(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マイクロ波の伝播方向と略垂直な面にスリットを備えたマイクロ波空洞共振器と、シート状試料を保持し、前記スリットに挿設可能な試料保持手段と、前記スリットにおいて、前記試料保持手段の外形に嵌め合わせて当該試料保持手段を所定の相対回転位置に係止する係止手段と、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測手段とを備えた試料測定装置による試料測定方法であって、
前記試料保持手段により、前記シート状試料を保持する保持工程と、
前記係止手段に嵌め合わせて前記試料保持手段を所定の相対回転位置に係止する係止工程と、
前記計測手段により、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測工程と、
を含み、
前記保持工程において、前記シート状試料を保持した前記試料保持手段を所定の角度で回転させて、その都度、前記係止工程と前記計測工程とを実施することを特徴とする試料測定方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、シート状試料の分子配向を求める方法として、X線解析法、超音波法、力学的破断強度法、複屈折法が知られている。しかしながら、X線解析法は、装置が大掛かりとなり、測定に時間と手間が掛かり、結晶部分の分子配向しか解析することができないという問題がある。また、超音波法は、比較的大きな試料が必要であり、接触状態および含有水分の影響を受けやすく、試料が薄いシート状である場合に測定が困難になるという問題がある。また、力学的破断強度法は、サンプリングと測定に時間がかかり、破壊測定であることから測定済みの試料を他の測定に用いることができないという問題がある。また、複屈折法は、試料に色が付いている場合や試料が不透明である場合に、測定することができないという問題がある。
【0003】
これらの方法に対して、マイクロ波法は、誘電率の異方性からシート状試料の分子配向を測定する方法であり、矩形マイクロ波空洞共振器に設けられたスリットにシート状試料を挿入し、試料が1回転している間の透過マイクロ波強度を極座標にプロットすることで、分子配向を取得する方法である(例えば、特許文献1)。マイクロ波法は、2軸延伸フィルムの分子配向を測定する手段として用いられているが、試料を回転させるためにモータなどの回転機構が必要であり、測定装置の構造が複雑になるという問題がある。
【0004】
また、一方で、高分子フィルムの結晶化度の測定についても種々の方法が考案されており、実際によく用いられている測定方法として、X線解析法、DSC(示差走査熱量分析)法および密度法がある。X線解析法は、結晶格子間の距離とブラッグ角との関係により回折したX線が同じ位相になり、強め合うことを利用した方法であるが、結晶面の同定など測定の準備も含め、測定に多大な時間と労力がかかるという問題がある。また、DSC法は、試料の融解熱量と完全結晶の融解熱量の比から結晶化度を算出する方法であるが、X線解析法と同様に、測定に多くの時間と労力がかかるという問題がある。
【0005】
また、密度法は既知である結晶および非晶の密度と測定した試料の密度から結晶化度を算出する方法である。密度法においては、一般に、密度勾配管が用いられる。密度勾配管は比重の重い液体と軽い液体とを用いて細長いガラス管内で密度を連続的に変化させたものであり、密度法では、この密度勾配管の上から試料片を入れ、試料片が沈降後に密度が釣り合い、停止した位置で目盛り(密度)を読むことで、試料の密度を測定する。しかしながら、試料片が沈降して完全に停止するまでに1時間程度の時間を要し、また試料の種類が多いとその識別が困難であり、特に透明フィルムの場合には試料片を見つけにくいなど、時間と労力がかかるという問題がある。
【0006】
これらの方法に対して、誘電損失率から検量線を用いて結晶化度を測定する方法が、上述の分子配向を求める方法の1つであるマイクロ波法の応用として考案されているが、異方性を相殺した、より精確な結晶化度を測定するために、試料を回転させるモータなどの回転機構を具備させる必要があり、機構が複雑かつ高価なものになるという問題がある(特許文献2)。
【0007】
