【文献】
郡 公子,外1名,“ダブルスキン,エアフローウィンドウの熱性能式の提案”,日本建築学会環境系論文集,日本,2012年12月,第77巻,第682号,p.997-1002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ファイル編集部は、前記熱負荷計算部による1回目の計算処理の際に前記データファイルを作成すると共に、前記熱負荷計算部による2回目の計算処理に供される前記データファイルを更新することを特徴とする請求項3に記載の熱負荷計算装置。
前記第1中間値及び前記第2中間値は、熱取得の対流成分、熱取得の放射成分、及び除去熱量重み係数の補正量であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱負荷計算装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時、ファザードエンジニアリングの進歩、或いは窓ガラスの各性能の向上に伴い、多様性に富んだ窓システムが開発されつつある。ところが、HASPシリーズが採用する計算手法は、以前から知られている窓の種類のみを想定しており、新しく提案された特殊な種類の窓(以下、「特殊窓」ともいう)への適用が難しい場合もある。つまり、通常窓とは異なる熱的挙動を示す特殊窓では、熱取得の算出精度が相対的に低下するので、建物全体における熱負荷の計算に少なからず誤差を生じさせる問題がある。
【0005】
この問題の解決策として、例えば、様々な特殊窓に対応可能となるように計算モジュールを改変することが考えられる。しかしながら、この場合、窓の種類に応じた改変が必要になると共に、既存の種類を含めた計算処理の検証作業が必要となる。また、計算環境の保存性或いは計算結果の整合性を考慮すると、従来から多くの計算実績がある計算モジュールをそのまま使用したいという要望もある。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、現存する計算環境を最大限に流用しつつも、通常窓とは異なる熱的挙動を示す特殊窓を有する建物の熱負荷を精度よく計算可能な熱負荷計算装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る「熱負荷計算装置」は、窓を有する建物の熱負荷を計算する装置であって、前記熱負荷の計算処理に供される前記窓毎の計算パラメータを含むパラメータ群を取得するパラメータ取得部と、前記パラメータ取得部により取得された前記パラメータ群のうちの一部を用いて第1の算出手法により第1中間値を算出すると共に、前記パラメータ群のうちの少なくとも一部及び前記第1中間値を用いて前記熱負荷を計算する熱負荷計算部と、前記パラメータ群の中から特殊窓に関する前記計算パラメータを抽出パラメータとして抽出するパラメータ抽出部と、前記パラメータ抽出部により抽出された前記抽出パラメータを用いて、前記第1の算出手法とは異なる第2の算出手法により第2中間値を算出する代替算出部を備え、前記熱負荷計算部は、前記代替算出部によって算出した前記第2中間値が入力された場合、前記第1中間値の代わりに前記第2中間値を用いて前記熱負荷を計算する。
【0008】
このように、特殊窓に関する抽出パラメータを用いて、第1の算出手法とは異なる第2の算出手法により第2中間値を算出する代替算出部と、この第2中間値が入力された場合、第1の算出手法による第1中間値の代わりに第2中間値を用いて熱負荷を計算する熱負荷計算部を設けたので、計算結果としての熱負荷を出力する計算機能を実質的に変更することなく、第2の算出手法を取り込んだ熱負荷の計算が実行可能となる。これにより、現存する計算環境を最大限に流用しつつも、通常窓とは異なる熱的挙動を示す特殊窓の熱負荷を精度よく計算できる。
【0009】
また、前記第2中間値を前記抽出パラメータに対応付けて格納するデータファイルを作成又は更新するファイル編集部を更に備え、前記熱負荷計算部は、前記ファイル編集部により作成又は更新された前記データファイルを読み出し可能である場合、入力された前記第2中間値を用いて前記熱負荷を計算することができる。データファイルを介して第2中間値を入出力可能に構成することで、2種類の計算系統における独立性が高くなり、ソフトウェアの設計自由度が向上する。
【0010】
