことがよい。
【0048】
また、
図2に示される本発明の膜電極接合体の第1の実施形態では、触媒層(3a、3c)の外周縁辺と、樹脂が配置されてなる部位Rの内周縁辺とが面一である。
図4に示されるように、第3の実施形態によれば、樹脂が配置されてなる部位Rを、ガス拡散層(4a、4c)の内方に向かって設けてもよい。ただし、内方に向かって樹脂が設けられた部位Rは、電極反応を妨げる虞がある。そのため、ガス拡散層の電極有効面積を85%以上、90%以上、あるいは97%以上確保するように樹脂が設けられた部位Rを位置させることが好ましい。
【0049】
なお、
図2に示される本発明の膜電極接合体の第1の実施形態では、ガス拡散層(4a、4c)におけるマイクロポーラス層(4am、4cm)の外周領域の少なくとも一部の内部にも樹脂が配置されてなる部位Rを有する。
【0050】
ここで、マイクロポーラス部は、ガス拡散層基材よりも脆いため部材切断時に端部に欠損やクラックが生じる。その結果直接電解質膜にガス拡散層繊維が接触することによる損傷が発生する虞がある。また、基材に対して別途マイクロポーラス層を積層して形成する場合においても、積層位置ずれやサイズの誤差により外周部にマイクロポーラス層によるカバーがなされない個所が発生し、直接電解質膜にガス拡散層繊維が接触することによる損傷が発生する虞がある。これに対し、本発明によれば、樹脂によって、外側に向けて伸びている先鋭な端部から、膜電極接合体10を構成する電解質膜2を保護する。これによって、先鋭な端部がクラック部を通じて露出したとしても、当該先鋭な端部が直接、電解質膜2に接触することが抑制される。そのことは、発電性能の低下や、燃費の低下抑制に繋がる。
【0051】
また、樹脂が配置されてなる部位Rを有するガス拡散層を作製する際、樹脂は、通常、クラック部を埋める。そのため、先鋭な端部が電解質膜2に直接接触することがより抑制され、そのことも、発電性能の低下や、燃費の低下の抑制に繋がる。
【0052】
また、
図2に示される本発明の膜電極接合体の第1の実施形態では、部位Rの厚みと、ガス拡散層(4a、4c)との厚みが一致している。しかし、部位Rの厚みと、ガス拡散層(4a、4c)との厚みは一致させなくてもよい。
【0053】
図5に示される本発明の膜電極接合体の第4の実施形態では、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域のうち、電解質膜2側の表層領域に、樹脂が配置されてなる部位Rを有する。この形態では、セパレータ(5a、5c)側の表層領域には、樹脂が配置されてなる部位Rを有さない。このような形態とすることによって、樹脂を効率的に使用して、
図2の形態と同様の技術的効果を得ることができる。
【0054】
ここで、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域のうち、電解質膜2側の表層領域は、マイクロポーラス層(4am、4cm)の外周領域を含むことが好ましい。また、ガス拡散層基材(4ag、4cg)の外周領域のうち、マイクロポーラス層側の表層領域を含むことが好ましい。ここで、マイクロポーラス層側の表層領域とは、ガス拡散層基材のマイクロポーラス層側の表面から、セパレータ(5a、5c)側に向かって、当該ガス拡散層基材(4ag、4cg)の厚みの15%程度、あるいは20%程度、あるいは50%程度であることが好ましい。この数値が増えるにつれて、燃料電池の信頼性は向上する。
【0055】
また、
図6に示される本発明の膜電極接合体の第5の実施形態は、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域において、電解質膜2側の表面にも樹脂が配置されてなる部位Rを有する形態である。このような形態とすることによって、より確実に上記で説明した技術的効果を得ることができ、より確実に信頼性の高い燃料電池を提供することが可能となる。この電解質膜2側の表面に設けられる、樹脂が配置されてなる部位Rの厚さにも特に制限はないが、触媒層2の厚さよりも薄いことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、前記外周領域の少なくとも一部の表面に配置された樹脂の厚みが、前記ガス拡散層に接触している触媒層より薄い。このように、触媒層の厚みより、表面に配置した樹脂の厚みを薄くすることによって、表面に配置した樹脂Rと、電解質膜2とが直接接触することを抑制することができる。そのことによって、より確実に上記の効果を得ることができる。
【0056】
このように、本発明の好ましい実施形態においては、外周領域の少なくとも一部の内部だけでなく、外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂が配置されてなる部位を有させる。そのことによって、より確実に上記で説明した技術的効果を得ることができ、より確実に信頼性の高い燃料電池を提供することが可能となる。なお、無論、外周領域の少なくとも一部の表面だけに樹脂が配置されてなる部位を有させてもよい。
【0057】
また、
図2に示される本発明の膜電極接合体の第1の実施形態では、ガス拡散層(4a、4c)の外周縁辺と、樹脂が配置されてなる部位Rの外周縁辺とが面一であるが、そのようにしなくてもよい。
【0058】
図7に示される本発明の膜電極接合体の第6の実施形態は、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域において、その端部にも樹脂が配置されてなる部位Rを有する形態である。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、外周領域の端部の少なくとも一部に、樹脂が配置されてなる部位をさらに有する。