一方、シート状試料に含まれる微量水分を測定する方法として、上記マイクロ波法と同様に、矩形マイクロ波空洞共振器を用いる方法が考案されている。この方法は、水の誘電損失率が約13(4GHz、25℃)と、他の物質に比べて格段に大きいことを利用したもので、例えば、フィルム上に水溶性物質を塗布し、乾燥工程後の微量な残留水分を管理するのに用いられている。この方法においては、中央部にスリット、また、そのスリットにシート状試料を保持する機構を備えた矩形マイクロ波空洞導波管を用いることで、シート状試料が無い場合と有る場合との共振ピークレベルの差から水分を測定している(特許文献3)。しかしながら、この水分測定装置(微量水分計)は、回転機構を有していないことから、試料の分子配向や異方性を相殺した結晶化度の測定に用いることができないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、分子配向に関して、上述の矩形マイクロ波空洞共振器を用いたマイクロ波法では、測定装置の構造が複雑になるという問題があった。そのために、簡便に試料を回転させて、回転角度の位置決めができるようにすることが課題となっていた。また、結晶化度に関して、マイクロ波法を応用した誘電損失率から検量線を用いて結晶化度を測定する方法においても、異方性を相殺した結晶化度を測定する上で、試料の回転機構などを追加する必要があり、構造が複雑で高価なものになるという問題があることから、構造が簡単でかつ簡便に結晶化度を測定することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、発明者らは、矩形マイクロ波空洞共振器を用いた水分測定装置の試料ホルダやそれに付随する装置(手段)、また水分測定装置の形状などを工夫することによって、分子配向や異方性を相殺した結晶化度も簡便に測定することが可能な試料測定装置を考案した。
【0011】
本発明の第1の実施形態に係る試料測定装置は、マイクロ波の伝播方向と略垂直な面にスリットを備えたマイクロ波空洞共振器と、シート状試料を保持し、前記スリットに挿設可能な試料保持手段と、前記スリットにおいて、前記試料保持手段を所定の位置に係止する係止手段と、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測手段とを備え、前記スリットに挿設した前記試料保持手段を所定の角度で回転させた場合において、前記試料保持手段を、前記係止手段により所定の位置に係止することができる。
【0012】
また、前記試料保持手段は正N角形(Nは3以上の整数)の形状を有し、前記係止手段は、前記正N角形の少なくとも2辺の少なくとも一部に係合するように形成されるものとすることができる。
【0013】
また、前記マイクロ波空洞共振器は矩形の断面形状を有し、前記試料保持手段に前記矩形の断面形状より大きな孔部が形成され、前記シート状試料は前記試料保持手段により前記孔部を覆うように保持されるものとすることができる。
【0014】
本発明の第2の実施形態に係る試料測定装置は、マイクロ波の伝播方向と略垂直な面にスリットを備えたマイクロ波空洞共振器と、シート状試料を取り付ける試料取り付け手段と、前記試料取り付け手段を保持し、前記スリットに挿設可能な試料保持手段と、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測手段とを備え、前記試料取り付け手段を所定の角度で回転させた場合において、前記試料取り付け手段を、前記試料保持手段により保持することができる。
【0015】
また、前記マイクロ波空洞共振器は矩形の断面形状を有し、前記試料取り付け手段は、前記矩形の断面形状より大きな正N角形の形状を有し、前記試料保持手段は、一対のプレートで構成され、一方に前記正N角形と同一の形状の孔部を、他方に前記矩形の断面形状より大きく、前記正N角形の孔部より小さい円形の孔部を有するものとすることができる。
【0016】
また、前記試料取り付け手段は、前記試料保持手段が有する前記正N角形の孔部に嵌合されることで保持されるものとすることができる。
【0017】
本発明の第3の実施形態に係る試料測定装置は、一対の矩形導波管により鉛直方向に構成されるマイクロ波空洞共振器であって、前記一対の矩形導波管によりマイクロ波の伝播方向と略垂直な面に形成されるスリットを有するマイクロ波空洞共振器と、シート状試料を載置する試料台であって、前記矩形導波管の下方を格納し、前記スリットの側の底面に前記矩形導波管の矩形の断面形状より大きな円形の孔部を有し、当該孔部の周縁部に所定の角度で角度目盛りが付され、前記孔部を覆うように前記シート状試料を載置するように構成された試料台と、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測手段とを備え、前記シート状試料を前記所定の角度で回転させて、前記試料台に載置することができる。
【0018】