また、前記代替算出部は、作成された前記データファイルを読み出して得た前記抽出パラメータを用いて前記第2中間値を算出し、前記ファイル編集部は、前記代替算出部により算出された前記第2中間値を、前記抽出パラメータに対応付けて追加又は上書きすることで前記データファイルを更新することができる。これにより、データファイルの書式を統一化可能となり、データの取扱性が向上する。
【0011】
また、前記ファイル編集部は、前記熱負荷計算部による1回目の計算処理の際に前記データファイルを作成すると共に、前記熱負荷計算部による2回目の計算処理に供される前記データファイルを更新することができる。これにより、2回分の計算処理を続けて実行することで、所望の計算結果が得られる。
【0012】
また、前記熱負荷計算部は、前記1回目の計算処理及び前記2回目の計算処理にて、同じ変数順に従う多重ループ構造により前記熱負荷を計算し、前記ファイル編集部は、抽出した順に前記抽出パラメータを配列する前記データファイルを作成又は更新することができる。抽出パラメータ及び第2中間値に対して検索情報を付与することなく、データファイルを先頭から順次読み出すことで、ループ変数と第2中間値の間にて適切な対応付けがなされる。
【0013】
また、前記特殊窓は、ダブルスキン、エアフローウィンドウ、及びプッシュプルウィンドウのうち少なくとも1種類の窓であり、前記第1の算出手法は、熱貫流率及び遮蔽係数が時間に関して不変値であるとして前記第1中間値を算出する手法であり、前記第2の算出手法は、熱貫流率又は遮蔽係数が時間に関して可変値であるとして前記第2中間値を算出する手法である。上記した特殊窓では熱貫流率又は遮蔽係数の時間変動が起こり易い傾向を考慮することで、ダブルスキン、エアフローウィンドウ、又はプッシュプルウィンドウを含む建物の熱負荷の計算精度が高くなる。
【0014】
また、前記第1中間値及び前記第2中間値は、熱取得の対流成分、熱取得の放射成分、及び除去熱量重み係数の補正量である。熱負荷の計算結果に影響を与える上記の各値を代替することで、熱負荷の計算精度が高くなる。
【0015】
本発明に係る「熱負荷計算方法」は、窓を有する建物の熱負荷を計算する方法であって、前記熱負荷の計算処理に供される前記窓毎の計算パラメータを含むパラメータ群を取得する取得ステップと、取得された前記パラメータ群のうちの一部を用いて第1の算出手法により第1中間値を算出すると共に、前記パラメータ群のうちの少なくとも一部及び前記第1中間値を用いて前記熱負荷を計算する計算ステップと、前記パラメータ群の中から特殊窓に関する前記計算パラメータを抽出パラメータとして抽出する抽出ステップと、抽出された前記抽出パラメータを用いて、前記第1の算出手法とは異なる第2の算出手法により第2中間値を算出する代替算出ステップを少なくとも1台のコンピュータに実行させ、前記計算ステップでは、前記代替算出ステップにて算出した前記第2中間値が入力された場合、前記第1中間値の代わりに前記第2中間値を用いて前記熱負荷を計算する。
【0016】
本発明に係る「熱負荷計算プログラム」は、窓を有する建物の熱負荷を計算するプログラムであって、前記熱負荷の計算処理に供される前記窓毎の計算パラメータを含むパラメータ群を取得する取得ステップと、取得された前記パラメータ群のうちの一部を用いて第1の算出手法により第1中間値を算出すると共に、前記パラメータ群のうちの少なくとも一部及び前記第1中間値を用いて前記熱負荷を計算する計算ステップと、前記パラメータ群の中から特殊窓に関する前記計算パラメータを抽出パラメータとして抽出する抽出ステップと、抽出された前記抽出パラメータを用いて、前記第1の算出手法とは異なる第2の算出手法により第2中間値を算出する代替算出ステップを少なくとも1台のコンピュータに実行させ、前記計算ステップでは、前記代替算出ステップにて算出した前記第2中間値が入力された場合、前記第1中間値の代わりに前記第2中間値を用いて前記熱負荷を計算する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る熱負荷計算装置、方法及びプログラムによれば、現存する計算環境を最大限に流用しつつも、通常窓とは異なる熱的挙動を示す特殊窓を有する建物の熱負荷を精度よく計算できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る熱負荷計算装置について、熱負荷計算方法及び熱負荷計算プログラムとの関係において好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0020】
