特許第6572773号(P6572773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572773
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/08 20060101AFI20190902BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20190902BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20190902BHJP
   B60C 9/04 20060101ALI20190902BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20190902BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   B60C19/08
   B60C9/18 M
   B60C11/00 D
   B60C9/04 D
   B60C5/00 Z
   B60C15/06 B
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-562979(P2015-562979)
(86)(22)【出願日】2015年8月28日
(86)【国際出願番号】JP2015074434
(87)【国際公開番号】WO2016035709
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2018年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-181062(P2014-181062)
(32)【優先日】2014年9月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】岸添 勇
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5344098(JP,B1)
【文献】 特開2009−113597(JP,A)
【文献】 特開2012−192876(JP,A)
【文献】 特開2004−276686(JP,A)
【文献】 特開2014−133467(JP,A)
【文献】 特開2011−126338(JP,A)
【文献】 特開2013−220763(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0103412(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/08
B60C 5/00
B60C 9/04
B60C 9/18
B60C 11/00
B60C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ径方向最外側に露出して配置されて路面に接地するトレッド部と、
前記トレッド部のタイヤ径方向内側に配置されるベルト層と、
前記ベルト層のタイヤ径方向外側の少なくとも一部に配置されるベルト補強層と、
タイヤ幅方向最外側に露出して配置されるサイドウォール部と、
ビード部のリムと接触する箇所に設けられたリムクッションゴムと、
前記リムクッションゴムとともに配置されて前記リムクッションゴムの外面に前記リムと接触するように一端が露出し前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材に他端が接触して設けられた導電性ゴムと、
を備え、
電気抵抗値について、前記導電性ゴムおよび前記トレッド部の一部が1×10Ω以下であり、前記タイヤ構成部材、前記ベルト層のコートゴムおよび前記ベルト補強層のコートゴムが1×10Ω以上1×10Ω以下であり、前記リムクッションゴムおよび前記サイドウォール部のサイドゴムが1×10Ω以上であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト層の端部のタイヤ径方向内側にベルトエッジクッションゴムが配置されており、電気抵抗値について、前記ベルトエッジクッションゴムが1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記トレッド部は、トレッド面に露出するキャップトレッドゴムと、前記キャップトレッドゴムのタイヤ径方向内側であって前記ベルト層や前記ベルト補強層に接するアンダートレッドゴムとを有しており、
電気抵抗値について、前記キャップトレッドゴムが1×10Ω以下であり、前記アンダートレッドゴムが1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部は、トレッド面に露出するキャップトレッドゴムと、前記キャップトレッドゴムのタイヤ径方向内側であって前記ベルト層や前記ベルト補強層に接するアンダートレッドゴムとを有しており、
前記トレッド部に、トレッド面に一端が露出して前記キャップトレッドゴムおよび前記アンダートレッドゴムを貫通し前記ベルト層または前記ベルト補強層に他端が接触して設けられたアーストレッドゴムを有し、
電気抵抗値について、前記アーストレッドゴムが1×10Ω以下であり、前記キャップトレッドゴムおよび前記アンダートレッドゴムが1×10Ω以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記タイヤ構成部材は、タイヤ幅方向の両端が両前記ビード部に至りタイヤ周方向に掛け回されて設けられたカーカス層であり、当該カーカス層のコートゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記タイヤ構成部材は、タイヤ内面に設けられたインナーライナー層であり、当該インナーライナー層のゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記タイヤ構成部材は、前記ビード部に設けられたビードフィラーであり、当該ビードフィラーのゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記タイヤ構成部材は、前記ビード部に設けられたビード補強層であり、当該ビード補強層のコートゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することのできる空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1は、トレッド部と、サイドウォール部と、ビード部と、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至るカーカスと、カーカスのタイヤ半径方向外側にブレーカーを備えた空気入りタイヤであって、トレッド部、ブレーカーおよびサイドウォール部にそれぞれ形成されるトレッドゴム、ブレーカーゴムおよびサイドウォールゴムの体積固有抵抗は、いずれも1×10Ω・cm以上であり、さらにカーカスを構成するカーカスプライとサイドウォールゴムとの間、およびブレーカーとトレッド部の間に配置されて厚みが0.2mm〜3.0mmの導電性ゴムと、導電性ゴムと接続し一部がトレッド部の表面に露出するようにトレッド部に埋設される通電ゴムと、導電性ゴムの下端と連結しビード部のリムフランジに接する領域に配置されるクリンチと、を備え、導電性ゴム、通電ゴムおよびクリンチゴムの体積固有抵抗が1×10Ω・cm未満である空気入りタイヤが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−023504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の空気入りタイヤは、転がり抵抗を低く維持しながら路面とタイヤの走行時に発生する静電気を効果的に放出することを目的としている。