【0059】
これは、ガス拡散層の成形過程で、外周領域の端部の外側に向けて伸びている先鋭な端部が、電解質膜側に向く場合もあるし、あるいは、燃料電池の膨潤収縮によっても電解質膜側に向く場合もあるからである。
【0060】
図7に示される本発明の膜電極接合体の第6の実施形態であれば、そのような場合であっても、その樹脂が、外周領域の端部から電解質膜2に向かって伸びている先鋭な部分を被覆することができる。そのことによって、より確実に電解質膜2を保護し、ひいては、発電性能の低下や、燃費の低下を抑制することができる。
【0061】
なお、当該端部に樹脂が配置されてなる部位を有する形態において、その樹脂の厚さにも特に制限はないが、
図6で示した、表面に樹脂が配置されてなる部位の厚みと同程度にすることができる。この程度の厚さとすることによって、より確実に先鋭な端部を当該樹脂が被覆し、電解質膜2に突出し繊維が直接接触することを抑制することができる。
【0062】
(樹脂)
外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に配置させる樹脂の種類としては特に制限されず、導電性樹脂であってもよいし、絶縁性樹脂であってもよい。いずれであっても、外側に向けて伸びている先鋭な端部(炭素繊維であれば、突出し繊維)を被覆し、突出し繊維が、電解質膜2に直接接触することを抑制する。なお、絶縁性樹脂であれば、さらに信頼性の高い燃料電池を提供することが可能となる。つまり、本発明の好ましい実施形態では、前記樹脂が、絶縁性樹脂である。
【0063】
絶縁性樹脂は、絶縁性を有する樹脂であれば特に限定されない。絶縁性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂等の熱可塑性絶縁樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、アルキド樹脂等の熱硬化性絶縁樹脂や、これらの所望の共重合体などが挙げられる。中でも、熱可塑性絶縁樹脂を用いる場合、熱可塑性絶縁樹脂の軟化点以上に加熱することによって、軟化した熱可塑性絶縁樹脂を自由に移動させることが可能である。したがって、熱可塑性絶縁樹脂を用いる場合、熱可塑性絶縁樹脂を流動化させ、その配置位置をより適した位置にコントロールすることも可能であるという利点も有する。
【0064】
(ガス拡散層基材)
ガス拡散層基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、通常、80〜400μm程度、あるいは、100〜300μm程度とすればよい。基材の厚さが、かような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0065】
ガス拡散層基材は、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの従来公知の撥水剤を用いてもよい。撥水処理方法は特に制限されず、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。
【0066】
ガス拡散層基材は、その他の添加剤を有していてもよい。添加剤としては、導電性カーボン、分散剤、分散助剤などが挙げられる。
【0067】
(マイクロポーラス層)
マイクロポーラス層は、通常、撥水性をより向上させるために設けられている。また、マイクロポーラス層は、通常、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層で構成される。
【0068】
カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0069】
マイクロポーラス層に用いられる撥水剤としては、前記ガス拡散層基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
【0070】
マイクロポーラス層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。これにより、適度な撥水性と、電子伝導性とを得ることができる。
【0071】
前記マイクロポーラス層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよいが、通常、10〜50μm程度、あるいは、20〜40μm程度である。このように、マイクロポーラス層は、通常、薄膜であるが故、それを成形することによって外周部にクラックや欠損が発生する場合もある。そのような場合、上記ガス拡散基材の先鋭な端部が、クラック部や欠損部を通じて露出し易い状態となることがある。これに対し、本発明によれば、樹脂によって、外側に向けて伸びている先鋭な端部から、電解質膜2を保護する。これによって、先鋭な端部がクラック部を通じて露出したとしても、当該先鋭な端部が直接、電解質膜に接触することが抑制される。そのことは、ひいては、発電性能の低下や、燃費の低下抑制に繋がる。また、樹脂はそのクラック部を埋める作用もある。そうすると、上記のような直接接触がより確実に抑制される。
【0072】
(触媒層)
触媒層(アノード触媒層3a、カソード触媒層3c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3cでは酸素の還元反応が進行する。
【0073】