[熱負荷計算装置10の電気的なブロック図]
図1は、この実施形態に係る熱負荷計算装置10の電気的なブロック図である。熱負荷計算装置10は、建物の熱負荷を計算するコンピュータであり、具体的には、制御部12と、通信I/F14と、入力部16と、出力部18と、記憶部20とを含んで構成される。
【0021】
通信I/F14は、外部装置に対して電気信号を送受信するインターフェースである。これにより、熱負荷計算装置10は、後述する気象データD1を外部装置から受信可能であり、後述する結果ファイル40を外部装置に向けて送信可能である。
【0022】
入力部16は、マウス、キーボード、タッチパネル又はマイクロフォンを含んで構成される。出力部18は、ディスプレイ又はスピーカを含んで構成される。入力部16による入力機能及び出力部18による出力機能を組み合わせることで、グラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)を構築可能である。
【0023】
記憶部20は、制御部12が各構成要素を制御するのに必要なプログラム及びデータを記憶している。記憶部20は、非一過性であり、かつ、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体で構成されている。ここで、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM、フラッシュメモリ等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。
【0024】
制御部12は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro-Processing Unit)のプロセッサによって構成されている。制御部12は、記憶部20に格納されたプログラムを読み出し実行することで、パラメータ取得部22、ファイル編集部24、計算処理部26(パラメータ抽出部28・熱負荷計算部30を含む)、及び代替算出部32の各機能を実現可能である。
【0025】
ところで、記憶部20には、熱負荷の計算処理に供される「窓毎の計算パラメータ」を含むパラメータ群34、計算処理の中間ファイルである第1中間ファイル36及び第2中間ファイル38、並びに熱負荷の計算結果を示す結果ファイル40がそれぞれ格納されている。このパラメータ群34には、具体的には、気象データD1、形状データD2、及び詳細データD3が含まれる。
【0026】
[熱負荷計算方法の概要]
図2は、この実施形態に係る熱負荷計算方法の概念図である。本図から理解されるように、当該計算方法は、[1]
図1に示す計算処理部26に相当する「NewHASP」(ここでは「1次計算系」という)及び[2]
図1に示す代替算出部32に相当する「特殊窓シミュレーション」(ここでは「2次計算系」という)により実行される。
【0027】
1次計算系及び2次計算系はそれぞれ、任意の構成からなるソフトウェアである。一例として、1次計算系は、オペレーティングシステム(OS)上にて単体で実行可能なアプリケーションである。また、2次計算系は、1次計算系とは異なるアプリケーション(具体的には、表計算ソフト)が搭載するマクロ機能又はアドイン機能である。
【0028】
1次計算系は、HASP型気象データを含むパラメータ群を入力した後、第1の算出手法を用いて、建物の外皮を構成する各部位(例えば、外壁、窓、天井又は床)の熱取得を算出する。その後、1次計算系は、各部位の熱取得を用いて建物における年間時刻別の熱負荷を計算し、得られた計算結果をデータファイルとして出力する。ここで、窓の種類は、以前から知られている窓の種類である「通常窓」と、通常窓とは区別される種類である「特殊窓」とに大別される。
【0029】
第1の算出手法が主に通常窓を想定した手法である場合、この手法を特殊窓に対して適用するのが好ましくないことがある。なぜならば、通常窓とは異なる熱的挙動を示す特殊窓では、熱取得の算出精度が相対的に低下する可能性があり、建物全体における熱負荷の計算に少なからず誤差を生じさせる問題があるためである。
【0030】
そこで、特殊窓の熱取得に関して、1次計算系よりも算出精度が相対的に高い2次計算系に計算させる点に留意する。2次計算系は、窓ガラスの入射角特性(詳細データD3;