しかし、特許文献1の空気入りタイヤは、カーカスを構成するカーカスプライとサイドウォールゴムとの間、およびブレーカーとトレッド部の間に配置されて厚みが0.2mm〜3.0mmの導電性ゴムと、導電性ゴムの下端と連結しビード部のリムフランジに接する領域に配置されるクリンチと、を備え、これらの体積固有抵抗が1×10Ω・cm未満とされている。すなわち、特許文献1の空気入りタイヤは、カーカスプライとサイドウォールゴムとの間、およびブレーカーとトレッド部の間の導電性ゴムや、ビード部のリムフランジに接する領域のクリンチゴムが、電気抵抗の低いゴム材で形成されている。この結果、電気抵抗の低いゴム材は、発熱が大きいため、耐転がり抵抗性能や高速耐久性能が低下する傾向となる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の発明の空気入りタイヤは、タイヤ径方向最外側に露出して配置されて路面に接地するトレッド部と、前記トレッド部のタイヤ径方向内側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側の少なくとも一部に配置されるベルト補強層と、タイヤ幅方向最外側に露出して配置されるサイドウォール部と、ビード部のリムと接触する箇所に設けられたリムクッションゴムと、前記リムクッションゴムとともに配置されて前記リムクッションゴムの外面に前記リムと接触するように一端が露出し前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材に他端が接触して設けられた導電性ゴムと、を備え、電気抵抗値について、前記導電性ゴムおよび前記トレッド部の一部が1×10Ω以下であり、前記タイヤ構成部材、前記ベルト層のコートゴムおよび前記ベルト補強層のコートゴムが1×10Ω以上1×10Ω以下であり、前記リムクッションゴムおよび前記サイドウォール部のサイドゴムが1×10Ω以上であることを特徴とする。
【0007】
この空気入りタイヤによれば、リムクッションゴムよりも電気抵抗値が低い導電性ゴムを備えることで、リムから入った電気が導電性ゴム、タイヤ構成部材を通ってトレッド部側に流れる。このため、リムクッションゴムに電気抵抗値を考慮せず低発熱性のゴムを採用することができ、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上することができる。この結果、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することができる。
【0008】
しかも、この空気入りタイヤによれば、導電性ゴムはリムからの電気の入口となり、トレッド部の一部は路面への電気の出口となって、電気抵抗値低減に最も重要な部分であるため、これらの電気抵抗値を1×10Ω以下とすることで、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。また、タイヤ構成部材、ベルト層のコートゴムおよびベルト補強層のコートゴムは、導電性ゴムとトレッド部の一部との間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、これらの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。また、リムクッションゴムおよびサイドウォール部のサイドゴムは、転がり抵抗低減および高速耐久性向上に寄与する部分であり、これらの電気抵抗値を1×10Ω以上とすることで、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができる。
【0009】
第2の発明の空気入りタイヤは、第1の発明において、前記ベルト層の端部のタイヤ径方向内側にベルトエッジクッションゴムが配置されており、電気抵抗値について、前記ベルトエッジクッションゴムが1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする。
【0010】
この空気入りタイヤによれば、ベルトエッジクッションゴムが配置される場合、このベルトエッジクッションゴムは、導電性ゴムとトレッド部の一部との間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、これらの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0011】
第3の発明の空気入りタイヤは、第1または第2の発明において、前記トレッド部は、トレッド面に露出するキャップトレッドゴムと、前記キャップトレッドゴムのタイヤ径方向内側であって前記ベルト層や前記ベルト補強層に接するアンダートレッドゴムとを有しており、電気抵抗値について、前記キャップトレッドゴムが1×10Ω以下であり、前記アンダートレッドゴムが1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする。
【0012】
この空気入りタイヤによれば、トレッド部の一部がキャップトレッドゴムとして構成され、路面への電気の出口となって、電気抵抗値低減に最も重要なキャップトレッドゴムの電気抵抗値を1×10Ω以下とすることで、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。また、アンダートレッドゴムは、導電性ゴムとキャップトレッドゴムとの間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このアンダートレッドゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0013】
第4の発明の空気入りタイヤは、第1または第2の発明において、前記トレッド部は、トレッド面に露出するキャップトレッドゴムと、前記キャップトレッドゴムのタイヤ径方向内側であって前記ベルト層や前記ベルト補強層に接するアンダートレッドゴムとを有しており、前記トレッド部に、トレッド面に一端が露出して前記キャップトレッドゴムおよび前記アンダートレッドゴムを貫通し前記ベルト層または前記ベルト補強層に他端が接触して設けられたアーストレッドゴムを有し、電気抵抗値について、前記アーストレッドゴムが1×10Ω以下であり、前記キャップトレッドゴムおよび前記アンダートレッドゴムが1×10Ω以上であることを特徴とする。
【0014】
