特許第6572760号(P6572760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572760電力系統運用システムおよび電力系統運用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572760
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】電力系統運用システムおよび電力系統運用方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 13/00 20060101AFI20190902BHJP
   H02J 3/12 20060101ALI20190902BHJP
   H02J 3/18 20060101ALI20190902BHJP
   H02J 3/50 20060101ALI20190902BHJP
   H02P 9/00 20060101ALI20190902BHJP
   G05F 1/70 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   H02J13/00 311R
   H02J3/12
   H02J3/18 128
   H02J3/50
   H02J3/18 185
   H02P9/00 A
   G05F1/70 K
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-237064(P2015-237064)
(22)【出願日】2015年12月4日
(65)【公開番号】特開2017-103967(P2017-103967A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】大野 修一
(72)【発明者】
【氏名】木多 利和
(72)【発明者】
【氏名】松森 浩司
【審査官】 田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−104865(JP,A)
【文献】 特開2013−153598(JP,A)
【文献】 特開2015−084645(JP,A)
【文献】 特開2015−154522(JP,A)
【文献】 特開2000−078752(JP,A)
【文献】 特開2009−131003(JP,A)
【文献】 特開2012−123450(JP,A)
【文献】 特開2011−211803(JP,A)
【文献】 特開2009−219256(JP,A)
【文献】 特開2004−222392(JP,A)
【文献】 再公表特許第2014/080514(JP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0233975(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 13/00
H02J 3/00−5/00
G05F 1/70
H02P 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信インタフェース部を備え、該通信インタフェース部を介した外部からの制御指令に応じて、該制御指令で指示される設定値に電力系統の系統母線電圧および無効電力をそれぞれ調整する電圧・無効電力制御装置と、
前記電力系統に連系される発電機と、
前記発電機の出力電圧を検出する第1検出手段と、前記発電機の出力電流を検出する第2検出手段と、前記発電機の出力電圧および出力電流に基づき無効電力を検出し、設定された無効電力との比較に基づき無効電力が一定となるよう前記発電機の出力電圧を制御するAQRと、AQRモード時に前記AQRの無効電力を設定する制御手段と、を備えて、前記発電機の出力電圧および無効電力をそれぞれ制御する発電機制御装置と、
を備えた電力系統運用システムであって、
前記発電機制御装置は、
前記電圧・無効電力制御装置の通信インタフェース部と通信ネットワークを介して接続される通信インタフェース部と、
落雷位置を評定する落雷位置評定装置から落雷位置情報を受信するLLS受信機と、を有し、
前記制御手段は、
前記落雷位置情報に基づき、予め設定されている前記発電機の位置を中心とした警戒エリア内で落雷が発生したか否かを判定する警戒エリア判定手段と、
前記警戒エリア内で落雷が発生したときに、前記AQRモードでかつ進相運転時には、前記通信インタフェース部を介して前記電圧・無効電力制御装置に対して、無効電力抑制値を設定した制御指令を送信し、前記電圧・無効電力制御装置による、無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整を指示する無効電力制御判定手段と、