図1)を含む各種パラメータを入力した後、第2の算出手法を用いて、建物の外皮を構成する各部位の熱取得を算出する。例えば、[1]室温が一定(基準温度)における熱取得の対流成分(以下、「対流熱取得」ともいう)、[2]室温が一定(基準温度)における熱取得の放射成分(以下、「放射熱取得」ともいう)、[3]室温変位に対する除去熱量重み付け係数(或いは単に「除去熱量重み付け係数」)の第1項を補正する量(以下、「WF補正量」ともいう)が算出される。
【0031】
第1計算系及び第2計算系は、特定のデータファイル(中間ファイル)を介して、必要な計算パラメータ及び計算値を相互に受け渡す。例えば、1次計算系による1回目の計算処理を経て、参照値領域にデータが書き込まれた中間ファイル(第1中間ファイル36;
図1)が作成される。その後、2次計算系による計算処理を経て、更新値領域にデータが上書きされた中間ファイル(第2中間ファイル38;
図1)が作成される。
【0032】
更新値領域には、2次計算系による計算結果、例えば、対流熱取得、放射熱取得又はWF補正量が格納される。また、参照値領域には、熱取得の計算に必要な計算パラメータ、例えば、[1]年月日時を含む時間情報、[2]外気温度・日射量・夜間放射量を含むデータ(気象データD1)、[3]窓面積・形態係数を含むデータ(形状データD2)、[4]熱貫流率・遮蔽係数を含む物理特性値、が格納される。
【0033】
1次計算系は、2回目の計算処理の際、1回目の場合と同じパラメータ群の他、更新値領域及び参照値領域にデータが格納された中間ファイルを更に入力した後、第1の算出手法を用いて、建物の外皮を構成する各部位の熱取得を算出する。その後、1次計算系は、各部位の熱取得を用いて建物における年間時刻別の熱負荷を計算し、得られた計算結果をデータファイル(
図1の結果ファイル40)として出力する。
【0034】
[熱負荷計算装置10の動作]
続いて、熱負荷計算装置10の動作について、
図3及び
図6のフローチャートを主に参照しながら説明する。具体的には、第1のフローチャート(
図3)は計算処理部26の動作を中心に示すと共に、第2のフローチャート(
図6)は代替算出部32の動作を中心に示す。
【0035】
<1回目の計算処理>
図3のステップS1において、パラメータ取得部22は、窓毎の計算パラメータを含むパラメータ群34を取得する。この取得に先立ち、熱負荷計算装置10は、入力部16を介したユーザの指示操作に応じて、1回目の計算処理を開始する。そうすると、パラメータ取得部22は、記憶部20に格納されたパラメータ群34、例えば、気象データD1及び形状データD2を読み出して取得する。
【0036】
図4は、パラメータ群34の一部(より詳細には、窓に関する形状データD2)におけるデータ構造を示す模式図である。本図例では、パラメータ群34は、先頭から順に、窓種グループ、品種番号、及びブラインド番号を含んで構成される。この窓種グループの文字列「WNDW」は「窓」の属性、「SNGL」は「単板ガラス」の属性、「TRAN」は「置換対象」の属性をそれぞれ示す。
【0037】
なお、「置換対象」は、上記した通常窓(単板ガラスを含む)以外の窓、すなわち「特殊窓」の属性を示す。この特殊窓は、例えば、ダブルスキン、エアフローウィンドウ、及びプッシュプルウィンドウのうち少なくとも1種類の窓である。熱負荷の計算対象である建物が特殊窓を有する場合、作業者は、各特殊窓に対応する計算パラメータの一部、具体的には「窓種グループ」の内容を「TRAN」に書き換えておく。
【0038】
ステップS2において、計算処理部26は、特定のデータファイル(具体的には、第2中間ファイル38)を読み出し可能であるか否かを判定する。具体的には、計算処理部26は、予め指定されたフォルダにアクセスし、第2中間ファイル38の読み出し動作を試みる。通常、1回目の計算処理の際、第2中間ファイル38が未だ作成されていない。この場合、読出不可であるとして(ステップS2:NO)、ステップS3をスキップする。
【0039】
ステップS4において、熱負荷計算部30は、多重ループ構造による熱負荷の計算を実行する。ここで「多重ループ構造」とは、複数の変数を伴うループ構造を意味し、具体的には、ループの外側から順に、[1]日付、[2]スペース(部屋)の識別番号、[3]時刻、及び[4]窓の識別番号、の4つの変数(ループ変数52)が用いられる。