この空気入りタイヤによれば、トレッド部の一部がアーストレッドゴムとして構成され、路面への電気の出口となって、電気抵抗値低減に最も重要なアーストレッドゴムの電気抵抗値を1×10Ω以下とすることで、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。また、アーストレッドゴムを配置したことで、キャップトレッドゴムおよびアンダートレッドゴムは、転がり抵抗低減および高速耐久性向上に寄与する部分とすることができ、これらの電気抵抗値を1×10Ω以上とすることで、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができる。
【0015】
第5の発明の空気入りタイヤは、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記タイヤ構成部材は、タイヤ幅方向の両端が両前記ビード部に至りタイヤ周方向に掛け回されて設けられたカーカス層であり、当該カーカス層のコートゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする。
【0016】
この空気入りタイヤによれば、カーカス層は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコアでタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものであるため、このカーカス層に導電性ゴムの他端を接触させることで、リムから入った電気をトレッド部側に適宜流すことができ、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。このように、カーカス層は、その配置から、導電性ゴムとトレッド部の一部との間で電気の通り道として適しており、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このカーカス層のコートゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0017】
第6の発明の空気入りタイヤは、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記タイヤ構成部材は、タイヤ内面に設けられたインナーライナー層であり、当該インナーライナー層のゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする。
【0018】
この空気入りタイヤによれば、インナーライナー層は、タイヤ内面に沿って、各タイヤ幅方向両端部が一対のビード部のビードコアの下部に至り、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されて貼り付けられているものであるため、このインナーライナー層に導電性ゴムの他端を接触させることで、リムから入った電気をトレッド部側に適宜流すことができ、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。このように、インナーライナー層は、その配置から、導電性ゴムとトレッド部の一部との間で電気の通り道として適しており、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このインナーライナー層のゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0019】
第7の発明の空気入りタイヤは、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記タイヤ構成部材は、前記ビード部に設けられたビードフィラーであり、当該ビードフィラーのゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする。
【0020】
この空気入りタイヤによれば、ビードフィラーがタイヤ構成部材の場合、導電性ゴムとトレッド部の一部との間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このビードフィラーのゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0021】
第8の発明の空気入りタイヤは、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記タイヤ構成部材は、前記ビード部に設けられたビード補強層であり、当該ビード補強層のコートゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下であることを特徴とする。
【0022】
この空気入りタイヤによれば、ビード補強層がタイヤ構成部材の場合、導電性ゴムとトレッド部の一部との間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このビード補強層のコートゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る空気入りタイヤは、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。
図3図3は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図4図4は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図5図5は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図6図6は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図7図7は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図8図8は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図9図9は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図10図10は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図11図11は、リム組時にビード部に掛かる圧力を示すグラフである。
図12図12は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図13図13は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図14図14は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図15図15は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図16図16は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図17図17は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図18図18は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図19図19は、本発明の実施例に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0026】