を有することを特徴とする電力系統運用システム。
【請求項2】
前記無効電力制御判定手段は、前記電圧・無効電力制御装置から、無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整が完了した旨の通知を受けて、前記発電機の無効電力抑制が可能である場合には、前記AQRの無効電力設定値を無効電力抑制値に設定して無効電力を制御することを特徴とする請求項1に記載の電力系統運用システム。
【請求項3】
通信インタフェース部を備え、該通信インタフェース部を介した外部からの制御指令に応じて、該制御指令で指示される設定値に電力系統の系統母線電圧および無効電力をそれぞれ調整する電圧・無効電力制御装置と、
前記電力系統に連系される発電機と、
前記電圧・無効電力制御装置の通信インタフェース部と通信ネットワークを介して接続される通信インタフェース部と、落雷位置を評定する落雷位置評定装置から落雷位置情報を受信するLLS受信機と、前記発電機の出力電圧を検出する第1検出手段と、前記発電機の出力電流を検出する第2検出手段と、前記発電機の出力電圧および出力電流に基づき無効電力を検出し、設定された無効電力との比較に基づき無効電力が一定となるよう前記発電機の出力電圧を制御するAQRと、AQRモード時に前記AQRの無効電力を設定する制御手段と、を備えて、前記発電機の出力電圧および無効電力をそれぞれ制御する発電機制御装置と、
を備えた電力系統運用システムの電力系統運用方法であって、
前記落雷位置情報に基づき、予め設定されている前記発電機の位置を中心とした警戒エリア内で落雷が発生したか否かを判定する判定ステップと、
前記警戒エリア内で落雷が発生したとき、前記AQRモードでかつ進相運転の場合に、前記通信インタフェース部を介して前記電圧・無効電力制御装置に対して、無効電力抑制値を設定した制御指令を送信する指令送信ステップと、
を有することを特徴とする電力系統運用方法。
【請求項4】
前記電圧・無効電力制御装置から、前記無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整が完了した旨の通知を受信する通知受信ステップと、
前記発電機の無効電力抑制が可能である場合に、前記AQRの無効電力設定値を前記無効電力抑制値に設定して無効電力を制御する無効電力制御ステップと、
を有することを特徴とする請求項3に記載の電力系統運用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力系統運用システムおよび電力系統運用方法に関し、特に、警戒エリア内で落雷が発生したときに、発電機がAQRモードでかつ進相運転を行っている場合には、電圧・無効電力制御装置による無効電力の先行調整を行い、落雷時に速やかな無効電力調整を行い得る電力系統運用システムおよび電力系統運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所の無効電力調整においては、運転員による電話指令により、一日の電力需要変化における系統電圧変動に応じて、適宜、AVR(Automatic Voltage Regulator)およびAQR(Automatic Q−power Regulator)の運転モードの切替、並びに発電機無効電力値の調整を実施している。
【0003】
例えば特許文献1では、発電機から出力される無効電力を所定の値に設定しつつ、発電機を安全に運転するために設けられる運転可能領域内に発電機の出力を制御する無効電力制御装置が開示されている。また、特許文献2には、電力系統における無効電力と系統電圧の変動を検出し、変圧器の負荷時切り替えタップおよび電力系統に適用された電力調相設備を制御することにより、無効電力と系統電圧の安定を図る電圧・無効電力制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−153598号公報
【特許文献2】特開2000−78752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発電機をAQRモードで進相運転している時に,発電所付近で発雷が発生した場合の対応として,送電線ルート断事故による火力発電所の安定度を維持するために,人間系で無効電力を0[MVar]にする必要がある。つまり、発電所において発電機を進相運転している状況下で、発雷が発生し、送電線ルート断事故等が発生した場合には、安定度が維持できなくなり、発電機が脱調してしまう恐れがあるからである。
【0006】
また、発雷しても、運転員が無効電力の調整を失念することもあり得る。また特に、熱雷は、夏季の強い日射による地表付近の空気が熱せられたとき、上層に寒気団が侵入すると上昇気流により発生する積乱雲に伴い発雷するもので、予測不可能である。したがって、突然、発雷が接近してくる場合には、系統側の電圧を確認後、調整してから進相運転を解除することとなり,速やかな調整を行うのが難しいという事情もある。