また、本発明の第1の実施形態に係る試料測定装置による試料測定方法は、マイクロ波の伝播方向と略垂直な面にスリットを備えたマイクロ波空洞共振器と、シート状試料を保持し、前記スリットに挿設可能な試料保持手段と、前記スリットにおいて、前記試料保持手段を所定の位置に係止する係止手段と、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測手段とを備えた試料測定装置による試料測定方法であって、前記試料保持手段により、前記シート状試料を保持する保持工程と、前記係止手段により、前記試料保持手段を所定の位置に係止する係止工程と、前記計測手段により、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測工程とを含み、前記保持工程において、前記シート状試料を保持した前記試料保持手段を所定の角度で回転させて、その都度、前記係止工程と前記計測工程とを実施する。
【0019】
また、本発明の第2の実施形態に係る試料測定装置による試料測定方法は、マイクロ波の伝播方向と略垂直な面にスリットを備えたマイクロ波空洞共振器と、シート状試料を取り付ける試料取り付け手段と、前記試料取り付け手段を保持し、前記スリットに挿設可能な試料保持手段と、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測手段とを備えた試料測定装置による試料測定方法であって、前記試料取り付け手段により、前記シート状試料を取り付ける試料取り付け工程と、前記試料保持手段により、前記試料取り付け手段を保持する保持工程と、前記保持工程において、前記試料取り付け手段を保持した前記試料保持手段を前記スリットに挿設する挿設工程と、前記計測手段により、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測工程とを含み、前記保持工程において、前記試料取り付け手段を所定の角度で回転させて保持し、その都度、前記挿設工程と前記計測工程とを実施する。
【0020】
また、本発明の第3の実施形態に係る試料測定装置による試料測定方法は、一対の矩形導波管により鉛直方向に構成されるマイクロ波空洞共振器であって、前記一対の矩形導波管によりマイクロ波の伝播方向と略垂直な面に形成されるスリットを有するマイクロ波空洞共振器と、シート状試料を載置する試料台であって、前記矩形導波管の下方を格納し、前記スリットの側の底面に前記矩形導波管の矩形の断面形状より大きな円形の孔部を有し、当該孔部の周縁部に所定の角度で角度目盛りが付され、前記孔部を覆うように前記シート状試料を載置するように構成された試料台と、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測手段とを備えた試料測定装置による試料測定方法であって、前記シート状試料を前記試料台の前記孔部の周縁部に載置する載置工程と、前記計測手段により、共振周波数または共振ピークレベルを計測する計測工程とを含み、前記シート状試料を前記所定の角度で回転させて、その都度、前記載置工程と前記計測工程とを実施する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、矩形マイクロ波空洞共振器を用いたシート状試料の測定装置において、高分子フィルムなどのシート状試料の誘電率の異方性から分子配向を、またQ値(共振の鋭さ)の異方性を相殺した結晶化度の測定も、簡易な構造で、簡便に行うことができる。
【0022】
また、本発明によれば、シート状試料を、前記矩形マイクロ波空洞共振器のスリットに視認性のよい状態で載置することによって、試料を回転させることが可能となり、簡便かつ精確に、分子配向や異方性を相殺した結晶化度を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る試料測定装置10を含む、試料測定システム1の構成図を示す。試料測定システム1は、主に、試料測定装置10、試料測定装置10の外部に設けられたネットワークアナライザ20、およびコンピュータ30から構成される。
【0026】
試料測定装置10は、その内部に、矩形マイクロ波空共振器を備える。ネットワークアナライザ20は、本発明の計測手段に対応し、マイクロ波を発振する発振部と、共振エネルギーを検出する検出部を備える。コンピュータ30は、ネットワークアナライザ20から送信される信号を処理する。なお、
図1では、ネットワークアナライザ20を、試料測定装置10と別体として示しているが、試料測定装置10にネットワークアナライザ20の機能を持たせて一体化し、試料測定装置10とすることもできる。また、試料測定装置10は、試料に含まれる微量水分を測定することもできる(すなわち、試料測定装置10は、水分測定装置にも適用することができる)。