図1および図2は、本実施形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。
【0027】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0028】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、図1および図2に示すように、トレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。また、この空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト層7と、ベルト補強層8と、インナーライナー層9とを備えている。
【0029】
トレッド部2は、トレッドゴム2Aからなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。トレッド面21は、タイヤ周方向に沿って延び、タイヤ赤道線CLと平行なストレート主溝である複数(本実施形態では4本)の主溝22が設けられている。そして、トレッド面21は、これら複数の主溝22により、タイヤ周方向に沿って延びるリブ状の陸部23が複数形成される。なお、主溝22は、タイヤ周方向に沿って延在しつつ屈曲や湾曲して形成されていてもよい。また、トレッド面21は、陸部23において、主溝22に交差する方向に延在するラグ溝24が設けられている。本実施形態では、ラグ溝24をタイヤ幅方向最外側の陸部23に示す。ラグ溝24は、主溝22に交差していてもよく、またはラグ溝24は、少なくとも一端が主溝22に交差せず陸部23内で終端していてもよい。ラグ溝24の両端が主溝22に交差する場合、陸部23がタイヤ周方向で複数に分割されたブロック状の陸部が形成される。なお、ラグ溝24は、タイヤ周方向に対して傾斜して延在しつつ屈曲や湾曲して形成されていてもよい。
【0030】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。すなわち、ショルダー部3は、トレッドゴム2Aからなる。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。このサイドウォール部4は、サイドゴム4Aからなる。図1に示すように、サイドゴム4Aは、タイヤ径方向外側の端部が、トレッドゴム2Aの端部のタイヤ径方向内側に配置され、タイヤ径方向内側の端部が、後述するリムクッションゴム5Aの端部のタイヤ幅方向外側に配置されている。また、図2に示すように、サイドゴム4Aは、タイヤ径方向外側の端部が、トレッドゴム2Aの端部のタイヤ径方向外側に配置されてショルダー部3まで延在していてもよい。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で折り返されることにより形成された空間に配置されるゴム材である。このビード部5は、リムR(図3図8に二点鎖線で示す)と接触する外側部分に露出するリムクッションゴム5Aを有する。リムクッションゴム5Aは、ビード部5の外周をなすもので、ビード部5のタイヤ内側から下端部を経てタイヤ外側のビードフィラー52を覆う位置(サイドウォール部4)まで至り設けられている。なお、図3図8において、空気入りタイヤ1をリムRに装着した場合、リムクッションゴム5Aは、ビード部5のタイヤ内側のビードトウのタイヤ径方向内側部分がリムRに押圧されて変形する。
【0031】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向にある角度を持って複数並設されたカーカスコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。カーカスコードは、有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。このカーカス層6は、少なくとも1層で設けられている。なお、図1および図2において、カーカス層6は、折り返された端部がビードフィラー52全体を覆うように設けられているが、折り返された端部がビードフィラー52の途中までを覆い、ビードフィラー52とリムクッションゴム5Aとが接触するように設けられていてもよい(図5参照)。また、カーカス層6の折り返された部分のタイヤ幅方向外側であって、リムクッションゴム5Aとの間に、スチールコードまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)がコートゴムで被覆されたビード補強層10(図6参照)が設けられていてもよい。
【0032】
ベルト層7は、少なくとも2層のベルト71,72を積層した多層構造をなし、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト71,72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20度〜30度)で複数並設されたコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。また、重なり合うベルト71,72は、互いのコードが交差するように配置されている。また、図2に示すように、サイドゴム4Aのタイヤ径方向外側の端部がトレッドゴム2Aの端部のタイヤ径方向外側に配置されてショルダー部3まで延在して構成されている場合、ベルト層7(ベルト71)の端部のタイヤ径方向内側であって、カーカス層6との間に、ベルトエッジクッションゴム7Aが配置される。
【0033】
ベルト補強層8は、ベルト層7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に略平行(±5度)でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示せず)がコートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。図1および図2で示すベルト補強層8は、ベルト層7全体を覆うように配置され、かつベルト層7のタイヤ幅方向端部を覆うように積層配置されている。ベルト補強層8の構成は、上記に限らず、図には明示しないが、例えば、2層で、ベルト層7全体を覆うように配置されていたり、ベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されていたりしてもよい。また、ベルト補強層8の構成は、図には明示しないが、例えば、1層で、ベルト層7全体を覆うように配置されていたり、ベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されていたりしてもよい。すなわち、ベルト補強層8は、ベルト層7の少なくともタイヤ幅方向端部に重なるものである。また、ベルト補強層8は、帯状(例えば幅10[mm])のストリップ材をタイヤ周方向に巻き付けて設けられている。