【0007】
そこでこの発明は、警戒エリア内で落雷が発生したときに、発電機がAQRモードでかつ進相運転を行っている場合には、電圧・無効電力制御装置による無効電力の先行調整を行い、落雷時に速やかな無効電力調整を行い得る電力系統運用システムおよび電力系統運用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、通信インタフェース部を備え、該通信インタフェース部を介した外部からの制御指令に応じて、該制御指令で指示される設定値に電力系統の系統母線電圧および無効電力をそれぞれ調整する電圧・無効電力制御装置と、前記電力系統に連系される発電機と、前記発電機の出力電圧を検出する第1検出手段と、前記発電機の出力電流を検出する第2検出手段と、前記発電機の出力電圧および出力電流に基づき無効電力を検出し、設定された無効電力との比較に基づき無効電力が一定となるよう前記発電機の出力電圧を制御するAQRと、AQRモード時に前記AQRの無効電力を設定する制御手段と、を備えて、前記発電機の出力電圧および無効電力をそれぞれ制御する発電機制御装置と、を備えた電力系統運用システムであって、前記発電機制御装置は、前記電圧・無効電力制御装置の通信インタフェース部と通信ネットワークを介して接続される通信インタフェース部と、落雷位置を評定する落雷位置評定装置(LLS)から落雷位置情報を受信するLLS受信機と、を有し、前記制御手段は、前記落雷位置情報に基づき、予め設定されている前記発電機の位置を中心とした警戒エリア内で落雷が発生したか否かを判定する警戒エリア判定手段と、前記警戒エリア内で落雷が発生したときに、前記AQRモードでかつ進相運転時には、前記通信インタフェース部を介して前記電圧・無効電力制御装置に対して、無効電力抑制値を設定した制御指令を送信し、前記電圧・無効電力制御装置による、無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整を指示する無効電力制御判定手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項1の発明では、警戒エリア判定手段によって予め設定されている警戒エリア内で落雷が発生したと判定した際に、AQRモードでかつ進相運転を行っている場合には、電圧・無効電力制御装置に対して、無効電力抑制値を設定した制御指令を送信し、電圧・無効電力制御装置による無効電力の先行調整を行う。例えば、電力系統の系統母線電圧を調整する負荷時切り換えタップと、無効電力を調整する電力調相設備と、を備えた構成では、電圧・無効電力制御装置は、負荷時切り換えタップの上げ/下げ、或いは、電力調相設備の投入/開放を選択的に行うことにより、電力系統の系統母線電圧および無効電力をそれぞれ調整する。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の電力系統運用システムにおいて、前記無効電力制御判定手段は、前記電圧・無効電力制御装置から、無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整が完了した旨の通知を受けて、前記発電機の無効電力抑制が可能である場合には、前記AQRの無効電力設定値を無効電力抑制値に設定して無効電力を制御することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、通信インタフェース部を備え、該通信インタフェース部を介した外部からの制御指令に応じて、該制御指令で指示される設定値に電力系統の系統母線電圧および無効電力をそれぞれ調整する電圧・無効電力制御装置と、前記電力系統に連系される発電機と、前記電圧・無効電力制御装置の通信インタフェース部と通信ネットワークを介して接続される通信インタフェース部と、落雷位置を評定する落雷位置評定装置(LLS)から落雷位置情報を受信するLLS受信機と、前記発電機の出力電圧を検出する第1検出手段と、前記発電機の出力電流を検出する第2検出手段と、前記発電機の出力電圧および出力電流に基づき無効電力を検出し、設定された無効電力との比較に基づき無効電力が一定となるよう前記発電機の出力電圧を制御するAQRと、AQRモード時に前記AQRの無効電力を設定する制御手段と、を備えて、前記発電機の出力電圧および無効電力をそれぞれ制御する発電機制御装置と、を備えた電力系統運用システムの電力系統運用方法であって、前記落雷位置情報に基づき、予め設定されている前記発電機の位置を中心とした警戒エリア内で落雷が発生したか否かを判定する判定ステップと、