【0027】
矩形マイクロ波空洞共振器100は
図2に示すように一対の矩形導波管102(102A、102B)により構成され、マイクロ波の伝播方向と略垂直な面にスリット(ギャップ部)104が形成されている。そして、このスリット104に、例えば、ポリエステルの一種であるPET(ポリエチレンテレフタレート)などの高分子樹脂をシート状に成型したシート状試料106が、
図3に示すような、正N角形(
図3に示す例では正五角形で、Nは3以上の整数)の試料保持手段としての試料ホルダ108に、(テープなどの取り付け部材(不図示)で取り付けられた後に)保持された状態で挿入(挿設)される。なお、試料測定装置10には、試料ホルダ108が試料測定装置10の内部(スリット104)に挿入されたときに、その位置を確定かつ固定するための、試料ホルダ108の
外形形状である正N角形の少なくとも2辺の少なくとも一部
が嵌め合わされて係合するように形成されたストッパ(係止手段)110が設けられている。また、本実施形態では、その例示として、試料ホルダ108を正N角形の形状として説明するが、後述のように、シート試料を固定し、所定の角度で回転させることが可能な形状(例えば、星型などの形状)であればよく、これに限定されることはない。この場合、ストッパ110も、試料ホルダ108を
嵌め合い係合されて係止可能な形状として形成される。
【0028】
また、
図3に示すように、試料ホルダ108には、矩形導波管102から出力されるマイクロ波がシート状試料106に直接、照射されるように、矩形導波管102の矩形の断面形状より大きな円形の孔部112が設けられている。なお、試料ホルダ108の材質としては、マイクロ波の反射を可能な限り低減し、反射波が測定値に影響を及ぼさないようにするため、誘電率の小さい材質であることが好ましい。具体的には、テフロン(登録商標)、ポリカーボネート、硬質塩化ビニル、ポリアセタール、超高分子量ポリエチレン、MCナイロンなどが好ましい。また、後述の実施形態2の試料ホルダにおいても、同様の材質を用いることができる。
【0029】
矩形マイクロ波空洞共振器100には、ネットワークアナライザ20から発振された4GHz帯のマイクロ波が入力され、共振周波数を中心に100MHz程度の掃引幅をもって掃引される。掃引は、約0.3秒毎に繰り返され、その都度、共振ピーク周波数および共振ピークレベルが検出され、コンピュータ30に送信される。
【0030】
なお、ネットワークアナライザ20では、共振周波数および共振ピークレベルに加えて、Q値(共振の鋭さ)も計測される。ここで、共振ピークレベルとQ値の関係は、下記(1)式で示される。
Δ(1/Q)=(1/Q
0)・((P
0/P
S)
0.5−1) (1)
ここで、
Δ(1/Q)=1/Q
S−1/Q
0 (2)
ただし、 Q
0 : 試料がないときのQ値
Q
S : 試料があるときのQ値
P
0 : 試料挿入前の共振ピークレベル
P
S : 試料挿入後の共振ピークレベル
【0031】
上式に示される、共振ピークレベルとQ値は、いずれも試料におけるマイクロ波エネルギーの吸収量と関係があり、具体的には、Q値は、共振周波数を、共振カーブのピークから半分(3デシベル下)のレベルにおける周波数半値幅で除した値であり、これが結果的に、矩形マイクロ波空洞共振器に蓄えられている共振エネルギーと試料内部で消費されるエネルギーの比に相当する。よって、試料におけるマイクロ波エネルギーの吸収量が大きいほど、共振ピークレベルが下がり、Q値も下がることになる。
【0032】
また、ここで、誘電損失率ε”は、以下の式によって求めることができる。
ε”=(A/d)((1/Q
S)−(1/Q
0) (3)
ただし、 Q
0: 試料がないときのQ値
Q
S: 試料があるときのQ値
d: 試料の厚み(mm)
A: 装置定数
【0033】
さらに、誘電損失率ε”と結晶化度は、(特許文献2に記載されているように)一次の対応関係が認められており、例えば、
図4のPETフィルムの検量線に示されるように、非晶部(アモルファス)で誘電損失率が大きく、結晶部において誘電損失率がおおよそゼロになることから、一般に、負の比例関係で示される。
【0034】
したがって、結晶化度は、試料の厚みdとQ値から誘電損失率ε”を計算することで、求めることができる。また、試料の厚みが等しい材料の結晶化度を比較する場合、Q値のみを測定すれば、誘電損失率ε”と結晶化度の関係を考慮することで、いずれの結晶化度が高いかを瞬時に判別することができる。すなわち、試料の厚みが同じであれば、Q値の高い試料の方が、結晶化度が高いことになる。このように、誘電損失率を測定する代わりに、Q値のみを測定することで、結晶化度の比較が可能となる。