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体(導電性担体)、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
【0074】
アノード触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
【0075】
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、いずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分およびカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
【0076】
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。例えば、触媒成分の形状は、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜10nm、さらに好ましくは1〜5nm、特に好ましくは2〜4nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
【0077】
上述した触媒成分は好適には導電性担体に担持された電極触媒として触媒層に含まれる。
【0078】
導電性担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0079】
導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m
2/g、より好ましくは80〜1200m
2/gとするのがよい。比表面積が上記したような範囲であれば、導電性担体への触媒成分および高分子電解質が十分分散して十分な発電性能が得られ、また、触媒成分および高分子電解質を十分有効利用できる。
【0080】
また、導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
【0081】
導電性担体に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%とするのがよい。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
【0082】
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、下記電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加されうる。
【0083】
当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。なお、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質の具体的な説明は下記電解質膜における説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。特に、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
【0084】
触媒層中の高分子電解質の含有量は特に限定されるものではないが、電極触媒中のカーボンに対する高分子電解質の比が0.3〜1.6であることが好ましい。
【0085】
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
【0086】
触媒層の形成方法は特に限定されないが、好適には、上記したような電極触媒、高分子電解質および溶剤からなる触媒インクを、高分子電解質膜表面に塗布することによって、触媒層を形成する方法が挙げられる。この際、溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶剤が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶剤の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できる。触媒インクにおいて、電極触媒は、所望の作用、即ち、水素の酸化反応(アノード側)および酸素の還元反応(カソード側)を触媒する作用を十分発揮できる量であればいずれの量で、使用されてもよい。電極触媒が、触媒インク中、5〜30重量%、より好ましくは9〜20重量%となるような量で存在することが好ましい。
【0087】
触媒インクは、電極触媒、電解質および溶剤、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。例えば、電解質を極性溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、電解質を極性溶媒に溶解した後、これに電極触媒を添加することによって、触媒インクが調製できる。または、電解質を、溶剤中に一旦分散/懸濁された後、上記分散/懸濁液を電極触媒と混合して、触媒インクを調製してもよい。また、電解質が予め上記他の溶媒中に調製されている市販の電解質溶液(例えば、デュポン製のNafion溶液:1−プロパノール中に5wt%の濃度でNafionが分散/懸濁したもの)をそのまま上記方法に使用してもよい。
【0088】
上記したような触媒インクを、高分子電解質膜上にまたは本発明のガス拡散層上に、塗布して、各触媒層が形成される。この際、高分子電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。