【0040】
図5は、1回目の計算処理におけるデータ流れを示す模式図である。計算処理部26(
図1)は、ステップS1で取得されたパラメータ群34の中から、現在のループ変数52に紐付けられた計算パラメータ(以下、元のパラメータ50a)を選択する。
【0041】
ステップS41において、パラメータ抽出部28は、元のパラメータ50aの内容を解析し、特殊窓に関する計算パラメータのみを抽出する。具体的には、パラメータ抽出部28は、「窓種グループ」の内容に「TRAN」が含まれない場合、元のパラメータ50aを書き換えることなくそのまま出力する。一方、パラメータ抽出部28は、「TRAN」が含まれる場合、「窓種グループ」の内容を「TRAN」から「SNGL」に変更した上で、置換パラメータ50bとして出力する。これと併せて、パラメータ抽出部28は、置換パラメータ50bの一部、ここでは特殊窓に関する計算パラメータ(以下、抽出パラメータ54)を抽出する。
【0042】
ステップS42において、熱負荷計算部30に含まれる計算モジュールMは、パラメータ群34のうちの一部(元のパラメータ50a又は置換パラメータ50b)を用いて第1中間値56を算出する。この計算モジュールMは、熱貫流率又は遮蔽係数が時間に関して不変値であるとして、第1中間値56を算出する「第1の算出手法」を実行可能に構成される。
【0043】
熱負荷計算部30は、1回目の計算処理において、計算モジュールMにより算出された第1中間値56を含む第1結果データ50cを、中間的な計算結果として出力する。ここで、第1中間値56は、熱取得の対流成分、熱取得の放射成分、及び除去熱量重み係数の補正量である。
【0044】
計算処理部26は、パラメータ抽出部28による抽出処理が実行される度に、ループ変数52、抽出パラメータ54及び第1中間値56を所定の順序に従って結合することで、時間毎・特殊窓毎の結合データ58を得る。その後、結合データ58は、所定のデータ領域60内に順次格納される。このデータ領域60は、代替算出部32により参照可能なデータ値(以下、参照値)を格納する参照値領域62と、代替算出部32により更新可能なデータ値(以下、更新値)を格納する更新値領域64から構成される。
【0045】
データ領域60の全体を示す矩形のうち、ダブルハッチングが付された領域は、データ値が初期値から更新された格納済み領域66に相当する。一方、塗り潰しがない残余の領域は、データ値が初期値から更新されていない領域に相当する。本図から理解されるように、直近に得られた結合データ58は、参照値領域62内の破線で囲む帯状領域である、書き込み領域68に格納される。
【0046】
ステップS43において、熱負荷計算部30は、ステップS42で算出された第1中間値56を用いて年間時刻別の熱負荷を計算する。ここでは、「特殊窓」を「単板ガラス」に置換した上で熱取得を計算したので、所望の計算結果とは異なる点に留意する。
【0047】
ステップS5において、ファイル編集部24は、ステップS4での一連の計算にて得られた中間値及び計算値を格納したデータファイルを作成する。1回目の計算処理では、ファイル編集部24は、データ領域60内に格納された参照値を順次書き出すことで、第1中間ファイル36を新たに作成する。
【0048】
そして、制御部12は、作成された第1中間ファイル36を記憶部20に格納させると共に、ステップS2にて指定された同一のフォルダ内に所定のファイル名で保存する。この第1中間ファイル36は、テキスト形式、CSV(Comma-Separated Values)形式、XML(eXtensible Markup Language)形式を含む任意の書式であってもよい。
【0049】
以上のように、計算処理部26による1回目の計算処理を終了する。この計算処理を経ることで、熱負荷の最終的な計算結果に代わって、第1中間ファイル36が得られる。そして、計算処理部26による2回目の計算処理に先立ち、代替算出部32による代替算出処理を開始する。
【0050】
<第2中間値86の代替算出>
図6のステップS6において、制御部12は、代替算出部32の機能を実現するための表計算ソフトウェアを起動する。その後、熱負荷計算装置10は、入力部16を介したユーザの指示操作に応じて、第2中間値86の代替計算処理を開始する。
【0051】