前記警戒エリア内で落雷が発生したとき、前記AQRモードでかつ進相運転の場合に、前記通信インタフェース部を介して前記電圧・無効電力制御装置に対して、無効電力抑制値を設定した制御指令を送信する指令送信ステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載の電力系統運用方法において、前記電圧・無効電力制御装置から、前記無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整が完了した旨の通知を受信する通知受信ステップと、前記発電機の無効電力抑制が可能である場合に、前記AQRの無効電力設定値を前記無効電力抑制値に設定して無効電力を制御する無効電力制御ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1,請求項3の発明によれば、警戒エリア内で落雷が発生したとき、AQRモードでかつ進相運転を行っている場合には、電圧・無効電力制御装置による無効電力の先行調整を行うので、これまで人間(運転員)が行っていた落雷時の無効電力の調整を、自動で速やかに行うことができ、発雷による送電線ルート断等の事故発生時にも発電機の安定度を維持することが可能である。特に、重負荷期などでは,需給逼迫時における安定供給に大きく寄与できる。また、警戒エリア内での落雷の発生判定、並びに、電圧・無効電力制御装置に対する制御指令の送信手続きは全て自動で行われるので、運転員の負担軽減を図ることができる。
【0014】
請求項2,請求項4の発明によれば、電圧・無効電力制御装置から、無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整が完了した旨の通知を受信し、発電機の無効電力抑制が可能である場合に、AQRの無効電力設定値を無効電力抑制値に設定して無効電力を制御する。例えば、発電機の無効電力抑制が可能でないと判断された場合に、再び、無効電力抑制値を再設定した制御指令を送信するようにすれば、落雷時の無効電力の調整を速やかに行うことができると共に、発雷による送電線ルート断等の事故発生時にも発電機の安定度を確実に維持することができる。また、電圧調整完了の受信手続き、並びに、AQRによる無効電力制御は全て自動で行われるので、運転員の負担軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態に係る電力系統運用システムの構成図である。
図2】落雷位置評定装置(LLS)の全体構成図である。
図3図3(a)は発電所毎に設定される警戒エリアの説明図、図3(b)は発電機制御装置の出力部における(発電所Aに落雷接近時の)状況表示を例示する説明図である。
図4】実施の形態の電力系統運用方法を説明するフローチャートである。
図5】操作機器判定部における電力調相設備選択のための制御パターンを例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に係る電力系統運用システムの構成図である。同図において、電力系統運用システムは、大まかに、系統側と発電所側とに分けられる。
【0018】
先ず、系統側には、系統側1次母線6と、負荷時切り替えタップ(以下、LRタップと称する)を備えた連系変圧器15と、2次変流器(以下、2次CT(CT:Current Transformer)と称する)16と、系統側2次母線7と、2次変成器(以下、2次PT(PT:Potential Transformer)と称する)19と、電力調相設備であるスタティックコンデンサ17(以下、SCと称する)と、電力調相設備であるシャントリアクトル18(以下、ShRと称する)と、電圧・無効電力制御装置40と、を備えている。
【0019】
また、発電所側には、発電機11と、発電機制御装置20と、変流器(以下、CTと称する)14と、変成器(以下、PTと称する)13と、発電所側母線8と、主変圧器12と、を備えている。
【0020】
先ず、系統側の各構成要素について詳細に説明する。電圧・無効電力制御装置40は、通信ネットワーク71を介して発電所側の発電機制御装置20の通信インタフェース部28と接続される通信インタフェース部51を備えている。電圧・無効電力制御装置40は、該通信インタフェース51部を介した外部からの制御指令に応じて、該制御指令で指示される設定値に、電力系統の系統母線電圧(系統側2次母線7の電圧V2)と無効電力(系統側2次母線7の無効電力Q2)とを調整するものである。
【0021】
また、電圧・無効電力制御装置40は、通信インタフェース部51の他に、Q2計測器41、V2計測器42、設定器43、減算器44,45、無効電力積分リレー(ΣQ2)46、2次母線電圧積分リレー(ΣV2)47、操作機器判定部48、LR制御回路49およびSC/ShR制御回路50を備える。
