(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572767
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】抄紙用具の洗浄方法および洗浄システム
(51)【国際特許分類】
D21F 1/32 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
D21F1/32
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-257397(P2015-257397)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119930(P2017-119930A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横澤 賢
(72)【発明者】
【氏名】関谷 宏
(72)【発明者】
【氏名】保坂 大気
(72)【発明者】
【氏名】森 秀明
【審査官】
春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/157876(WO,A1)
【文献】
特開2008−007862(JP,A)
【文献】
特開2010−163700(JP,A)
【文献】
特開2006−016737(JP,A)
【文献】
特開2008−081903(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0000622(US,A1)
【文献】
特開2013−043151(JP,A)
【文献】
特開2008−253893(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02194567(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B−D21J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャワーノズルから噴出させる洗浄水に気泡を発生させる気泡発生工程と、
前記気泡発生工程により得られた前記洗浄水を前記シャワーノズルから噴出させて抄紙用具に吹き付けるシャワー工程と、
を含み、
前記気泡は、前記シャワーノズルの噴出口で画像測定法により測定される際のメディアン径D50が100μm以下であることを特徴とする抄紙用具の洗浄方法。
【請求項2】
前記気泡発生工程では、気液剪断法に基づいて前記気泡を発生させることを特徴とする請求項1に記載の抄紙用具の洗浄方法。
【請求項3】
前記気泡発生工程では、前記洗浄水に対し界面系洗浄剤を添加することを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の抄紙用具の洗浄方法。
【請求項4】
前記気泡発生工程では、前記洗浄水に対し1〜10000ppmの量で界面系洗浄剤を添加することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の抄紙用具の洗浄方法。
【請求項5】
前記界面系洗浄剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の抄紙用具の洗浄方法。
【請求項6】
前記抄紙用具はフェルトであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の抄紙用具の洗浄方法。
【請求項7】
前記シャワー工程では、前記洗浄水を前記フェルトの紙と接触する面の側に吹き付けることを特徴とする請求項6に記載の抄紙用具の洗浄方法。
【請求項8】
前記抄紙用具は、抄紙機に装着されており、
前記気泡発生工程では、前記抄紙機のサクションユニットよりも抄紙方向の上流側に位置付けられた前記シャワーノズルから前記洗浄水を噴出させて前記抄紙用具に吹き付けることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の抄紙用具の洗浄方法。
【請求項9】
抄紙用具に吹き付ける洗浄水を噴出するシャワーノズルと、
前記シャワーノズルの上流において、前記シャワーノズルから噴出される前記洗浄水に、気泡を発生させる気泡発生装置と、
を備え、
前記気泡発生装置は、前記シャワーノズルの噴出口で画像測定法により測定される際のメディアン径D50が100μm以下であるように、前記洗浄水に前記気泡を発生させ、
前記シャワーノズルは、前記気泡発生装置を通過した前記洗浄水を噴出することを特徴とする抄紙用具の洗浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機に用いられる抄紙用具の洗浄方法および洗浄システムに関する。
【背景技術】
【0002】