【0089】
また、単位触媒塗布面積当たりの触媒含有量(mg/cm
2)は、特に制限されないが、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能などを考慮すると、0.01〜1.0mg/cm
2である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm
2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm
2以上である。なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm
2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm
2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、インクの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
【0090】
触媒層の厚みは触媒層(乾燥後)の厚みは、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。カソード触媒層およびアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
【0091】
(電解質膜)
電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0092】
電解質膜2は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
【0093】
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。これらの炭化水素系高分子電解質膜は、原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の利点がある。
【0094】
なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
【0095】
電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質膜の厚さは、通常は5〜200μm程度であり、あるいは、10〜30μm程度である。電解質膜の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。このように、電解質膜は一般に、薄膜であり、その薄さ故、損傷を外部から受け易い。よって仮に、先鋭な端部を含むガス拡散層が電解質膜に接触をし、当該電解質膜が損傷を受けてしまうと、クロスリークが発生する可能性がある。クロスリークが発生すると、発電性能の低下や、燃費の低下に繋がってしまう。
【0096】
これに対し、本発明の実施形態の構成によれば、ガス拡散層の外周領域の少なくとも一部の内部および/または外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂を配置してなる部位を有している。その樹脂によって、ガス拡散層における外側に向けて伸びている先鋭な端部から、電解質膜を保護する。そのことによって、発電性能の低下や、燃費の低下を抑制することができる。
【0097】
なお、
図2〜7に示した形態においては、当業者であれば、適宜組み合わせて適用することができる。例えば、ガス拡散層(4a、4c)の外周領域の、電解質膜2側の表層領域に、樹脂が配置されてなる部位Rを有しながら、端部や、表面に、樹脂が配置されてなる部位Rを有してもよい。このように、
図2〜7に示した形態を適宜組み合わせたりする形態を、本明細書は開示している。
【0098】
[膜電極接合体の製造方法]
本願発明においては、電解質膜の両側に少なくとも、触媒層と;マイクロポーラス層ならびに本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含む導電性のガス拡散層基材を含むガス拡散層と;をこの順で有する膜電極接合体の製造方法であって、前記ガス拡散層の少なくとも一方が、当該ガス拡散層に接触している触媒層より平面方向に大きな外周領域を有しており、かつ、当該ガス拡散層に接触している触媒層が、前記電解質膜より平面方向に小さく、前記外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂が配置されてなる部位を作製する工程を有する、膜電極接合体の製造方法が提供される。
【0099】
かような構成とすることで、電解質膜の損傷を有意に低減させることのできる、新規な構造の膜電極接合体を製造することができる。
【0100】
本発明の膜電極接合体の製造方法の一実施形態においては、ガス拡散層の少なくとも一方が、当該ガス拡散層に接触している触媒層より平面方向に大きな外周領域を有し、かつ、当該ガス拡散層に接触している触媒層が、電解質膜より平面方向に小さい。
【0101】
そして、本発明の膜電極接合体の製造方法の一実施形態においては、前記外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂が配置されてなる部位を作製する工程を有する。以下、より詳しく説明する。
【0102】