【0022】
Q2計測器41は、2次CT16で検出された2次電流I2と、2次PT19で検出された2次電圧V2とを入力して、系統側2次母線7の無効電力Q2を計測する。また、V2計測器42は、2次PT19で検出された2次電圧V2を入力して、系統側2次母線7の電圧V2を計測する。
【0023】
また、設定器43には、操作機器判定部48で設定された目標基準無効電力Q2sと目標基準2次電圧V2sとが保持されている。減算器44では、Q2計測器41で計測した無効電力Q2と設定器43の目標基準無効電力Q2sとの偏差ΔQ2が算出される。また、減算器45では、V2計測器42で計測した2次電圧V2と設定器43の目標基準2次電圧V2sとの偏差ΔV2が算出される。
【0024】
また、無効電力積分リレー(ΣQ2)46では、計測した無効電力Q2と目標基準無効電力Q2sの偏差ΔQ2について積分演算が行われ、予め操作機器判定部48により設定された判定量(無効電力積分動作判定値Zq2)との比較を行って判定結果を出力する。すなわち、偏差ΔQ2の積分量が無効電力積分動作判定値Zq2以上となった時点で積分満了となる。
【0025】
また、2次母線電圧積分リレー(ΣV2)47では、計測した2次電圧V2と目標基準2次電圧V2sの偏差ΔV2について積分演算が行われ、予め操作機器判定部48により設定された判定量(2次電圧積分動作判定値Zv2)との比較を行って判定結果を出力する。すなわち、偏差ΔV2の積分量が2次電圧積分動作判定値Zv2以上となった時点で積分満了となる。
【0026】
操作機器判定部48は、無効電力積分リレー(ΣQ2)46および2次母線電圧積分リレー(ΣV2)47の判定結果に基づき最適な電力調相設備を選択する。具体的には、図5に示される制御パターンに沿って電力調相設備が選択される。図5は、V2−Q2制御を行う際の制御パターンを例示する説明図である。ここで、横軸は計測した無効電力Q2と目標基準無効電力Q2sの偏差ΔQ2であり、縦軸は計測した2次電圧V2と目標基準2次電圧V2sの偏差ΔV2である。
【0027】
例えば、第1領域に偏差ΔQ2および偏差ΔV2が位置するとき、LRタップ位置を下げる制御により、系統電圧が低下し、無効電力が滅少して系統電圧の変動が抑制されることになる。また、第2領域に偏差ΔQ2および偏差ΔV2が位置するとき、SC17を電力系統から開放する制御、或いはShR18を電力系統に投入する制御を行うことで、系統電圧の変動が抑制される。また、第3領域に偏差ΔQ2および偏差ΔV2が位置するときには、第1領域とは逆の制御(LRタッブ位置上げ)が行われ、さらに、第4領域に偏差ΔQ2および偏差ΔV2が位置するときには、第2領域とは逆の制御(SC17の開放、ShR18の投入)が行われる。なお、図中のハッチングで表記される領域は不感帯領域であり、制御は行われない。
【0028】
また、電圧・無効電力制御装置40において外部からの制御指令に応じて行われる処理は、操作機器判定部48が通信インタフェース部51を介して該制御指令を受け取って、操作機器判定部48における割り込み処理として実行されるものであり、操作機器判定部48は、該制御指令で設定されている無効電力抑制値に基づき目標基準無効電力Q2sを再設定することになる。このとき、無効電力積分リレー(ΣQ2)46では、積分結果ΣQ2が0にリセットされ、移動先の領域で積分演算が開始されることになる。
【0029】
また、LR制御回路49は、操作機器判定部48でLRタップ位置の制御(タップ下げまたはタップ上げ)が選択されたとき、連系変圧器15のLRタップに対してLRタップ制御指令を出力する。なお、LRタップ制御指令の制御後に、LRタップ位置情報が操作機器判定部48に返される。
【0030】
さらに、SC/ShR制御回路50は、操作機器判定部48でLRタップ位置の制御(SC17の開放または投入、ShR18の投入または開放)が選択されたとき、SC17およびShR18に対してSC/ShR制御指令を出力する。なお、SC/ShR制御指令の制御後に、SC17およびShR18の状態情報が操作機器判定部48に返される。
【0031】
次に、発電所側について説明する。発電機11は主変圧器12を介して上記系統側(電力系統)に連系されている。CT14は第1検出手段に該当し、発電機11の出力電圧を検出する。また、PT13は第2検出手段に該当し、発電機11の出力電流を検出する。なお、発電所は、発電機11を備えた構成であれば良く、火力発電所または水力発電所の何れであっても良い。
【0032】
発電機制御装置20は、AQR設定器30、AQR(Automatic Q−power Regulator)31、AVR(Automatic Voltage Regulator)32、制御部(制御手段)21、記憶部25、入力部26、出力部27、通信インタフェース部28およびLLS受信機29Aを備えている。