【0034】
インナーライナー層9は、タイヤ内面、すなわち、カーカス層6の内周面であって、各タイヤ幅方向両端部が一対のビード部5のビードコア51の位置まで至り、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されて貼り付けられている。インナーライナー層9は、タイヤ外側への空気分子の透過を抑制するためのものである。なお、インナーライナー層9は、図1および図2に示すようにビードコア51の下部(タイヤ径方向内側)に至り設けられているが、図8または図12に示すようにビード部5のタイヤ内側であってビードコア51の間近に至り設けられていてもよい。
【0035】
図3図8は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
【0036】
上述した空気入りタイヤ1において、図3図8に示すように、リムクッションゴム5Aは、導電性ゴム11が設けられている。導電性ゴム11は、リムクッションゴム5Aとともに配置されてリムクッションゴム5Aの外面であってリムRと接触する部分に一端11aが露出し、リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材に他端11bが接触して設けられている。また、導電性ゴム11は、リムクッションゴム5Aよりも電気抵抗値が低いゴム材からなる。この導電性ゴム11は、タイヤ周方向で連続して設けられていても、断続して設けられていてもよい。
【0037】
リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材とは、図3および図8ではカーカス層6を示し、図4および図7ではインナーライナー層9を示し、図5ではビードフィラー52を示し、図6ではビード補強層10を示している。
【0038】
なお、導電性ゴム11は、図3図8に示すように、リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材に接触するが、複数のタイヤ構成部材に接触してもよく、リムRから入った電気を導電性ゴム11、タイヤ構成部材を通ってトレッド部2側に流す効果をより顕著に得ることができる。また、導電性ゴム11の位置は、リムクッションゴム5Aの外面に一端11aが露出しリムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材に他端11bが接触する距離がより短い最短距離の位置に配置することが、リムRから入った電気を導電性ゴム11、タイヤ構成部材を通ってトレッド部2側に流す効果をより顕著に得るうえで好ましい。
【0039】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、トレッド部2は、図1および図2に示す空気入りタイヤ1の要部拡大図である図9および図10に示すように構成されている。
【0040】
図9に示すように、トレッド部2は、当該トレッド部2をなすトレッドゴム2Aが、トレッド面21に露出するキャップトレッドゴム2Aaと、キャップトレッドゴム2Aaのタイヤ径方向内側であってベルト補強層8やベルト層7に隣接するアンダートレッドゴム2Abとを有する。
【0041】
また、図10に示すように、トレッド部2は、その一部としてアーストレッドゴム12を有する。アーストレッドゴム12は、トレッド部2の外面であるトレッド面21に一端12aが露出し、キャップトレッドゴム2Aaおよびアンダートレッドゴム2Abを貫通して他端12bがベルト補強層8またはベルト層7に接触して配置されている。
【0042】
このように構成される空気入りタイヤ1においては、ベルト層7と、ベルト補強層8と、トレッド部2と、サイドウォール部4と、ビード部5のリムRと接触する箇所に設けられたリムクッションゴム5Aと、リムクッションゴム5Aとともに配置されてリムクッションゴム5Aの外面にリムRと接触するように一端11aが露出しリムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材に他端11bが接触して設けられた導電性ゴム11と、を備え、電気抵抗値について、導電性ゴム11およびトレッド部2の一部が1×10Ω以下であり、タイヤ構成部材、カーカス層6のコートゴム、ベルト層7のコートゴムおよびベルト補強層8のコートゴムが1×10Ω以上1×10Ω以下であり、リムクッションゴム5Aおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aが1×10Ω以上である。
【0043】
この空気入りタイヤ1によれば、リムクッションゴム5Aよりも電気抵抗値が低い導電性ゴム11を備えることで、リムRから入った電気が導電性ゴム11、タイヤ構成部材を通ってトレッド部2側に流れる。このため、リムクッションゴム5Aに電気抵抗値を考慮せず低発熱性のゴムを採用することができ、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上することができる。この結果、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することができる。
【0044】
しかも、この空気入りタイヤ1によれば、導電性ゴム11はリムRからの電気の入口となり、トレッド部2の一部は路面への電気の出口となって、電気抵抗値低減に最も重要な部分であるため、これらの電気抵抗値を1×10Ω以下とすることで、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。また、タイヤ構成部材、ベルト層7のコートゴムおよびベルト補強層8のコートゴムは、導電性ゴム11とトレッド部2の一部との間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、これらの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。また、リムクッションゴム5Aおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aは、転がり抵抗低減および高速耐久性向上に寄与する部分であり、これらの電気抵抗値を1×10Ω以上とすることで、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができる。
【0045】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、ベルト層7の端部のタイヤ径方向内側にベルトエッジクッションゴム7Aが配置されており、電気抵抗値について、ベルトエッジクッションゴム7Aが1×10Ω以上1×10Ω以下である。
【0046】