本発明の膜電極接合体の製造方法の好ましい実施形態においては、マイクロポーラス層と、本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含むガス拡散層基材とを積層することによってガス拡散層前駆体を準備する工程と;前記ガス拡散層前駆体の外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、前記樹脂を含浸させた後に、接触させる触媒層より平面方向に大きくなるように前記ガス拡散層として成形する工程と;を有する。
【0103】
まず、マイクロポーラス層と、本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含むガス拡散層基材とを積層することによってガス拡散層前駆体を準備する工程を説明する。
【0104】
マイクロポーラス層と、ガス拡散層基材との積層は、どのように積層してもよいが、ガス拡散層基材上にマイクロポーラス層を積層することが好ましい。例えば、以下のような方法がある。まず、カーボン粒子、撥水剤等を、溶媒中に分散させることによりスラリーを調製する。次に、前記スラリーを、本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含むガス拡散層基材上に塗布し乾燥させる。あるいは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを、本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含むガス拡散層基材上に塗布する。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施す。上記方法において、スラリーの調製に使用される溶媒としては、特に制限されない。例えば、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノールやエタノール等のアルコール系溶媒が好ましく使用できる。このようにして、樹脂がまだ配置されていない、「ガス拡散層前駆体」を作製する。なお、「ガス拡散層前駆体」は、市販品があればそれを購入して準備してもよい。
【0105】
続いて、前記ガス拡散層前駆体の外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、前記樹脂を含浸させた後に、接触させる触媒層より平面方向に大きくなるように前記ガス拡散層として成形する工程を行う。
【0106】
まず、
図8に示されるように、成形されるガス拡散層の外周領域に、樹脂が配置されてなる部位Rを有させるように、それに対応するガス拡散層前駆体の外周領域に、所望の形状(例えば、額縁状)の樹脂シートR’を配置することができる。あるいは、ガス拡散層前駆体(4a’,4c’)のガス拡散層となる部分にマスキングをして当該部位以外の領域に樹脂液を塗布することもできる。ここで、塗布の方法も従来公知の方法を適用することができ、例えば、アプリケータを使ったり、スクリーン印刷等の技術を使ったりすることができる。
【0107】
なお上記において、ガス拡散層前駆体のガス拡散層基材側に、樹脂シートを配置したり、樹脂液を塗布したりしてもよい。あるいは、ガス拡散層前駆体のマイクロポーラス層側に樹脂シートを配置したり、樹脂液を塗布したりしてもよい。ただし、ガス拡散層の外周領域の電解質膜への直接接触を抑制するためには、後者が好ましい。
【0108】
そして、
図8に示されるように、樹脂シートR’をガス拡散層前駆体(4a’,4c’)に配置した後、ガス拡散層前駆体(4a’,4c’)の外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂を含浸させる。その方法にも制限されない。例えば、樹脂として、熱可塑性樹脂を用いる場合、該熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱することによって、軟化した熱可塑性樹脂を自由に移動(含浸)させることが可能である。したがって、熱可塑性樹脂を流動化させ、その配置位置をより適した位置にコントロールさせることができる。また、樹脂シートや、塗布された樹脂の上から、圧力(必要に応じて温度)をかけながら、外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、前記樹脂を含浸させることもできる。なお、塗布で行う場合、塗布したくない部分に予めマスキングを行うことによって、所望の位置に前記樹脂を含浸させることができる。
【0109】
なお、樹脂シートの大きさや厚み、塗布量や塗布厚みは、どこにどの程度、樹脂が配置されてなる部位を作製したいかに応じて、適宜設計をすればよい。例えば、
図2に示されるように、外周領域の厚みと、樹脂の厚みとを一致させたい場合、それに必要なだけの樹脂シートの厚みや、塗布量、塗布厚みにすればよい。
図4に示されるように樹脂を内方に配置させたいのであれば、それに応じた大きさの樹脂シートを用意したり、マスキングの大きさを変えればよい。
図5に示されるような、表層領域に樹脂を配置させたい場合は、それに応じて樹脂シートの厚みや、塗布量、塗布厚みを変えればよい。また、
図6のように、外周領域の表面に樹脂を配置させたい場合、それに応じた厚さの樹脂シートを選んだり、その分、樹脂の塗布量を多くすればよい。あるいは、接着剤等を使って樹脂シートを表面のみに貼りあわせるだけでもよい。また、圧力および/または温度を調整して、樹脂が表面に残るように設計してもよい。
【0110】
続いて、樹脂を含浸させた後、接触させる触媒層より平面方向に大きくなるようにガス拡散層として成形する。成形の方法には、特に制限されないが、ガス拡散層が、当該ガス拡散層に接触する触媒層より平面方向に大きな外周領域を有するように打ち抜いたり、あるいは、少なくとも一辺ずつカットしたりすればよい。