紙は、一般に、原料パルプを水に分散させることにより調成された紙料を、抄紙機のワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートにて順次処理する抄紙工程を経て製造される。抄紙工程では、ワイヤーパートにおいて紙料から大半の水を取り除きつつ(脱水しつつ)湿紙の紙層を形成し、フェルトパートにおいて湿紙を搾水してさらに脱水し、およびドライヤーパートにおいて湿紙乾燥ロール等を用いて湿紙を乾燥させる。湿紙の乾燥により得られた原紙はリールパートにて巻き取られる。
【0003】
抄紙工程において、湿紙の脱水、特にフェルトパートにおける搾水が効率良く行われることで、乾燥に必要な熱エネルギーを低減することができる。しかしながら、フェルトパートのフェルトに目詰まりが生じると、脱水が不良となる。脱水不良の場合、ドライヤーパートに持ち込まれる水分量が多くなり、乾燥に必要な熱エネルギーは増大し、乾燥原単位が悪化する。
【0004】
フェルトの目詰まりの原因の1つとして、湿紙の水分がフェルトに移行する際に、湿紙に含有されている繊維や薬品類がフェルトに移行することがある。これらの移行による汚れがフェルトに蓄積するのを防止するために、シャワーを用いて水を吹きかけることによるフェルトの洗浄が一般に行われている。洗浄用シャワーに、高圧の水を用いる方法や、薬品を添加した水を用いる方法が検討されてきている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−140186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、紙の原料として、脱墨パルプ(DIP)などの古紙パルプが多く使用されるようになっており、それに伴い、原料パルプ中のピッチ(樹脂分)などの量が増えている。ピッチは、抄紙時にワイヤー、フェルト、ベルトおよびカンバスなどの抄紙用具に付着して汚れとなりやすい。そのため、抄紙用具の洗浄の頻度を増やす必要が生じ、製造効率の低下に繋がっている。また、ピッチを洗浄するために一般に石油系洗浄剤が用いられるが、石油系洗浄剤を使用する際には、安全面および環境面での対応が必要となり、作業性が低下する原因となっている。
【0007】
本発明は、フェルトのような抄紙用具を効果的に洗浄することのできる洗浄方法および洗浄システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の態様を有する。
【0009】
[1] 抄紙用具を洗浄するための方法であって、シャワーノズルから噴出させるべき洗浄水に気泡を発生させる気泡発生工程と、前記気泡発生工程により得られた前記洗浄水を前記シャワーノズルから噴出して前記抄紙用具に吹き付けるシャワー工程と、を含み、前記気泡は、前記シャワーノズルの噴出口で画像測定法により測定される際のメディアン径D50が100μm以下であることを特徴とする方法。
【0010】
[2] 前記気泡発生工程では、気液剪断法に基づいて気泡を発生させることを特徴とする[1]に記載の方法。
【0011】
[3] 前記気泡発生工程では、前記洗浄水に対し界面系洗浄剤を添加することを含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の方法。
【0012】
[4] 前記界面系洗浄剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤を含むことを含むことを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
【0013】
[5] 前記気泡発生工程では、前記界面系洗浄剤を、前記洗浄水に対し1〜10000ppmの量で添加することを特徴とする、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
【0014】
[6] 前記抄紙用具はフェルトであることを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
【0015】
[7] 前記シャワー工程では、前記洗浄水を前記フェルトの紙と接触する面の側に吹き付けることを特徴とする[1]から[6]のいずれかに記載の方法。
【0016】
[8] 前記抄紙用具は、抄紙機に装着されており、前記気泡発生工程では、前記抄紙機のサクションユニットよりも抄紙方向の上流側に位置付けられた前記シャワーノズルから前記洗浄水を噴出して前記抄紙用具に吹き付けることを特徴とする[1]から[7]のいずれかに記載の方法。
【0017】