この空気入りタイヤ1によれば、ベルトエッジクッションゴム7Aが配置される場合、このベルトエッジクッションゴム7Aは、導電性ゴム11とトレッド部2の一部との間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、これらの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0047】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、トレッド部2は、トレッド面21に露出するキャップトレッドゴム2Aaと、キャップトレッドゴム2Aaのタイヤ径方向内側であってベルト層7やベルト補強層8に接するアンダートレッドゴム2Abとを有しており、電気抵抗値について、キャップトレッドゴム2Aaが1×10Ω以下であり、アンダートレッドゴム2Abが1×10Ω以上1×10Ω以下である。
【0048】
この空気入りタイヤ1によれば、トレッド部2の一部がキャップトレッドゴム2Aaとして構成され、路面への電気の出口となって、電気抵抗値低減に最も重要なキャップトレッドゴム2Aaの電気抵抗値を1×10Ω以下とすることで、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。また、アンダートレッドゴム2Abは、導電性ゴム11とキャップトレッドゴム2Aaとの間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このアンダートレッドゴム2Abの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0049】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、トレッド部2は、トレッド面21に露出するキャップトレッドゴム2Aaと、キャップトレッドゴム2Aaのタイヤ径方向内側であってベルト層7やベルト補強層8に接するアンダートレッドゴム2Abとを有しており、トレッド部2に、トレッド面21に一端12aが露出してキャップトレッドゴム2Aaおよびアンダートレッドゴム2Abを貫通しベルト層7またはベルト補強層8に他端12bが接触して設けられたアーストレッドゴム12を有し、電気抵抗値について、アーストレッドゴム12が1×10Ω以下であり、キャップトレッドゴム2Aaおよびアンダートレッドゴム2Abが1×10Ω以上である。
【0050】
この空気入りタイヤ1によれば、トレッド部2の一部がアーストレッドゴム12として構成され、路面への電気の出口となって、電気抵抗値低減に最も重要なアーストレッドゴム12の電気抵抗値を1×10Ω以下とすることで、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。また、アーストレッドゴム12を配置したことで、キャップトレッドゴム2Aaおよびアンダートレッドゴム2Abは、転がり抵抗低減および高速耐久性向上に寄与する部分とすることができ、これらの電気抵抗値を1×10Ω以上とすることで、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができる。
【0051】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、タイヤ構成部材は、タイヤ幅方向の両端が両ビード部5に至りタイヤ周方向に掛け回されて設けられたカーカス層6であり、当該カーカス層6のコートゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下である。
【0052】
この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものであるため、このカーカス層6に導電性ゴム11の他端11bを接触させることで、リムRから入った電気をトレッド部2側に適宜流すことができ、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。このように、カーカス層6は、その配置から、導電性ゴム11とトレッド部2の一部(キャップトレッドゴム2Aaまたはアーストレッドゴム12)との間で電気の通り道として適しており、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このカーカス層6のコートゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0053】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、タイヤ構成部材は、タイヤ内面に設けられたインナーライナー層9であり、当該インナーライナー層9のゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下である。
【0054】
この空気入りタイヤ1によれば、インナーライナー層9は、タイヤ内面に沿って、各タイヤ幅方向両端部が一対のビード部5のビードコア51の下部に至り、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されて貼り付けられているものであるため、このインナーライナー層9に導電性ゴム11の他端11bを接触させることで、リムRから入った電気をトレッド部2側に適宜流すことができ、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。このように、インナーライナー層9は、その配置から、導電性ゴム11とトレッド部2の一部(キャップトレッドゴム2Aaまたはアーストレッドゴム12)との間で電気の通り道として適しており、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このインナーライナー層9のゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0055】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、タイヤ構成部材は、ビード部5に設けられたビードフィラー52であり、当該ビードフィラー52のゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下である。
【0056】
この空気入りタイヤ1によれば、ビードフィラー52がタイヤ構成部材の場合、導電性ゴム11とトレッド部2の一部(キャップトレッドゴム2Aaまたはアーストレッドゴム12)との間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このビードフィラー52のゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0057】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、タイヤ構成部材は、ビード部5に設けられたビード補強層10であり、当該ビード補強層10のコートゴムの電気抵抗値が1×10Ω以上1×10Ω以下である。
【0058】
この空気入りタイヤ1によれば、ビード補強層10がタイヤ構成部材の場合、導電性ゴム11とトレッド部2の一部(キャップトレッドゴム2Aaまたはアーストレッドゴム12)との間で電気の通り道となり、転がり抵抗低減と電気抵抗値低減とを両立させる部分であるため、このビード補強層10のコートゴムの電気抵抗値を1×10Ω以上1×10Ω以下とすることで、耐転がり抵抗性能と電気抵抗低減性能とを両立する効果を顕著に得ることができる。