【0111】
本実施形態においては、樹脂を配置した後にガス拡散層を成形する。本実施形態では、基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部が、樹脂によって前記基部に固定されている。そのため、前記基部から先鋭な部材が脱落することを抑制することができる。また、樹脂を浸透させているため、樹脂が接着剤の役割を果たし、基材と、マイクロポーラス層がより強固に接合するため、マイクロポーラス層の脱落が抑制される効果もある。加えて、マイクロポーラス層を構成する成分も、樹脂によって固定されているため、その成分自体が脱落することを抑制するという効果もある。このように、ガス拡散層を成形した時または成形した後に、ガス拡散層を取り扱う際、マイクロポーラス層や、先鋭な部材の脱落を抑制することができるため、信頼性の高い燃料電池の提供が可能となる。
【0112】
また、本発明の膜電極接合体の製造方法の他の好ましい実施形態によれば、マイクロポーラス層と、本体をなす基部および前記基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部を含むガス拡散層基材とを積層することによってガス拡散層前駆体を準備する工程と;前記ガス拡散層前駆体を、前記ガス拡散層が接触する触媒層より平面方向に大きくなるように成形する工程と;前記成形されたガス拡散層前駆体の外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、前記樹脂を含浸させる工程と;を有する。
【0113】
本実施形態では、ガス拡散層前駆体を、ガス拡散層が接触する触媒層より平面方向に大きくなるように成形した後、成形されたガス拡散層前駆体の外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、前記樹脂を含浸させる。以下、説明する。
【0114】
ガス拡散層前駆体を準備する工程については上記と同様である。
【0115】
続いて、ガス拡散層前駆体を、ガス拡散層が接触する触媒層より平面方向に大きくなるように成形する。成形の方法については上記と同様である。
【0116】
その後、
図9に示されるように、成形されたガス拡散層前駆体(4a’,4c’)の外周領域に、額縁状の樹脂シートR’を配置する。無論、上記のように、樹脂液を塗布し、樹脂を含浸させてもよい。樹脂シートを配置したり、樹脂液を塗布したりする方法や、前記樹脂を含浸させる方法については上記と同様である。
【0117】
本実施形態では、予めガス拡散層前駆体を成形する。そうすると、基部の外面よりも外側に向けて伸びている先鋭な端部が多くなる傾向にある。しかし、本実施形態であれば、樹脂が、先鋭な端部を被覆する。これによって、ガス拡散層の電解質膜への直接接触を抑制することができる。それはひいては、膜電極接合体を製造する際、あるいは、燃料電池の運転中に、当該先鋭な端部が脱落することを抑制し、信頼性の高い燃料電池を提供することが可能となる。
【0118】
なお、
図9に示される形態では、樹脂を含浸させるガス拡散層前駆体よりも、平面方向に大きな樹脂シートを使用している。そのため、
図7に示されるような、ガス拡散層の外周領域において、その端部にも樹脂が配置されてなる部位を有させることができる。このように、本発明であれば、ガス拡散層の外周領域の内部、表面だけではなく、端部にも自由自在に、樹脂が配置されてなる部位を有させることができる。
【0119】
なお、膜電極接合体は、電解質膜の両側に少なくとも、触媒層と;本発明のガス拡散層と;をこの順で有するように製造できれば、他は、従来公知の方法を使用あるいは組み合わせることで行うことができる。例えば、電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、本発明の樹脂が配置されてなる部位を有するガス拡散層を接合する方法がある。あるいは、ガス拡散層のマイクロポーラス層面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
【0120】
<燃料電池>
本発明においては、上記の膜電極接合体または上記の製造方法によって製造されてなる膜電極接合体が、ガス流路を有するセパレータによって挟持されてなる、燃料電池も提供される。
【0121】
上記のように、ガス拡散層の外周領域の少なくとも一部の内部および/または前記外周領域の少なくとも一部の表面に、樹脂が配置されてなる部位を有する。そのため、その樹脂によって、ガス拡散層における外側に向けて伸びている先鋭な端部から、電解質膜を保護する。そのことによって、発電性能の低下や、燃費の低下を抑制することができる。
【0122】
[セパレータ]
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
【0123】
燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池(PEFC)を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
【0124】
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0125】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
【0126】
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【実施例】