[9] 抄紙用具を洗浄するためのシステムであって、前記抄紙用具に吹き付ける洗浄水を噴出するシャワーノズルと、前記シャワーノズルの上流において、前記シャワーノズルから噴出されるべき洗浄水に、気泡を発生させる気泡発生装置と、を備え、前記気泡発生装置は、前記シャワーノズルの噴出口で画像測定法により測定される際のメディアン径D50が100μm以下であるように、前記洗浄水に気泡を発生させ、前記シャワーノズルは、前記気泡発生装置を通過した洗浄水を噴出することを特徴とするシステム。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、抄紙用具のシャワー洗浄に用いられる洗浄水に、シャワーノズルの噴出口で測定される際の気泡のメディアン径D50が100μm以下であるように、気泡を発生させる。このように発生させられた気泡は、粒径分布にもよるが、粒径が50μm以下の、好ましくは粒径が10μmから数10μm程度の、いわゆるマイクロバブルをある程度の量で含むと考えられる。近年の研究によると、マイクロバブルは、経時で圧力により収縮して壊れるいわゆる圧壊といわれる現象を生じるとされている。理論によって縛られることを望むものではないが、本発明では、発生させられた気泡に含まれるマイクロバブルの圧壊による衝撃力が抄紙用具の汚れの除去に貢献するものと考えられる。本発明によれば、優れた洗浄効果を奏することができる。
【0019】
また、本発明の別の態様によれば、抄紙用具のシャワー洗浄に用いられる洗浄水に、シャワーノズルの噴出口で測定される際にメディアン径D50が100μm以下であるように気泡を発生させることに加えて、界面系洗浄剤を添加する。理論によって縛られることを望むものではないが、界面系洗浄剤の添加により、気泡の発生量および/または安定性が向上し、汚れの除去に寄与し得るマイクロバブルが増加すると考えられる。本発明のこの態様によれば、さらに優れた洗浄効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による実施の形態について説明する。
【0021】
[抄紙用具]
本明細書で使用される際に、「抄紙用具」とは、抄紙の工程(紙の製造工程のうち、原料パルプを水に分散させた紙料を、抄紙機により漉いて紙層を形成し、脱水・搾水し、加熱・乾燥させて、原紙を製造する工程)において、抄紙機に取り付けて使用される消耗品である。抄紙用具の例には、ワイヤー、フェルト、ベルトおよびカンバスを含む。
【0022】
「ワイヤー」とは、原料パルプを水に分散させた紙料を漉いて湿紙の紙層を形成するために使用される網状の用具である。「フェルト」とは、ワイヤーで形成した湿紙を脱水するために使用される用具である。「ベルト」とは、フェルトと湿紙との接触面積を拡大し、脱水の効率性を高めるために抄紙機とフェルトとの間に取り付けられる用具である。「カンバス」とは、フェルトで脱水された湿紙を加熱・乾燥させる工程で湿紙を運搬するために使用される用具である。
【0023】
[シャワー]
本明細書で使用される際に、「シャワー」とは、容器に開けられた穴から圧力がかけられた流体が分散して噴出されるように機能する装置をいい、シャワーノズル(以下、単にノズルともいう)を含んで構成される。「シャワーノズル」または「ノズル」とは、流体の流れる方向を定めるために使用されるパイプ状の機械部品をいう。
【0024】
本発明には、当業界で使用される任意のシャワーを使用することができる。
【0025】
シャワーは、洗浄対象とする抄紙用具の位置および形状等に応じて、適宜、任意の場所に設置することができる。例えば、フェルトを洗浄する際は、シャワーは、フェルトの外側(紙と接触する面の側)および内側(紙と接触する面とは反対の面の側)のいずれにも設置することができる。また、シャワーは、脱水に関与する抄紙機のサクションユニットに対して抄紙方向の上流側および下流側のいずれに設けてもよく、また、サクションユニットに対応するように設けてもよい。汚れ落ち性の観点から、シャワーは、フェルトの外側に設けることが好ましく、また、サクションユニットの上流側に設けることが好ましい。
【0026】
また、シャワーは、固定式に限定されず、手持ち式であってもよい。
【0027】
シャワーノズルのノズル径、数および設置間隔、噴出圧は、特に限定されず、それぞれ目的とする効果に応じて適宜設定することができる。ノズル径としては、例えば0.3〜8.0mmの範囲であることができる。また、シャワーノズルの設置間隔については、例えば20〜1800mmの範囲であることができる。また、シャワーに用いる通水量は、例えばノズル当たり0.3〜100.0L/分の範囲であることができる。また、シャワーノズルから洗浄水を噴出する圧力は、例えば0.04〜1.00MPaであることができる。
【0028】
[洗浄水]
本明細書で使用される際に、「洗浄水」とは、洗浄のために使用される水である。水は、例えば、工業用水、地下水、上水道水等であることができる。本発明では、洗浄水には、洗浄効果を付与する目的のために、界面系洗浄剤を添加することができる。
【0029】
[界面系洗浄剤]
本明細書で使用される際に、「界面系洗浄剤」とは、「界面活性剤」を含み洗浄(汚れを落とす)作用を有する剤である。「界面活性剤」とは、ひとつの分子の中に親水基と疎水基(親油基)とを有する化学構造を持つ物質であり、水に溶けたときに電離してイオン(電荷をもつ原子または原子団)となるアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤および両性界面活性剤のようなイオン性界面活性剤、および水に溶けたときにイオンにならない非イオン(ノニオン)界面活性剤がある。
【0030】