【0033】
先ず、通信インタフェース部28は、電圧・無効電力制御装置40の通信インタフェース部51と通信ネットワーク71を介して接続されている。通信ネットワーク71は、電圧・無効電力制御装置40と発電機制御装置20との間で双方向の通信を可能とするものであり、例えば、PLCにより通信を行うための電力線や、無線通信路、公衆電話回線網、イーサネット(登録商標)、通信ケーブル、或いは、インターネットなどの通信ネットワーク等で具現される。
【0034】
また、LLS受信機29Aは、落雷位置を評定する落雷位置評定装置(LLS:Lightning Location System)のLLS親局61から落雷位置情報を受信する。図2に、落雷位置評定装置(LLS)の全体構成を例示する。
【0035】
すなわち、各LLS子局62で雷電波を受信し、LLS親局61で、各LLS子局62への雷電波の到達時間差に基づき落雷位置を評定する。そして、LLS親局61から各発電所のLLS受信機29A〜29Xに対し、通信ネットワーク63を介して落雷位置情報が送信される。なお、通信ネットワーク63は、LLS親局61と各LLS受信機29A〜29Xとの間で一方向または双方向の通信を可能とするものであり、例えば、PLCにより通信を行うための電力線や、無線通信路、公衆電話回線網、イーサネット(登録商標)、通信ケーブル、或いは、インターネットなどの通信ネットワーク等で具現される。
【0036】
次に、AQR設定器30は、発電機11の出力電圧および出力電流に基づき無効電力を検出し、制御部21に通知する。また、制御部21により設定された基準無効電力値を保持する。
【0037】
また、AQR31は、検出された無効電力についてAQR設定器30の基準無効電力値と比較し、偏差があればAVR32内の電圧設定器(図示せず)を制御して、無効電力が一定となるよう発電機11の出力電圧を制御する。
【0038】
さらに、AVR32は、検出された発電機11の出力電圧を制御部21により設定された基準電圧と比較し、偏差があれば発電機11の界磁電流の増減を行い、発電機11の出力電圧を一定値に制御する。
【0039】
次に、制御部21は、設定部22、LLS警戒エリア判定部(警戒エリア判定手段)23および無効電力制御判定部(無効電力制御判定手段)24を備えている。なお、制御部21はCPU等のプロセッサで実現され、制御部21内の各構成要素は、マクロ機能のプログラムとして、記憶部25に保持され、CPU(制御部21)上で実行されるものである。
【0040】
設定部22は、発電機11の運転モードを、AVR32により発電機11の出力電圧を一定値に制御するAVRモード、或いは、AQR31により無効電力が一定となるよう発電機11の出力電圧を制御するAQRモードの何れかに設定する。
【0041】
また、LLS警戒エリア判定部23は、LLS受信機29Aを介してLLS親局61から受信した落雷位置情報に基づき、予め設定されている発電機11の位置を中心とした警戒エリア内で落雷が発生したか否かを判定する。
【0042】
ここで、落雷位置評定装置(LLS親局61)では、図3(b)に示すように、地図データを格子で区切られたメッシュ単位で管理しており、各発電所の警戒エリアは、図3(a)に示すように、発電所が位置する単位メッシュを中心に周囲8方向の単位メッシュを合わせた計9個の単位メッシュで設定されている。
【0043】
具体例として示すA発電所では、9D,9E,9F,10D,10E,10F,11D,11E,11Fの9個の何れかの単位メッシュで落雷が発生したとき、落雷位置情報が落雷発生時刻と共にLLS親局61からLLS受信機29Aに送信される。なお、図3(b)に示すような広域に渡る範囲について落雷位置情報を(比較的短い周期で)周期的に送信するようにしても良い。その場合、表示器等の出力部27には図3(b)に示すような表示がなされることになる。
【0044】
また、無効電力制御判定部24は、警戒エリア内で落雷が発生したときに、AQRモードでかつ進相運転時には、通信インタフェース部28を介して電圧・無効電力制御装置40に対して、無効電力抑制値を設定した制御指令を送信し、電圧・無効電力制御装置40から、無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整が完了した旨の通知を受けて、AQR設定器30の無効電力設定値を無効電力抑制値に設定して無効電力を制御する。
【0045】
次に、この発明の実施の形態に係る電力系統運用方法について、図4を参照して詳細に説明する。図4はこの実施の形態の電力系統運用方法を説明するフローチャートであり、図4(a)は発電機制御装置20側で行われる処理を、図4(b)は電圧・無効電力制御装置40側で行われる処理をそれぞれ示す。