【0127】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0128】
<実施例1(絶縁性樹脂をガス拡散層の内部に配置;固体絶縁物を溶融し含浸)>
GDL(ガス拡散層)の作製は、以下の手順により行った。
【0129】
まず、ガス拡散層前駆体(SGLカーボン社製25BC)を準備した。このガス拡散層前駆体は、ガス拡散層基材(カーボンペーパ、5重量%PTFE含有、厚さ225μm)と、マイクロポーラス層(厚み35μm)とからなっており、ガス拡散層基材は、カーボンペーパであり、外側に向けて伸びている先鋭な端部を備える。
【0130】
そのガス拡散層前駆体を所定の寸法に切り出した。
【0131】
他方、当該ガス拡散層前駆体より大きい寸法に切り出した絶縁性樹脂シート(低密度ポリエチレンシート)を準備した。それを当該ガス拡散層前駆体より小さい寸法を(不要部分として)打ち抜き、額縁状の絶縁性樹脂シートを作製した。
【0132】
切り出されたガス拡散層前駆体のマイクロポーラス層側に、額縁状の絶縁性樹脂シートを積層し、150℃、0.2MPa、10分の条件でホットプレスし、絶縁性樹脂をガス拡散層前駆体の外周領域の内部に含浸させた。
【0133】
このようにして、ガス拡散層の外周領域に、ガス拡散層と同様の厚さを有する樹脂が配置されてなる部位を有するガス拡散層を作製した。
【0134】
なお、実施例1では、予めガス拡散層前駆体を所定の寸法に切り出したが、絶縁性樹脂をガス拡散層前駆体の外周領域の内部に含浸させた後、所定寸法に切り出すことによって、ガス拡散層としてもよい。
【0135】
<実施例2(絶縁性樹脂をGDL内部に配置;溶液の絶縁性樹脂を塗布し含浸)>
まず、ガス拡散層前駆体(SGLカーボン社製25BC)を準備した。
【0136】
続いて、クラレ社製セプトン(型番:SEBS8004)とトルエンを1:10の重量比で混合し、80℃で混合操作を行い、9%固形分濃度の絶縁性樹脂溶液を作製した。なお、セプトン(型番:SEBS8004)は、ポリスチレンブロックと柔軟なポリオレフィン構造のエラストマーブロックで構成されており、ジブロックとトリブロックの2種類を基本とするブロック共重合体である。
【0137】
続いて、ガス拡散層の中央部に相当する、ガス拡散層前駆体のマイクロポーラス層側の部位に、溶液の絶縁性樹脂が含浸しないようマスキングした後、アプリケータを用いてセプトン溶液をマスキング面から塗布を行い、樹脂を含浸させた。
【0138】
その後、マスキングを剥離し、オーブンで80℃、空気雰囲気、15分間乾燥を行い、ガス拡散層と同様の厚さを有する、外周領域に樹脂が配置されてなる部位を作製した。
【0139】
その後、ガス拡散層前駆体を、所定の寸法に切り出した。
【0140】
なお、実施例2では、溶液の絶縁性樹脂をアプリケータにより塗布、含浸しガス拡散層を作製したが、スクリーン印刷等の別の方法でガス拡散層の外周領域に塗布、含浸を行ってもよい。
【0141】
<実施例3(絶縁性樹脂をガス拡散層内部及び表面に配置;溶液の絶縁性樹脂を塗布し含浸および表面に配置)>
実施例2と同様の手順で作製したセプトンのトルエン溶液をマスキング面から塗布を行ってガス拡散層のマイクロポーラス層上にもセプトン樹脂部材(10μm)を配置した以外は、実施例2と同様にしてガス拡散層を作製した。
【0142】
<比較例(樹脂含浸無し)>
SGLカーボン社製25BCを使用し、絶縁性樹脂が含浸されていないガス拡散層を比較例として準備した。
【0143】
<最大突き刺し応力評価方法>
ガス拡散層と、電解質膜とを下記3層構造となるように積層した評価試料を作製した。
【0144】
<評価用試料構成>
(実施例1)
実施例1で作製したガス拡散層―電解質膜(デュポン社製NRE211)―比較例ガス拡散層(SGLカーボン社製25BC)
(実施例2)
実施例2で作製したガス拡散層―電解質膜(デュポン社製NRE211)―比較例ガス拡散層(SGLカーボン社製25BC)
(実施例3)
実施例3で作製したガス拡散層―電解質膜(デュポン社製NRE211)―比較例ガス拡散層(SGLカーボン社製25BC)
(比較例)
比較例ガス拡散層(SGLカーボン社製25BC)―電解質膜(デュポン社製NRE211)―比較例ガス拡散層(SGLカーボン社製25BC)
<最大突き刺し応力測定>
作製した評価用試料と、直径0.5mm炭素棒とを材料試験機(島津製作所製AUTOGRAPH AG−X)にセットし、作製したガス拡散層の外周領域の表面から炭素棒を1.00mm/分の速度で突き刺し試験を行った。突き刺し試験時の最大荷重を計測し、炭素棒の断面積を除することにより最大突き刺し応力を算出した。結果を
図10に示す。なお、炭素棒は、ガス拡散層基材を構成するカーボン繊維を想定している。
【0145】
図10に示されるように、比較例の構成であると、実施例の構成と比較し、最大突き刺し応力が弱い。これに対し、実施例の構成ではいずれも、比較例の構成よりも最大突き刺し応力が強い。これは、ガス拡散層の先鋭な部材の突き刺しが困難(つまり、電解質膜へのダメージを与えにくい)ことを示唆している。
【0146】
よって、膜電極接合体において、ガス拡散層が、ガス拡散層に接触している触媒層より平面方向に大きな外周領域を有しており、かつ、当該ガス拡散層に接触している触媒層が、前記電解質膜より平面方向に小さい場合であっても、以下の効果がある。すなわち、樹脂によって、ガス拡散層における外側に向けて伸びている先鋭な端部から、電解質膜を保護する。そのことによって、発電性能の低下や、燃費の低下を抑制することができることが示唆される。