【0035】
但し、誘電損失率は、分子運動に基づくエネルギー吸収に関する物質定数であり、周波数、温度によっても当然に変化し、また試料が高分子の場合には一般的にその方向によっても変化する。特に、試料測定装置10のような試料測定装置で、シート状試料106を測定する場合、マイクロ波の電界がシートの面方向に平行にかかるため、分子配向(配向性)によって誘電率および誘電損失率に異方性(方向依存性)が現れる。また、この場合、上述の誘電損失率とQ値の関係から、Q値もシート面内における方向により変化することとなる。このことから、より精確に結晶化度を測定するには、Q値の異方性を相殺(キャンセル)する必要がある。
【0036】
そこで、発明者らはシート状試料106を一定の角度で回転させ、各角度において測定したQ値を平均化することにより、Q値の異方性を相殺することを考えた。具体的には、試料ホルダ108を、シート状試料106を保持した状態で、測定時において、その都度、一定の角度で
相対回転し、その試料ホルダ108を試料測定装置10の内部に設けられたストッパ110に
嵌め合い係合されて係止されるまで挿入することで、
回転角度位置を簡便に位置決めし、Q値を測定する。そして、この測定されたQ値を平均化し、Q値の異方性を相殺する。なお、この場合、正N角形のNの数を増やすことで、回転角度が細かくなることから、より精度の向上が期待できる。
【0037】
以下、本発明の第1の実施形態の具体的な実施例について説明する。
【0038】
(第1実施例)
第1の実施例では、
図1のような構成において、シート状試料106の結晶化度を、Q値を用いて比較した。結晶化度は、前述のようにQ値と相関があり、厚みが同じであれば、Q値が大きいほど高くなる。シート状試料106として、市販のPETフィルムA(厚み100μm)を
図3に示すような正五角形の試料ホルダ108で孔部112が覆われるように保持し、試料測定装置10の挿入口からストッパ110に係止される位置まで挿入した上で、ネットワークアナライザ20によりQ値を測定した。
【0039】
このときのQ値は5193として測定され、その値をQ
1とした。次に、試料ホルダ108を試料測定装置10から一旦取り出して、シート状試料106を保持した状態で72度向きを回転させて(
図3において、例えば「A」から「B」に回転させて)、再度、試料測定装置10の挿入口からストッパ110により係止される位置まで挿入し、Q値を測定した。このときのQ値は5172として測定され、その値をQ
2とした。同様の手順で試料ホルダ108を回転させ、Q
3、Q
4、Q
5に関して測定すると、Q
3は5185、Q
4は5214、Q
5は5181と測定された。この場合、Q
1、Q
2、Q
3、Q
4、Q
5の平均値は、5189となった。
【0040】
次に、PETフィルムAと同じ厚み(厚み100μm)のPETフィルムBに関して、PETフィルムAと同様に、Q値を測定し、さらに平均値を計算した結果、Q
1、Q
2、Q
3、Q
4、Q
5の平均値は、5073となった。このことから、PETフィルムAのQ値の平均値の方がPETフィルムBのQ値の平均値よりも大きく、PETフィルムAの方がPETフィルムBよりも結晶化度が高いことが分かった。
【0041】
(第2実施形態)
本実施形態では、
図5に示すように、上述の第1実施形態の矩形マイクロ波空洞共振器100と同様の構成の矩形マイクロ波空洞共振器120を用いて、シート状試料126の分子配向を測定する。従来から分子配向は屈折率の異方性から測定されており、また、高周波領域において、屈折率、また誘電率は同じ電子分極に起因し、屈折率の2乗が誘電率に相当することから、分子配向は誘電率の異方性からも測定することができる。
【0042】
屈折率の異方性に基づく分子配向の測定において、屈折率の最大となる方向が分子鎖の並んでいる方向であり、異方性の程度は複屈折Δn(屈折率の最大と最小の差)で表される。同様に、誘電率の異方性に基づく分子配向の測定においても、誘電率の最大となる方向が分子鎖の並んでいる方向であり、異方性の程度はΔε(誘電率の最大と最小の差)で表される。
【0043】
また、本実施形態において、シート状試料126を、矩形マイクロ波空洞共振器120のスリット124に挿入すると、共振周波数は低周波側にシフトするが、このシフト量Δfがシート状試料126の厚みと誘電率との積に比例する。したがって、シフト量Δfを計算することで、分子配向を確認することができる。ただし、この誘電率は、矩形マイクロ波空洞共振器120内の電界の向き(電界の伝播方向)の誘電率に対応するため、全方位の誘電率に対応したシフト量Δfを取得するには、矩形マイクロ波空洞共振器120またはシート状試料126のいずれかを回転させる必要がある。