ステップS7において、代替算出部32は、ステップS5で作成された第1中間ファイル36を記憶部20から読み出して入力する。これにより、代替算出部32は、代替算出処理に必要なデータの一部である結合データ58の集合体を取得可能となる。なお、第1中間ファイル36を格納するフォルダ名及びファイル名を予め固定することで、データファイルの移動作業及びリネーム作業が不要になる。
【0052】
ステップS8において、代替算出部32は、ステップS7にて入力された結合データ58、及び他の計算パラメータを用いて、第2の算出手法により第2中間値86を算出する。ここで、第2中間値86は、第1中間値56(
図5)と同じ種類の計算値であり、熱取得の対流成分、熱取得の放射成分、及び除去熱量重み係数の補正量である。通常、結合データ58のうち、ループ変数52及び抽出パラメータ54のみが使用されるが、第1中間値56を併せて使用してもよい。
【0053】
なお、「第2の算出手法」とは、第1の算出手法とは異なり、熱貫流率又は遮蔽係数が時間に関して可変値であるとして、第2中間値86を算出する手法である。この算出に先立ち、代替算出部32は、代替算出処理に必要なデータ、具体的には、記憶部20に格納された詳細データD3を読み出して入力する。
【0054】
図7は、ダブルスキンにおける計算パラメータを例示する説明図である。より詳細には、
図7(a)はブラインドにおける透過率及び吸収率の入射角特性であり、
図7(b)は総合吸収率及び総合透過率の導出モデルを示す図である。なお、ダブルスキンとは、二重のガラス窓の内部にブラインドを設置した窓である。
【0055】
図7(a)に示すグラフの横軸は見掛けの太陽高度(余弦値)であり、縦軸はブラインドの透過率(破線)又は吸収率(実線)である。ここで、「見掛けの太陽高度」とは、スラット(ブラインドの羽根)の角度を考慮した太陽高度である。この場合、詳細データD3は、入射角特性の近似関数を特定するための係数であってもよいし、入射角特性を示すテーブルデータであってもよい。
【0056】
図7(b)に示すように、外側ガラス板(左側)における透過率をτ1、吸収率をα1、反射率をρ1とする。ブラインド(中央)における透過率をτ2、吸収率をα2、反射率をρ2とする。内側ガラス板(右側)における透過率をτ3、吸収率をα3、反射率をρ3とする。この場合、光学的考察により、総合透過率T、外側ガラス板の総合吸収率A1、ブラインドの総合吸収率A2、及び、内側ガラスの総合吸収率A3をそれぞれ求めることができる。この場合、詳細データD3は、各透過率τ1〜τ3及び各吸収率α1〜α3である。
【0057】
このように、代替算出部32は、特殊窓の種類に適した計算パラメータを用いて、計算精度が相対的に高い第2中間値86を算出する(ステップS8)。なお、代替算出部32及び計算処理部26はそれぞれ、同一のコンピュータ上で実行可能であるが、別々のコンピュータ上で実行可能であってもよい。
【0058】
ステップS9において、ファイル編集部24は、ステップS8での計算により得られた計算値を格納したデータファイルを作成する。ここでは、ファイル編集部24は、第1中間ファイル36を残しながら別のデータファイル(第2中間ファイル38)を新たに作成するが、これに代わって第1中間ファイル36を上書き保存してもよい。
【0059】
図8は、中間ファイルのデータ領域60における書き込み過程を示す遷移図である。より詳細には、
図8(a)は第1中間ファイル36に対応するデータ領域60の書き込み状態を示し、
図8(b)は第2中間ファイル38に対応するデータ領域60の書き込み状態を示す。データ領域60の全体を示す矩形のうち、ハッチングが付された領域は、データ値が初期値から更新された領域に相当する。一方、ハッチングが付されていない領域は、データ値が初期値から更新されていない領域に相当する。
【0060】
図8(a)に示すように、参照値領域62には結合データ58の列(つまり、結合データ列80)が格納される一方、更新値領域64にはデータ値が未だ格納されていない。その後、ステップS8の代替算出が実行された後、
図8(a)から
図8(b)に遷移する。
【0061】
図8(b)に示すように、更新値領域64には、第2中間値86の列(つまり、第2中間値データ列82)が格納される。ここで、第2中間値86はそれぞれ、当該第2中間値86の算出に供される抽出パラメータ54に対応付けて格納されている点に留意する。
【0062】