【0059】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図4図7および図8に示すように、導電性ゴム11は、子午断面において、一端11aが、ビード部5におけるビードコア51のタイヤ径方向内側端を基準とする水平線Hよりもタイヤ径方向内側に配置されていることが好ましい。
【0060】
水平線Hは、子午断面カットサンプルを後述する正規リムのリム幅相当に固定した場合に、タイヤ赤道面CLに直交し、タイヤ幅方向に平行なものである。また、図4図7および図8において、範囲A−Bは、空気入りタイヤ1をリムRに組み込んだときに、ビード部5がリムRに接触する範囲である。そして、範囲A−B内において、位置Cはビードコア51のタイヤ内側端のタイヤ径方向内側であり、位置Dはビードコア51のタイヤ外側端のタイヤ径方向内側であり、位置Eは水平線H上であり、位置Fはビードコア51のタイヤ径方向外側のタイヤ外側であり、位置Gはビード部5のタイヤ外側の変曲点である。リム組時にビード部5に掛かる圧力を示すグラフである図11では、この範囲A−B内における各位置の圧力を示している。また、図11において、実線は静的時(車両の停止時または低速走行時)であり、破線は高速走行時(150km/h以上)のビード部5に掛かる圧力を示す。
【0061】
図11に示すように、水平線Hよりもタイヤ径方向内側となる位置Aから位置Eの範囲では、ビードコア51がリムRに嵌まり込むためリムRとの接触圧が高く、高速走行時でも安定してリムRに接触する。従って、ビードコア51のタイヤ径方向内側端を基準とする水平線Hよりもタイヤ径方向内側に導電性ゴム11の一端11aを配置することで、効率よく電気抵抗を低減しながら、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能との両立を図ることができる。なお、図11に示すように、位置Fから位置Gの範囲では、静的時はリムRとの接触圧が高いが、高速走行時はビードコア51を中心としてビード部5が変位し易く、リムRとの接触圧が低下する傾向となる。
【0062】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図1および図2に示す空気入りタイヤ1の要部拡大図である図12に示すように、導電性ゴム11は、子午断面において、一端11aの位置Pにおけるビード部5のプロファイルとの法線Nに対して±45°の範囲に他端11bが配置されることが好ましい。
【0063】
図12に示すように、子午断面カットサンプルを後述する正規リムのリム幅相当に固定した状態において、一端11aの位置Pは、一端11aの厚み方向の幅の中心位置である。法線Nは、ビード部5のプロファイルの位置Pにおける接線Tに直交する。そして、この法線Nに対して±45°の範囲に他端11bを配置することで、導電性ゴム11の体積の増加を抑制するため、発熱を抑えて耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を維持することができる。
【0064】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図1および図2に示す空気入りタイヤ1の要部拡大図である図13図18に示すように、導電性ゴム11は、子午断面における厚み方向の幅W1,W2,W3が0.5mm以上10.0mm以下であることが好ましい。
【0065】
幅W1は導電性ゴム11の一端11aと他端11bとの中間の最大(中間が広くなる場合)または最小寸法(中間が狭くなる場合)であり、幅W2は導電性ゴム11の一端11aの寸法であり、幅W3は導電性ゴム11の他端11bの寸法である。
【0066】
導電性ゴム11の幅W1,W2,W3の最小寸法が0.5mm未満である場合、導電性が低く電気抵抗低減効果が低下する傾向となる。一方、導電性ゴム11の幅W1,W2,W3の最大寸法が10.0mmを超える場合、導電性ゴム11の体積が大きく発熱が大きくなるため耐転がり抵抗性能および高速耐久性能が低下する傾向となる。従って、導電性ゴム11の幅W1,W2,W3を0.5mm以上10.0mm以下とすることが、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立するうえで好ましい。
【0067】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である図13図18に示すように、導電性ゴム11は、子午断面における厚み方向の幅W1,W2,W3が0.5mm以上6.0mm以下であることが好ましい。
【0068】
導電性ゴム11の幅W1,W2,W3の各寸法が0.5mm未満である場合、導電性が低く電気抵抗低減効果が低下する傾向となる。一方、導電性ゴム11の幅W1,W2,W3の各寸法を6.0mm以下とすれば、導電性ゴム11の体積の増加を抑制して発熱が大きくなることを抑える。従って、導電性ゴム11の幅W1,W2,W3を0.5mm以上6.0mm以下とすることが、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立するうえでより好ましい。
【0069】
ここで、図13では一端11aから他端11bに至り導電性ゴム11の幅W1,W2,W3が均等に形成された形態を示している。また、図14では、一端11aから他端11bに至り導電性ゴム11の幅W1が途中で広く形成された形態を示している。この図14に示す形態では、一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が0.5mm以上あればよく、途中の広い幅W1が10.0mm(好ましくは6.0mm)以下であればよい。図14に示す形態は、導電性ゴム11の幅W1が途中で広く形成されているため、電気を通しやすく電気抵抗低減効果が顕著に得られる。また、図15では、導電性ゴム11の一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が均等で途中の幅W1よりも広く形成された形態を示している。また、図16および図17では、導電性ゴム11の一端11aの幅W2または他端11bの幅W3の一方が広く形成された形態を示している。また、図18では、導電性ゴム11の一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が途中の幅W1よりも広く形成され、かつ一端11aの幅W2が他端11bの幅W3よりも広く形成された形態を示している。この図15図18に示す形態では、途中の幅W1が0.5mm以上あればよく、一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が10.0mm(好ましくは6.0mm)以下であればよい。図15図18に示す形態は、リムR側やタイヤ構成部材側に接触する導電性ゴム11の一端11aの幅W2や他端11bの幅W3が途中の幅W1より広く形成されているため、接触面積の増大により電気の入出が良好となり電気抵抗低減効果が顕著に得られる。しかも、図18に示す形態は、導電性ゴム11の一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が途中の幅W1よりも広く形成され、かつ一端11aの幅W2が他端11bの幅W3よりも広く形成されているため、リムR側からの電気の入りがより良好となり電気抵抗低減効果がより顕著に得られる。