【0044】
そこで、本実施形態では、
図6に示すような、硬質塩化ビニル、ポリカーボネートなどで生成された、
外形が正N角形(
図6に示す例では正八角形で、Nは3以上の整数)の試料取り付け板130(130A)に、シート状試料126をテープなどの取り付け部材132で取り付け、試料取り付け板130Aおよび130Bにより両側から挟持した後に、測定時において、
その試料取り付け手段としての試料取り付け板130を、その都度、
相対回転させて、試料取り付け板130を試料ホルダ128(128A)で保持することで、シート状試料126を回転させる。なお、
図6に示すように、試料ホルダ128は上部128Aと下部128Bの一対の樹脂製のプレートで構成され、試料ホルダ128の上部128Aの正N角形の孔部134は、矩形導波管122の矩形の断面形状よりも大きく、試料取り付け板130と同一の形状(正N角形)で形成され、下部128Bには、矩形導波管122の矩形の断面形状よりも大きく、上部128Aの正N角形の孔部134より小さい円形の孔部136が形成される。また、試料取り付け板130は、上部128Aと下部128Bが組み合わされた試料ホルダ128の上部128A側に形成された正N角形の孔部134に嵌め込まれる(嵌合される)ことで、試料ホルダ128に保持される。このように、試料取り付け板130(シート状試料126)を回転させて、共振周波数を測定することで、各々に関して共振周波数のシフト量Δfを算出する。
【0045】
そして、この算出したシフト量Δfを極座標上にプロットし、楕円近似をかけることで、
図7のような楕円パターンを取得する。
図7において、楕円の長軸方向の最大となる方向が誘電率の最大となる方向であり、すなわち、分子鎖が並んでいる方向となる。また、配向の程度は、
図7に示す楕円パターンの長軸と短軸の比、または差で表すことができる。
なお、誘電率は、以下の式を用いて、算出される。
ε’=1+(A/d)(f1−f2)/(f1−γ) (4)
ただし、f1: 試料がないときの共振周波数(MHz)
f2: 試料があるときの共振周波数(MHz)
γ: ギャップ補正値(MHz)
d: 試料の厚み(mm)
A: 装置定数
【0046】
以下、本発明の第2の実施形態の具体的な実施例について説明する。
(第2実施例)
図1のような構成において、シート状試料126の分子配向を測定した。先ず、前述の
図6に示すような、正八角形の試料取り付け板130にシート状試料126を取り付けない状態で、試料取り付け板130を長方形の試料ホルダ128の上から正八角形の孔部134に合わせて嵌め込み、試料ホルダ128および試料取り付け板130を一体とした状態で、試料測定装置10の内部に挿入した。この状態で、ネットワークアナライザ20を用いて、シート状試料126を挿入していない場合(すなわち、ブランク時)における共振周波数を測定した。そして、この測定された値をf
0とした。
【0047】
次に、測定対象とするシート状試料126の基準方向を決定し、ブランク時の測定に用いた試料取り付け板130と同一の、正八角形の試料取り付け板130に、テープ(取り付け部材)132によりシート状試料126を取り付け、両側から挟持した状態で、試料取り付け板130を試料ホルダ128の上から正八角形の孔部134に嵌め込み、試料ホルダ128、試料取り付け板130およびシート状試料126を一体とした状態で、試料測定装置10の内部に挿入した。この状態で、ネットワークアナライザ20を用いて、シート状試料126を挿入した場合における共振周波数を測定した。そして、この測定された値をf
s1とした。
【0048】
さらに、試料ホルダ128を試料測定装置10から取り出し、正八角形の試料取り付け板130を基準方向に対して45度回転させて、再度、試料ホルダ128に嵌め込み、同様に共振周波数を測定した。そして、この測定された値をf
s2とした。同様に、試料取り付け板130を45度ずつ回転させて、f
s3、f
s4まで測定し、各々に関して、共振周波数のシフト量Δfを計算した。
【0049】
なお、共振周波数のシフト量Δfは、ブランク時における共振周波数f
0とシート状試料126が試料測定装置10に挿入された状態における共振周波数f
sとの差(Δf=f
0−f
s)で表される。これを、Δf
s1(Δf
s1=f
0−f
s1)からΔf
s4(Δf
s4=f
0−f
s4)まで計算し、Δf
s1、Δf
s2、Δf
s3、Δf
s4を点として、極座標上にプロットした。また、第2実施例において、Δf
s5、Δf