このように、ファイル編集部24は、熱負荷計算部30による1回目の計算処理の際に第1中間ファイル36を作成すると共に、熱負荷計算部30による2回目の計算処理に供される第1中間ファイル36を更新してもよい。これにより、2回分の計算処理を続けて実行することで、所望の計算結果が得られる。
【0063】
また、代替算出部32は、第1中間ファイル36を読み出して得た抽出パラメータ54を用いて第2中間値86を算出すると共に、ファイル編集部24は、この第2中間値86を抽出パラメータ54に対応付けて追加又は上書きすることで第1中間ファイル36を更新してもよい。これにより、第1中間ファイル36及び第2中間ファイル38の書式を統一化可能となり、データの取扱性が向上する。
【0064】
以上のように、代替算出部32による代替算出処理を終了する。この算出処理を経ることで、2回目の計算処理に供される第2中間ファイル38が得られる。そして、計算処理部26による2回目の計算処理を開始する。
【0065】
<2回目の計算処理>
図3のステップS1において、パラメータ取得部22は、窓毎の計算パラメータを含むパラメータ群34を取得する。ここでは、1回目の計算処理に使用されたパラメータ群34を再び取得する点に留意する。
【0066】
ステップS2において、計算処理部26は、特定のデータファイル(具体的には、第2中間ファイル38)を読み出し可能であるか否かを判定する。通常、2回目の計算処理を実行する前に、第2中間ファイル38が既に作成されている。この場合、読出可能であるとして(ステップS2:YES)、次のステップ(S3)に進む。
【0067】
ステップS3において、計算処理部26は、第2中間ファイル38を読み出した後、第2中間値86を入力する。具体的には、参照値領域62内には結合データ列80が、更新値領域64内には第2中間値データ列82がそれぞれ格納される。その後、熱負荷計算部30は、データ領域60内に格納された値を適時に読み出して熱負荷を計算する。
【0068】
このように、ファイル編集部24は、第2中間値86を抽出パラメータ54に対応付けて格納する第2中間ファイル38を作成又は更新すると共に、熱負荷計算部30は、この第2中間ファイル38を読み出し可能である場合、入力された第2中間値86を用いて熱負荷を計算してもよい。第2中間ファイル38を介して第2中間値86を入出力可能に構成することで、2種類の計算系統における独立性が高くなり、ソフトウェアの設計自由度が向上する。
【0069】
ステップS4において、熱負荷計算部30は、多重ループ構造による熱負荷の計算を実行する。1回目の計算処理と同様に、ループの外側から順に、[1]日付、[2]スペース(部屋)の識別番号、[3]時刻、及び[4]窓の識別番号、の4つの変数が用いられる。
【0070】
図9は、2回目の計算処理におけるデータ流れを示す模式図である。計算処理部26(
図1)は、ステップS1で取得されたパラメータ群34の中から、現在のループ変数に紐付けられた元のパラメータ50aを選択する。
【0071】
ステップS41において、パラメータ抽出部28は、元のパラメータ50aの内容を解析し、特殊窓に関する計算パラメータのみを抽出する。具体的には、パラメータ抽出部28は、「窓種グループ」の内容に「TRAN」が含まれない場合、元のパラメータ50aをそのまま出力する。一方、パラメータ抽出部28は、「TRAN」が含まれる場合、データ領域60における読み出し領域84から第2中間値86を読み出した後、元のパラメータ50aをそのまま出力する。ここで、読み出し領域84は、データ領域60内のうち未だ読み出されていない最も先頭側の領域である。
【0072】
ステップS42において、熱負荷計算部30は、計算モジュールMによる算出結果(つまり、第1中間値56)が、以降のステップS43での計算結果に反映されないための動作を行う。例えば、計算モジュールMの実行を中止すると共に、第1中間値56が格納されるアドレスに第2中間値86を書き込んでもよい。また、1回目の計算処理と同様に、計算モジュールMを実行した後、第1中間値56が実際に格納されたアドレスに第2中間値86を上書きしてもよい。
【0073】
ステップS43において、熱負荷計算部30は、元のパラメータ50a及び第2中間値86を用いて、年間時刻別の熱負荷を計算する。2回目の計算処理において、熱負荷計算部30は、最終的な計算結果としての第2結果データ50dを出力する。
【0074】