【0070】
従って、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11は、子午断面において、一端11aの厚み方向の幅W2が、他端11bとの間の最大幅W1よりも大きいことが好ましい。また、導電性ゴム11は、子午断面において、他端11bの厚み方向の幅W3が、一端11aとの間の最大幅W1よりも大きいことが好ましい。さらに、導電性ゴム11は、子午断面において、一端11aの厚み方向の幅W2が、他端11bの幅W3よりも大きいことが好ましい。
【0071】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11が複数箇所に設けられていることが好ましい。
【0072】
導電性ゴム11を複数箇所に設けることで、電気抵抗低減効果を顕著に得ることができる。この場合、図11に示すように、リムRへの接触圧が比較的高い位置Aから位置Eの範囲や位置Fから位置Gの範囲に導電性ゴム11の少なくとも一端11aを配置することが電気抵抗低減効果を図るうえで好ましい。特に、リムRへの接触圧が常に高い位置Aから位置Eの範囲の複数箇所に導電性ゴム11の少なくとも一端11aを配置することが電気抵抗低減効果を図るうえでより好ましい。さらに、リムRへの接触圧が常に高いビードコア51の下部(タイヤ径方向内側)である位置Cから位置Dの範囲の複数箇所に導電性ゴム11の少なくとも一端11aを配置することが電気抵抗低減効果を図るうえでさらに好ましい。
【0073】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、カーカス層6のコートゴムおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aの60℃における損失正接tanδが0.12以下であり、かつカーカス層6のコートゴムおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aの電気抵抗値が1×10Ω以上であることが好ましい。なお、60℃における損失正接tanδは、空気入りタイヤ1から採取したサンプルの測定によるものとする。
【0074】
この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6のコートゴムおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aを上記のごとく規定することで、カーカス層6のコートゴムおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aに低発熱性のゴムを採用することになり、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができ、しかも高速操縦安定性能における耐熱ダレ性能の向上も図ることができる。
【実施例】
【0075】
本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、電気抵抗低減性能であるタイヤ電気抵抗値、耐転がり抵抗性能、高速耐久性能(キャンバー付)に関する性能試験が行われた(図19参照)。
【0076】
この性能試験では、タイヤサイズ235/45R19空気入りタイヤ(試験タイヤ)を、19×8Jの正規リムに組み付け、正規内圧(250kPa)を充填した。
【0077】
ここで、正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0078】
電気抵抗低減性能であるタイヤ電気抵抗値の評価方法は、気温23℃、湿度50%の条件下にて1000[V]の電圧を印加して、トレッド面とリム間の抵抗値の電気抵抗値Ωが測定される。この評価は、数値が小さいほど放電性が優れ、電気抵抗低減性能が優れていることを示している。
【0079】
耐転がり抵抗性能の評価方法は、室内ドラム試験機が用いられ、荷重4kNおよび速度50km/h時における抵抗力が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が大きいほど転がり抵抗が小さく、耐転がり抵抗性能が優れていることを示している。
【0080】
高速耐久性能の評価方法は、試験タイヤを、規定内圧の120%増した内圧とし、温度80℃の環境下で5日間乾燥劣化させた後、規定内圧とし、ドラム径1707mmのキャンバー付ドラム試験機にて、速度120km/h、荷重負荷5kNで走行開始し、24時間ごとに速度を10km/hずつ増加させながら、タイヤが破損するまで試験を行ない、破損したときの走行距離を測定する。そして、この測定に基づいて、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が大きいほど高速耐久性能が優れていることを示している。
【0081】
図19において、従来例および比較例の空気入りタイヤは、導電性ゴムを有していない。比較例の空気入りタイヤは、トレッド面に一端が露出しトレッド部のキャップトレッドゴムおよびアンダートレッドゴムを貫通して他端がベルト層またはベルト補強層に接触して設けられ、一端および他端の幅が同じアーストレッドゴムを有している。一方、実施例1〜実施例9の空気入りタイヤは、図8に示す導電性ゴムを有し、実施例10の空気入りタイヤは、図7に示す導電性ゴムを有し、実施例11の空気入りタイヤは、図5に示す導電性ゴムを有し、実施例12の空気入りタイヤは、図6に示す導電性ゴムを有している。また、実施例1および実施例2、実施例5および実施例6の空気入りタイヤは、ベルトエッジクッションゴムを有している。また、実施例1〜実施例4の空気入りタイヤは、アーストレッドゴムを有さず、実施例5〜実施例12の空気入りタイヤは、アーストレッドゴムを有している。
【0082】
図19の試験結果に示すように、実施例1〜実施例12の空気入りタイヤは、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能であるタイヤ電気抵抗値とが両立されていることが分かる。
【符号の説明】
【0083】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
21 トレッド面
2A トレッドゴム
2Aa キャップトレッドゴム
2Ab アンダートレッドゴム
4 サイドウォール部
4A サイドゴム
5 ビード部
5A リムクッションゴム
52 ビードフィラー
6 カーカス層
7 ベルト層
7A ベルトエッジクッションゴム
8 ベルト補強層
9 インナーライナー層
10 ビード補強層
11 導電性ゴム
11a 一端
11b 他端
12 アーストレッドゴム
12a 一端
12b 他端
R リム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図17
図18
図19