s6、Δf
s7、Δf
s8を同様に計算すると、Δf
s5、Δf
s6、Δf
s7、Δf
s8は、極座標上において、原点位置に対して、各々、Δf
s1、Δf
s2、Δf
s3、Δf
s4と点対称となる位置に計算されるため、それらを計算された位置にプロットした。以上の8点のΔfを極座標上にプロットし、楕円近似をかけることで、
図8のような分子配向を取得した。
図8に示す分子配向において、配向角度は基準方向と楕円の長軸との成す角度として、また配向度は長軸と短軸との比として算出することができた。
【0050】
(第3実施形態)
前述のように、厚みが同じ試料に関して、Q値を測定することで、簡便に結晶化度を比較することができるが、より精確に結晶化度を比較するためには(すなわち、異方性を相殺して結晶化度を比較するためには)、シート状試料を所定の角度で回転させてQ値を測定し、その平均をとる必要がある。また、シート状試料を測定装置に挿入しないときの共振周波数と挿入したときの共振周波数との差(シフト量)からシート状試料の分子配向を測定する場合も、シート状試料を所定の角度で回転させる必要がある。
【0051】
そこで、本実施形態では、モータなどの回転機構を具備させることなく、試料を手動により簡便に回転させることが可能な試料測定装置について説明する。
図9に示されるように、試料測定装置11は、矩形マイクロ波空洞共振器140を鉛直方向に構成する矩形導波管142のうちの一方(
図9では、下方)を格納し、かつマイクロ波の伝播方向と略垂直な面に形成されるスリット144側の底面に、矩形導波管142の矩形の断面形状より大きな円形の孔部150を有する試料台152を設置し、さらに、その円形の孔部150の周縁部154に角度目盛り156を付し、測定者がシート状試料146を確認しながら、任意の角度に基づいて、シート状試料146を回転させて載置し、測定できるようにする。これにより、結晶化度を測定する場合には、所定の角度でシート状試料146を回転させながらQ値を測定し、その平均を計算することで、Q値の異方性を簡便に相殺することができる。また、分子配向を測定する場合には、所定の角度でシート状試料146を回転させながら共振周波数を測定し、試料台152にシート状試料146を載置していない状態で測定した共振周波数との差(シフト量)の異方性から分子配向を簡便に測定することができる。さらに、シート状試料146を試料台152に載置できることから、視認性のよい状態で測定することができる。なお、シート状試料146は、円形の孔部150の周縁部154に載置するために、その円形の孔部150の周縁部154の形状に沿うように円形で形成され、その外周部には角度目盛り156と位置合わせすることが可能な目印が付されていることが好ましい。また、
図9において、上方に位置する矩形導波管142を格納する筺体(ケース)158は、測定時において角度目盛り156が視認できるように逆三角形の形状で形成される。
【0052】
以下、本発明の第3の実施形態の具体的な実施例について説明する。
【0053】
(第3実施例)
図9のような試料台152を備えた試料測定装置11を用いて、シート状試料146の分子配向を測定した。なお、試料台152として、円形の孔部150の周縁部154に、30度毎に角度目盛りが付されているものを用いた。先ず、シート状試料146を試料台152に載置していない状態で共振周波数を測定し、その共振周波数をf
0とした。次に、市販のPETフィルム(試料)を円形にカットし、基準方向に目印を付し、それをシート状試料146として試料台152の上に描かれた0度から360度までの角度目盛り156の0度方向に合わせて載置した。そして、この状態を開始地点として、共振周波数を測定し、測定が終了したらシート状試料146を30度回転させ、シート状試料146に付した目印が30度の目盛り位置に一致するように載置した。
【0054】
この30度回転させた状態で共振周波数を測定し、測定終了後は、シート状試料146をさらに30度回転させて、またシート状試料146を試料台152に載置して共振周波数を測定するという手順を繰り返し実行し、0度から150度までの6点の共振周波数f
s1からf
s6を測定した。そして、この結果から、各角度における共振周波数のシフト量Δfを計算し、Δf1からΔf6を取得した。さらに、これら(また、原点位置に対して点対称として計算されるΔf7からΔf12)を極座標上にプロットし、第2実施例と同様に楕円近似をかけることで、
図10のような楕円パターンを取得した。
図10において、この長軸方向が配向方向、また長軸と短軸の比が配向度として示されるように、シート状試料146の分子配向を簡便に測定することができた。