このように、熱負荷計算部30は、1回目及び2回目の計算処理にて同じ変数順に従う多重ループ構造により熱負荷を計算すると共に、ファイル編集部24は、抽出した順に抽出パラメータ54を配列する第1中間ファイル36を作成又は更新してもよい。抽出パラメータ54及び第2中間値86に対して検索情報を付与することなく、第2中間ファイル38を先頭から順次読み出すことで、ループ変数52と第2中間値86の間にて適切な対応付けがなされる。
【0075】
ステップS5において、ファイル編集部24は、ステップS4での一連の計算にて得られた中間値及び計算値を格納したデータファイルを作成する。2回目の計算処理では、ファイル編集部24は、出力された第2結果データ50dを順次書き出すことで、結果ファイル40を新たに作成する。そして、制御部12は、作成された結果ファイル40を記憶部20に格納させると共に、ステップS2にて指定された同一のフォルダ内に所定のファイル名で保存する。
【0076】
以上のように、計算処理部26による2回目の計算処理を終了する。この計算処理を経ることで、第1の算出手法に代わって第2の算出手法を取り込んだ、熱負荷の最終的な計算結果を示す結果ファイル40が得られる。
【0077】
[熱負荷計算装置10による効果]
この熱負荷計算装置10は、[1]熱負荷の計算処理に供される窓毎の計算パラメータを含むパラメータ群34を取得するパラメータ取得部22と、[2]取得されたパラメータ群34のうちの一部を用いて第1の算出手法により第1中間値56を算出すると共に、パラメータ群34のうちの少なくとも一部及び第1中間値56を用いて熱負荷を計算する熱負荷計算部30と、[3]パラメータ群34の中から特殊窓に関する計算パラメータを抽出パラメータ54として抽出するパラメータ抽出部28と、[4]抽出された抽出パラメータ54を用いて、第1の算出手法とは異なる第2の算出手法により第2中間値86を算出する代替算出部32と、を備える。そして、熱負荷計算部30は、代替算出部32によって算出した第2中間値86が入力された場合、第1中間値56の代わりに第2中間値86を用いて熱負荷を計算する。
【0078】
また、この熱負荷計算方法及びプログラムは、[1]パラメータ群34を取得する取得ステップ(S1)と、[2]第1の算出手法により第1中間値56を算出すると共に(S42)、熱負荷を計算する計算ステップ(S43)と、[3]抽出パラメータ54を抽出する抽出ステップ(S41)と、[4]第2の算出手法により第2中間値86を算出する代替算出ステップ(S8)を少なくとも1台のコンピュータ(熱負荷計算装置10)に実行させる。そして、計算ステップ(S43)では、代替算出ステップ(S8)にて算出した第2中間値86が入力された場合、第1中間値56の代わりに第2中間値86を用いて熱負荷を計算する。
【0079】
このように、特殊窓に関する抽出パラメータ54を用いて、第1の算出手法とは異なる第2の算出手法により第2中間値86を算出する代替算出部32と、この第2中間値86が入力された場合、第1の算出手法による第1中間値56の代わりに第2中間値86を用いて熱負荷を計算する熱負荷計算部30を設けたので、計算結果としての熱負荷を出力する計算機能を実質的に変更することなく、第2の算出手法を取り込んだ熱負荷の計算が実行可能となる。これにより、現存する計算環境を最大限に流用しつつも、通常窓とは異なる熱的挙動を示す特殊窓を有する建物の熱負荷を精度よく計算できる。
【0080】
また、特殊窓は、ダブルスキン、エアフローウィンドウ、及びプッシュプルウィンドウのうち少なくとも1種類の窓であり、第1の算出手法は、熱貫流率及び遮蔽係数が時間に関して不変値であるとして第1中間値56を算出する手法であり、第2の算出手法は、熱貫流率又は遮蔽係数が時間に関して可変値であるとして第2中間値86を算出する手法であってもよい。上記した特殊窓では熱貫流率又は遮蔽係数の時間変動が起こり易い傾向を考慮することで、ダブルスキン、エアフローウィンドウ、又はプッシュプルウィンドウを含む建物の熱負荷の計算精度が高くなる。
【0081】
また、第1中間値56及び第2中間値86は、熱取得の対流成分、熱取得の放射成分、及び除去熱量重み係数の補正量である。熱負荷の計算結果に影響を与える上記の各値を代替することで、熱負荷の計算精度が高くなる。
【0082】
[備考]
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。