本発明に使用することのできる「界面系洗浄剤」は、「界面活性剤」として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤を含むことができる。本発明に使用することのできる「界面系洗浄剤」は、界面活性剤に加えて、安定性付与等の目的で、水溶性ポリマー、キレート剤、水などを含んでいてもよい。
【0031】
界面活性剤を含む界面系洗浄剤の例として、株式会社メンテック製のピッチガードCA212およびピッチガードCA242A、メンテクリーンおよびオンプレスがある。これらは本発明において好適に使用されることができる。
【0032】
本発明において、界面系洗浄剤は、洗浄水に対して、例えば1ppm以上10000ppm以下の割合で、好ましくは5ppm以上500ppm以下の割合で添加される。界面系洗浄剤は、洗浄水に対して、好ましくは、気泡発生装置の上流で添加される。界面系洗浄剤を添加することにより洗浄水の表面張力が低下し、気泡発生装置により気泡を発生させた際に、気泡は消え難いため、安定する。また、気泡の増量効果も得られる。効果増大の観点からは、添加量がある程度多いことが好ましいが、コスト対効果の観点からは、界面系洗浄剤の添加量には上限がある。
【0033】
[気泡]
本明細書で使用される際に、「気泡」は、液体の内部や表面に生じる気体の泡である。
【0034】
本発明では、シャワーノズルから噴出される洗浄水に、前記シャワーノズルの噴出口で測定される際のメディアン径D50が100μm以下であるように気泡を発生させる。ここで、メディアン径D50とは、50%粒径とも称され、気泡の粒径を横軸にとり気泡の数(積算%)を縦軸にとった分布において、気泡の数が積算%で50%にあたる粒径を指す。
【0035】
本発明によれば、上述のメディアン径D50を有する気泡は、粒径分布にもよるが、粒径が50μm以下の、好ましくは粒径が10μmから数10μm程度の、いわゆるマイクロバブルをある程度の量で含むと考えられる。近年の研究によると、マイクロバブルは、経時で圧力により収縮し、粒径が数百nm以上10μm未満程度のいわゆるマイクロナノバブルとなって壊れる、いわゆる圧壊といわれる現象を生じるとされている。理論によって縛られることを望むものではないが、発生させられた気泡に含まれるマイクロバブルの圧壊による衝撃力が、抄紙用具の汚れの除去に貢献するものと考えられる。かかる気泡を用いる本発明によれば、優れた洗浄効果を奏することができる。
【0036】
[気泡発生方法および装置]
本発明に適用可能な気泡発生方法としては、上述の粒径が得られる限り特に限定はなく、衝撃波やキャビテーションにより気泡を発生させる「超音波方式」、気体(空気)と液体(水)とを高速旋回させ剪断力によりマイクロサイズ(粒径が10〜数10μm程度)の粒径の気泡を発生させる「旋回流方式」(気液剪断法とも称される)、液中に圧縮した気体を一気に解放させることによりマイクロサイズやミリサイズの粒径の気泡を発生させる「加圧溶解方式」、気体に圧力をかけて液中のポーラスやオリフィスなどを通してマイクロサイズやミリサイズの粒径のバブルを発生させる「微細孔方式」などを用いることができるが、中でも旋回流方式(気液剪断法)が好適に用いられる。
【0037】
本発明に適用可能な気泡発生装置としては、上述の粒径が得られる限り特に限定はなく、知られている気泡発生装置を用いることができる。例えば、送水される洗浄水に空気を加えることのできる装置として、特開2001−62269号公報に開示されるような、洗浄水用の流体導入口と排出口を有し、内部に気液混合手段を設けた流体攪拌器を用いることができる。また、特開2000−354749号公報に開示されるような、管体内周壁面に複数の突起物を設け、流体中のキャビテーションを増大させることにより、混合・攪拌を促進させる流体混合装置を用いることがきる。これらの装置は、例えば、株式会社オー・エイチ・アールから入手可能である。例えば、株式会社オー・エイチ・アール製のOHRミキサーMX−E10型を好適に用いることができる。
【0038】
発生される気泡の粒径および量は、洗浄水の圧力・流量に対する空気の圧力・流量などの各種パラメータを適宜設定することにより、制御することができる。例えば、洗浄水に対する空気の流量(時間当たり体積)の比は、好ましくは、0.5〜20%の範囲である。
【0039】
[気泡の粒径の測定方法]
本発明において、気泡の粒径(直径)を測定するために使用される方法は、画像解析法である。より詳細には、本発明の実施形態では、シャワーノズルから噴出した気泡入りの水を容器(容積:5L)に受け、その水をグルンドフォス株式会社製の定量ポンプ(DME48−3AR)を用いて、800ml/minの流量で、画像測定器(マイクロトラック・ベル株式会社製 Microtrac PartAn SI)に送り込み、粒径測定をおこなった。
【実施例】
【0040】
以下に実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は実施例の態様に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