【0046】
先ず、ステップS1では、発電機制御装置20のLLS警戒エリア判定部23により、LLS受信機29Aで受信した落雷位置情報に基づき、予め設定されている発電機11の位置を中心とした警戒エリア内で落雷が発生したか否かを判定する。ステップS1は特許請求の範囲にいう判定ステップに該当する。落雷が発生した場合には「発雷警戒」状態に入り、ステップS2に進む。ステップS1の処理は一定周期毎に繰り返し行われ、警戒エリアの何れかの単位メッシュで落雷が発生するまで繰り返されることになる。
【0047】
次に、ステップS2では、無効電力制御判定部24により、現時点での発電機の運転がAQRモードまたはAVRモードの何れであるかが判断される。AVRモードである場合には、以下の処理は不要であり、ステップS1に戻る。また、AQRモードである場合には、ステップS3に進む。
【0048】
次に、ステップS3では、無効電力制御判定部24により、発電機11の無効電力値に基づき、発電機11の運転が進相運転であるか否か判断される。無効電力値が0[MVar]または運転が遅相運転である場合には、以下の処理は不要であり、ステップS1に戻る。また、運転が進相運転である場合には、ステップS4に進む。
【0049】
次に、ステップS4では、通信インタフェース部28を介して電圧・無効電力制御装置40に対して、無効電力抑制値を設定した制御指令を送信する。ここで、無効電力抑制値は0[MVar]または遅れプラス方向に設定される。なお、ステップS2〜S4は特許請求の範囲にいう指令送信ステップに該当する。
【0050】
一方、電圧・無効電力制御装置40側では、ステップS11で、通信インタフェース部51を介して無効電力抑制値が設定された制御指令を受信すると、操作機器判定部48は、図4(b)の割り込み処理ルーチンを起動して、制御指令で設定されている無効電力抑制値に基づき目標基準無効電力Q2sを再設定する。このとき、無効電力積分リレー(ΣQ2)46では、積分結果ΣQ2が0にリセットされ、移動先の領域(図5参照)で、無効電力積分リレー(ΣQ2)46および2次母線電圧積分リレー(ΣV2)47による積分演算が開始される。
【0051】
そして、無効電力積分リレー(ΣQ2)46および2次母線電圧積分リレー(ΣV2)47による積分判定が行われる(ステップS13)。また、操作機器判定部48は、この無効電力積分リレー(ΣQ2)46および2次母線電圧積分リレー(ΣV2)47の判定結果に基づき、図5に示される制御パターンに沿って電力調相設備を選択する(ステップS14)。
【0052】
そして、操作機器判定部48は、計測した無効電力Q2と目標基準無効電力Q2sの偏差ΔQ2および計測した2次電圧V2と目標基準2次電圧V2sの偏差ΔV2が図5の不感帯領域に位置するに至ったとき、系統側母線電圧の電圧調整が完了したと判断する(ステップS15)。なお、系統側母線電圧の電圧調整が完了したと判断されるまで、ステップS13〜S15の処理が繰り返される。
【0053】
さらに、ステップS16で、操作機器判定部48は、通信インタフェース部51を介して系統側母線電圧の電圧調整結果を発電機制御装置20側に送信する。
【0054】
他方、発電機制御装置20側では、ステップS5で系統側1次母線電圧の電圧調整結果を受信する。ステップS5は特許請求の範囲にいう通知受信ステップに該当する。そして、無効電力制御判定部24は、系統側母線電圧の電圧調整が完了したか否か、並びに、発電機11の無効電力抑制が可能か否かを判断する(ステップS6)。ここで、発電機11の無効電力抑制が可能でない旨が判断された場合には、ステップS4に戻って、再び、無効電力抑制値を再設定した制御指令を送信することになる。
【0055】
また、ステップS6で、系統側母線電圧調整が完了し、発電機11の無効電力抑制が可能である場合には、ステップS7に進み、AQR設定器30の無効電力設定値を無効電力抑制値に設定してAQRによる無効電力一定制御を行う。なお、ステップS6およびS7は特許請求の範囲にいう無効電力制御ステップに該当する。
【0056】
なお、制御部21内には、今回の落雷発生の判定がなされた(ステップS1では「発雷警戒」状態に入った)時を起点に計時を開始する(ソフトウェア)タイマを備えている。ステップS8では、警戒エリア判定部23により、該タイマの計時が30分となるまでの期間に、警戒エリアに落雷が発生したか否かが判断される。警戒エリアに落雷が発生していない場合には、「発雷警戒」は解除され、ステップS9に進んで、人間系での発電機の無効電力制御に移行して終了する。また、30分以内に警戒エリアに落雷が発生している場合には、ステップS2に戻って「発雷警戒」状態を維持する。ここでは、発雷警戒解除の判断を「タイマの計時が30分となるまでの期間」で行っているが、「30分」に限定されることなく、季節、気象条件などに応じて任意に可変設定するようにしても良い。