原料パルプとして脱墨パルプ(DIP)100%を水に分散させた紙料(パルプスラリー)を、サクションブレストフォーマー型の抄紙機を用いて、抄速1050m/分で目標坪量19g/m
2の原紙を製造する操業を長時間にわたって連続的に行った。フェルトに対するピッチの付着などの汚れ等により、製造された原紙に紙穴が発生した際に、操業を一旦中断し、フェルトの外側からフェルトの洗浄を行った。洗浄終了後に、再度、操業を開始した。
【0042】
フェルトの洗浄には、シャワーノズルの上流に設けた気液剪断法に基づく気泡発生装置により気泡を発生させた水をシャワーノズルから噴出させて、洗浄水として用いた。このとき、シャワーノズルの噴出口で測定される際の気泡のメディアン径D50が100μm以下となるように、気泡を発生させた。具体的には、水道水25L/minを、株式会社オー・エイチ・アール製のOHRミキサーMX−E10型を用いて、エア混合率5%で処理し、その水をシャワー用水225L/minに圧入し、シャワーノズルから噴出させて気泡を発生させた。また、気泡の粒径の測定には、上述の画像解析法を用いた。
【0043】
[実施例2]
シャワーノズルから噴出されるべき洗浄水に対し、界面系洗浄剤(株式会社メンテック製のピッチガードCA212)を、洗浄水に対して25ppmの添加濃度となる量で添加した以外は実施例1と同様の条件を用いて、原紙を製造する操業を行った。
【0044】
[実施例3]
シャワーノズルから噴出されるべき洗浄水に対し、界面系洗浄剤(株式会社メンテック製のピッチガードCA212)を、洗浄水に対して100ppmの添加濃度となる量で添加した以外は実施例1と同様の条件を用いて、原紙を製造する操業を行った。
【0045】
[比較例1]
水に対し気泡発生装置により気泡を発生させる工程を含まなかった以外は実施例1と同様の条件を用いて、原紙を製造する操業を行った。
【0046】
<試験内容および結果>
(試験1)フェルト洗浄頻度
原紙の製造の24時間操業を30日間にわたって連続して行ったときに、フェルトの洗浄の必要が生じて操業を中断した回数を計測した。回数が少ない程、洗浄を行うべき頻度が小さく、洗浄効果が高いことを示す。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1から3は、比較例1と比べて、30日当たりに必要とされたフェルトの洗浄回数が少なかった。また、界面系洗浄剤を添加した実施例2および実施例3は、界面系洗浄剤を添加していない実施例1と比べて、30日当たりに必要とされたフェルトの洗浄回数が少なかった。本発明によれば、抄紙機における抄紙用具の洗浄頻度の低減が可能となる。
【0049】
(試験2)界面系洗浄剤の添加の効果
本発明に係る気泡を含む洗浄水に、さらに界面系洗浄剤を添加した場合の効果を確認した。
【0050】
(試験2−1)気泡の量
[実施例4]
界面系洗浄剤を添加していない水に、上述の実施例1〜3で用いた気泡発生装置(株式会社オー・エイチ・アール製のOHRミキサーMX−E10型)を用いて気泡を発生させ、シャワーノズルや他の管路を通過させずに気泡発生装置の出口で直接的に水槽に受けて、実施例4とした。
【0051】
[実施例5]
界面系洗浄剤を添加していない水の代わりに、ノニオン系界面活性剤を含む界面系洗浄剤を1000ppmの量で加えた水を用いた以外は実施例4と同様にして、実施例5とした。
【0052】
実施例4および5について、水槽に受けた直後の気泡の量を、レーザーポインターを用いた透過度(透過距離、単位cm)として測定して、値を比較した。透過度の値が小さい程、気泡の量が多いことを示す。
【0053】
【表2】
【0054】
界面系洗浄剤を添加した実施例5は、界面系洗浄剤を添加していない実施例4と比べて、発生した気泡の量が多かった。
(試験2−2)熱原単位
原紙の製造工程において湿紙を加熱・乾燥するために要したエネルギーの指標として、原紙の製造の24時間操業を120日間にわたって連続して行ったときに操業に要した天然ガスの使用量(Nm
3/t)を記録し対比した。具体的には、実施例1において要した天然ガスの使用量(Nm
3/t)を基準にした場合の実施例2において要した天然ガスの使用量(Nm
3/t)を百分率(%)で求めた。百分率(%)が小さいほど、熱原単位が小さく、洗浄が効果的に行われたことを示す。
【0055】
【表3】
【0056】
界面系洗浄剤を添加した実施例2は、界面系洗浄剤を添加していない実施例1と比べて、熱原単位が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、製紙産業における抄紙機で使用される抄紙用具の洗浄を効果的に行うことができる。そのため、長時間の操業の間において、フェルトなどの抄紙用具を洗浄するメンテナンスの頻度を低減させることができる。また、長時間の操業の間において、フェルトにおける搾水性能の低下が小さくなり、結果として、加熱・乾燥のための熱原単位が改善される。