【0057】
以上説明したように、この実施の形態の電力系統運用システムおよび電力系統運用方法では、LLS警戒エリア判定部23によって予め設定されている警戒エリア内で落雷が発生したか否かを判定し(判定ステップ)、警戒エリア内で落雷が発生したと判定した際に、AQRモードでかつ進相運転を行っている場合には、無効電力制御判定部24により、通信インタフェース部28を介して電圧・無効電力制御装置40に対して、無効電力抑制値を設定した制御指令を送信し(指令送信ステップ)、電圧・無効電力制御装置40による無効電力の先行調整を行う。
【0058】
系統側では、電力系統の系統母線電圧を調整する負荷時切り換えタップ(LRタップを備えた連系変圧器15)と、無効電力を調整する電力調相設備(スタティックコンデンサ17およびシャントリアクトル18)と、を備えており、電圧・無効電力制御装置40は、負荷時切り換えタップの上げ/下げ、或いは、電力調相設備の投入/開放を選択的に行うことにより、電力系統の系統母線電圧および無効電力をそれぞれ調整する。
【0059】
このように、警戒エリア内で落雷が発生したとき、AQRモードでかつ進相運転を行っている場合には、電圧・無効電力制御装置40による無効電力の先行調整を行うので、これまで人間(運転員)が行っていた落雷時の無効電力の調整を、自動で速やかに行うことができ、発雷による送電線ルート断等の事故発生時にも発電機11の安定度を維持することが可能である。特に、重負荷期などでは,需給逼迫時における安定供給に大きく寄与できる。また、警戒エリア内での落雷の発生判定、並びに、電圧・無効電力制御装置40に対する制御指令の送信手続きは全て自動で行われるので、運転員の負担軽減を図ることができる。
【0060】
また、この実施の形態では、無効電力制御判定部24は、電圧・無効電力制御装置40から、通信インタフェース部28を介して無効電力抑制値での系統母線電圧の電圧調整が完了した旨の通知を受信し(通知受信ステップ)、発電機の無効電力抑制が可能である場合に、AQR31の無効電力設定値を無効電力抑制値に設定して無効電力を制御する(無効電力制御ステップ)。
【0061】
また、発電機11の無効電力抑制が可能でないと判断された場合には、再び、無効電力抑制値を再設定した制御指令を送信するので、落雷時の無効電力の調整を速やかに行うことができると共に、発雷による送電線ルート断等の事故発生時にも発電機11の安定度を確実に維持することができる。また、電圧調整完了の受信手続き、並びに、AQR31による無効電力制御は全て自動で行われるので、運転員の負担軽減を図ることができる。
【0062】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0063】
例えば、上述した実施の形態では、系統側において、変流器を2次側に設置した2次CT16とする構成としたが、これを1次側に設置した構成としても良い。この場合、電圧・無効電力制御装置40において、Q1計測器により系統側1次母線7の無効電力Q1を計測し、無効電力積分リレーで積分演算ΣQ1を行い、操作機器判定部48でV2−Q1制御に基づく電力調相設備の選択を行うことになる。
【0064】
また、発電機制御装置20に、AQR31と同様にAVR32内の電圧設定器を制御することにより力率を一定とするAPFR(Automatic Power Factor Regulator)を備えた構成としても良い。
【符号の説明】
【0065】
6 系統側1次母線
7 系統側2次母線
8 発電所側母線
11 発電機
12 主変圧器
13 PT(変成器)
14 CT(変流器)
15 連系変圧器
16 2次CT(2次変流器)
17 SC(スタティックコンデンサ)
18 ShR(シャントリアクトル)
20 発電機制御装置
21 制御部(制御手段)
22 設定部
23 LLS警戒エリア判定部(警戒エリア判定手段)
24 無効電力制御判定部(無効電力制御判定手段)
25 記憶部
26 入力部
27 出力部
28,51 通信インタフェース部
29A〜〜29X LLS受信機
30 AQR設定器
31 AQR
32 AVR
40 電圧・無効電力制御装置
41 Q2計測器
42 V2計測器
43 設定器
44,45 減算器
46 無効電力積分リレー(ΣQ2)
47 2次母線電圧積分リレー(ΣV2)
48 操作機器判定部
49 LR制御回路
50 SC/ShR制御回路
61 LLS親局
62 LLS子局
63,71 通信ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5